説明

炭化珪素粉末および炭化珪素粉末の製造方法

【課題】より容易に製造することができ、炭化珪素を高純度で含む炭化珪素粉末および炭化珪素粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末であって、シリコン小片と炭素粉末との混合物を加熱した後に粉砕することによって形成されており、実質的に炭化珪素で構成されている炭化珪素粉末とその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素粉末および炭化珪素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素(SiC)単結晶の利用が進められつつある。SiCは、より一般的に用いられているシリコン(Si)に比べて大きなバンドギャップを有する。そのため、SiCを用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有することから、注目を集めている。
【0003】
たとえば特許文献1(特許第4427470号公報)には、SiC単結晶を成長させるための原料の製造方法が開示されている。ここで、特許文献1においては、少なくとも炭素(C)原料を一旦、圧力1.3Pa以下の不活性ガス雰囲気下で1400℃以上2600℃以下の温度で高温熱処理を施して硼素濃度を1ppm以下とした後に、当該炭素原料よりも低い硼素濃度を有するシリコン原料と混合してSiC単結晶成長用の原料を作製する方法が開示されている(たとえば特許文献1の請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4427470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法においては、硼素濃度を低減させるために予め炭素原料を圧力1.3Pa以下の不活性ガス雰囲気下で1400℃以上2600℃以下の温度で高温熱処理する工程を行なう必要があった。また、特許文献1に記載された方法においては、上記のように前処理を行なって硼素濃度が低減された炭素原料よりも硼素濃度の低いシリコン原料を用意する必要もあった。
【0006】
さらに、特許文献1に記載の方法によって作製された原料についてX線の侵入深さを変えてX線回折法により分析した結果、SiCは原料の表面部分のみに形成されており、原料の内部はCが単体で存在していることが判明した。
【0007】
このように、表面のみにしかSiCが形成されていない原料を用いてSiC単結晶を成長させる場合には、所定量のSiC単結晶を得るために、充填率が低いことから、坩堝に充填される原料の量を多くする必要があった。
【0008】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、より容易に製造することができ、炭化珪素を高純度で含む炭化珪素粉末および炭化珪素粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末であって、シリコン小片と炭素粉末との混合物を加熱した後に粉砕することによって形成されており、実質的に炭化珪素で構成されている炭化珪素粉末である。
【0010】
ここで、本発明の炭化珪素粉末における単体炭素の含有量が50質量%以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の炭化珪素粉末における単体炭素の含有量が10質量%以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量が0.5ppm以下であって、アルミニウムの含有量が1ppm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の炭化珪素粉末の平均粒径が10μm以上2mm以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末を製造する方法であって、シリコン小片と炭素粉末とを混合して混合物を作製する工程と、混合物を2000℃以上2500℃以下に加熱して炭化珪素粉末前駆体を作製する工程と、炭化珪素粉末前駆体を粉砕して炭化珪素粉末を作製する工程とを含む、炭化珪素粉末の製造方法である。
【0015】
ここで、本発明の炭化珪素粉末の製造方法において、炭素粉末の平均粒径が10μm以上200μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より容易に製造することができ、炭化珪素を高純度で含む炭化珪素粉末および炭化珪素粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
【図2】本発明に用いられるシリコン小片の一例の模式的な平面図である。
【図3】本発明における炭化珪素粉末前駆体を作製する工程によって作製された炭化珪素粉末前駆体の一例の模式的な平面図である。
【図4】実施例1における経過時間に対する黒鉛坩堝の温度と電気炉内の圧力のプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末を製造する方法の一例について説明する。なお、後述する各工程の前後には他の工程が含まれていてもよいことは言うまでもない。
【0019】
<混合物を作製する工程>
まず、図1の模式的断面図に示すように、シリコン小片1と炭素粉末2とを混合して混合物3を作製する工程を行なう。混合物3を作製する工程は、たとえば、シリコン小片1と炭素粉末2とをそれぞれ黒鉛坩堝4に収容し、黒鉛坩堝4中でこれらを混合して混合物3を作製することによって行なうことができる。また、混合物3は、黒鉛坩堝4への収容前に、シリコン小片1と炭素粉末2とを混合して作製されてもよい。
【0020】
ここで、シリコン小片1としては、たとえば図2の模式的平面図に示すシリコン小片1の径dが0.1mm以上5cm以下であるものを用いることが好ましく、1mm以上1cm以下であるものを用いることがより好ましい。この場合には、内部まで炭化珪素で構成された高純度の炭化珪素粉末が得られる傾向にある。なお、本明細書において、「径」とは、表面に存在する任意の2点を結ぶ線分のうち最長の線分の長さを意味する。
【0021】
炭素粉末2としては、平均粒径(個々の炭素粉末2の径の平均値)が10μm以上200μm以下である炭素粉末を用いることが好ましい。この場合には、内部まで炭化珪素で構成された高純度の炭化珪素粉末が得られる傾向にある。
【0022】
<炭化珪素粉末前駆体を作製する工程>
次に、上記のようにして作製した混合物3を2000℃以上2500℃以下に加熱して炭化珪素粉末前駆体を作製する工程を行なう。炭化珪素粉末前駆体を作製する工程は、たとえば、上記のように黒鉛坩堝4に収容されたシリコン小片1と炭素粉末2との混合物3を1kPa以上1.02×105Pa以下、特に10kPa以上70kPa以下の圧力の不活性ガス雰囲気下で2000℃以上2500℃以下の温度に加熱することにより行なうことができる。これにより、黒鉛坩堝4中でシリコン小片1のシリコンと炭素粉末2の炭素とが反応することによって、シリコンと炭素との化合物である炭化珪素が形成されて炭化珪素粉末前駆体が作製される。
【0023】
ここで、加熱温度が2000℃未満である場合には、加熱温度が低すぎて、シリコンと炭素との反応が内部まで進行せず、内部まで炭化珪素で形成された高純度の炭化珪素粉末前駆体を作製することができない。また、加熱温度が2500℃を超える場合には、加熱温度が高すぎて、シリコンと炭素との反応が進行しすぎて、シリコンと炭素との反応により形成された炭化珪素からシリコンが脱離するため、内部まで炭化珪素で形成された高純度の炭化珪素粉末前駆体を作製することができない。
【0024】
なお、上記において、不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、ヘリウムおよび窒素からなる群から選択された少なくとも1種を含むガスを用いることができる。
【0025】
また、シリコン小片1と炭素粉末2との混合物3の加熱時間は、1時間以上100時間以下であることが好ましい。この場合には、シリコンと炭素との反応が十分に行なわれて良好な炭化珪素粉末前駆体を作製することができる傾向にある。
【0026】
また、上記の加熱後に雰囲気の圧力を低下する工程を行なうことが好ましい。この場合には、後述する炭化珪素粉末前駆体を構成する炭化珪素結晶粒子のそれぞれの内部まで炭化珪素が形成される傾向が大きくなる。
【0027】
ここで、雰囲気の圧力を低下する工程において、雰囲気の圧力を10kPa以下の圧力まで低下させる場合には、圧力の低下時間は10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましく、1時間以下であることがさらに好ましい。圧力の低下時間が、10時間以下である場合、より好ましくは5時間以下である場合、特に1時間以下である場合には、シリコンと炭素との反応により形成された炭化珪素からシリコンが脱離するのを好適に抑制することができるため、良好な炭化珪素粉末前駆体を作製することができる傾向にある。
【0028】
また、上記のように、雰囲気の圧力を10kPa以下の圧力まで低下した後には、不活性ガスを供給することなどによって雰囲気の圧力を50kPa以上の圧力まで圧力を上昇させた後に炭化珪素粉末前駆体を室温(25℃)まで冷却してもよく、10kPa以下の圧力に保持した状態で炭化珪素粉末前駆体を室温(25℃)まで冷却してもよい。
【0029】
図3に、炭化珪素粉末前駆体を作製する工程によって作製された炭化珪素粉末前駆体の一例の模式的な平面図を示す。ここで、炭化珪素粉末前駆体6は、複数の炭化珪素結晶粒子5の集合体であって、個々の炭化珪素結晶粒子5が互いに連結することによって構成されている。
【0030】
<炭化珪素粉末を作製する工程>
次に、上記のようにして作製された炭化珪素粉末前駆体6を粉砕して炭化珪素粉末を作製する工程を行なう。炭化珪素粉末を作製する工程は、たとえば、図3に示される複数の炭化珪素結晶粒子5の集合体である炭化珪素粉末前駆体6を炭化珪素の単結晶若しくは多結晶のインゴット、または炭化珪素の単結晶若しくは多結晶がコーティングされた工具で粉砕することによって行なうことができる。
【0031】
なお、炭化珪素の単結晶若しくは多結晶以外のもので炭化珪素粉末前駆体6の粉砕を行なった場合には、たとえば、塩酸、王水およびフッ酸からなる群から選択された少なくとも1種を含む酸で炭化珪素粉末を洗浄することが好ましい。たとえば炭化珪素粉末前駆体6を鋼鉄製のもので粉砕した場合には、粉砕された炭化珪素粉末に、たとえば、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属不純物が混入または付着しやすくなる。そのため、このような金属不純物を除去するために、上記の酸で洗浄することが好ましい。
【0032】
<炭化珪素粉末>
上記のようにして作製された炭化珪素粉末は、その表面だけでなく内部までも炭化珪素で形成されている傾向が大きくなり、実質的に炭化珪素から構成されている。なお、実質的に炭化珪素から構成されているとは、炭化珪素粉末の99質量%以上が炭化珪素から形成されていることを意味する。
【0033】
たとえば、従来の特許文献1に記載の方法によって作製された原料においては、その表面部分においては単体炭素からなる不純物の含有量は少ないが、その内部まで合わせると原料を占める単体炭素の含有量は50質量%よりも多くなる。特許文献1においては、原料の表面のみに対してX線回折法による分析が行なわれており、X線の侵入深さを増大させて、その内部までX線回折法による分析が行なわれていなかった。そのため、従来の特許文献1においては、従来の特許文献1に記載の方法によって作製された原料の内部についてはシリコンと炭素との反応が進行しておらず、炭素が単体で存在していることについては気付かれていない。
【0034】
一方、本発明における炭化珪素粉末は、従来の特許文献1に記載の方法によって作製された原料と比較して、その内部まで反応が進んで炭化珪素が形成されていることから、炭化珪素粉末における単体炭素の含有量は炭化珪素粉末の50質量%以下とすることができ、好ましくは10質量%以下とすることができる。そのため、本発明における炭化珪素粉末は、炭化珪素が高純度に含まれた炭化珪素粉末とすることができる。
【0035】
また、本発明における炭化珪素粉末は、上述のように高純度の炭化珪素から形成されていることから、炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量を0.5ppm以下とすることかでき、アルミニウムの含有量を1ppm以下とすることができる。すなわち、本発明における炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量は、炭化珪素粉末全体の0.00005質量%以下であり、アルミニウムの含有量は炭化珪素粉末全体の0.0001%質量%以下となる。
【0036】
また、本発明における炭化珪素粉末の平均粒径が10μm以上2mm以下であることが好ましい。炭化珪素粉末の平均粒径が10μm以上2mm以下である場合には、炭化珪素結晶を結晶成長させる際に、炭化珪素粉末の黒鉛坩堝4への充填率を高くすることができるとともに、炭化珪素結晶の成長速度も大きくなる傾向にある。なお、炭化珪素粉末の平均粒径は、個々の炭化珪素粉末の径の平均値を意味する。
【0037】
上述のように、本発明においては、従来の特許文献1に記載の方法のように、炭素原料の前処理を行なう必要がなく、前処理を行なった炭素原料よりも硼素濃度の低いシリコン原料を用意する必要もない。そのため、本発明においては、炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末をより容易に製造することができる。
【0038】
また、従来の特許文献1に記載の方法によって作製された原料は、その内部に単体炭素が残留しやすいが、本発明においては、従来の特許文献1に記載の方法によって作製された原料と比較して、炭化珪素粉末の内部までシリコンと炭素との反応が進行して、その内部に炭化珪素が形成され、高純度の炭化珪素からなる粉末とすることができる。これにより、本発明においては、従来の特許文献1に記載の原料を用いた場合と比べて、炭化珪素結晶を成長させるときに坩堝に充填される炭化珪素粉末の量を減らすことができ、坩堝に対する原料の充填率を低くすることができる。そのため、本発明においては、炭化珪素結晶の製造に用いられる坩堝を小型化することができ、装置の小型化を進めることができる。また、従来の特許文献1に記載の坩堝と同じ大きさの坩堝を用いた場合には、より大きな炭化珪素結晶を結晶成長させることが可能になる。
【0039】
さらに、本発明の炭化珪素粉末は高純度で、高密度の炭化珪素から形成されていることから、本発明の炭化珪素粉末を用いて炭化珪素結晶を結晶成長させた場合には、従来の特許文献1に記載の原料を用いた場合と比べて、炭化珪素結晶の平均結晶成長速度を大きくすることができる。そのため、本発明の炭化珪素粉末を用いて炭化珪素結晶を作製した場合には、炭化珪素結晶をより効率的に製造することができる。
【0040】
以上のように、本発明によれば、炭化珪素を高純度で含む炭化珪素粉末をより容易に製造することができる。
【実施例】
【0041】
<実施例1>
まず、シリコン小片として径が1mm以上1cm以下のシリコン小片を複数用意し、炭素粉末として平均粒径が200μmである炭素粉末を用意した。ここで、シリコン小片は、シリコン単結晶引き上げ用純度99.999999999%のシリコンチップとした。
【0042】
次に、上記で用意したシリコン小片154.1gと、炭素粉末65.9gとを軽く混練して得られた混合物を黒鉛坩堝に投入した。ここで、黒鉛坩堝は、予め0.013Paのアルゴンガス減圧下で高周波加熱炉で2300℃に加熱し、14時間保持する処理を行なったものを用いた。
【0043】
次に、上記のように、シリコン小片と炭素粉末との混合物が投入された黒鉛坩堝を電気加熱炉に入れ、一旦0.01Paまで真空引きした後、純度として99.9999%以上のアルゴンガスで置換して電気炉内の圧力を70kPaとした。
【0044】
次に、図4に示すように、電気炉内の圧力を70kPaに保持した状態でシリコン小片と炭素粉末との混合物が収容された黒鉛坩堝を2300℃に加熱してその温度で20時間保持した。その後、電気炉内の圧力を2分間で10kPaまで減圧した後に黒鉛坩堝の温度を室温(25℃)まで低下させた。なお、図4は、経過時間に対する黒鉛坩堝の温度と電気炉内の圧力のプロファイルを示している。なお、図4においては、黒鉛坩堝の温度の変化が実線で表わされ、電気炉内の圧力の変化が1点鎖線で表わされている。
【0045】
次に、上記の加熱処理によって作製された炭化珪素粉末前駆体を黒鉛坩堝から取り出した。ここで、炭化珪素粉末前駆体を観察したところ、炭化珪素粉末前駆体は、複数の炭化珪素結晶粒子の集合体であって、個々の炭化珪素結晶粒子が互いに連結することによって構成されていた。
【0046】
次に、上記のようにして得られた炭化珪素粉末前駆体を炭化珪素多結晶でコーティングされた工具を用いて粉砕することによって実施例1の炭化珪素粉末を作製した。ここで、実施例1の炭化珪素粉末の平均粒径は20μmであった。
【0047】
上記のようにして得られた実施例1の炭化珪素粉末について粉末X線回折法により定性分析を行なった。ここで、X線のターゲットをCuにした場合には、X線の侵入深さを10μm以上とすることができるため、実施例1の炭化珪素粉末の内部を構成する成分を特定することができる。
【0048】
上記の粉末X線回折法(θ−2θスキャン)によって、実施例1の炭化珪素粉末の構成成分の定性分析および定量分析(簡易定量測定)を行なった結果、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率(100×(Cの存在を示すX線回折ピークの積分値)/(炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和))は1%未満であることが確認され、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するSiCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率(100×(SiCの存在を示すX線回折ピークの積分値)/(炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和))は99%以上であることが確認された。そのため、実施例1の炭化珪素粉末は、その内部までほとんど炭化珪素から形成されており(炭化珪素の含有量99質量%以上)、単体炭素の含有量が1質量%未満である高純度の炭化珪素粉末であると考えられる。
【0049】
また、実施例1の炭化珪素粉末の粉末X線回折法によるX線回折ピークの積分値を対比した結果、炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量は0.5ppm以下であって、アルミニウムの含有量は1ppm以下であることが確認された。
【0050】
<実施例2>
電気炉内の圧力を減圧しなかったこと以外は実施例1と同様にして実施例2の炭化珪素粉末を作製し、実施例1と同一の条件で粉末X線回折法による定性分析および定量分析を行なった。
【0051】
その結果、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は1%未満であって、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するSiCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は99%以上であることが確認された。そのため、実施例2の炭化珪素粉末も、その内部までほとんど炭化珪素から形成されており(炭化珪素の含有量99質量%以上)、単体炭素の含有量が1質量%未満である高純度の炭化珪素粉末であると考えられる。
【0052】
また、実施例2の炭化珪素粉末の粉末X線回折法によるX線回折ピークの積分値を対比した結果、炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量は0.5ppm以下であって、アルミニウムの含有量は1ppm以下であることが確認された。
【0053】
<実施例3>
黒鉛坩堝の加熱温度を2000℃にしたこと以外は実施例1と同様にして実施例3の炭化珪素粉末を作製し、実施例1と同一の条件で粉末X線回折法による定性分析および定量分析を行なった。
【0054】
その結果、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は1%未満であって、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するSiCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は99%以上であることが確認された。そのため、実施例3の炭化珪素粉末も、その内部までほとんど炭化珪素から形成されており(炭化珪素の含有量99質量%以上)、単体炭素の含有量が1質量%未満である高純度の炭化珪素粉末であると考えられる。
【0055】
また、実施例3の炭化珪素粉末の粉末X線回折法によるX線回折ピークの積分値を対比した結果、炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量は0.5ppm以下であって、アルミニウムの含有量は1ppm以下であることが確認された。
【0056】
<実施例4>
黒鉛坩堝の加熱温度を2500℃にしたこと以外は実施例1と同様にして実施例4の炭化珪素粉末を作製し、実施例1と同一の条件で粉末X線回折法による定性分析および定量分析を行なった。
【0057】
その結果、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は1%未満であって、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するSiCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は99%以上であることが確認された。そのため、実施例4の炭化珪素粉末も、その内部までほとんど炭化珪素から形成されており(炭化珪素の含有量99質量%以上)、単体炭素の含有量が1質量%未満である高純度の炭化珪素粉末であると考えられる。
【0058】
また、実施例4の炭化珪素粉末の粉末X線回折法によるX線回折ピークの積分値を対比した結果、炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量は0.5ppm以下であって、アルミニウムの含有量は1ppm以下であることが確認された。
【0059】
<比較例1>
まず、炭素原料としてハロゲンガス中で2000℃以上の熱処理を行った高純度炭素粉体を用意し、シリコン原料としてシリコン単結晶引き上げ用純度99.999999999%のシリコンチップを用意した。
【0060】
ここで、炭素原料は、黒鉛坩堝に投入され、黒鉛坩堝とともに、予め0.013Paのアルゴンガス減圧下で、高周波加熱炉で約2200℃に加熱し、15時間保持する処理を行なう前処理が行なわれた。
【0061】
なお、上記の前処理後の炭素原料およびシリコン原料の硼素濃度は、GDMS(グロー放電質量分析)測定でそれぞれ0.11ppm、0.001ppm以下であることが確認された。
【0062】
また、シリコン原料であるシリコンチップは、主に数mmから十数mmの大きさのものが用いられており、上記の前処理後の炭素原料の平均粒径は92μmであった。
【0063】
次に、上記の炭素原料およびシリコン原料をそれぞれ65.9g及び154.1gに秤量し、軽く混練した後に、炭素原料とシリコン原料との混合粉を先述の黒鉛坩堝に充填した。
【0064】
次に、炭素原料とシリコン原料とが収容された黒鉛坩堝を電気加熱炉に投入し、電気炉内の圧力を一旦0.01Paまで真空引きした後、純度として99.9999%以上のアルゴンガスで置換して電気炉内の圧力を80kPaとした。この電気炉内の圧力を調整しながら、1420℃まで加熱し、2時間維持した後に、更に1900℃まで加熱し、3時間維持し、降温した。
【0065】
上記のようにして得られた比較例1について、実施例1と同一の条件で粉末X線回折法による定性分析および定量分析を行なった。
【0066】
その結果、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は50%よりも大きいことが確認された。そのため、比較例1の炭化珪素粉末の内部は、ほとんど炭素から形成されており、単体炭素の含有量が50質量%よりも大きいと考えられる。
【0067】
<比較例2>
黒鉛坩堝の加熱温度を1950℃にしたこと以外は実施例1と同様にして比較例2の炭化珪素粉末を作製し、実施例1と同一の条件で粉末X線回折法による定性分析および定量分析を行なった。
【0068】
その結果、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は50%よりも大きいことが確認された。そのため、比較例3の炭化珪素粉末の内部は、ほとんど炭素から形成されており、単体炭素の含有量が50質量%よりも大きいと考えられる。これは、黒鉛坩堝の加熱温度が低すぎて、シリコンと炭素との反応が内部まで進行しなかったことによるものと考えられる。
【0069】
<比較例3>
黒鉛坩堝の加熱温度を2550℃にしたこと以外は実施例1と同様にして比較例3の炭化珪素粉末を作製し、実施例1と同一の条件で粉末X線回折法による定性分析および定量分析を行なった。
【0070】
その結果、炭化珪素粉末を構成するすべての成分にそれぞれ対応するX線回折ピークの積分値の和に対するCの存在を示すX線回折ピークの積分値の比率は50%よりも大きいことが確認された。そのため、比較例4の炭化珪素粉末の内部も、ほとんど炭素から形成されており、単体炭素の含有量が50質量%よりも大きいと考えられる。これは、黒鉛坩堝の加熱温度が高すぎて、シリコンと炭素との反応により生成した炭化珪素からシリコンが脱離したことによるものと考えられる。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、炭化珪素粉末および炭化珪素粉末の製造方法に利用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0073】
1 シリコン小片、2 炭素粉末、3 混合物、4 黒鉛坩堝、5 炭化珪素結晶粒子、6 炭化珪素粉末前駆体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末であって、
シリコン小片と炭素粉末との混合物を加熱した後に粉砕することによって形成されており、実質的に炭化珪素で構成されている、炭化珪素粉末。
【請求項2】
前記炭化珪素粉末における単体炭素の含有量が50質量%以下である、請求項1に記載の炭化珪素粉末。
【請求項3】
前記炭化珪素粉末における単体炭素の含有量が10質量%以下である、請求項1または2に記載の炭化珪素粉末。
【請求項4】
前記炭化珪素粉末におけるホウ素の含有量が0.5ppm以下であって、アルミニウムの含有量が1ppm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化珪素粉末。
【請求項5】
前記炭化珪素粉末の平均粒径が10μm以上2mm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化珪素粉末。
【請求項6】
炭化珪素結晶成長用の炭化珪素粉末を製造する方法であって、
シリコン小片と炭素粉末とを混合して混合物を作製する工程と、
前記混合物を2000℃以上2500℃以下に加熱して炭化珪素粉末前駆体を作製する工程と、
前記炭化珪素粉末前駆体を粉砕して前記炭化珪素粉末を作製する工程とを含む、炭化珪素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記炭素粉末の平均粒径が10μm以上200μm以下である、請求項6に記載の炭化珪素粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−240869(P2012−240869A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110959(P2011−110959)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】