説明

環状弁部材

【課題】ロッド挿通孔とは同心円以外の外形を持っていても、組立時に確実な拾い上げを可能とする環状弁部材を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、緩衝器のバルブディスク11が組付けられる組付ロッド10が挿通される円形のロッド挿通孔5cを備え、上記バルブディスク11に積層されるとともに外周形状が上記ロッド挿通孔5cに対して同心円以外の形状を持つ環状弁部材5において、環状弁部材5の組付を行う際に環状弁部材5を積層状態に保持するストッカS1に対して環状弁部材5を周方向に位置決めする位置決め用切欠5dを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に、緩衝器のバルブディスクに積層する環状弁部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緩衝器におけるピストン組立体やベースバルブ組立体を仮組みするには、針山と称される針状工具を利用して行われ、たとえば、この針状工具へピストンの他、リーフバルブや間座等の環状弁部材といった上記組立体を構成する部品複数の部品を積層させて仮組みし、その後、仮組みした部品を針状工具から抜き去って緩衝器のピストンロッドやベースバルブのセンターロッドといった組付ロッドへ組付けるようにしている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記した組付行程で、環状弁部材を針状工具へ移す作業を機械化する場合、多数の環状弁部材を積み上げた状態で保持するストッカから環状弁部材を一枚ずつロボットで拾い上げて針状工具へ仮組みすることが考えられる。ストッカは、環状弁部材の中央に設けた挿通孔に挿通される中心軸をもっており、環状弁部材の挿通孔に中心軸を挿通させることによって、環状弁部材を積層した状態で保持できるようになっている。
【0004】
一般的な環状弁部材は、中央に緩衝器におけるピストンロッドの先端が挿通されるロッド挿通孔を有しており、その外周円はロッド挿通孔と同心円とされているので、ストッカは単に上記ロッド挿通孔に挿入可能な中心軸を持っていれば、これを環状弁部材に設けた挿通孔へ挿通させるだけで、多数の環状弁部材をその外縁を揃えて保持することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−20991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、環状弁部材が外縁の形状(外形)が円形でない異形の環状弁部材や組付ロッドの挿通孔に対して外周円が同心でない偏心環状弁部材である場合、中心軸をロッド挿通孔に単に挿入しただけでは、異形の環状弁部材や偏心環状弁部材を周方向に位置決めすることができない。
【0007】
そして、たとえば、異形の環状弁部材20を拾い上げるロボットR1が、図9に示すように、一対の把持部24,24を図中矢印方向へ移動させて環状弁部材20の側部を把持するものである場合には、複数の環状弁部材20,21,22が周方向に位置決めされていない状態でストッカ装置に積層されているので、ロボットR1が最上部にある環状弁部材20を把持しようとしても、最上部以外の環状弁部材21,22が邪魔してうまく把持することができずに、針状工具への仮組みに支障を来たしてしまう虞がある。また、環状弁部材20を拾い上げるロボットR2が環状弁部材20を吸引するものであっても、図10に示すように、環状弁部材20の外形が円形でないためにロボットR2の吸引部23が環状弁部材20の縁からはみ出して、うまく吸引できずに環状弁部材20を拾い上げることができないか、途中で落下してしまって、針状工具への仮組みに支障を来たしてしまう虞がある。このことは、偏心環状弁部材にあっても同様である。
【0008】
そこで、本発明は上記弊害を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、ロッド挿通孔とは同心円以外の外形を持っていても、組立時に確実な拾い上げを可能とする環状弁部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、緩衝器のバルブディスクが組付けられる組付ロッドが挿通される円形のロッド挿通孔を備え、上記バルブディスクに積層されるとともに外周形状が上記ロッド挿通孔に対して同心円以外の形状を持つ環状弁部材において、環状弁部材の組付を行う際に環状弁部材を積層状態に保持するストッカに対して環状弁部材を周方向に位置決めする位置決め用切欠を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環状弁部材を周方向に位置決めすることができるので、向きを揃えてストッカに積層させることができ、環状弁部材の拾い上げが確実となって被組付部材や組付ロッドへの組付けも確実となり、作業効率も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施の形態における環状弁部材をストッカに積層した状態における斜視図である。
【図2】緩衝器のピストンに組み付けられた環状弁部材の側面図である。
【図3】緩衝器のベースバルブに組み付けられた環状弁部材の側面図である。
【図4】環状弁部材を針状工具に仮組みした状態を示す図である。
【図5】環状弁部材をストッカから針状工具へ仮組みする工程を示す図である。
【図6】一実施の形態の一変形例における環状弁部材をストッカに積層させた状態における斜視図である。
【図7】一実施の形態の他の変形例における環状弁部材をストッカに積層させた状態における斜視図である。
【図8】一実施の形態の別の変形例における環状弁部材をストッカに積層させた状態における斜視図である。
【図9】従来の環状弁部材をストッカに積層させた状態を示す図である。
【図10】ストッカに積層した従来の環状弁部材をロボットで拾い上げる工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、一実施の形態における環状弁部材5は、図1に示すように、左右両端に切落部5a,5bを備えた二面幅形状とされたリーフバルブであり、中央には、ロッド挿通孔5cが設けられ、さらに、上記ロッド挿通孔5cとは別個独立の位置決め用切欠としての位置決め孔5dが設けられている。すなわち、環状弁部材5は、ロッド挿通孔5cに対して外周形状が同心円以外の形状を持っている。他方、この環状弁部材5を被組付部材としての針状工具Wへの仮組する際に、環状弁部材5を積層状態に保持するストッカS1は、図1に示すように、ベース2と、ベース2に垂設される中央軸3と、同じくベース2に垂設される位置決め軸4とを備えて構成されている。
【0013】
そして、環状弁部材5は、たとえば、図2に示すように、緩衝器における組付ロッドとしてのピストンロッド10の先端にバルブディスクとしてのピストン11、他の環状弁部材(符示せず)とともに組み付けられて、緩衝器における減衰バルブとして機能するようになっている。また、環状弁部材5は、たとえば、図3に示すように、緩衝器のベースバルブにおける組付ロッドとしてのボルト14に組みつけられもよく、この場合には、バルブディスクとしてのバルブケース13、他の環状弁部材(符示せず)とともにボルト14に組みつけられてナット15によってこれら部材が一体化されてベースバルブとして機能する。
【0014】
このように環状弁部材5は、ピストン11に組付けられる場合、ロッド挿通孔5c内には組付ロッドとしてのピストンロッド10の先端が挿通され、当該ピストンロッド10の先端に螺着されるピストンナット12によってピストン11に一体化され、また、バルブケース13に組み付けられる場合、挿通孔5cには組付ロッドとしてのボルト14が挿通され、ボルト14の先端に螺着されるナット15によってバルブケース13に一体化される。
【0015】
そして、上述のように、環状弁部材5をピストンロッド10の先端に組付けるには、まず、図4に示すように、ピストン11、他の環状弁部材(符示せず)とともに、一旦、被組付部材としての針状工具Wに仮に組みした後、針状工具Wからピストン11、他の環状弁部材(符示せず)および環状弁部材5を抜き取ってピストンロッド10の先端に組付ける。なお、環状弁部材5をボルト14へ組付ける際にも、これと同様に針状工具Wに一旦組付けた後、ボルト14へ移し変えることになる。
【0016】
この針状工具Wへ環状弁部材5を仮組みするには、図5に示すように、図中矢印方向に移動可能であってストッカS1と針状工具Wとの間を行き来するアーム6と、アーム6の先端に設けられてストッカS1の最上部に積層されている環状弁部材5を吸引するか環状弁部材5の側面を把持して環状弁部材5を拾う拾部7とを備えたロボットRによって行うようになっている。
【0017】
他方、ストッカS1は、ベース2と、ベース2に垂設されて環状弁部材5の円形のロッド挿通孔5cに符合する断面形状を持って当該ロッド挿通孔5cに挿通される中央軸3と、ベース2に垂設されて環状弁部材5の円形の位置決め孔5dに符合する断面形状を持って当該位置決め孔5dに挿通される位置決め軸4とを備えており、環状弁部材5をベース2上に積層させていくと中央軸3と位置決め軸4にガイドされて、環状弁部材5は、周方向に位置決めされてその向きが揃えられてストッカS1に保持される。つまり、位置決め孔5dによって、環状弁部材5自身がストッカS1に周方向に位置決めされることになる。
【0018】
このように環状弁部材5がストッカS1にストックされることで、ロボットRの拾部7で環状弁部材5を拾い上げる際に、最上部以外の環状弁部材5が邪魔とならず、また、拾部7が環状弁部材5を吸引する場合にあっても、拾部7が環状弁部材5の切落部5a,5bに掛からない位置が決まっているので、常にその位置に拾部7を誘導することで環状弁部材5を吸引し損じを防止することができる。
【0019】
したがって、環状弁部材5が位置決め用切欠としての位置決め孔5dを備えていることによって、上記ストッカS1に当該環状弁部材5を周方向に位置決めして積層させることができ、環状弁部材5のロボットRによる拾い上げが確実となって、被組付部材としての針状工具Wへの組付けも確実となり、作業効率も向上することになる。
【0020】
なお、図6に示すように、環状弁部材5の位置決め孔5dを円形以外の形状に設定しておき、ストッカS2における位置決め軸4の位置決め孔5dの形状に符合する断面形状とする場合、位置決め軸4と位置決め孔5dにて環状弁部材5をベース2に対して位置決めすることができ、環状弁部材5をベース2へ積層していくと、位置決め軸4と位置決め孔5dによって環状弁部材5は向きが揃えられてストッカS2に保持されるのでこのようにしてもよい。この場合、中央軸3のロッド挿通孔5cへの挿通は不用であるので中央軸3を図6に示すように廃止してもよい。
【0021】
上記したように環状弁部材5がリーフバルブとされて、位置決め用切欠5dがロッド挿通孔5cと別個独立して設けられる場合、リーフバルブの撓み剛性を低下させることができ、位置決め用切欠5dの大きさや位置によって撓み剛性を調節して緩衝器の減衰特性を調節することも可能となる。
【0022】
さらに、図7に示すように、位置決め用切欠を環状弁部材5のロッド挿通孔5cに連なるキー溝形状の切欠5eとして、ストッカS3の中央軸3に軸方向に沿ってキー3aを設けるようにしてもよい。この場合、中央軸3のキー3aが切欠5e内に挿入されて、環状弁部材5をベース2に対して周方向に位置決めすることができる。したがって、環状弁部材5をベース2へ積層していくと、中央軸3のキー3aと挿通孔5cの切欠5eによって環状弁部材5は向きが揃えられてストッカS3に保持されることになる。
【0023】
上述したように、図6および図7の環状弁部材5にあっても、向きが揃えられてストッカS2,S3に保持されるので、環状弁部材5のロボットRによる拾い上げが確実となって、被組付部材としての針状工具Wへの組付けも確実となり、作業効率も向上することになる。
【0024】
なお、環状弁部材5の外径の形状は、一例であって、本発明は、二面幅形状以外の外径をした環状弁部材に適用可能である。また、環状弁部材5は、その外周形状をロッド挿通孔5cに対して同心円以外の形状としたものであるから、図8に示すように、外周形状が円形であってもロッド挿通孔5cに対して偏心している偏心環状弁部材であってもよく、位置決め用切欠としての位置決め用孔5dを設けることで、ストッカS1に周方向に位置決めしつつ積層することができるので、上記した本発明の作用効果を失うことなく奏することができる。さらに、偏心環状弁部材にあっても、図6および図7のように、位置決め用切欠としての位置決め用孔5dの形状を円形以外の形状としたり、ロッド挿通孔5cに連なるキー溝状の切欠を設けたりすることで、ストッカS2,S3に対して周方向に位置決めできるので、上記作用効果を奏することができる。
【0025】
環状弁部材5は、上記したところでは、リーフバルブとされているが、リーフバルブに積層される間座であってもよいことは勿論である。
【0026】
さらに、また、本実施の形態では、被組付部材を針状工具Wとして一旦これに組付けたのち、緩衝器のピストンロッド10やベースバルブにおけるボルト14へ組付けるとしているが、ストッカS1,S2,S3から拾い上げた環状弁部材5を針状工具Wを介さずに直接に組付ロッドとしてのピストンロッド10やベースバルブにおけるボルト14に組み付けるようにしてもよい。
【0027】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、緩衝器のバルブディスクに積層する環状弁部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
2 ベース
3 中央軸
3a キー
4 位置決め軸
5 環状弁部材
5a,5b 切落部
5c 挿通孔
5d 位置決め用切欠としての位置決め孔
5e 位置決め用切欠としての切欠
6 アーム
7 拾部
10 ピストンロッド
11 バルブディスクとしてのピストン
12 ピストンナット
13 バルブディスクとしてのバルブケース
14 ボルト
15 ナット
R ロボット
S1,S2,S3 ストッカ
W 針状工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器のバルブディスクが組付けられる組付ロッドが挿通される円形のロッド挿通孔を備え、上記バルブディスクに積層されるとともに外周形状が上記ロッド挿通孔に対して同心円以外の形状を持つ環状弁部材において、環状弁部材の組付を行う際に環状弁部材を積層状態に保持するストッカに対して環状弁部材を周方向に位置決めする位置決め用切欠を設けたことを特徴とする環状弁部材。
【請求項2】
位置決め用切欠は、ロッド挿通孔とは独立して設けられてストッカに設けた位置決め軸が挿通される孔であることを特徴とする請求項1に記載の環状弁部材。
【請求項3】
位置決め切欠は、ストッカに設けた位置決め軸の断面形状に符合する円形以外の孔であることを特徴とする請求項1に記載の環状弁部材。
【請求項4】
位置決め用切欠は、ストッカに設けた軸に軸方向に沿って設けたキーが挿入されるロッド挿通孔に連なるキー溝形状の切欠であることを特徴とする請求項1に記載の環状弁部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−13181(P2012−13181A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151842(P2010−151842)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】