説明

研磨布

【課題】研磨効率を高め被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨布を提供する。
【解決手段】研磨布20は、シート状に形成された不織布2を有している。不織布2は、繊維が網目状に交絡されており、繊維間に空隙が形成されている。不織布2を構成する繊維は、表面が樹脂層で被覆されている。樹脂層は、湿式凝固法により形成されたポリウレタン樹脂が多価イソシアネート化合物で架橋されて形成されている。不織布2は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有しており、細孔3が形成されている。細孔3は、不織布2を構成する繊維の間隙より大きく均一な孔径を有している。不織布2は、細孔3が形成された状態で加熱圧縮処理が施されている。研磨加工時にスラリが細孔3および繊維の間隙を通じて移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨布に係り、特に、繊維が集合したシート状部材に樹脂を含浸し被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する繊維集合体を備えた研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用基板、半導体用シリコンウェハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)の研磨加工には、不織布やフェルト等のシート状に形成された繊維集合体を備えた研磨布が用いられている。
【0003】
このような研磨布では、不織布等を構成する繊維が交絡されており、研磨粒子を含む研磨液(スラリ)を繊維の間隙に貯留させつつ研磨加工が行われる。しかしながら、このタイプの研磨布は柔軟性を有し変形しやすいため、被研磨物の周縁部が中央部より研磨加工されるロールオフが生じやすく平坦性が低下する。ロールオフの発生を回避するには、研磨布の変形を抑制することが必要であるが、変形を抑制するために研磨速度を小さくすると研磨効率が低下する、という問題が生じる。変形しやすさを改善するために、研磨布を加熱加圧することで見かけ比重0.4以上、硬度60度以上とした研磨布が開示されている(特許文献1参照)。ところが、この技術では、加熱加圧することで研磨布を構成する繊維の間隙が小さくなってしまい、スラリの保持性や循環性が低下するうえ、目詰まりの発生も早くなる。
【0004】
スラリの保持性、循環性を改善する技術として、例えば、平均直径23μm以上の繊維を20重量%以上含有し、通気度が10cc/cm/秒以上の不織布を用いた研磨布の技術が開示されている(特許文献2参照)。また、従来多用されたポリエステル繊維に比べて吸水性が高いナイロン繊維に熱融着糸を混綿し成形した不織布を用いた研磨布の技術が開示されている(特許文献3参照)。この技術では、ナイロン繊維にスラリ成分の一部が吸収され保持されることで被研磨物の表面粗さを改善する効果が期待される。また、熱融着繊維と非熱融着繊維とで成形された不織布に、ノニオン性処理剤で親水化処理を施し、さらに熱処理を施すことで硬度を85度以上99度以下とした研磨布の技術が開示されている(特許文献4参照)。更には、発泡ウレタン樹脂に含浸され、その研磨面に複数の孔部と複数の溝部とが形成された不織布を有する研磨布の技術が開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭54−30158号公報
【特許文献2】特開1991−234475号公報
【特許文献3】特開2006−35323号公報
【特許文献4】特許第3953150号公報
【特許文献5】特開2003−334753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の技術では、通気度が定められることで目詰まりの発生は改善されるものの、硬度が不十分なため、平坦性、特にロールオフの改善が十分とはいえない。また、特許文献3、特許文献4の技術では、吸水性を高めることでスラリ保持性が向上するものの、熱ロールなどで加熱加圧し融着させる際に繊維の間隙が潰れて目詰まりが発生しやすくなり、スラリ保持性が早期に低下してしまう。また、特許文献5の技術では、研磨布の全面にわたって溝が形成されているため、研磨加工時に供給されたスラリが溝を通じてそのまま排出されてしまい、スラリが有効活用されずスラリの使用量も増加する、という問題がある。従って、スラリの保持性、循環性を確保しつつ、不織布等の繊維集合体の硬度を改善することが重要である。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、研磨効率を高め被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、繊維が集合したシート状部材に樹脂を含浸し被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する繊維集合体を備えた研磨布において、前記繊維集合体は、前記研磨面側の少なくとも表層に前記繊維の間隙より大きい多数の細孔が形成されており、加熱圧縮により硬質化されたことを特徴とする。
【0009】
本発明では、繊維集合体の研磨面側の少なくとも表層に繊維の間隙より大きい多数の細孔が形成されたことで、研磨加工時に外部から供給される研磨液が細孔および繊維の間隙を通じて被研磨物に循環供給されるため、研磨液循環性を向上させ研磨効率を高めることができると共に、加熱圧縮により硬質化されたことで研磨加工時の変形が抑制され被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0010】
この場合において、細孔が、略均一な孔径を有し、略均等に分散された状態で形成されていることが好ましい。このとき、細孔が、平均孔径を0.5mm以上2.0mm以下とし、研磨面の単位面積あたり1個/cm〜50個/cmの割合で形成されていてもよい。また、繊維集合体を、密度が0.34g/cm〜0.51g/cmの範囲、A硬度が50度〜90度の範囲とすることができる。また、繊維がシート状部材に含浸した樹脂と異なる樹脂で形成されていてもよい。このとき、繊維集合体をポリエステル繊維で成形された不織布とすることができる。ポリエステル繊維が、湿式凝固法により凝固再生したポリウレタン樹脂で表面を被覆されていることが好ましい。このとき、ポリウレタン樹脂が加熱圧縮により多価イソシアネート化合物で架橋されていてもよい。このとき、ポリウレタン樹脂に、熱処理により多価イソシアネート化合物との架橋結合を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維集合体の研磨面側の少なくとも表層に繊維の間隙より大きい多数の細孔が形成されたことで、研磨加工時に外部から供給される研磨液が細孔および繊維の間隙を通じて被研磨物に循環供給されるため、研磨液循環性を向上させ研磨効率を高めることができると共に、加熱圧縮により硬質化されたことで研磨加工時の変形が抑制され被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨布を模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨布を構成し樹脂層が形成された繊維を模式的に示す断面図である。
【図3】実施形態の研磨布の製造工程の概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨布の実施の形態について説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の研磨布20は、シート状に成形された繊維集合体としての不織布2を備えている。不織布2は、繊維が集合し網目状に交絡されており、繊維間に空隙が形成されている。
【0015】
不織布2は、シート状部材としての不織布基材がポリウレタン樹脂溶液に含浸され、水系凝固液中で原料繊維の表面に凝固再生されたポリウレタン樹脂が架橋されることで形成されている。すなわち、図2に示すように、不織布2を構成する繊維15は、原料繊維の表面が樹脂で被覆され樹脂層13が形成されている。原料繊維には、本例では、繊度2.5d(デニール)、繊維長51mmのポリエステル繊維12が用いられている。ポリエステル繊維12が網目状に交絡されて不織布基材が成形されている。樹脂層13は、湿式凝固法により形成されたポリウレタン樹脂が、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート化合物(架橋剤)で架橋処理されて形成されている。ポリウレタン樹脂には、100%モジュラス(2倍長に引っ張る時の張力)が20MPa以下のポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂が用いられている。
【0016】
図1に示すように、不織布2は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有しており、パンチング等により細孔3が略均等に分散した状態で形成されている。細孔3は、不織布2を貫通する長さを有しており、不織布2を構成する繊維15の間隙より大きく略均一な孔径を有している。本例では、細孔3の平均孔径が0.5mm以上2.0mm以下に調整されている。細孔3は、研磨面Pの単位面積あたり1〜50個/cmの割合で形成されている。また、不織布2は、細孔3が形成された状態で加熱圧縮処理、架橋処理が施され硬質化されている。このため、不織布2では、密度が0.34〜0.51g/cmの範囲、A硬度が50〜90度の範囲にそれぞれ調整されている。
【0017】
また、研磨布20は、不織布2の研磨面Pと反対側の面に、研磨機に研磨布20を装着するために、支持材6を介して両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の可撓性フィルムの基材(不図示)を有しており、基材の両面にアクリル系粘着剤等の粘着剤層が形成されている。また、支持材6にはPET製等のフィルムが用いられており、両面テープ7と同様の粘着剤で不織布2と貼り合わされている。両面テープ7は、基材の一面側の粘着剤層で支持材6と貼り合わされており、他面側の粘着剤層が剥離紙8で覆われている。
【0018】
研磨布20は、図3に示すように、ポリエステル繊維12で形成された不織布基材をポリウレタン樹脂溶液に含浸する樹脂含浸工程、ポリウレタン樹脂を凝固再生させる凝固再生工程、ポリエステル繊維12がポリウレタン樹脂で被覆された不織布を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、研磨面P側に細孔3を形成する細孔形成工程、細孔形成後の不織布に加熱圧縮処理を施す加熱圧縮工程、ポリエステル繊維12を被覆したポリウレタン樹脂に架橋結合を形成させる架橋処理工程、得られた不織布2に支持材6、両面テープ7を貼り合わせるラミネート工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0019】
樹脂含浸工程では、ポリウレタン樹脂と多価イソシアネート化合物とを含むポリウレタン樹脂溶液に不織布基材を含浸する。不織布基材としては、本例では、ポリエステル繊維12により成形されたニードルパンチ不織布が使用されている。不織布基材の厚さは、1.5mm未満ではポリウレタン樹脂溶液に含浸後の乾燥時に厚さ方向でポリウレタン樹脂の移動(樹脂マイグレーション)が発生しポリウレタン樹脂の被覆厚さが偏りやすく、5.0mmを超えると不織布基材の内部までポリウレタン樹脂溶液が浸透できなくなるので、1.5〜5.0mmの範囲とすることが好ましい。また、不織布基材の密度は、0.1g/cm未満ではポリウレタン樹脂溶液に含浸してもポリウレタン樹脂がポリエステル繊維12の間隙を通じて流出しポリエステル繊維12に付着しにくく、0.2g/cmを超えるとポリウレタン樹脂の付着量が大きくなり繊維の間隙を塞いでしまうので、0.1〜0.2g/cmの範囲とすることが好ましい。
【0020】
樹脂含浸工程で用いるポリウレタン樹脂は、多価イソシアネート化合物と混合して有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)に溶解させる。このとき、ポリウレタン樹脂溶液のポリウレタン樹脂の固形分濃度が、10重量%未満では不織布2の密度を目標とする値に調整することが難しくなり、40重量%を超えるとポリウレタン樹脂が溶解しにくくなる。また、ポリウレタン樹脂溶液の粘度が1000cPs未満では、流動性が大きくなるため、不織布基材(のポリエステル繊維12)に付着しにくくなり、4000cPsを超える場合には、付着量が大きくなりポリエステル繊維12の間隙を塞いでしまう。従って、含浸工程におけるポリウレタン樹脂溶液は、濃度が10〜40重量%の範囲で粘度が1000〜4000cPsの範囲とすることが好ましい。また、多価イソシアネート化合物の固形分濃度は、1〜4重量%の範囲で用いる。
【0021】
樹脂含浸工程でポリウレタン樹脂溶液に混合する多価イソシアネート化合物としては、例えば、イソシアネート基が2つのジイソシアネート化合物、イソシアネート基が3つのトリイソシアネート化合物、イソシアネート基が4つのテトライソシアネート化合物等を挙げることができる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。トリイソシアネート化合物としては、例えば、トリフェニルメタン−トリイソシアネート等を挙げることができる。テトライソシアネート化合物としては、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等を挙げることができる。また、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、2,4−トリレンジイソシアネートとプレンツカテコールとの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、イソシアヌル酸とヘキサメチレンジイソシアネートとの付加物等のようにイソシアネート化合物をプレポリマ化した多価イソシアネートプレポリマを使用することもできる。これらの多価イソシアネート化合物や多価イソシアネートプレポリマの二種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリウレタン樹脂溶液に不織布基材を浸漬した後、加圧可能な1対のマングルローラを用いて過剰なポリウレタン樹脂溶液を絞り落とし、略均一に含浸させる。含浸後の不織布基材では、ポリエステル繊維12の表面がポリウレタン樹脂と多価イソシアネート化合物とで覆われる。このときのポリウレタン樹脂溶液の温度は、5〜40℃の範囲に調整することが好ましく、20〜30℃の範囲が更に好ましい。含浸工程をこの温度範囲で行うことで、多価イソシアネート化合物による架橋反応の進行が抑制される。
【0023】
凝固再生工程では、樹脂含浸後の不織布をポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする水系凝固液中でポリウレタン樹脂を凝固再生させる。水系凝固液中では、ポリエステル繊維12に付着しているポリウレタン樹脂溶液の表面からDMFと凝固液との置換が進行することでポリウレタン樹脂がポリエステル繊維12の表面に凝固再生される。凝固再生は、5〜40℃の温度範囲で行われる。凝固再生をこの温度範囲で行うことで、含浸工程と同様に多価イソシアネート化合物による架橋反応の進行が抑制される。
【0024】
洗浄・乾燥工程では、ポリエステル繊維12の表面にポリウレタン樹脂が凝固再生された不織布を水等の洗浄液中に浸漬し、不織布中に残存するDMF等を除去する。洗浄後、不織布を洗浄液から引き上げ、マングルローラで余分な洗浄液を絞り落とす。その後、不織布を100〜130℃の乾燥機中で乾燥させる。
【0025】
細孔形成工程では、樹脂層形成後の不織布の研磨面P側にパンチング処理が施される。パンチング処理には、例えば、ファイバーロッカー等の装置が用いられる。この装置では、細孔の孔径、深さに合わせた針を有する針板が装着されており、この針板の針の密度が2〜4本/cmに調整されている。本例では、針の直径が0.5〜2mmの範囲、長さが1〜100mmの範囲に設定されている。針板は針を下側に向けて装着されており、針板の下方には、針板と対向するように略平坦な受け板が装着されている。受け板には、針板の針に対応するように穴が形成されている。パンチング処理時には、針板を受け板に向けて上下に動かし、不織布の上面側から針板の針でパンチング処理を施す。不織布に形成される細孔3の形成割合は、針板を単位時間あたりに上下に動かすストローク回数と不織布の送り速度とで定められる。この処理により、細孔3が形成された不織布が作製される。
【0026】
加熱圧縮工程では、細孔3が形成された不織布を加熱しながら加圧して圧縮する。細孔3の形成後の不織布を、例えば、対向配置され平坦面を有する2つの金属板で挟み込む。各金属板の温度を約140〜150℃に設定し5〜15kg/cm程度の圧力をかけておよそ30秒〜5分間の加熱圧縮処理を施す。この加熱圧縮処理により、細孔3が形成された不織布の密度が上述した範囲に調整される。架橋処理工程では、加熱圧縮後の不織布を、約110〜130℃に設定された加熱機中でおよそ14〜18時間熱処理する。この熱処理により、ポリエステル繊維12を被覆したポリウレタン樹脂に多価イソシアネート化合物による架橋結合が形成され、ポリエステル繊維12の表面が架橋ポリウレタン樹脂で被覆された繊維15が形成される。得られた不織布2では、加熱圧縮処理、架橋処理が施されたことで硬度が上述した範囲に調整される。
【0027】
不織布2の密度は、0.34g/cm未満ではポリエステル繊維12を被覆した樹脂層13の全体の樹脂量が少なく研磨布での強度が不足し、0.51g/cmを超えるとポリウレタン樹脂で被覆され樹脂層13が形成された繊維15の間隙が塞がれてしまい研磨加工時に研磨液を貯留することができなくなるので、0.34〜0.51g/cmの範囲に設定することが好ましい。不織布2の密度は、含浸工程におけるポリウレタン樹脂溶液の含浸量や加熱圧縮工程における圧力により調整することができる。
【0028】
ラミネート工程では、不織布2の研磨面Pと反対の面側に、支持材6を介して両面テープ7を一面側の粘着剤層で貼り合わせる。両面テープ7の他面側には剥離紙8が残されている。そして、円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、キズや汚れ、異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨布20を完成させる。
【0029】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨布20を両面テープ7の剥離紙8を剥離し露出した粘着剤層で貼着する。研磨加工時には、被研磨物および研磨面P間に研磨粒子を含む研磨液(スラリ)を供給すると共に、被研磨物および研磨面P間を加圧しながら研磨定盤を回転させることで、被研磨物を研磨加工する。
【0030】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨布20の作用等について説明する。
【0031】
本実施形態では、不織布2に細孔3が形成されている。細孔3は、不織布2を構成する繊維15の間隙より大きく略均一な孔径を有しており、略均等に分散された状態で形成されている。このため、研磨加工時に外部から供給されるスラリ(研磨粒子を含む研磨液)が細孔3および繊維15の間隙を通じて移動するので、被研磨物に均等に循環供給される。これにより、スラリの循環性が向上するので、研磨効率の向上を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態では、ポリエステル繊維12の表面に樹脂層13が形成された繊維15で不織布2が構成されている。この樹脂層13は湿式凝固法により形成されたポリウレタン樹脂が多価イソシアネート化合物で架橋されている。湿式凝固法では、溶媒に用いたDMFと凝固液の水との置換によりポリウレタン樹脂が凝固再生することから、ポリウレタン樹脂が多孔状に形成される。このため、ポリエステル繊維12の表面を被覆した樹脂層13が多孔状となることから、本来ポリエステル繊維12が吸液(水)性を有していないことと比べて、研磨加工時に供給されたスラリが多孔状の樹脂層13に吸液され保持される。これにより、スラリ保持性が向上するので、研磨効率を高めることができる。
【0033】
更に、本実施形態では、不織布2が加熱加圧されて圧縮され、更には、熱処理されてポリウレタン樹脂に架橋結合が形成されており、不織布2のA硬度が50〜90度の範囲に調整されている。このため、元々柔軟な不織布基材と比べて、不織布2の硬度が増大する。これにより、研磨加工時の変形が抑制されるので、被研磨物を略平坦に研磨加工することができ、平坦性向上を図ることができる。A硬度が50度に満たない場合は、不織布が柔軟となることから、研磨加工時に被研磨物にロールオフ(端部が中央部より過剰に研磨加工された状態)を生じ、平坦性を損なうこととなる。反対に、A硬度が90度を超えた場合は、被研磨物にキズ発生等を招くことがある。また、不織布2の製造時には、樹脂含浸工程でポリウレタン樹脂溶液に多価イソシアネート化合物を混合しておき、架橋処理工程での加熱により架橋反応を生じさせる。このため、架橋処理前の加熱圧縮工程ではポリウレタン樹脂が架橋されていない状態で加熱加圧されることから、不織布が柔軟性を残しているので、加熱圧縮処理を効率よく、かつ、均等に施すことができる。
【0034】
また更に、本実施形態では、細孔3が、平均孔径0.5mm以上2.0mm以下に調整され、研磨面Pの単位面積あたり1〜50個/cmの割合で形成されている。細孔3の平均孔径が0.5mmに満たない場合は、細孔3の形成後の加熱圧縮時や架橋処理時に細孔3が塞がってしまうため、スラリの循環性、保持性の向上が難しくなる。反対に、細孔3の平均孔径が2.0mmを超えた場合は、スラリを均等、均一に分散保持するために必要な細孔の形成割合を確保することが難しくなる。また、細孔3の形成割合が1個/cmに満たないと、スラリの循環供給の均一化、均等化が不十分となり、50個/cmを超えると不織布2の強度が不足するため好ましくない。従って、細孔3の平均孔径および形成割合を上述した範囲とすることで、スラリの循環性、保持性を確保することができる。スラリの循環供給の均一化、均等化と、不織布2の強度とのバランスを考慮すれば、細孔3の形成割合を2〜10個/cmの範囲とすることが好ましい。
【0035】
更にまた、本実施形態では、不織布2の密度が0.34g/cm〜0.51g/cmの範囲に調整されている。密度が0.34g/cm未満では樹脂層13の全体の樹脂量が少なく研磨布20の強度が不足することとなり、0.51g/cmを超えると繊維15の間隙が塞がれてしまい研磨加工時にスラリを貯留することができなくなる。従って、不織布2の密度を上述した範囲とすることで、不織布2の強度を向上させつつスラリの循環性、保持性を確保することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、不織布2を構成する原料繊維としてポリエステル繊維12を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。ポリエステル繊維12以外に、例えば、ナイロン繊維等のポリアミド繊維やポリウレタン繊維等の樹脂繊維を用いてもよく、綿、麻等の天然繊維を用いることもできる。製造工程中でDMF等の有機溶媒や水等の洗浄液を吸収することによる原料繊維の膨潤を防止することや原料繊維の量産性を考慮すれば、吸水(液)性を有していない樹脂繊維を用いることが好ましい。原料繊維の繊度や繊維長に制限のないことはいうまでもない。
【0037】
また、本実施形態では、繊維集合体の不織布基材としてニードルパンチ不織布を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。ニードルパンチ不織布以外に水流交絡による不織布等を用いてもよい。厚さ1.5〜5.0mmの範囲の不織布が好ましいことを考慮すれば、ニードルパンチ不織布を用いることが好適である。また、不織布に代えて、織物や編物を用いることも可能である。
【0038】
更に、本実施形態では、細孔3が不織布2を貫通するように形成された例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。細孔3がスラリの循環性、保持性を向上させる役割を果たすことから、少なくとも表層に形成されていればよい。また、細孔3の形成にファイバーロッカー等の装置を用いる例を示したが、本発明は細孔形成の装置や方法に制限されるものではない。
【0039】
また更に、本実施形態では、不織布2を構成する繊維15が湿式凝固法により凝固再生され架橋されたポリウレタン樹脂の樹脂層13を有する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。湿式凝固法以外の方法を用いることも可能であるが、原料繊維の表面に均等、均一な樹脂層を形成することを考慮すれば、湿式凝固法で形成することが好ましい。また、樹脂層13を形成する樹脂としてポリウレタン樹脂以外に、例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂やポリビニルクロライド等で用いるようにしてもよい。上述したように、原料繊維として吸水性を有していない樹脂繊維を用いる場合は、スラリに対する吸液性を考慮すれば、湿式成膜法により多孔状に形成されるポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。換言すれば、原料繊維を形成する樹脂と、樹脂層13を形成する樹脂とが異なることが好ましい。
【0040】
更にまた、本実施形態では、不織布2を構成する繊維15の表面のポリウレタン樹脂が多価イソシアネート化合物で架橋された例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。多価イソシアネート化合物以外の架橋剤で架橋するようにしてもよく、架橋せずに用いることも可能である。研磨加工時の発熱により樹脂層が軟化する可能性があることを考慮すれば、架橋されていることが好ましく、ポリウレタン樹脂と同様のウレタン結合を形成する多価イソシアネート化合物で架橋することが好ましい。また、架橋処理工程で熱処理することにより架橋結合を形成させる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、架橋剤の選定により熱処理せずに架橋結合を形成することも可能である。加熱圧縮工程における効率や均等性の観点から、加熱圧縮時には架橋結合が形成されていないことが好ましく、加熱圧縮工程後の架橋処理工程における熱処理で架橋結合を形成することが好ましい。
【0041】
また、本実施形態では、不織布2と支持材6、両面テープ7とを貼り合わせた例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、支持材6を貼り合わせていなくてもよく、両面テープ7に代えて不織布2に粘着剤のみを塗布し、剥離紙8を貼り合わせるようにしてもよい。研磨布10の搬送時や研磨機への装着時の取り扱いを容易にすることを考慮すれば、支持材6を貼り合わせることが好ましく、基材を有する両面テープ7を用いることが好ましい。支持材6、両面テープ7の基材や粘着剤の材質にも特に制限されないことはもちろんである。
【実施例】
【0042】
次に、本実施形態に従い製造した研磨布20の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨布についても併記する。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、不織布基材に、繊度2.5dのポリエステル繊維で形成された厚さ3.0mm、密度0.138g/cmのニードルパンチ不織布を用いた。含浸工程では、100%モジュラスが9MPaのエステル系ポリウレタン樹脂のDMF溶液と、架橋剤の3官能末端イソシアネート化合物とをDMFに溶解したポリウレタン樹脂溶液を用いた。ポリウレタン樹脂溶液では、ポリウレタン樹脂のDMF溶液の490重量部に対して、架橋剤の25重量部、DMFの485重量部を配合した。このポリウレタン樹脂溶液の樹脂固形分濃度、架橋剤濃度は、樹脂分換算でそれぞれ17.2重量%、1.9重量%であり、粘度は2000cPsであった。ポリウレタン樹脂溶液にニードルパンチ不織布を、不織布(ウェブ)に対するポリウレタン樹脂溶液の含浸量が115%となるように含浸させ、湿式凝固、洗浄・乾燥させた。次いで、細孔3を形成した後、熱処理を施した。細孔3の形成では、処理機の針を直径0.5mm、長さ5mmとし、形成割合が5個/cmとなるように針板のストローク回数と不織布の送り速度を調整した。加熱圧縮時には、温度145℃で2分間、圧力10kg/cmで処理した。その後、約120℃に設定された加熱機中でおよそ16時間熱処理しポリウレタン樹脂に架橋結合を形成させた。支持材6、両面テープ7を貼り合わせることで実施例1の研磨布20を製造した。
【0044】
(比較例1、比較例2)
比較例1では、細孔3を形成しないこと以外は実施例1と同様にして研磨布を製造した。また、比較例2では、細孔3を形成せず、加熱圧縮処理、架橋処理を施さないこと以外は実施例1と同様にして研磨布を製造した。すなわち、比較例2の研磨布は従来の研磨布である。
【0045】
(研磨性能評価)
各実施例および比較例の研磨布を用いたシリコンウェハの研磨加工を、以下の条件で行い、研磨レート、ロールオフ、スクラッチの有無により研磨性能を評価した。研磨レートは、研磨効率を示す数値の一つであり、1分間あたりの研磨量を厚さの単位で表したものである。研磨加工前後の被研磨物の重量減少を測定し、被研磨物の研磨面積および比重から計算により算出した。ロールオフは、被研磨物の周縁部が中心部より過度に研磨加工されることで生じ、平坦性を評価するための測定項目の1つである。測定方法としては、例えば、光学式表面粗さ計にて外周端部から中心に向かい0.5mmの位置より半径方向に1.5mmの範囲で2次元プロファイル像を得る。得られた2次元プロファイル像において、半径方向をX軸、厚み方向をY軸としたときに、外周端部からX=0.5mmおよびX=1.5mmの座標位置のY軸の値がY=0となるようにレベリング補正し、このときの2次元プロファイル像のX=0.5〜1.5mm間におけるPV値を求めた。ロールオフの測定には、表面粗さ測定機(Zygo社製、型番New View 5022)を使用した。スクラッチの有無は、研磨加工後の被研磨物を目視にて判定した。研磨レート、ロールオフ、スクラッチの有無の測定結果を下表1に示す。
使用研磨機:不二越株式会社製、MCP−150X
回転数:(定盤)100r/m、(トップリング)75r/m
研磨圧力:330g/cm
揺動幅:10mm(揺動中心値より200mm)
揺動移動:1mm/min
研磨剤:ニッタハース社製、品番ナルコ2350(2350原液:水=1:9の混合液を使用)
被研磨物:8インチφシリコンウェハ(厚み750μm)
研磨時間:20分間
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、比較例1の研磨布を用いた研磨加工では、研磨レートが0.46μm/min、ロールオフが169nmであった。これに対して、実施例1の研磨布20を用いた研磨加工では、ロールオフが151nmと低減(改善)し、研磨レートは0.51μm/minと大きく向上した。また、比較例1では被研磨物にスクラッチが認められたのに対して、実施例1ではスクラッチが認められなかった。研磨布20では、細孔3を形成することでスラリの保持性、循環性が向上したこと、および、熱処理により高硬度化、低圧縮化されたためと考えられる。また、比較例2の研磨布を用いた場合は、研磨レートが0.42μm/min、ロールオフが297nmであった。比較例2では、細孔3が形成されていないものの、不織布自体に繊維の間隙が形成されているため、ある程度のスラリ循環性が発揮され研磨レートが得られたと考えられる。ところが、柔軟なためロールオフが不十分な結果となったと考えられる。従って、ポリウレタン樹脂で表面を被覆された繊維15で形成された不織布2に細孔3を形成し熱処理を施した研磨布20では、高硬度化、低圧縮化されており、スラリの保持性、循環性を高めて有効利用することができると共に、研磨屑等による目詰まりを抑制してスクラッチ等の欠点を低減することができ、端部形状(ロールオフ)も改善することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は研磨効率を高め被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨布を提供するものであるため、研磨布の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0049】
P 研磨面
2 不織布(繊維集合体)
3 細孔
13 樹脂層
15 繊維
20 研磨布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維が集合したシート状部材に樹脂を含浸し被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する繊維集合体を備えた研磨布において、前記繊維集合体は、前記研磨面側の少なくとも表層に前記繊維の間隙より大きい多数の細孔が形成されており、加熱圧縮により硬質化されたことを特徴とする研磨布。
【請求項2】
前記細孔は、略均一な孔径を有しており、略均等に分散された状態で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項3】
前記細孔は、平均孔径が0.5mm以上2.0mm以下であり、前記研磨面の単位面積あたり1個/cm〜50個/cmの割合で形成されたことを特徴とする請求項2に記載の研磨布。
【請求項4】
前記繊維集合体は、密度が0.34g/cm〜0.51g/cmの範囲、A硬度が50度〜90度の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の研磨布。
【請求項5】
前記繊維は、前記シート状部材に含浸した樹脂と異なる樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項6】
前記繊維集合体は、ポリエステル繊維で成形された不織布であることを特徴とする請求項5に記載の研磨布。
【請求項7】
前記ポリエステル繊維は、湿式凝固法により凝固再生したポリウレタン樹脂で表面を被覆されたことを特徴とする請求項6に記載の研磨布。
【請求項8】
前記ポリウレタン樹脂は、多価イソシアネート化合物で架橋されたことを特徴とする請求項7に記載の研磨布。
【請求項9】
前記ポリウレタン樹脂には、熱処理により前記多価イソシアネート化合物との架橋結合が形成されたことを特徴とする請求項8に記載の研磨布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−221316(P2010−221316A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69376(P2009−69376)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】