説明

研磨用組成物および研磨方法

【課題】一般的な金属配線材料を含む基板の研磨に適した研磨用組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の研磨用組成物は、(a)砥粒、(b)錯化剤、(c)金属防食剤を含む研磨用組成物であって、(a)砥粒が複数の突起を表面に有し、砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の高さをそれぞれ同じ突起の基部における幅で除することにより得られる値の平均が0.245以上である。さらには、砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の平均高さは2.5nm以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体集積回路(以下「LSI」という。)における、金属を含む基板表面(以下「研磨対象物」という。)の研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化・高速化に伴って、新たな微細加工技術が開発されている。化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下「CMP」という。)法もその一つであり、LSI製造工程、特に、多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、コンタクトプラグの形成、埋め込み配線の形成に適用されている。この技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
埋め込み配線の形成においては、配線材料となる導電性物質として、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、銅(Cu)またはそれらの合金が用いられている。そして、このような金属配線材料を含む基板表面を研磨する際に用いられる金属用の研磨用組成物は、典型的には、錯化剤および酸化剤を含有し、さらに必要に応じて砥粒を含有して効果的にエッチングを利用して研磨する。また、研磨後の研磨対象物の平滑性を改善するべく、金属防食剤をさらに添加した研磨用組成物を使用することも有効であるとされている。例えば、特許文献2には、アミノ酢酸および/またはアミド硫酸、酸化剤、ベンゾトリアゾールおよび水を含有した研磨用組成物を使用することの開示がある。
【0004】
しかし、金属配線材料を含む基板表面を研磨する際に用いられる典型的な研磨用組成物の組成、特に上述した錯化剤、酸化剤及び金属防食剤の種類、含有量及び組合せについては種々検討されているが、全ての条件で使用できる万能な組合せは見当たらない。錯化剤、酸化剤及び金属防食剤の含有量の比や組合せがずれると、スクラッチ欠陥の発生や平坦性が損なわれるといった課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−102543号公報
【特許文献2】特開平8−83780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、一般的な金属配線材料を含む基板を研磨する用途で好適に用いることができる研磨用組成物を提供することにある。特に、従来の金属配線材料を含む基板を研磨するための典型的な研磨用組成物が洗浄等で当該基板上において希釈される環境において、研磨用組成物(特に錯化剤)が希釈されるにもかかわらず金属配線材料に対するエッチングが発生し、金属配線材料表面等の平滑性を損なうという新たな課題を見出した。本発明の目的は、前記の新たな課題を解決した研磨用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の砥粒を含むことで、金属配線材料表面等の平滑性を向上させる研磨用組成物を見出した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
<1>(a)砥粒、(b)錯化剤、(c)金属防食剤を含む研磨用組成物であって、
前記(a)砥粒が複数の突起を表面に有し、前記砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の高さをそれぞれ同じ突起の基部における幅で除することにより得られる値の平均が0.245以上であることを特徴とする研磨用組成物。
<2>砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の平均高さは2.5nm以上である。
<3>砥粒が、コロイダルシリカである。
<4>砥粒の平均二次粒子径が、30nm〜100nmのコロイダルシリカである。
<5>研磨用組成物が、金属を含む基板を研磨する用途で使用される。
<6>前記金属が銅を含む。
<7>前記<1>〜<6>のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて、金属を研磨する研磨方法。
<8>前記<7>の研磨方法を用いる工程を有する、金属を含む基板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一般的な金属配線材料を含む基板を研磨する用途で好適に用いることができる研磨用組成物が提供される。特に、金属配線材料表面等の平滑性の向上に効果的な研磨用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る研磨用組成物中に含まれる砥粒粒子の外形を投影した輪郭を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、先に背景技術欄において説明したようなLSIを製造するための研磨に使用され、特に金属用の研磨工程で主に使用されるのが好ましい。従って、この研磨用組成物は、LSI製造で金属が用いられる配線やコンタクトホール、ビアホールを形成する研磨用途等で使用される。その際の金属としては、例えば、銅、タングステン、タンタル、チタン、コバルト、ルテニウム、ならびにそれらの酸化物、合金および化合物が挙げられる。その中でも銅、タンタル、チタン、ルテニウムならびにそれらの酸化物、合金および化合物が好ましく、銅ならびにそれらの酸化物、合金および化合物がより好ましい。
【0012】
本実施形態の研磨用組成物は、特定の砥粒を含み、さらに任意で他の添加剤とともに、水などの溶媒に混合して調製される。そして、本実施形態の研磨用組成物は、研磨対象物上の金属配線材料表面等の平滑性の向上に効果的な研磨用組成物が提供される。平滑性とは、研磨後の研磨対象物である基板表面の平ら度合いや滑らか度合いをいい、例えば表面粗さ(Ra)、自乗平均面粗さ(RMS)等であらわされる。従来の金属配線材料を含む基板を研磨するための典型的な研磨用組成物の使用において、前記の平滑性が損なわれる原因としては、酸化剤による研磨対象物への過度の酸化、錯化剤による研磨対象物への過度のエッチング、研磨対象物への金属防食剤の効果が低い等が挙げられる。そして、この平滑性が損なわれる原因となる現象が発生する環境としては、研磨用組成物の条件の異なる研磨工程への転用に伴う組成、各含有量及び組み合わせ等のミスマッチ並びに研磨工程前後にある洗浄工程等で研磨用組成物が希釈されることにともなう組成及び含有量の最適範囲のずれ等が考えられる。特に、発明者らは、従来の金属配線材料を含む基板を研磨するための典型的な研磨用組成物が洗浄等で当該基板上において希釈される環境において、研磨用組成物が希釈されるにもかかわらず金属配線材料に対するエッチングが発生し、金属配線材料表面等の平滑性を損なうという新たな課題を見出した。
【0013】
この金属配線材料表面等の平滑性低下は、従来のディッシングやエロージョンといった課題と異なり、基盤表面(特に金属配線材料表面)に不規則かつ局所的に発生する欠陥である。メカニズムの詳細は分かっていないが、おそらく次の3つのいずれかであると考えられる。
【0014】
(1)錯化剤のエッチング作用が強く、研磨用組成物の希釈に伴い金属防食剤の濃度が低下して金属防食効果が低下し、平滑性が低下する。
(2)研磨用組成物の希釈が不均一に起こり、部位によって錯化剤のエッチング作用が金属防食剤の効果を上回ることによって平滑性が低下する。
(3)研磨用組成物の希釈に伴い、研磨用組成物中の砥粒濃度が低下し、研磨対象物表面の機械的除去効果が低下し、平滑性が低下する。
【0015】
(砥粒)
本実施形態の研磨用組成物は、特定の砥粒を含む。本発明の特定の砥粒とは、具体的には複数の突起を表面に有する砥粒を含む砥粒をいう。この特定の砥粒を使用することにより前述の平滑性低下を抑制できるメカニズムの詳細は定かではないが、おそらく砥粒が表面に複数の突起を持つことにより研磨対象物表面の機械的除去効果が増大するからであると推測される。そして、その効果は、砥粒を含む研磨用組成物が洗浄等で希釈される環境においても、複数の突起を表面に持たない砥粒と比較して維持されるからだと推測される。
【0016】
使用可能な砥粒は、無機粒子、有機粒子、及び有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアなどの金属酸化物からなる粒子、並びに窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子及び窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。その中でもシリカ粒子が好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0017】
砥粒は表面修飾されていてもよい。通常のコロイダルシリカは、酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件でもゼータ電位が比較的大きな負の値を有するように表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する結果、研磨用組成物の保存安定性を向上させることになる。このような表面修飾砥粒は、例えば、アルミニウム、チタン又はジルコニウムなどの金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープさせることにより得ることができる。
【0018】
研磨用組成物中の砥粒が表面に有している突起の数は、砥粒1つあたり平均で3つ以上であることが好ましく、より好ましくは5つ以上である。
【0019】
ここでいう突起とは、砥粒の粒子径に比べて十分に小さい高さ及び幅を有するものである。さらに言えば、図1において点A及び点Bを通る曲線ABとして示されている部分の長さが、砥粒粒子の最大内接円の円周長さ、より正確には、砥粒粒子の外形を投影した輪郭に内接する最大の円の円周長さの4分の1を超えないような突起である。なお、突起の幅とは、突起の基部における幅のことをいい、図1においては点Aと点Bの間の距離として表されるものである。また、突起の高さとは、突起の基部と、その基部から最も離れた突起の部位との間の距離のことをいい、図1においては直線ABと直交する線分CDの長さとして表されるものである。
【0020】
研磨用組成物中の砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の高さをそれぞれ同じ突起の基部における幅で除することにより得られる値の平均は0.245以上であることが必須であり、好ましくは0.255以上である。この値の平均が0.245以上である場合には、突起の形状が比較的鋭いことが理由で、砥粒の機械的研磨力が向上する。その結果、研磨用組成物が希釈されることに伴い発生する平滑性が低下した基板表面の修復効果が高くなる。また、この値の平均が0.255以上である場合には、砥粒の機械的研磨力が向上する。なお、砥粒の各突起の高さ及びその基部における幅は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて、走査型電子顕微鏡による砥粒粒子の画像を解析することにより求めることができる。
【0021】
研磨用組成物中の砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の平均高さは、2.5nm以上であることが好ましく、より好ましくは2.7nm以上、さらに好ましくは3.0nm以上である。この場合、研磨用組成物に含まれる砥粒の機械的研磨力が向上する。その結果、研磨用組成物が希釈されることに伴い発生する平滑性が低下した基板表面の修復効果が高くなる。なお、砥粒の突起の平均高さも、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0022】
研磨用組成物中の砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子の平均アスペクト比は、1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.05以上である。この場合、研磨用組成物に含まれる砥粒の機械的研磨力が向上する。その結果、研磨用組成物が希釈されることに伴い発生する平滑性が低下した基板表面の修復効果が高くなる。なお、砥粒の平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡による砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0023】
砥粒の含有量の下限は0.001質量%であることが好ましく、より好ましくは0.005質量%、さらに好ましくは0.01質量%である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、砥粒の機械的研磨力が向上する。その結果、研磨用組成物が希釈されることに伴い発生する平滑性が低下した基板表面の修復効果が高くなる。また、砥粒の含有量の上限は20質量%であることが好ましく、より好ましくは15質量%、さらに好ましくは10質量%である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、砥粒の凝集が起こりにくい。また、表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。
【0024】
砥粒の平均一次粒子径の下限は10nmであることが好ましく、より好ましくは15nm、さらに好ましくは20nmである。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、砥粒の機械的研磨力が向上する。その結果、研磨用組成物が希釈されることに伴い発生する平滑性が低下した基板表面の修復効果が高くなる。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は80nmであることが好ましく、より好ましくは70nm、さらに好ましくは60nmである。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。
【0025】
砥粒の平均二次粒子径の下限は10nmであることが好ましく、より好ましくは20nm、さらに好ましくは30nmである。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、砥粒の機械的研磨力が向上する。その結果、研磨用組成物が希釈されることに伴い発生する平滑性が低下した基板表面の修復効果が高くなる。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、特に制限はないが、例えば100nmであることが好ましく、より好ましくは90nm、さらに好ましくは80nmである。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。なお、砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0026】
(酸化剤)
研磨用組成物には、前述の特定の砥粒、錯化剤及び金属防食剤以外に酸化剤をさらに含有させることができる。酸化剤は研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物中に酸化剤を加えた場合には、研磨用組成物による研磨速度が向上する効果がある。
【0027】
使用可能な酸化剤は、例えば過酸化物である。過酸化物の具体例としては、例えば、過酸化水素、過酢酸、過炭酸塩、過酸化尿素および過塩素酸、ならびに過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が挙げられる。中でも過硫酸塩および過酸化水素が研磨速度の観点から好ましく、水溶液中での安定性および環境負荷への観点から過酸化水素が特に好ましい。
【0028】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。酸化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨速度を向上させることができる。
【0029】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こりにくくなるため、研磨後の研磨対象物の平滑性が向上する。
【0030】
(錯化剤)
研磨用組成物には、錯化剤を含む。研磨用組成物中に含まれる錯化剤は、研磨対象物の表面を化学的にエッチングする作用を有し、研磨用組成物による研磨速度を向上させる働きをする。
【0031】
研磨用組成物中の錯化剤の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。錯化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨対象物の表面へのエッチング効果が増す。その結果、研磨用組成物による研磨速度が向上する。
【0032】
研磨用組成物中の錯化剤の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。錯化剤の含有量が少なくなるにつれて、錯化剤による研磨対象物の表面に対する過剰なエッチングが起こりにくく。その結果、研磨後の研磨対象物の平滑性が向上する。
【0033】
使用可能な錯化剤は、例えば、無機酸、有機酸、およびアミノ酸である。無機酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸などの有機硫酸も使用可能である。無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩などの塩を用いてもよい。アミノ酸の具体例としては、例えば、グリシン、α−アラニン、β−アラニン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、2−アミノ酪酸、ノルバリン、バリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、オルニチン、リシン、タウリン、セリン、トレオニン、ホモセリン、チロシン、ビシン、トリシン、3,5−ジヨード−チロシン、β−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アラニン、チロキシン、4−ヒドロキシ−プロリン、システイン、メチオニン、エチオニン、ランチオニン、シスタチオニン、シスチン、システイン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、S−(カルボキシメチル)−システイン、4−アミノ酪酸、アスパラギン、グルタミン、アザセリン、アルギニン、カナバニン、シトルリン、δ−ヒドロキシ−リシン、クレアチン、ヒスチジン、1−メチル−ヒスチジン、3−メチル−ヒスチジンおよびトリプトファンが挙げられる。その中でも錯化剤としては、研磨向上の観点から、グリシン、アラニン、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、イセチオン酸またはそれらのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が好ましい。
【0034】
(金属防食剤)
研磨用組成物には、金属防食剤を含む。研磨用組成物中に金属防食剤を加えた場合には、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシング等の表面欠陥がより生じにくくなる効果がある。また、その金属防食剤は、研磨用組成物中に酸化剤及び/又は錯化剤が含まれている場合には、酸化剤による研磨対象物の表面の酸化を緩和するとともに、酸化剤による研磨対象物の表面の金属の酸化により生じる金属イオンと反応して不溶性の錯体を生成する働きをする。その結果、錯化剤による研磨対象物の表面へのエッチングを抑制することができ、研磨後の研磨対象物の平滑性が向上する。
【0035】
使用可能な金属防食剤の種類は特に限定されないが、好ましくは複素環式化合物である。複素環式化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環式化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。
【0036】
金属防食剤としての複素環化合物の具体例は、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物およびフラザン化合物などの含窒素複素環化合物が挙げられる。ピラゾール化合物の具体例として、例えば、1H−ピラゾール、4−ニトロ−3−ピラゾールカルボン酸および3,5−ピラゾールカルボン酸が挙げられる。イミダゾール化合物の具体例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルピラゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、2−クロロベンゾイミダゾールおよび2−メチルベンゾイミダゾールが挙げられる。トリアゾール化合物の具体例としては、例えば、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1−メチル−1,2,4−トリアゾール、メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシレート、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸メチル、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−ベンジル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、3−ブロモ−5−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、4−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)フェノール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジプロピル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジメチル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジペプチル−4H−1,2,4−トリアゾール、5−メチル−1,2,4−トリアゾール−3,4−ジアミン、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−アミノベンゾトリアゾール、1−カルボキシベンゾトリアゾール、5−クロロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−ニトロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−(1’’,2’−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。テトラゾール化合物の具体例としては、例えば、1H−テトラゾール、5−メチルテトラゾール、5−アミノテトラゾール、および5−フェニルテトラゾールが挙げられる。インドール化合物の具体例としては、例えば、1H−インドール、1−メチル−1H−インドール、2−メチル−1H−インドール、3−メチル−1H−インドール、4−メチル−1H−インドール、5−メチル−1H−インドール、6−メチル−1H−インドール、および7−メチル−1H−インドールが挙げられる。インダゾール化合物の具体例としては、例えば、1H−インダゾールおよび5−アミノ−1H−インダゾールが挙げられる。金属防食剤は、トリアゾール骨格有する複素環化合物でありことが好ましく、それらの中でも1,2,3−トリアゾール、および1,2,4−トリアゾールが特に好ましい。これらの複素環化合物は、研磨対象物の表面への化学的または物理的吸着力が高いため、より強固な保護膜を研磨対象物の表面に形成する。このことは、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の過剰なエッチングを抑制することができる。その結果、過剰な研磨を抑制することができる。
【0037】
研磨用組成物中の金属防食剤の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。金属防食剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の過剰なエッチングを抑制することができる。その結果、研磨後の研磨対象物の平滑性が向上する。
【0038】
研磨用組成物中の金属防食剤の含有量はまた、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。金属防食剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する効果がある。
【0039】
(研磨用組成物のpH及びpH調整剤)
研磨用組成物のpHは11以下であることが好ましく、より好ましくは10以下、さらに好ましくは9以下である。研磨用組成物のpHが小さくなるにつれて、研磨用組成物の安全性が増すと共に、研磨速度が向上する。また、研磨用組成物のpHは3以上であることが好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上である。研磨対象物のpHが大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の表面のエッチングが起こりにくくなり、その結果として表面欠陥の発生をより抑えることができる。
【0040】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するために必要に応じて使用されるpH調整剤は酸及びアルカリのいずれであってもよく、また無機及び有機の化合物のいずれであってもよい。
【0041】
(界面活性剤)
研磨用組成物には、前述の特定の砥粒、錯化剤及び金属防食剤以外に、界面活性剤をさらに含有させることができる。研磨用組成物中に界面活性剤を加えた場合には、研磨用組成物を用いた研磨により形成される配線の脇に凹みがより生じにくくなるのに加え、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングがより生じにくくなる効果がある。
【0042】
使用可能な界面活性剤の種類は特に限定されず、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。複数種類の界面活性剤を組み合わせて使用してもよく、特に陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤を組み合わせて使用することが、配線の脇に凹みやディッシングの観点から好ましい。
【0043】
陰イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル酢酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルエーテル硫酸およびそれらの塩が挙げられる。ここに具体例として開示されたものは、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いために、より強固な保護膜を研磨対象物表面に形成する。このことは、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性を向上させるうえで効果的である。
【0044】
陽イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、およびアルキルアミン塩が挙げられる。
【0045】
両性界面活性剤の具体例としては、例えば、アルキルベタインおよびアルキルアミンオキシドが挙げられる。
【0046】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミドが挙げられる。ここに具体例として開示されたものは、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いために、より強固な保護膜を研磨対象物表面に形成する。このことは、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性を向上させるうえで効果的である。
【0047】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は、0.001g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.005g/L以上、さらに好ましくは0.01g/L以上である。界面活性剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性が向上する効果がある。
【0048】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は、10g/L以下であることが好ましく、より好ましくは5g/L以下、さらに好ましくは1g/L以下である。界面活性剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する効果がある。
【0049】
(水溶性高分子)
研磨用組成物には、前述の特定の砥粒、錯化剤及び金属防食剤以外に、水溶性高分子をさらに含有させることができる。研磨用組成物中に水溶性高分子を加えた場合には、砥粒の表面または研磨対象物の表面に、その水溶性高分子が吸着することにより研磨用組成物による研磨速度をコントロールすることが可能であることに加え、研磨中に生じる不溶性の成分を研磨用組成物中で安定化することができる効果がある。
【0050】
使用可能な水溶性高分子は特に限定されず、例えば、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、カードランおよびプルランなどの多糖類、ポリカルボン酸およびその塩、ポリビニルアルコールおよびポリアクロレインなどのビニル系ポリマー、ポリグリセリンおよびポリグリセリンエステルが挙げられる。中でもカルボキシメチルセルロース、プルラン、ポリカルボン酸およびその塩、ポリビニルアルコールが好ましく、特に好ましいのはプルラン、ポリビニルアルコールである。
【0051】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、防腐剤や防カビ剤のような公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。防腐剤および防カビ剤の具体例としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類およびフェノキシエタノールが挙げられる。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、半導体デバイスの配線を形成するための研磨以外の用途で使用されてもよい。
【0052】
次に、本発明の実施例および比較例を説明する。
砥粒としてのコロイダルシリカ、酸化剤としての過酸化水素、錯化剤としてのグリシン、金属防食剤としてベンゾトリアゾールを水に混合し実施例1、2及び比較例1〜5の研磨用組成物を調製した。各組成物中の砥粒の詳細は表1に示すとおりである。なお、酸化剤としての過酸化水素は、濃度が1質量%となるように添加している。また、錯化剤としてのグリシンは、1質量%になるように添加している。金属防食剤としてのベンゾトリアゾールは0.01質量%となるように添加している。
【0053】
表1の“砥粒”欄の“一次粒子径(nm)(BET法)”欄には、各研磨用組成物中の砥粒についてBET法で測定した平均一次粒子径を示す。表1の“砥粒”欄の“二次粒子径(nm)”欄には、各研磨用組成物中の砥粒についてマイクロトラックUPAによるレーザー散乱法で測定した平均二次粒子径を示す。表1の“砥粒”欄の“含有量(質量%)”欄には、各研磨用組成物中の砥粒の含有量を示す。表1の“砥粒”欄の“表面の突起の有無”欄には、各研磨用組成物中の砥粒の表面の突起の有無を示す。表1の“砥粒”欄の“突起の平均幅(nm)”欄には、各研磨用組成物中の砥粒粒子のうち砥粒粒子の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の基部における幅の平均を測定した結果を示す。表1の“砥粒”欄の“突起の平均高さ(nm)”欄には、各研磨用組成物中の砥粒粒子のうち砥粒粒子の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の高さの平均を測定した結果を示す。表1の“砥粒”欄の“突起の高さ/突起の幅の平均”欄には、各研磨用組成物中の砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の高さをそれぞれ同じ突起の基部における幅で除することにより得られる値の平均を測定した結果を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1、2及び比較例1〜5の各研磨用組成物を用いて、銅配線金属を含有するパターン付きウェハを一定時間研磨した後、同一プラテン上で超純水による該基板表面の洗浄を行い、該基板表面上の銅表面のRaの値を測定して評価した結果を表1の“評価”欄の“Ra”欄に示した。なお、研磨条件は表2に示すとおりであり、Raの測定条件は表3に示すとおりである。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
表1に示すように、実施例1及び2の研磨用組成物を用いた場合には、本発明の条件を満たさない比較例1〜5の研磨用組成物に比べて、表面粗さの低減において顕著に優れた効果を奏することが認められた。本実施例及び比較例では、研磨後の洗浄により、研磨パッド上に残留したスラリーは超純水によって75倍以上に希釈されると考えられる。本発明の研磨用組成物が、このように洗浄などにより研磨用組成物が希釈される環境での平滑性低下の抑制において顕著に優れた効果を奏する理由は明らかではないが、特定の条件を満たす複数の突起を表面に有する砥粒を使用することにより、研磨対象物表面の機械的除去効果が増大するからであると推定される。そして、その効果は、砥粒を含む研磨用組成物が洗浄等で希釈される環境においても、複数の突起を表面に持たない砥粒と比較して維持されるからだと推定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)砥粒、(b)錯化剤、(c)金属防食剤を含む研磨用組成物であって、
前記(a)砥粒が複数の突起を表面に有し、前記砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の高さをそれぞれ同じ突起の基部における幅で除することにより得られる値の平均が0.245以上であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒のうち砥粒の体積平均粒子径よりも粒子径の大きな粒子が表面に有している突起の平均高さは2.5nm以上である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒が、コロイダルシリカである、請求項1又は2のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒の平均二次粒子径が、30nm〜100nmのコロイダルシリカである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記研磨用組成物が、金属を含む基板を研磨する用途で使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記金属が銅を含む、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、金属を研磨する研磨方法。
【請求項8】
請求項7の研磨方法を用いる工程を有する、金属を含む基板の製造方法。




【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−98392(P2013−98392A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240581(P2011−240581)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】