説明

焙焼済み油脂含有パン粉及びその製造方法

【課題】本発明は油脂成分が少なく油調理が不要なパン粉を提供する。
【解決手段】本発明は焙焼済み油脂含有パン粉であって、パン粉と、油脂とを含んでなり、前記パン粉と、前記油脂との混合物を焙焼してなるものである焙焼済み油脂含有パン粉である。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は焙焼済み油脂含有パン粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるフライ食品は油で揚げて調理される為、多量の油が衣に吸収されカロリーが高いという問題がある。また、油で揚げる調理方法は、油はね、レンジの汚れ等を伴う為に、家庭においてはその処理が面倒であるとされている。従って、従来、食品の低カロリー化志向に合致させ、かつ、油で揚げずに簡単に調理でき、後処理が容易なフライ食品用パン粉が提案されている。
【0003】
例えば、特開平10−28543(特許文献1)では、水、糖類、アミノ酸類と伴に油脂を添加した乳化物を付着させたパン粉が開示され、このパン粉は、含油下地による処理を行わずに通常の下地処理を行った場合でも、電子レンジ等の加熱によって均一な揚げ色が効果的に発現されることが提案されている。
【0004】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1の製造方法により得たパン粉を追試してみた所、油脂組成が適切でないことから、パン粉自体が粘性を帯び易く、又油脂の酸化が早い為貯蔵安定性に優れず、さらには油脂含有量が多いことからカロリーが高いものであることが分かった。従って、今尚、油脂成分が少ない一方で、油調理が不要なパン粉の開発が要求されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−28543
【発明の開示】
【0006】
本発明者等は、本発明時において、油脂とパン粉を混合し、適切な温度において焼成することにより、油揚げしたものと同様の風味、香ばしさを有し、色むらが無く均一に揚げた色を呈し、サクサクとした食感を有し、油脂の酸化が安定的に抑制され、及び低カロリーである焙焼済み油脂含有パン粉が得られるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づいてなされてものである。従って、本発明は、焙焼済み油脂含有パン粉であって、
パン粉と、油脂とを含んでなり、
前記パン粉と、前記油脂との混合物を焙焼してなるものである。
【0007】
本発明の別の態様は、焙焼済み油脂含有パン粉の製造方法であって、
パン粉と、油脂とを用意し、
前記パン粉と、前記油脂と、必要に応じて調整剤と共に攪拌し、
前記攪拌した混合物を150℃以上300℃以下の温度で乾式又は湿式の加熱オーブンを用いて焙焼することを含んでなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
焙焼済み油脂含有パン粉
パン粉
パン粉は、通常の製パン法、例えば、通電式製パン法、焙焼式製パン法等により成形されたパンを粉砕したもの、又はいわゆるパン生地を乾燥させてパンを形成することなく粉砕したものが挙げられる。パン粉は、生、半生、乾燥のいずれの状態であっても良いが、好ましくは乾燥したものが好ましい。パン粉の大きさも、製品の用途に合わせて、細目、荒目、中目等、適宜定めることができる。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、パン生地に糖類を添加した上で形成されたパン粉が好ましい。糖類の例としては、所謂、製パン原料として使用される糖類で、砂糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、果糖、キシロース、水飴、異性化糖、蜂蜜、カエデ糖(メープルシロップ)、甘茶液(グリチルチン)、甘草(ステビア)等が挙げられ、好ましくは、砂糖、ブドウ糖、キシロースが挙げられる。糖類の添加量は、パン生地全重量に対して、0重量%以上10重量%以下であり、好ましくは下限値が3重量%以上であり上限値が7重量%以下である。
【0010】
油脂
本発明で使用される油脂は、特に限定されないが、食用のものを使用し、動植物由来のものが使用される。具体的には、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、紅花油、高オレイン酸紅花油、米糠油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ブドウ種子油、椿油、紫蘇油、アマニ油、クルミ油、カボチャ種子油、ヘーゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、小麦胚芽油、茶実油等の液体状植物油脂;パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂等の固体状植物性油脂;牛脂、ラード、鶏油、魚油、アザラシ油、乳脂等の動物性油脂;及びこれらの水素添加油脂、分別油脂等が挙げられる。また、これら油脂の一種又は二種以上混合した油脂と炭素数が2〜12の脂肪酸、例えば酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸等又はこれらのトリグリセリドを適宜混合した後、酵素(例えば、リパーゼ)又はアルカリ剤を使用して、アシドリシス反応又はエステル交換反応を行い、分子蒸留を行った後、脱酸、脱色、脱臭などの精製を行うことにより得ることができる。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、油脂は、そのAOM(Active Oxygen Method)値が30時間以上、好ましくは40時間以上、より好ましくは50時間以上のものが好ましい。AOM値は、油脂中に清浄空気を吹き込みながら98℃に保ち、油脂が酸化されて生成する過酸化物価(POV)が100になるまでの時間を測定したものである。過酸化物価(POV)とは、油脂1kg当たり、主として、脂質酸化の一次酸化生成物として生じる過酸化脂質中のヒドロペルオキシ基の存在量(ミリ当量)を表すものである。このようなAOM値を満たす油脂の具体例としては、オリーブ油、ゴマ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂等の植物性油脂;牛脂、ラード等の動物性油脂;及びこれらの水素添加油脂、中鎖脂肪酸等が挙げられ、より好ましくは、パーム油(融点分離品)、ヤシ油、パーム核油、カカオ脂、牛脂、ラードが挙げられる。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、油脂は、その融点が10℃以上50℃以下、好ましくは下限値が20℃以上であり上限値が40℃以下であるものが好ましい。このような油脂の具体例としては、パーム油、パーム油(融点分離品)、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、及び水素添加油脂が挙げられ、より好ましくは、パーム油(融点分離品)、ヤシ油、パーム核油、カカオ脂、牛脂、ラードが挙げられる。
【0013】
また、本発明の好ましい態様によれば、油脂は、そのヨウ素価が、100以下であり、好ましくは上限値が70以下であるものが好ましい。このような油脂の具体例としては、高オレイン酸ひまわり油、高オレイン酸紅花油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラードが挙げられ、より好ましくはパーム油(融点分離品)、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラードが挙げられる。
【0014】
油脂の添加量は、焙焼済み油脂含有パン粉全量に対して、1重量%以上30重量%以下であり、好ましくは下限値が3重量%以上であり上限値が20重量%以下である。
【0015】
調整剤
本発明にあっては、好ましくは、任意成分として調整剤を添加することができる。これにより、需用者の嗜好にさらに合致させた焙焼済み油脂含有パン粉を提供することができる。調整剤は食品衛生法に適合したものが好ましく、その具体例としては、調味料(砂糖、塩、醤油等)、香辛料(胡椒、乾燥ニンニクパウダー)、着色料、発色剤、香料、乳化剤、保存料、酸化防止剤、結着剤等が挙げられる。調整剤の添加量は、焙焼済み油脂含有パン粉全量に対して、0.1重量%以上30重量%以下であり、好ましくは下限値が0.1重量%以上であり上限値が20重量%以下である。
【0016】
焙焼
本発明においては、焙焼されたことを特徴とする油脂含有パン粉である。焙焼は、油脂を含油したパン粉を加熱する方法であってよい。加熱方法としては、乾式又は湿式加熱オーブン、赤外線加熱、高周波加熱等が挙げられるが、本発明の好ましい態様によれば、乾式又は湿式加熱オーブンを用いて焙焼することが好ましい。
【0017】
製造方法
本発明による製造方法は、先ず、パン粉と、油脂と、必要に応じて調整剤を用意し、これらを一緒にして攪拌する。攪拌は、混合機又は攪拌機を使用して行うことができる。次に、均一混合された混合物を150℃以上300℃以下、好ましくは下限値が160℃以上であり上限値が280℃以下の温度で、0.5分以上15分以下、好ましくは下限値が1分以上であり、上限値が13分以下で焙焼する。焙焼は乾式加熱オーブン、湿式加熱オーブン等加熱装置を用いて行うことができ、本発明の好ましい態様によれば、先の攪拌を行いながら焙焼することが好ましい。焙焼時間は混合される混合物の量により適宜定めることができるが、所望の色合い、サクサク感になるように定めてよい。
【0018】
用途
本発明における焙焼済み油脂含有パン粉は、それを付した食品(フライ風食品)は、例えば冷凍食品として提供される。しかしながら、本発明によるパン粉を付した食品はその特徴として、フライ工程において、油揚げ工程を全く必要としないものである。従って、加熱オーブン、ウォーターオーブン、オーブントースター、電子レンジ等の油浴を使用しない調理器において使用することができる。
【実施例】
【0019】
本発明の内容を下記の実施例で説明するが、本発明の内容は下記実施例により限定して解釈されるものではない。
【0020】
パン粉の調製
実施例1
予め50℃の湯浴にて溶解したパーム油(融点31℃)1,900g、乾燥パン粉10,000gを、ニーダーを用いて混合撹拌し、該パン粉にパーム油を十分馴染ませた。該油脂が馴染んだパン粉を、180℃、4分間、焙焼処理した後、室温まで静置にて冷却し、焙焼済み油脂含有パン粉を得た。
【0021】
実施例2
予め50℃の湯浴にて溶解したパーム油(融点10℃)1,900g、乾燥パン粉10,000gを、ニーダーを用いて混合撹拌し、該パン粉にパーム油を十分馴染ませた。該油脂が馴染んだパン粉を、180℃、4分間、焙焼処理した後、室温まで静置にて冷却し、焙焼済み油脂含有パン粉を得た。
【0022】
実施例3
予め50℃の湯浴にて溶解したパーム油(融点31℃)2,000g、乾燥パン粉10,000gを、ニーダーを用いて混合撹拌し、該パン粉にパーム油を十分馴染ませた後、ニーダー内で該パン粉を撹拌しながら、市販品のガーリックパウダー2,000gを、該パン粉に均一にふり掛け混合した。その後、180℃、4分間、焙焼処理した後、室温まで静置にて冷却し、焙焼済み油脂含有パン粉(ガーリック風味)を得た。
【0023】
比較例1
特開平10−28543号公開公報の実施例1に準じて比較例1のパン粉を得た。
【0024】
比較例2
実施例で使用した乾燥パン粉であり、油脂を含有させない通常のパン粉を比較例2として用意した。
【0025】
評価試験
評価1:外観評価及び官能評価試験
実施例1、実施例2、実施例3及び比較例1のパン粉を電子レンジ(高周波過熱)にて600Wの出力で3分間加熱したものを、評価し、その結果を下記表1に記載した。
評価
評価○:香ばしく、きつね色を有し、色ムラがなく、油揚げしたパン粉と同様またはそれ以上のものであった。
評価△:香ばしく、きつね色、色ムラにおいて、油揚げしたパン粉以下のものであったが、食品としては許容できるものであった。
評価×:焦げムラが激しく、焦げた香りが口の中に残り、パン粉同士が付着しダマになり、食感が不均一であったことから、パン粉を油揚げした状態に再現することは非常に困難であった。
【表1】

【0026】
評価2:経時変化試験
実施例1、実施例2及び比較例1のパン粉を、300ml容器のアルミパウチに、50gずつ入れて封入後、経時変化試験を行なった。試験における保存は槽内温度47℃(恒温槽)を用い静置にて行い、以下の1)乃至3)の時点でサンプルを抜き取り、試験検査を行った。経時変化試験での検査項目は、AV測定、POV測定、風味、食感、目視による外観の官能試験を行なった。この試験結果は表2に記載した通りであった。
1)焙焼済み油脂含有パン粉の製造工程中において、パン粉に油脂としてパーム油を混合した直後(焙焼処理前)、
2)焙焼済み油脂含有パン粉の製造工程中において、焙焼処理後、室温まで冷却した時点、及び
3)焙焼済み油脂含有パン粉をアルミパウチに封入後、3日、1週間、2週間、3週間、4週間、6週間経過した時点であった。
評価
比較例1は、水分が15%以上含まれた製品であったことから、2週間の時点でPOV値が高く、3週間の時点では腐敗したため、試験を取り止めた。実施例1及び実施例2の焙焼済み油脂含有パン粉の水分量はそれぞれ、2.1%、2.3%であり腐敗の問題も無く、AV、POVの値も良好であり、保存性の良い物であった。
【0027】
【表2】

【0028】
評価3:焙焼工程による外観評価及び官能評価試験
実施例2において、焙焼処理温度、処理時間を、下記表3に表した通り変更し、評価した。その結果、いずれの処理温度、いずれの処理時間においても、着色性、色ムラ等が発生せず、良好な製品を得る事ができた。
【表3】

【0029】
評価4:製品評価試験
フライ風トンカツの調理
トンカツ用豚肉100gを用意し、小麦粉で打ち粉をし、溶き卵に通した後、実施例1、比較例1及び比較例2のパン粉を付着したものをそれぞれ用意した。このパン粉が付着したものを、250℃で20分間(裏、表をひっくり返して、各10分間)オーブンによる加熱調理をしてフライ風トンカツ調理品を得た。また、コントロールとして、比較例2のパン粉を付着したものを通常の油浴にて油揚げ処理をした。
評価
上記で得たフライ風トンカツの衣の色調による外観評価、風味、食感、味の官能評価、それらの総合評価を、パネル20人により、評点1(悪い)、評点2(やや悪い)、評点3(普通)、評点4(良い)、評点5(極めて良い)の5段階で評価した結果を平均し、その結果を下記表4に表した。実施例1はコントロールの風味と同等のフライ風トンカツ調理品が得られた。
【表4】

【0030】
評価5:脂質含有試験
フライ風エビフライの調理
剥きえびを用意し、小麦粉で打ち粉をし、溶き卵に通した後、実施例1及び比較例1のパン粉を付着したものをそれぞれ用意した。このパン粉が付着したものを、電子レンジ(高周波過熱)にて600Wの出力で3分間加熱調理をしてフライ風エビフライ調理品を得た。また、コントロールとして比較例2のパン粉を付着したものを通常の油浴にて油揚げ処理をした。
評価
得たフライ風エビフライ調理品の衣部分を採取し、ソックスレー抽出法を用いて脂質割合を測定し、その結果を下記表5に記載した。実施例1は、比較例1及びコントロールに比べ油脂含量が低く低カロリーのものであった。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン粉と、油脂とを含んでなり、
前記パン粉と、前記油脂との混合物を焙焼してなる、焙焼済み油脂含有パン粉。
【請求項2】
前記混合物を150℃以上300℃以下の温度で乾式又は湿式の加熱オーブンを用いて焙焼してなる、請求項1に記載の焙焼済み油脂含有パン粉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された焙焼済み油脂含有パン粉を用いてなる、食品。
【請求項4】
焙焼済み油脂含有パン粉の製造方法であって、
パン粉と、油脂とを用意し、
前記パン粉と、前記油脂と、必要に応じて調整剤と共に攪拌し、
前記攪拌した混合物を150℃以上300℃以下の温度で乾式又は湿式の加熱オーブンを用いて焙焼することを含んでなる、製造方法。

【公開番号】特開2008−104400(P2008−104400A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290103(P2006−290103)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(506358188)トラストフーズ株式会社 (1)
【出願人】(595119051)池田糖化工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】