説明

研磨パッドの温度調整機構を備えた研磨装置

【課題】速やかに研磨パッドの表面温度を目標温度にまで上昇させることができる改良されたパッド接触部材を備えた研磨装置を提供する。
【解決手段】パッド温度調整機構は、研磨パッド3の表面に接触するパッド接触部材11と、温度調整された液体をパッド接触部材11に供給する液体供給システム30とを有する。パッド接触部材11は、その内部に第1の液体流路21と第2の液体流路22を有し、これらは直列に接続されている。第1の液体流路21と第2の液体流路22には、研磨テーブル2の半径方向に対して略垂直に延びる複数のバッフル25がそれぞれ配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハなどの基板を研磨パッドに摺接させて研磨する研磨装置に関し、特に研磨パッドの表面温度を調整するための機構を有する研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CMP(Chemical Mechanical Polishing)装置は、半導体デバイスの製造において、基板の表面を研磨する工程に使用される。CMP装置は、基板をトップリングで保持して基板を回転させ、さらに回転する研磨テーブル上の研磨パッドに基板を押し付けて基板の表面を研磨する。研磨中、研磨パッドには研磨液(スラリー)が供給され、基板の表面は、研磨液の化学的作用と研磨液に含まれる砥粒の機械的作用により平坦化される。
【0003】
基板の研磨レートは、基板の研磨パッドに対する研磨荷重のみならず、研磨パッドの表面温度にも依存する。これは、基板に対する研磨液の化学的作用が温度に依存するからである。したがって、半導体デバイスの製造においては、基板の研磨レートを上げて更に一定に保つために、基板研磨中の研磨パッドの表面温度を最適な値に保つことが重要とされる。
【0004】
図13は、研磨パッドの表面温度を調整するためのパッド温度調整機構を示す模式図である。このパッド温度調整機構は、研磨パッド102に接触するパッド接触部材100を備えている。研磨パッド102は、研磨テーブル101の上面に固定されており、研磨テーブル101とともに矢印で示す方向に回転する。パッド接触部材100には液体が流れており、液体と研磨パッド102との熱交換により研磨パッド102の表面温度が調整される。
【0005】
図14は、図13に示すパッド接触部材100を示す斜視図である。パッド接触部材100は、内部に液体の流路が形成される流路形成部材90と、この流路形成部材90に固定されるカバー部材91とを有している。カバー部材91には、液体流入口93および液体流出口94が形成されている。カバー部材91は、複数のボルト92により流路形成部材90の上部に固定されている。カバー部材91は、PVC(ポリ塩化ビニル)から形成されており、流路形成部材90は、焼結SiC(焼結炭化ケイ素)から形成されている。
【0006】
図15は図14に示す流路形成部材90を示す平面図であり、図16は図14に示すA−A線断面図である。流路形成部材90の内部には仕切り95が設けられ、この仕切り95の両側に液体流路99が形成されている。温度調整された液体は、液体流入口93からパッド接触部材100の内部に流入し、液体流路99を図15の矢印で示す方向に流れて、液体流出口94から排出される。研磨パッド102の表面は、パッド接触部材100内を流れる液体と研磨パッド102との間の熱交換により所定の目標温度に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−307630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
基板の研磨処理のスループットを向上させるためには、できるだけ速やかに研磨パッドの表面温度を目標温度まで上昇させる必要がある。そこで、本発明は、従来のパッド接触部材よりも速やかに研磨パッドの表面温度を目標温度にまで上昇させることができる改良されたパッド接触部材を備えた研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、基板を研磨パッドに摺接させて該基板を研磨する研磨装置において、前記研磨パッドを支持する研磨テーブルと、前記研磨テーブル上の前記研磨パッドに前記基板を押し付けるトップリングと、前記研磨パッドの表面温度を調整するパッド温度調整機構とを備え、前記パッド温度調整機構は、前記研磨パッドの表面に接触するパッド接触部材と、温度調整された液体を前記パッド接触部材に供給する液体供給システムとを有し、前記パッド接触部材は、その内部に空間を有し、該空間は仕切りによって第1の液体流路と第2の液体流路とに分けられ、前記第1の液体流路と前記第2の液体流路は、直列に接続されており、前記第1の液体流路は、前記液体供給システムに接続された液体流入口に連通し、前記第2の液体流路は、前記液体供給システムに接続された液体流出口に連通し、前記第1の液体流路と前記第2の液体流路には、前記研磨テーブルの半径方向に対して略垂直に延びる少なくとも1つのバッフルがそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様は、基板を研磨パッドに摺接させて該基板を研磨する研磨装置において、前記研磨パッドを支持する研磨テーブルと、前記研磨テーブル上の前記研磨パッドに前記基板を押し付けるトップリングと、前記研磨パッドの表面温度を調整するパッド温度調整機構とを備え、前記パッド温度調整機構は、前記研磨パッドの表面に接触するパッド接触部材と、温度調整された液体を前記パッド接触部材に供給する液体供給システムとを有し、前記パッド接触部材は、その内部に液体流路を有しており、前記液体流路は、前記液体供給システムに接続された液体流入口および液体流出口に連通しており、前記液体流路には、前記研磨テーブルの半径方向に対して略垂直に延びる少なくとも1つのバッフルが配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パッド接触部材内の液体は、バッフルに沿って研磨パッドの回転方向およびそれと反対方向に交互に流れるので、研磨パッドと液体の熱交換効率が向上する。したがって、研磨パッドの表面温度を所定の目標温度にまで速やかに上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る研磨装置を示す模式図である。
【図2】パッド接触部材に液体を供給するための液体供給システムを示す模式図である。
【図3】パッド接触部材を示す斜視図である。
【図4】図3に示す流路形成部材を下から見た図である。
【図5】図3に示すB−B線断面図である。
【図6】研磨パッドの表面温度を測定した実験結果を示すグラフである。
【図7】流路形成部材の内面が断熱材で覆われた例を示す図である。
【図8】流路形成部材の他の例を示す図である。
【図9】パッド接触部材の他の例を示す斜視図である。
【図10】図9に示す流路形成部材を上から見た図である。
【図11】図9に示すC−C線断面図である。
【図12】パッド接触部材を洗浄する洗浄機構を備えた研磨装置を示す模式図である。
【図13】従来のパッド温度調整機構を示す模式図である。
【図14】図13に示すパッド接触部材を示す斜視図である。
【図15】図14に示すパッド接触部材の流路形成部材を示す平面図である。
【図16】図14に示すA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る研磨装置を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置は、半導体ウェハなどの基板を保持して回転させるトップリング1と、研磨パッド3を支持する研磨テーブル2と、研磨パッド3の表面に研磨液(例えばスラリー)を供給する研磨液供給機構4と、研磨パッド3の表面温度を調整するパッド温度調整機構5とを備えている。
【0014】
トップリング1は、研磨ヘッド支持アーム7に支持されている。この研磨ヘッド支持アーム7には、エアシリンダーおよびモータ(図示せず)が配置されており、これらエアシリンダーおよびモータによってトップリング1は鉛直方向に移動し、かつその軸心周りに回転可能となっている。基板は、トップリング1の下面に真空吸着などによって保持される。研磨テーブル2にはモータ(図示せず)が連結されており、矢印で示す方向に回転可能となっている。
【0015】
研磨される基板は、トップリング1によって保持され、さらにトップリング1によって回転される。一方、研磨パッド3は、研磨テーブル2とともにその軸芯周りに回転される。この状態で、研磨パッド3の表面には研磨液供給機構4から研磨液が供給され、さらに基板の表面は、トップリング1によって研磨パッド3の表面(すなわち基板研磨面)に対して押し付けられる。基板の表面は、研磨液の存在下での研磨パッド3と基板との摺接により研磨される。
【0016】
パッド温度調整機構5は、研磨パッド3の表面に接触するパッド接触部材11と、このパッド接触部材11に温度調整された液体を供給する液体供給システム30とを備えている。パッド接触部材11は、該パッド接触部材11を昇降させる昇降機構としてのエアシリンダー12にアーム14を介して連結されている。さらに、パッド接触部材11は、移動機構としてのモータ13に連結されており、このモータ13によりパッド接触部材11は、研磨パッド3の上方の所定の上昇位置と、研磨テーブル2の径方向外側の所定の退避位置との間で移動される。
【0017】
図2は、パッド接触部材11に液体を供給するための液体供給システム30を示す模式図である。この液体供給システム30は、液体供給タンク31と、液体供給タンク31とパッド接触部材11とを連結する供給ライン32および戻りライン33とを備えている。熱媒体としての液体は、液体供給タンク31から供給ライン32を通じてパッド接触部材11に供給され、パッド接触部材11から戻りライン33を通じて液体供給タンク31に戻される。このように、液体は、液体供給タンク31とパッド接触部材11との間を循環する。液体供給タンク31は、液体を加熱するヒータ(図示せず)を有しており、液体はヒータにより所定の温度に加熱される。
【0018】
液体供給システム30は、さらに、供給ライン32を流れる液体の圧力を一定にするレギュレータ35と、レギュレータ35を通過した液体の圧力を測定する圧力計36と、レギュレータ35を通過した液体の流量を測定する流量計37と、パッド接触部材11に供給される液体の流量を調整する流量制御バルブ38と、研磨パッド3の表面温度を測定するパッド表面温度計としての放射温度計39と、放射温度計39により測定されたパッド表面温度に基づいて流量制御バルブ38を制御する温度コントローラ40とを備えている。供給ライン32と戻りライン33とは連通ライン42を介して連通しているが、通常、連通ライン42はハンドバルブ43により閉じられている。
【0019】
放射温度計39は、非接触で研磨パッド3の表面温度を測定し、その測定値を温度コントローラ40に送る。温度コントローラ40は、研磨パッド3の表面温度が予め設定された目標温度になるように、研磨パッド3の表面温度の測定値に基づいて、流量調整バルブ38を制御する。流量調整バルブ38は、温度コントローラ40からの制御信号に基づいて動作し、パッド接触部材11に供給される液体の流量を制御する。研磨パッド3の表面温度は、パッド接触部材11を流れる液体と研磨パッド3との間での熱交換により調整される。
【0020】
このようなフィードバック制御により、研磨パッド3の表面温度は、所定の目標温度に維持される。温度コントローラ40としては、PIDコントローラを使用することができる。研磨パッド3の目標温度は、基板の種類または研磨プロセスに応じて決定され、決定された目標温度は、温度コントローラ40に予め入力される。
【0021】
上述したように、研磨パッド3の表面温度は、パッド接触部材11に供給される液体の流量を調整することにより制御される。パッド接触部材11に供給される液体(熱媒体)としては、水が使用される。水の温度は、液体供給タンク31のヒータにより、例えば約80℃に加熱される。より速やかに研磨パッド3の表面温度を上昇させる場合には、シリコーンオイルを熱媒体として使用してもよい。シリコーンオイルを使用する場合には、シリコーンオイルは液体供給タンク31のヒータにより100℃以上(例えば、約120℃)に加熱される。
【0022】
図3は、パッド接触部材11を示す斜視図である。図3に示すように、パッド接触部材11は、研磨パッド3の表面に接触する接触面を有する板部材15と、内部に液体の流路が形成された流路形成部材16とを備えている。板部材15は、流路形成部材16の下部に固定されている。流路形成部材16の上面には、液体流入口23と液体流出口24とが形成されている。
【0023】
図4は、図3に示す流路形成部材16を下から見た図である。図5は、図3に示すB−B線断面図である。流路形成部材16の内部には、研磨テーブル2の半径方向に延びる仕切り18が配置されており、この仕切り18によって流路形成部材16の内部空間は、第1の液体流路21および第2の液体流路22に分けられている。第1の液体流路21および第2の液体流路22は直列に接続されている。より具体的には、第1の液体流路21の下流側端部は、第2の液体流路22の上流側端部に接続されている。第1の液体流路21は、液体流入口23に連通しており、第2の液体流路22は、液体流出口24に連通している。
【0024】
液体供給システム30からの液体は、液体流入口23を介して第1の液体流路21に供給される。液体は、第1の液体流路21および第2の液体流路22をこの順に流れ、液体と研磨パッド3との間で熱交換が行われる。液体は、液体流出口24から排出され、液体供給システム30の液体供給タンク31に戻される。
【0025】
第1の液体流路21内には、複数の(図4に示す例では13個の)バッフル25が配置されている。これらバッフル25は、仕切り18に対して略垂直に延びるプレートであり、互いに平行に配列されている。バッフル25は、交互にずらして配置されており、これにより第1の液体流路21はジグザグ流路を構成している。仕切り18は、円形の研磨テーブル2(または研磨パッド3)の半径方向に延びており、バッフル25は研磨テーブル2の略周方向に延びている。したがって、第1の液体流路21内の液体は、研磨テーブル2の回転方向と、研磨テーブル2の回転方向に逆らう方向に交互に進行する。
【0026】
同様に、第2の液体流路22内には、複数の(図4に示す例では13個の)バッフル25が配置されており、第2の液体流路22はジグザグ流路を構成している。第2の液体流路22内の液体は、研磨テーブル2の回転方向と、研磨テーブル2の回転方向に逆らう方向に交互に進行する。本実施形態では、仕切り18およびバッフル25は流路形成部材16と一体に形成されているが、別部材としてもよい。
【0027】
板部材15は、CVD(Chemical Vapor Deposition)によりSiC(炭化ケイ素)を板状に堆積させることによって形成されている。このようなCVD技術を使用することにより、薄い板部材15を形成することができる。例えば、図14乃至図16に示す従来の流路形成部材の接触部の厚さが約3mmであるのに対して、図5に示す板部材15の厚さは、0.7〜1.0mmである。また、CVDにより形成されたSiCは、焼結SiCよりも熱伝導率に優れている。したがって、CVDにより形成された薄いSiC板部材15を使用することにより、液体と研磨パッド3との熱交換効率を向上させることができる。なお、製造コストなどの観点から、焼結SiCにより板部材15を形成してもよい。この場合も、板部材15はできるだけ薄くすることが好ましい。例えば、焼結SiCから形成された板部材15の厚さは約1.0mmとされる。
【0028】
流路形成部材16は、セラミックから形成されている。流路形成部材16は、下端開口部を有した容器の形状を有しており、その下端開口部は板部材15により閉じられている。流路形成部材16と板部材15とは、接着剤によって互いに接合されている。接着剤としては、フリットガラスを使用することができる。フリットガラスは、ガラス接合技術に基づいた接着剤であり、セラミックとSiCとを接合することが可能である。フリットガラスの線膨張係数は、セラミックおよびSiCの線膨張係数とほぼ同じであり、フリットガラスを用いることにより熱応力を抑制することができる。
【0029】
パッド接触部材11を流れる液体の熱により、流路形成部材16および板部材15はある程度変形する。このような熱膨張の影響をできるだけ少なくするために、流路形成部材16を形成するセラミックは、板部材15を形成するSiCと実質的に同じ線膨張係数を有することが好ましい。
【0030】
板部材15は、流路形成部材16の周壁および仕切り18のみならず、複数のバッフル25にも固定されている。したがって、薄い板部材15の機械的強度が補強され、液体の圧力による板部材15の変形が防止される。このように、複数のバッフル25により板部材15が支持されるので、より薄い板部材15を使用することができ、結果として熱交換効率を上げることができる。
【0031】
流路形成部材16の上部には、上述した液体流入口23および液体流出口24が形成されている。液体流入口23および液体流出口24は、いずれも研磨パッド3の外周側部位の上方に位置している。液体流入口23は、研磨テーブル2(研磨パッド3)の回転方向に関して、液体流出口24よりも下流側に位置している。これは、液体を研磨パッド3の回転方向と反対の方向に流すことで、液体と研磨パッド3との熱交換の効率を上げるためである。第1の液体流路21および第2の液体流路22はジグザグ流路を形成しているが、全体としては研磨パッド3の半径方向に延びている。したがって、液体は、第1の液体流路21および第2の液体流路22を蛇行しながら、研磨パッド3の半径方向に進行する。
【0032】
基板の研磨中、研磨パッド3はその中心周りに回転するため、研磨パッド3の外周側部位の温度は、研磨パッド3の中心側部位の温度よりも低くなる。このため、研磨中の研磨パッド3の表面には、その半径方向に沿って温度勾配が存在する。この温度勾配は、基板の研磨に悪影響を与えることがあるため、研磨パッド3の温度勾配をなくすことが好ましい。そこで、研磨パッド3の温度勾配を解消するために、パッド接触部材11の幅は、研磨テーブル2(研磨パッド3)の中心に向かって徐々に小さくなっている。
【0033】
図4に示すように、第1の液体流路21および第2の液体流路22は、液体が蛇行するジグザグ流路を構成する。このジグザグ流路は、径方向に延びる仕切り18に対して略垂直に延びる複数の流路区間を有している。研磨パッド外周側に位置する流路区間の長さL1(図4参照)は、研磨パッド中心側に位置する流路区間の長さL2よりも長くなっている。より具体的には、仕切り18に対して略垂直に延びる流路区間の長さは、研磨パッド中心側から研磨パッド外周側に向かって徐々に増加している。したがって、研磨パッド3の中心側部位よりも外周側部位での熱交換が促進され、研磨パッド3の表面の温度勾配を解消することができる。なお、図3乃至図5に示すパッド接触部材11の形状は、その中心線、すなわち仕切り18に関して左右対称とはなっていないが、パッド接触部材11を仕切り18に関して左右対称な扇形状としてもよい。
【0034】
第1の液体流路21および第2の液体流路22を流れる液体の平均流速は、0.7m/sec以上、1.0m/sec未満であることが好ましい。これは、液体の平均流速が1.0m/secを超えると、キャビテーションが起こりやすくなり、熱交換効率が低下してしまうからである。液体の平均流速を1.0m/sec未満に制限するために、研磨パッド中心側のジグザグ流路の断面積を大きくすることが好ましい。図4に示すように、研磨パッド中心側のジグザグ流路の幅w1は、研磨パッド外周側のジグザグ流路の幅w2よりも広くなっている。このような構成とすることにより、液体の平均流速が遅くなり、キャビテーションの発生を防止することができる。
【0035】
液体は、液体流入口23からパッド接触部材11に流入し、第1の液体流路21を蛇行しながら研磨テーブル2(研磨パッド3)の中心に向かって流れる。さらに、液体は、第1の液体流路21の下流側端部でその進行方向を変え、第2の液体流路22を蛇行しながら研磨テーブル2(研磨パッド3)の半径方向外側に進行する。このように、液体は、複数のバッフル25に沿って研磨パッド3の周方向に流れるので、研磨パッド3と液体との熱交換効率を上げることができる。すなわち、液体は、研磨パッド3の回転方向とは反対の方向に流れるので、液体の研磨パッド3との熱交換効率を向上させることができる。したがって、研磨パッド3の表面温度を目標温度にまで速やかに上昇させることができる。その結果、基板処理のスループットを向上させることができる。
【0036】
図6は、研磨パッド3の表面温度を測定した実験結果を示すグラフである。図6のグラフにおいて、太い実線は、図3乃至図5に記載されたパッド接触部材11を用いたときの研磨パッド3の表面温度の変化を示し、細い実線は、図14乃至図16に示す従来のパッド接触部材を用いたときの研磨パッド3の表面温度の変化を示し、一点鎖線は、パッド接触部材を用いなかったときの研磨パッド3の表面温度の変化を示している。
【0037】
図14乃至図16に示す従来のパッド接触部材を流れる液体の平均流速は、約0.3m/secであり、一方、図3乃至図5に示すパッド接触部材11を流れる液体の平均流速は、約0.7m/secであった。図6に示すグラフから、本実施形態に係るパッド接触部材11を用いることにより、研磨パッド3の表面温度を所定の目標温度に速やかに上昇させることができることが分かる。
【0038】
基板の研磨は、上述のパッド温度調整機構5により研磨パッド3の表面温度を調整しながら行われる。基板の研磨が行われていないときは、パッド接触部材11はエアシリンダー12により持ち上げられ、パッド接触部材11は研磨パッド3の表面(研磨面)から離される。これにより、パッド接触部材11のパッド接触面の不要な摩耗を防止することができる。基板の研磨が終了した後、モータ13によりアーム14を旋回させてパッド接触部材11を所定の退避位置に移動してもよい。
【0039】
基板の研磨中は、基板はトップリング1に保持され、研磨パッド3に押し付けられる。しかしながら、研磨中に基板がトップリング1から外れてしまうことが稀にある。基板がトップリング1から外れると、基板がパッド接触部材11に衝突し、該パッド接触部材11に損傷を与えてしまう。このようなパッド接触部材11の損傷を防止するために、パッド接触部材11または該パッド接触部材11を支持するアーム14に基板検知センサー(図示せず)を設け、基板検知センサーがトップリング1から飛び出した基板を検知したときは、パッド接触部材11をエアシリンダー12により持ち上げるようにすることが好ましい。
【0040】
セラミックからなる流路形成部材16を通じた液体の放熱を低減させるために、図7に示すように、第1の液体流路21および第2の液体流路22を形成する流路形成部材16の内面を断熱材27で覆うことが好ましい。断熱材27は、流路形成部材16の内面の上部および側部を覆うように配置される。使用される断熱材27は、樹脂からなる断熱シート、または樹脂コーティングなどである。このように、断熱材27を流路形成部材16の内面に取り付けることにより、第1の液体流路21および第2の液体流路22を流れる液体からの放熱を防止することができる。
【0041】
図8は、流路形成部材16の他の例を示す図である。特に説明しない構成は、図3乃至図5に示す流路形成部材16と同様である。図8に示す例では、流路形成部材16の内側には仕切りは設けられていなく、したがって流路形成部材16内には1つの液体流路20が形成されている。液体流路20内には、研磨テーブル2(研磨パッド3)の半径方向に対して略垂直に延びる複数のバッフル25が配置されている。これらバッフル25は、交互にずれて配置されており、これにより液体流路20はジグザグ流路となっている。
【0042】
液体流入口23は、液体流路20の一端に接続され、液体流出口24は、液体流路20の他端に接続されている。液体流入口23は、研磨パッド3の外周側部位の上方に位置し、一方、液体流出口24は、研磨パッド3の中心側部位の上方に位置している。図8に示す例では、液体は、液体流入口23から液体流路20に流入し、液体流路20を蛇行しながら研磨パッド3の中心に向かって進み、液体流出口24から排出される。このような研磨パッド3の中心に向かう液体の流れにより、研磨パッド3の表面の温度勾配をより速やかに解消することができる。
【0043】
図9は、パッド接触部材11の他の例を示す斜視図である。図3乃至図5に示す例と同一の要素には同一の符号を付して、その重複する説明を省略する。図9に示す例では、流路形成部材16の上に板部材15が配置されている。したがって、流路形成部材16の下面が研磨パッド3の表面に接触する。図10は、図9に示す流路形成部材16を上から見た図である。図11は、図9に示すC−C線断面図である。
【0044】
板部材15は、符号28で示す複数のボルトまたはねじにより流路形成部材16に固定されている。板部材15は、PVC(ポリ塩化ビニル)から形成されており、流路形成部材16は、焼結SiC(焼結炭化ケイ素)から形成されている。流路形成部材16の下部の厚さは、約2mmである。板部材15には、第1の液体流路21に接続される液体流入口23と、第2の液体流路22に接続される液体入出口24とが形成されている。第1の液体流路21および第2の液体流路22は、図4に示す上述の例における第1の液体流路21および第2の液体流路22と実質的に同じ形状を有している。したがって、この例においても、研磨パッド3の表面温度を速やかに上昇させることができる。
【0045】
図12は、パッド接触部材11に洗浄液を噴射してパッド接触部材11を洗浄する洗浄機構50,50を備えた研磨装置を示す模式図である。洗浄機構50,50は、パッド接触部材11の両側に配置されており、アーム14に固定されている。洗浄機構50,50は、昇降機構としてのエアシリンダー12によりパッド接触部材11と一体に上昇または下降し、さらにモータ13によりパッド接触部材11と一体に旋回する。
【0046】
各洗浄機構50は、洗浄液供給源54に連通するヘッダーチューブ51と、このヘッダーチューブ51に設けられた複数のスプレーノズル52とを備えている。ヘッダーチューブ51は、パッド接触部材11の側面に沿って配置され、複数のスプレーノズル52はパッド接触部材11の側面に対向して配置されている。洗浄液供給源54から供給される洗浄液は、スプレーノズル52からパッド接触部材11の両側面に向けて噴射される。これにより、パッド接触部材11の側面に付着した研磨液(例えば、スラリー)を除去することができる。洗浄液としては、例えば純水が使用される。なお、パッド接触部材11の洗浄は、パッド接触部材11が退避位置にあるときに行なうことが好ましい。
【0047】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0048】
1 トップリング
2 研磨テーブル
3 研磨パッド
4 研磨液供給機構
5 パッド温度調整機構
11 パッド接触部材
12 エアシリンダー
13 モータ
15 板部材
16 流路形成部材
18 仕切り
20 液体流路
21 第1の液体流路
22 第2の液体流路
23 液体流入口
24 液体流出口
25 バッフル
27 断熱材
30 液体供給システム
50 洗浄機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を研磨パッドに摺接させて該基板を研磨する研磨装置において、
前記研磨パッドを支持する研磨テーブルと、
前記研磨テーブル上の前記研磨パッドに前記基板を押し付けるトップリングと、
前記研磨パッドの表面温度を調整するパッド温度調整機構とを備え、
前記パッド温度調整機構は、前記研磨パッドの表面に接触するパッド接触部材と、温度調整された液体を前記パッド接触部材に供給する液体供給システムとを有し、
前記パッド接触部材は、その内部に空間を有し、該空間は仕切りによって第1の液体流路と第2の液体流路とに分けられ、
前記第1の液体流路と前記第2の液体流路は、直列に接続されており、
前記第1の液体流路は、前記液体供給システムに接続された液体流入口に連通し、
前記第2の液体流路は、前記液体供給システムに接続された液体流出口に連通し、
前記第1の液体流路と前記第2の液体流路には、前記研磨テーブルの半径方向に対して略垂直に延びる少なくとも1つのバッフルがそれぞれ配置されていることを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのバッフルは、互いに平行に配置された複数のバッフルであることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つのバッフルは、前記仕切りに対して略垂直に延びることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのバッフルは、交互に位置をずらして配置された複数のバッフルであり、前記複数のバッフルにより、前記第1の液体流路および前記第2の液体流路はジグザグ流路を構成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項5】
研磨パッド中心側に位置する前記ジグザグ流路の幅は、研磨パッド外周側に位置する前記ジグザグ流路の幅よりも広いことを特徴とする請求項4に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記液体流入口および前記液体流出口は、前記研磨パッドの外周側部位の上方に位置することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項7】
前記パッド接触部材は、前記研磨パッドに接触する板部材と、前記仕切りを有する流路形成部材とを有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項8】
前記第1の液体流路および前記第2の液体流路を形成する前記流路形成部材の内面は、断熱材で覆われていることを特徴とする請求項7に記載の研磨装置。
【請求項9】
前記パッド接触部材は、前記研磨パッドに接触する接触面および前記仕切りを有する流路形成部材と、前記流路部材を覆うカバーとを備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項10】
前記仕切りは、前記研磨テーブルの半径方向に延びていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項11】
前記パッド温度調整機構は、前記パッド接触部材を昇降させる昇降機構と、前記パッド接触部材を前記研磨パッドの上方にある所定の上昇位置と前記研磨テーブルの半径方向外側にある所定の退避位置との間で移動させる移動機構とをさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項12】
前記パッド温度調整機構は、前記パッド接触部材を洗浄する洗浄機構をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項13】
基板を研磨パッドに摺接させて該基板を研磨する研磨装置において、
前記研磨パッドを支持する研磨テーブルと、
前記研磨テーブル上の前記研磨パッドに前記基板を押し付けるトップリングと、
前記研磨パッドの表面温度を調整するパッド温度調整機構とを備え、
前記パッド温度調整機構は、前記研磨パッドの表面に接触するパッド接触部材と、温度調整された液体を前記パッド接触部材に供給する液体供給システムとを有し、
前記パッド接触部材は、その内部に液体流路を有しており、
前記液体流路は、前記液体供給システムに接続された液体流入口および液体流出口に連通しており、
前記液体流路には、前記研磨テーブルの半径方向に対して略垂直に延びる少なくとも1つのバッフルが配置されていることを特徴とする研磨装置。
【請求項14】
前記少なくとも1つのバッフルは、互いに平行に配置された複数のバッフルであることを特徴とする請求項13に記載の研磨装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つのバッフルは、交互に位置をずらして配置された複数のバッフルであり、前記複数のバッフルにより、前記液体流路はジグザグ流路を構成することを特徴とする請求項13または14に記載の研磨装置。
【請求項16】
前記液体流入口は、前記研磨パッドの外周側部位の上方に配置されており、前記液体流出口は、前記研磨パッドの中心側部位の上方に配置されていることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−176449(P2012−176449A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39586(P2011−39586)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】