説明

生物育成用水の製造装置

【課題】水に酸素を均一に且つ高い酸素濃度で溶解することができると共に、しかも水を白く濁らせることなく酸素を溶解することができ、植物や魚介類の育成を早める効果が高い生物育成用水の製造装置を提供する。
【解決手段】酸素溶解水を植物や魚介類を育成する生物育成用水として製造する装置に関する。水を圧送する加圧部1と、水に酸素を注入する酸素注入部2と、酸素を注入された水が加圧部1で圧送されることによる加圧で水に酸素を溶解させる加圧溶解部3と、加圧溶解部3で酸素を溶解させた酸素溶解水の圧力を、酸素溶解水の流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧する減圧部4とを備える。そして加圧部1、酸素注入部2、加圧溶解部3の各部を連続的に運転させて、減圧部4に酸素溶解水を連続的に供給し、減圧部4の流出側から気泡の発生のない酸素溶解水を連続的に吐出させるようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物や魚介類を育成するための酸素溶解水からなる生物育成用水を製造する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物や魚介類の活性を高めて育成を早めるために、植物や魚介類を育成するための水に酸素を供給することが行なわれている。
【0003】
例えば特許文献1や特許文献2では、植物を水耕栽培するにあたって、マイクロバブル発生ノズルからマイクロバブル(微小気泡)を水中に吐出することによって、水中の溶存酸素を増加させて、植物の育成に必要な酸素を十分に供給するようにした装置が提案されている。
【0004】
また特許文献3では、魚介類を水槽で育成するにあたって、微小気泡発生手段から微小気泡を水槽の水に放出することによって、水中の溶存酸素を増加させて、魚介類の育成に必要な酸素を十分に供給するようにした装置が提案されている。
【特許文献1】特開2002−142582号公報
【特許文献2】特開2006−42785号公報
【特許文献3】特開2007−105010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のものはいずれも、植物を栽培する水や魚介類を生育する水の中に微小気泡を供給することによって、水中の溶存酸素を増加させようとするものである。しかし、水の中に微小気泡を供給するだけでは溶存酸素濃度はそれほど向上することはなく、出願人が実測したところ、溶存酸素濃度(DO)はせいぜい14mg/Lになる程度であり、また水中の微小気泡は短時間で水面から逃げるために、5分程度で溶存酸素濃度が8〜9mg/L程度にまで低下してしまい、植物や魚介類の活性を高めて育成を早める効果を高く期待することはできないものである。
【0006】
また微小気泡は水中に所定の箇所から供給されるために、供給箇所の近い場所と遠い場所とでは溶存酸素量が異なり、また微小気泡は水中を浮上するために、底部の溶存酸素濃度が低くなるなど、水中での溶存酸素濃度のばらつきが大きくなるものであり、植物や魚介類を均一に育成することが難しいという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献3のように魚介類を育成する水槽に微小気泡を放出すると、微小気泡で水槽内が白く濁り、水槽内の魚介類を視認することができなくなるので、魚介類の育成状態を観察することが難しくなるという問題もある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、水に酸素を均一に且つ高い酸素濃度で溶解することができると共に、しかも水を白く濁らせることなく酸素を溶解することができ、植物や魚介類の育成を早める効果が高い生物育成用水の製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る生物育成用水の製造装置は、酸素溶解水を植物や魚介類を育成する生物育成用水として製造する装置であって、水を圧送する加圧部1と、水に酸素を注入する酸素注入部2と、酸素を注入された水が加圧部1で圧送されることによる加圧で水に酸素を溶解させる加圧溶解部3と、加圧溶解部3で酸素を溶解させた酸素溶解水の圧力を、酸素溶解水の流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧する減圧部4とを備え、加圧部1、酸素注入部2、加圧溶解部3の各部を連続的に運転させて、減圧部4に酸素溶解水を連続的に供給し、減圧部4の流出側から気泡の発生のない酸素溶解水を連続的に吐出させるようにして成ることを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、加圧によって水に酸素を溶解させるため、酸素を水に均一に且つ高濃度に溶解させることができるものである。また酸素を高濃度で溶解した酸素溶解水の圧力を、減圧部4で流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧するものであるため、酸素溶解水に気泡が発生することを防止して、気泡によって白く濁るようなことなく、均一に且つ高濃度で酸素が溶解した酸素溶解水をそのまま生物育成用水として供給することができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、加圧溶解部3で水に溶解しない余剰酸素を排出する余剰酸素排出部5を備えて成ることを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、水に溶解しない余剰酸素を加圧溶解部3から排出することによって、余剰酸素が残留することによる加圧溶解部3内の酸素と水の比率を安定させて圧力変動を防ぐことができ、酸素の溶解効率を高く維持することができるものである。
【0013】
また請求項3の発明は、上記の減圧部4を、加圧溶解部3から酸素溶解水を送り出す流路6に設けられ、酸素溶解水の圧力を大気圧にまで段階的に減圧する複数の圧力調整弁7で構成して成ることを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、圧力調整弁7による圧力調整で酸素溶解水の圧力を下げることができ、加圧溶解部3における圧力に応じて圧力調整弁7で減圧調整することによって、酸素溶解水に気泡が発生することを安定して防ぐことができるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、上記の減圧部4を、流路断面積と流路長さの少なくとも一方の調整で酸素溶解水の圧力を大気圧にまで減圧するように形成された、加圧溶解部3から酸素溶解水を送り出す流路6で構成して成ることを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、加圧溶解部3から酸素溶解水を送り出す流路6の流路断面積と流路長によって、酸素溶解水の圧力を下げることができ、装置の構造を簡単なものに形成することができるものである。
【0017】
また請求項5の発明は、上記減圧部4は、一つの流路で形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、複数の流路を設けて減圧部4を形成する場合のような、装置構成が複雑になることがないものである。
【0019】
また請求項6の発明は、加圧溶解部3から酸素溶解水を送り出す流路6の圧力損失とこの流路6に付加した延長流路8の圧力損失の和が、加圧部1で圧送される水と酸素の押し込み圧によって加圧溶解部3内で水と酸素を加圧するのに必要な圧力となるように、流路6に延長流路8を付加して成ることを特徴とするものある。
【0020】
この発明によれば、流路6に延長流路8を付加することによって、絞り弁を用いる必要なく、加圧部1からの押し込み圧で加圧溶解部3内の圧力を確保することができ、この圧力で水に酸素を溶解させることができるものである。
【0021】
また請求項7の発明は、酸素溶解水の酸素溶解濃度を測定すると共に、測定結果に基づいて加圧部1で圧送される水の圧力と加圧部1で圧送される水の流量の少なくとも一方を制御する酸素濃度検出制御部11を備えて成ることを特徴とするものである。
【0022】
本発明によれば、酸素濃度検出制御部11で測定した酸素溶解濃度に基づいて、水の圧力やの流量をフィードバック制御することによって、必要とされる溶存酸素濃度に調整しながら酸素溶解水を生物育成用水として供給することができるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加圧部1による加圧によって水に酸素を溶解させるようにしたので、酸素を水に均一に且つ高濃度に溶解させることができるものであり、また酸素を高濃度で溶解した酸素溶解水の圧力を、減圧部4で流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧するようにしたので、酸素溶解水に気泡が発生することを防止して、気泡によって白く濁るようなことなく、均一に且つ高濃度で酸素が溶解した酸素溶解水をそのまま、生物育成用水として供給することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0025】
図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、加圧溶解部3の流出側と流入側にそれぞれ配管で形成される流路15,6が接続してある。流入側の流路15は一端を加圧溶解部3に、他端を生育槽17に接続してあり、この流路15の途中に加圧部1が設けてある。加圧部1は、例えば、生育槽17から水16を吸い上げて加圧溶解部3に圧送するポンプ18などで形成されるものである。また生育槽17は、魚介類35を生育する水槽や、植物36を水耕栽培する栽培槽などとして形成されるものであり、淡水あるいは海水からなる水16を貯水している。
【0026】
また流入側の流路15に酸素注入部2が接続してある。酸素注入部2は酸素を流路15に供給して注入するためのものであり、酸素を封入したボンベなどを流路15に接続して酸素注入部2を形成するようにしてある。空気中の酸素を供給して注入する場合には、一端を大気中に開放させた管体の他端を流路15に接続して酸素注入部2を形成し、空気を注入するようにしてもよい。流路15への酸素注入部2の接続位置は、加圧溶解部3より上流側の位置であればよく、図1のように加圧部1より上流側の流路15に接続するようにしても、あるいは加圧部1より下流側の流路15に接続するようにしてもいずれでもよい。
【0027】
一方、流出側の流路6は一端を加圧溶解部3に接続し、他端は生育槽17に接続してある。加圧溶解部3には余剰酸素排出部5が設けてある。余剰酸素排出部5は、例えば、一端を大気に開放した管体を、加圧溶解部3内の気圧が所定の圧力以上になると開口するガス抜き弁などを介して加圧溶解部3に接続することによって形成してある。またこの流路6には減圧部4が設けてあり、さらに減圧部4よりも水の流れの下流側に酸素濃度計によって形成される酸素濃度検出部37が設けてある。この酸素濃度検出部37は制御部38に電気的に接続してあり、さらに制御部38は加圧部1に電気的に接続してあり、制御部38によって加圧部1の作動を制御することができるようにしてある。この酸素濃度検出部37と制御部38によって酸素濃度検出制御部11が形成されるものである。
【0028】
上記のように形成される生物育成用水製造装置にあって、ポンプ18で形成される加圧部1を作動させると、生育槽17から水が吸い上げられ、流路15を通して加圧溶解部3に水が圧送して供給される。このように流路15内を水が流れる際に、酸素注入部2から酸素が流路15内に吸引されて水に酸素が注入される。そしてこのように酸素が注入された水を加圧部1で加圧溶解部3へ圧送して送り込むことによって、この圧送による押し込み力で加圧溶解部3内において水と酸素に圧力が加わって高圧になり、加圧溶解部3内で水と酸素が加圧されることによって、水に酸素を効率高く飽和量以上に溶解させることができ、水に酸素が高濃度で均一に溶解した酸素溶解水を得ることができるものである。
【0029】
このように加圧溶解部3内において水と酸素を加圧して強制的に効率良く溶解させ、高濃度で酸素が溶解した酸素溶解水を短時間で生成することができるため、加圧溶解部3内で生成された酸素溶解水を流路6を通して送り出しながら、加圧溶解部3内で水に酸素を溶解させるようにすることができるものである。従って、加圧溶解部3をタンクのような容積の大きなもので形成する必要がなくなるものであり、装置規模を小さくして装置のコストを低減することが可能になるものである。
【0030】
ここで、酸素注入部2から注入される酸素の全量が水に溶解しないと、加圧溶解部3内で水に溶解しない余剰酸素が生じるが、加圧溶解部3に余剰酸素排出部5を設け、酸素の溶解飽和量以上の溶解できない余剰酸素を加圧溶解部3から排出することによって、余剰酸素が残留することによる加圧溶解部3内の酸素と水の比率を安定させて圧力変動を防ぐことができ、酸素の溶解効率を高く維持することができるものである。
【0031】
そして、上記のように加圧溶解部3で生成された酸素溶解水は、流路6を通して送り出されるが、加圧溶解部3内で酸素溶解水は高圧に加圧された状態にあるので、そのまま大気圧下にある生育槽17に供給されると、急激な圧力低下によって、酸素溶解水中に気泡が発生するおそれがあり、酸素溶解量が減少し、またキャビテーションが発生することがある。このために本発明では、流路6に減圧部4を設け、加圧溶解部3内で加圧された状態の酸素溶解水を流路6を通して送り出す際に、減圧部4で大気圧まで気泡を発生させることなく減圧をした後に吐出するようにしてある。
【0032】
ここで、加圧溶解部3内で生成されるのと同じ濃度の酸素溶解水について、加圧溶解部3内で加圧されている圧力と同じ圧力から大気圧まで減圧する際に、気泡が発生しない減圧度を、予め計算や測定で求めておき、減圧部4をこの予め求めた減圧度で、酸素溶解水が流入側する側から流出側に向かって、酸素溶解水の圧力を段階的に、あるいは連続的に、徐々に大気圧まで減圧できるように設定してある。従って、加圧溶解部3内で加圧された酸素溶解水を、減圧部4において気泡が発生しない減圧度で徐々に大気圧まで減圧した後に、流路6の先端から吐出することによって、酸素溶解水に気泡が発生することなく酸素溶解水を吐出することができるものであり、加圧溶解部3で飽和量以上に酸素が溶解された酸素溶解水を、安定した高濃度の状態のまま送り出して利用することが可能になるものである。
【0033】
図2は、減圧部4の具体的な実施の形態の一例を示すものであり、加圧溶解部3に接続される流路6に、水の流れ方向に沿って複数の圧力調整弁7(7a,7b,7c)を設けることによって、減圧部4を形成するようにしてある。このように減圧部4を複数の圧力調整弁7を備えて形成することによって、気泡が発生しない減圧度で酸素溶解水の圧力を段階的に徐々に下げることができるものである。
【0034】
各圧力調整弁7a,7b,7cは、酸素溶解水に気泡発生が生じない減圧度で減圧するように設定されているものであり、この減圧度は予め計算や測定で求めた数値に設定されるものである。例えば、加圧溶解部3から流路6に送り出された酸素溶解水の加圧圧力が0.5MPaであるとき、気泡が発生しない減圧量が0.12MPaであると測定によって判明しているとすると、圧力調整弁7aで酸素溶解水の圧力を0.12MPa減圧して、0.38MPaに落とす。また酸素溶解水の加圧圧力が0.38MPaであるとき、気泡が発生しない減圧量が0.16MPaであると測定によって判明しているとすると、次の圧力調整弁7bで酸素溶解水の圧力を0.16MPa減圧して、0.22MPaに落とす。さらに酸素溶解水の加圧圧力が0.22MPaであるとき、気泡が発生しない減圧量が0.22MPa以上であると測定によって判明しているとすると、次の圧力調整弁7cで酸素溶解水の圧力を0.22MPa減圧して、加圧圧力を0MPaに落とし、大気圧まで減圧することができるものである。尚、圧力調整弁7による減圧量は、水温、酸素の溶解濃度、加圧溶解部3内の圧力、流路6の径などに応じて変動するものであり、装置毎に、計算や測定をして、適宜設定されるものである。
【0035】
図3は、減圧部4の具体的な実施の形態の他の一例を示すものであり、加圧溶解部3に接続される流路6を流路断面積が異なる複数の管体20a,20b,20cを備えて形成し、この流路断面積の異なる複数の管体20a,20b,20cで減圧部4が形成されるようにしてある。
【0036】
図3(a)の実施の形態では、流路断面積が異なる、つまり内径の異なる複数の管体20a,20b,20cを一体に連ねるようにしてあり、酸素溶解水の流れの上流側から下流側へと、徐々に管体20a,20b,20cの径が小さくなるようにしてある。また図3(b)の実施の形態では、内径の異なる複数の管体20a,20b,20cをレジューサ21を介して接続して連ねるようにしてあり、酸素溶解水の流れの上流側から下流側へと、徐々に管体20a,20b,20cの径が小さくなるようにしてある。さらに図3(c)の実施の形態では、酸素溶解水の流れの上流側から下流側へと連続的に径が小さくなる管体20a,20b,20cを一体に連ねるようにしてある。
【0037】
この図3のものにあって、各管体20a,20b,20cの内径はφd>φd>φdであるので、各管体20a,20b,20c内の酸素溶解水の流速はV<V<Vとなり、各管体20a,20b,20c内の酸素溶解水の圧力はP>P>Pとなる。従って、加圧溶解部3から送り出される酸素溶解水の圧力Pを気泡が発生しない減圧度で、図3(a)(b)のものでは段階的に減圧して、また図3(c)のものでは連続的に減圧して、Pの大気圧まで徐々に下げることができるものである。
【0038】
図4は、減圧部4の具体的な実施の形態の他の一例を示すものであり、加圧溶解部3に接続される流路6を通して酸素溶解水を排出する際に、流路6内を酸素溶解水が流れる際の圧力損失によって、酸素溶解水に気泡が発生しない減圧速度で酸素溶解水の圧力を徐々に連続的に低下させ、酸素溶解水の圧力を大気圧にまで低下させるようにしてある。従って図4(a)の実施の形態では、加圧溶解部3内での圧力がPの酸素溶解水を、流路6内を通過させる際にP〜Pn−1へと、酸素溶解水に気泡が発生しない減圧速度で徐々に連続的に圧力を低下させ(P>P>Pn−1)、流路6の終端では酸素溶解水の圧力Pが大気圧にまで低下するように、流路6の流路断面積と管路長さLを設定するようにしてあり、このような流路断面積と管路長さLを有する流路6によって減圧部4が形成されるものである。
【0039】
この管路長さLは、次の式から設定することができる。すなわち、
流体の関係式P=λ・(L/d)・(v/2g)
[Pは加圧溶解部3内の圧力、λは管摩擦係数、dは内径、vは流速、gは加速度]
から、L=(P・d・2g)/(λ・v)を導くことができ、この式から計算して流路6の管路長さLを求めることができるものである。このように、流路6の管路長さLを所定長さに形成するだけで減圧部4を形成することができるものであり、装置の構造をより簡単なものに形成することができるものである。このような管路長さLが長い流路6で形成される減圧部4は、例えば図4(b)のような長いホース4aで形成することができる。
【0040】
上記のように本発明では加圧部1によって水と酸素を加圧溶解部3に圧送し、この際の押し込み圧によって加圧溶解部3内で水と酸素を加圧して酸素を溶解させるようにしているが、この押し込み圧を受けて加圧溶解部3内に必要な圧力が発生するようにする必要がある。このように加圧部1からの押し込み圧を受ける圧力を確保するために、加圧溶解部3の流出側の流路6に絞り弁などの絞り部を設けることが考えられるが、このように絞り部を流路6に設けると、加圧溶解部3で生成された酸素溶解水を流路6に送り出して排出する際に、絞り部の前後で大きな圧力差が生じ、酸素溶解水が急激に減圧されることになり、酸素溶解水に気泡が発生するおそれがある。
【0041】
そこで図5の実施の形態では、流路6の圧力損失を利用して、流路6に絞り部を設ける必要なく、押し込み圧を受ける圧力を確保するようにしている。このとき、上記各実施形態の流路6の長さでは、流路6の圧力損失で押し込み圧を受ける圧力を確保することは難しいので、流路6の加圧溶解部3と反対側の端部に延長流路8を付加するようにしてある。すなわち、流路6の減圧部4も含めた全体の圧力損失を算出し、加圧部1からの押し込み圧によって加圧溶解部3内で水と酸素を加圧するのに必要な圧力と、この流路6の圧力損失との差を算出し、さらにこの差の圧力損失が生じる管路の長さを上記の式から算出して、この管路長さの延長流路8を流路6に付加するようにしてある。このように、流路6の圧力損失と延長流路8の圧力損失の和が、加圧部1で圧送される酸素と水の押し込み圧によって加圧溶解部3内で水と酸素を加圧するのに必要な圧力となるように、流路6に延長流路8を付加することによって、絞り弁などの絞り部を用いる必要なく、加圧部1からの押し込み圧で加圧溶解部3内の加圧力を確保して、水に酸素を溶解させることができるものである。
【0042】
図6は装置の具体的な一例を示すものであり、生育槽17から供給される水は流路15に導入口30から導入される。流路15には酸素が導入される酸素注入部2が接続してあり、酸素が注入された水はポンプで形成される加圧部1によって、小容量のタンクで形成される加圧溶解部3に圧送される。このように酸素が注入された水が加圧溶解部3に圧送されることによって、加圧溶解部3内で水に酸素が溶解された酸素溶解水が生成される。そしてこの酸素溶解水は加圧溶解部3から流路6に送り出され、流路6の先端の吐出口31から送り出されて生育槽17に返送される。この流路6には減圧部4が設けてあり、加圧溶解部3から送り出された酸素溶解水は大気圧まで減圧された後に吐出口31から吐出され、気泡が発生しない状態で酸素溶解水を送り出すことができる。図6の実施の形態では、減圧部4は、図3(a)の内径が異なる管体20a,20b,20cを連ねたもので形成してある。
【0043】
この装置にあって、ポンプで形成される加圧部1を連続運転することによって、酸素注入部2、加圧溶解部3を連続的に運転させて、減圧部4に酸素溶解水を連続的に供給するようにすることができるものであり、減圧部4の流出側である吐出口31から気泡の発生のない酸素溶解水を連続的に吐出させることができるものである。また、減圧部4は加圧溶解部3から酸素溶解水を送り出す流路6の一部として設けられており、そしてこの減圧部4は酸素溶解水の圧力を流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧するものであるため、減圧部4を例えば内径2〜50mm程度の比較的大きい流路として形成することができるものであり、異物が混入しても減圧部4内が詰まるようなことがないものである。さらにこのような構成の減圧部4を設けることによって、減圧部4を流れる酸素溶解水のレイノルズ数が臨界レイノルズ数(Re=2320)より小さなレイノズル数である層流状態だけではなく、臨界レイノルズ数より大きなレイノルズ数である乱流状態でも対応することが可能になるものである。さらに、減圧部4をこのように内径の大きな流路として形成することによって、酸素溶解水の供給量を多くすることができ、減圧部4を一つの流路のみで形成することが可能になるものであり、装置構成を簡単なものに形成することができるものである。
【0044】
また、上記のように減圧部4で圧力が減圧された酸素溶解水が流路6を通過する際に、酸素濃度検出部37によって酸素溶解水の溶存酸素濃度が測定されるようになっており、酸素濃度検出部37で測定された溶存酸素濃度のデータは制御部38に入力されるようになっている。制御部38はCPUやメモリー等を備えて形成されるものであり、酸素濃度検出部37から入力された溶存酸素濃度値に基づいて、加圧部1で圧送される水の圧力と加圧部1で圧送される水の流量の少なくとも一方を制御するようにしてある。すなわち、酸素濃度検出部37で測定される溶存酸素濃度が制御部38のメモリーに登録された値より小さいときには、制御部38で加圧部1の作動を制御して、圧送される水の圧力を高めたり、圧送される水の流量を少なくしたりすることによって、加圧溶解部3で溶解される酸素濃度を高め、また、酸素濃度検出部37で測定される溶存酸素濃度が制御部38のメモリーに登録された値より大きいときには、制御部38で加圧部1の作動を制御して、圧送される水の圧力を低くした、圧送される水の流量を多くしたりすることによって、加圧溶解部3で溶解される酸素濃度を低下させ、制御部38のメモリーに登録された酸素濃度の値に酸素溶解水の溶存酸素量を調整するものである。従って、用途に応じて酸素溶解水において必要とされる溶存酸素量は異なるが、必要な溶存酸素量のデータを制御部38のメモリーに登録しておくことによって、必要とされる溶存酸素濃度に調整しながら酸素溶解水を生成することができるものである。
【0045】
図7は、流量一定条件下で、加圧部4を制御して所定圧力において加圧溶解部3で生成した酸素溶解水を、減圧部4で気泡を発生させることなく大気圧にまで減圧したときの、酸素溶解水の酸素濃度と水温との関係を示すグラフである。流量が一定であれば、酸素濃度は水の温度に依存する相関関係があり、再現性もある。従って、必要とされる酸素濃度の酸素溶解水を得るには、水温を測定してその水温に応じて加圧部1による加圧を所要圧力に制御すれば、再現性高く所定濃度の酸素溶解水を得ることができるものである。例えば、20℃の水に対して、インバータ等を使って加圧部1のポンプ18の圧力特性を0.5MPaに設定し、この0.5MPaの加圧下で酸素を溶解させると、45mg/Lの酸素溶解濃度の酸素溶解水を得ることができるものであり、また0.3MPaの圧力に変更すると、27mg/Lの酸素溶解濃度の酸素溶解水を得ることができるものである。
【0046】
そして上記のように加圧部1で気泡を発生することなく大気圧にまで減圧された酸素溶解水は生物育成用水として、流路6の吐出口31から育成槽1内に返送されるものであり、生育槽17内の水16の溶存酸素濃度を高く維持することができ、植物36や魚介類35の活性を高めて育成を早めることができるものである。特に生育槽17を水槽として魚介類を飼育する際に、夏場等の水温上昇時には酸素不足を招き易いが、酸素が高濃度で溶解した酸素溶解水を供給することによって、酸素不足を解消して病気発生を防止したり、飼育密度を向上したりすることができるものである。
【0047】
ここで、本発明において得られる酸素溶解水は、微小気泡を吹き込んだようなものではなく、上記のように加圧部1による加圧によって加圧溶解部3で水に酸素を溶解させるようにしているために、酸素を均一に且つ高濃度に溶解させることができるものであり、しかもこの加圧状態の酸素溶解水の圧力を減圧部4で気泡が発生しないように大気圧まで減圧するようにしているため、酸素が均一に且つ高濃度に溶解したままの酸素溶解水を生物育成用水として供給することができるものであり、生物育成用水において高い溶存酸素濃度を長時間維持することができるものである。このため、生育槽17の植物36や魚介類35の育成を均一に早めることができるものである。また酸素溶解水に気泡が発生することがないように減圧部4で減圧しているため、酸素溶解水が気泡によって白く濁るようなことがないものであり、魚介類35の成育状態を観察することが容易になるものである。
【0048】
図8(a)は、上記のようにして製造された酸素溶解水を4℃の大気圧下に保存したときの、溶存酸素濃度(DO)と経過時間との関係を示すものであり、700時間を経過しても、30mg/L程度の高い溶存酸素濃度を維持していることがわかる。また図8(b)は、加圧溶解部3において淡水に0.5MPaの加圧状態で酸素を溶解し、酸素溶解水を減圧部4で大気圧にまで減圧したきの、水の水温と酸素濃度の関係を示すものであり、水が高温であっても30mg/L程度の高い酸素濃度を示すことがわかる。
【0049】
上記の図1の実施の形態では生育槽17内の水を吸引して加圧溶解部3で酸素溶解水を生成し、減圧部4で大気圧に減圧したこの酸素溶解水を飼育用水として生育槽17に返送することによって、循環させるようにしたが、図9の実施の形態では、水道配管19から貯水槽40に水16を供給して貯水し、この貯水槽40から水16を汲み上げて上記と同様にして加圧溶解部3で酸素溶解水を生成し、減圧部4で大気圧まで減圧したのちに、この酸素溶解水を育成用水として送り出すようにしてある。そしてこの実施の形態では、魚介類35や植物36を生育する生育槽17に酸素溶解水を育成用水として供給するようにしてあり、また植物36を植えた土壌41に酸素溶解水を育成用水として供給するようにしてある。このように土壌41に酸素溶解水を育成用水として供給すると、土壌の嫌気部分が減少して嫌気性病原菌の発生を防止することができ、病気発生を防ぐことができると共に、植物36の根からの酸素供給の増大によって、成長速度を向上することができるものである。
【0050】
図10の実施の形態では、上記のようにして製造された酸素溶解水をタンク42に貯水するようにしてある。この実施の形態では生簀43を設けたトラックなどの運搬車44にタンク42を搭載してあり、開閉弁45を介して供給配管46によって生簀43にタンク42が接続してある。そして生簀43に設けた酸素濃度計47によって生簀43内の水16の酸素濃度を測定し、酸素濃度が所定値より低下すると、開閉弁45が開き、タンク42に貯水された酸素溶解水が育成用水として生簀43に供給され、酸素溶解水に溶解した酸素が補給されるようになっている。また生簀43内の酸素濃度が所定値まで回復したことが酸素濃度計47で測定されると、開閉弁45が閉じて酸素溶解水の供給は停止されるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】同上の一部の一例を示す概略図である。
【図3】同上の一部の他の一例を示すものであり、(a)(b)(c)はそれぞれ概略図である。
【図4】同上の一部の他の一例を示すものであり、(a)は概略図、(b)は斜視図である。
【図5】同上の一部の他の一例を示す概略図である。
【図6】(a)(b)は本発明の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図7】酸素溶解水の酸素濃度と温度との関係を示すグラフである。
【図8】(a)は酸素溶解水の酸素濃度と経過時間との関係を示すグラフ、(b)は酸素溶解水の酸素濃度と温度との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1 加圧部
2 酸素注入部
3 加圧溶解部
4 減圧部
5 余剰酸素排出部
6 流路
7 圧力調整弁
8 延長流路
11 酸素濃度検出制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素溶解水を植物や魚介類を育成する生物育成用水として製造する装置であって、水を圧送する加圧部と、水に酸素を注入する酸素注入部と、酸素を注入された水が加圧部で圧送されることによる加圧で水に酸素を溶解させる加圧溶解部と、加圧溶解部で酸素を溶解させた酸素溶解水の圧力を、酸素溶解水の流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧する減圧部とを備え、加圧部、酸素注入部、加圧溶解部の各部を連続的に運転させて、減圧部に酸素溶解水を連続的に供給し、減圧部の流出側から気泡の発生のない酸素溶解水を連続的に吐出させるようにして成ることを特徴とする生物育成用水の製造装置。
【請求項2】
加圧溶解部で水に溶解しない余剰酸素を排出する余剰酸素排出部を備えて成ることを特徴とする請求項1に記載の生物育成用水の製造装置。
【請求項3】
減圧部を、加圧溶解部から酸素溶解水を送り出す流路に設けられ、酸素溶解水の圧力を大気圧にまで段階的に減圧する複数の圧力調整弁で構成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の生物育成用水の製造装置。
【請求項4】
減圧部を、流路断面積と流路長さの少なくとも一方の調整で酸素溶解水の圧力を大気圧にまで減圧するように形成された、加圧溶解部から酸素溶解水を送り出す流路で構成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の生物育成用水の製造装置。
【請求項5】
減圧部は、一つの流路で形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の生物育成用水の製造装置。
【請求項6】
加圧溶解部から酸素溶解水を送り出す流路の圧力損失とこの流路に付加した延長流路の圧力損失の和が、加圧部で圧送される水と酸素の押し込み圧によって加圧溶解部内で水と酸素を加圧するのに必要な圧力となるように、流路に延長流路を付加して成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の生物育成用水の製造装置。
【請求項7】
酸素溶解水の酸素溶解濃度を測定すると共に、測定結果に基づいて加圧部で圧送される水の圧力と加圧部で圧送される水の流量の少なくとも一方を制御する酸素濃度検出制御部を備えて成ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の生物育成用水の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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