説明

炭化珪素系多孔質成形体及びその製造方法

【課題】特別な工程や添加剤等を必要とせずに、種々の仕様用途に応じて制御された細孔径や気孔率等を有する炭化珪素系多孔質成形体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素系多孔質成形体の表面にSiCOからなる層を形成することにより、細孔を制御した炭化珪素系多孔質成形体を製造する。炭化珪素系多孔質成形体としては、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜70%、比表面積10〜1000m/gの成形体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品焼成用治具、排ガス浄化装置等の分離膜や半導体製造工程におけるフイルター材、或いは金属−セラミックス複合体として半導体製造工程でのウエハ等の熱処理装置やCVD装置における構造材や部品、触媒の担持体等として利用可能な、炭化珪素系多孔質成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質炭化珪素焼成体は、電子部品焼成用治具、排ガス浄化装置等の分離膜や半導体製造工程におけるフイルター材、或いは該多孔質炭化珪素焼成体の空隙にアルミニウムや珪素を含浸させてなる金属−セラミックス複合体として半導体製造工程でのウエハ等の熱処理装置やCVD装置における構造材や部品、触媒の担持体等として使用されている。
【0003】
従来、多孔質炭化珪素焼成体は、炭化珪素粉末に有機バインダと水とを添加し、混練後、成形し、アルゴンガス中で2250℃の高温下で約3時間焼成することにより製造される。また、グラファイトや有機高分子等の造孔剤を、焼成前の試料中に分散させた後に、熱処理して造孔剤を焼き飛ばすことにより、炭化珪素焼成体の多孔性を向上させることも知られている。
しかしながら、炭化珪素焼成体内に形成される細孔は、原料となる炭化珪素粉末の粒径や造孔剤の分子径よりも大きいものとなるので、微細孔を有する多孔質炭化珪素焼成体を製造することは、困難であった。
【0004】
このような問題点を解決するために、炭化珪素焼成体の前駆体として有機珪素系高分子を用い、これに架橋剤を添加した後に熱処理することにより、多孔質炭化珪素焼成体を製造することが提案されている。(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1〜7参照)
また、熱分解・焼成前前駆体に微粒子を分散させることにより、熱処理過程で有機珪素系高分子から発生する気体間の凝集を防止し、より小さい細孔を有する多孔質炭化珪素系焼成体を得る方法が提案されている。(特許文献4参照)
しかしながら、焼成体内に形成する細孔の径や、気孔率等を制御することは困難であり、また一度形成された細孔の径を制御することはできなかった。
【特許文献1】特開2005−60493号公報
【特許文献2】特開2004−356816号公報
【特許文献3】米国特許第4,737,552号明細書
【特許文献4】米国特許第6,624,228号明細書
【非特許文献1】D. Li et al., J. Memb. Sci., 59, 331 (1991)
【非特許文献2】A. B. Shelekhin et al., J Memb. Sci., 66, 129 (1991)
【非特許文献3】K. Kusakabe et al., J Memb. Sci., 103, 175 (1995)
【非特許文献4】Z. Li et al., J Memb. Sci., 118, 159 (1996)
【非特許文献5】L-L Lee et al., J Am. Ceram. Soc., 82, 2796 (1999)
【非特許文献6】L-L Lee et al., Ind. Eng. Chem. Res., 40, 612 (2001)
【非特許文献7】C-C Chao et al., J Memb. Sci., 192, 209 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は特別な工程や添加剤等を必要とせずに、種々の仕様用途に応じて制御された細孔径や気孔率等を有する炭化珪素系多孔質成形体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討した結果、炭化珪素系多孔質成形体の表面に、SiCOからなる層を形成することにより、制御された微細孔を有する炭化珪素系多孔質成形体が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、次の構成1〜6を採用するものである。
1.炭化珪素系多孔質成形体の表面に、SiCOからなる層を形成したことを特徴とする細孔を制御した炭化珪素系多孔質成形体。
2.炭化珪素系多孔質成形体が、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜70%、比表面積(BET比表面積)10〜1000m/gの成形体であることを特徴とする1に記載の炭化珪素系多孔質成形体。
3.炭化珪素多孔質成形体が膜状体であることを特徴とする1又は2に記載の炭化珪素系多孔質成形体。
4.炭化珪素系多孔質成形体を400〜800℃で酸化し、成形体表面にSiCOからなる層を形成することを特徴とする細孔を制御した炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
5.炭化珪素系多孔質成形体が、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜70%、比表面積(BET比表面積)10〜1000m/gの成形体であることを特徴とする4に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
6.架橋剤を使用せずに、炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において400℃以下で加熱して熱的に架橋した炭化珪素前駆体を形成し、該架橋前駆体を熱処理することにより得られた炭化珪素系多孔質成形体を酸化することを特徴とする4又は5に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【0008】
本発明において、炭化珪素前駆体高分子とは、主にSiとCからなる主鎖を持ち、Si-H結合、C-H結合、Si-CH3結合等Si及びCそしてHからなる側鎖を持つ高分子であり、且つ、熱分解をすることで炭化珪素系成形体に変換可能な高分子のことを指す。但し、主鎖や側鎖を構成する元素をSi、C、Hのみに限定するものではなく、また、SiとCとHのすべての元素を保持している高分子に限定するものでもない。Si、C、H以外に、主鎖や側鎖にB(ホウ素)やN(窒素)等他の元素を含む高分子も含む。また、Al(アルミナ)やZr(ジルコニア)等の金属を含んでいても良い。好ましい炭化珪素前駆体高分子としては、例えば、ポリカルボシラン、ポリメチルシラン、ポリジメチルシラン及びポリカルボシラザン等を挙げることができる。
また、炭化珪素系多孔質成形体とは、主にSiとCとHからなる多孔質の構造物を指し、炭化珪素前駆体高分子を熱分解することで得られる多孔質構造物を指す。但し、構造物の組成を、SiとCとHのみに限定するものではなく、また、SiとCとHのすべての元素を保持している構造物に限定するものでもない。また、Si、C、H以外に、構造物中にB(ホウ素)やN(窒素)そしてAl(アルミナ)やZr(ジルコニア)等他の元素を含む構造物も含む。具体例としては、例えば、炭化珪素(SiC)や窒化珪素(Si3N4)などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子部品焼成用治具、排ガス浄化装置等の分離膜や半導体製造工程におけるフイルター材、或いは金属−セラミックス複合体として半導体製造工程でのウエハ等の熱処理装置やCVD装置における構造材や部品、触媒の担持体等として利用可能な炭化珪素系多孔質成形体を、種々の仕様用途に応じて制御された細孔径や気孔率等を有する多孔質成形体として、特別な工程や添加剤等を必要とせずに、低コストで製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、炭化珪素系多孔質成形体を400〜800℃で酸化し、成形体表面にSiCOからなる層を形成することにより、制御された細孔径や気孔率等を有する炭化珪素系多孔質成形体を製造することができる。
酸化処理される炭化珪素系多孔質成形体としては特に制限はなく、公知の炭化珪素系多孔質成形体はいずれも使用することができる。好ましい炭化珪素系多孔質成形体としては、例えば架橋剤を使用せずに、炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において300℃以下で加熱して熱的に架橋したポリマー状の炭化珪素前駆体を形成し、該架橋前駆体を熱処理することにより製造された炭化珪素系多孔質成形体が挙げられる。
【0011】
原料となる好ましい炭化珪素前駆体高分子としては、例えば、ポリメチルシラン〔下記、一般式(1)〕、ポリジメチルシラン〔同(2)〕、ポリシリレンメチレン〔同(3)〕及びポリカルボシラン〔同(4)〕等が挙げられる。
【化1】

【0012】
上記各式において、nは10以上の整数、通常は10〜10000程度、好ましくは100〜1000程度の整数を表す。
これらの炭化珪素前駆体高分子としては、数平均分子量(Gel permeation chromatography 示差屈折率/ポリスチレン換算)で、1000以上のものを使用することが好ましい。数平均分子量は、次の式により求めた値を指す。
数平均分子量(Mn)=系の全重量/系中の分子数=Σ(Mi×Ni)/ΣNi
(上式において、Miは分子量を表し、Niは分子量がMiの分子数を表す。)
【0013】
炭化珪素前駆体高分子は、架橋剤を使用せずに、窒素、アルゴン等の不活性気体中で400℃以下の温度、好ましくは200〜400℃程度の温度で、10時間以上、例えば10〜20時間程度加熱することによって熱的に架橋させて炭化珪素前駆体を形成する。ついで、該架橋前駆体を500〜1300℃程度、好ましくは600〜800℃程度の温度で、0時間以上、例えば1〜10時間程度熱処理をすることによって、炭化珪素多孔質成形体を製造する。この熱架橋、及び熱処理は、連続した工程として行うことができる。
【0014】
本発明では、このようにして得られた炭化珪素系多孔質成形体や、従来の架橋剤等を使用して得られた炭化珪素系多孔質成形体を、さらに加熱、酸化して成形体表面にSiCOからなる層を形成することにより、制御された細孔径や気孔率等を有する多孔質成形体を製造する。
炭化珪素系多孔質成形体の加熱、酸化処理は、空気中等の酸化雰囲気下で、例えば400〜800℃、好ましくは500〜700℃程度の温度で、0時間以上、好ましくは1〜10時間程度加熱することにより行うことができる。
【0015】
この酸化処理により、炭化珪素系多孔質成形体の表面にSiCOからなる層が形成されるとともに、成形体中の細孔が収縮することにより、制御された細孔径や気孔率等を有する多孔質成形体が得られる。
このような炭化珪素系多孔質成形体としては、例えば、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜70%、比表面積10〜1000m/gの成形体が挙げられるが、このような成形体は、従来の方法では得ることができないものであった。
【0016】
本発明の炭化珪素多孔質成形体は、例えば、膜状、繊維状、塊状、チューブ状等種々の形状とすることができる。
多孔質成形体を製造する手順としては、例えば、アルミナ、セラミックスなどの基材上に、炭化珪素前駆体高分子であるポリカルボシランの有機溶媒溶液を塗布し、或いは該溶液に基材を浸漬もしくは接触させた後、基材上でポリカルボシランを2段階に加熱することによって、膜状の炭化珪素系多孔質成形体を製造する。ついで、この成形体を酸化雰囲気下で加熱、酸化することによって、制御された細孔径や気孔率等を有する膜状の炭化珪素多孔質成形体を得ることができる。
有機溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒や、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等を使用することができる。
【0017】
本発明によれば、例えば、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜70%、比表面積10〜1000m/gの、制御された細孔を有する炭化珪素多孔質成形体を、簡単な工程で安価に製造することができる。
【実施例】
【0018】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
炭化珪素前駆体高分子として、ポリカルボシラン(日本カーボン(株)社製:NIPUSI TYPE-S、数平均分子量1580)粉体5.4gをトルエン30mlに溶解し、この溶液を室温で一昼夜乾燥した。次にアルゴン気流中で昇温速度5℃/分で200℃に加熱し、この温度で1時間保持し、粉体中の水分等を揮発させた。その後、同じ昇温速度で653℃に加熱し、この温度に到達後、室温まで急冷し、粉状の炭化珪素系多孔質体を得た。得られた粉状の炭化珪素系多孔質成形体を、空気中(200ml/分)で昇温速度5℃/分で室温から1000℃まで酸化し、酸化処理過程における熱重量変化と気体発生挙動を、熱重量分析装置と質量分析装置を用い測定した。測定結果を図1に示す。
図1より、微分熱重量変化曲線は237℃で極大値を示した。また、酸化処理過程で、CO2とH2の発生が確認できた。それぞれ、355℃と440℃付近で最も多く揮発した。これにより、空気中で加熱することで、炭化珪素系多孔質成形体が酸化することが分かった。
【0019】
(実施例2)
実施例1で得られた、酸化処理前の粉状炭化珪素系多孔質成形体を3つに分け、空気中(200ml/分)で昇温速度5℃/分で、239℃、355℃そして440℃までそれぞれ酸化し、それぞれの温度に到達後、直ちに急冷し、粉状の酸化済み炭化珪素系多孔質体を得た。酸化処理、及び酸化温度の違いが、炭化珪素系多孔質体内の官能基に与える影響を調べるため、得られた酸化済み炭化珪素系多孔質体の構造解析を、フーリエ変換赤外分光光度計を用い行なった。その結果を、図2に示した。
図2より、酸化温度の上昇に伴い、Si-CH2-Si、Si-H及びSi-CH3結合ピークが減少し、Si-O-Si結合ピークが増大した。この結果から、炭化珪素系多孔質成形体内の官能基(Si-CH2-Si、Si-H及びSi-CH3結合)が存在する部位と空気中の酸素が反応することで、炭化珪素系多孔質成形体の表面にSi-O-Si結合からなる部位が新たに生じることが示された。
【0020】
(実施例3)
実施例1で得られた、酸化処理前の粉状炭化珪素系多孔質成形体を3つに分け、空気中(200ml/分)で昇温速度5℃/分で、239℃、355℃そして440℃までそれぞれ酸化し、それぞれの温度に到達後、直ちに急冷し、粉状の酸化済み炭化珪素系多孔質体を得た。得られた粉状試料の窒素吸着測定を行い、酸化処理前の炭化珪素系多孔質成形体と比較した。その結果を図3に示す。
なお、当該窒素吸着測定は常法であり、次の手順で行なった。あらかじめ吸着していると考えられる空気、水分などを取り除くために、粉状の炭化珪素系多孔質体を吸着用ガラス管に入れて、真空中、300℃で5時間脱着前処理した。次に、この前処理済炭化珪素系多孔質体に、窒素ガスをその相対圧力を変化させながら吸着させて、77Kにおける吸着等温線を得た。
図3によれば、酸化温度の上昇に伴い、窒素吸着量が減少した。これは、酸化により炭化珪素系多孔質成形体内の細孔容積が減少したためと考えられた。
本実施例、及び実施例1〜2から得られた結果から、空気中で加熱することにより、炭化珪素系多孔質体内にSi-O-Si結合が形成され細孔容積が減少したと考えられた。
【0021】
(実施例4)
実施例1で使用したポリカルボシランのトルエン溶液に、NOK社製のアルミナ基材(平均細孔径:150nm、平均気孔率:40%、内径:0.22cm、外径0.29cm、長さ:3cm)を浸漬後、取り出した支持体を、空気中で室温乾燥した。次にアルゴン気流中(200ml)で昇温速度5℃/分で200度に加熱し、この温度で1時間保持し、水分等を揮発させた。更に同じ昇温速度で700℃に加熱し、この温度で2時間保持することによりポリカルボシランを熱分解させた後に、降温速度5℃/分で室温まで降温しアルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の炭化珪素系多孔質体を得た。得られた膜を、空気中(200ml/分)で昇温速度5℃/分で700℃に加熱し、この温度で2時間保持することにより、膜状の炭化珪素系多孔質成形体を酸化した後に、降温速度5℃/分で室温まで降温しアルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の酸化済み炭化珪素系多孔質体を得た。得られた膜について、測定温度100℃でHe(2.60Å)、H2(2.89Å)、CO2(3.30Å)、O2(3.46Å)そしてN2(3.64Å)の透過速度を、タイムラグ法により測定した。これとは別に、酸化処理前の膜状炭化珪素系多孔質体について、測定温度100℃でHe、H2、CO2そしてN2の透過速度を、高真空タイムラグ法により測定した。上記の2種類の膜状試料から得られた透過速度測定結果を図4に示す。
【0022】
酸化処理を施すことで、N2の透過速度は減少した。一方、He、H2の透過速度は増加した。酸化処理を施すことでN2の透過速度が減少したことは、実施例3で得られた結果と一致した。本実施例から、酸化処理を施すとことで、CO2(3.3Å)より小さい細孔の数が増える一方で、これより大きい径を持つ細孔の数は減少することが分かった。
N2が透過できる径を持つ細孔の減少は、酸化により細孔径が収縮したため引き起こされたと考えられる。
一方、HeやH2が透過できる径を持つ細孔の増加は、酸化によりフリーカーボン等がCO2となり揮発し、新たな細孔を生成したため引き起こされたと考えられる。
【0023】
(実施例5)
実施例4と同様の手順で、2つの膜状(膜厚:1.0μm程度)の酸化済み炭化珪素系多孔質体を作製した。得られた膜について、測定温度100℃で、H2(2.89Å)そしてN2(3.64Å)の透過速度を、高真空タイムラグ法により測定した。これとは別に、酸化処理前の膜状炭化珪素系多孔質体についても、測定温度100℃でH2そしてN2の透過速度を、高真空タイムラグ法により測定した。それぞれの膜状試料から得られた透過速度測定結果を図5に示す。
酸化処理を施すことで、H2の透過速度は増加し、H2/N2選択性は向上した。これは、実施例4で得られた結果と同様に、酸化処理によって、HeやH2等の小さい分子のみが透過できる大きさの径を持つ細孔数の、N2が透過できる大きさの径を持つ細孔数に対する比が向上したためと考えられた。
【0024】
図6に酸化処理が炭化珪素系多孔質体に与える影響を模式的に示す。酸化温度が上昇するに従い、フリーカーボンが揮発し、HeやH2等の小さい分子のみが透過できる大きさの径を持つ細孔数が増加する一方で、元々あるN2が透過できる大きさの細孔内壁上に酸化層が形成されることによって、その数が減少すると考えられる。
【0025】
以上の実施例から酸化による細孔径の収縮の程度や、フリーカーボン等の揮発による細孔数増加の程度は、酸化雰囲気や酸化温度、酸化時間によることから、これらを変化させることで、炭化珪素系多孔質成形体内の細孔径を任意に制御できることが示された。
【0026】
(実施例6)
炭化珪素前駆体高分子として、実施例1〜5で使用したポリカルボシランとは分子量の異なるポリカルボシラン(日本カーボン(株)社製:NIPUSI TYPE-A、数平均分子量1290)を用いた以外は実施例1と同じように処理をし、酸化処理過程における熱重量変化と気体発生挙動を、熱重量分析装置と質量分析装置を用い測定した。その結果、実施例1と同様に、CO2とH2の発生が確認でき、空気中で加熱することで、炭化珪素系多孔質成形体が酸化することが分かった。
【0027】
(実施例7)
実施例6で得られた、酸化処理前の粉状炭化珪素系多孔質成形体を3つに分け、実施例2と同様の手順で酸化した。得られた酸化済み炭化珪素系多孔質体の構造解析を、フーリエ変換赤外分光光度計を用い行なった。その結果、実施例2と同様に、酸化温度の上昇に伴い、Si-CH2-Si、Si-H及びSi-CH3結合ピークが減少し、Si-O-Si結合ピークが増大した。
【0028】
(実施例8)
実施例6で得られた、酸化処理前の粉状炭化珪素系多孔質成形体を3つに分け、実施例3と同様の手順で酸化し粉状の酸化済み炭化珪素系多孔質体を得た。得られた粉状試料の窒素吸着測定を行い、酸化処理前の炭化珪素系多孔質成形体と比較した。その結果、実施例3と同様に、酸化温度の上昇に伴い、窒素吸着量が減少した。
【0029】
(実施例9)
実施例6で使用したポリカルボシランのトルエン溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の手順で、アルミナ基材上に膜状の酸化済み炭化珪素系多孔質体を得た。これと酸化処理前の膜状炭化珪素系多孔質体について、実施例4と同様に、測定温度100℃で種々の気体の透過速度を、高真空タイムラグ法により測定した。その結果、実施例4と同様に、酸化処理を施すことで、N2の透過速度は減少した。一方、He、H2の透過速度は増加した。
【0030】
(実施例10)
炭化珪素前駆体高分子として、実施例1〜9で使用したポリカルボシランとは分子量の異なるポリカルボシラン(日本カーボン(株)社製:NIPUSI TYPE-UH、数平均分子量1890)を用いた以外は実施例1と同じように処理をし、酸化処理過程における熱重量変化と気体発生挙動を、熱重量分析装置と質量分析装置を用い測定した。その結果、実施例1及び実施例6と同様に、CO2とH2の発生が確認でき、空気中で加熱することで、炭化珪素系多孔質成形体が酸化することが分かった。
【0031】
(実施例11)
実施例10で得られた、酸化処理前の粉状炭化珪素系多孔質成形体を3つに分け、実施例2と同様の手順で酸化した。得られた酸化済み炭化珪素系多孔質体の構造解析を、フーリエ変換赤外分光光度計を用い行なった。その結果、実施例2及び実施例7と同様に、酸化温度の上昇に伴い、Si-CH2-Si、Si-H及びSi-CH3結合ピークが減少し、Si-O-Si結合ピークが増大した。
【0032】
(実施例12)
実施例10で得られた、酸化処理前の粉状炭化珪素系多孔質成形体を3つに分け、実施例3と同様の手順で酸化し粉状の酸化済み炭化珪素系多孔質体を得た。得られた粉状試料の窒素吸着測定を行い、酸化処理前の炭化珪素系多孔質成形体と比較した。その結果、実施例3及び実施例8と同様に、酸化温度の上昇に伴い、窒素吸着量が減少した。
【0033】
(実施例13)
実施例10で使用したポリカルボシランのトルエン溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の手順で、アルミナ基材上に膜状の酸化済み炭化珪素系多孔質体を得た。これと酸化処理前の膜状炭化珪素系多孔質体について、実施例4と同様に、測定温度100℃で種々の気体の透過速度を、高真空タイムラグ法により測定した。その結果、実施例4及び実施例9と同様に、酸化処理を施すことで、N2の透過速度は減少した。一方、He、H2の透過速度は増加した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1で粉状の炭化珪素系多孔質成形体について、酸化処理過程における熱重量変化と気体発生挙動を測定した結果を示す図である。
【図2】実施例2で酸化済み炭化珪素系多孔質成形体の構造解析を、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて行った結果を示す図である。
【図3】実施例3で炭化珪素系多孔質成形体の、酸化処理温度と窒素吸着量の関係を測定した結果を示す図である。
【図4】実施例4で膜状成形体の気体の透過速度を測定した結果を示す図である。
【図5】実施例5で膜状成形体のHとNの透過速度を測定した結果を示す図である。
【図6】酸化処理が炭化珪素系多孔質成形体に与える影響を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素系多孔質成形体の表面に、SiCOからなる層を形成したことを特徴とする細孔を制御した炭化珪素系多孔質成形体。
【請求項2】
炭化珪素系多孔質成形体が、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜70%、比表面積10〜1000m/gの成形体であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素系多孔質成形体。
【請求項3】
炭化珪素多孔質成形体が膜状体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素系多孔質成形体。
【請求項4】
炭化珪素系多孔質成形体を400〜800℃で酸化し、成形体表面にSiCOからなる層を形成することを特徴とする細孔を制御した炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【請求項5】
炭化珪素系多孔質成形体が、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜70%、比表面積10〜1000m/gの成形体であることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【請求項6】
架橋剤を使用せずに、炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において400℃以下で加熱して熱的に架橋した炭化珪素前駆体を形成し、該架橋前駆体を熱処理することにより得られた炭化珪素系多孔質成形体を酸化することを特徴とする請求項4又は5に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−22822(P2007−22822A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203745(P2005−203745)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「地球温暖化防止新技術プログラム/高効率高温水素分離膜の開発 」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】