説明

疾患の治療のための補体H因子の標的化

本発明は、CR2タンパク質もしくはその断片を含むCR2部分と、H因子タンパク質もしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子、ならびにCR2−FH分子を含む医薬的組成物を提供する。CR2−FH分子は、CR2リガンドに結合する能力があり、かつCR2−FH分子は、補体活性化副経路の補体活性化を抑制する能力がある。また、補体活性化副経路が関与する疾患(例えば、加齢黄斑変性症、関節リウマチ、および虚血再灌流障害)の治療のために前記組成物を使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
本願は、2006年6月21日に出願された米国仮特許出願第60/815,748号に対する優先権の利益を主張するものであって、米国仮特許出願第60/815,748号の内容は、その全体が参照として援用される。
【0002】
技術分野
本出願は、補体活性化副経路が関与する疾患を治療する組成物および方法に関する。具体的には、本出願は、CR2−FH分子に関し、かつ補体活性化副経路が関与する疾患を治療するためにその分子を使用する。
【0003】
連邦により後援された研究または開発に関する申告
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成(契約)第AI47469号、同第AI31105号、同第EY13520号のもと政府の支援によりなされた。
【背景技術】
【0004】
背景
補体とは一連の血中タンパク質の総称であり、かつ免疫系の主要なエフェクター機構である。補体は、多数の自己免疫疾患、炎症性疾患、および虚血性疾患の病態において重要な役割を果たし、かつ生体不適合性に関連する数多くの病状の原因でもある。不適切な補体活性化および宿主細胞上でのその沈着は、炎症の強力なメディエターが生成されるために標的構造体の補体により媒介される細胞溶解、ならびに組織破壊がもたらされる可能性がある。
【0005】
補体は、3つの経路(古典経路、レクチン経路、および補体活性化副経路)のうちの1つによって活性化され得る。古典経路は、補体系タンパク質C1qが抗原−抗体複合体、ペントラキシン、またはアポトーシス細胞に結合することを介して活性化される。ペントラキシンは、C反応タンパク質および血清アミロイドP成分を含む。レクチン経路は、マンノース結合クレチンを介して微生物サッカリドによって開始される。補体活性化副経路は中性電荷または正電荷の特性を有し、かつ補体抑制因子を発現しないもしくは含まない病原の表面で活性化される。これは、立体構造的に変化したC3とB因子との相互作用が関与して、自然に起こり、かつ病原体上または他の表面で活性C3bの固定化をもたらす「チックオーバー」と呼ばれるC3のプロセスに起因する。特定の抗体が内因性調節機構をブロックするとき、または補体調節タンパク質の発現が減少するとき、補体活性化副経路は、免疫複合体を含むIgAによって開始されることも可能である。さらに、古典経路またはレクチン経路を介して標的上に沈着されるC3bが次いで因子Bに結合するとき、補体活性化副経路は、「増幅ループ」と呼ばれる機構によって活性化される(特許文献1)。例えば、炎症細胞が最初の補体活性化の後に動員されるとき、補体活性化副経路は局所損傷の部位で増幅されることをHolersと共同研究者が示した(特許文献2)。補体活性化副経路を介しての著しい補体増幅は、次いで、補体を固定する損傷細胞の付加的な生成、もしくは補体活性化副経路成分の局所合成のいずれかに関与する機構を介して、または恐らく前もって作られるC3およびプロパージンを運ぶこれら浸潤性の炎症細胞が特異的にその部位で活性化を大きく増加させるために起こる。
【0006】
循環因子Bが活性化したC3に結合するとき、補体活性化副経路の活性化は開始される。この複合体は、次いで、循環因子Dによって切断され、酵素的に活性の断片C3bBbをもたらす。C3bBbは、C3を切断してC3bを生成する。C3bは炎症を促進し、また活性化プロセスをさらに増幅させ、ポジティブフィードバックループを生成する。H因子(FH)は、補体活性化副経路の主要な調節因子(抑制因子)である。H因子は、C3bに結合するための因子Bと競合することによって機能する。H因子へのC3bの結合は、また、因子IによるC3bの不活性型C3bi(iC3bとも呼ばれる)への分解をもたらし、このようにして補体活性化についてさらなる抑制を発揮する。H因子の実際の血漿濃度は、約500μg/mlであり、液相で補体調節をもたらす。しかし、細胞へのその結合は、負に帯電した表面の存在、ならびに固定されたC3b,C3bi、またはC3dによって増強される調節現象である(特許文献3)。
【0007】
補体活性化の下方調節は、動物モデルおよびex vivo研究(例えば、全身性エリテマトーデスおよび糸球体腎炎(特許文献4)、関節リウマチ(特許文献5)、心肺バイパスおよび血液透析(特許文献6)、臓器移植における超急性拒絶反応(特許文献7)、心筋梗塞(特許文献8;特許文献9)、再灌流障害(特許文献10)、ならびに成人呼吸促拍症症候群(特許文献11))においていくつかの疾患の徴候の治療に有効であることが示されている。さらに、他の炎症性状態および自己免疫−免疫複合体の疾患(熱傷、重症の喘息、アナフィラキシーショック、腸炎症、蕁麻疹、血管浮腫、血管炎、多発性硬化症、重症筋無力症、膜性増殖性糸球体腎炎、およびシェーグレン症候群を含む)も、補体活性化と密接に関連している(特許文献12)。補体抑制因子およびその用途は、また特許文献1および特許文献2に開示される。
【0008】
本明細書で参照するすべての刊行物、特許、特許出願、および公開された特許出願の開示を、それら全体を参考として本明細書に援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第04/045520号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,521,450号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Muller−Eberhard,1988,Ann.Rev.Biochem.57:321
【非特許文献2】Girardi et al.,J.Clin.Invest.2003,112:1644
【非特許文献3】Jozsi et al.,Histopathol(2004)19:251−258
【非特許文献4】Y.Wang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.;1996;93:8563−8568
【非特許文献5】Y.Wang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci, 1995;92:8955−8959
【非特許文献6】C.S.Rinder,J.Clin.Invest.,1995;96:1564−1572
【非特許文献7】T.J.Kroshus et al.,Transplantation,1995;60:1194−1202
【非特許文献8】J.W.Homeister et al.,J.Immunol,1993;150:1055−1064
【非特許文献9】H.F.Weisman et al.,Science,1990;249:146−151
【非特許文献10】E.A.Amsterdam et al.,Am.J.Physiol,1995;268:H448−H457
【非特許文献11】R.Rabinovici et al.,J.Immunol,1992;149:1744−1750
【非特許文献12】B.P.Morgan.,Eur.J.Clin.Invest.,1994:24:219−228
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様において本発明は、a)CR2またはその断片を含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を提供する。一部の実施形態では、a)CR2またはその断片を含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子が提供され、CR2−FH分子は、CR2リガンドに結合する能力があり、かつCR2−FH分子は、補体活性化副経路の補体活性化を抑制する能力がある。一部の実施形態では、単離されたCR2−FH分子が提供される。一部の実施形態では、CR2−FH分子を含む組成物(例えば、医薬組成物)が提供される。一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は、融合タンパク質の形で直接的に、または間接的に互いに融合する。一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は、化学架橋剤を介して結合される。一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は、非共有結合している。
【0012】
一部の実施形態では、a)CR2またはその断片を含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH融合タンパク質が提供される。一部の実施形態では、a)CR2またはその断片を含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子が提供され、CR2−FH分子はCR2リガンドに結合することが可能であり、かつCR2−FH分子は補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は、互いに直接的に融合する(すなわち、結合する)。一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は、アミノ酸リンカー配列を介して結合する。一部の実施形態では、CR2部分のC末端は、FH部分のN末端に(直接的にまたは間接的に)結合する。一部の実施形態では、CR2部分のN−末端は、FH部分のC−末端に(直接的にまたは間接的に)結合する。
【0013】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、2つ以上(例えば、2、3、4、5、またはそれ以上のいずれか)のCR2部分を含む。これらのCR2部分は、例えば、アミノ酸配列、構造、および/または機能に関して、同一または異なることがある。例えば、一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2またはその断片を含む2つ以上のCR2部分と、2)FHまたはその断片を含むFH部分とを有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2またはその断片を含む2つ以上のCR2部分と、2)FHまたはその断片を含むFH部分とを有し、CR2−FH分子はCR2リガンドに結合することが可能であり、かつCR2−FH分子は補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。
【0014】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、2つ以上(例えば、2、3、4、5、またはそれ以上のいずれか)のFH部分を含む。これらのFH部分は、例えば、アミノ酸配列、構造、および/または機能に関して、同一または異なることがある。例えば、一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2またはその断片を含むCR2部分と、2)FHまたはその断片を含む2つ以上のFH部分とを含む。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2またはその断片を含むCR2部分と、2)FHまたはその断片を含む2つ以上(例えば、2つ)のFH部分とを有し、CR2−FH分子はCR2リガンドに結合することが可能であり、かつCR2−FH分子は補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。
【0015】
一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2またはその断片を含む2つ以上のCR2部分と、2)FHまたはその断片を含む2つ以上のFH部分とを有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2またはその断片を含む2つ以上のCR2部分と、2)FHまたはその断片を含む2つ以上(例えば、2つ)のFH部分とを有し、CR2−FH分子はCR2リガンドに結合することが可能であり、かつCR2−FH分子は補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。
【0016】
一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)全長CR2と、2)FHまたはその断片を含むFH部分とを有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2の断片と、2)FHまたはその断片を含むFH部分とを有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2の少なくとも最初の2つのN末端のSCRドメインを含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1)CR2の少なくとも最初の4つのN末端のSCRドメインを含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子はCR2リガンドに結合することが可能であり、かつ補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は2つ以上のFH部分を含む。一部の実施形態では、FH部分は全長FHを含む。一部の実施形態では、FH部分はFH断片を含む。一部の実施形態では、FH部分は、FHの少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分は、FHの少なくとも最初の5つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分は、ヘパリン結合部位が欠如している。一部の実施形態では、FH部分は、加齢黄斑変性に対して防御的である多型性を有するFHまたはその断片を含む。
【0017】
一部の実施形態では、以下を有するCR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)が提供される:a)以下のいずれかである(および一部の実施形態では、以下からなる群から選択される)リガンド結合部位を含むCR2部分:(1)配列番号1に関してセグメントG98−G99−Y100−K101−I102−R103−G104−S105−T106−P107−Y108を含むCR2 SCRのB鎖およびB〜Cループ上の部位、(2)配列番号1に関してK119位置を含むCR2 SCR2のB鎖上の部位、(3)配列番号1に関してV149−F150−P151−L152を含むセグメント、および(4)配列番号1に関してT120−N121−F122を含むCR2 SCR2のセグメント;およびb)FHまたはその断片を含むFD部分。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、CR2リガンドに結合することが可能であり、かつ補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。一部の実施形態では、CR2部分は、リガンド結合部位の三次元構造を維持するために必要とされる複数の配列をさらに含む。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、2つ以上のFH部分を含む。一部の実施形態では、FH部分は全長FHを含む。一部の実施形態では、FH部分は、FHの断片を含む。一部の実施形態では、FH部分は、FHの少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分は、FHの少なくとも最初の5つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分は、ヘパリン結合部位が欠如している。一部の実施形態では、FH部分は、加齢黄斑変性に対して防御的である多型性を有するFHまたはその断片を含む。
【0018】
一部の実施形態では、a)CR2の少なくとも最初の2つのN末端SCRドメインを含むCR2部分と、b)FHの少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含むFH部分とを有するCR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)が提供される。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、CR2リガンドに結合することが可能であり、かつ補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。一部の実施形態では、CR2部分は、CR2の少なくとも最初の3、4、5、6、7、またはそれ以上のN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分は、FHの少なくとも最初の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、またはそれ以上のN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、a)CR2の最初の4つのN末端SCRドメインを含むCR2部分と、b)FHの最初の5つのN末端SCRドメインを含むFH部分とを有する(および一部の実施形態は、これらのみからなる、または実質的にこれらのみからなる)。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、a)CR2の最初の4つのN末端SCRドメインを含むCR2部分と、b)FHの最初の5つのN末端SCRドメインを含む2つ以上(例えば、2つ)のFH部分とを有する(および一部の実施形態は、これらのみからなる、または実質的にこれらのみからなる)。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、a)配列番号1のアミノ酸23〜271を含むCR2部分と、b)配列番号2のアミノ酸21〜320を含むFH部分とを有する(および一部の実施形態は、これらのみからなる、または実質的にこれらのみからなる)。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、a)配列番号1のアミノ酸23〜271を含むCR2部分と、b)配列番号2のアミノ酸21〜320を含む2つ以上(例えば、2つ)のFH部分とを有する(および一部の実施形態は、これらのみからなる、または実質的にこれらのみからなる)。
【0019】
一部の実施形態では、CR2−FHは、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかのアミノ酸配列を有する融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一であるアミノ酸配列を有する融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FHは、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかの少なくとも約、400、450、500、550またはそれ以上の近接するアミノ酸を含む融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの核酸配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの核酸配列と少なくとも約、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%からのいずれかで同一である核酸配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる融合タンパク質である。また、本明細書に包含されるのは、本明細書に記載するCR2−FH融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。例えば、一部の実施形態では、CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、FHもしくはその断片を含むFH部分とを有する融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが提供される。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、また、CR2−FH融合タンパク質をコードする配列の5’末端で作用可能に結合するシグナルペプチドをコードする配列を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、CR2部分とFH部分とを結びつけるために使用される。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかのアミノ酸配列を有するCR2−FH融合タンパク質をコードする。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3、配列番号22、および配列番号24のいずれかの核酸配列と少なくとも約、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%からのいずれかで同一であるアミノ酸配列を有するCR2−FH融合タンパク質をコードする。また、CR2−FH融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、前記ポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供され、および前記融合タンパク質を発現させる適切な条件下で前記宿主細胞を培養することと、前記宿主細胞培養物から前記融合タンパク質を回収することとを含むCR2−FH融合タンパク質を生成する方法が提供される。
【0020】
別の態様では、CR2−HF分子を含む医薬組成物および薬学的に許容される担体が提供される。一部の実施形態では、医薬組成物は、ヒトへの投与に適したCR2−FH分子と、薬学的に許容される担体とを含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、眼内注射に適したCR2−FH分子と、薬学的に許容される担体とを含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、眼への局所投与に適したCR2−FH分子と、薬学的に許容される担体とを含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、静脈内注射に適したCR2−FH分子と、薬学的に許容される担体とを含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、動脈(例えば、腎動脈)、肝臓、もしくは腎臓への注射に適したCR2−FH分子と、薬学的に許容される担体とを含む。
【0021】
一部の実施形態では、医薬組成物は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子(例えば、CR2融合タンパク質)ならびに薬学的に許容される担体から構成される。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、CR2リガンドに結合することが可能であり、補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。一部の実施形態では、医薬組成物は、a)CR2の少なくとも最初の2つのN末端SCRドメインを含むCR2部分と、b)FHの少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含むFH部分とを有するCR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)ならびに薬学的に許容される担体から構成される。一部の実施形態では、医薬組成物は、a)CR2の最初の4つのN末端SCRドメインを含むCR2部分と、b)FHの最初の5つのN末端SCRドメインを含むFH部分とを有する(および一部の実施形態では、これらのみからなる、または実質的にこれらのみからなる)CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)、ならびに薬学的に許容される担体から構成される。一部の実施形態では、医薬組成物は、a)配列番号1の23〜271のアミノ酸を含むCR2部分と、b)配列番号2の21〜320のアミノ酸を含むFH部分とを有する(および一部の実施形態では、これらのみからなる、または実質的にこれらのみからなる)CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)ならびに薬学的に許容される担体から構成される。一部の実施形態では、医薬組成物は、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一のアミノ酸配列を有するCR2−FH融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、眼への送達(例えば、眼内注射による、または眼への局所送達による)に適する。一部の実施形態では、医薬組成物は静脈注射に適する。一部の実施形態では、医薬組成物は、動脈(例えば、腎動脈)、肝臓、もしくは腎臓への注射に適する。一部の実施形態では、医薬組成物は、眼内投与、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、気管内投与、もしくは吸入に適する。
【0022】
別の態様では、本発明は、個体における補体活性化副経路に関与する疾患を治療する方法(本明細書に記載する組成物(例えば、医薬組成物)の有効量を前記個体に投与することを含む)を提供する。一部の実施形態では、方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分をと有するCR2−FH分子と含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。一部の実施形態では、方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含み、CR2−FH分子はCR2リガンドに結合することが可能であり、かつCR2−FH分子は補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。一部の実施形態では、治療される疾患は、局所炎症に関与する疾患である。一部の実施形態では、治療される疾患は、FH欠損(例えば、FHのレベルの低下、FH活性の低下、または野性型FHもしくは防御FHの欠如)と関連する疾患である。一部の実施形態では、治療される疾患は、FH欠損に関連する疾患ではない。一部の実施形態では、治療される疾患はドルーゼン関連疾患である。一部の実施形態では、治療される疾患は、古典的補体経路に関与しない。
【0023】
一部の実施形態では、個体における黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症(AMD))の治療方法が提供され、前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を前記個体に投与することを含む。一部の実施形態では、治療される疾患は、乾燥型AMDである。一部の実施形態では、治療される疾患は、湿潤型AMDである。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、静脈内投与によって投与される。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、眼内注射によって投与される。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、眼への局所投与によって(例えば、点眼剤の形態で)投与される。
【0024】
一部の実施形態では、AMDの1つまたは複数の態様は、本発明の方法によって治療される。例えば、一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、個体の眼におけるドルーゼンの形成を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、個体の眼における炎症を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、個体の光受容細胞の損失を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、個体の眼の視力または視野を改善する(例えば、損失を減少させる、進行を妨げる、またはブロックする)方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、血管新生(例えば、脈絡膜新生血管(CNV))を治療する方法が提供される。AMDの他の態様の治療も予測される。
【0025】
本明細書に記載する方法は、ある腎疾患の治療にも有用である。例えば、一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、膜性増殖性糸球体腎炎II型(MPGN II)を治療する方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、溶血性尿毒症候群(HUS)を治療する方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、ループス腎炎を治療する方法が提供される。
【0026】
一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、虚血再灌流障害(例えば、腎虚血再灌流障害および腸管虚血再灌流障害を含む)を治療する方法が提供される。
【0027】
また、臓器移植拒絶反応を治療する方法が提供される。例えば、一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、個体における急性血管拒絶反応(例えば、心臓移植の抗体介在性拒絶反応)の発症を遅らせる方法が提供される。
【0028】
一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、個体における臓器移植の生存を向上させる方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分、およびb)FHもしくはその断片を含むFH部分有するCR2−FH分子を含有する組成物を使用して個体に移植される臓器を灌流することを含む、個体における臓器移植の生存を向上させる方法が提供される。一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を臓器移植ドナーに投与することを含む、臓器移植ドナーの生存を向上させる方法が提供される。
【0029】
一部の実施形態では、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む、関節リウマチを治療する方法が提供される。
【0030】
本明細書に記載する方法にとって有用である単位剤形、キット、および製品も提供される。
【0031】
当然のことながら、本明細書に記載する種々の実施形態の特徴の1つ、一部、もしくはすべてを、本発明の他の実施形態を形成するために組み合わせることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、典型的なCR2−FH発現プラスミドおよびCR2−FHタンパク質の概略図を示す。CR2−FH発現プラスミドに関して、kはKozak配列をいい、5はCD5シグナルペプチドをいい、1はオプションのリンカーをいい、sは終止コドンおよびポリAシグナルをいう。CR2−FHタンパク質(シグナルペプチドを有するまたはなしの)に関しては、5はCD5シグナルペプチドをいい、1はオプションのリンカーをいう。
【図2】図2は、ヒトCR2のアミノ酸配列(配列番号1)およびヒトFHのアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図3】図3は、典型的なヒトCR2−FH融合タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)およびヒトCR2−FH融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列(配列番号4)を示す。
【図4】図4は、本明細書に記載するCR2−FH分子の典型的なアミノ酸配列(配列番号5〜6)を示す。「nnn」はオプションのリンカーを表す。
【図5】図5は、本明細書に記載するCR2−FH分子の典型的なアミノ酸配列(配列番号7〜8)を示す。「nnn」はオプションのリンカーを表す。
【図6】図6は、本明細書に記載するCR2−FH分子の典型的なアミノ酸配列(配列番号9〜10)を示す。「nnn」はオプションのリンカーを表す。
【図7】本明細書に記載するシグナルペプチドの典型的なアミノ酸配列(配列番号11、13、および25)およびシグナルペプチドをコードする典型的なポリヌクレオチド配列(配列番号12、14、および26)を示す。
【図8】図8は、マウスCR2のアミノ酸配列(配列番号15)およびマウスFHのアミノ酸配列(配列番号16)を示す。
【図9】図9は、典型的なマウスCR2−FH融合タンパク質のアミノ酸配列(配列番号17)、およびマウスCR2−FHに加えてシグナルペプチドをコードする典型的なポリヌクレオチド配列(配列番号18)を示す。
【図10】図10は、CR2NLFHFHの典型的なDNA配列(すなわち、CR2部分および2つのFH部分(リンカー配列なしで)を含むマウスCR2−FH融合タンパク質)(配列番号19)を示す。
【図11】図11は、CR2LFHFHの典型的なDNA配列(すなわち、リンカー配列を介して2つのFH部分に結合した1つのCR2部分を含むマウスCR2−FH融合タンパク質)(配列番号20)を示す。
【図12】図12Aは、マウスCR2−FH融合タンパク質(CR2−fH)および単独のH因子(fH)を使用するin vitroでのザイモサン補体アッセイで得たデータをグラフで示したものである。図12Bは、FHの最初の5つのSCRドメイン(FH15)およびCR2の最初の4つのドメイン(CR2)を使用するin vitroでのザイモサン補体アッセイで得たデータをグラフで示したものである。
【図13】図13は、リンカーを有するマウスCR2−FH融合タンパク質(CR2LFH)、リンカーなしでのCR2−FH融合タンパク質(CR2NLFH)、リンカーを有するCR2−FH−FH(CR2LFHFH)、およびCR2−Crryを使用するin vitroでのザイモサン補体アッセイで得たデータをグラフで示したものである。
【図14】図14Aおよび図14Bは、1つのFH部分(CR2−fH)または2つのFH部分(CR2−fHH)を有するマウスCR2−FH融合タンパク質を使用する腸管虚血再灌流障害の動物モデルで得たデータをグラフで示したものである。
【図15】図15Aは、血清尿素窒素(SUN)で測定した腎臓機能に対するCR2−fHの効果をグラフで示したものである。図15Bは、腎臓形態に対するCR2−fHの効果をグラフで示したものである。図15Cおよび図15Dは、マウスC3に対する抗体に結合したFTICを使用してインキュベートした対照マウス(15C)の腎臓切片およびCR2−fH処置マウス(15D)の腎臓切片の免疫蛍光染色の結果を示す。
【図16】図16は、CR2−fHを使用してまたは使用せずに処置したマウスにおけるa波およびb波の網膜反応の結果を示す。
【図17】図17Aおよび図17Bは、対照マウス(17A)および静脈注射によってCR2−fHで処置したマウス(17B)に由来するマウス網膜病変部のイソレクチンB染色を示す。図17Cは、図17Aおよび図17Bのイソレクチン−b染色に基づく病変部の大きさの定量化を示す。
【図18】図18Aおよび図18Bは、対照マウス(18A)および眼内注射によるCR2−fHで処置したマウス(18B)に由来する病変マウス網膜のイソレクチン−b染色を示す。図18Cは、図18Aおよび図18Bのイソレクチン−b染色に基づく病変部の大きさの定量化を示す。
【図19】図19は、CR2−fHの単回投与(CR2−fH)、CR2−fHの複数回投与(CR2−fH(m))、および対照緩衝液(PBS)で処置した心臓移植レシピエントマウスの生存曲線を示す。
【図20】図20は、典型的なヒトCR2−FH融合タンパク質(ヒトCR2−fHもしくはCR2fHと名付けられた)のアミノ酸配列(配列番号21)およびヒトCR2−fHに加えてシグナルペプチドをコードする典型的なポリヌクレオチド配列(配列番号22)を示す。シグナルペプチドをコードする配列を下線で示す。
【図21】図21は、2つのFH部分を含むヒトCR2−FH融合タンパク質(ヒトCR2−FH2またはヒトCR2fH2と名付けられた)の典型的なアミノ酸配列(配列番号23)およびヒトCR2−FH2に加えてシグナルペプチドをコードする典型的なポリヌクレオチド(配列番号24)を示す。シグナルペプチドをコードする配列は下線で示す。
【図22】図22Aは、ザイモサン粒子上のC3b沈着に特異的な補体活性化副経路上でのヒトCR2fHおよびCR2fH2の抑制を示す。図22Bは、ヒトCR2fHおよびヒトCR2fH2による補体活性化副経路が関与する赤血球溶解の抑制を示す。
【図23】図23は、コラーゲン−坑コラーゲン抗体の免疫複合体により誘導されるC3活性化に対するマウスCR2−FHの効果を示す。Y軸はOD平均値を示す。
【図24】図24は、C4−/C4−ノックアウトマウス由来の血清を使用しての十分なカルシウムを含む緩衝液中のマウスCR2−FHの滴定を示す。Y軸はOD平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、CR2−FH分子、CR2−FH分子を含む組成物(例えば、医薬組成物)を提供し、かつ補体活性化副経路が関与する疾患を前記組成物を投与することによって治療する方法を提供する。CR2−FH分子は、CR2部分とFH部分とを含む。CR2部分はCR2−FH分子を補体活性化の部位に標的送達することに関与し、FH部分は補体活性化副経路の補体活性化を特異的に抑制することに関与する。CR2−FH分子(具体的には、CR2タンパク質の最初の4つのN末端SCRドメインと、H因子タンパク質の最初の5つのN末端SCRドメインとを含むCR2−FH融合タンパク質)がin vitroでのターゲティング活性および補体抑制活性の両方を有することを予備研究は示している。この分子は、CR2部分が欠如しているH因子分子よりも著しく有効であり、補体活性化部位へのFHを標的にすることが、補体活性化副経路が関与する黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症)等の疾患に有効な治療手段であることを示唆している。血漿中のFHの比較的高い濃度のため、および血漿と直接接触する細胞はすでに完全にFHで覆われていると長年信じられてきたのでこの観察は驚くべきことである。Jozsi et al., Histopathol (2004)19:251−258。
【0034】
従って、1つの態様では、a)CR2またはその断片を含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子が提供される。一部の実施形態では、単離されたCR2−FH分子が提供される。一部の実施形態では、CR2−FH分子を含む組成物(例えば、医薬組成物)が提供される。例えば、一部の実施形態では、CR2−FH分子および個体への全身的な投与(例えば、静脈注射)または局所投与(例えば、眼内注射または腎動脈を含む動脈への注入)に適した薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。
【0035】
別の態様では、個体において補体活性化副経路が関する疾患を治療する方法が提供され、その方法は、a)CR2またはその断片を含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。本発明の方法によって治療可能である適切な疾患としては、以下が含まれる:例えば、黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症)、関節リウマチ、虚血再灌流障害、臓器移植拒絶反応、および腎疾患(例えば、MPGN II、HUS、およびループス腎炎)。
【0036】
また、本明細書に記載する方法に有用である単位剤形、キット、および製品が提供される。
【0037】
「(1つまたは複数の)組成物」の一般的な言及は、本発明の組成物を包含し、かつ本発明の組成物に適用できる。
【0038】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、特に明記しない限り複数形の言及を含む。例えば、単数形のFH部分は、1つまたは複数のFH部分を含む。
【0039】
本明細書において、値またはパラメータに前置する「約」の言及は、その値またはパラメータそれ自体に向けられる実施形態を含む(および記述する)。例えば、「約X」を言及する記述は、「X」の記述を含む。
【0040】
当然のことながら、本明細書に記載する発明の態様および実施形態は、態様および実施形態「のみからなる」および/または「実質的にのみからなる」を含む。
【0041】

CR2−FH分子、およびCR2−FH分子を含む組成物
本明細書で提供されるのは、CR2−FH分子およびCR2−FH分子を含む組成物(例えば、医薬組成物)である。
【0042】
本明細書で使用される「CR2−FH分子」は、CR2またはその断片(「CR2部分」)およびFHまたはその断片(「FH部分」)を含む非天然の分子をいう。CR2部分は、CR2の1つまたは複数の天然リガンと結合することが可能であり、従って補体活性化の部位へのCR2−FH分子の標的送達に関与する。FH部分は、補体活性化副経路の補体活性化を特異的に抑制することに関与する。CR2−FH分子のCR2部分とFH部分は、これら2つの部分の所望の機能性が維持される限り、当該技術分野で公知の任意の方法によって結合することが可能である。
【0043】
本明細書に記載するCR2−FH分子は、このように通常、CR2リガンドに結合する機能および補体活性化副経路の補体活性化を抑制する機能の2つを有する。「CR2リガンド」は、天然のCR2タンパク質に結合するいかなる分子を言及し、以下が含まれるがこれらに限定されない:C3d、iC3b、C3dg、C3d、およびCR2の2つのN末端SCRドメインに結合するC3bの細胞結合断片。CR2−FH分子は、例えば、CR2タンパク質の約、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%のいずれかである結合親和性でCR2リガンドに結合することが可能である。結合親和性は、当該技術分野で公知の任意の方法(例えば、表面プラズモン共鳴法、滴定熱量測定法、ELISA法、およびフローサイトメトリーを含む)によって決定可能である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、CR2の以下の特性から1つまたは複数を有する:(1)C3dへの結合、(2)iC3bへの結合、(3)C3dgへの結合、(4)C3dへの結合、および(5)CR2の2つのN末端SCRドメインに結合するC3bの細胞結合断片への結合。
【0044】
本明細書に記載するCR2−FH分子は、通常、補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である。CR2−FH分子は、天然のFHタンパク質よりもさらに強力な補体抑制剤であり得る。例えば、一部の実施形態では、CR2−FH分子は、FHタンパク質の補体抑制活性の約、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍、25倍、30倍、40倍、またはそれ以上のいずれかである補体抑制活性を有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、約、100nM未満、90nM未満、80nM未満、70nM未満、60nM未満、50nM未満、40nM未満、30nM未満、20nM未満、または10nM未満のいずれかのEC50を有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、約5〜60nM(例えば、8〜50nM、8〜20nM、10〜40nM、および20〜30nMのいずれかを含む)のEC50を有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、FHタンパク質の補体抑制活性の約、50%、60%、70%、80%、90%、または100%のいずれかである補体抑制活性を有する。
【0045】
補体抑制は、当該技術分野で公知の任意の方法(例えば、ザイモサンin vitroアッセイ、赤血球溶解アッセイ、免疫複合体活性化アッセイ、およびマンナン活性化アッセイ)に基づいて評価可能である。一部の実施形態では、CR2−FHは、FHの以下の特性から1つまたは複数を有する:(1)C反応性タンパク質(CRP)への結合、(2)C3bへの結合、(3)ヘパリンへの結合、(4)シアル酸への結合、(5)内皮細胞表面への結合、(6)細胞インテグリン受容体への結合、(7)病原体への結合、(8)C3b補助因子活性、(9)C3b崩壊促進活性、および(10)補体活性化副経路の抑制。
【0046】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は融合タンパク質である。本明細書で使用する「融合タンパク質」は、互いに作用可能に結合した2つ以上のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を言及する。一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は互いに直接的に融合する。一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は、アミノ酸リンカー配列によって結合する。リンカー配列の例は当該技術分野で公知であり、例えば、以下が含まれる:(GlySer)、(GlySer)、(GlySer)、(GlySer)、(SerGly)、(SerGly、(SerGly、および(SerGly。リンカー配列は、補体因子の様々なドメイン間で見出される「天然の」リンカー配列も含むことが可能である。例えば、ヒトCR2の最初の2つのN末端ショートコンセンサスリピートドメイン間のリンカー配列であるVSVFPLEが使用可能である。一部の実施形態では、ヒトCR2(EEIF)の第4と第5のN末端ショートコンセンサスリピートドメイン間のリンカー配列が使用される。融合タンパク質内のCR2部分およびFH部分の順序は、異なることがある。例えば、一部の実施形態では、CR2部分のC末端は、CR2−FH分子のFH部分のN末端に(直接的または間接的に)融合される。一部の実施形態では、CR2部分のN末端は、CR2−FH分子のFH部分のC末端に(直接的または間接的に)融合される。
【0047】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかのアミノ酸配列を有するCR2−FH融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を有する融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかの少なくとも約400、450、500、550、またはそれ以上の近接するアミノ酸を含む。
【0048】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号5〜10のいずれかのアミノ酸配列を有するCR2−FH融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号5〜10のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、または約99%同一であるアミノ酸配列を有する融合タンパク質である。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号5〜10のいずれかの少なくとも約400、約450、約500、約550、またはそれ以上の近接するアミノ酸を含む。
【0049】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの核酸配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの核酸配列と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である核酸配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる。
【0050】
一部の実施形態では、CR2−FHは、化学架橋剤を介して結合するCR2部分およびFH部分を含む。これら2つの部分の結合は、これらの2つの部分の上に位置する反応基上で発生することが可能である。架橋剤を使用して標的とされることが可能な反応基としては、以下が含まれる:一級アミン、スルフヒドリル、カルボニル、糖質、およびカルボン酸、またはタンパク質に付加可能な活性基。化学リンカーの例は当該技術分野で公知であり、以下が含まれるがこれらに限定されない:ビスマレイミドヘキサン、マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、NHS−エステル−マレイミド架橋剤(例えば、SPDP)、カルボジイミド、グルタルアルデヒド、MBS、スルホ−MBS、SMPB、スルホ−SMPB、GMBS、スルホ−GMBS、EMCS、スルホ−EMCS、イミドエステル架橋剤(例えば、DMA、DMP、DMS、DTBP、EDC、およびDTME)。
【0051】
一部の実施形態では、CR2部分およびFH部分は、非共有結合している。例えば、これら2つの部分は、それぞれCR2部分またはFH部分に結合される2つの相互作用する架橋タンパク質(例えば、ビオチンおよびストレプトアビジン)によって結合可能である。
【0052】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、本明細書に記載する2つ以上の(同一もしくは異なる)CR2部分を含む。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、本明細書に記載する2つ以上の(同一もしくは異なる)FH部分を含む。これらの2つ以上のCR2(またはFH)部分は、互いにタンデムに結合される(例えば、融合される)ことが可能である。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1つのCR2部分と、2つ以上(例えば、3、4、5、またはそれ以上)のFH部分とを含む。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、1つのFH部分と、2つ以上(例えば、3、4、5、またはそれ以上)のCR2部分とを含む。一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、2つ以上のCR2部分と、2つ以上のFH部分とを含む。
【0053】
一部の実施形態では、単離されたCR2−FH分子が提供される。一部の実施形態では、CR2−FH分子は、ニ量体または多量体を形成する。
【0054】
CR2−FH分子中のCR2部分およびFH部分は、同じ種(例えば、ヒトまたはマウス)、または異なる種に由来することが可能である。
【0055】

CR2部分
本明細書に記載するCR2部分は、CR2またはその断片を含む。CR2は、主に成熟したB細胞上および濾胞樹状細胞上で発現する膜貫通タンパク質である。CR2は、C3結合タンパク質ファミリーの一員である。CR2に対する天然リガンドとしては、例えば、iC3b、C3dg、およびC3d、ならびにCR2の2つのN末端SCRドメインに結合するC3bの細胞結合分解断片が含まれる。C3の切断は、最初にC3bの生成をもたらし、次いで活性化細胞表面へのこのC3bの共有結合をもたらす。C3b断片は、補体カスケードを増幅する酵素複合体の生成に関与する。細胞表面でC3bは、特に、補体活性化の調節因子を含む宿主表面(すなわち大部分の宿主組織)に沈着すると、急速に不活性iC3bに変わる。膜に結合した補体調節因子の非存在下でさえ、かなりのレベルのiC3bが形成される。iC3bは続いて消化され、膜結合断片C3dgが生じ、次いで血清プロテアーゼによってC3dが生じるが、このプロセスは比較的ゆっくりと行われる。このように、CR2に対するC3リガンドは、一旦産生されると比較的寿命が長く、補体活性化の部位で高濃度下でも存在する。従ってCR2は、補体活性化の部位に分子を架橋するための強力な標的化ベヒクルとして役立つことが可能である。
【0056】
CR2は、ショートコンセンサスリピート(SCRドメイン)として知られている15あるいは16の反復単位を有する細胞外部分を含む。SCRドメインは、4つのシステイン、2つのプロリン、1つのトリプロトファン、およびいくつかの他の部分的に保存されたグリシンと疎水性残基を含む高度保存残基からなる典型的なフレームワークを有する。配列番号1は、全長のヒトCR2タンパク質配列を表す。1〜20のアミノ酸はリーダーペプチドを含み、23〜82のアミノ酸はSCR1を含み、91〜146のアミノ酸は、SCR2を含み、154〜210のアミノ酸は、SCR3を含み、215〜271のアミノ酸はSCR4を含む。活性部位(C3d結合部位)は、SCR1〜2(最初の2つのN末端SCRドメイン)に位置する。これらのSCRドメインは、スペーサーとして役立つ種々の長さの短い配列によって分離される。全長のマウスCR2タンパク質配列は、本明細書では配列番号15で表す。マウスCR2タンパク質のSCR1とSCR2のドメインは、配列番号15の14〜73の位置(SCR1)で、並びに配列番号15の82〜138の位置(SCR2)でマウスCR2アミノ酸配列によって位置する。ヒトおよびマウスのCR2は、配列番号1および配列番号15で表した全長アミノ酸配列全体にわたり約66%同一であり、配列番号1および配列番号15のSCR1〜SCR2領域にわたり約61%同一である。マウスおよびヒトの両CR2は、C3(C3d領域で)に結合する。当然のことながら、種および株のバリエーションは、開示したペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質に対して存在し、本明細書に記載するCR2またはその断片は、種および株のすべてのバリエーションを包含する。
【0057】
本明細書で開示するCR2部分は、CR2タンパク質のリガンド結合部位の一部またはすべてを含むポリペプチドをいい、以下が含まれるがこれらに限定されない:全長CR2タンパク質(例えば、配列番号1に示すヒトCR2、または配列番号15に示すマウスCR2)、可溶性CR2タンパク質(例えば、CR2の細胞外ドメインを含むCR2断片)、CR2の他の生物活性断片、SCR1およびSCR2を含むCR2断片、または以下に詳細に記述するように天然のCR2の任意の相同体もしくはその断片。一部の実施形態では、CR2部分は、以下の特性の1つまたはCR2を有する:(1)C3dへの結合、(2)iC3bへの結合、(3)C3dgへの結合、(4)C3dへの結合、および(5)CR2の2つのN末端SCRドメインに結合するC3bの細胞結合断片(1つまたは複数)への結合。
【0058】
一部の実施形態では、CR2部分は、CR2の最初の2つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、CR2部分は、CR2の最初の3つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、CR2部分は、CR2の最初の4つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、CR2部分は、CR2の少なくとも最初の2つのN末端SCRドメイン(例えば、CR2の少なくとも最初の3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16のSCRドメインからのいずれかを含む)を含む(および一部の実施形態では、これらのみからなる、または実質的これらのみからなる)。
【0059】
CR2タンパク質の相同体またはその断片は、少なくとも1つまたは数個のアミノ酸が除去され(例えば、ペプチドまたは断片等のタンパク質の切断型)、挿入され、転化され、置換され、および/または誘導体化(例えば、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン化、アミド化、および/またはグリコシルホスファチジルイノシトール付加によって)されている点において、天然のCR2(またはCR2断片)とは異なるタンパク質を含む。一部の実施形態では、CR2相同体は、天然のCR2のアミノ酸配列(例えば、配列番号1または配列番号15)に少なくとも約70%同一である(例えば、天然のCR2のアミノ酸配列(例えば、配列番号1または配列番号15)に少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一である)アミノ酸配列を有する。CR2相同体またはその断片は、好ましくは、CR2の天然リガンドに結合する能力(例えば、CR2結合能力を有するC3dまたは他のC3断片)を保持する。例えば、CR2相同体(またはその断片)は、C3dに対して結合親和性を有することが可能であり、それはCR2(またはその断片)の結合親和性の少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%である。
【0060】
一部の実施形態では、CR2部分は、ヒトCR2(例えば、ヒトCR2(配列番号1)の少なくとも23〜146のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有するCR2部分)の少なくとも最初の2つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、CR2部分は、例えば、ヒトCR2(配列番号1)の23〜146のアミノ酸と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一であるアミノ酸配列を有するヒトCR2の少なくとも最初の2つのN末端SCRドメインを含む。
【0061】
一部の実施形態では、ヒトCR2(例えば、ヒトCR2(配列番号1)の23〜271アミノ酸を少なくとも含むアミノ酸配列を有するCR2部分)の少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、CR2部分は、ヒトCR2(配列番号1)の23〜271のアミノ酸と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一であるアミノ酸配列を有するヒトCR2の少なくとも最初の4つのSCRドメインを含む。
【0062】
参照配列(例えば、配列番号1)と例えば、少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列とは、前記アミノ酸配列が前記参照配列の各100アミノ酸当たり最高5ポイントまでの変化を含み得ることを除いて前記参照配列と同一であることを意味する。これらの最高5ポイントまでの変化は、欠失、置換、付加であり得、参照配列のアミノ酸の中で個々に分散して、または参照配列内の1つもしくは複数の連続する基に分散して、配列のどこでも発生する可能性がある。
【0063】
一部の実施形態では、CR2部分は、CR2タンパク質のリガンド結合部位の一部または全体を含む。一部の実施形態では、CR2部分は、リガンド結合部位の3次元構造を維持するのに必要な配列をさらに含む。CR2のリガンド結合部位は、CR2の結晶構造(例えば、米国特許出願公開第2004/0005538号に開示されるヒトおよびマウスのCR2結晶構造)に基づいて容易に決定可能である。例えば、一部の実施形態では、CR2部分は、CR2のSCR2のB鎖およびB〜Cループを含む。一部の実施形態では、CR2部分は、配列番号1に関してセグメントG98−G99−Y100−K101−I102−R103−G104−S105−T106−P107−Y108から構成されるCR2のSCRのB鎖上およびB〜Cループ上の部位を含む。一部の実施形態では、CR2部分は、配列番号1に関して位置K119を含むCR2のSCR2のB鎖上の部位を含む。一部の実施形態では、配列番号1に関してV149−F150−P151−L152から構成されるセグメントを含む。一部の実施形態では、配列番号1に関してT120−Nl21−F122から構成されるCR2のSCR2のセグメントを含む。一部の実施例では、CR2−FH分子は、これらの部位のうちの2つ以上を有する。例えば、一部の実施形態では、配列番号1に関してG98−G99−Y100−K101−I102−R103−G104−S105−T106−P107−Y108およびK119から構成される部分を含む。これらの部位の他の組み合わせも十分考えられる。
【0064】

H因子部分
本明細書に記載するCR2−FH分子のFH部分は、FHまたはその断片を含む。
【0065】
補体H因子(FH)は、ポリペプチド単鎖血漿糖タンパク質である。このタンパク質は、約60のアミノ酸からなる20の反復SCRドメイで構成され、一連の20のビーズ様に連続的に配置される。H因子は、C3bに結合し、補体活性化副経路C3転換酵素(C3Bb)の崩壊を容易にし、かつC3bのタンパク質分解性不活性化の補助因子として作用する。H因子の存在下で、C3bタンパク質分解はC3bの切断をもたらす。H因子は、C3bに対して少なくとも3つの異なる結合ドメインを有し、それらはSCR1〜4内、SCR5〜8内、およびSCR19〜20内に位置する。H因子の各部位は、C3bタンパク質内の異なる領域に結合する。すなわちN末端部位は未変性のC3bに結合し、H因子の中間の領域に位置する第2の部位はC3c断片に結合し、SCR19および20内に位置する部位はC3d領域に結合する。さらに、H因子は、H因子のSCR7内、SCR5〜12内、およびSCR20内に位置しC3b結合部位のそれと重なるヘパリン結合部位も含む。構造解析および機能解析によって、FHの補体抑制活性のドメインが最初の4つのN末端SCRドメイン内に位置することが示された。
【0066】
配列番号2は、全長のヒトFHタンパク質配列を表す。アミノ酸1〜18はリーダーペプチドに相当し、アミノ酸21〜80はSCR1に相当し、アミノ酸85〜141はSCR2に相当し、アミノ酸146〜205はSCR3に相当し、アミノ酸210から262はSCR4に相当し、アミノ酸267〜320はSCR5に相当する。全長のマウスFHタンパク質配列は、本明細書では配列番号16で表す。マウスFHタンパク質のSCR1とSCR2のドメインは、配列番号16の21〜27の位置(SCR1)で、および配列番号16の82〜138の位置(SCR2)でマウスFHアミノ酸配列によって位置する。ヒトFHおよびマウスFHは、配列番号2および配列番号16で表される全長アミノ酸配列全体にわたり約61%同一である。当然のことながら、種および株のバリエーションは、開示するペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質に対して存在し、かつFHまたはその断片は、種および株のすべてのバリエーションを包含する。
【0067】
本明細書に記載するFH部分は、FHタンパク質の補体抑制活性の一部またはすべてを有するFHタンパク質の任意の部分をいい、以下が含まれるがこれらに限定されない:全長FHタンパク質、FHタンパク質の生物活性断片、SCR1〜4を含むFH断片、または以下に詳細に記述するように天然のFHの相同体またはその断片。一部の実施形態では、FH部分は以下の特性のうちの1つまたは複数を有する:(1)C反応性タンパク質(CRP)への結合、(2)C3bへの結合、(3)ヘパリンへの結合、(4)シアル酸への結合、(5)内皮細胞表面への結合、(6)細胞インテグリン受容体への結合、(7)病原体への結合、(8)C3b補助因子活性、(9)C3b崩壊促進因子活性、および(10)補体活性化副経路の抑制。
【0068】
一部の実施形態では、FH部分は、FHの最初の4つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、コンストラクトはFHの最初の5つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、コンストラクトはFHの最初の6つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分はFHの少なくとも最初の4つのN末端SCRドメイン(例えば、FHの少なくとも最初の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、またはそれ以上からのいずれかのN末端SCRドメインを含む)を含む(および一部の実施形態では、これらのみからなる、または実質的にこれらのみからなる)。
【0069】
一部の実施形態では、FHは野性型のFHである。一部の実施形態では、FHはFHの保護変異型である。
【0070】
一部の実施形態では、FH部分はヘパリン結合部位が欠如している。これは、例えば、FH上のヘパリン結合部位の変異によって、またはヘパリン結合部位を含まないFH断片を選択することによって達成できる。一部の実施形態では、FH部分は、加齢黄斑変性症に対して防御的である多型性を有するFHまたはその断片を含む。Hageman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102(20):7227。このような配列を含むCR2−FH分子の一例を、図4(配列番号6)に示す。
【0071】
FHタンパク質の相同体またはその断片は、少なくとも1つまたは数個(1つまたは数個に限定されないが)のアミノ酸が除去され(例えば、ペプチドまたは断片等のタンパク質の切断型)、挿入され、転化され、置換され、および/または誘導体化(例えば、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン化、アミド化、および/またはグリコシルホスファチジルイノシトール付加によって)されている点において、天然のFH(またはFH断片)とは異なるタンパク質を含む。例えば、FH相同体は、天然のFHのアミノ酸配列(例えば、配列番号2または配列番号16)に少なくとも約70%同一である(例えば、天然のFHのアミノ酸配列(例えば、配列番号2または配列番号16)に少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一である)アミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、FHの相同体(またはその断片)は、FH(またはその断片)の補体抑制活性のすべてを保持する。一部の実施形態では、FHの相同体(またはその断片)は、FH(またはその断片)の補体抑制活性の少なくとも約50%(例えば、少なくとも約、60%、70%、80%、90%、または95%のいずれか)を保持する。
【0072】
一部の実施形態では、FH部分は、ヒトFH(例えば、ヒトFH(配列番号2)の少なくとも21〜262のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有するFH部分)の少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分は、ヒトFH(配列番号2)の21〜262のアミノ酸と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のいずれかで同一であるアミノ酸配列を有するヒトFHの少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含む。
【0073】
一部の実施形態では、FH部分は、ヒトFH(例えば、ヒトFH(配列番号2)の少なくとも21〜320のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有するFH部分)の少なくとも最初の5つのN末端SCRドメインを含む。一部の実施形態では、FH部分は、ヒトFH(配列番号2)の21〜320のアミノ酸と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のいずれかで同一であるアミノ酸配列を有するヒトFHの少なくとも最初の5つのN末端SCRドメインを含む。
【0074】
一部の実施形態では、H因子遺伝子の選択的にスプライシングされた転写物によってコードされたタンパク質であるH因子様1分子(FHL−1)の全長または断片を含む。成熟FHL−1は431のアミノ酸を含む。最初の427のアミノ酸は、7つのSCRドメインを組織化し、かつFHのN末端SCRドメインと同一である。C末端の残存する4つのアミノ酸残基、Ser−Phe−Thr−Leu(SFTL)、はFHL−1に特異的である。FHL−1は機能的に特徴づけられており、H因子補体調節活性を有することが示された。用語「FH部分」は、また、H因子関連分子の全長または断片を包含し、FHR1、FHR2、FHR3、FHR4、FHR5の遺伝子によってコードされるタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。これらのH因子関連タンパク質は、例えば、de Cordoba et al., Molecular Immunology 2004, 41:355−367に開示されている。
【0075】

CR2−FH分子の異型
CR2−FH分子の異型(例えば、CR2−FH融合タンパク質)も包含される。本明細書に記載するCR2−FH分子の異型は以下のようである:(i)CR2部分および/またはFH部分の1つまたは複数のアミノ酸残基が保存アミノ酸または非保存アミノ酸の残基(好ましくは保存アミノ酸残基)と置換されたもので、かつこのような置換されたアミノ酸残基は、遺伝子暗号によってコードされたものである可能性がある、または可能性がない、または(ii)CR2部分および/またはFH部分の1つまたは複数のアミノ酸残基が置換基を含むもの、または(iii)CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)が別の化合物(例えば、CR2−FH分子(例えば、ポリエチレングリコール)の半減期を増大させる化合物)と融合するもの、または(iv)付加的アミノ酸がCR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)に融合するもの、例えば、リーダー配列もしくは分泌配列またはCR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)の精製に使用される配列、あるいは(v)CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)が大きなポリペプチド(例えば、ヒトアルブミン、抗体、またはFc)に長期の効果持続期間の間、融合するもの。このような異型は、本明細書の教示から当業者の範囲内であると見なされる。
【0076】
一部の実施形態では、CR2−FH分子の異型は、1つまたは複数の予想される、好ましくは非必須アミノ酸残基でなされる保存アミノ酸置換(さらに以下に明示する)を含む。「非必須」アミノ酸残基は、生物活性を変化させることなくタンパク質の野生型配列から変化することが可能な残基であり、一方「必須」アミノ酸残基は、生物活性に必要とされる残基である。「保存アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似した側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられるものである。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で定義されている。これらのファミリーとしては以下が含まれる:塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)。
【0077】
CR2−FH分子のCR2部分またはFH部分におけるアミノ酸置換は、前記分子の官能性を改善するために導入可能である。例えば、CR2部分のそのリガンドへの結合親和性の増大のため、CR2部分のそのリガンドへの結合特異性の増大のため、所望の部位へのCR2−FH分子の標的化の改善のため、CR2−FH分子の二量体化または多量体化の改善のため、およびCR2−FH分子の薬物動態の改善のために、アミノ酸置換はCR2−FH分子のCR2部分に導入可能である。同様に、CR2−FH部分の官能性の増大のためおよびCR2−FH分子の薬物動態の改善のために、アミノ酸置換はCR2−FH分子のFH部分に導入可能である。
【0078】
一部の実施形態では、CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、別の化合物(例えば、ポリペプチドの半減期を増大させおよび/またはポリペプチド(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))の潜在的免疫原性を減少させる化合物)と融合する。水溶性、大きさ、腎臓クリアランスの遅速性、および免疫原性低下をCR2−FH融合タンパク質に与えるために、PEGは使用可能である。米国特許第6,214,966号を参照されたい。PEG化の場合、PEGへのCR2−FH分子の融合(例えば、CR2−FH融合タンパク質)は、当業者に公知の任意の方法によって達成可能である。例えば、PEG化は、最初にシステイン変異体をCR2−FH融合タンパク質に導入し、続いてPEG−マレイミドによる部位特異的誘導体化によって達成可能である。システインは、CR2−FH融合タンパク質のC末端に付加可能である。例えば(Tsutsumi et al.(2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(15):8548−8553)を参照されたい。CR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)に行うことが可能な別の修飾は、ビオチン化を含む。場合によっては、ストレプトアビジンとの反応を容易にするためにCR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)をビオチン化させることは有用であり得る。タンパク質のビオチン化の方法は、当該技術分野では周知である。さらに、コンドロイチン硫酸はCR2−FH分子(例えば、CR2−FH融合タンパク質)と結合可能である。
【0079】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、CR2−FH分子の標的効率をさらに高める別の標的分子または標的部分に融合する。例えば、血管の内皮細胞に結合するか、さもなければ付着する能力を有するリガンド(例えば、アミノ酸配列)に、CR2−FH分子は融合することが可能である(「血管内皮標的アミノ酸リガンド」と呼ばれる)。典型的な血管内皮標的アミノ酸リガンドとしては、以下が含まれるがこれらに限定されない:VEGF、FGF、インテグリン、フィブロネクチン、I−CAM、PDGF、または血管内皮細胞の表面で発現する分子に対する抗体。
【0080】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、細胞接着分子のリガントに結合される(例えば、融合する)。例えば、CR2−FH分子は、細胞接着分子に結合する1つまたは複数の糖鎖に結合可能である。糖鎖は、損傷部位へのCR2−FH分子の局在性を容易にする。糖鎖は、細胞外現象(例えば、化学的付着または酵素的付着)の方法によってCR2−FH分子に付着可能であり、または適切な酵素の発現によって達成される細胞内プロセシング現象の結果であり得る。一部の実施形態では、糖鎖は、インテグリンまたはセレクチン(E−セレクチン、L−セレクチン、またはP−セレクチンを含む)等の特定の種類の接着分子に結合する。一部の実施形態では、糖鎖はN結合糖質(例えば、フコシル化糖質およびシアル化糖質を含む複合型)を含む。一部の実施形態では、糖鎖はルイスX抗原(例えば、シアル化ルイスX抗原)に関連する。
【0081】
AMD等の眼疾患の治療のために、CR2−FHは、ドルーゼンのネオエピトープを認識する抗体に結合される(例えば、融合する)ことが可能である。小さい標的ペプチド等の他の標的分子も使用することが可能である。CR2−FH分子の他の修飾としては、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロック基による誘導体化等が含まれる。
【0082】
CR2−FH分子は、ポリペプチドの標的化または精製を容易にするために、免疫学的に活性のドメイン(例えば、抗体エピトープまたは他のタグ)の付加を含むことが可能である。タグとして6×HisおよびグルタチオンS転移酵素(GST)の使用は、周知である。融合接合部でまたはその近辺での切断部位の包含は、精製後に外来ポリペプチドの除去を容易にする。CR2−FH分子に含まれ得る他のアミノ酸配列は、機能ドメイン(例えば、加水分解酵素等の酵素からの活性部位)、グリコシル化ドメイン、および細胞標的シグナルがある。
【0083】
CR2−FH分子の異型は(例えば、CR2−FH融合タンパク質)、CR2−FH分子のアミノ酸配列に十分に類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。用語「十分に類似した」は、第1および第2のアミノ酸配列が共通の構造ドメインおよび/または共通の機能活性を有するように、第2のアミノ酸配列に関して同一のまたは同等のアミノ酸残基を十分にまたは最小数で含む第1のアミノ酸配列を意味する。例えば、少なくとも約45%、好ましくは約75%〜98%同一である共通の構造ドメインを含むアミノ酸配列は、十分に類似すると本明細書では定義される。異型は、ストリンジェントな条件下で本発明のポリヌクレオチドまたはその補体とハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされる融合タンパク質の異型を含む。このような異型は、通常、本発明の融合タンパク質の機能活性を保持する。ポリヌクレオチドの断片のライブラリーは、スクリーニングおよびそれに続く選択のための断片の変化に富んだ集団を生成するために使用可能である。例えば、大体1分子当たり1回だけニッキングが起こる条件下でヌクレアーゼを使用してポリヌクレオチドの二本鎖PCR断片を処置し、前記二本鎖DNAを変性させ、異なるニック産物由来のセンス/アンチセンス対を含むことが可能な二本鎖DNAを形成するために前記DNAを復元し、S1ヌクレアーゼでの処置によって再編成した二本鎖から一本鎖部分を取り除き、結果として生じる断片ライブラリーを発現ベクターの中に結紮することによって断片のライブラリーは、生成可能である。この方法によって、本発明の融合タンパク質の種々の大きさのN末端および内部の断片をコードする発現ライブラリーを得ることが可能となる。
【0084】
異型は、変異原性が原因するアミノ酸配列が異なる融合タンパクク質がある。さらに、CR2−FH分子(例えば、融合タンパク質)の生物学的に同等な類似体も、CR2部分および/またはFH部分の残基または配列に対して種々の置換を行うことによって構築可能である。
【0085】
一部の実施形態では、CR2−FH分子、特にCR2−FH融合タンパク質は、そのN末端でシグナルペプチドを融合する。このようなシグナルペプチドは、CR2−FH分子の分泌に有用である。適切なシグナルペプチドとしては、例えば、CD5タンパク質(例えば、ヒトCD5タンパク質のシグナルペプチドMPMGSLQPLATLYLLGMLVAS、配列番号11)のシグナルペプチドが含まれる。一部の実施形態では、CR2タンパク質のシグナルペプチドが使用される。例えば、一部の実施形態では、ヒトCR2タンパク質のシグナルペプチド(MGAAGLLGVFLALVAPG、配列番号13またはMGAAGLLGVFLALVAPGVLG、配列番号25)が使用される。
【0086】

CR2−FH分子の調製
本明細書に記載するCR2−FH分子(またはCR2−FH分子の2つの部分)は、化学合成法によって、またはCR2部分をコードするポリヌクレオチドとFH部分(リンカー配列を有するもしくは前記配列がない)をコードするポリヌクレオチドとを結合し、結果として生じるポリヌクレオチド分子を、前記分子を発現することが可能な宿主細胞をトランスフェクトするためのベクターに導入することによって行われることが可能である。化学合成、特に固相合成は、短いペプチドのためにまたは非天然アミノ酸もしくは異常アミノ酸(例えば、D−Tyr、オルニチン等)を含むペプチドのために好まれる。組換え方法は、長いポリペプチドのために好まれる。CR2−FH分子は、タンパク質精製法によってin vitroで単離可能である。CR2−FH分子は、遺伝子治療系を目的の組織に導入し、次いでCR2−FH融合を発現させることによって“in situ”で提供可能でもある。
【0087】
CR2−FH融合タンパク質を生成するための組換えDNA法は、簡単に言えば、
CR2−FHをコードするポリヌクレオチドを採取すること、それを適切なベクターに挿入すること、そのベクターを適切な宿主細胞に挿入すること、およびそれによって生成される融合タンパク質を回収するまたは単離することを含む。
【0088】
本明細書で提供するのは、CR2−FH分子(すなわち、CR2−FH融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドである。このようなポリヌクレオチドは、CR2−FHの送達および発現のためにも使用されることがある。例えば、一部の実施形態では、CR2またはその断片を含むCR2部分と、FHまたはその断片を含むFH部分とを有する融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが提供される。一部の実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、また、CR2−FH融合タンパク質をコードする配列の5’末端で作用可能に結合されるシグナルペプチドをコードする配列を含む。シグナルペプチドの典型的なヌクレオチド配列は、図7(配列番号12、14、および25)に示す。一部の実施形態では、CR2部分とFH部分とを結合するためにリンカー配列が使用される。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3のアミノ酸配列を有するCR2−FH融合タンパク質をコードする。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3、配列番号21、および配列番号23のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一であるアミノ酸を有するCR2−FH融合タンパク質をコードする。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの少なくとも約400、450、500、550、またはそれ以上のいずれかの近接するヌクレオチドを含むCR2−FH分子をコードする。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの配列を含む。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの核酸配列と少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれかで同一である配列を含む。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4、配列番号22、および配列番号24のいずれかの少なくとも約1200、1300、1400、1500、1600、またはそれ以上のいずれかの近接するヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドは、前記融合タンパク質を培地に分泌するための分泌シグナル配列をコードする配列をさらに含む。分泌シグナル配列をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、CD5のシグナル配列をコードするポリヌクレオチドまたはCR2のシグナル配列をコードするポリヌクレオチド配列が含まれる。
【0089】
本明細書に記載するCR2−FH融合タンパク質の発現のためのポリヌクレオチドを含む発現ベクターも提供される。発現ベクターは、in vitroまたはin vivoでのCR2−FH融合タンパク質の発現を導くために使用可能である。発現ベクターは、ベクターの従来の機能を確立するための任意の要素(例えば、プロモーター、ターミネーター、選択マーカー、および複製開始点)を含むことも可能である。プロモーターは恒常的または調節的であり得、並びに例えば、ガラクトキナーゼ(GAL1)、ウリジリルトランスフェラーゼ(GAL7)、エピメラーゼ(GAL10)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GPD)、アルコール脱水素酵素(ADH)等の遺伝子のプロモーターから選択される。
【0090】
当業者にとって数多くの発現ベクターが公知である。例えば、大腸菌(E.coli)は、pBR322(大腸菌(E.coli)種に由来するプラスミド)を使用して形質転換され得る(Mandel et al., J. Mol. Biol.,53:154(1970))。プラスミドpBR322は、アンピシリン抵抗性およびテトラサイクリン抵抗性の遺伝子を含み、従って容易な選択方法を提供する。他のベクターは、様々なプロモーター等の様々な特徴を含み、それらは発現の際に重要であることが多い。例えば、プラスミドpKK223−3(Pharmacia Fine Chemicals, Uppsala, Sweden)、pKK233−2(Clontech, Palo Alto, Calif., USA)、およびpGEM1(Promega Biotech, Madison, Wis., USA)のすべては市販されている。本発明で使用することが可能な他のベクターとしては、以下が含まれるがこれらに限定されない:pET21a(Studier et al., Methods Enzymol., 185:60−89(1990))、pR1T5およびpR1T2T(Pharmacia Biotechnology)、ならびにpB0475(Cunningham et al., Science, 243:1330−1336(1989);米国特許第5,580,723号)。哺乳類発現ベクターは、非転写要素(例えば、複製開始点、プロモーター、およびエンハンサー)、ならびに5’または3’の非翻訳配列(例えば、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、受容体部位とスプライス供与部位、および転写終結配列)を含むことが可能である。哺乳類発現ベクターで使用するプロモーターは、通常、例えば、ウイルスプロモーター(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス、HTLV、サルウイルス40(SV40)、およびヒトサイトメガロウイルス(CMV))である。ベクターは、上記ベクターの関連のある形質を組み合わせることによる標準的技法を使用して構築されることも可能である。
【0091】
CR2−FH融合タンパク質を発現させるための宿主細胞(例えば、単離細胞、一過性細胞系、および安定細胞系)も提供される。宿主細胞は、原核生物または真核生物であり得る。典型的な原核生物宿主細胞としては、以下が含まれる:大腸菌(E.coli)K12株294(ATCC第31446号)、大腸菌(E.coli)B、大腸菌(E.coli)X1776(ATCC第31537号)、大腸菌(E.coli)W3110(F−、γ−、原栄養性/ATCC第27325号)、桿菌(例えば、枯草菌)、および他の腸内細菌科(例えば、ネズミチフス菌または霊菌)、ならびに種々のシュードモナス種。1つの適した原核生物宿主細胞は大腸菌(E.coli)BL21(Stratagene)である。これは、OmpTプロテアーゼおよびLonプロテアーゼが欠損しており、インタクトな組換えタンパク質の単離を妨げる可能性があり、かつT7プロモーター駆動ベクター(例えば、pETベクター)と共に有用である。別の適した原核生物は、大腸菌(E.coli)W3110(ATCC第27325号)である。原核生物によって発現されるとき、ペプチドは、一般的にN末端メチオニンまたはホルミルメチオニンを含み、かつグリコシル化されない。融合タンパク質の場合、N末端メチオニンまたはホルミルメチオニンは、前記融合タンパク質のアミノ末端上または前記融合タンパク質のシグナル配列上に存在する。これらの例は、もちろん、限定するよりはむしろ例示であることを目的とする。
【0092】
原核生物に加えて、真核微生物(例えば、糸状菌または酵母)は、ベクターをコードする融合タンパク質の適切なクローニングまたは発現宿主である。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)は、一般に使用される下等真核宿主微生物である。その他としては、以下が含まれる:分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)(Beach and Nurse, Nature, 290:140(1981)、1985年5月2日公開の欧州特許第139,383号);クリベロミセス宿主(米国特許第4,943,529号、Fleer et al., Bio/Technology, 9:968−975(1991))、例えば、K.ラクティス(MW98−8C, CBS683, CBS4574;Louvencourt et al., J. Bacteriol., 154(2):737−742(1983))、K.フラジリス(ATCC第12,424号)、K.ブルガリクス(ATCC第16,045号)、K.ウィケラミ(ATCC第24,178号)、K.ワルチイ(ATCC第56,500)、K.ドロソフィラルム(ATCC第36,906号、Van den Berg et al., Bio/Technology, 8:135(1990))、K.テモトレランス、およびK.マルキシアナス;ヤロウィア(欧州特許第402,226号);ピキアパストリス(欧州特許第183,070号、Sreekrishna et al., J. Basic Microbiol., 28:265−278(1988));カンジダ;トリコデルマリーセイ(欧州特許第244,234号);アカパンカビ(Case et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:5259−5263(1979));シュワニオミセス、例えば、シュワニオマイセスオクシデンタリス(1990年10月31日公開の欧州特許第394,538号);および糸状菌、例えば、アカパンカビ、アオカビ類、トリポクラジウム(1991年1月10日公開の国際公開第91/00357号)およびアスペルギルス宿主、例えば、A.ニデュランス(Ballance et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 112:284−289(1983);Tilburn et al., Gene, 26:205−221(1983);Yelton et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:1470−1474(1984))、およびクロコウジカビ(Kelly and Hynes, EMBO J., 4:475−479(1985))。メチロトローフ酵母は本発明で適しており、以下が含まれるがこれらに限定されない:ハンゼヌラ、カンジダ、クロエケラ、ピキア、サッカロミセス、トルロプシス、およびロドトルラからなる属から選択されるメタノール上で増殖可能な酵母。酵母の典型的なこの種類である特定の種の一覧表は、C. Anthony, The Biochemistry of Methylotrophs, 269(1982)に見出すことが可能である。宿主細胞としては、また、昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ(Drosophila)S2およびヨトウガ(Spodoptera)Sf9)、ならびに植物細胞が含まれる。
【0093】
有用な哺乳類宿主細胞系の例としては、以下が含まれるがこれらに限定されない:HeLaチャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS−7、L細胞、C127、3T3、BHK、CHL−1、NSO、HEK293、WI38、BHK、C127、またはMDCKの細胞系。別の典型的な哺乳類細胞系はCHL−1である。CHL−1が使用されるとき、真核生物選択マーカーとしてハイグロマイシンが含まれる。CHL−1細胞は、RPMI7032メラノーマ細胞、すなわち容易に入手可能なヒト細胞系に由来する。本発明での使用に適した細胞は、ATCCから市販されている。
【0094】
一部の実施形態では、宿主細胞は非ヒト宿主細胞である。一部の実施形態では、宿主細胞はCHO細胞である。一部の実施形態では、宿主細胞は293細胞である。
【0095】
CR2−FH分子は、当該技術分野で公知の種々の方法によって単離可能である。一部の実施形態では、CR2−FH分子が増殖培地に分泌される融合タンパク質であるとき、前記CR2−FH分子はその培地から直接精製可能である。前記融合タンパク質が分泌されない場合、細胞溶解物から単離される。細胞破壊は、凍結−融解サイクル、超音波処理、機械的破壊、または細胞溶解剤の使用を含む任意の従来の方法によって行うことが可能である。CR2−FH分子は、種々の方法によって得られることが可能である。これらの方法としては、以下が含まれるがこれらに限定されない:免疫親和性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、およびHPLC。例えば、CR2−FH分子は、CR2部分を認識する抗体、もしくはFH部分を認識する抗体、または両方を使用して、免疫親和性クロマトグラフィーによって精製可能である。一部の実施形態では、CR2の最初の2つのN末端SCRドメインを認識する抗体がCR2−FH分子を精製するために使用される。一部の実施形態では、CR2−FH分子はイオン交換クロマトグラフィーによって精製される。
【0096】
融合タンパク質として発現されるとき、ペプチドは、適切に折り畳まれかどうか分らない。これらの因子は、前記融合タンパク質が変性され、かつ再び折り畳まれなくてはならないかどうかを決定する。もしその必要がある場合、これらの方法が切断の前後に使用されるかどうかを決定する。変性および再折り畳みが必要なとき、一般的に前記ペプチドは、カオトロープ(例えば、グアニジンHCI)で処置され、次いで、前記ペプチドがその天然構造に再度折り畳まれるように、例えば、還元および酸化ジチオスレイトールまたは還元および酸化グルタチオンを適切な割合、pH、および温度で含有するレドックス緩衝液で処理される。
【0097】
本明細書に記載するCR2−FH分子は、また、精製のためのタグ(例えば、切断可能なタグ)を含むことも可能である。このタグは、CR2部分またはFH部部分のC末端またはN末端に融合でき、かつタンパク質精製を容易にするために使用されることができる。
【0098】
一部の実施形態では、CR2−FH分子は、当該技術分野で周知の化学方法を使用して全体的または部分的に新たに合成可能である。例えば、構成アミノ酸配列は、固相法によって合成され、樹脂から切断され、分取高速液体クロマトグラフィーによって精製され、続いて化学結合によって所望のポリペプチドが形成される。この合成ペプチド組成物は、アミノ酸分析または塩基配列決定法によって確認可能である。
【0099】
CR2−FH分子は、in vitroアッセイまたはin vivoアッセイを使用して、それらの所望の特性をアッセイされることができる。例えば、CR2リガンドへのCR2−FHの結合は、表面プラズモン共鳴法によって決定可能である。一例として、C3dg−ビオチンとのCR2−FHの相互作用に関する動態解析は、BIAcore3000機器(Biacore AB, Uppsala, Sweden)で行われる表面プラズモン共鳴(SPR)測定を使用して実行可能である。BIAcoreストレプトアビジンセンサチップの1つのフローセル表面上にC3dg−ビオチンを注入することによって、ヒトC3dg−ビオチンは前記センサチップの表面に結合可能となる。結合は、CR2−FH濃度の範囲にわたって評価可能である。CR2−FH分子のリガンドとの結合は、一定時間(例えば、120秒)の間モニタリング可能であり、その後前記複合体は緩衝液の存在下でさらに一定の時間(例えば、120秒)の間だけ解離させておく。CR2融合タンパク質断片のC3dg−固定化フローセルへの結合は、フローセルを制御するために結合を補正できる。結合データは、BIAevaluationソフトウェアバージョン3.1(BIAcore)を使用して1:1Langmuir結合モデルに適合させて、最良適合を評価できる。得られる動態学的な解離プロファイルを使用して、オン/オフ速度(kaおよびkd)を算出し、BIAevaluationソフトウェアバ−ジョン3.1を使用して親和性定数(KD)を算出可能である。リガンド結合のための他のアッセイ法は当該技術分野で公知であり、使用することも可能である。
【0100】
in vitroザイモサン補体アッセイを使用して、CR2−FH分子の補体抑制活性を決定可能である。Mg−EGTA中の血清によるウサギ赤血球の溶解は、利用できる別の活性尺度である。シアル酸を除去させたヒトMg−EGTAまたはヒツジ赤血球の溶解は、さらなる活性尺度を提供する。
【0101】

医薬組成物
また、本発明ではCR2−FH分子および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、本明細書に記載する種々の投与モード(例えば、全身投与または局所投与を含む)に適していることがある。前記医薬組成物は、点眼剤、注射剤の形態、または吸入投与(経口的もしくは経鼻的のいずれかで)または経口投与に適した形態であり得る。本明細書に記載する医薬組成物は、単一単位投与形態または多投与形態でパッケージ可能である。
【0102】
一部の実施形態では、前記医薬組成物は、ヒトへの投与に適したCR2−FHおよび薬学的に許容される担体を含む。一部の実施形態では、前記医薬組成物は、眼内注射に適したCR2−FHおよび薬学的に許容される担体を含む。一部の実施形態では、前記医薬組成物は、眼への局所投与に適したCR2−FHおよび薬学的に許容される担体を含む。一部の実施形態では、前記医薬組成物は、静脈注射に適したCR2−FH分子および薬学的に許容される担体を含む。一部の実施形態では、前記医薬組成物は、動脈(例えば、腎動脈)への注射に適したCR2−FH分子および薬学的に許容される担体を含む。
【0103】
医薬組成物は、通常、無菌の組成物、実質的に等張の組成物として調剤されており、かつ米国食品医薬品局の医薬品の製造管理および品質管理基準(GMP)のすべての規則に完全に従っている。一部の実施形態では、医薬組成物は、病原体が取り除かれている。注射の場合、医薬組成物は、溶液(例えば、ハンク溶液またはリンガー溶液等の生理的適合緩衝液)の形態であり得る。さらに、CR2−FH医薬組成物は、固体の形状であり得、かつ使用直前に再溶解させるか懸濁させることが可能である。凍結乾燥組成物も含まれる。
【0104】
経口投与の場合、医薬組成物は、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、結晶セルロース、またはリン酸水素カルシウム)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の薬学的に許容される賦形剤を使用する従来の方法によって調製される錠剤またはカプセル剤の形態をとることが可能である。経口投与用の液体製剤は、例えば、液剤、シロップ剤、もしくは懸濁液剤の形態をとることが可能であり、またはそれらの製剤は、使用前に水もしくは他の適切な溶媒を使用する構成の乾燥製品として提供可能である。このような液体製剤は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂)、乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア)、非水溶性溶媒(例えば、アチオンド油(ationd oil)、油性エステル、エチルアルコール、または分取した植物性油)、および防腐剤(例えば、メチル−もしくはプロピル−p−ヒドロキシ安息香酸またはソルビン酸)等の薬学的に許容される添加剤を使用する従来の方法によって調製可能である。前記製剤は、必要に応じて、緩衝塩、香料添加剤、着色剤、および甘味剤も含むことが可能である。
【0105】
一部実施例で本発明は、眼への投与に適するCR2−FH分子および薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。このような医薬担体は、石油起源、動物起源、植物起源、もしくは合成起源のもの(例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油等)を含む水および油等の無菌液であり得る。生理食塩水と水性デキストロース、ポリエチレングリコール(PEG)とグリセロール溶液は、液体担体(特に注射剤用)として使用可能である。適切な医薬賦形剤としては、以下が含まれる:デンプン、グルコース、ラクトース、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、ナトリウム状態、グリセロールモノステアレート、グリセロール、プロピレン、水等。必要に応じて、前記医薬組成物は、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含むことが可能である。CR2−FH分子および前記医薬組成物の他の成分は、前記分子の徐放性を提供するためにポリマーまたはフィブリン糊に内包可能である。これらの組成物は、液剤、懸濁液剤、乳剤、軟膏、ジェル剤、または他の固体もしくは半固体の組成物等の形態をとることも可能である。前記組成物は、一般に4.5〜8.0の範囲のpHを有する。前記組成物は、また、眼および眼組織の眼房水に適合する浸透値を有するように製剤化されなければならない。このような浸透値は、通常、水1kg当たり約200〜約400ミリオスモル(「mOsm/kg」)の範囲であるが、好ましくは約300mOsm/kgである。
【0106】
一部の実施形態では、組成物は、静脈内、腹腔内、または硝子体内への注射に適応する医薬組成物として通常の方法に従って製剤化される。一般的に、注射用組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、前記組成物は、注射の部位での疼痛を軽減させるために可溶性薬剤および局所麻酔剤(例えば、リグノカイン)を含むことも可能である。通常、その成分は、個別にもしくは混合して単位剤形で(例えば、活性薬剤の量を表示した密閉容器(例えば、アンプルまたは小袋)に入った凍結乾燥粉末もしくは無水濃縮物として)のいずれかで供給される。前記組成物が点滴によって投与される場合、無菌の製薬等級純水または生理食塩水を含む点滴ボトルで投薬可能である。前記組成物が注射によって投与される場合、注射用無菌水または生理食塩水のアンプルは、投与前に成分が混合されるように提供可能である。
【0107】
前記組成物は、例えば、防腐剤、緩衝剤、等張化剤、坑酸化剤と安定剤、非イオン性湿潤剤または清澄剤、粘度増強剤等の付加成分をさらに含むことも可能である。
【0108】
溶液での使用に適した防腐剤としては、以下が含まれる:ポリクオタニウム−1、塩化ベンザルコニウム、チメロサール、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、エデト酸二ナトリウム、ソルビン酸、塩化ベンゼトニウム等。通常(必ずしもではないが)、このような防腐剤は、0.001重量%〜1.0重量%のレベルで使用される。
【0109】
適切な緩衝剤としては、pHを約pH6〜pH8で、好ましくは約pH7〜pH7.5で維持するために以下の十分な量が含まれる:ホウ酸、重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウム、ホウ酸ナトリウムおよびホウ酸カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム、酢酸ナトリウム並びに重リン酸ナトリウム等。
【0110】
適切な等張化剤は、点眼剤の塩化ナトリウム等価物が0.9±0.2%の範囲であるようなデキストラン40、デキストラン70、ブドウ糖、グリセリン、塩化カリウム、プロピレングリコール、塩化ナトリウム等である。
【0111】
適切な坑酸化剤および安定剤としては、以下が含まれる:亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ尿素等。適切な湿潤剤および清澄剤としては、以下が含まれる:ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロクサマー282、およびチロキサポール。適切な粘度増強剤としては、以下が含まれる:デキストラン40、デキストラン70、ゼラチン、グリセリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ワセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等。
【0112】
単一の水性液の粘度よりも高い粘度を有する局所組成物を提供するために粘度増強剤の使用は、標的組織による活性化合物の眼内吸収を増加させるために、または眼内の保持時間を増加させるために望ましいこともある。このような粘度増強剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、または当業者にとって公知の他の薬剤が含まれる。このような薬剤は、通常、0.01重量%〜2重量%のレベルで使用される。
【0113】
一部の実施形態では、CR2−FH分子をコードするヌクレオチドの送達のための医薬組成物が提供される。遺伝子治療用の医薬組成物は、許容される希釈剤に含まれ得る、または遺伝子送達ベヒクルもしくは化合物が埋め込まれる徐放性基質を含むことも可能である。あるいは、完全な遺伝子送達系が組換え細胞(例えば、レトロウイルスベクター)からインタクトに産生されことが可能な場合、医薬組成物は、前記遺伝子送達系を産生する1つまたは複数の細胞を含むことが可能である。
【0114】
臨床設定では、遺伝子治療用の遺伝子送達系は、いくつかの方法からのいずれかによって被験者に導入可能である。例えば、遺伝子送達系の医薬組成物は、例えば、静脈注射によって全身的に導入可能である。また、標的細胞におけるタンパク質の特異的形質導入は、遺伝子送達ベヒクルによって、受容体遺伝子の発現を制御する転写制御配列による細胞型発現もしくは組織型発現によって、またはそれらの組み合わせによってもたらされる形質移入の特異性から主に起こる。他の実施形態では、組換え遺伝子の最初の送達は、完全に局在化される動物への導入によってさらに限定される。例えば、遺伝子送達ベヒクルは、カテーテルによって(米国特許第5,328,470号を参照)、または定位的注入によって(Chen et al. (1994), Proc. Natl. Acad. Sci., USA 91:3054−3057)導入可能である。CR2−FH分子をコードするポリヌクレオチドは、技術(Dev et al. (1994), Cancer Treat. Rev. 20:105−115に記述される)を使用する電気穿孔法によって遺伝子治療のコンストラクトに送達可能である。
【0115】
一部の実施形態では、眼への遺伝子送達のための医薬組成物が提供される。発現ベクターを貯蔵するおよび/または送達するために有用な点眼液は、例えば、国際公開第03077796A2号に開示されている。
【0116】

CR2−FH分子およびその組成物の用途
本明細書に記載するCR2−FH分子は、補体活性化副経路のin vivo補体活性化およびそれに伴う炎症性症状(例えば、マクロファージ、好中球、血小板およびマスト細胞の動員および活性化、浮腫、組織損傷、ならびに局所細胞および内在細胞の直接的活性化)を特異的に抑制するよう機能可能である。CR2−FH分子を含む組成物は、従って、補体系の過剰活性化または無制限活性化によって媒介される疾患または状態、特に補体第ニ経路の過剰活性化または無制限活性化によって媒介される疾患または状態の治療に使用可能である。一部の実施形態では、局所炎症のプロセスに関与する疾患の治療方法が提供される。一部の実施形態では、FH欠損(例えば、FHレベルの減少、FH活性の減少、または野生型FHもしくは保護FHの欠如)と付随する疾患の治療方法が提供される。前記疾患としては、以下が含まれる:加齢黄斑変性症、膜性増殖性糸球体腎炎、タンパク尿疾患、溶血性尿毒症候群、再発性細菌感染症、虚血再灌流障害(例えば、腎虚血再灌流障害もしくは腸管虚血再灌流障害)、臓器移植拒絶反応、および慢性炎症(例えば、関節リウマチ)。
【0117】
一部の実施形態では、個体において補体活性化副経路に関与する疾患(例えば、AMD等の黄斑変性症)を治療する方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する有効量の組成物を前記個体に投与することを含む。一部の実施形態では、補体活性化副経路に関与する疾患(例えば、AMD等の黄斑変性症)を有する個体において補体活性化を抑制する方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する有効量の組成物を前記個体に投与することを含む。一部の実施形態では、補体活性化副経路に関与する疾患(例えば、AMD等の黄斑変性症)を有する個体において炎症を抑制する方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する有効量の組成物を前記個体に投与することを含む。
【0118】
疾患を「治療すること」または「治療する」は、疾患または前記疾患の症状のいずれかを緩和させる、改善する、安定させる、回復に向かわせる、遅らせる、遅延させる、予防する、軽減させる、または排除するために、または前記疾患または前記疾患の症状の進行を遅らせるもしくは止めるために、他の治療薬と共にもしくは他の治療薬を含まずに1つまたは複数のCR2−FH分子を投与することと定義する。上記に定義するように、「有効量」は疾患を治療するのに十分な量である。
【0119】
「個体」は、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトである。哺乳類とは、以下を含むがこれらに限定されない:家畜、運動競技用動物、ペット、霊長類、マウス、およびラット。一部の実施形態では、個体はヒトである。一部の実施形態では、個体はヒト以外の個体である。一部の実施形態では、個体は、補体活性化副経路が関与する疾患の研究のための動物モデルである。治療を受け入れられる個体は、現在、無症状であるが後に黄斑変性関連障害の症状を発症する危険性が高い個体を含む。例えば、ヒト個体は、このような疾患を経験した血縁者を有するヒト、およびそのヒトの危険性が遺伝子マーカーもしくは生化学マーカーの解析によって、生化学的方法によって、または他のアッセイ(例えば、T細胞増殖アッセイ)によって決定されるヒトを含む。一部の実施形態では、個体は、補体活性化副経路が関与する疾患(例えば、加齢黄斑変性症)を発症する感受性が高いことを示すそのFH遺伝子に変異もしくは多形を有するヒトである。一部の実施形態では、個体は野生型FHまたはハプロタイプの保護FHを有する。FHの様々な多形は、米国特許出願公開第20070020647号に開示されており、その開示内容全体が本明細書で援用される。
【0120】
本明細書に記載する組成物は、特に黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症(AMD))の治療に有用である。AMDは、黄斑と呼ばれる網膜の領域で光受容細胞が損傷された結果として生じる進行性の中心視力低下によって臨床的に特徴づけられる。AMDは、2つの病態に大別される。すなわち湿潤型および乾燥型であり、乾燥型は全症例の80〜90%までを占める。乾燥型AMDは、網膜色素上皮(RPE)とブルッフ膜との間に局在化した沈着物である黄斑ドルーゼンの存在によって、および光受容体萎縮に覆われることによるRPE細胞死によって特徴づけられる地図状萎縮によって臨床的に特徴づけられる。深刻な失明の約90%の主な原因となる湿潤型AMDは、黄斑領域内の血管新生およびこれらの新生血管からの漏出を伴う。血液および体液の蓄積は、網膜剥離、それに続く光受容体の急速な変性、および失明の原因となる可能性がある。AMDの湿潤型は、乾燥型に先行しかつ乾燥型に起因することが一般的に認められている。
【0121】
AMD患者のドルーゼン内容物の分析は、アミロイドタンパク質を含む多数の炎症タンパク質、凝固因子、補体経路の多数のタンパク質を示した。補体H因子の遺伝的変異は、実質的に加齢黄斑変性症(AMD)の危険性を高め、無制限補体活性化がAMD発病の根底にあることを示唆する。Edward et al., Science 2005, 308:421;Haines et al., Science 2005, 308:419;Klein et al., Science 308:385−389;Hageman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2005, 102:7227。
【0122】
本発明は、CR2−FH分子を含む組成物の有効量を投与することによってAMD(例えば、湿潤型AMDまたは乾燥型AMD)を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、本発明は、AMDの1つまたは複数の態様または症状を治療するまたは予防する方法を提供する。それらの態様または症状としては以下が含まれるがこれらに限定されない:眼または眼組織における眼性ドルーゼン炎症の形成、光受容体細胞の損失、視力の喪失(例えば、視力および視野を含む)、血管新生(例えば、脈絡膜新生血管またはCNV)、および網膜剥離。他の関連した態様としては、以下も含まれる:光受容体変性、RPE変性、網膜変性、脈絡網膜変性、錐体変性、網膜機能障害、光照射(例えば、持続する光照射)を受けての網膜損傷、ブルッフ膜の損傷、RPE機能損失、正常な黄斑の細胞および/または細胞外基質の組織構造の完全性の損失、黄斑内細胞の機能損失、光受容体ジストロフィー、ムコ多糖症、桿体錐体ジストロフィー、錐体桿体ジストロフィー、前部および後部ブドウ膜炎、および糖尿病性神経障害。
【0123】
一部の実施形態では、個体における黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症またはAMD)の治療方法が提供さる。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を前記個体に投与することを含む。一部の実施形態では、治療される疾患は、乾燥型AMDである。一部の実施形態では、治療される疾患は、湿潤型AMDである。
【0124】
一部の実施形態では、個体の眼におけるドルーゼンの形成を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。一部の実施形態では、個体の眼における炎症を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。一部の実施形態では、個体の眼における光受容細胞の損失を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。一部の実施形態では、個体の眼における光受容細胞の損失を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。一部の実施形態では、AMDと関連する血管新生を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。一部の実施形態では、AMDと関連する網膜剥離を治療する(例えば、減少させる、進行を妨げる、除去する、または予防する)方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。一部の実施形態では、個体の眼の視力または視野を改善する(例えば、損失を減少させる、進行を妨げる、またはブロックする)方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を個体に投与することを含む。
【0125】
黄斑変性症に加えて、本発明の方法によって治療可能な他の眼疾患としては、例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、および局所炎症のプロセスが関与する他の眼疾患が含まれる。一部の実施形態では、眼疾患は糖尿病性網膜症である。一部の実施形態では、眼疾患は網膜色素変性症である。
【0126】
本明細書に記載する方法は、ある腎疾患の治療にも有用であり得る。一部の実施形態では、膜性増殖性糸球体腎炎II型(MPGN II)を治療する方法が提供される。MPGN IIは、持続性タンパク尿、血尿、および腎炎症候群を引き起こすまれな腎臓疾患である。MPGN IIにおけるFH欠損および機能障害が、いくつかの症例で報告されている。例えば、FHの変異がMPGN IIヒト患者で発見された。Norwegian Yorkshire品種のブタは、劣性パターンで遺伝するFH欠損を有する。これらの動物はMPGNIIを発症し、腎糸球体内に塊状の補体沈着物を示し、腎不全のために若年齢で死亡する。さらに、FHを認識する自己抗体が低補体血症MPGN IIの患者において記述されている。従って、補体活性化部位へのFHを標的にすることは、MPGN IIを有する個体に治療効果がある。従って、一部の実施形態では、個体においてMPGN IIを治療する方法が提供され、前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物を前記個体に投与することを含む。一部の実施形態では、MPGN IIと関連するタンパク尿を治療する方法が提供される。一部の実施形態では、MPGN IIと関連する血尿を治療する方法が提供される。一部の実施形態では、MPGN IIと関連する腎炎症候群を治療する方法が提供される。
【0127】
一部の実施形態では、溶血性尿毒症候群(HUS)を治療する方法が提供される。HUSは、末梢における連続的な血小板分解および腎臓の微小循環における血小板トロンビンに起因する微小血管症性溶血性貧血、血小板減少症、および急性腎不全からなる疾患である。Zipfel, Seminars in Thrombosis Hemostasis, 2001, 27(3):191−199。HUS(D−HUS)の非下痢型は、FHの交互変化および変異と関連するという考慮すべき証拠が現在、存在する。さらに、FHに対する自己抗体がHUS患者で報告されている。従って、補体活性化部位へのFHを標的にすることは、HUSを有する個体に治療効果がある。従って、一部の実施形態では、個体におけるHUSの治療方法が提供される。前記方法は、a)CR2もしくはその断片を含むCR2部分と、b)FHもしくはその断片を含むFH部分とを有するCR2−FH分子を含有する組成物の有効量を前記個体に投与することを含む。一部の実施形態では、HUSと関連する微小血管症性溶血性貧血を治療する方法が提供される。一部の実施形態では、HUSと関連する血小板減少症を治療する方法が提供される。一部の実施形態では、HUSと関連する急性腎不全を治療する方法が提供される。
【0128】
一部の実施形態では、治療される疾患は、全身性エリテマトーデス(例えば、ループス腎炎)である。全身性エリテマトーデス(SLE)は、結果として多臓器合併症を引き起こす原型の自己免疫疾患である。この坑自己応答は、種々の核および細胞質の細胞成分に対して向けられる自己抗体によって特徴づけられる。これらの自己抗体はそれぞれの抗原と結合し、循環して最終的に組織内に沈着する免疫複合体を形成する。この免疫複合体沈着物は、慢性炎症および組織損傷の原因となる。補体経路(補体活性化副経路を含む)は、SLEの病態に関与する。本明細書で提供される方法は、従ってSLE(例えば、ループス腎炎)の治療に対して有用である。
【0129】
一部の実施形態では、治療される疾患は、関節リウマチである。関節リウマチは、種々の全身症状を示すことがある慢性疾患である。この疾患は原因不明であり、かつ通常、対称分布で末梢関節に生じる持続性炎症性滑膜炎を示す。軟骨破壊、骨侵食、および最終的に関節変形を引き起こす、補体媒介炎症はこの疾患の最も重要な特徴である。本明細書で提供する方法は、従って、関節リウマチの治療に有用である。
【0130】
一部の実施形態では、治療される疾患は、虚血再灌流障害である。虚血再灌流障害(I/R)損傷は、低酸素組織の再灌流の後の内皮およびその下にある実質組織への炎症性損傷をいう。それは全身症候群であり、種々の組織(例えば、心筋、中枢神経系、後肢および腸を含む)への急性および慢性の両損傷に関与する。虚血再灌流障害は、結果的に壊死および不可逆的細胞損傷をもたらす。補体経路(補体活性化副経路を含む)は、I/R損傷の主要なエディエーターである。本発明で提供する方法は、従って、いかなる器官または組織で起こる虚血再灌流障害の治療に有用である。虚血再灌流障害としては以下が挙げられが、これらに限定されない:腸管虚血再灌流障害、腎虚血再灌流障害、心臓虚血再灌流障害、他の内臓器官(例えば、肺、肝臓)の虚血再灌流障害、中枢神経系虚血再灌流障害、四肢または指の虚血再灌流障害、外傷誘発性の血液量減少症、またはいかなる移植臓器もしくは組織の虚血再灌流障害。虚血再灌流障害は、また、種々の他の状態と併発する可能性がある。それらの状態としては以下が含まれるが、これらに限定されない:脳卒中、脊髄損傷、外傷誘発性の血液量減少性ショック、および関節リウマチ等の自己免疫疾患(例えば、滑膜の虚血傷害によって非常に悪化する可能性がある)、または種々の他の炎症性疾患(炎症によって媒介される疾患、または虚血現象および再灌流をもたらすもしくは虚血現象および再灌流を伴うことのある症状を有する炎症)。虚血再灌流障害が起こる他の状態および疾患は、当業者にとって公知である。
【0131】
一部の実施形態では、ドルーゼン関連疾患を治療する方法が提供される。用語「ドルーゼン関連疾患」は、ドルーゼンの形成またはドルーゼン様細胞外疾患プラークが起こるいかなる疾患をいい、ドルーゼンまたはドルーゼン様細胞外疾患プラークは、前記疾患の原因になる、もしくはそれに関与する、もしくはその徴候を表す。例えば、黄斑ドルーゼンの形成によって特徴づけられるAMDは、ドルーゼン関連疾患とみなされる。非眼性ドルーゼン関連疾患としては、以下が含まれるがこれらに限定されない:アミロイド症、弾力線維症、デンスデポジット病、および/またはアテローム性動脈硬化症。用語「ドルーゼン関連疾患」は、糸球体腎炎(例えば、MPGN II)も含む。
【0132】
本発明の方法によって治療することが可能な、補体活性化副経路が関与する他の疾患としては、例えば、以下が含まれる:(1)急性心筋梗塞、動脈瘤、脳卒中、出血性ショック、圧坐損傷、多臓器不全、血液量減少性ショック腸管虚血、脊髄損傷、および外傷性脳損傷後の虚血再灌流障害による組織損傷、(2)炎症性障害(例えば、火傷)、内毒血症と敗血症性ショック、成人呼吸促拍症症候群、心肺バイパス、血液透析、アナフィラキシーショック、重度の喘息、血管浮腫、クローン病、鎌状赤血球貧血、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、膜性腎炎、および膵炎、(3)移植拒絶反応(例えば、超急性異種移植片拒絶反応)、(4)妊娠関連疾患(例えば、再発性胎児消失および子癇前症)、および(5)薬物有害反応(例えば、薬物アレルギー、IL−2誘発性血管漏出症候群、およびX線撮影造影剤アレルギー)。本発明の抑制剤を使用して治療可能な自己免疫障害としては、以下も含まれるがこれらに限定されない:重症筋無力症、アルツハイマー病、多発性硬化症、肺気腫、肥満症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、インスリン依存性糖尿病、急性散在性脳脊髄炎、アジソン病、坑リン脂質抗体症候群、自己免疫肝炎、クローン病、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、天疱瘡、シェーグレン症候群、および高安動脈炎。
【0133】
一部の実施形態では、治療される疾患は以下のいずれかである:心肺バイパス術後の合併症、心筋梗塞、虚血/再灌流障害、脳卒中、急性呼吸促迫症症候群(ARDS)、敗血症、火傷、心肺バイパスと血液透析に関連する炎症、プラスマフェレーシス、血小板フェレーシス、白血球フェレーシス、体外膜型肺(ECMO)、ヘパリン誘導体外LDL沈澱(HELP)、X線撮影造影剤誘発アレルギー反応、移植拒絶反応、および他の炎症状態ならびに自己免疫/免疫複合体病(例えば、多発性硬化症、重症筋無力症、膵炎、関節リウマチ、アルツハイマー病、喘息、熱傷、アナフィラキシーショック、腸炎症、蕁麻疹、血管浮腫、血管炎、糸球体腎炎、シェーグレン症候群、紅斑性狼瘡、および糸球体腎炎。
【0134】
本明細書に記載する組成物は、以下に限定されないがこれらの経路を介して個体に投与できる:静脈内(例えば、輸液ポンプによって)、腹腔内、眼内、動脈内、肺内、経口、吸入、小胞内、筋肉内、気管内、皮下、眼内、くも膜下腔内、経皮、経胸膜、動脈内、局所的、吸入(例えば、噴霧ミストとして)、粘膜(例えば、鼻粘膜経由で)、皮下、経皮、胃腸管、関節内、嚢内、心室内、直腸(すなわち坐薬を介して)、膣内(すなわち膣坐薬を介して)、頭蓋内、尿道内、肝内、および腫瘍内。一部の実施形態では、組成物は、全身的に(例えば、静脈注射によって)投与される。一部の実施形態では、組成物は、局所的に(例えば、動脈内注射または眼内注射によって)投与される。
【0135】
一部の実施形態では、組成物は、眼または眼組織に直接投与される。一部の実施形態では、組成物は、局所的に(例えば、点眼剤中で)投与される。一部の実施形態では、組成物は、注射によって眼に(眼内注射)または眼に結合する組織に投与される。組成物は、例えば、眼内注射、眼周囲注射、網膜下注射、硝子体内注射、経中隔注射、強膜下注射、脈絡膜内注射、前房内注射、結膜内注射、テノン嚢下注射、球後注射、球周囲注射、または後胸膜近傍送達によって投与可能である。これらの方法は当該技術分野で公知である。例えば、網膜薬物送達のための典型的な眼周囲経路の説明については、以下を参照:Periocular routes for retinal drug delivery, Raghava et al. (2004), Expert Opin. Drug Deliv. 1(1):99−114。組成物は、例えば、硝子体、眼房水、胸膜、結膜、胸膜と結膜との間の部分、網膜脈絡膜組織、黄斑、または個体の眼内もしくは眼に近接する他の部分に投与されることも可能である。組成物は、移植片として個体に投与されることも可能である。好ましい移植片は、ある期間にわたって化合物を徐々に放出する生体適合性および/または生分解性徐放性製剤である。薬物送達用の眼移植片は、当該技術分野では周知である。例えば、米国特許第5,501,856号、第5,476,511号、および第6,331,313号を参照されたい。組成物はイオン泳動を使用して個体に投与されることも可能であり、前記方法としては米国特許第4,454,151号、および米国特許出願公開第2003/0181531号および第2004/0058313号に記述されるイオン泳動方法が含まれるがこれらに限定されない。
【0136】
一部の実施形態では、組成物は血管内に(例えば、静脈内に(IV)もしくは動脈内に)投与される。一部の実施形態(例えば、腎疾患の治療のため)では、組成物は動脈(例えば、腎動脈)に直接投与される。
【0137】
組成物の最適な有効量は、経験的に決定可能であり、かつ疾患の種類および重症度、投与経路、疾患の進行、および個体の健康、体格と身体部分に依存する。このような決定は、当業者の技術範囲内である。有効量は、また、in vitro補体活性化アッセイに基づいて決定され得る。本明細書に記載する方法で使用され得るCR2−FH分子の投与量の例としては、以下が含まれるがこれらに限定されない:約0.01μg/kg〜約300mg/kg、もしくは約0.1μg/kg〜約40mg/kg、もしくは約1μg/kg〜約20mg/kg、もしくは約1μg/kg〜約10mg/kgのいずれかの投与量範囲内の有効量。例えば、眼内に投与される場合、組成物は、低マイクログラム範囲(例えば、約0.1μg/kg以下、約0.05μg/kg以下、または0.01μg/kg以下を含む)で投与可能である。一部の実施形態では、個体に投与されるCR2−FHの量は、一投与当たり約10μg〜約500mgであり、例えば、一投与当たり約10μg〜約50μg、約50μg〜約100μg、約100μg〜約200μg、約200μg〜約300μg、約300μg〜約500μg、約500μg〜約1mg、約1mg〜約10mg、約10mg〜約50mg、約50mg〜約100mg、約100mg〜約200mg、約200mg〜約300mg、約300mg〜約400mg、約400mg〜約500mgのいずれかを含む。
【0138】
CR2−FH組成物は、単回の一日投与量で投与されることも可能であり、または一日総投与量を2、3、もしくは4回に分割した用量で毎日投与されることも可能である。組成物は、また、毎日よりは低い頻度(例えば、週に6回、週に5回、週に4回、週に3回、週に2回、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、1カ月に1回、2カ月に1回、3カ月に1回、または6カ月に1回)で投与可能である。組成物は、また、一定期間にわたる使用のための組成物を徐々に放出する移植片等の中の徐放性製剤で投与されることも可能であり、これにより組成物をより低い頻度で(例えば、1カ月に1回、2〜6カ月に1回、毎年1回、もしくは単回投与でも)投与可能になる。徐放装置(例えば、ペレット、ナノ粒子、微小粒子、ナノスフェア、ミクロスフェア等)は、注射によって、または眼もしくは結合する組織内(眼内、硝子体内、網膜下、眼周囲、結膜内、もしくはテノン嚢下)の種々の部位に外科的に埋め込まれることによって投与されることも可能である。
【0139】
医薬組成物は、単独で、または網膜付着もしくは損傷した網膜組織に対して有益な効果を有することが知られている他の分子との組み合わせで投与可能である。このような分子には、組織の修復および再生が可能な分子、ならびに/または炎症を抑制することが可能な分子が含まれる。有用な補助因子の例としては、以下が含まれる:坑VEGF剤(例えば、VEGFに対する抗体)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、アクソカイン(CNTFの突然変異タンパク質)、白血病抑制因子(LIF)、ニューロトロフィン3(NT−3)、ニューロトロフィン4(NT−4)、神経成長因子(NGF)、インスリン様増殖因子II、プロスタグランジンE2、30kDの生存因子、タウリン、およびビタミンA。他の有用な補助因子としては、症状緩和因子があり、防腐剤、抗生物質、坑ウイルス剤と坑真菌剤、および鎮痛剤と麻酔剤が含まれる。
【0140】

遺伝子治療
CR2−FH分子は、また、in vivoでCR2−FH融合タンパク質の発現によって送達可能であり、これは、「遺伝子治療」と呼ばれることが多い。例えば、細胞は、CR2−FH融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)を使用してex vivoで操作可能であり、次いで、操作された細胞は、前記融合タンパク質を使用して治療される個体に提供される。このような方法は、当該技術分野で周知の方法である。例えば、細胞は、本発明のCR2−FH融合タンパク質をコードするRNAを含有するレトロウイルス粒子を使用しての当該技術分野で公知の方法によって操作可能である。
【0141】
遺伝子治療を使用する本発明のCR2−FH融合タンパク質の局所送達によって、標的領域(例えば、眼または眼組織)に治療薬をもたらすことが可能となる。
【0142】
遺伝子送達の方法は、当該技術分野で公知の方法である。こらの方法としては、以下が含まれるがこれらに限定されない:1)DNA直接導入(Wolff et al. (1990) Science 247:1465−1468を参照)、2)リポソーム介在によるDNA導入(Caplen et al. (1995) Nature Med. 3:39−46;Crystal (1995) Nature Med 1:15−17;Gao and Huang (1991) Biochem. Biophys. Res. Comm. 179:280−285を参照)、3)レトロウイルス介在によるDNA導入(Kay et al. (1993) Science 262:117−119;Anderson (1992) Science 256:808−813を参照)、4)DNAウイルス介在によるDNA導入。このようなDNAウイルスとしては、以下が含まれる:アデノウイルス(好ましくは、Ad2またはAd5に基づくベクター)、ヘルペスウルス(好ましくは、単純ヘルペスウイルスに基づくベクター)、およびパルボウイルス(好ましくは、「欠損」または非自律パルボウイルスに基づくベクター、より好ましくは、アデノ随伴ウイルスに基づくベクター、最も好ましくはAAV−2に基づくベクター)。例えば、AIi et al. (1994) Gene Therapy 1:367−384;米国特許第4,797,368号(これを参考として本明細書に援用する)、および米国特許第5,139,941号を参照されたい。
【0143】
上述したレトロウイルスプラスミドベクターに由来するレトロウイルスは、以下に由来することが可能であるがこれらに限定されない:モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、レトロウイルス(例えば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳房腫瘍ウイルス)。一実施形態では、レトロウイルスプラスミドベクターは、モロニーマウス白血病ウイルスに由来する。
【0144】
アデノウイルスは、広宿主域を有するという利点があり、静止細胞または最終分化細胞(例えば、ニューロンまたは肝細胞)を感染させることが可能であり、本質的に非発癌性であると思われる。例えば、AIi et al. (1994),supra,p.367を参照されたい。アデノウイルスは、宿主ゲノムに組み込まれるように見えない。アデノウイルスは、染色体外に存在するために、挿入突然変異の危険性が大きく軽減される。Al
i et al. (1994),supra,p.373。
【0145】
アデノ随伴ウイルスは、アデノウイルスに基づくベクターと同様の利点を示す。しかし、AAVは、ヒト染色体19上に部位特異的組込みを示す(Ali et al. (1994),supra,p.373)。
【0146】
遺伝子治療ベクターは、1つまたは複数のプロモーターを含む。一部の実施形態では、遺伝子治療ベクターは、多数の細胞型での発現を促進するプロモーターを有する。一部の実施形態では、遺伝子治療ベクターは、特異的細胞型(例えば、網膜の細胞または腎臓の細胞)での発現を促進するプロモーターを有する。利用可能な適切なプロモーターとしては、以下が含まれるがこれらに限定されない:レトロウイルスLTR、SV40プロモーター、およびヒトサイトメガロウイルス(CVM)プロモーター(Miller et al. (1989)Biotechniques 7(9):980−990に記述される)、他のいかなるプロモーター(例えば、ヒストン、Pol III、およびβアクチンプロモーターを含むがこれらに限定されない真核細胞プロモーター等の細胞プロモーター)。利用可能な他のウイルスプロモーターとしては、以下が含まれるがこれらに限定されない:アデノウイルスプロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、およびB19パルボウイルスプロモーター。適切なプロモーターの選択は、本明細書に含まれる教示から当業者にとって明らかである。
【0147】
CR2−FH融合タンパク質をコードする核酸配列は、適切なプロモーターの制御下にある。利用可能な適切なプロモーターとしては、以下が含まれるがこれらに限定されない:アデノウイルスプロモーター(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター)、または異種プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター)、呼吸器多核体ウイルス(RSV)プロモーター、誘導型プロモーター(例えば、MMTプロモーター、メタロチオネインプロモーター、熱ショックプロモーター)、アルブミンプロモーター、ApoA1プロモーター、ヒトグロビンプロモーター、ウイルスチミジンキナーゼプロモーター(例えば、単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター)、レトロウイルスLTR(本明細書に上述する修飾レトロウイルスLTRを含む)、βアクチンプロモーター、およびヒト成長ホルモンプロモーター。
【0148】
レトロウイルスプラスミドベクターは、プロデューサー細胞系を形成するためのパッケージング細胞系を形質導入するために使用可能である。形質移入可能なパッケージング細胞の例は、Miller (1990) Human Gene Therapy 1:5−14に記述されている。ベクターは、当該技術分野で公知の方法を介してパッケージング細胞を形質導入することが可能である。このような方法は、以下を含むがこれらに限定されない:電気穿孔法、リポソームの使用、およびCaPO沈澱法。1つの方法では、レトロウイルスプラスミドベクターは、リポソームにカプセル化され、または脂質に結合し、次いで宿主に投与可能である。プロデューサー細胞系は、ポリペプチドをコードする核酸配列を含む感染性レトロウイルスベクター粒子を産生する。このようなレトロウイルスベクター粒子は、次いで、in vitroまたはin vivoのいずれかで真核細胞を形質導入するために使用可能である。形質導入された真核細胞は、ポリペプチドをコードする核酸配列を発現する。形質導入され得る真核細胞としては、以下が含まれるがこれらに限定されない:胚性幹細胞、胚性癌細胞、ならびに造血幹細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、角化細胞、内皮細胞、および気管支上皮細胞。
【0149】
一部の実施形態では、眼内でCR2−FHの発現を方向づける遺伝子送達ベクターが使用される。眼への遺伝子送達のためのベクターは当該技術分野で公知であり、例えば、米国特許第6,943,153号、および米国特許出願公開第20020194630号、第20030129164号、第200600627165号に開示されている。
【0150】
一部の実施形態では、補体活性化は、CR2−FH分子が補体活性化を抑制するように機能できる条件下で、CR2−FH分子を含む組成物との体液のex vivoでの接触によって抑制される。適切な体液は、個体に戻されることが可能なもの(例えば、血液、血漿、またはリンパ液)である。アフィニティー吸着アフェレーシス療法は、大まかに以下に記述されている:Nilsson et al. (1988) Blood 58(1):38−44;Christie et al. (1993) Transfusion 33:234−242;Richter et al. (1997) ASAIO J. 43(1):53−59;Suzuki et al. (1994) Autoimmunity 19:105−112;米国特許第5,733,254号;Richter et al. (1993) Metabol. Clin. Exp. 42:888−894;およびWallukat et al. (1996) Int’lJ. Card. 54:1910195。
【0151】
従って、本発明は、本明細書に記載する個体における1つまたは複数の疾患を治療する方法を含み、前記方法は、CR2−FH分子が補体活性化を抑制するように機能できる条件下で、CR2−FH分子を含む組成物を使用して個体の血液を体外で(すなわち、体の外側でまたはex vivoで)治療することと、前記血液を前記個体に戻すこととを含む。
【0152】

単位投与量、製品、およびキット
また、CR2−FH分子組成物の単位剤形が提供され、各投与量は、約0.01mg〜約50mg(例えば、約0.1mg〜約50mg、約1mg〜約50mg、約5mg〜約40mg、約10mg〜約20mg、または約15mgのいずれかでCR2−FH分子を含む)を含有する。一部の実施形態では、CR2−FH分子組成物の単位剤形は、約0.01mg〜0.1mg、0.1mg〜0.2mg、0.2mg〜0.25mg、0.25mg〜0.3mg、0.3mg〜0.35mg、0.35mg〜0.4mg、0.4mg〜0.5mg、0.5mg〜1.0mg、10mg〜20mg、20mg〜50mg、50mg〜80mg、80mg〜100mg、100mg〜150mg、150mg〜200mg、200mg〜250mg、250mg〜300mg、300mg〜400mg、または400mg〜500mgのいずれかでCR2−FH分子を含む。一部の実施形態では、単位剤形は、約0.25mgのCR2−FH分子を含む。用語「単位剤形」は、個体のための単位投与量として適した物理的に別々の単位をいう。各単位は,適切な医薬担体、希釈剤、または賦形剤と関連して、所望の治療効果をもたらすよう算出された活性物質の所定量を含有する。これらの単位剤形は、単回または複数回の単位投与量で適切なパッケージングに貯蔵可能であり、またさらに無菌化され、密封できる。
【0153】
また、本明細書に記載する組成物を適切なパッケージングで含む製品が提供される。本明細書に記載する組成物(例えば、眼用組成物)のための適切なパッケージングは、当該技術分野で公知であり、例えば以下が含まれる:バイアル(例えば、密封バイアル)、容器、アンプル、ボトル、広口瓶、柔軟なパッケージング(例えば、密封されたMylar製またはプラスティック袋)等。これらの製品は、さらに無菌化および/または密封可能である。
【0154】
本発明は、また、本明細書に記載する組成物(または単位剤形および/または製品)を含むキットを提供する。前記キットは、組成物を使用する(例えば、本明細書に記載する用途)方法についての説明書をさらに含むことがある。本明細書に記載するキットは、商業上およびユーザーの点から見て望ましい他の材料をさらに含むことができ、他の緩衝液、希釈液、フィルター、針、シリンジ、および本明細書に記載する任意の方法の実行に関する説明付き添付文書が含まれ得る。
【実施例】
【0155】
(実施例1) CR2−FH分子およびシグナルベプチドの典型的な配列
図4〜6は、本明細書に記載するCR2−FH分子の典型的なアミノ酸配列(配列番号5〜10)を示す。「nnn」は、オプションのリンカーを表す。
【0156】
図7は、本明細書に記載するシグナルペプチドの典型的なアミノ酸配列(配列番号11と13)および前記シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号12と14)を示す。
【0157】
図9は、マウスCR2−FH融合タンパク質(CR2−fHまたはCR2NLFHと名付けられた)のアミノ酸配列(配列番号17)、およびマウスCR2−FHとさらにシグナルペプチドをコードするポリヌクオチド(配列番号18)を示す。
【0158】
図10は、CR2NLFHFHのDNA配列(すなわち、1つのCR2部分と2つのFH部分とをリンカー配列なしで含むマウスCR2−FH融合タンパク質)(配列番号19)を示す。
【0159】
図11は、CR2LFHFHのDNA配列(すなわち、リンカー配列を介して2つのFH部分に結合されるCR2部分を含むマウスCR2−FH融合タンパク質)(配列番号20)を示す。
【0160】
図20は、ヒトCR2−FH融合タンパク質(ヒトCR2−fHまたはCR2fHと名付けられた)のアミノ酸配列(配列番号21)、およびヒトCR2−fHとさらにシグナルペプチドをコードするポリヌクオチド(配列番号22)を示す。
【0161】
図21は、2つのFH部分を含むヒトCR2−FH融合タンパク質(ヒトCR2−FH2またはCR2fH2またはヒトCR2fH2と名付けられた)のアミノ酸配列(配列番号23)、およびヒトCR2−FH2とさらにシグナルペプチドをコードするポリヌクオチド(配列番号24)を示す。
【0162】

(実施例2) CR2−FHによる補体活性化副経路のin vitroでの抑制
CR2の最初の4つのSCRドメインおよびFHの最初の5つのSCRドメインを含むマウス融合タンパク質(リンカーを介して(CR2LFH)またはリンカーなしで(CR2NLFHもしくはCR2−fH))を組換えDNAクローニングおよび遺伝子発現方法で作製した。CR2−FH融合タンパク質の1例の配列を図9に示す。配列番号17は、CR2−FH融合タンパク質のポリヌクレオチド配列である。配列番号18は、シグナルペプチドのN末端でCR2−FH融合タンパク質ならびにシグナルペプチドをコードするために使用されるヌクレオチドである。
【0163】
CR2の最初の4つのSCRドメインおよびタンデムに結合された2つのFH部分(それぞれFHの最初の5つのSCRドメインを含む)を含むマウスCR2−FH融合タンパク質(CR2LFHFH、CR2−fH2、またはCR2−fHHと名付けられた)も作製した。CR2部分および最初のFH部分をリンカー配列によって結合した。CR2LFHFHのDNA配列(シグナルペプチドをコードするDNAを含む)を図11(配列番号20)に示す。
【0164】
補体活性化副経路の活性化のためのin vitroアッセイを、Quigg et al., J. Immunol. 1998, 160(9):4553−60に基本的に記述されるように行った。実験では、H因子(fH)またはCR2−Crryを対照として使用した。具体的には、10mlの0.15M NaCl中の50mgのザイモサンビーズを、60分間沸騰させてから、PBSで2回洗浄することによって活性化させた。各反応において以下の混合物を加える:1)10mM EGTAおよび5MM MgCl2(最終濃度)、2)1×10ビーズ、3)10mM EDTA(負の対照1)またはHIC血清(負の対照2)または濃度を上げたCR2−FH融合タンパク質の1つまたは制御タンパク質、4)10μlの血清、および5)総容量を100μlにするためのPBS。これらの混合物を37℃で20分間インキュベートしてから、10mM EDTA(最終濃度)を付加することで反応を停止させた。ビーズを冷たいPBSB(1%BSAを含むPBS)で2回洗浄してから、ヤギ坑C3抗体に結合したFTICを使用して、氷上で1時間インキュベートした。次いで、この試料をPBSBで2回洗浄し、1%パラホルムアルデヒドで再懸濁させて、フローサイトメトリー下で分析した。
【0165】
図12Aは、マウスCR2−FH融合タンパク質(CR2−fH)および単独のH因子(fH)を使用するin vitroでのザイモサン補体アッセイで採取したデータのグラフを示す。図に示すように、CR2−fHは、補体活性化の抑制においてFHよりも有意により効果的である。図12Bは、マススFHの最初の5つのSCRドメイン(FH15)およびマウスCR2の最初の4つのドメイン(CR2)を使用するin vitroでのザイモサン補体アッセイで採取したデータのグラフを示す。マウスFHの最初の5つのSCRドメインは、250nMでEC50を有した。これは、血清中のFHの量にほとんど等しい。CR2の最初の4つのドメインを有す分子は、全く抑制効果がない。CR2−FHで見られる効果は、各部分の独立した機能よりはむしろ前記分子の2つの部分の複合効果のためであることをこれらのデータは示している。
【0166】
図13は、リンカーを有するマウスCR2−FH融合タンパク質(CR2LFH)、リンカーがないCR2−FH融合タンパク質(CR2NLFH)、リンカーを有するCR2−FH−FH(CR2LFHFH)、およびCR2−Crryを使用するin vitroでのザイモサン補体アッセイで採取したデータのグラフを示す。図に示すように、補体活性化副経路の補体活性化の抑制においてCR2―FHは、CR2−Crryより効果的であった。CR2LFHとCR2NLFHは、補体活性化副経路の補体活性化の抑制において同様に効果的であった。CR2LFHFHは、CR2LFHおよびCR2NLFHよりはるかに効果的である。
【0167】

(実施例3) CR2−FHによる腸管虚血および再灌流障害の治療
この実験は、マウスモデルにおける腸管虚血および再灌流障害の治療を示す。
【0168】
腸管虚血再灌流障害:8週齢で体重20〜25gの成熟雄性マウス3匹に、腹腔内注射によって10mg/kgのケタミンおよび6mg/kgのキシラジンで麻酔をかけた。実験中、動物は自発呼吸をしており、ヒートマットを使用してその体温を維持させた。中央開腹術を施して、上腸間膜動脈に近づけるように腸を慎重に移動させた。超微細手術用クランプ(Fine Instruments, USA)を使用して上腸間膜動脈を固定した。虚血を小腸の蒼白によって確認した。シャム処置マウスに、上腸間膜動脈をクランプ固定しない開腹手術を施した。30分後、虚血動脈のクランプ固定を取り外して、腸間膜血管の血流再開を可能にした。6.0エチコン縫合糸使用して動物を縫合して、2時間、再灌流させておいた。0.1mgもしくはは0.05mgのCR2−fH、または対照(PBS)を、血流再開から30分後に静脈内投与した。合計2時間の血流再開から90分後に動物を屠殺した。
【0169】

組織診断:組織染色のための組織試料を腸から採取した。前記試料を4℃で10%ホルマリン中に一晩固定してからパラフィンで処理するために処置するか、あるいは免疫蛍光分析のために液体窒素で凍結させた。それぞれの動物からの腸切片をヘマトキシリンおよびエオシン染料で染色し、前述(46)のように、粘膜損傷と絨毛高をスコアを付けた。手短に言えば、正常な絨毛をスコア0とし、先端に歪みを有する絨毛をスコア1とした。杯細胞が欠如し、Gugenheims空隙を含む絨毛をスコア2とした。上皮細胞のパッチ状崩壊を有する絨毛をスコア3とした。露出しているがインタクトな固有層および上皮細胞脱落を有する絨毛をスコア4とした。固有層が滲出している絨毛をスコア5とし、最後に、出血を示す絨毛または裸出した絨毛をスコア6とした。すべての組織学的評価を盲検様式で行った。
【0170】
実験の結果を図14Aに示す。図に示すように、対照動物は、投与されたCR2−fHの量を上回る正常なレベルの循環内在性H因子(約0.5mg/ml)を有したが、対照動物と比較して0.1mgおよび0.05mgの両用量のCR2−fHは、動物モデルにおいて保護効果を示した。
【0171】

(実施例3.1) マウスCR2−FHによる腸管虚血および再灌流障害の治療
実験を、基本的に実施例3に開示するように行った。
【0172】
手短に言うと、0.05mg、0.1mg、もしくは0.2mgのマウスCR2−fHまたはマウスCR2−fH2(CR2−fHH)を血流再開から30分後に静脈内に投与し、90分後に組織学分析のために動物を屠殺した。実験の結果を図14Bに示す。図14Bに示すように、マウスCR2−fHおよびマウスCR2−fHHは、補体が関与する虚血再灌流障害から腸を保護した。
【0173】

(実施例3.2) マウスCR2−FHによる腸管虚血および再灌流障害の治療
この実験は、補体活性化副経路および腸管虚血再灌流障害に対するマウスCR2−fHおよびCR2−fH2の効果を示す。基本的に上述のように実験を行う。
【0174】
補体活性化副経路の抑制においてマウスCR2−fHは、CR2−Crryより有意に効果的であり、マウスCR2−fH2は、マウスCR2−fHよりも約2倍効果的であることをin vitroアッセイは示した。坑CR2抗体ブロック実験が示すように、マウスCR2−fHの補体抑制活性は、CR2媒介標的に依存した。さらに、精製マウスH因子は、in vitroアッセイにおいてわずかな補体抑制活性のみを有した。
【0175】
マウスCR2−fHおよびマウスCR2−fH2は、腸管虚血および再灌流障害の後、局所的および遠隔的(肺)な補体活性化の部位を標的にし、両タンパク質は、低用量かつ用量依存的方法で腸管粘膜および肺実質を損傷から保護した。マウスCR2−fH2は、in vitroでマウスCR2−fHより強力な補体活性化副経路抑制剤であったが、in vivoモデルにおいてこれら2つのタンパク質の保護効果には相違がなかった。CR2−Crryと比較して、局所的損傷から同等の保護をもたらすには、約2倍高い用量のマウスCR2−fHが必要であった。
【0176】

(実施例4) マウスCR2−FHによる腎虚血再灌流障害の治療
本実施例は、腎虚血再灌流障害に対するCR2−FHの効果を示す。
【0177】
虚血性ARFを誘導するためのプロトコル:体重20〜25グラムのマウスに、300μlの2,2,2−トリブロモエタノール(Sigma−Aldrich)を腹腔内に注射することで麻酔をかけた。麻酔をかけてから、マウスをヒートパッドに置き、術中にそれらの体温を維持させた。次いで、開腹手術を施して、腎茎を見つけ、ブラント切開によって分離した。腎茎を外科手術用クリップで(Miltex Instrument Company, Inc)固定して、腎臓を目視検査することにより血流の閉塞を確認した。クリップを24分間そのままにして置いてから、解放した。最低の血管内血栓を有する虚血性ARFの可逆モデルを得るため、および動物の死亡を回避するために虚血の時間を選択した。腎臓を約1分間観察して血液の再流を確認した。血流再開から15分後、マウスに0.25mgのマウスCR2−fH(CR2NLFH)を腹腔内投与した。筋膜および皮膚を4−0シルク(United States Surgical)で縫合した。マウスを0.5mlの生理食塩水でボリューム蘇生させ、体温を維持させるために29℃のインキュベーターで保存した。
【0178】
血流再開から24時間後、マウスに麻酔をかけて、心臓穿刺によって採血した。開腹手術を施し、腎臓を収集した。本研究プロトコルは、University of Colorado Health Sciences Center Animal Care and Use Committeeによって承認された。
【0179】
血清尿素窒素測定:Beckman Autoanalyzer(Beckman)を使用して、血清尿素窒素をマウスごとに決定した。結果を図15Aに示す。図に示すように、マウスCR2−fHで処置した動物において血清尿素窒素は減少し、腎臓機能の保存を示した。
【0180】
腎臓形態:腎臓をマウスから摘出した後、矢状切片を4%のパラホルムアルデヒド.で固定した。切片をパラフィンに包埋した後、4μm切片に切り、過ヨウ素酸Schiffで染色した。腎病理医はこれらの切片を盲検様式で評価した。髄質外部の皮質および外部横紋を、上皮壊死、刷子縁の損失、尿細管膨張、および円柱形成について評価した。少なくとも10フィールド(400×)を各スライドで精査し、これらの所見を示す尿細管のパーセンテージを決定した。腎臓切片を、冒された尿細管のパーセンテージに基づいて以下のようにスコア化した:0(無し)、1(<10%)、2(11〜25%)、3(26〜45%)、4(46〜75%)、5(>75%)。実験の結果を図15Bに示す。図に示すように、CR2−fHは、対照動物と比較して動物モデルにおいて保護効果を示した。
【0181】
免疫蛍光法:免疫蛍光のために、腎臓の矢状切片をOCT化合物(Sakura Finetek)でスナップ凍結させた。4μm切片をクリオスタットで切り、−70℃で貯蔵した。その後これらのスライドをアセトンで固定して、マウスC3に対するFITC結合抗体(Cappel)と共にインキュベートした。室温で1時間、この抗体とハイブリダイズさせた後、スライドをヘマトキシリン(Vector Laboratories, Inc.)を使用して対比染色した。実験の結果を図15Cおよび15Dに示す。図に示すように、マウスCR2−fHで処置したマウス(15D)に比べて、シャム処理したマウス(15C)の腎臓により多くのC3が沈着した。
【0182】

(実施例5) CR2−FHによる加齢黄斑変性症の治療
光照射に連続的に曝された白ネズミを、加齢黄斑変性症(乾燥型AMD)の動物モデルとして使用する。5〜8匹の動物に、一日おきにCR2−FH融合タンパク質(4.3mg/ml原液から1μl)を麻酔下で眼内に注射した。1回目の注射は、連続的光曝露(−1日目、1日目、3日目、5日目、7日目)の開始前日に始めた。一方の眼は実験用としての役割を果たし、他方の眼はPBSを注射する対照眼としての役割を果たす。8日目にERGを使用して動物を検査し、次いで組織診断およびPCR分析のために安楽死させる。CR2−FHを注射した眼において光受容体の列数をPBS対照眼のそれと比較する。
【0183】
CR2−FHの効果を以下の3つのパラメータを使用して測定する:機能的活性(ERGおよびDCポテンシャル、すなわち光受容体およびRPEの反応)、炎症の組織診断、および炎症の測定(例えば、RT−PCRによる遺伝子発現および免疫組織化学によるタンパク質発現)。
【0184】
第2の動物モデル(湿潤型AMD)では、補体活性化因子を除去することによって、脈絡膜新生血管(CNV)が減少するかどうかを調べる。Kryptonレーザー(200mW、50μm、0.05秒)を使用して5〜8匹のマウスにCNVを生成させ、フルオレセインを注射した後に脈絡膜フラットマウントを作成する。
【0185】
CR2−FHの効果を以下の4つのパラメータを使用して測定する:機能的活性(ERGおよびDCポテンシャル、すなわち光受容体およびRPEの反応)、組織診断、血管の完全性(フルオレスセイン注射の後の脈絡膜フラットマウント)、および炎症の測定(例えば、RT−PCRによる遺伝子発現および免疫組織化学によるタンパク質発現)。
【0186】

(実施例6) マウスCR2−FHによるCNVのボリュームの減少
CNV生成のために、3月齢の動物にキシラジンおよびケタミン(それぞれ、20mg/kgおよび80mg/kg)を使用して麻酔し、フェニレフリンHCl(2.5%)および硫酸アトロピン(1%)を1滴滴下して瞳孔を散大させた。アルゴンレーザー光凝固術(532nm、スポットサイズ50μm、照射時間0.05秒、250mW)を使用して視神経に囲まれた各眼に4ヶ所のレーザースポットを生成した。コンタクトレンズとして小形のカバースリップを使用した。レーザースポットで形成された泡は、ブルッフ膜の破裂を示した。Nozaki et al., Proc. Natl Acad. Sci. 2006, 103(7):2328−33。
【0187】
CNV病変の評価のために、CNVの大きさを、イソレクチンB(内皮細胞の表面で末端のβ−D−ガラクトース残基に結合し、マウス血管を選択的に標識する)を使用して染色したRPE/脈絡膜のフラットマウント標本で決定した。共焦点顕微鏡を使用して2μm切片で採取した蛍光測定値をCNVの大きさの決定で使用した。手短に言えば、すべての実験で同じレーザー強度設定を使用して、CNV病変を介してZスタックの画像を取得した。各スライスに対して全体の蛍光を決定し、深度に対してプロットした。
【0188】
網膜電図検査のために、動物にキシラジン(20mg/kg/体重)およびケタミン(80mg/kg/体重)を使用して麻酔した。フェニレフリンHCl(2.5%)およびトロピカミド(1%)を一滴滴下して瞳孔を散大させた。37℃に維持させたDC電源ヒートパッドを介して体温を安定させた。使用したERG設定は、Rohrer et alによって以前記述された(J. Neurosci., 1999, 19(20):8919−30)ものであり、LyubarskyおよびPugh Lyubarsky et al.,(J. Neurosci., 1996, 16(2):563−571)に従って構築した。刺激光強度は、減光フィルターを使用して制御した。刺激パラダイム:動物を一昼夜暗順応させて、ERGを記録する。次第に光強度を増加させてのシングルフラッシュ刺激に反応する桿体を分析した。シングルフラッシュ反応は、15秒から2分(それぞれ、最低強度から最高強度)の刺激間隔(ISI)で平均少なくとも3フラッシュであった。種々のISIにより、所定の強度でのERG振幅が最初のフラッシュおよび最後のフラッシュの間で同じであることを確定した。データ分析:すべてのERG記録に対して、a波振幅をベースラインからトラフまで測定した。b波振幅を、a波トラフまたはベースラインからb波のピークまで測定した。潜時を、刺激の開始からa波トラフまたはb波ピークまで測定した。
【0189】
一実施形態では、マウスをレーザー火傷から30分後、レーザー火傷から48時間後、およびレーザー火傷から6時間後にマウスCR2−fH(250μg)を使用して静脈内処置した。レーザー火傷から6日後、網膜機能を評価し、次いでマウスを組織診断のために屠殺した。
【0190】
図16は、CR2−fHを使用してまたは使用せずに処置したマウスにおけるa波およびb波網膜反応を示す。図16に示すように、網膜反応のa波およびb波は、PBS治療と比較してCR2−fH治療によって保護されていた。図17Aおよび17Bは、レーザー火傷から6日後の病変のイソレクチンb染色を示す。図17Cは、イソレクチンb染色に基づく病変の大きさの定量化を示す。図17A〜Cに示すように、CR2−fHを使用して処置されたマウスは、PBSを使用して処置された動物と比較して、病変の大きさにおいて有意な減少を示す。
【0191】
別の実験では、1μgのマウスCR2−fHを、レーザー火傷の直後、レーザー火傷から48時間後、およびレーザー火傷から96時間後に眼内に投与した。組織診断のために6日目に眼を収集した。イソレクチンb染色によって病変を可視化した。結果を図18に示す。図18Aおよび18Bは、レーザー火傷から6日後の病変のイソレクチンb染色を示す。図18Cは、イソレクチンB染色に基づく病変の大きさの定量化を示す。図18A〜Cに示すように、眼に直接送達されたCR2−fHは、病変の広がりを減少させる。
【0192】

(実施例7) 異所性心臓移植のマウスモデルにおける抗体仲介性拒絶反応の開始を、マウスCR2−FHによって遅延させる
この実験では、心臓をC3HドナーマウスからBalb/cレシピエントマウスに異所性移植した。この系統の組み合わせは、急性血管拒絶反応を促進するTH2免疫表現型を促進させ、坑移植片抗体の産生および補体活性化断片の移植片沈着によって特徴づけられる。
【0193】
レシピエントマウスを、以下のように処置した。1)PBS(静脈内注射で)、2)0.25mgのマウスCR2−fHを単回投与(血流再開から30分後、静脈内注射で)、3)0.25mgのマウスCR2−fHを複数回投与(血流再開から30分後、静脈内注射で)。その後、2日おきに処置した。
【0194】
分析のために、血流再開から24時間後心臓を収集した。組織診断によって評価された(C3の非存在下で、好中球浸潤の減少、および炎症サイトカインの減少)ようにCR2−fHで処置したマウスは、虚血および再灌流障害から保護された。
【0195】
急性血管拒絶反応に対するマウスCR2−fHの効果を、図21に示す。図に示すように、11.1±1.6日生存(単回投与群)および10.7±1.3日生存(複数回投与群)と比較して、対照の心臓移植レシピエントは7.1±1日生存した。対照と比較すると、マウスCR2−fHを使用して処置したマウスの生存は有意な改善が見られる(p=0.02)。
【0196】
収集時に、病理学的拒絶反応プロファイルにおいて、またはいずれかの群の間に坑ドナー抗体のレベルにおいて明らかな相違は見られなかった。興味深いことに、単回投与群と比較したとき、マウスCR2−fHの複数投与量の投与と付随する生存において有意な改善はないように見える(p<0.05)。
【0197】

(実施例8) ヒトCR2−FHによる補体活性化副経路の抑制
シグナルペプチドを含まないヒトCR2−FHのタンパク質配列(配列番号21、CR2fHとしても命名される)およびヒトCR2−FH2のタンパク質配列(配列番号23、CR2fH2としても命名される)は、それぞれ図20および図21に示す。シグナルペプチドのヌクレオチド配列を含むヒトCR2−FH(配列番号22)およびヒトCR2−FH2(配列番号24)の核酸配列は、それぞれ図20および図21に示す。
【0198】
ヒトCR2−FHおよびヒトCR2−FH2を、HB5−セファロースを使用して、形質移入された293細胞上清から親和性クロマトグラフィーによって精製した。HB5−セファロースは、CNBr活性化セファロース(Amershan Biosciences)に結合した坑ヒトCR2モノクローナー抗体HB5(ATCCカタログ番号HB−135)を含む。粗製CR2−FHまたはCR2−FH2の上清を基質の上を通してから、PBSで洗浄し、0.1Mのグリシン−HCl(pH3.0)で溶出させた。溶出した画分を、直ちに1Mトリス−Cl(pH9.0)を付加して中和し、続いてセントリコンカラム(Millipore)を使用してPBSと交換した。300ngの非還元化、精製CR2−FHおよびCR2−FH2を、SDS−PAGE上で分離させ、Commassie染色によって可視化した。脱グリコシル化後に単一のバンドに分離した64.0kDaおよび65.3kDAについてマススペクトロメトリー(Alphalyse,Palo Alto, CA)によって決定したように、CR2−FHは2つの明白なタンパク質として存在し、一方CR2−FH2は、99.2kDaの単一種であった。これらの分子の固有の二次構造は、非還元条件下でそれらの実際の分子量よりも小さく移動させる。
【0199】
ザイモサン粒子上に沈着するC3bに特異的な補体活性化副経路に対するヒトCR2−FHおよびヒトCR2−FH2の効果を、図22Aに示す。手短に言うと、5mMのMg2+、10mMのEGTA、10%ヒト血清を含むPBS中でザイモサン粒子をインキュベートして、FITC結合ヤギ坑ヒトC3抗体を使用してCR2−FHおよびCR2−FH2の濃度を室温で30分間徐々に上げた。ザイモサンをペレット状にして、洗浄し、続いてFACS分析を行った。図24Aに示すように、CR2−FHおよびCR2−FH2は、補体活性化副経路の活性化を抑制した。マウス血清でのインキュベーション、続いてFITC結合ヤギ坑マウスC3抗体による検出によって同様の結果が得られた。有意に、アッセイ系には200〜400nMのFHが存在した。CR2−FHは、8〜22nMのEC50を有した。これは、アッセイに存在するFHの量よりも20倍低いものであり、内在性FH上の標的FHの明らかな利点を示した。
【0200】
補体活性化副経路が関与する赤血球溶解に対するヒトCR2−FHおよびヒトCR2−FH2の効果を、図22Bに示す。手短に言うと、1×GVB++(Boston BioProducts)および17%ヒト血清中で種々の濃度のCR2−FHまたはCR2−FH2と共に、ウサギ赤血球(1×10)を37℃で30分間インキュベートした。低温のPBSの十分の一の容量を付加することによって反応を停止させ、続いて遠心分離によって非溶解赤血球をペレット化した。溶血は、OD415nm測定することによって定量化した。図24Bに示すように、CR2−FHおよびCR2−FH2は、補体活性化副経路.の活性化を有意に抑制した。有意に、アッセイには340〜680nMのFHが存在した。CR2−FHは、20〜30nMでEC50を有した。これは、アッセイに存在するFHの量よりも15〜20倍低いものであり、内在性FH上の標的FHの明らかな利点を示した。
【0201】

(実施例9) マウスCR2−FHによる補体活性化副経路の抑制
本実施例は、古典経路を欠損したマウスの血清を使用するマウスCR2−FHによって補体活性化副経路の抑制を示す。
【0202】
プレート上でコラーゲン−坑コラーゲン抗体の免疫複合体によるELISAアッセイを使用した。野生型またはC4−/C4−マウス由来の結成の存在下で坑C3b抗体を使用することによりC3沈着/活性化を測定した。種々の量の全長マウスFH(2μg/10μl)、マウスCR2の最初の4つのSCRドメイン(2μg/10μl)、およびマウスCR2−FH(2μg/10μl)を前記血清に加えた。in vitro研究の結果を図23に示す。図に示すように、マウスCR2−FHは、野生型マウス由来の血清を使用するC3b沈着に対してほとんど影響を与えなかった。それに反して、マウスCR2−FHは、古典経路が欠損したマウス由来の血清において、ほぼ完全にC3bの沈着を阻止した。一方、マウスFHまたはマウスCR2は、両アッセイ系においてほとんど影響を与えなかった。この実験は、特に古典補体経路が関与しないとき、補体活性化副経路を抑制するためにCR2−FHを使用する明確な利点を示す。
【0203】
CR2−FHによって観察されるC3b沈着の抑制は、補体活性化副経路の抑制のためであることをさらに示すために、古典経路の非存在下(C4−/C4−マウス)でC3b沈着に対するCR2−FHの効果を調べた。カルシウムはレクチン補体経路を抑制する。図24は、C4−/C4−ノックアウトマウス由来の血清を使用する、十分なカルシムを含む緩衝液中のマウスCR2−FHの滴定曲線を示す。図に示すように、CR2−FHは、0.5μg/μlの濃度でC3b沈着を有意に抑制する。
【0204】
前述の発明は、明瞭に理解することを目的とした例証および実施例として多少詳細に記述したのだが、いくつかの些細な変更および修飾が行われることは当業者にとって明白である。従って、説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CR2−FH分子であって、a)CR2またはその断片を含むCR2部分と、b)FHまたはその断片を含むFH部分を含み、前記CR2−FH分子がCR2リガンドに結合することが可能であり、かつ前記CR2−FH分子が補体活性化副経路の補体活性化を抑制することが可能である、CR2−FH分子。
【請求項2】
前記CR2部分がCR2の少なくとも最初の2つのN末端SCRドメインを含む、請求項1に記載のCR2−FH分子。
【請求項3】
前記CR2部分がCR2の少なくとも最初の4つのN末端SCRドメインを含む、請求項1に記載のCR2−FH分子。
【請求項4】
前記FH部分がFHの少なくとも最初の4つのSCRドメインを含む、請求項1に記載のCR2−FH分子。
【請求項5】
前記FH部分がFHの少なくとも最初の5つのSCRドメインを含む、請求項1に記載のCR2−FH分子。
【請求項6】
前記CR2−FH分子が2つ以上のFH部分を含む、請求項1に記載のCR2−FH分子。
【請求項7】
前記CR2部分がCR2の最初の4つのN末端SCRドメインを含み、かつ前記FH部分がFHの最初の5つのSCRドメインを含む、請求項1に記載のCR2−FH分子。
【請求項8】
前記CR2部分が配列番号1の23〜271のアミノ酸を含み、かつ前記FH部分が配列番号2のアミノ酸21〜320を含む、請求項7に記載のCR2−FH分子。
【請求項9】
前記CR2−FH分子が融合タンパク質である、請求項1に記載のCR2−FH分子。
【請求項10】
請求項9に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドをコードするベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項13】
医薬組成物であって、請求項1に記載のCR2−FH分子および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が眼内投与、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、気管内投与、または吸入投与に適している、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
個体において補体活性化副経路が関与する疾患を治療する方法であって、前記個体に請求項13に記載の医薬組成物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項16】
前記補体活性化副経路が関与する前記疾患が黄斑変性症、関節リウマチ、虚血再灌流障害、臓器移植拒絶反応、MPGN II、HUS、およびループス腎炎のいずれかである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
補体活性化副経路が関与する前記疾患が加齢黄斑変性症である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
補体活性化副経路が関与する前記疾患が虚血再灌流障害である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
補体活性化副経路が関与する前記疾患が臓器移植拒絶反応である、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2009−540831(P2009−540831A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516588(P2009−516588)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/014602
【国際公開番号】WO2007/149567
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(506348499)エムユーエスシー ファウンデーション フォー リサーチ ディベロップメント (5)
【出願人】(308032460)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド (25)
【Fターム(参考)】