説明

移動通信中継システム

【課題】 メンテナンスが容易であり、低コストで、フェージングによる通信品質の劣化を抑制した移動通信中継システムを提供すること。
【解決手段】 本発明は、不感地内に設置される2つのサービスアンテナと、1つの基地局から2つの偏波方式で送信された信号を受信し、前記2つのサービスアンテナに提供するドナーアンテナとを有し、前記ドナーアンテナと前記2系統のサービスアンテナとが有線接続されたパッシブ中継システムであることを特徴とする移動通信中継システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信中継システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動通信においては、地下など屋外基地局から送信される電磁波が到達しにくい領域(電磁波の届かない場所や電磁波の弱い場所、電磁波状況の悪い場所等、以下、「不感地」という)にも移動通信サービスを提供するための中継システムが用いられている。
【0003】
図4は、従来技術に係る中継システムの構成を示す図である。従来技術に係る中継システムは、基地局10から送信された電波を不感地20に中継するためのドナーアンテナ30および分配器40を有している。不感地20内には、不感地内をサービスエリアとするためのサービスアンテナ50および60が設けられている。基地局10から送信された信号は、ドナーアンテナ30によって受信され、分配器40によりサービスアンテナ50および60に分配される。移動通信機70は、サービスアンテナ50および60から送信された信号をダイバーシティ合成して通信を行う。このような構成の中継システムを「分岐ダイバーシティ構成」の中継システムという。分岐ダイバーシティ構成の中継システムは、同一信号源からの信号を複数のサービスアンテナに分配するため、マルチパス・フェージングによる通信品質の劣化が増大するという欠点を根本的に有している。
【0004】
図5は、別の従来技術に係る中継システムの構成を示す図である。この従来技術に係る中継システムは、2つの基地局(基地局10および11)から送信された信号を、それぞれ異なるドナーアンテナ(ドナーアンテナ30および31)で受信し、各ドナーアンテナは、受信した信号をそれぞれ異なるサービスアンテナ(サービスアンテナ60および50)に提供する。移動通信機70は、サービスアンテナ50および60から送信された信号をダイバーシティ合成して通信を行う。このような構成の中継システムを「サイトダイバーシティ構成」の中継システムという。
【0005】
また、ブースターアンプ等の増幅器を用いたアクティブな中継システムを適用することも可能である。特許文献1には、2つのドナーアンテナと2つの加入者用アンテナを用いた、2つの独立した中継パスを有するアクティブな中継器が開示されている。
【特許文献1】特表2002−505543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分岐ダイバーシティ構成の中継システムにおいては、同一信号源(基地局10)からの信号を複数のサービスアンテナに分配してダイバーシティ合成を行っていたため、フェージングによる通信品質の劣化が起こってしまうという問題があった。また、サイトダイバーシティ構成の中継システムにおいては、複数の基地局を使用するため、回線容量を圧迫するという問題があった。さらに、サイトダイバーシティ構成の中継システムは複数の基地局信号を一定のレベル差以内で受信出来ない場合には機能しないため、端末と各基地局間の距離に大きな差がある場合には効果がない。このため、端末と特定の基地局との距離が近い場合には、サイトダイバーシティ構成の中継システムを適用できないという問題もあった。また、ブースターアンプを用いた場合には、干渉レベルが増大するため、高品質の移動通信サービスを提供することが困難であるという問題があった。加えて、雑音も増幅してしまうため雑音レベル増大により、通信容量が減少するという問題もあった。さらに加えて、特許文献1に記載された中継器はアクティブな中継器であるため、電源を必要とする。そのため、メンテナンスが煩雑であるという問題があった。そもそも特許文献1は放送用中継装置を開示したものであり、本発明の対象である、不感地に移動通信サービスを提供するための通信システムとは対象を異にするものである。
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、メンテナンスが容易であり、低コストで、フェージングによる通信品質の劣化を抑制した移動通信中継システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明は、不感地内に設置される2つのサービスアンテナと、1つの基地局から2つの偏波方式で送信された信号を受信し、前記2つのサービスアンテナに提供するドナーアンテナとを有し、前記ドナーアンテナと前記2系統のサービスアンテナとが有線接続されたパッシブ中継システムであることを特徴とする移動通信中継システムを提供する。
この移動通信中継システムによれば、異なる偏波方式で送信された信号がそれぞれ別個に受信され、不感地内においてそれぞれ異なるサービスアンテナに提供される。移動通信端末は、不感地内においても、2系統のサービスアンテナから送信される信号をダイバーシティ合成することにより、移動通信サービスを利用することができる。このとき、2つのサービスアンテナから送信される信号は異なるものであるので、利用者はフェージングの影響が少ない高品質な移動通信サービスを利用することが可能である。
【0009】
好ましい態様において、この移動通信中継システムは、前記基地局が、V偏波信号とH偏波信号を送受信可能な偏波共用アンテナを有し、前記ドナーアンテナが、前記2個のサービスアンテナのうち一方のサービスアンテナに受信したV偏波信号を提供し、他方のサービスアンテナに受信したH偏波信号を提供してもよい。
別の好ましい態様において、前記基地局が送受信する信号が、W−CDMA方式の信号であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る移動通信中継システム1の構成を示すブロック図である。移動通信中継システム1は、V偏波(垂直偏波)およびH偏波(水平偏波)の無線信号を送受信可能な偏波共用アンテナを有する基地局12と、内部にサービスアンテナ50および60を有する不感地20と、基地局12とサービスアンテナ50および60との間の通信を中継するドナーアンテナ32とを有する。
【0011】
基地局12は、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式の通信を行う基地局である。W−CDMA方式の通信においては、送信ダイバーシティ機能がサポートされている。すなわち、ダイバーシティ合成を行うため、基地局には2系統の信号が提供される。基地局12は、偏波共用アンテナを介して、この2系統の信号のうち一方をV偏波信号として、他方をH偏波信号として送信する。
【0012】
不感地20は、例えば、地下室、トンネル、ビル内部など基地局12から送信される信号が到達しにくい領域である。なんら対策を行わない場合、不感地20内に存在する移動通信機70は、移動通信サービスを利用することができない。
【0013】
ドナーアンテナ32は、基地局12から送信された信号を不感地20内に中継するためのアンテナである。ドナーアンテナ32は、交差偏波識別度の大きな偏波共用アンテナであり、基地局12から送信されたV偏波信号およびH偏波信号をそれぞれ受信し、それぞれ異なるサービスアンテナに提供する。本実施形態において、ドナーアンテナ32は、受信したV偏波信号を主サービスアンテナ50に提供し、H偏波信号を副サービスアンテナ60に提供する。ドナーアンテナ32とサービスアンテナ50および60とはそれぞれ有線で接続されている。すなわち、移動通信中継システム1は、パッシブな中継システムである。
【0014】
不感地20内において、2系統のサービスアンテナ50および60は、提供された信号をそれぞれ送信する。本実施形態において、サービスアンテナ50および60は、V偏波方式で信号を送信する。すなわち、サービスアンテナ50および60からはそれぞれ異なる信号が送信されるため、不感地20内部はサイトダイバーシティ構成をとることになる。移動通信機70は、サービスアンテナ50および60から送信される信号をダイバーシティ合成することにより、受信信号の品質を改善することができる。
【0015】
図2は、移動通信中継システム1による受信信号の品質改善の様子を示す図である。図2(a)は従来技術に係る中継システムを用いた場合の受信信号のダイバーシティ特性を示す図であり、図2(b)は移動通信中継システム1を用いた場合の受信信号のダイバーシティ特性を示す図である。図2に示されるように、本実施形態に係る移動通信中継システム1を用いることにより、フェージングによる信号劣化が低減され、受信信号の品質が改善される。
【0016】
以上は基地局12から移動通信機70への下り信号についての説明であるが、移動通信機70から基地局12への上り信号についても同様に中継される。移動通信機70から送信された上り信号は、空間的に異なる位置に配置された2つのサービスアンテナ(サービスアンテナ50および60)により受信される。受信された信号はドナーアンテナ32を介してV偏波信号とH偏波信号の2系統に分けて基地局12に送信される。基地局12は、受信したV偏波信号とH偏波信号をダイバーシティ合成回路により合成する。
【0017】
以上で説明したように、移動通信中継システム1によれば、サイトダイバーシティ構成による中継システムと同様にフェージングによる通信品質の劣化が少ない通信サービスを提供することができる。ここで、移動通信中継システム1は1本のドナーアンテナ32および1つの基地局12のみを用いるため、図5に示される従来技術に係るサイトダイバーシティ構成の中継システムよりも低コストで、また、通信容量を圧迫せずに通信サービスを提供することができる。すなわち、不感地をサービスエリアとするために移動通信中継システム1を用いると、通信品質改善、容量圧迫の回避、および低コスト化を同時に実現することができる。さらに、移動通信中継システム1は電源を必要としないパッシブな中継システムであるため、メンテナンスも容易である。
【0018】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
図3は、本発明の別の実施形態に係る中継システム2の構成を示す図である。上述の実施形態において、基地局12が送受信する信号は、V偏波信号とH偏波信号であったが、基地局12が送受信する信号の偏波方式はこれに限定されるものではない。例えば、図3に示されるように、基地局13およびドナーアンテナ33は、円偏波の左旋波信号と右旋波信号を用いてもよい。要は、偏波ダイバーシティを行う構成であればどのようなものでもよい。
【0019】
また、上述の実施形態において、移動通信中継システム1がW−CDMA方式の通信を行う態様について説明したが、移動通信中継システム1の通信方式はW−CDMA方式に限定されるものではない。2系統の信号を送受信できるものであれば、どのような通信方式でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態に係る移動通信中継システム1の構成を示すブロック図である。
【図2】移動通信中継システム1による受信信号の品質改善の様子を示す図である。
【図3】別の実施形態に係る移動通信中継システム2の構成を示す図である。
【図4】従来技術に係る中継システムの構成を示す図である。
【図5】別の従来技術に係る中継システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1…移動通信中継システム、10・11・12・13…基地局、20…不感地、30・31・32・33…ドナーアンテナ、40…分配器、50・60…サービスアンテナ、70…移動通信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不感地内に設置される2系統のサービスアンテナと、
1つの基地局から2つの偏波方式で送信された信号を受信し、前記2系統のサービスアンテナに提供するドナーアンテナと
を有し、
前記ドナーアンテナと前記2系統のサービスアンテナとが有線接続されたパッシブ中継システムである
ことを特徴とする移動通信中継システム。
【請求項2】
前記ドナーアンテナが、V偏波信号とH偏波信号を送受信可能な偏波共用アンテナであり、
前記ドナーアンテナが、前記2系統のサービスアンテナのうち一方のサービスアンテナに受信したV偏波信号を提供し、他方のサービスアンテナに受信したH偏波信号を提供する
ことを特徴とする請求項1に記載の移動通信中継システム。
【請求項3】
前記基地局から送受信される信号が、W−CDMA方式の信号であることを特徴とする請求項1に記載の移動通信中継システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−352328(P2006−352328A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173718(P2005−173718)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(593039144)ドコモエンジニアリング株式会社 (5)
【Fターム(参考)】