説明

球根植付機

【課題】 作業者の負担を軽減しながら、植付け姿勢及び向きを確実に揃えるようにして、多数個の球根を列状に並べて植え付けることのできる球根植付機を提供する。
【解決手段】 エンジン6が搭載された走行機体1に、球根を所定の姿勢に保持して圃場に植え付けるための球根植付装置11を備えた球根植付機において、球根植付装置11には、球根を着脱可能に把持する把持アーム16を備える。把持アーム16は、走行機体1の前進動に連動して、エンジン6の動力により把持アーム16の先端部で球根を受け取るときの受取り姿勢と前記先端部を圃場面Aに突き刺すときの植付け姿勢とに間欠的に姿勢切替え移動するように構成する。把持アーム16は、前記受取り姿勢のときに、前記先端部を走行機体1のうち球根植付装置11よりも後方の操縦部8に向けて臨ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種にんにくや種芋等の球根を圃場に対して適宜間隔で且つ適正な姿勢で植え付けるための球根植付機の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、種にんにく等の球根(種球)は、その頂芽部(芽の出る部位)を上にした姿勢で圃場に植え付ける必要がある。また、にんにくの葉は、平面視略扇型である球根の円弧状部分に略沿うように広がって生長するので、隣接して植え付けられた球根から生長した葉同士が重なり合わないように、平面視での球根の向きもそれぞれ揃えて植え付けなければならない。このため、従来、球根の植付け作業は球根の姿勢及び向きを揃えるようにして1個ずつ手作業で行われていた。しかし、このような作業では、単位作付面積当りの作業効率が著しく低いし、腰を屈めて植付け作業をする作業者の負担も大きいという問題があった。
【0003】
この問題を解消する方策としては、例えば特許文献1に記載された苗移植機の構造を応用して、球根植付け用の作業機を製作することが挙げられる。当該苗移植機は、自走式の走行機体に、上下揺動可能な揺動アームと当該揺動アームの先端にポット苗を保持する下窄まり状の移植用カップとを有する苗植付装置を備えている。走行機体の上部には、後方に突出された平面視コ字型のハンドルとの間に、移植用カップにポット苗を落下供給するためのロータリポットが取り付けられている。移植用カップは、ロータリポットと圃場面との間をリンク機構を介して略楕円軌跡を描いて昇降動するように構成されている。
【0004】
この構成によると、圃場の畝を跨いだ状態で走行機体を畝に沿って前進動させつつ、ロータリポットの箇所にポット苗を供給しておけば、ロータリポットが水平回転して、所定の時間間隔でロータリポットの一箇所(進行方向後端)からポット苗を落下させ、当該ポット苗が上昇位置にある移植用カップに投入される。その後、苗植付装置が略楕円軌跡を描く昇降動をして移植用カップを圃場面に突き刺すことにより、ポット苗が圃場面に移植されるのである。
【特許文献1】実開平5−95236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された苗移植機の構造を球根植付け用の作業機にそのまま適用した場合は、ロータリポットの箇所にある球根は、上昇位置にある移植用カップに対して落下供給されることになるから、球根が移植用カップ内で転がる等して、移植用カップ内での球根の姿勢が頂芽部を上にした状態にならなかったり、球根の向きが同じ向きに揃わなかったりする場合がある。このように、球根の植付け姿勢及び向きを確実に揃えた状態で、多数個の球根を圃場に列状に並べて植え付けることが難しいという問題を招来すると考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、作業者の負担を軽減しながら、植付け姿勢及び向きを確実に揃えるようにして、多数個の球根を列状に並べて植え付けることのできる球根植付機を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的課題を解決するため、請求項1の発明は、エンジン等の動力源が搭載された自走式の走行機体に、種にんにく等の球根を所定の姿勢に保持して圃場に植え付けるための球根植付装置を備えた球根植付機であって、前記球根植付装置には、球根を着脱可能に把持する把持手段を備え、前記把持手段は、前記走行機体の前進動に連動して、前記動力源からの動力により前記把持手段の先端部で球根を受け取るときの受取り姿勢と前記先端部を圃場面に突き刺すときの植付け姿勢とに間欠的に姿勢切替え移動するように構成され、前記把持手段は、前記受取り姿勢のときに、前記先端部を走行機体のうち前記球根植付装置よりも後方の球根供給部に向けて臨ませるように構成されているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した球根植付機において、前記球根植付装置には、前記走行機体に回動可能に軸支された左右長手の横支軸と、前記走行機体の左右両側に上下揺動可能に枢着された吊支杆を介して、前記横支軸の下方に昇降動可能に配置された可動軸とを備え、前記横支軸は、前記走行機体の前進動に連動して、前記動力源からの動力により自軸回りに間欠回動するように構成され、前記可動軸は、自軸回りに回動可能な状態で前記吊支杆に吊支され、前記横支軸と前記可動軸とは、これら両者を連結する連動リンク機構を介して、前記横支軸の前記間欠回動に連動して前記可動軸が自軸回りに回動すると共に昇降動するように関連させている一方、前記把持手段は、前記可動軸の長手中途部に一体的に回動するように取り付けられているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した球根植付機において、前記把持手段の先端部には、開閉動可能で且つ球根を把持する閉じ方向に付勢された少なくとも3つの掴み爪が設けられ、前記把持手段には、前記植付け姿勢のときに前記付勢力に抗して前記掴み爪の群を開き回動させる解除部材が設けられているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1のように構成すると、作業者は、走行機体を圃場の畝に沿って前進動させつつ、受取り姿勢時における把持手段の先端部に、種にんにく等の球根を一定の植付け姿勢や向きにして把持させておけば、動力源からの動力によって、前記把持手段を受取り姿勢から植付け姿勢へと間欠的に姿勢切替え移動させることができるから、先に一列状に並べて植え付けられた他の球根と植付け姿勢及び向きが揃うようにして、前記把持手段で着脱可能に把持されている球根を畝の植付け箇所に植え付けることができる。これにより、作業者は、腰を屈めて手作業で植え付けたりしなくても、球根の植付け作業に従事することができるから、植付け作業時の作業者の負担を少なくすることができ、作業の効率化を図ることができるという効果を奏する。
【0011】
このとき、前記把持手段は、前記受取り姿勢のときに、前記先端部を前記走行機体のうち前記球根植付装置よりも後方の球根供給部に向けて臨ませるように構成されているから、作業者は植え付けるべき球根の姿勢や向きを確認しながら、当該球根を前記把持手段の先端部にスムーズに把持させることができる。従って、これにより、球根の植付けミスを著しく低減させることができるから、多数個の球根を的確な姿勢及び向きに揃えて、且つ効率よく圃場の畝に列状に並べて植え付けることができるという効果を奏する。
【0012】
請求項2の構成によると、球根を所定の姿勢に保持して圃場に植え付けるための球根植付装置が機械的な構成となっているから、前記球根植付装置の構造として、例えば空気圧又は油圧シリンダ等を利用したり電子制御等を利用したりするようなものを採用した場合に比べて、構成が簡単であって部品点数が少なくて済むばかりか、故障もし難く、また、製造コストも安価で済むという効果を奏する。
【0013】
請求項3の構成によると、前記把持手段の先端部には、開閉動可能で且つ球根を把持する閉じ方向に付勢された少なくとも3つの掴み爪が設けられているので、前記把持手段が植付け姿勢になるまでは、前記複数の掴み爪で植え付けるべき球根を落下不能に保持することができる。これにより、前記把持手段が受取り姿勢である段階において、前記掴み爪で着脱可能に把持された球根の姿勢や向きが変わってしまうおそれはほとんどなく、より一層効果的に、作業効率の向上に貢献することができるという効果を奏する。
【0014】
また、前記把持手段には、前記植付け姿勢のときに前記付勢力に抗して前記掴み爪の群を開き回動させる解除部材が設けられているので、前記掴み爪で把持されていた球根の植付け動作を自動的に行うことができ、植付け作業時の作業者の負担低減にさらなる寄与をすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面(図1〜図8)に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明を適用した球根植付機の概略側面図、図2は後面図、図3は平面図、図4は把持手段の概略斜視図、図5〜図7は球根植付装置の作動態様を模式的に示した説明図である。
【0017】
図1〜図3に示すように、本発明を適用した球根植付機の走行機体1は、その骨組を構成する機体フレーム2と、当該機体フレーム2を覆う機体カバー3とを備えている。走行機体1は、左右一対の前輪4,4と左右一対の後輪5,5とにより下方から支持されている。機体フレーム2の前部には、動力源としてのエンジン6と、当該エンジン6からの出力を適宜変速して左右両前輪4,4等に伝達するミッションケース7とが搭載されている。なお、動力源はエンジン6に限らず、電動モータ等でも差し支えない。
【0018】
図3に示すように、走行機体1の後部は、平面視で後ろ向きに開口するように略U字型に凹んだ形状となっている。走行機体1の上部から後方に突出させた操向ハンドル7は平面視で前述の凹み部に臨ませている。従って、この凹み部は、走行機体1を操縦する作業者の身体が収まる操縦部8となっている。走行機体1の上面のうち操向ハンドル7の近傍箇所には、球根を収容するための種箱9が配置されている。
【0019】
走行機体1の略中央部には、種にんにく等の球根を所定の姿勢に保持して圃場に植え付けるための球根植付装置11が搭載されている。この実施形態の球根植付装置11は、機体フレーム2における左右一対の上部フレーム2a,2aに対して回動可能に軸支された左右長手の横支軸12と、機体フレーム2における左右一対の後部縦フレーム2b,2bの左右両側に上下揺動可能に枢着された一対の吊支杆13,13と、当該両吊支杆13,13を介して横支軸12の下方に昇降動可能に配置された可動軸14と、横支軸12と可動軸14とを連結する左右一対の連動リンク機構15,15と、可動軸14の長手中途部に固着された把持手段としての把持アーム16とを備えている。
【0020】
横支軸12は、走行機体1の前進動に連動して、エンジン6からの動力により自軸回り(図1及び図5〜図7では時計方向)に間欠回動するように構成されている。すなわち、横支軸12の一端部のうち上部フレーム2aよりも内側(左右中央側)の箇所には、2つのスプロケット21,22が取り付けられている。当該両スプロケット21,22のうち内側の伝動スプロケット21は、横支軸12に対して一体的に回動するように固着されている。外側のニュートラルスプロケット22は、横支軸12に対して左右位置ずれ不能で且つ自由回転可能に被嵌されている。
【0021】
横支軸12上のニュートラルスプロケット22と、ミッションケース7の一側面から水平外向きに突出する出力軸23に固定された出力スプロケット24とには、無端状のチェーン25が巻き掛けられている。チェーン25の一側面(左右中央側の側面)には、伝動スプロケット21にのみ巻掛け可能な所定長さの複数の伝動チェーン部26が、周方向(長手方向)に沿って等間隔で取り付けられている。
【0022】
これにより、エンジン6からの分岐動力は、ミッションケース7の出力軸23からチェーン25を介してニュートラルスプロケット22を自由回転(空回り)させる。チェーン25の伝動チェーン部26が伝動スプロケット21に巻き掛けられていない場合(図2、図3及び図5参照)は、横支軸12に動力伝達がされないので、横支軸12は停止状態(ニュートラル状態)となる。チェーン25の循環移動が進んで伝動チェーン部26が伝動スプロケット21に噛み合うと(巻き掛けられると)、エンジン6からの分岐動力が横支軸12に動力伝達され、伝動チェーン部26が伝動スプロケット21に噛み合っている間だけ、横支軸12は自軸回りに間欠回動することになる。
【0023】
この実施形態では、伝動スプロケット21ひいては横支軸12を所定の角度範囲θ(実施形態では略180°、図5〜図7参照)だけ自軸回りに回動させ得るように、チェーン25における各伝動チェーン部26の長さが設定されている。また、1つの伝動チェーン部26が伝動スプロケット21から離れた後(図7参照、球根植付装置11による植付けの1サイクル終了後)、走行機体1が所定距離L(圃場面A(畝)における球根の植付け間隔Lに相当)だけ前進動すると、次(循環下流側)の伝動チェーン部26が伝動スプロケット21に巻き掛けられるように、チェーン25における各伝動チェーン部26の並び間隔が設定されている。
【0024】
なお、伝動チェーン部26の個数は複数個に限らず、1つでもよい。この場合は、球根植付装置11による植付けの1サイクル終了後、走行機体1が所定距離Lだけ前進動すると、再び伝動チェーン部26が伝動スプロケット21に巻き掛けられるように設定されることになる。
【0025】
また、横支軸12の他端部には、上部フレーム2aから左右中央向きに突出させた突出バー部27に下方から当たって横支軸12の図1の反時計方向への回動を規制するためのストッパー部材28が突設されている(図3参照)。
【0026】
エンジン6からの動力を横支軸12に伝達する機構は、前述のようなスプロケットとチェーンとからなるものに限らず、プーリと無端ベルトとからなるものや、軸と歯車機構とからなるもの等でも構わない。また、走行機体1の前進動に連動して、横支軸12に対して間欠的に動力伝達する間欠クラッチ機構を採用したりすることも可能である。
【0027】
左右2本の吊支杆13は、その基端部(後端部)が後部縦フレーム2bの左右外側に枢着ピンで上下揺動可能に枢着されている。詳細は図示していないが、可動軸14の両端部に回動可能に被嵌された支持部材を左右両吊支杆13,13の長手中途部に対してそれぞれ固着することにより、可動軸14は、自軸回りに回動可能な状態で左右両吊支杆13,13に吊支されている。
【0028】
左右両吊支杆13,13の先端部の間には、左右に長い水平杆31が両吊支杆13,13の長手方向に沿って取付け位置変更可能に装架されている。この水平杆31の中途部には、圃場面に穴状の植付け箇所Hを形成するための穴形成部材32が設けられている。この穴形成部材32は、水平杆31から下向きに延びる固定杆33と、当該固定杆33の先端に取り付けられた下窄まり略円錐状の穴形成具34とを備えている。
【0029】
水平杆31と可動軸14との側面視での位置関係は、両吊支杆13,13の下向き揺動時(図1の一点鎖線状態参照)における可動軸14との水平距離が植付け間隔Lに略一致するように設定されている。固定杆33は、両吊支杆13,13の下向き揺動で穴形成具34が圃場面Aに対して垂直に所定深さ(実施形態では10cm程度)だけ突き刺さるように、側面視で水平杆31に対して前方斜め下向きの傾斜状に設けられている。
【0030】
各吊支杆13の中途部とこれに対応する上部フレーム2aとの間には、各吊支杆13を常時上向き揺動する方向に付勢する第1引張りばね35が装架されている。
【0031】
なお、穴形成部材32と可動軸14(把持アーム16)との側面視での位置関係、ひいては植付け間隔Lは、水平杆31の両吊支杆13,13に対する取付け位置を変更することで調節し得るように構成されている。また、この実施形態では、両吊支杆13,13の上下揺動時に、可動軸14、水平杆31及び把持アーム16が機体フレーム2に干渉しないように構成されている。
【0032】
左右一対の連動リンク機構15,15は、横支軸12の間欠回動に連動して可動軸14が自軸回りに回動すると共に昇降動するように関連付けるためのものである。この実施形態の両連動リンク機構15,15は、横支軸12及び可動軸14の左右に対して左右対称状に設けられている。
【0033】
各連動リンク機構15は、横支軸12の端部に固着された大径円盤状の上回動板41と、可動軸14の端部に固着された小径円盤状の下回動板42と、これら両回動板41,42同士をつなぐ縦長のリンク杆43とで構成されている。従って、横支軸12の下方に位置する可動軸14は、前述した左右一対の吊支杆13,13だけでなく、左右両リンク杆43,43によっても吊支されている。リンク杆43の上下各端部は、上下両回動板41,42を互いに同じ方向に回動させ得るように、対応する回動板41,42の外周寄り部位に枢支ピン44,45で枢着されている。
【0034】
リンク杆43の下端寄り部位とこれに対応する吊支杆13の中途部との間には、上下両回動板41,42を図1及び図5〜図7の反時計方向に回動させるようにリンク杆43を引き寄せる方向に付勢する第2引張りばね46が装架されている。
【0035】
上回動板41に対する上枢支ピン44の回動位相位置が最上位相位置(図1の実線状態及び図5参照)から中間位相位置(図6参照)に移動するように、横支軸12を時計方向に所定角度(実施形態ではθ/2≒90°)だけ回動させると、リンク杆43及び下回動板42を介して、可動軸14に固着された把持アーム16が、作業者による球根供給部としての操縦部8に向かって後ろ斜め上向きに傾斜した受取り姿勢(図1の実線状態及び図5参照)から、その先端部(後述する掴み爪54)を圃場面Aに対峙させた鉛直下向きの対峙姿勢(図6参照)となるように姿勢切替え回動する。
【0036】
上枢支ピン44の回動位相位置が中間位相位置(図6参照)から最下位相位置(図7参照)に移動させるように、横支軸12を時計方向に所定角度(実施形態ではθ/2≒90°)だけ回動させると、可動軸14全体が横支軸12回りの回動移動による上枢支ピン44の鉛直方向の移動距離D(図6及び図7参照)だけ下降動するので、把持アーム16は、第1及び第2引張りばね35,46の引張り付勢力に抗して、掴み爪54を下向きにした姿勢のままで下降動する。換言すると、把持アーム16は、図6に示す対峙姿勢から、掴み爪54が先に穴形成具34で形成された圃場面Aの植付け箇所Hに突き刺さる植付け姿勢(図1の一点鎖線状態及び図7参照)に切り替わるように下降動するのである。
【0037】
このとき同時に、左右一対の吊支杆13,13は可動軸14の下降動に伴って下向き揺動するので、左右両吊支杆13,13の先端部側に設けられた穴形成部材32の穴形成具34は、圃場面Aのうち植付け箇所Hから植付け間隔Lだけ前方の箇所Hに突き刺さる(図1及び図7参照)。
【0038】
球根植付装置11による植付けの1サイクルが終了して、チェーン25の伝動チェーン部26が伝動スプロケット21から離れると、横支軸12への動力伝達が遮断される。すると、第1引張りばね35の引張り付勢力で吊支杆13を上向き揺動させると共に、第2引張りばね46の引張り付勢力で上下両回動板41,42を図6及び図7に示す反時計方向に回動させるようにリンク杆43を引き寄せることにより、可動軸14全体が前記移動距離Dだけ上昇動して、把持アーム16を図1の一点鎖線状態及び図7に示す植付け姿勢から図6に示す対峙姿勢に切り替わるように上昇動させる。このとき、横支軸12は、上回動板41に対する上枢支ピン44の回動位相位置を図7の最下位相位置から図6の中間位相位置に移動させるように、リンク杆43を介して反時計方向に所定角度(実施形態ではθ/2≒90°)だけ回動する。
【0039】
その後、第2引張りばね46の引張り付勢力で上下両回動板41,42を図5及び図6に示す反時計方向に回動させるように、更にリンク杆43を引き寄せることにより、把持アーム16を図6の対峙姿勢から図1の実線状態及び図5の受取り姿勢に姿勢切替え回動させると共に、上枢支ピン44の回動位相位置が図6の中間位相位置から図1の実線状態及び図5の最上位相位置に移動するように、横支軸12を反時計方向に所定角度だけ回動させて、元の図5の状態に戻るのである。
【0040】
なお、上枢支ピン44の回動位相位置が最上位相位置に到達するまで、横支軸12を反時計方向に回動させると、上部フレーム2aの突出バー部27に横支軸12のストッパー部材28が下方から当たるので、横支軸12ひいては可動軸14の把持アーム16は、それ以上反時計方向に回動しない。
【0041】
図4に詳細に示すように、可動軸14の長手中途部に固着された把持アーム16は、可動軸14から交差する方向に延びる固定アーム51と、この固定アーム51の長手方向に沿って摺動可能に被嵌された摺動鍔52と、当該摺動鍔52の外周部に周方向に沿って適宜間隔で設けられ且つ固定アーム51と平行状に延びる支持バー53(実施形態では6本)と、これら各支持バー53及び固定アーム51の先端部間に取り付けられた弾性金属ワイヤ製で略く字状の掴み爪54(実施形態では6つ)とにより構成されている。
【0042】
各掴み爪54は、当該掴み爪54のリング部とこれに対応した支持バー53の先端のリング部とを繋ぎ合わせること、及び自らの弾性力により、固定アーム51の延びる方向から見て半径方向に開閉回動(広狭回動)可能に構成されている。固定アーム51における可動軸14と摺動鍔52との間の外周部には、摺動鍔52を可動軸14から離れる方向に押圧付勢する圧縮ばね55が被嵌されている。この圧縮ばね55が摺動鍔52を可動軸14から離れる方向に常時押圧付勢することにより、掴み爪54の群が固定アーム51の延びる方向から見て半径内向きに閉じ回動した状態に維持されている。
【0043】
この場合、植え付けるべき球根を把持アーム16の先端部(複数の掴み爪54で囲まれた領域)に向けて頂芽部を先にして押し付け、各掴み爪54の弾性に抗して球根を前記領域内に嵌め込むことにより、球根は掴み爪54の群で落下不能に保持される。
【0044】
図1及び図5に示すように、受取り姿勢時の把持アーム16は、その先端部の各掴み爪54を走行機体1の操縦部8に向けて臨ませるように、後ろ斜め上向きに傾斜させて設けられている。換言すると、把持アーム16の可動軸14に対する取付け角度及びその長さは、把持アーム16を後方斜め上向きの受取り姿勢(図1の実線状態及び図5参照)とした状態で、操縦部8から先端部の掴み爪54の箇所に手が届くように設定されている。従って、この実施形態では走行機体1の操縦部8が特許請求の範囲に記載した球根供給部に相当する。なお、図3に示すように、穴形成部材32と把持アーム16との取付け位置関係は、平面視で走行機体1の直進方向に沿った略同一直線上に位置するように設定されている。
【0045】
摺動鍔52と横支軸12の中途部とは、解除部材としての紐や鎖等の索条部材56により繋がれている。この索条部材56は、把持アーム16が図6の対峙姿勢のときに当該索条部材56がピンと張った状態となるように、横支軸12から前記対峙姿勢時の摺動鍔52までの垂直距離と略同じ程度の長さに設定されている。
【0046】
把持アーム16が図1の実線状態及び図7に示す植付け姿勢になるときに、索条部材56で摺動鍔52を固定アーム51に対して相対的に引き上げ動(上昇動)させることにより、各支持バー53を介して、各掴み爪54の半径内向きの付勢力に抗して掴み爪54の群を半径外向きに開き回動させるように構成されている。これにより、把持アーム16が植付け姿勢のとき、掴み爪54の群に把持されていた球根は圃場面Aの植付け箇所Hに所定の姿勢のままで落下して植え付けられることになる。
【0047】
以上のことから、本発明の球根植付機によると、作業者は、走行機体1を圃場の畝に沿って前進動させつつ、受取り姿勢時における把持アーム16の掴み爪54の箇所に、球根を一定の植付け姿勢や向きにして把持させておけば、エンジン6からの動力によって、把持アーム16を図1の実線状態及び図5に示す受取り姿勢から図6の対峙姿勢を経て図1の一点鎖線状態及び図7に示す植付け姿勢へと間欠的に姿勢切替え移動させることができるから、先に一列状に並べて植え付けられた他の球根と植付け姿勢及び向きが揃うようにして、掴み爪54で把持されている球根を圃場面A(畝)の植付け箇所Hに植え付けることができる。これにより、作業者は、腰を屈めて手作業で植え付けたりしなくても、球根の植付け作業に従事することができるから、植付け作業時の作業者の負担を少なくすることができ、作業の効率化を図ることができる。
【0048】
また、受取り姿勢時の把持アーム16は、その先端部の各掴み爪54を走行機体1の操縦部8に向けて臨ませるように、後ろ斜め上向きに傾斜しているので、作業者は種箱9から取り出した球根の姿勢や向きを確認しながら、当該球根を把持アーム16の掴み爪54にスムーズに把持させることができる。従って、本発明の球根植付機によると、球根の植付けミスを著しく低減させることができるから、多数個の球根を的確な姿勢及び向きに揃えて、且つ効率よく圃場面A(畝)に一列状に並べて植え付けることができるのである。
【0049】
この実施形態の球根植付装置11は、走行機体1に回動可能に軸支された左右長手の横支軸12と、吊支杆13,13を介して昇降動可能な可動軸14とを、エンジン6からの動力による横支軸12の間欠回動に連動して可動軸14が自軸回りに回動すると共に昇降動するように、連動リンク機構15,15を介して関連させ、可動軸14の長手中途部に把持アーム16を固着するという機械的な構成であるから、球根植付装置11の構造として、例えば空気圧又は油圧シリンダ等を利用したり電子制御等を利用したりするようなものを採用した場合に比べて、構成が簡単であって部品点数が少なくて済むばかりか、故障もし難い。また、製造コストも安価で済む。
【0050】
把持アーム16の先端部には、開閉動可能で且つ球根を把持する閉じ方向に付勢された複数の掴み爪54が設けられているので、把持アーム16が植付け姿勢になるまでは、複数の掴み爪54で植え付けるべき球根を落下不能に保持することができる。これにより、把持アーム16が受取り姿勢や対峙姿勢の段階で、掴み爪54で着脱可能に把持された球根の姿勢や向きが変わってしまうおそれはほとんどなく、より一層効果的に、作業効率の向上に貢献することができる。
【0051】
さらに、把持アーム16は、植付け姿勢のときに各掴み爪54の半径内向きの付勢力に抗して掴み爪54の群を半径外向きに開き回動させる解除部材としての紐や鎖等の索条部材56により、横支軸12に繋がれている。この索条部材56の存在により、把持アーム16が対峙姿勢のときに可動軸14をさらに下降動させる動作に連動して、掴み爪54を開き回動させることができるから、掴み爪54で把持されていた球根の植付け動作を自動的に(簡単に)行うことができ、植付け作業時の作業者の負担低減にさらなる寄与をすることができるのである。
【0052】
なお、上記の実施形態は歩行型の球根植付機について説明したが、乗用型の球根植付機についても適用できることはいうまでもなく、また複数条以上に植え付けする場合にも適用できる。また、本発明の球根植付機で植付け可能な球根としては、にんにく等の麟片状の種球やラッキョウ等の種球、サトイモ等の種芋が挙げられる。球根植付装置や把持手段の構成は、前述の実施形態のものに限らず、様々な態様に具体化できる。さらに、把持手段としての把持アームの先端部に設ける掴み爪は、球根を三方から掴み得るように少なくとも3つあれば足りる(図8参照)。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】球根植付機の概略側面図である。
【図2】球根植付機の概略後面図である。
【図3】球根植付機の概略平面図である。
【図4】把持手段の概略斜視図である。
【図5】球根植付装置の作動態様を模式的に示した説明図であり、把持手段が受取り姿勢のときの図である。
【図6】球根植付装置の作動態様を模式的に示した説明図であり、把持手段が可動軸回りに下向き回動して圃場面と対峙した状態の図である。
【図7】球根植付装置の作動態様を模式的に示した説明図であり、把持手段が植付け姿勢のときの図である。
【図8】把持手段の別例を示した概略斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
1 走行機体
2 機体フレーム
6 動力源としてのエンジン
8 球根供給部としての操縦部
11 球根植付装置
12 横支軸
13 吊支杆
14 可動軸
15 連動リンク機構
16 把持手段としての把持アーム
25 チェーン
26 伝動チェーン部
32 穴形成部材
35 第1引張りばね
41 上回動板
42 下回動板
43 リンク杆
44 上枢支ピン
45 下枢支ピン
46 第2引張りばね
54 掴み爪
56 解除部材としての索条部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン等の動力源が搭載された自走式の走行機体に、種にんにく等の球根を所定の姿勢に保持して圃場に植え付けるための球根植付装置を備えた球根植付機であって、
前記球根植付装置には、球根を着脱可能に把持する把持手段を備え、
前記把持手段は、前記走行機体の前進動に連動して、前記動力源からの動力により前記把持手段の先端部で球根を受け取るときの受取り姿勢と前記先端部を圃場面に突き刺すときの植付け姿勢とに間欠的に姿勢切替え移動するように構成され、
前記把持手段は、前記受取り姿勢のときに、前記先端部を走行機体のうち前記球根植付装置よりも後方の球根供給部に向けて臨ませるように構成されていることを特徴とする球根植付機。
【請求項2】
前記球根植付装置には、前記走行機体に回動可能に軸支された左右長手の横支軸と、前記走行機体の左右両側に上下揺動可能に枢着された吊支杆を介して、前記横支軸の下方に昇降動可能に配置された可動軸とを備え、
前記横支軸は、前記走行機体の前進動に連動して、前記動力源からの動力により自軸回りに間欠回動するように構成され、前記可動軸は、自軸回りに回動可能な状態で前記吊支杆に吊支され、
前記横支軸と前記可動軸とは、これら両者を連結する連動リンク機構を介して、前記横支軸の前記間欠回動に連動して前記可動軸が自軸回りに回動すると共に昇降動するように関連させている一方、
前記把持手段は、前記可動軸の長手中途部に一体的に回動するように取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載した球根植付機。
【請求項3】
前記把持手段の先端部には、開閉動可能で且つ球根を把持する閉じ方向に付勢された少なくとも3つの掴み爪が設けられ、前記把持手段には、前記植付け姿勢のときに前記付勢力に抗して前記掴み爪の群を開き回動させる解除部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載した球根植付機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−211998(P2006−211998A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30752(P2005−30752)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000006851)ヤンマー農機株式会社 (132)
【Fターム(参考)】