説明

穀物乾燥装置及び方法

【課題】 乾燥機体内部に堆積された穀物、特に大豆の乾燥調整を良好に行うこと、裂皮粒や機械的な損傷粒等の発生を低減化すること、個人農家に好適であること等が可能な穀物乾燥装置及び方法を提供する。
【解決手段】 乾燥機体に、堆積層部の表面層の上方から下方の堆積層部に向かって加温或いは非加温の外気を通風可能とする温風通風装置と、乾燥機体内部の空気を穀物層の深層よりも下方から外部に排出する吸引式通風装置と、堆積層部の深層の穀粒を表面層に搬送して堆積層部の表面層の穀粒を深層に向かって流下移動させる搬送装置とを具備させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、穀物乾燥装置及び方法に関するものであり、さらに詳しくは、大豆を乾燥調整するのに好適な穀物乾燥装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、穀物、例えば大豆は、その水分が18%以下で収穫された場合には、ネット袋やフレコンバック等に入れて風通しの良いところに貯蔵することができるが、18%以上の高水分大豆や15%以下に仕上げ乾燥する場合には、大型循環式汎用乾燥機、角ビン、丸ビンと呼ばれる大型の循環併用の通風乾燥装置、静置型乾燥機、大豆の乾燥調整に対応した循環式汎用乾燥機、遠赤外乾燥機等が用いられていた。
【0003】
しかしながら、従来の大型循環式汎用乾燥機や大型の循環併用の通風乾燥装置にあっては、共同乾燥施設に設置されていることが多いため、使用コストや作業者の労働コストがかかってしまうという問題があった。また、施設処理能力によっては待ち時間がかかるという問題や、収穫摘期に収穫することができないことがあるという問題もある。
また、従来の静置型乾燥機にあっては、大豆を約1mぐらいの堆積厚とし、その底部から堆積大豆層に向かって通風するように構成されているため、一回の処理量が少ないうえに大豆の搬入、搬出の手間が掛かったり、水分の不均一が生じるため天地変えを必要とするという問題があった。
【0004】
また、従来の循環式汎用乾燥機、遠赤外乾燥機にあっては、ハンドリングが容易であり、しかも一般的に転作大豆を作っている米作農家が大抵所有しているため収穫適期に大豆が収穫可能となるものの、もともと米麦用のテンパリング乾燥として乾燥機体内部に縦一列に配置された下部の乾燥層から上部のテンパリング層(乾燥休止層)に向かって排出バルブ、スクリュコンベアやバケットエレベータ等の搬送装置により大豆を搬送して乾燥機体内部を循環させるように構成されている。そのため、大豆乾燥にも対応できるように大豆乾燥モード、つまり搬送速度を落としたり大豆用の水分計を具備する等の改良が施されていても、乾燥層で温風にさらされた大豆は、その種皮が乾燥により張って裂皮しやすくなっているところに搬送装置による搬送過程で衝撃を受けてしまうため、裂皮粒が発生し易いという問題があった。特に、煮豆用の種皮が薄い大粒大豆にあっては、乾燥によるしわや裂皮、機体の循環装置による機械的損傷が多く発生してしまうという問題がある。
なお、上記した問題を解決するために、例えば、特許文献1〜9には様々な大豆の乾燥装置や方法が提案されているが、まだ問題を充分に解決するには至っていない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−181451号公報
【特許文献2】特開2002−174489号公報
【特許文献3】特開2002−081863号公報
【特許文献4】特開2002−062051号公報
【特許文献5】特開昭60−017682号公報
【特許文献6】実開昭58−120492号公報
【特許文献7】実開昭58−120490号公報
【特許文献8】特開2001−116454号公報
【特許文献9】特開平08−014746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、上記した従来技術が有している問題点を解決するためになされたものであって、乾燥機体内部に堆積された穀物、特に大豆の乾燥調整を良好に行うこと、裂皮粒や機械的な損傷粒等の発生を低減化すること、個人農家に好適であること等が可能な穀物乾燥装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、少なくとも直方体形状或いは円柱状に形成された乾燥機体内部に通風可能に堆積された穀物層を乾燥するための穀物乾燥装置であって、
前記穀物層の表面層の上方から前記穀物層に向かって加温或いは非加温の外気を通風可能とする温風通風手段と、
前記乾燥機体内部の空気を前記穀物層の深層よりも下方から外部に排出する吸引式通風手段と、
前記穀物層の深層の穀粒を表面層に搬送して前記穀物層の表面層の穀粒を深層に向かって流下移動させる搬送手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記乾燥機体は、大豆乾燥に応じた循環式汎用乾燥機体であることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するため請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記温風通風手段からの通風空気は、前記穀粒の子実水分と外気温湿度とに応じて、品種ごとの種皮の水分裂皮特性から乾燥による裂皮を生じる前記通風空気の平衡水分が求められ、この求められた前記通風空気の平衡水分に基づいて上限加温温度が設定されていることを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するため請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記温風通風手段は、前記乾燥機体外部に設けられた間接加熱方式ヒータと、前記間接加熱式ヒータから送風された加温或いは非加温の外気を前記機体内部に導くための導管部と、前記導管部を介して機体内部に導入された通風空気が直接穀物にあたるのを回避するための遮蔽板とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するため請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記温風通風手段は、前記乾燥機体内部の下部に設けられたバーナと、前記バーナが生成した加温空気を前記乾燥機体内部の上部に導く導管部とを備えていることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するため請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記温風通風手段は、電気ヒータであることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するため請求項7に記載の発明は、少なくとも直方体形状或いは円柱状に形成された乾燥機体内部に通風可能に堆積された穀物層を乾燥するための穀物乾燥方法であって、
前記穀物層の表面層の上方から前記穀物層に向かって加温或いは非加温の外気を通風する温風通風行程と、
前記乾燥機体内部の空気を前記穀物層の深層よりも下方から外部に排出する排気行程と、
前記穀物層の深層の穀物を表面層に搬送して前記穀物層の表面層の穀物を深層に向かって流下移動させる搬送行程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、温風通風手段からの通風空気は、穀物層の表面層から深層に向けて通風するため、穀物層の表面層の穀粒の種皮側に含まれる水分をムラなく蒸発させると共に穀物層全体をゆっくりと乾燥させる。そして、種皮側が乾燥した穀粒は、穀物層の深層の穀粒が搬送手段により次々と表面層に搬送されるのに従って深層へ向かって徐々に流下移動すると共に、流下移動している間に、穀粒内部の水分が種皮側に吸い取られて穀粒内部と種皮側との水分が平衡化して乾燥による歪みが緩和する。そして、穀物層の深層に達した穀粒は、搬送手段により表面層に搬送される。ここでまた穀粒の種皮側の乾燥が行われ、これが繰り返される。これにより、穀粒は、従来のように、種皮側が乾燥により張って裂皮しやすくなった状態で搬送装置により搬送されるのではなく、穀粒内部と種皮側との水分が平衡化して乾燥による歪みが緩和した状態で搬送装置により搬送されるので、搬送装置による衝撃を受けても損傷し難くなり、その結果、裂皮粒や機械的な損傷粒の発生を大幅に低減することができて、乾燥機体内部に堆積された穀粒、特に大豆の乾燥調整を良好に行うことができるようになる。しかも、温風通風手段からの通風空気を無駄なく穀粒の乾燥に利用できるので省エネルギである。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、乾燥機体には、大豆乾燥に応じた循環式汎用乾燥機体が用いられる。これにより、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、既存の乾燥機体を用いることにより製作コストを大幅に低減することができる。さらに、大豆乾燥に応じているため、設定水分や大豆水分計等が使えるので取扱いが便利であるうえに、搬送速度が低速なため裂皮粒や機械的な損傷粒の発生がより低減化されるので、個人農家に好適な穀物乾燥装置を提供することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、通風空気の平衡水分、つまり、穀粒の子実水分と平衡となる水分ベースの相対湿度が正確に求められるので、穀粒の種皮が内部水分に比較して乾きすぎないように通風空気の湿度が調整される。そして、温風通風手段によって裂皮を発生させない温度に調温された通風空気が乾燥機体内部の上部から下部に向けて通風される。これにより、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、しわ粒、裂皮粒の発生をより低く抑えることができて、穀物、特に大豆の良質な乾燥調整を容易、且つ効率的に行うことができるようになる。
【0017】
請求項4乃至6に記載の発明によれば、温風通風手段は、乾燥機体外に設けられた間接加熱方式ヒータとそのヒータから排気された加温空気を乾燥機体内に導くための導管部及び遮蔽板との組み合わせ、或いは、乾燥機体内部に設けられたバーナ及び導管部の組み合わせ、或いは電気ヒータのいずれかが用いられて構成される。これにより、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、乾燥機体の構造を大幅に変更することなく温風通風手段を容易に乾燥機体に取り付けることができる。しかも、既存の乾燥機体にも低コストに適用することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、加温或いは非加温の外気が穀物層の表面層から深層に向けて通風するため、穀物層の表面層の穀粒の種皮側に含まれる水分がムラなく蒸発すると共に穀物層全体がゆっくりと乾燥する。そして、種皮側が乾燥した穀粒は、穀物層の深層の穀粒が次々と表面層に搬送されるのに従って深層へ向かって徐々に流下移動すると共に、流下移動している間に、穀粒内部の水分が種皮側に吸い取られて穀粒内部と種皮側との水分が平衡化して乾燥による歪みが緩和する。そして、穀物層の深層に達した穀粒は表面層に搬送される。ここでまた穀粒の種皮側の乾燥が行われ、これが繰り返される。これにより、穀粒は、従来のように、種皮側が乾燥により張って裂皮しやすくなった状態で搬送されるのではなく、穀粒内部と種皮側との水分が平衡化して乾燥による歪みが緩和した状態で搬送されるので、搬送行程で衝撃を受けても損傷し難くなり、その結果、裂皮粒や機械的な損傷粒の発生を大幅に低減することができて、乾燥機体内部に堆積された穀粒、特に大豆の乾燥調整を良好に行うことができるようになる。しかも、通風空気を無駄なく穀粒の乾燥に利用できるので省エネルギである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
乾燥機体内部の穀物層を上方から下方、すなわち表面層から深層にかけて加温或いは非加温の通風空気を通風させるように構成すると共に、この乾燥機体に既存の循環式汎用乾燥機体を用いることによって、穀物のなかでも特に大豆を乾燥調整するのに好適な穀物乾燥装置が低コストに実現した。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。図1は、本発明が適用された循環式汎用乾燥機体の模式図である。
【0021】
まず、本発明が適用された循環式汎用乾燥機体について図1を用いて説明する。循環式汎用乾燥機体(以下、乾燥機体という)1は、少なくとも直方体形状或いは円柱状に形成された乾燥機体1内部に通風可能に堆積された穀物層を通風空気により乾燥するためのものであって、穀物層の表面層よりも上方位置から下方の穀物層に向かって加温或いは非加温の外気を通風させる温風通風装置2と、乾燥機体1内部の空気を穀物層の深層よりも下方位置から機体外部に排出する吸引式通風装置3と、穀物層の深層の穀粒を表面層に搬送して穀物層の表面層の穀粒を深層に向かって流下移動させる搬送装置4とを備えて構成されている。なお、図中の矢印は、空気の流れを示している。
【0022】
詳述すると、乾燥機体1は、少なくとも搬送速度を落とし、穀温計、大豆用の水分計等(図示せず)を備えた大豆乾燥モードを有する循環式汎用乾燥機体であって、その内部、つまり従来の循環式汎用乾燥機体のテンパリング層に相当する部位には、図1に示されるように、穀物層、つまり穀粒を張り込んで通風による乾燥調整を行うための堆積層部5が設けられている。この堆積層部5の上方側に形成された上部空間6は穀粒が張り込まれることがない空間であって、その上部空間6には、堆積層部5に向かって加温或いは非加温の外気(以下、通風空気という)を通風可能とする温風通風装置2が設けられている。
【0023】
温風通風装置2は、乾燥機体1外部に設けられた間接加熱方式ヒータとしてのジェットヒータ(石油ジェットヒータ)7と、このジェットヒータ7によって加熱送風された通風空気を乾燥機体1内部の上部空間6に導くための導管部としてのフレキシブルダクト8と、このフレキシブルダクト8を介して上部空間6に導入された通風空気が表面層の穀粒に直接あたるのを回避するための板状の遮蔽板9とを備えて構成されている。
【0024】
ジェットヒータ7は、吸入した外気をバーナで急速加熱して排気するものであって、サーモスタット10による温度制御(ON−OFF制御)がなされるようになっている。サーモスタット10には、リレー接点方式の温度設定が可能な電子サーモスタットが用いられており、ジェットヒータ7の温度設定をデジタル値で行うコントロール部11と、このコントロール部11により温度制御したい部分の温度を検知する検知手段としての温度センサ12とを備えて構成されている。そして、コントロール部11は、乾燥機体1の前面パネルに取り付け固定されていると共に、温度センサ12は、表面層の穀粒(大豆)にあたる実際の通風空気温度が検出できるように、フレキシブルダクト8を介して上部空間6に送風された通風空気があたる位置、例えば、堆積層部5の表面から約50cm程度上方の内壁面に取り付けられている。
【0025】
コントロール部11のリレー出力は、乾燥機体1の下部に設けられた吸引式通風装置3をON−OFF制御する電磁開閉器(図示せず)のリレー接点に直列に接続されていると共に、この電磁開閉器のリレー接点はジェットヒータ7のサーモスタット用コネクタ(図示せず)に接続されている。これにより、ジェットヒータ7と吸引式通風装置3とは、サーモスタット10の温度設定に応じて同時にON−OFF制御されるようになっている。
【0026】
フレキシブルダクト8はアルミ製とされ、その一端部は、ジェットヒータ7の排気口に接続されていると共に、他端部は、乾燥機体1の上面部の点検口13に取り付けられた筒状の接続用ソケット14に内嵌された状態で接続されている。この接続用ソケット14の下面側には遮蔽板9が図示しない手段により吊設されている。これにより、ジェットヒータ7によって加温された外気(通風空気)は、フレキシブルダクト8の他端部、つまり堆積層部5の上方から下方に向かって通風される。その際、通風空気は、遮蔽板9により穀粒に直接あたらないように風向が変えられると共に温度センサ12によって温度検出され、その検出値はサーモスタット10のコントロール部11に入力されて、吸引式通風装置3とジェットヒータ7とのON−OFF制御に供されるようになっている。
【0027】
堆積層部5の底部側には、穀粒を非通過とし空気のみを通気させる通気床(図示せず)が配設されていると共に、この堆積層部5には、深層の穀粒を表面層に搬送して、表面層の穀粒を深層に向かって流下移動させる搬送装置4が設けられている。この搬送装置4は、堆積層部5に堆積された穀粒を深層から繰り出すための排出バルブ(図示せず)と、この排出バルブにより繰り出された穀粒を側方に向かって搬出するスクリュコンベア(図示せず)と、スクリュウコンベアによって搬出された穀粒を機体上部に向かって搬送すると共に上部空間6から堆積層部5に向かって落下させるバケットエレベータ15とを備えて構成されている。そして、穀物としての大豆を乾燥調整する場合、搬送速度は、約2.5時間で1順させる低速モード(毎分22リットル程度の大豆乾燥モード)とし、大豆をゆっくりと循環させるようになっている。
【0028】
堆積層部5の下方側、つまり従来の循環式汎用乾燥機体の乾燥層に相当する部位には、図1に示されるように、乾燥機体1内部の空気を外部に排出する吸引式通風装置3が設けられている。この吸引式通風装置3は、乾燥機体1内部の空気を吸引して機体外部に排出する排気通風ファン16を備えている。そして、この排気通風ファン16をON−OFF制御する図示しない送風リレー接点は、コントロール部11のリレー接点と直列に接続されていると共に、ジェットヒータ7のリレーコネクタ(図示せず)とも接続されている。
なお、従来の乾燥層に設けられているバーナの空気吸込口はビニール等で閉塞しておく。
【0029】
このように、本装置は、既存の循環式汎用乾燥機に外部接点でON−OFF制御が可能なジェットヒータ7及び排気通風ファン16、リレー接点のサーモスタット10を付設すると共に、循環式汎用乾燥機の水分計やハンドリングの利便性を利用しながら堆積層部5の表面層から深層に向かって通風空気を堆積層部5表面の大豆に直接あたらないように通気させるように構成されている。このため、既存の循環式汎用乾燥装置に大幅な変更を加えることなく大豆を良好に乾燥調整することが可能とされている。
【0030】
次に、本発明における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法について図2〜7を用いて説明する。図2は、大豆の子実水分と温湿度とを変えた裂皮粒発生の試験データ、図3〜7は、同例における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法に用いられる図表である。
【0031】
乾燥による裂皮粒の発生は、図2に示されるように、大豆の子実水分に対する通風空気の湿度が主に関係しており、裂皮粒の発生が多い場合には、0.5時間以内に発生割合の70%以上の発生がある。これにより、大豆の子実の平均水分と種皮の水分との差により種皮に歪みが生じ、限界を超えたときに裂皮が生じることが判明した。裂皮粒の発生を防止するには、周囲の空気の湿度を調整して裂皮が生じないストレスの限界値を水分ごとに推定して、水分に対する空気の温湿度条件を求めてやればよい。そこで、本発明における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法としては、次に示す(1)〜(4)に示したうち何れかが選択的に用いられる。
【0032】
(1)乾燥中の種皮の水分とその水分における裂皮発生の限界歪み量とを推定し、その種皮の水分と外気の湿度とに対する加温上限温度を示すように予め作成された図3に基づいて加温上限温度を求める。
この図3に示されるように、水分が18%前後のツルムスメでは、外気温10〜15℃、湿度55%での通風温度は20〜25℃程度であることが判る。
【0033】
(2)しわ粒、裂皮粒の発生を低く抑えるための大豆の子実水分ごとの通風空気の相対湿度限界を示すように予め作成された図4に基づいて求める。
この図4に示されるように、例えば、大豆(品種はタチナガハ)の子実水分が20%で穀温が20℃のときには44%以上、水分が18%であれば32%以上の湿度の通風空気を通風する必要があることが判る。さらに、循環式では30分に5分の割で間欠的に循環させるのが好ましい。また、品種によっては裂皮し易い品種やエンレイなどのように裂皮しにくい品種もあり、2〜3%の範囲で調整するのが望ましい。なお、静置式に適用する場合には、表示されている数値に5%加えた値を用いて湿度調整する。
【0034】
(3)大豆の裂皮限界の空気の温湿度を図5の限界平衡水分表から求めると共に、図6の平衡水分(図中にあっては実線で示す)に対する温湿度曲線(破線)から、通風空気の下限の相対湿度を決定し、外気の温湿度からどのくらい加温できるかを求める。
図5は、単粒層乾燥で裂皮粒発生割合を10%と15.9%(裂皮限界の歪みの分布を正規分布としたときの(平均値−分散)以下の割合)としたときの子実粒水分と通風平衡相対湿度との関係を示したものである。但し、図5中の○は、測定に用いたタチナガハ、△は、他のタチナガハ、エンレイ。水分が22%の大豆の場合の外気の平衡水分は13.5%くらいになる。大豆の水分が下がるに従い、裂皮限界の平衡水分が下がり、湿度の低い空気を通風することが可能になることが判る。
図6は、空気の温湿度と大豆の平衡水分とを示す大豆乾燥用空気線図、図7は、湿り空気線図上に表した子実粒水分に平衡する相対湿度曲線、及び蒸れと裂皮の危険領域を示した線図ある。例えば、図7に示されるように、外気の温湿度の状態がA点(温度18℃、湿度80%)で大豆の水分が22%の場合、外気の限界の平衡水分は13.5%となり、B点まで加温できることが判る。しかし、静置式に用いる場合は、通風出口側では、等エンタルピー線にほぼ沿う形で吸湿、温度降下がおこり、温度は21℃、湿度は22%と平衡に近い90%くらいになり、蒸れ危険域になるのでB’点が加温限界になることが判る。水分が18%以下の場合は、通風下層でも湿度はその水分と平衡する湿度以下になるので、裂皮限界の平衡水分の湿度まで下げられることが判る。
【0035】
(4)大豆の品種、子実水分、外気温湿度を入力すると加温温度の上限を計算するように予め作成されたダイアログ型式のプログラムに基づいて加温上限温度を求める。
ここで、大豆の品種がツルムスメの場合、プログラムによる数値計算によって通風空気の加温上限温度を求める手順について説明する。
まず、大豆種皮の裂皮限界ひずみεcの推定近似曲線f(Ms)は、式(1)で示される。
εc =f(Ms)=a*Ms^2+b*Ms+c (1)
但し、^は、べき乗の演算子、Ms;種皮水分、a=3.516、b=0.863、c=0.1279
【0036】
子実水分Mv、種皮水分Msのときに種皮に生じるひずみεsは、次の式(2)で示される。
εs=(1+λMv)/(1+λMs)−1 (2)
但し、λ;水分線膨張係数(λ=0.6d.b.^-1)
種皮水分Msは、外気に対して平衡になる大豆子実水分Meに近似できるので、式(2)は次の式(3)のように示される。
εs=(1+λMv)/(1+λMs)−1≦(1+λMv)/(1+λMe)−1 (3)
【0037】
式(1)、(3)に応じてεc=εsとなるMs(≒Mce;裂皮限界の外気の平衡水分)をNewton-Rapson(ニュートン・ラプソン)法により求める。
外気の絶対湿度Ha(或いは水蒸気圧Pa)は加温しても一定として、大豆の平衡水分Eq(Mce,t)=Rから水蒸気圧P=R*P(t)を求め、P=Paとなる加温温度tをNewton-Rapson法により求める。
ExcelのVB Editorを利用してユーザ定義関数、或いはマクロを作製し、(Mv,t,tw)或いは(Mv,t,R)から、加温温度tを算出する。
但し、P(t);飽和蒸気圧、t;外気温
以上、ツルムスメの場合の加温上限温度の算出手順について説明した。
【0038】
なお、これら図3〜7やプログラムは、乾燥機体1を各種制御するための図示しない操作部に内蔵されたCPUのROMに記憶格納するのが好ましいが、この形態に限られたものではなく、例えば、携帯型のノートパソコンの記憶装置部に記憶格納させておき、このノートパソコンを用いて算出した加温上限温度を乾燥機体1の操作部から入力するように構成することも可能である。
【0039】
また、本発明の温風通風装置2は、上記した構成に限られたものではなく、例えば、乾燥機体1内部の下部に設けられたバーナ(火炉)が加熱生成した通風空気をダクトにより乾燥機体1の上部空間6に導くように構成したり、或いは、乾燥機体1内部の点検口付近に電気式の遠赤外線ヒータや温風ヒータを取り付ける構成としてもよい。
【0040】
上述した方法を用いて求めた加温温度となるようにジェットヒータ7によって加温された通風空気(温風)を乾燥機体1上部から下方の堆積層部5に向けて通風し、堆積層部5に約8割程度に張り込んだ大豆(ツルムスメ、初期水分18.5%、初期重量2350kg、平均堆積高さ1.3m)を約2.5時間で一順する低速の搬送モード(約22L/min)でゆっくり循環させながら乾燥調整を行う試験を行った。
【0041】
その試験結果は、図8〜10に示されるように、まず、乾燥機体1の排気通風ファン16とジェットヒータ7とのON−OFF状態は、図8の下方の0−1で示されるように、正味稼動時間は約16時間であった。なお、夜間における機器の稼動は停止した。また、乾燥調整を行っている間は、ジェットヒータ7等の運転間隔は、約12〜15分であり、そのうちジェットヒータ7等がONになっている時間は約4分程度であった。また、乾燥機体1内部の上部における空気温度平均25℃、約15時間、平均乾減率0.26%/hで、乾燥による裂皮発生は0、機械的損傷粒の増加量は0.35%以下でほとんどなく、水分14.6%のほぼ均一な水分の大豆に仕上げることができた。これは、乾燥機体1内部の上方から加温した通風空気を通風するため表面層から乾燥させていき、約2.5時間経過してスクリュコンベアで排出される深層にあっては乾燥による種皮にかかる歪みが緩和されており、このため搬送装置4による衝撃を受けても損傷粒の発生が防止される。さらに、乾燥機体1内部の上方から下方に向けて通風させた通風空気は、深層よりも下方側の排気通風ファン16によって機体外部に吸引排気されるため、無駄なく熱エネルギが使用されて堆積層部5の穀粒全体がゆっくりと乾燥する。
【0042】
その後、ある農家が所有する汎用乾燥機にサーモスタット温度調節付きの石油ジェットヒータを付設して約20tの大豆(ツルムスメ)の乾燥調整を上記とほぼ同様な手法を用いて行った。その結果は、乾燥による裂皮は見られず、機械的損傷増加も0.2%以下であった。
【0043】
以上述べたように本発明によれば、温風通風装置2からの通風空気は、堆積層部5の表面層から深層に向けて通風するため、堆積層部5の表面層の穀粒の種皮側に含まれる水分をムラなく蒸発させると共に堆積層部5全体をゆっくりと乾燥させる。そして、種皮側が乾燥した穀粒は、堆積層部5の深層の穀粒が搬送装置4により次々と表面層に搬送されるのに従って深層へ向かって徐々に流下移動すると共に、流下移動している間に、穀粒内部の水分が種皮側に吸い取られて穀粒内部と種皮側との水分が平衡化して乾燥による歪みが緩和する。そして、堆積層部5の深層に達した穀粒は、搬送装置4により表面層に搬送される。ここでまた穀粒の種皮側の乾燥が行われ、これが繰り返される。これにより、穀粒は、従来のように、種皮側が乾燥により張って裂皮しやすくなった状態で搬送装置4により搬送されるのではなく、穀粒内部と種皮側との水分が平衡化して乾燥による歪みが緩和した状態で搬送装置4により搬送されるので、搬送装置4による衝撃を受けても損傷し難くなり、その結果、裂皮粒や機械的な損傷粒の発生を大幅に低減することができて、乾燥機体1内部に堆積された穀粒、特に大豆の乾燥調整を良好に行うことができるようになる。しかも、温風通風装置2からの通風空気を無駄なく穀粒の乾燥に利用できるので省エネルギである。
【0044】
さらに、本発明によれば、乾燥機体1には、大豆乾燥に応じた循環式汎用乾燥機体が用いられる。これにより、既存の乾燥機体を用いることにより製作コストを大幅に低減することができる。さらに、大豆乾燥に応じているため、設定水分や大豆水分計等が使えるので取扱いが便利であるうえに、裂皮粒や機械的な損傷粒の発生がより低減化されるので、個人農家に好適な穀物乾燥装置を提供することができる。
【0045】
また、本発明によれば、通風空気の平衡水分、つまり、穀粒の子実水分と平衡となる水分ベースの相対湿度が正確に求められるので、穀粒の種皮が内部水分に比較して乾きすぎないように通風空気の湿度が調整される。そして、温風通風装置2によって裂皮を発生させない温度に調温された通風空気が乾燥機体1内部の上方から下方に向かって通風される。これにより、しわ粒、裂皮粒の発生をより低く抑えることができて、穀物、特に大豆の良質な乾燥調整を容易、且つ効率的に行うことができるようになる。
【0046】
さらにまた、本発明によれば、温風通風装置2は、乾燥機体1外部に設けられたジェットヒータ7とそのジェットヒータ7から排気された加温空気を乾燥機体1内部に導くためのフレキシブルダクト8及び遮蔽板9との組み合わせ、或いは、乾燥機体内部に設けられたバーナ及びダクトの組み合わせ、或いは電気ヒータのいずれかが用いられて構成される。これにより、乾燥機体1の構造を大幅に変更することなく温風通風装置2を容易に乾燥機体1に取り付けることができる。しかも、既存の乾燥機体にも低コストに適用することができる。
【0047】
なお、本発明は、大豆乾燥モードを有する従来の循環式汎用乾燥機のみに適用されるものではなく、例えば、従来使用されている静置型乾燥機にも適用できるのは勿論であり、また、新たな循環式汎用乾燥機として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明が適用された循環式汎用乾燥機体の模式図である。
【図2】大豆の子実水分と温湿度とを変えた裂皮粒発生の試験データである。
【図3】同例における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法に用いられる図表である。
【図4】同例における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法に用いられる図表である。
【図5】同例における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法に用いられる図表である。
【図6】同例における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法に用いられる図表である。
【図7】同例における大豆の水分に合わせた通風空気の温湿度の具体的調整方法に用いられる図表である。
【図8】同例における大豆の乾燥経過、裂皮及び損傷粒割合の試験結果を示した図表である。
【図9】同例における大豆乾燥試験の実験条件と実験結果とを示した図表である。
【図10】同例における大豆乾燥試験の損傷粒の発生状況を示した図表である。
【符号の説明】
【0049】
1 循環式汎用乾燥機体
2 温風通風装置
3 吸引式通風装置
4 搬送装置
5 堆積層部
7 ジェットヒータ(間接加熱方式ヒータ)
8 フレキシブルダクト(導管部)
9 遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも直方体形状或いは円柱状に形成された乾燥機体内部に通風可能に堆積された穀物層を乾燥するための穀物乾燥装置であって、
前記穀物層の表面層の上方から前記穀物層に向かって加温或いは非加温の外気を通風可能とする温風通風手段と、
前記乾燥機体内部の空気を前記穀物層の深層よりも下方から外部に排出する吸引式通風手段と、
前記穀物層の深層の穀粒を表面層に搬送して前記穀物層の表面層の穀粒を深層に向かって流下移動させる搬送手段とを備えたことを特徴とする穀物乾燥装置。
【請求項2】
前記乾燥機体は、大豆乾燥に応じた循環式汎用乾燥機体であることを特徴とする請求項1に記載の穀物乾燥装置。
【請求項3】
前記温風通風手段からの通風空気は、前記穀粒の子実水分と外気温湿度とに応じて、品種ごとの種皮の水分裂皮特性から乾燥による裂皮を生じる前記通風空気の平衡水分が求められ、この求められた前記通風空気の平衡水分に基づいて上限加温温度が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の穀物乾燥装置。
【請求項4】
前記温風通風手段は、前記乾燥機体外部に設けられた間接加熱方式ヒータと、前記間接加熱式ヒータから送風された加温或いは非加温の外気を前記機体内部に導くための導管部と、前記導管部を介して機体内部に導入された通風空気が直接穀物にあたるのを回避するための遮蔽板とを備えて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の穀物乾燥装置。
【請求項5】
前記温風通風手段は、前記乾燥機体内部の下部に設けられたバーナと、前記バーナが生成した加温空気を前記乾燥機体内部の上部に導く導管部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の穀物乾燥装置。
【請求項6】
前記温風通風手段は、電気ヒータであることを特徴とする穀物乾燥装置。
【請求項7】
少なくとも直方体形状或いは円柱状に形成された乾燥機体内部に通風可能に堆積された穀物層を乾燥するための穀物乾燥方法であって、
前記穀物層の表面層の上方から前記穀物層に向かって加温或いは非加温の外気を通風する温風通風行程と、
前記乾燥機体内部の空気を前記穀物層の深層よりも下方から外部に排出する排気行程と、
前記穀物層の深層の穀物を表面層に搬送して前記穀物層の表面層の穀物を深層に向かって流下移動させる搬送行程とを有することを特徴とする穀物乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−226573(P2006−226573A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39018(P2005−39018)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月19日 農業機械学会北海道支部発行の「農業機械学会北海道支部 第55回年次大会 講演要旨」に発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】