説明

研磨速度向上方法

【課題】被研磨表面の表面平滑性の向上と両立させながら、被研磨基板の研磨速度を向上させる方法及び該方法用いてなる表面平滑性に優れ、生産性の高い基板の製造方法、並びに表面平滑性に優れたガラスメモリーハードディスク基板を高い研磨速度で得ることができる研磨液組成物を提供すること。
【解決手段】水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物中におけるシリカ粒子のゼータ電位を−15〜40mVに調整し、該研磨液組成物を用いて被研磨基板の研磨速度を向上させる方法、該方法を用いてなる基板の製造方法、並びに水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物であって、該研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVであるガラスメモリーハードディスク基板用研磨液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の研磨速度を向上させる方法(以下、研磨速度向上方法ともいう)、該方法を用いる基板の製造方法及び研磨液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種基板の製造において、種々の基板を研磨する工程が用いられている。例えば、半導体分野では、シリコンウェハ基板や、ガリウム砒素、インジウムリン、窒化ガリウム等の化合物半導体ウェハ基板、さらにウェハ上に形成された酸化ケイ素膜、アルミニウム、銅、タングステン等の金属膜、窒化珪素、酸窒化ケイ素、窒化タンタル、窒化チタン等の窒化膜等を研磨する工程が、メモリーハードディスク分野では、アルミニウム基板やガラス基板を研磨する工程が、レンズや液晶等の表示デバイスの分野ではガラスの研磨がある。これら被研磨基板の研磨工程では、生産性を高めるため研磨速度が重要であり、研磨効率を向上するための技術が種々提案されている。
【0003】
また、近年のメモリーハードディスクドライブには、高容量・小径化が求められ記録密度を上げるために磁気ヘッドの浮上量を低下させて、単位記録面積を小さくすることが求められている。それに伴い、許容される基板表面当たりのスクラッチ数は少なく、その大きさと深さはますます小さくなってきている。
【0004】
さらに、半導体分野においても、高集積化と高速化が進んでおり、特に高集積化では配線の微細化が要求されている。その結果、半導体基板の製造プロセスにおいては、露光装置に対する要求解像度が高くなるのに伴い、反対に焦点深度が浅くなるため、一層の表面平滑性や平坦性の向上が望まれている。
【0005】
これまで、これらの研磨用途に対しては、主にシリカ粒子や酸化セリウム粒子を用いたスラリー研磨液が使用されてきた。シリカ粒子を用いたスラリー研磨液は、汎用性が高く、幅広く使用されているが、研磨速度が低いという欠点がある。一方酸化セリウム粒子を用いたスラリー研磨液は、光学ガラス、ガラス製メモリーハードディスク、半導体絶縁膜等の研磨に用いられており、研磨速度が高いという特徴を有するが、反面スクラッチが生じやすいという問題を抱えている。
【0006】
これらの課題に対して、被研磨面であるシリコン酸化膜を、セリウムを構成原子とする酸化物粒子の水分散スラリー液を用いて、かつ該粒子表面のゼータ電位を−10mV以下にすることによって、研磨速度の向上を図りながら、同時にスクラッチ及びダストを低減する研磨剤が特許文献1に記載されている。しかしながら、該粒子表面のゼータ電位が−10mVを超えた場合に比較して、スクラッチやダストは低減するものの、研磨速度も低下しており、両立が図れない。
【0007】
さらに、SiO2 絶縁膜等の被研磨面を、酸化セリウム粒子を媒体に分散させたスラリーを用い、該粒子表面のゼータ電位を−100mV〜−10mVとすることによって、傷なく高速に研磨する酸化セリウム研磨剤が特許文献2に記載されている。しかしながら、高速に研磨するとの記載は、異種粒子であるシリカ粒子からなる研磨剤との比較に基づいたものであり、研磨速度とゼータ電位との関係は不明である。
【特許文献1】特開2002―97459号公報
【特許文献2】特開2001−329250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、被研磨表面の表面平滑性の向上と両立させながら、被研磨基板の研磨速度を向上させる方法及び該方法用いてなる表面平滑性に優れ、生産性の高い基板の製造方法、並びに表面平滑性に優れたガラスメモリーハードディスク基板を高い研磨速度で得ることができる研磨液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物中におけるシリカ粒子のゼータ電位を−15〜40mVに調整し、該研磨液組成物を用いて被研磨基板の研磨速度を向上させる方法、
〔2〕 前記〔1〕記載の研磨速度を向上させる方法を用いてなる基板の製造方法
〔3〕 水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物であって、該研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVであるガラスメモリーハードディスク基板用研磨液組成物
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の研磨速度向上方法を、例えば、高密度化又は高集積化用の精密部品基板の研磨工程又はメモリーハードディスク用基板、特にはガラスメモリーハードディスク基板の研磨工程で用いることにより、基板の表面平滑性の向上と両立させながら研磨速度を向上させることができ、結果として基板の製造効率を高められるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物中におけるシリカ粒子のゼータ電位を−15〜40mVに調整し、該研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することで、表面平滑性と両立させながら研磨速度を向上させることができる。
【0012】
本発明におけるシリカ粒子としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられる。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、水溶液中で縮合反応させシリカ粒子を成長させる水ガラス法、またはテトラエトキシシラン等を原料とし、アルコール等の水溶性有機溶媒含有水中で縮合反応させシリカ粒子を成長させるアルコキシシラン法で得ることができる。フュームドシリカは、四塩化珪素等の揮発性珪素化合物を原料とし、酸水素バーナーによる1000℃以上の高温下で気相加水分解する方法で得ることができる。
【0013】
更に、本発明におけるシリカ粒子としては、表面修飾したシリカ粒子、複合粒子化したシリカ粒子等も使用することが出来る。表面修飾したシリカ粒子とは、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等の金属やそれらの酸化物を直接あるいはカップリング剤を介して、シリカ粒子表面に吸着および/又は結合させたものや、シランカップリング剤やチタンカップリング剤などを結合させたものを指す。複合粒子化したシリカ粒子とは、重合体粒子等の非金属粒子とシリカ粒子とを吸着および/又は結合させたものを指す。これらのシリカ粒子は、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。これらのシリカ粒子の中でも、スクラッチの低減の観点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0014】
シリカ粒子の一次粒子の平均粒径は、シリカ粒子が一種以上混合されているかどうかに関係なく、下限は研磨速度を向上させる観点から、上限は表面粗さ(中心線平均粗さ:Ra、Peak to Valley値:Rmax)を低減する観点から、好ましくは1nm以上40nm未満、より好ましくは1〜35nm、更に好ましくは3〜30nm、更に好ましくは5〜25nm、更に好ましくは5〜20nmである。更に、一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合は、同様に下限は研磨速度を向上させる観点から、上限は基板の表面粗さを低減させる観点から、その二次粒子の平均粒径は、好ましくは5〜150nm、より好ましくは5〜100nm、更に好ましくは5〜80nm、更に好ましくは5〜50nm、更に好ましくは5〜30nmである。
【0015】
また、シリカ粒子の粒径分布としては、シリカ粒子が一種以上混合されているかどうかに関係なく、スクラッチの低減、表面粗さの低減及び高い研磨速度を達成する観点から、D90/D50は、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4、更に好ましくは1〜3である。
【0016】
なお、シリカ粒子の一次粒子の平均粒径、一次粒子の小粒径側からの積算粒径分布(個数基準)が50%となる粒径(D50)、及び一次粒子の小粒径側からの積算粒径分布(個数基準)が90%となる粒径(D90)は、シリカ粒子が一種以上混合されているかどうかに関係なく、以下の方法により求めることが出来る。即ち、シリカ粒子を日本電子製透過型電子顕微鏡「JEM−2000FX」(80kV、1〜5万倍)で観察した写真を、パーソナルコンピューターに接続したスキャナにて画像データとして取り込み、解析ソフト「WinROOF」(販売元:三谷商事)を用いて1個1個のシリカ粒子の円相当径を求め、それをシリカ粒子の直径と見なし、1000個以上のシリカ粒子データを解析した後、それをもとに表計算ソフト「EXCEL」(マイクロソフト製)にて積算粒径分布(個数基準)を算出する。そして、ここで言う一次粒子の平均粒径とD50は同じものであり、一次粒子の小粒径側からの積算粒径分布(個数基準)が50%となる粒径を指す。またD90とは一次粒子の小粒径側からの積算粒径分布(個数基準)が90%となる粒径を指す。
【0017】
シリカ粒子の二次粒子の平均粒径は、シリカ粒子が一種以上混合されているかどうかに関係なく、動的光散乱法による測定において小粒径側からの積算粒径分布(体積基準)が50%となる粒径を指す。動的光散乱法の測定装置としては、例えば、「ELS―8000」(大塚電子製)、「DELSA440SX」(ベックマン・コールター製)及び「NICOMP Model380」(パティクルサイジングシステムズ製)が好適に用いられる。
【0018】
前記研磨液組成物中のシリカ粒子の含有量は、研磨速度の向上と表面品質の向上を両立させる観点から、好ましくは1〜50重量%であり、より好ましくは2〜40重量%であり、更に好ましくは3〜30重量%、最も好ましくは5〜25重量%である。
【0019】
また、本発明における水系媒体とは、水及び/又は水溶性有機溶剤を指す。水はイオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられ、水溶性有機溶剤としては一級〜三級アルコール、グリコール等が挙げられる。水系媒体の含有量は、研磨液組成物の全重量(100重量%)からシリカ粒子、ゼータ電位調整剤及び後述のように必要に応じて添加する他の成分の含有量を引いた残部に相当する。この媒体の含有量としては、研磨液組成物中、60〜99重量%が好ましく、75〜98重量%がより好ましい。
【0020】
また、本発明に使用される研磨液組成物には、必要に応じて他の成分を配合することができる。該他の成分としては、過酸化水素等の酸化剤、ラジカル捕捉剤、包摂化合物、防錆剤、消泡剤及び抗菌剤等が挙げられる。これら他の成分の含有量としては、研磨液組成物中、研磨速度の観点から、0〜10重量%が好ましく、0〜5重量%がより好ましい。前記研磨液組成物は、前記成分を適宜混合することにより、調製することができる。
【0021】
尚、前記研磨液組成物中の各成分の濃度は、該組成物製造時の濃度、及び使用時の濃度のいずれであってもよい。通常、濃縮液として研磨液組成物は製造され、これを使用時に希釈して用いる場合が多い。
【0022】
前記研磨液組成物のpHは、研磨速度及びスクラッチの低減の観点から、使用するシリカ粒子及びその表面修飾等の表面改質度等に応じて決められる。コロイダルシリカの場合、好ましくは9以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは4以下、最も好ましくは3以下である。
【0023】
本発明において、ゼータ電位とは、電気泳動の原理によって、研磨液組成物中のシリカ粒子に外部から電場をかけた時に、そのシリカ粒子の泳動速度から求められる電位をいう。ゼータ電位の測定装置としては、例えば光学的測定方法によるものとして「ELS―8000」(大塚電子製)、「DELSA440SX」(ベックマン・コールター製)及び「NICOMP Model380」(パティクルサイジングシステムズ製)が挙げられ、また音響的測定方法を用いるものとして「DT1200」(ルフト製)等が好適に用いられる。光学的測定方法を用いる測定装置では、装置の原理上、シリカ粒子の濃度を希釈する必要性がある。本明細書における研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位とは、研磨液組成物と同一のpHにあらかじめ調整したゼータ電位調整用水溶液(研磨液組成物中のゼータ電位調整剤と水とからなる水溶液。ただし、研磨液組成物が2種類以上のゼータ電位調整剤を含有する場合はそれらの含有比率を保って水溶液を調製する)によってシリカ粒子濃度を所定の濃度に調整した研磨液組成物のゼータ電位を指す。また、前記ゼータ電位調整用水溶液に替えて研磨液組成物の遠心分離による上澄み液を用いることもできる。前記ゼータ電位測定装置でゼータ電位を測定する際は、測定値の信頼性を高めるために、同一試料、同一測定条件にて、少なくとも3回測定を繰り返し、それらの平均値をゼータ電位とする。
【0024】
本発明の方法で用いる研磨液組成物中におけるシリカ粒子のゼータ電位は、−15〜40mVに調整することにより研磨速度を向上でき、スクラッチ低減の観点からは、−15〜30mV、好ましくは−10〜30mV、より好ましくは−5〜30mVに調整することが望ましい。なお、本発明において、研磨液組成物のゼータ電位の調整は、特に限定はないが、研磨を行なう前に行うことが好ましい。また、前記の特定範囲のゼータ電位は、研磨終了後まで保持されていることが好ましい。
【0025】
研磨液組成物におけるシリカ粒子のゼータ電位の調整は、ゼータ電位調整剤を研磨液組成物に添加することによって効果的に行うことができる。ゼータ電位調整剤とは、シリカ粒子の表面に直接的あるいは間接的に吸着して、又は研磨液組成物の媒体の酸性度若しくは塩基性度などの性質を変化させることにより、シリカ粒子の表面電位を制御する剤をいう。例えば、酸、塩基、塩及び界面活性剤が挙げられる。
【0026】
ゼータ電位調整剤は、たとえば、以下のように使用する。研磨液組成物中に含有するシリカ粒子表面のゼータ電位が40mVを超える場合、ゼータ電位調整剤としては、酸、酸性塩及びアニオン活性剤を使用しゼータ電位をマイナス側にシフトさせることが好ましい。一方、シリカ粒子表面のゼータ電位が−15mVより低い場合、ゼータ電位調整剤としては、塩基、塩基性塩及びカチオン活性剤を使用しゼータ電位をプラス側にシフトさせることが好ましい。また、中性塩、非イオン性活性剤及び両性活性剤は、研磨液組成物のpHを変化させずにゼータ電位を調整する場合に用いられる。
【0027】
酸としては無機酸又は有機酸が用いられる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、ポリ燐酸、アミド硫酸等が挙げられる。また、有機酸としては、カルボン酸、有機燐酸、アミノ酸等が挙げられ、例えば、カルボン酸は、酢酸、グリコール酸、アスコルビン酸等の一価カルボン酸、蓚酸、酒石酸等の二価カルボン酸、クエン酸等の三価カルボン酸が挙げられ、有機燐酸としては、2- アミノエチルホスホン酸、1- ヒドロキシエチリデン- 1,1- ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等が挙げられる。また、アミノ酸としては、グリシン、アラニン等が挙げられる。これらの内でも、スクラッチ低減の観点から、無機酸、カルボン酸及び有機燐酸が好ましく、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、ポリ燐酸、グリコール酸、蓚酸、クエン酸、1- ヒドロキシエチリデン- 1,1- ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンスルホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が適している。
【0028】
塩基としては、アンモニア水、ヒドロキシルアミン、アルキルヒドロキシルアミン、一級〜三級のアルキルアミン、アルキレンジアミン、アルキルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、スクラッチ低減の観点から、好ましくはアンモニア水、アルカノールアミンである。
【0029】
また、塩としては、前記酸の塩が挙げられ、その塩を形成する陽イオンとしては、長周期型周期律表の1A、2A、3B、8族由来の金属、及びアンモニウム、ヒドロキシドアンモニウム、若しくはアルカノールアンモニウム等が好ましい。中でも、酸性塩としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。塩基性塩としては、クエン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム等が挙げられる。中性塩としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
界面活性剤としては、低分子型活性剤及び高分子型活性剤があり、シリカ粒子の表面に吸着又は化学結合し、分子中に同種、異種を問わず、1個以上の親水基を持つ剤である。中でも、エーテル基(オキシエチレン基等)や水酸基に代表される非イオン性基を有する非イオン性活性剤、カルボン酸基、スルフォン酸基、硫酸エステル基、燐酸エステル基に代表されるアニオン性基を有するアニオン活性剤、四級アンモニウムに代表されるカチオン性基を有するカチオン活性剤、アニオン性基及びカチオン性基を有する両性活性剤が挙げられる。
【0031】
また、前記シリカ粒子とゼータ電位調整剤の好適な組み合わせとしては、シリカ粒子がシリカ単独の場合は、ゼータ電位調整剤としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、グリコール酸、シュウ酸、クエン酸、1- ヒドロキシ- 1,1- ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンスルホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が好ましく、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸、1- ヒドロキシ- 1,1- ジホスホン酸がより好ましい。
【0032】
また、本発明の方法で用いる研磨液組成物には、研磨速度を向上させる観点から、アルミナを併用することができる。シリカ粒子とアルミナとを併用する場合は、ゼータ電位調整剤としては、硫酸、硫酸アンモニウム、リン酸、ポリリン酸、シュウ酸、クエン酸、1- ヒドロキシ- 1,1- ジホスホン酸が好ましく、硫酸、硫酸アンモニウム、リン酸、ポリリン酸、クエン酸、1- ヒドロキシ- 1,1- ジホスホン酸がより好ましい。なお、アルミナの一次粒子又は二次粒子の平均粒径は、前記シリカ粒子と同様の範囲であることが好ましい。
【0033】
尚、研磨液組成物中におけるゼータ電位調整剤の含有量は研磨液組成物の液の性質、シリカ粒子の性質、及び求めるゼータ電位に応じて決められ、一概には限定できないが、例えば、スクラッチの低減の観点から、0.01〜20重量%が好ましく、0.05〜15重量%がより好ましい。また、ゼータ電位調整剤はあらかじめ研磨液組成物中に含有させても良いし、研磨直前に研磨液組成物に含有させて使用してもよい。
【0034】
以上のようにして調製した研磨液組成物を、被研磨基板を保持する治具と研磨布を備える研磨装置に供給して研磨することにより、基板の表面平滑性を両立しながら、被研磨基板の研磨速度を向上させることができる。研磨布として有機高分子系の発泡体、無発泡体、あるいは不織布状のものを張り付けた研磨盤に被研磨基板を保持する治具を押しつけ、又は研磨布を張り付けた研磨盤に被研磨基板を挟み込み、前記研磨液組成物を被研磨基板表面に供給し一定の圧力を加えながら研磨盤や被研磨基板を動かすことにより、被研磨基板表面を研磨する。
【0035】
本発明において好適に使用される被研磨面の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。これらの中でも、被研磨基板面に少なくともケイ素を含有するものに好適である。例えば、結晶化ガラス、強化ガラス等のガラス基板、さらには表面にケイ素を含む薄膜が形成された半導体基板により適しており、特に結晶化ガラス、強化ガラス等のガラス基板に好適である。
【0036】
また、被研磨基板の形状には特に制限は無く、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状が本発明の方法の対象となる。その中でも、ディスク状の被研磨基板の研磨に特に優れている。
【0037】
本発明の方法は、精密部品基板の研磨工程に好適に用いられる。例えば、メモリーハードディスク基板等の磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等の磁気記録媒体の基板、フォトマスク基板、光学レンズ、光学ミラー、光学プリズム、半導体基板等の精密部品基板の研磨に適している。半導体基板の研磨としては、シリコンウェハ(ベアウェハ)のポリッシング工程、埋め込み金属配線の形成工程、層間絶縁膜の平坦化工程、埋め込み金属配線の形成工程、埋め込みキャパシタ形成工程等が挙げられる。
【0038】
また、本発明に使用される研磨液組成物は、研磨粒子として、スクラッチを発生しにくいシリカ粒子を用いることから、中でも高密度化・高集積化において低スクラッチを求められるガラスメモリーハードディスク基板等の磁気ディスクや半導体基板の研磨により好適であり、ガラスメモリーハードディスク基板の研磨に特に適している。したがって、本発明は、水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物であって、該研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVであるガラスメモリーハードディスク基板用研磨液組成物に関する。
【0039】
本発明の基板の製造方法は、前記の本発明の研磨速度向上方法を用いてなる点に特徴がある。具体的には、水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物を用い、該組成物中におけるシリカ粒子のゼータ電位を−15〜40mVに調整して被研磨基板の研磨速度を向上させる方法を用いることに特徴があり、かかる特徴を有することで、シリカ粒子の有する低スクラッチ性を生かしながら研磨速度を向上することができ、製造効率を高められるという効果が奏される。
【0040】
このような特徴を生かし、ガラスメモリーハードディスク基板等の磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等の記録媒体の製造や、メモリーIC、ロジックIC、あるいはシステムLSI等の半導体基板の製造、あるいはフォトマスク基板、光学レンズ、光学ミラー、光学プリズム等に適用できる。中でも、ガラスメモリーハードディスク基板等の磁気ディスクや、半導体基板の製造に好適であり、ガラスメモリーハードディスク基板等の磁気ディスクの製造に特に好適である。
【実施例】
【0041】
(ゼータ電位の測定条件)
以後示すゼータ電位の測定条件は以下の通りである。
・測定機器:「NICOMP Model−380 ZLS」(Particle Sizing Systems 製)
・印加電圧:1.0〜5.0V/cm
・測定試料:各々実施例/比較例の研磨液組成物を、遠心分離機で分離を行い(遠心力35000g、30分)、上澄み液を取り出した。この上澄み液に、当該研磨液組成物を0.2重量%添加混合し、これを測定試料とした。
・測定回数:同一試料、同一測定条件にて、3回測定を繰り返し、その3回の平均値をゼータ電位とした。
【0042】
(実施例1)
シリカ粒子としてコロイダルシリカスラリーA(デュポン製、一次粒子の平均粒径37nm、D90/D50=2.2)20重量%、ゼータ電位調整剤として36重量%の塩酸0.25重量%、残部としてイオン交換水からなる研磨液組成物(ゼータ電位:26.5mV、pH:1.5)を調製した。
【0043】
各成分を混合する順番は、ゼータ電位調整剤である塩酸を水で希釈した36重量%水溶液を、撹拌下のコロイダルシリカスラリーAに少しずつ加え、調製した。これら調製した研磨液組成物を用いて、下記条件に基づいて研磨評価を行ったところ、研磨速度0.197μm/分、表面平滑性(Ra)0.23nmのものであった。
【0044】
1、被研磨基板
結晶化ガラス製メモリーハードディスク基板、外周65mm、内周20mm、厚さ0.65mm、表面粗さ(Ra)0.2〜0.3nm
【0045】
2、研磨条件
・研磨装置:「ムサシノ電子MA−300」(片面研磨機、定盤直径300mm、キャリア強制駆動式)
・定盤回転数:90r/min
・キャリア回転数:90r/min
・研磨液組成物供給量:50mL/min
・研磨時間:10分
・研磨荷重:14.7kPa
・研磨パッド:「スウェードタイプ、ベラトリックスN0012」(カネボウ製)
・ドレッシング方法:研磨毎にブラシドレスを30秒行った。
【0046】
3、研磨速度の算出方法
被研磨基板の比重を2.41とし、研磨前後の重量減少量から、研磨速度(μm/分)を算出した。
【0047】
〔基板の表面平滑性の評価方法〕
基板の表面平滑性は、基板の中心線表面粗さ(Ra)を測定することにより評価した。条件は以下のとおりである。
・機器 :Zygo NewView5032
・レンズ :10倍
・ズーム比 :1
・カメラ :320×240ノーマル
・リムーブ :Cylinder
・フィルター:FFT Fixed Band Pass
0.005〜0.1mm
・エリア :0.85mm×0.64mm
【0048】
(実施例2〜4、比較例1)
実施例1と同様に、表1に示す組成、pH、及びシリカ粒子のゼータ電位を有する研磨液組成物を調製し、その研磨評価を行なった。その結果(研磨速度、ゼータ電位)を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果より、研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVに調整された実施例2〜4では、比較例1に比べて研磨速度が顕著に向上することがわかる。
【0051】
(実施例5〜6、比較例2)
表2に示すように、シリカ粒子としてはコロイダルシリカスラリーB(デュポン製、一次粒子の平均粒径17nm、D90/D50=1.6)を、ゼータ電位調整剤としては36重量%の塩酸を用いて、表2に示した組成、pH、及びシリカ粒子のゼータ電位を有する研磨液組成物を調製した。尚、残部はイオン交換水である。
【0052】
各成分を混合する順番は、ゼータ電位調整剤である塩酸を水で希釈した水溶液を、撹拌下のコロイダルシリカスラリーに少しずつ加え、調製した。これら調製した研磨液組成物を用いて、下記条件に基づいて研磨評価を行った。得られた結果(研磨速度、ゼータ電位)を表2に示す。被研磨基板、研磨条件、研磨速度の算出方法は、実施例1〜4と同じである。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の結果より、研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVに調整された実施例5、6では、比較例2に比べて研磨速度が顕著に向上することがわかる。
【0055】
(実施例7〜8、比較例3)
表3に示すように、シリカ粒子としてはコロイダルシリカスラリーAを、ゼータ電位調整剤としては36重量%の塩酸を用いて、表3に示した組成、pH、及びシリカ粒子のゼータ電位を有する研磨液組成物を調製した。尚、残部はイオン交換水である。各成分を混合する順番は、ゼータ電位調整剤である塩酸を水で希釈した水溶液を、撹拌下のコロイダルシリカスラリーに少しずつ加え、調製した。これら調製した研磨液組成物を用いて、下記条件に基づいて研磨評価を行った。得られた結果(研磨速度、ゼータ電位)を表3に示す。被研磨基板、研磨条件、研磨速度の算出方法は、被研磨基板に強化ガラス製を用いた他は実施例1〜4と同じである。
【0056】
【表3】

【0057】
表3の結果より、研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVに調整された実施例7、8では、比較例3に比べて研磨速度が顕著に向上することがわかる。
【0058】
(実施例9〜10、比較例4)
表4に示すように、シリカ粒子としてはコロイダルシリカスラリーAを、ゼータ電位調整剤としては36重量%の塩酸を用いて、表4に示した組成、pH、及びシリカ粒子のゼータ電位を有する研磨液組成物を調製した。尚、残部はイオン交換水である。各成分を混合する順番は、ゼータ電位調整剤である塩酸を水で希釈した水溶液を、撹拌下のコロイダルシリカスラリーに少しずつ加え、調製した。これら調製した研磨液組成物を用いて、下記条件に基づいて研磨評価を行った。得られた結果(研磨速度、ゼータ電位)を表4に示す。
【0059】
1、被研磨基板
8インチ(200mm)シリコン基板にPE−TEOS膜を2000nm成膜したものを、さらに40mm×40mmの正方形に切断した。
2、研磨条件
研磨液組成物供給量、研磨時間、研磨パッド、及びドレッシング方法が以下の通りである以外は実施例1〜4と同じである。
・研磨液組成物供給量:200mL/min
・研磨時間:5分
・研磨パッド:「IC1000 050(P)/Suba400」(ロデール・ニッタ製)
・ドレッシング方法:研磨毎に「ダイヤモンドドレッサー#100」で30秒行った。
【0060】
3、研磨速度の算出方法
研磨前後のPE−TEOS残存膜厚差から研磨速度(nm/min)を求めた。なお残存膜厚の測定は光干渉式膜厚計(大日本スクリーン製造(株)「VM−1000」)を用いた。
【0061】
【表4】

【0062】
表4の結果より、研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVに調整された実施例9、10では、比較例4に比べて研磨速度が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の研磨速度向上方法は、精密部品基板、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等の磁気記録媒体の基板、フォトマスク基板、光学レンズ、光学ミラー、光学プリズム、半導体基板等の精密部品基板の研磨に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物中におけるシリカ粒子のゼータ電位を−15〜40mVに調整し、該研磨液組成物を用いて被研磨基板の研磨速度を向上させる方法。
【請求項2】
シリカ粒子の一次粒子の平均粒径が1nm以上40nm未満である、請求項1記載の研磨速度を向上させる方法。
【請求項3】
被研磨基板が、その被研磨表面に少なくともケイ素を含有するものである請求項1又は2記載の研磨速度を向上させる方法。
【請求項4】
被研磨基板がメモリーハードディスク用基板である請求項1〜3いずれか記載の研磨速度を向上させる方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の研磨速度を向上させる方法を用いてなる基板の製造方法。
【請求項6】
水系媒体とシリカ粒子を含有してなる研磨液組成物であって、該研磨液組成物中のシリカ粒子のゼータ電位が−15〜40mVであるガラスメモリーハードディスク基板用研磨液組成物。