説明

移植機

【課題】移植機において、作業の軽減を図れ、また一人の作業者によって植え付け作業が行えるようにする。
【解決手段】畝Rを跨いで走行する走行体3に、畝Rに苗を植え付ける移植装置4が支持されると共に、後部側に操向ハンドル5が設けられた歩行型の移植機であって、前記走行体3の後部側に前部が縦軸に枢支された牽引台車6が連結され、前記牽引台車6には、畝Rを跨いで走行する車輪46と、前記操向ハンドル5より後方で作業者Mが乗車する乗車部47とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畝を跨いで走行しながら畝に苗を植え付ける歩行型の移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、畝を跨いで走行する走行体の後方側に畝に苗を植え付ける移植装置を備え、この移植装置の後方側に操向ハンドルを備え、走行しながら苗を植え付ける歩行型の移植機は公知である(例えば、特許文献1等参照)。
この移植機の走行体は、エンジンが搭載された機体の左右両側に、畝間溝を走行する前輪と、この前輪の後方に位置する走行装置とを有したもので、機体に支持された伝動ケース内の動力伝達機構を介してエンジンからの動力が走行装置に伝達されるようになっている。
【0003】
移植装置は、操向ハンドルの前方側に設けられた苗載せ台上の苗トレイから苗を取り出しつつ、走行体による走行に合わせて苗を畝に植え付けるようになっている。なお、移植装置が苗の植え付けをミス(苗の無供給や倒れなど)した場合に、植え付けを補う作業が必要となるので、移植機に随伴する作業者とは別の作業者が、更に後方を随伴歩行して絶えず植え付け状況の監視をし、必要に応じて植え付け作業の補完を行うようにしていた。すなわち、移植作業は二人一組で行うのが一般的とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−261297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したように歩行型の移植機による移植作業は、一人の作業者が操向ハンドルを両手で支えながら移植機に随伴歩行し、更にその後方を別の作業者が苗の植え付け作業を補完しつつ随伴歩行することになるが、作業面積が広くなればそれだけ作業者らの歩行距離は長くなり、また作業時間も長時間に及ぶことになる。そのため、作業負担が重く疲労が大きいということがあった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、作業の軽減を図れ、また一人の作業者によって植え付け作業が行えるようにした移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明は、畝を跨いで走行する走行体に、畝に苗を植え付ける移植装置が支持されると共に、後部側に操向ハンドルが設けられた歩行型の移植機であって、前記走行体の後部側に前部が縦軸に枢支された牽引台車が連結され、前記牽引台車には、畝を跨いで走行する車輪と、前記操向ハンドルより後方で作業者が乗車する乗車部とが設けられていることを特徴とする。
【0008】
前記走行体の後部には、前記牽引台車を走行体の走行レベルよりも浮上させた状態で係合する係合部が設けられたものとするのが好適である。
前記乗車部は走行体の左右方向中央部に配置され、前記牽引台車には前部と乗車部との間で畝の苗に対して作業するための作業スペースが形成されたものとするのが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る移植機は、作業の軽減が図れるものであり、また一人の作業者によって植え付け作業が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る移植機の一実施形態を示した側面図である。
【図2】本発明に係る移植機の一実施形態を示した平面図である。
【図3】本発明に係る移植機の一実施形態について牽引台車を横向きで且つ走行レベルから浮上させて保持させた状態を示した背面図である。
【図4】図1のA−A線断面図である。
【図5】図1のB部拡大図である。
【図6】牽引台車を横向きで且つ走行レベルから浮上させて保持するための係合部を拡大して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図6は、本発明に係る移植機1の一実施形態を示している。図1に示すように、この移植機1は、畝Rを跨いでこの畝Rの長手方向に走行する走行体3と、この走行体3の後部側に設けられて畝Rに野菜等のソイルブロック苗を所定間隔で植え付ける移植装置4とを有しており、走行体3には移植装置4の後方へ延出する操向ハンドル5が設けられている。
【0012】
また本発明に係る移植機1は、この操向ハンドル5より後方で作業者Mが乗ることのできる牽引台車6が設けられており、この牽引台車6に乗車したまま移植機1の運転(移植作業の随伴)が行えるものとなっている。
まず、走行体3及び移植装置4について説明する。
走行体3は、機体9と、この機体9を走行可能に支持する推進機構10と、機体9に搭載されたエンジン11とを有している。機体9は、ミッションケース12と、このミッションケース12から前方へ突出して設けられた架台13と、ミッションケース12から後方へ延出して設けられた支持フレーム14とによって形成されたものであって、架台13の前方上部に、前記エンジン11が配置されている。
【0013】
支持フレーム14は、ミッションケース12の後部上端側にフレーム前端部を連結させた状態で移植装置4の下部を経由するようにして後方へ延出され、この部分の上部で移植装置4を支持している。また支持フレーム14は、移植装置4の後方へと突き抜けた部分で移植装置4の後面に沿って上方へ向かうように折曲状に形成されており、この折曲部分の上端側(支持フレーム14の後端側)に操向ハンドル5が連結されている。
【0014】
この支持フレーム14に対し、移植装置4の下方となる付近に、牽引台車6を連結するための装備として連結部15(図2参照)と係合部16(図3参照)とが設けられている。これら連結部15及び係合部16については、牽引台車6の説明と共に後述する。
図2に示すように、操向ハンドル5は長手方向を前後に向けた左右一対の側杆部5aと、これら側杆部5aの後端相互間に設けられた後部横杆部5bとを有しており、平面視で前方に向けた開放状の略コ字形を呈するようになっている。作業者Mは、移植機1の運転時にはこの操向ハンドル5における左右の側杆部5a又は後部横杆部5bを把持して、乗車姿勢の安定を図ると共に必要に応じて移植機1の進行方向を操舵する。
【0015】
推進機構10は、左右一対の前輪支持アーム17によって回転自在に支持された左右の前輪18と、これら各前輪18の後方側で、機体9の左右両側に設けられた伝動ケース19を介して支持された左右一対のクローラ式走行装置20とを有している。
前輪支持アーム17は後方ほど高位となるように傾斜しており、その後部上端側が、上下揺動と左右方向の位置調節を可能にする前輪支持基部21を介して機体9側に連結されている。
【0016】
伝動ケース19は後方ほど低位となるように傾斜しており、その前部上端側が、上下揺動と左右方向の位置調節を可能にする走行部支持基部22を介してミッションケース12の側方に連結されている。この伝動ケース19の内部には、チェーン伝動機構などの伝動部が収納されており、ミッションケース12側から伝動ケース19の前部上端側へ出力される動力を、伝動ケース19の後部下端側へ伝達できるようになっている。
【0017】
図1に示すように、クローラ式走行装置20は、上部の駆動輪23と、駆動輪23の前方側で且つ下方側に配置された前アイドラ24と、駆動輪23の後方側で且つ下方側に配置された後アイドラ25と、これら駆動輪23、前後アイドラ24,25にわたって巻き掛けられた無端帯状のクローラベルト26とを有する。
駆動輪23は、伝動ケース19の後端側に設けられた駆動軸27に対して一体回転可能に取付固定されており、この駆動軸27の回転で、駆動輪23を介してクローラベルト26が循環駆動され、クローラ式走行装置20が前進又は後進するようになっている。
【0018】
このような推進機構10において、左右の前輪18は、前輪支持基部21において前輪支持アーム17を左右方向に位置変更することでトレッド調整が可能であり、左右のクローラ式走行装置20は、走行部支持基部22において伝動ケース19を左右方向に位置変更することでトレッド調整が可能とされている。
なお、機体9の架台13には、昇降シリンダ30とローリングシリンダ31とが設けられている。昇降シリンダ30の作動で、左右の伝動ケース19及び左右の前輪支持アーム17が同じ向きに上下揺動し、これによって車高調節ができる。また、ローリングシリンダ31の作動で、左右一方の伝動ケース19及び左右一方の前輪支持アーム17が相対逆方向に上下揺動し、これによって機体9の傾きを制御(修正)することができる。
【0019】
移植装置4は、苗トレイを支持する苗載せ台35と、この苗載せ台35上の苗トレイから苗を取り出して下方へ送り出す苗取出し装置36と、この苗取出し装置36が取り出した苗を受け取って畝Rに植え付ける植付体37と、畝Rに植え付けられた苗の左右両側を鎮圧する左右一対の鎮圧輪38(覆土輪)とを有している。その他、圃場に敷設されたマルチフィルムに植付用穴を形成する穿孔体や、畝Rの上面を転動する整地ローラ(検出ローラ)を備えさせることもできる。
【0020】
また図3に示すように、予備の苗トレイを載せておくための予備苗載せ台39を、走行体3などに対して備えさせておくこともできる。苗トレイは薄肉のプラスチック製であって縦横に多数のポット部が配置形成されており、各ポット部にソイルブロック苗が育成されている。
苗載せ台35は、操向ハンドル5の前部で前下がり方向に傾斜して設けられており、支持フレーム14に対して左右方向に移動可能な状態で支持されている。また、この苗載せ台35には横送り機構及び縦送り機構が設けられており、支持した苗トレイを、ポット部の横ピッチに合わせて間欠的に往復横送りしたり、左右方向両側の横送り端にてポット部の縦ピッチに合わせて下方側に縦送りしたりすることができる。
【0021】
苗取出し装置36は苗取出爪40を有しており、この苗取出爪40に対し、ポット部内の床土を前側から突き刺すことで苗を取り出す動作と、取り出した苗を保持したまま下方の苗受取り位置に待機した植付体37まで移動する動作と、この植付体37へ苗を送り渡す動作と、復帰動作とを、繰り返し行わせるように構成されている。
植付体37は、左右のクローラ式走行装置20の間に配置され、上部が開口し且つ下部ほど先細りに形成されて、且つ下部が開閉自在とされている。この植付体37は、上下動機構によって機体9の下方へ向けて上下動するようになっている。この植付体37は上下動範囲の上死点又はその近傍にて下部を閉じた状態で待機し、苗取出し装置36から苗を受け取ると下降して、上下動範囲の下死点側で畝Rに突入し下部を開く動作をする。これにより、畝Rに植え穴を形成させつつこの植え穴に苗を放出するものとなり、苗が畝Rに植え付けられる。
【0022】
これら苗取出し装置36、植付体37はミッションケース12からの動力を受けて駆動される。
鎮圧輪38は、植付体37の後方側に左右一対設けられており、截頭円錐状に形成されており、その外周面がテーパー面となっている。図3に示すように、左右の鎮圧輪38は、後方から見ると逆ハの字状となる向きに傾斜して互いに連結されており、各鎮圧輪38の外周面の接地面(下端)側が左右方向に水平状になっている。
【0023】
従って、これら鎮圧輪38は、畝Rに受け付けられた苗の左右両脇を転動し、植え穴に投入された苗の左右両側の土を押圧するようになっている。なお、この鎮圧輪38は上下方向の位置調節が可能とされており、植付け深さの変更に対応できる。
次に、牽引台車6と、この牽引台車6を連結するために走行体3に装備された構造(前記連結部15及び係合部16)とについて説明する。
【0024】
図2に示すように、牽引台車6は、台車フレーム45と、この台車フレーム45に設けられた左右一対の車輪46及び乗車部47とを有している。台車フレーム45の前端部には被連結部48が設けられており、この被連結部48が、走行体3の後部に設けられた連結部15に連結されることにより、走行体3の後方で牽引台車6を牽引できるようになっている。
【0025】
台車フレーム45は、被連結部48から後方へ延びるメインフレーム51と、このメインフレーム51の後端部に設けられて左右の車輪46及び乗車部47の支持部となっている懸架フレーム52と、この懸架フレーム52から前方へ突出してメインフレーム51の側方で並行する状態に設けられた補助フレーム53とを有している。
メインフレーム51は、走行体3の操向ハンドル5を把持した作業者Mがそのまま乗車部47に乗車できるように、操向ハンドル5と乗車部47(即ち、懸架フレーム52)との前後間距離を所定に保持させる作用を有している。
【0026】
このメインフレーム51は角パイプなどにより形成されており、台車フレーム45の前部(被連結部48)から後方へ直進状に延出した前杆部55と、この前杆部55に後続して操向ハンドル5の下方あたりで後方ほど右方となるように斜めに設けられた前屈曲部56と、この前屈曲部56に後続して後方へ直進状に延出した偏心杆部57と、この偏心杆部57に後続して後方ほど左方となるように斜めに設けられた後屈曲部58とを有している。
【0027】
図4に示すように、懸架フレーム52は、長手方向を左右方向へ向けた上部横杆60と、この上部横杆60の左右両端部から下方へ突出して設けられた左右一対の車輪支持杆61とを有しており、門型を呈するようになっている。これら左右の車輪支持杆61の下端部であって且つそれぞれ左右方向の外方面となる部分に、左右の車輪46が回転自在に設けられている。
【0028】
すなわち、この懸架フレーム52は、左右の車輪46を、前輪18やクローラ式走行装置20と略同じトレッドで保持する作用を有したものであって、左右の車輪46は畝Rを跨いで走行可能となっている。なお、懸架フレーム52には、前輪18やクローラ式走行装置20のトレッド調整に合わせて、これら左右の車輪46についてもトレッド調整できる構造を採用することもできる。
【0029】
補助フレーム53は、メインフレーム51の偏心杆部57が、走行体3における左右方向の中央位置から右方へずれているのとは対称的に、左方にずれた状態で設けられている。なお、本実施形態では、補助フレーム53は後端部だけが懸架フレーム52に連結された片持ち状態とし、前端部を自由端としてあるが、前端部を前方へ延出させてメインフレーム51の前屈曲部56や前杆部55などと連結してもよい。
【0030】
このようにこの台車フレーム45においては、メインフレーム51の偏心杆部57が、台車フレーム45の前部(被連結部48)と乗車部47との前後間となる領域で、走行体3における左右方向の中央位置(前輪18やクローラ式走行装置20のトレッド中心)から右方へずれた位置を通過するようになっている。またこの偏心杆部57とは対称的に、補助フレーム53は、走行体3における左右方向の中央位置から左方にずれた位置を通過するようになっている。
【0031】
そのため、この台車フレーム45には、走行体3における左右方向の中央位置に対応して、畝Rの苗に向けて作業するための作業スペースSが形成されていることになる。そのため、移植装置4が畝Rに対する苗の植え付けミス(苗の無供給や倒れなど)を起こした場合に、乗車部47に乗った作業者Mがこの作業スペースSを利用して下方の畝Rへ手を差し出して、苗の植え付けをやり直すことができるものである。
【0032】
乗車部47は、台車フレーム45の懸架フレーム52に対し、上部横杆60の左右方向中心部(走行体3の左右方向中央部)から上方へ向けて突出状に設けられた座部支柱63と、この座部支柱63の上端部に設けられた座部64と、台車フレーム45に設けられた左右一対のステップ65とを有している。
座部64は、適度なクッション材を防水性のカバー材で被覆するような構造としてもよいし、樹脂材などによって盤体状に一体形成させた構造としてもよい。また座部支柱63は、この座部64を作業者Mの体型などに合わせて上下位置調節可能にする構造を採用するとよい。
【0033】
右方のステップ65は、線材を平面視コ字状に折曲して形成した枠体を、メインフレーム51の偏心杆部57に対してその右方へ張り出すように設けた構造としてあり、左方のステップ65は、線材を平面視コ字状に折曲して形成した枠体を、補助フレーム53に対してその左方へ張り出すように設けた構造としてある。これら左右のステップ65は、座部64に腰掛けた作業者Mの足を支承可能な配置として、その取付高さや前後方向位置、更には左右方向位置が決められている。なお、これらの各取付位置を調節可能な構造としてもよい。
【0034】
図5に示すように、走行体3に設けられた連結部15と牽引台車6に設けられた被連結部48とによる連結部分は、軸心を上下方向に向けた縦軸70と、この縦軸70をその軸心まわりで相対回動自在に保持する縦軸受け71とによって構成されている。本実施形態では、連結部15に縦軸70が設けられ、被連結部48に縦軸受け71が設けられたものとしてある。しかし反対に、被連結部48に縦軸70が設けられ、連結部15に縦軸受け71が設けられたものとしてもよい。
【0035】
走行体3において、連結部15は、移植装置4の下方となる付近であって、且つ左右方向の中央位置(前輪18やクローラ式走行装置20のトレッド中心)に、機体9の支持フレーム14などに対して設けられている(図1及び図2参照)。連結部15の具体的構造は、丸棒材を素材としてその後端部を下方へ向けて垂直となる状態に折曲させた支持ステー72を、機体9側に後方突出状に固定し、この支持ステー72の下方へ向く垂直部分を縦軸70とさせている。
【0036】
なお、この連結部15(縦軸70)は、鎮圧輪38よりも後方となる配置としてあり、従って当然に、植付体37やクローラ式走行装置20よりも後方となる配置としてある。
牽引台車6において、被連結部48は、前記したように台車フレーム45の前端部に設けられたものであって、その具体的構造は、メインフレーム51の前杆部55にブラケット片73を介して前方突出状にヒンジアーム74を固定し、このヒンジアーム74の前端部に縦軸70を外嵌可能なボス部を形成することで、このボス部を縦軸受け71とさせている。なお、この縦軸受け71の内周面と縦軸70の外周面との周隙間にブシュなどの軸受部材75を設けて、縦軸70と縦軸受け71との相対回動が円滑に行われるようにするのが好適である。
【0037】
縦軸70と縦軸受け71との相対回動角度は、走行体3に対して牽引台車6を左方及び右方のそれぞれに90°程度ずつ、揺動させることができるようなものとなっている。
なお、連結部15又は被連結部48の少なくとも一方には、軸心を左右方向に向けた横軸77と、この横軸77をその軸心まわりで相対回動自在に保持する横軸受け78とにより構成された上下揺動部79が設けられている。本実施形態では、被連結部48(即ち、牽引台車6)に対して設けられたものとしてある。しかし、連結部15(即ち、走行体3)に対して設けられたものとしてもよい。
【0038】
上下揺動部79の具体的構造は、ヒンジアーム74が、縦軸受け71を有する側の前部アーム80と、ブラケット片73に固定される側の後部アーム81とに分離されていて、このうち一方(図例では前部アーム80)に横軸77が設けられ、他方(図例では後部アーム81)に横軸受け78が設けられたものとしてある。なお、この横軸受け78の内周面と横軸77の外周面との周隙間にブシュなどの軸受部材82を設けて、互いの回動が円滑に行われるようにするのが好適である。
【0039】
このような上下揺動部79により、走行体3に対し、牽引台車6は上下方向にも揺動自在な状態として牽引されるものとなり、路面や枕地などの起伏を吸収しつつ牽引台車6の走行が可能となっている。
ところで、牽引台車6は、前記縦軸70まわりで可能とされた左右方向の揺動と、前記横軸77まわりで可能とされた上下方向の揺動とにより、図3に示すように、走行体3に対して横向きで、且つ走行レベルよりも浮上させた状態に姿勢変更させることができる。
【0040】
走行体3に設けられた前記係合部16は、このように姿勢変更させた牽引台車6を、そのまま走行体3に保持させるためのもので、走行体3の後部に設けられている。具体的構造は、機体9の支持フレーム14などに対し、図6に示すように、後方へ向けて突出片85が設けられ、この突出片85の後端部に、左右方向に貫通し且つ上方へ開放された切欠86が形成されることによって、係合部16が形成されたものとしてある。
【0041】
なお、牽引台車6の台車フレーム45(メインフレーム51の前屈曲部56や前杆部55など)をそのまま係合できるように、切欠86を大きく形成させることも可能であるが、本実施形態では、台車フレーム45側(メインフレーム51の前杆部55とした)に対し、線材を上方へ向けてアーチ状に湾曲することにより形成した吊り輪具87(被係合部)を設けることにより、この吊り輪具87を切欠86へ係合させるようにしてある。
【0042】
このような吊り輪具87を設けることで、メインフレーム51の前屈曲部56や前杆部55などが突出片85と接触して傷や変形を起こすことを防止できる利点がある。また、突出片85を小型化できる利点がある。
以上、詳説したところから明かなように、本発明に係る移植機1では、牽引台車6の乗車部47に作業車Mが乗ったまま、移植作業を行うことができる。すなわち、作業車Mは歩行によって走行体3の走行に随伴する必要がないので、作業の軽減が図れるものとなる。
【0043】
移植作業を行っている際に、移植装置4が畝Rに対する苗の植え付けミス(苗の無供給や倒れなど)を起こしたとしても、牽引台車6には作業スペースSが設けられているため、乗車部47に乗った作業者Mはこの作業スペースSを利用して下方の畝Rへ手を差し出して、苗の植え付けをやり直すことができるものである。
従って、苗の植え付けミスを補完する目的のためにだけ、移植機1の運転とは別に随伴するような作業者は不要であり、結果として、一人の作業者によって植え付け作業が行えるようになる。
【0044】
移植機1を枕地等で旋回させるに際しては、操向ハンドル5を押し下げ、クローラ式走行装置20の接地部分を支点として前輪18が接地面から離れる高さまで走行体3の前部を浮き上がらせる。このとき、牽引台車6のメインフレーム51を縦軸77まわりに揺動させ、吊り輪具87を切欠86に係止すれば、メインフレーム51は上方に持ち上がりながら平面視で畝Rから外れた位置に退避する姿勢となる。つまり、退避姿勢にしたときは、牽引台車6の車輪46が畝Rの上方に位置することになるため、車輪46と畝Rとの接触によって畝Rを崩すことなく移植機1の旋回を行うことができる。
【0045】
即ち、予め牽引台車6を走行レベルより浮上させながら横向きにさせ、即ち、車輪46が畝Rの上面よりも高い位置になるように浮上させ、その姿勢のまま、走行体3の係合部16へ保持させるようにすれば、牽引台車6を設けた場合であっても移植機1を容易に旋回させることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0046】
例えば、台車フレーム45のメインフレーム51において、前屈曲部56が後方ほど左方となるように斜めに設けられ、後屈曲部58が後方ほど右方となるように斜めに設けられたものとして、偏心杆部57が走行体3における左右方向の中央位置から左方へずれた位置を通過するようにしてもよい。また、前屈曲部56や後屈曲部58は、直角に設けられたものとしてもよい。
【0047】
台車フレーム45は、牽引台車6としての前部(縦軸70の設けられた部位)と乗車部47との間を、複数本の条材で連結し、これら条材を桟材で連結して枠体を形成させるように構成させることもできる(平面視して梯子型になるような構造にしてもよい)。
乗車部47は、座部64を有することが限定されるものではなく、単に作業者Mの腰や尻を凭れかけさせるような柵状の部材を設けた構造としてもよいし、場合によっては作業者Mが立ったまま乗るようにステップや乗り板だけを設けた構造としてもよい。
【0048】
走行体3と牽引台車6との連結部分に対し、簡単な操作で牽引台車6を着脱できるようにする構造を採用してもよい。
上記実施形態では、走行体3の後部には、縦軸70まわりで横向きに揺動させることによって牽引台車6を走行体3の走行レベルよりも浮上させていたが、メインフレーム51を前後方向に伸縮自在にして縮小したメインフレーム51を、例えば、操向ハンドル5や係合部16等に引っ掛けることにより、牽引台車6を走行体3の走行レベルよりも浮上させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 移植機
3 走行体
4 移植装置
5 操向ハンドル
6 牽引台車
16 係合部
46 車輪
47 乗車部
70 縦軸
R 畝
M 作業者
S 作業スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畝(R)を跨いで走行する走行体(3)に、畝(R)に苗を植え付ける移植装置(4)が支持されると共に、後部側に操向ハンドル(5)が設けられた歩行型の移植機であって、
前記走行体(3)の後部側に前部が縦軸(70)に枢支された牽引台車(6)が連結され、前記牽引台車(6)には、畝(R)を跨いで走行する車輪(46)と、前記操向ハンドル(5)より後方で作業者(M)が乗車する乗車部(47)とが設けられていることを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記走行体(3)の後部には、前記牽引台車(6)を走行体(3)の走行レベルよりも浮上させた状態で係合する係合部(16)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記乗車部(47)は走行体(3)の左右方向中央部に配置され、前記牽引台車(6)には前部と乗車部(47)との間で畝(R)の苗に対して作業するための作業スペース(S)が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−125275(P2011−125275A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287430(P2009−287430)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】