説明

移動農機

【課題】大幅な設計変更を不要とし、かつ耐久性として有利となる位置に冷却ファンを駆動・停止するための電磁クラッチを配置した移動農機を提供する。
【解決手段】冷却ファン45をファンプーリ37と一体に回転するように設け、エンジンのクランク軸9aと第2駆動プーリ29との動力伝達を接・断し得る電磁クラッチ90をクランク軸9aと同軸上に配置する。電磁クラッチ90を冷却ファン45と同軸上に並設することを不要とし、ラジエータ12、オイルクーラ13、コンデンサ15等の配置変更を行う必要がなく、大幅な設計変更が不要となる。また、電磁クラッチ90が、冷却ファン45と同軸上にないため、該冷却ファン45により吸い込む外気を該電磁クラッチ90が直接受けることがなく、塵埃を被り難くなって、耐久性向上も図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンバインなどの移動農機に係り、詳しくは、エンジンからの動力に基づいて吸引ファンを駆動させ、外気をエンジンルーム内に導入する移動農機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンバインは、機体前部に設けられた運転座席の下方にエンジンを収容するエンジンルームが形成されており、該エンジンは、クランク軸を機体内側に突出させて、クローラ走行装置などの駆動部や、前処理部、脱穀部などの作業機に動力を伝達すると共に、該クランク軸を機体外側にも突出して、オルタネータ、ウォータポンプなどの駆動系補機や、エンジンルーム内に外気を吸い込む冷却ファンなどに動力を伝達している。
【0003】
従来、このようなコンバインにあって、エンジン冷却装置として、外気を吸い込む冷却ファン(吸気ファン)と、エンジンルームの吸気口に設けられた防塵用カバーに付着した塵埃を除去するために該防塵用カバーに向けて送風する電動ファン(吹出ファン)とを備え、上記駆動系補機にはエンジンからの動力を伝達したまま冷却ファンを電磁クラッチにより駆動/停止できるように構成し、防塵用カバーの塵埃除去の効率向上を図ったものが案出されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平7−16028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記冷却ファン(吸気ファン)の軸方向には、例えばエアコン用コンデンサ、油圧オイルクーラ、ラジエータ等の冷却装置が配置されることが一般的であり、上記特許文献1記載のように冷却ファンの駆動/停止を行う電磁クラッチを、当該冷却ファンと同軸上に並設することはスペース的に困難であり、大幅な設計変更が必要となってしまうという問題がある。また、一般に電磁クラッチは塵埃に弱いが、冷却ファンと並設すると吸い込む外気を直接的に受けることになるため、耐久性の観点からも好ましくないという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、大幅な設計変更を不要とし、かつ耐久性として有利となる位置に電磁クラッチを配置した移動農機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図10参照)、出力軸(9a)を有するエンジン(9)と、前記エンジン(9)の出力軸(9a)上に配設された駆動プーリ(29)と、前記エンジン(9)の出力軸(9a)と平行な軸上に配置され、伝動ベルト(52)を介して前記駆動プーリ(29)に連動される従動プーリ(37)と、前記従動プーリ(29)の回転に基づき回転される冷却ファン(45)と、を備えた移動農機(1)において、
前記冷却ファン(45)を前記従動プーリ(37)と一体に回転するように設け、
前記エンジン(9)の出力軸(9a)と前記駆動プーリ(29)との動力伝達を接・断し得る電磁クラッチ(90)を前記エンジン(9)の出力軸(9a)と同軸上に配置した、
ことを特徴とする移動農機(1)にある。
【0008】
請求項2に係る本発明は(例えば図4、図8、図9、図10参照)、前記エンジン(9)と前記電磁クラッチ(90)との間に、前記出力軸(9a)と一体に回転する補機駆動プーリ(27)と、
補機伝動ベルト(51)を介して前記補機駆動プーリ(27)に連動される補機従動プーリ(35,53)と、
前記補機従動プーリ(35,53)と一体に回転される駆動軸(31a,32a)を有する補機(32)と、を備え、
前記冷却ファン(45)と一体に回転する前記従動プーリ(37)は、前記補機(32)の駆動軸(32a)に対して回転自在に支持された、
ことを特徴とする請求項1記載の移動農機(1)にある。
【0009】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る本発明によると、エンジンの出力軸と駆動プーリとの動力伝達を接・断し得る電磁クラッチを該エンジンの出力軸と同軸上に配置したので、冷却ファンと同軸上に並設することを不要とすることができ、冷却装置等の配置変更を行うことなく、大幅な設計変更を不要とすることができる。また、電磁クラッチが、冷却ファンと同軸上にないため、該冷却ファンにより吸い込む外気を該電磁クラッチが直接受けることがなく、塵埃を被り難くなって、耐久性向上も図ることができる。
【0011】
請求項2に係る本発明によると、冷却ファンと一体に回転する従動プーリを、補機の駆動軸に対して回転自在に支持させたので、補機と冷却ファンとをコンパクトな構成で配置することができる。即ち、補機と冷却ファンとの間に電磁クラッチを配置することがないので、その冷却ファンの従動プーリを設置するプーリユニットをコンパクトに構成することができ、冷却装置等の配置変更を行うことなく、大幅な設計変更を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態に係るコンバインを示す側面図。
【図2】エンジンルーム内のレイアウトを示す正面図。
【図3】エンジンルーム内のレイアウトを示す平面図。
【図4】エンジンの右側面図。
【図5】冷却装置を示す斜視図。
【図6】冷却装置を示す分解斜視図。
【図7】冷却装置を示す右側面図。
【図8】本発明に係る第1及び第2プーリユニットを示す断面図。
【図9】第1プーリユニットを示す拡大断面図。
【図10】第2プーリユニットを示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に沿って説明する。なお、説明中の方向は作業者が機体(コンバイン)に着座した状態を基準として考えるものとする。
【0014】
[コンバインの概略]
図1に示すように、本実施の形態に係るコンバイン(移動農機)1は、左右一対のクローラ走行装置2,2に支持された機体3を有していると共に、機体3の前方に前処理部5が昇降自在に設けられている。該前処理部5の後方の一側方には作業者が運転操作を行うキャビン6が設けられており、キャビン6内の運転座席(不図示)の下方にはエンジン9が収容されているエンジンルーム7が位置している。該エンジンルーム7は、上記キャビン6のドア10が設けられている機体3の右側面に開口しており、開口部にはエンジンカバー11が開閉自在に取付けられている。
【0015】
また、図2及び図3に示すように、エンジンルーム7には、エンジン9の他に、詳しくは後述するラジエータ12、オイルクーラ13、コンデンサ15などの冷却装置が配設されており、上記エンジンカバー11の枠部の内側は、これら冷却装置12,13,15の被冷却流体を(クーラント、エンジンオイル、ミッションオイル、エアコンの冷媒など)を冷却するために外気をエンジンルーム7内に導入するための吸気口19となっている(図1参照)。吸気口19には、網状に形成された防塵用カバー18が設けられており、エンジンルーム7に外気と一緒に大きな異物が吸引されないように構成されている。
【0016】
[冷却装置の構成]
ついで、冷却装置について説明する。図2及び図3に示すように、冷却装置は上記吸引ファン(エンジン)側からエンジンカバー(吸気口)側に向って、ラジエータ12、オイルクーラ13、コンデンサ15の順で略々一列状に並んで配設されており、それぞれ被冷却流体を冷却するための多数の冷却フィンを有している。
【0017】
また、ラジエータ12とオイルクーラ13との間には、上述した吸引ファン45とは反対にエンジン側から吸気口側へと送風する軸流ファンである電動ファン81が設けられていると共に、コンデンサ15の後方側(側方)には液化した冷媒の汚れや水分を取除くと共に、この冷媒を一時的に蓄えるレシーバドライヤ82(図3参照)が配置されている。
【0018】
詳細には、図5乃至図7に示すように、オイルクーラ13はオイルクーラ支持部材83が機体3に固定されたラジエータ12のシュラウド12aにボルトにより取付けられて固定されていると共に、コンデンサ15もコンデンサ支持部材85がオイルクーラ13のエンジンカバー側からラジエータ12のシュラウド12aにボルトにより取付けられて固定されている。
【0019】
また、上記オイルクーラ支持部材83には、上記電動ファン81も支持されており、該オイルクーラ支持部材83のエンジンカバー側にオイルクーラ13が、エンジン側に電動ファン81が支持されている。更に、上記電動ファン81及びオイルクーラ13並びにコンデンサ15は、該電動ファン81から防塵用カバー18に均一に送風できるように、該電動ファン81の中心と防塵用カバー18の把手部を除いた有効面積部分の中心とが一致するように上記ラジエータ12のシュラウド12aに取付けられており、エンジンルーム7の略々中心に設けられている吸引ファン45とは機体の前後方向に位置がオフセットしている。
【0020】
また、上記電動ファン81よりもエンジンカバー側にあるオイルクーラ13及びコンデンサ15は、該電動ファン81がその背面に隠れる大きさ(吸気口19側からの投影面積内に該電動ファン81が位置するよう)に形成されていると共に、該電動ファン81はこれらオイルクーラ13及びコンデンサ15の略々中心に位置しており、上記エンジンカバー11を開けても吸気口側から該電動ファン81が見えないようになっている。
【0021】
[エンジンルーム内の構成]
次に、エンジンルーム内の構成について詳しく説明をする。図2及び図4に示すように、機体3はその前後方向に並設された一対の機体横フレーム21,21を有しており、機体横フレーム21,21の左右には取付けブラケット22,22が設けられている。これら取付けブラケット22,22にはエンジンサポート23a,23bが取付けられており、エンジン9はエンジンサポート23a,23bにボルトによって固定されて機体3に搭載されている。また、各ブラケット22,22とエンジンサポート23a,23bとの間にはエンジン防振ゴム(防振部材)25が介在しており、エンジン9の振動が機体3に、もしくは機体3からの振動がエンジン9に伝達しないようになっている。
【0022】
上記エンジン9の左右両側面からは出力軸であるクランク軸9a(図8、図9参照)が突出しており、機体外側である右側面から突出したクランク軸9a上には、第1プーリユニット20が配設されている。該第1プーリユニット20には、第1駆動プーリ(補機駆動プーリ)27と第2駆動プーリ(駆動プーリ)29とからなる2つの駆動プーリが設けられている。また、エンジン9には、ウォータポンプ32や、オルタネータ(不図示)などの駆動系補機が取付けられており、図4に示すように、上記ウォータポンプ32の駆動軸(支持軸)32a(図8、図10参照)(以下、ウォータポンプ軸という)には、該第2プーリユニット30が配設され、オルタネータの駆動軸31aには、第3プーリユニット50が配設されている。該第2プーリユニット30には、第1従動プーリ(補機従動プーリ)(以下、ウォータポンププーリという)35と第2従動プーリ(従動プーリ)(以下、ファンプーリという)37とからなる2つの駆動プーリが設けられており、該第3プーリユニット50には、第3従動プーリ(補機従動プーリ)(以下、オルタネータプーリという)53からなる1つの駆動プーリが設けられている。勿論、これら第1プーリユニット20、第2プーリユニット30、第3プーリユニット50は、それぞれ平行な軸上に配置されている。
【0023】
図2乃至図4に示すように、上記第1、第2、及び第3プーリユニットの駆動プーリ27、ウォータポンププーリ35、オルタネータプーリ53には、補機駆動ベルト(補機伝動ベルト)51が巻回されており、駆動プーリ27、ウォータポンププーリ35、オルタネータプーリ53が連動する補機伝動系Aを構成している。また、上記第1、及び第2プーリユニットの駆動プーリ29、ファンプーリ37とテンションローラ55(図4参照)には、ファン駆動ベルト(伝動ベルト)52が巻回されており、駆動プーリ29とファンプーリ37とが連動する吸引ファン伝動系Bを構成している。
【0024】
詳細には、上記第2プーリユニット30は、図8及び図10に示すように、ウォータポンプ32の駆動軸32aと同軸上に配置されており、上述のようにウォータポンププーリ35とファンプーリ37とを有している。図10に示すように、ウォータポンプ32の駆動軸32aには、円板状の取付け板33が相対回転不能に固定されており、更にその先端側にはハブリング34が取付けられている。上記ウォータポンププーリ35は、該取付け板33に複数のボルト36・・・により回転不能に一体的に固定されていると共にハブリング34に径方向に対して支持されている。
【0025】
該ウォータポンププーリ35は片ボス構造をしており、このボス部35aの外周とファンプーリ37の中空部37bとの間にベアリングb1が配設され、ドラム部35cの外周とファンプーリ37のプーリ部37aとの間にはベアリングb2,b3が配設され、つまりウォータポンププーリ35に対してファンプーリ37が相対回転自在に支持されている。なお、ウォータポンププーリ35のボス部35aから図中右方側の先端部分には軸部35bが突設されており、上記軸部35bの先端にはナット47が螺合されてワッシャ49を介してベアリング39を抜け止めして保持している。
【0026】
ファンプーリ37の側面には複数のボルト44・・・によって同数の脚部43aを有するボス43が取付けられていると共に、このボス43とファンプーリ37との間には吸引ファンボス42が介在してファンプーリ37に固定されている。これら吸引ファンボス42及びボス43は、上記ボス部35aに設けられたベアリングb1によってウォータポンププーリ35に対して回転自在に構成されていると共に、ボルト44・・・によりファンプーリ37に対して一体に固定されている。それにより、吸引ファンボス42から円周方向に延設された羽部45aを含む吸引ファン45は、ウォータポンププーリ35と独立して回転可能に構成されていると共に、ファンプーリ37に対して一体に回転駆動するように構成されている。
【0027】
一方、上記第1プーリユニット20は、図8及び図9に示すように、エンジン9のクランク軸9aと同軸上に配置されており、上述のように第1駆動プーリ27と第2駆動プーリ29とを有している。図9に示すように、エンジン9のクランク軸9aには、第1駆動プーリ27が一体的にクランク軸9a上(出力軸上)に固着されており、該第1駆動プーリ27にはクラッチ支持部材86が複数のボルト87・・・により固定されている。該クラッチ支持部材86は、上記クランク軸9aと同軸上に延設された支持軸86aを有しており、該支持軸86aの外周側に電磁クラッチ90が支持される形で配置されている。
【0028】
該電磁クラッチ90は、電磁コイル91aを有するコイルユニット91と、該コイルユニット91を支持する駆動ドライブハブ92と、該駆動ドライブハブ92に固着された摩擦パッド93と、該摩擦パッド93に対向配置されたアマチュアディスク94と、該アマチュアディスク94を摩擦パッド93から離反する方向に付勢するバネディスク95と、電磁コイル91aに電力を供給する配線99とを有して構成されている。
【0029】
このうちのコイルユニット91は、コイルユニット支持部材88の底部88aに複数のボルト89・・・により固定されている。該コイルユニット支持部材88は、側面視略コの字状からなり、ドラム状の円筒部88bと該円筒部88bを支持するフランジ状の底部88aとからなる。該底部88aの内周に形成された中空部分には、上記支持軸86aとの間にベアリングb4が介在されており、つまりコイルユニット支持部材88は支持軸86aに対して回転自在に支持されている。従って、エンジン9のクランク軸9aからの駆動回転がコイルユニット支持部材88及びコイルユニット91に伝達されることはなく、これらコイルユニット支持部材88及びコイルユニット91は静止状態にある。
【0030】
一方、駆動ドライブハブ92の内周側にはキー溝92aが形成され、上記支持軸86aにもキー溝86bが形成され、不図示のキー部材により支持軸86aに対して駆動ドライブハブ92は回転不能に支持されている。従って、該駆動ドライブハブ92は、上記静止状態にあるコイルユニット91を相対回転自在に支持しつつ、支持軸86を介してエンジン9のクランク軸9aと一体に回転する。
【0031】
また、上記バネディスク95は、複数のボルト97により上記アマチュアディスク94に取付けられており、該アマチュアディスク94は、複数のボルト96により上記第2駆動プーリ29のフランジ状部29aに対して固定されている。該第2駆動プーリ29のフランジ状部29aと上記支持軸86aとの間にはベアリングb5が介在されており、つまり第2駆動プーリ29は、上記クランク軸9aや支持軸86aに対して相対回転自在に配設されている。なお、該ベアリングb5は、スナップリング103により支持軸86aに位置決め固定されると共に、該ベアリングb5、ワッシャ102、駆動ドライブハブ92、ワッシャ101、ベアリングb4が支持部材86の段差部86cに挟持され、これらベアリングb4、b5及び駆動ドライブハブ92の軸方向位置が精度良く位置決めされる。
【0032】
そして、該第2駆動プーリ29のプーリ部29bと上記コイルユニット支持部材88の円筒部88bの先端部分との間にはベアリングb6が介在されており、該コイルユニット支持部材88に対して該第2駆動プーリ29が回転自在に支持される。即ち、第2駆動プーリ29は、上記ベアリングb5だけでなく、2つのベアリングにより支持軸86aに対して精度良く支持した方が、第2駆動プーリ29に支持されるアマチュアディスク94と支持軸86aに支持される摩擦パッド93との平行度が良好になるが、上記ベアリングb5に並列してもう1つのベアリングを配置するスペースが無い。そこで、上記コイルユニット支持部材88の円筒部88bの先端部分との間に配置したベアリングb6により第2駆動プーリ29のプーリ部29bを支持することで、第2駆動プーリ29は、結果的に2つのベアリングb5,b6により支持されることになる。これにより、第2駆動プーリ29の付根付近の支持構造をベアリングb5だけでコンパクト化に構成することができると共に、ベアリングb5,b6の支持によりアマチュアディスク94と摩擦パッド93との平行度を良好にすることができる。
【0033】
また、コイルユニット支持部材88が電磁クラッチ90の一側面(図9中左方側)から外周側を覆い、かつ該電磁クラッチ90の内周側における支持軸86aとの間をベアリングb4、b5により閉塞すると共に、該電磁クラッチ90の他側面(図9中右方側)を第2駆動プーリ29及びベアリングb6により覆って、つまり電磁クラッチ90を、コイルユニット支持部材88、ベアリングb4、b5、b6、支持軸86a、第2駆動プーリ29で封入した構造としたので、防塵性に優れた構造とすることができる。
【0034】
[作用]
次に、本実施の形態に係るコンバインの作用について説明をする。
【0035】
図8及び図9に示すように、エンジン9が始動してクランク軸9aが回転すると、該クランク軸9aに設けられた第1駆動プーリ27が回転し、図2乃至図4に示すように、補機駆動ベルト51を介してウォータポンププーリ35及びオルタネータプーリ53に動力が伝達される。そして、これらウォータポンププーリ35及びオルタネータプーリ53によって駆動系補機の駆動軸(ウォータポンプ軸32a(図8及び図10参照)及びオルタネータ軸31a)が回転し、ウォータポンプ32及びオルタネータ(不図示)が駆動する。即ち、これら駆動系補機には、補機伝動系Aを介してエンジン9からの動力が常時伝達される。
【0036】
一方、図9に示すように、クランク軸9aが回転している状態で、不図示の制御部からの接続指令に基づき、上記電磁クラッチ90に配線99から電力が給電されると、コイルユニット91からアマチュアディスク94を周回する磁場が発生し、摩擦パッド93に該アマチュアディスク94が吸着され、つまり電磁クラッチ90が係合される。すると、支持軸86a、駆動ドライブハブ92、アマチュアディスク94を介して第2駆動プーリ29が回転し、図8に示すように、ファン駆動ベルト52によりファンプーリ37に動力を伝達する。これにより、ファンプーリ37と一体に回転する吸引ファン45が回転してエンジンカバー11の吸気口19からエンジンルーム7内へと外気が吸引され、この外気がコンデンサ15、オイルクーラ13、ラジエータ12の冷却フィンの間を通ることにより、これら冷却装置12,13,15の被冷却流体が冷却される。
【0037】
[作業時の作用]
そして、作業者が不図示の作業機クラッチ(例えば脱穀クラッチや作業機クラッチなど)を接続(係合)状態にして収穫作業を開始すると、不図示の制御部が除塵制御を開始し、所定のタイマ(第1タイマ)が経過すると図9に示す電磁クラッチ90に切離信号が出力される。該切離信号が出力されると、電磁クラッチ90の配線99に給電されていた電力が切断され、該電磁クラッチ90の磁場が消されると共に、バネディスク95の付勢力により、摩擦パッド93とアマチュアディスク94とが切離される。これにより、クランク軸9aからの駆動回転が切離され、第2駆動プーリ29の回転が停止される。そのため、図8に示すように、ファン駆動ベルト52を介してファンプーリ37も停止され、つまり吸引ファン伝動系Bの動力が切断されて、吸引ファン45が停止される。
【0038】
一方、不図示の制御部から同時に電動ファン81に制御信号が出力され、上記吸引ファン45が停止すると電動ファン81が回転を始める。電動ファン81が回転し始めると、風路に介在しているオイルクーラ13及びコンデンサ15の冷却フィンの間を通って防塵用カバー18へと送風され、該防塵用カバー18に付着した塵埃が除去される。
【0039】
上記電動ファン81は軸流ファンであるため、その送風力はファンの外周側が強く中心側が弱いが、上記オイルクーラ13及びコンデンサ15の冷却フィンによって流れが制限され、流れの速い外側の風の一部が中心側の冷却フィンの間を通るため、中心側の風力が強まり防塵用カバー18には略均一に送風され、防塵用カバー18の塵埃はファン外側だけでなく、ファン中心側も偏ることなく除去される。
【0040】
そして、一定期間(第2タイマ)の間、電動ファン81を駆動させると、制御部から制御信号が出力されて、電動ファン81を停止させると共に電磁クラッチ90を接続指令させる。すると、再度電磁クラッチ90に電力が給電されて、該電磁クラッチ90が再係合され、第2駆動プーリ29がクランク軸9aにより駆動回転されると共に、ファン駆動ベルト52を介してファンプーリ37に動力が伝達されて吸引ファン45が回転する。上記制御部は作業機クラッチが接続している間、上記第1タイマ及び第2タイマを繰り返して、防塵用カバー18の除塵をしつつ収穫作業を行う。
【0041】
なお、補機伝動系Aと吸引ファン伝動系Bとは独立して構成されているため、電磁クラッチ90が切断状態にあり、該吸引ファン伝動系Bの動力伝達が切断されている場合でも駆動系補機(オルタネータ、ウォータポンプ等)には常に動力が伝達されている。
【0042】
また、図1に示すエンジンカバー11には開閉センサが設けられており、上記電動ファン81を駆動させている一定期間(第2タイマ)の間にあって、該エンジンカバー11が開放されると、不図示の制御部が該開放を検知して電動ファン81を停止させる。即ち、例えば作業者がエンジンカバー11を開くと電動ファン81が自動で停止するため、手が巻き込まれたりすることがなく、安全性を確保することができる。なお、電動ファン81を自動停止しなくても、図示を省略したブザーにより警報音を出力することで、作業者に危険を報知するように構成してもよい。
【0043】
[本発明のまとめ]
以上説明した本コンバイン1によると、エンジン9のクランク軸9aと第2駆動プーリ29との動力伝達を接・断し得る電磁クラッチ90を該エンジン9のクランク軸9aと同軸上に配置したので、冷却ファン45と同軸上に並設することを不要とすることができ、冷却装置(ラジエータ12、オイルクーラ13、コンデンサ15)等の配置変更を行うことなく、大幅な設計変更を不要とすることができる。また、電磁クラッチ90が、冷却ファン45と同軸上にないため、該冷却ファン45により吸い込む外気を該電磁クラッチ90が直接受けることがなく、塵埃を被り難くなって、耐久性向上も図ることができる。
【0044】
また、冷却ファン45と一体に回転するファンプーリ37を、ウォータポンプ32の駆動軸32aに対して回転自在に支持させたので、ウォータポンプ32と冷却ファン45とをコンパクトな構成で配置することができる。即ち、ウォータポンプ32と冷却ファン45との間に電磁クラッチ90を配置することがないので、その冷却ファン45のファンプーリ37を設置するプーリユニット30をコンパクトに構成することができ、冷却装置(ラジエータ12、オイルクーラ13、コンデンサ15)等の配置変更を行うことなく、大幅な設計変更を不要とすることができる。
【0045】
なお、本実施の形態では、コンバインの吸引ファンの伝動系について説明したが、エンジンの動力により吸引ファンを駆動させる移動農機であればどのようなものでも良く、例えばトラクタ、田植え機などにも当然に適用することができる。
【0046】
また、吸引ファン45の停止中に防塵用カバー18の塵埃を除去するための塵埃除去装置として電動ファン81を設けたが、この除去装置は電動ファン81に限るものではなく、防塵用カバー18に振動を与えるバイブレータ装置や、電動モータやHSTなどの動力装置によって吸引ファン45を逆転させる構成としてもよい。また、特にこれらの塵埃除去装置を設けず、機体3の振動によって防塵用カバー18に付着した塵埃を除去するように構成してもよい。
【0047】
更に、上記第1及び第2のタイマの時間は、エンジンのサイズ、発熱量などを考慮して適宜設定されると共に、上記除塵制御をスイッチなどで強制的に作動できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 移動農機(コンバイン)
9 エンジン
9a 出力軸(クランク軸)
27 補機駆動プーリ(第1駆動プーリ)
29 駆動プーリ(第2駆動プーリ)
31a (オルタネータの)駆動軸
32 補機(ウォータポンプ)
32a (ウォータポンプの)駆動軸
35 補機従動プーリ(ウォータポンププーリ)
37 従動プーリ(ファンプーリ)
45 冷却ファン
51 補機伝動ベルト(補機駆動ベルト)
52 伝動ベルト(ファン駆動ベルト)
53 補機従動プーリ(オルタネータプーリ)
90 電磁クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸を有するエンジンと、前記エンジンの出力軸上に配設された駆動プーリと、前記エンジンの出力軸と平行な軸上に配置され、伝動ベルトを介して前記駆動プーリに連動される従動プーリと、前記従動プーリの回転に基づき回転される冷却ファンと、を備えた移動農機において、
前記冷却ファンを前記従動プーリと一体に回転するように設け、
前記エンジンの出力軸と前記駆動プーリとの動力伝達を接・断し得る電磁クラッチを前記エンジンの出力軸と同軸上に配置した、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記エンジンと前記電磁クラッチとの間に、前記出力軸と一体に回転する補機駆動プーリと、
補機伝動ベルトを介して前記補機駆動プーリに連動される補機従動プーリと、
前記補機従動プーリと一体に回転される駆動軸を有する補機と、を備え、
前記冷却ファンと一体に回転する前記従動プーリは、前記補機の駆動軸に対して回転自在に支持された、
ことを特徴とする請求項1記載の移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−21523(P2011−21523A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166485(P2009−166485)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】