説明

積層基材の製造方法、液晶ポリエステルフィルムの製造方法

【課題】高い熱伝導性を有する積層基材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】導電箔と、導電箔上に形成される絶縁層とを有する積層基材の製造方法であって、液晶ポリエステルと、前記液晶ポリエステルを溶解させる溶媒と、熱伝導充填材とを含み、前記液晶ポリエステルの含有量と前記熱伝導充填材の含有量との和に対する前記熱伝導充填材の含有量の割合が30体積%以上80体積%以下である液状組成物を、導電箔上に塗布し、120℃以上220℃以下に加熱して前記溶媒を除去して塗膜を形成する乾燥工程と、前記導電箔の上に形成される塗膜を、前記液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度に加熱して絶縁層を形成する熱処理工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層基材の製造方法、液晶ポリエステルフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パワートランジスタやハイブリッドICなどの電子部品が知られている。これらの電子部品には、これらの電子部品から発せられる駆動熱を放熱するために、高い熱伝導性を有する放熱部材が用いられている。このような放熱部材としては、IC等が実装される基材そのものや、別途設けられる放熱用の熱伝導性シートなど、種々の構成が知られている。
【0003】
これまで、上述の電子部品の放熱部材として、シリコーンゴム、エポキシ樹脂などの樹脂材料を用いたフィルム内に、熱伝導充填材として酸化アルミニウムや窒化ホウ素を配合したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに近年、これらの電子部品の高密度実装化が進んでおり、発生する発熱量が増大している。そのため、基材の形成材料として、より高い熱伝導を有する材料が求められている。
【0005】
このような技術背景において、放熱部材の材料として、上述したシリコーンゴムやエポキシ樹脂よりも熱伝導率の高い液晶ポリエステルを用いることが検討されている。例えば特許文献2に記載の金属ベース回路基板では、樹脂成分として液晶ポリエステルを用いて絶縁層を形成することで、エポキシ樹脂を用いて絶縁層を形成する構成よりも熱伝導率が向上することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−60134号公報
【特許文献2】国際公開第10/117023号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献で開示された液晶ポリエステル製の絶縁層を有する金属ベース回路基板は、熱伝導性について改善の余地があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、高い熱伝導性を有する積層基材の製造方法を提供することを目的とする。また、高い熱伝導性を有する液晶ポリエステルフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、導電箔と、前記導電箔上に形成される絶縁層とを有する積層基材の製造方法であって、液晶ポリエステルと、前記液晶ポリエステルを溶解させる溶媒と、熱伝導充填材とを含み、前記液晶ポリエステルの含有量と前記熱伝導充填材の含有量との和に対する前記熱伝導充填材の含有量の割合が30体積%以上80体積%以下である液状組成物を、導電箔上に塗布し、120℃以上220℃以下に加熱して前記溶媒を除去して塗膜を形成する乾燥工程と、前記導電箔の上に形成される塗膜を、前記液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度に加熱して絶縁層を形成する熱処理工程と、を含む積層基材の製造方法を提供する。
【0010】
本発明においては、前記熱処理工程では、0℃以上220℃以下の温度から前記液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度まで1.0℃/分以上200℃/分以下の速度で前記塗膜の温度を昇温して絶縁層を形成することが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記熱伝導充填材が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1つの無機物の粉末を含むことが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルであることが好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0013】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記式(3)で示される繰返し単位において、X及びYのうちの少なくとも一つが、イミノ基であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、液晶ポリエステルと、前記液晶ポリエステルを溶解させる溶媒と、熱伝導充填材とを含み、前記液晶ポリエステルの含有量と前記熱伝導充填材の含有量との和に対する前記熱伝導充填材の含有量の割合が30体積%以上80体積%以下である液状組成物を、支持基材上に塗布し、120℃以上220℃以下に加熱して前記溶媒を除去して塗膜を形成する乾燥工程と、前記支持基材の上に形成される塗膜を、前記液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度に加熱する熱処理工程と、前記支持基材を除去して液晶ポリエステルフィルムを得るフィルム化工程と、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い熱伝導性を有する積層基材の製造方法を提供することができる。また、高い熱伝導性を有する液晶ポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る積層基材の製造方法および液晶ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。
【0018】
本実施形態の積層基材は、導電箔と、導電箔上に形成された絶縁層とを有している。絶縁層は、液晶ポリエステルと、熱伝導充填材と、を含み、絶縁層における液晶ポリエステルの含有量(体積A)と熱伝導充填材の含有量(体積B)との和(A+B)に対する熱伝導充填材の含有量の割合([B/(A+B)]×100)が30体積%以上80体積%以下となっている。導電箔は、必要に応じてパターニングを施したものであってもよい。
【0019】
また、本実施形態の液晶ポリエステルフィルムは、一例としては、上述の積層基材から導電箔を除去して得られるフィルムである。なお、本実施形態の液晶ポリエステルフィルムは、導電箔の他にも、種々の支持基材上に上述の絶縁層と同様の構成の層を積層した後、前記支持基材を除去することでも得られる。
【0020】
(液晶ポリエステル)
本実施形態で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、220℃以上450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0021】
本明細書における「液晶ポリエステルアミド」とは、複数のエステルおよびアミド基を有するポリマーであり、かつ溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んだ液晶性質を示すポリマーを意味する。
【0022】
本明細書における「液晶ポリエステルエーテル」とは、複数のエステルおよびエーテル基を有するポリマーであり、かつ溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んだ液晶性質を示すポリマーを意味する。
【0023】
本明細書における「液晶ポリエステルカーボネート」とは、複数のエステルおよびカーボネート基を有するポリマーであり、かつ溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んだ液晶性質を示すポリマーを意味する。
【0024】
本明細書における「液晶ポリエステルイミド」とは、複数のエステルおよびイミド基を有するポリマーであり、かつ溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んだ液晶性質を示すポリマーを意味する。
【0025】
本明細書における「芳香族化合物」とは、重合可能な置換基を有する環状不飽和有機化合物を意味する。環状不飽和有機化合物は、炭化水素のみで構成された芳香族炭化水素であってもよく、環構造に炭素以外の原子を含む複素芳香族化合物であってもよい。重合可能な置換基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びイソシアネート基などが挙げられる。
【0026】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの;複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの;芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの;及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0027】
本明細書において「芳香族ヒドロキシカルボン酸」とは、ヒドロキシ基及びカルボキシ基を有する芳香族化合物を意味する。具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、及び4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸由来の構造単位などが挙げられる。
【0028】
本明細書において「芳香族ジカルボン酸」とは、2つ以上のカルボキシ基を有する芳香族化合物を意味する。具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位などが挙げられる。
【0029】
本明細書において「芳香族ジオール」とは、2つ以上のヒドロキシ基を有する芳香族化合物を意味する。具体的には、ハイドロキノン、レゾルシノール、及び4,4’−ジヒドロキシジフェニル由来の構造単位などが挙げられる。
【0030】
本明細書において「芳香族ヒドロキシアミン」とは、ヒドロキシ基及びアミノ基を有する芳香族化合物を意味する。具体的には、3−アミノフェノール、及び4−アミノフェノール由来の構造単位などが挙げられる。
【0031】
本明細書において「芳香族ジアミン」とは、2つ以上のアミノ基を有する芳香族化合物を意味する。具体的には、1,4−フェニレンジアミン、及び1,3−フェニレンジアミン由来の構造単位などが挙げられる。
【0032】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル);カルボキシ基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物);及びカルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0033】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0034】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0035】
前記アルキル基は、炭素数が1〜10のものが好ましい。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられる。
【0036】
前記アリール基は、炭素数が6〜20のものが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられる。
【0037】
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは1又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0038】
前記アルキリデン基は、炭素数が1〜10であることが好ましい。
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられる。
【0039】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基である繰返し単位(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基である繰返し単位(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0040】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基である繰返し単位(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基である繰返し単位(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基である繰返し単位(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0041】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基である繰返し単位(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基である繰返し単位(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0042】
より具体的には、式(1)中、Arが2,6−ナフチレン基である繰り返し単位(1)、式(2)中、Arがm−フェニレン基である繰り返し単位(2)、式(3)中、Arがp−フェニレン基であり、Xがヒドロキシ基であり、かつYがアミノ基である繰り返し単位(3)の組合せが好ましい。
【0043】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上60モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上40モル%以下である。
【0044】
同様に、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0045】
同様に、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0046】
これらは、繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0047】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0048】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは0モル%より多く10モル%以下、より好ましくは0モル%より多く5モル%以下である。
【0049】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XとYのうち少なくとも一つがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位と、芳香族ジアミンに由来する繰返し単位と、のいずれか一方または両方を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましい。繰返し単位(3)として、XとYのうち少なくとも一つがイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0050】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム及び三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン及び1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。なかでも含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。含窒素複素環式化合物のなかでも、1−メチルイミダゾールが好ましい。
溶融重合の温度は、130℃以上400℃以下が好ましい。
溶融重合の時間は、1時間以上30時間以下が好ましい。
固相重合は、窒素などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
固相重合の温度は、200℃以上350℃以下が好ましい。
固相重合の時間は、1時間以上30時間以下が好ましい。
【0051】
本実施形態の積層基材の製造方法、および液晶ポリエステルフィルムの製造方法の原料に用いられる液晶ポリエステルは、流動開始温度が、260℃以下であることが好ましく、120℃以上260℃以下であることがより好ましく、150℃以上250℃以下であることがさらに好ましく、150℃以上220℃以下であることが特に好ましい。この液晶ポリエステルの流動開始温度が低いほど、熱処理して得られる積層基材の絶縁層、または液晶ポリエステルフィルムの厚さ方向の熱伝導性が向上する傾向にある。しかしながら、流動開始温度が低すぎると、熱処理後でも絶縁層の耐熱性や強度・剛性が不十分になり易い。
【0052】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0053】
(溶媒)
上述のような液晶ポリエステルを、溶媒に溶解又は分散させ、好ましくは溶媒に溶解させることにより、液状組成物を得る。溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解又は分散可能なもの、好ましくは溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上50質量%以下の濃度([液晶ポリエステルの質量]/[液晶ポリエステルの質量+溶媒の質量])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0054】
溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン及びo−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール及びペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン及びシクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル及びγ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル及びスクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等のアミド系溶媒(アミド結合を有する有機溶媒);テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン及びニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド及びスルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド及びトリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられる。また、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましい。ハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒としては、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチルピロリドン等のアミド系溶媒(アミド結合を有する有機溶媒)が挙げられる。溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。また、前記非プロトン性化合物としては、ハロゲン原子を有しないアミド系溶媒を用いることがより好ましい。なかでも、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒を用いることが好ましい。
【0056】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。本実施形態においては、双極子モーメントが3〜5である非プロトン性化合物を溶媒として用いることが特に好ましい。
双極子モーメントが3〜5である非プロトン性化合物としては、具体的にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドンが挙げられる。
【0057】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が100℃以上220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が100℃以上220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が100℃以上220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
1気圧における沸点が100℃以上220℃以下である化合物の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドンが挙げられる。
【0058】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上45質量%以下である。液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、所望の粘度の液状組成物が得られるように、また、所望の厚さのフィルムが得られるように、適宜調整される。
【0059】
(熱伝導充填材)
本実施形態では、積層基材の絶縁層、または液晶ポリエステルフィルムの中に、熱伝導充填材を含有させる目的で、熱伝導充填材を、上述の液状組成物に添加し分散させる。熱伝導充填材の粒径は、0.1μm以上50μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。
【0060】
なお、本明細書における「熱伝導充填材」とは、母材である液晶ポリエステルの熱伝導性を高めることを目的として添加する添加剤であり、用いる液晶ポリエステルよりも高い熱伝導率を有するものである。
【0061】
すなわち、熱伝導充填材としては、その熱伝導率が通常10W/(m・K)以上500W/(m・K)以下、好ましくは30W/(m・K)以上200W/(m・K)以下であるものが使用され、例えば、金属酸化物、金属窒化物および金属炭化物から選ばれた一種又は二種以上の化合物を使用することができる。熱伝導充填材は、周期律表第II、III、IV属のそれぞれ第7列までの元素の酸化物、窒化物及び炭化物から選択することが好ましい。
【0062】
具体的には、例えば、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化トリウム、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、シリカ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムからなる群から選ばれる1種類以上の無機物を使用できる。前記化合物は、粉末で使用することが好ましく、その粒径は0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。中でも熱伝導充填材としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素からなる群から選ばれる1種以上の無機物の粉末を含むことが好ましい。
【0063】
このような熱伝導充填材は、本実施形態に係る、積層基材の絶縁層または液晶ポリエステルフィルムにおいて、液晶ポリエステルの含有量(体積A)と熱伝導充填材の含有量(体積B)との和(A+B)に対する、熱伝導充填材の含有量の割合、即ち式[B/(A+B)]×100で示される値が、30体積%以上80体積%以下となっている。なお、本実施形態の積層基材および液晶ポリエステルフィルムの製造においては、使用する液晶ポリエステルおよび熱伝導充填剤を、それぞれの密度から換算した量を秤量して混合することで、体積Aと体積Bとの含有量が前述の値となるように制御することができる。
【0064】
上記式[B/(A+B)]×100で示される値が30体積%未満であると、熱伝導充填材が少ないため、得られる絶縁層を有する積層基材または液晶ポリエステルフィルムの熱伝導率が不足し、十分な放熱性が得られにくい。また、上記式[B/(A+B)]×100で示される値が80体積%を超えると、積層基材の製造時においては、絶縁層と導電箔との密着力が不足し易く、積層基材の信頼性が低下する。また、液晶ポリエステルフィルムの製造時においては、製造時に液晶ポリエステルフィルムと支持基材との密着力が不足し易く、製造が困難となりやすい。
【0065】
熱伝導充填材の含有量が上記範囲内である場合、本実施形態に係る積層基材の絶縁層または液晶ポリエステルフィルムに所望の熱伝導性を付与することができる。一方で、熱伝導充填材の含有量が上記範囲内である場合、後述するように、溶媒が蒸発する際に生じる空孔が内部に残存しやすく、熱伝導率低下の要因となる。そこで、本実施形態においては、製造時の温度条件を好適に制御することにより、熱伝導充填材を高配合とした場合においても、積層基材の絶縁層又は液晶ポリエステルフィルムの熱伝導性の低下を抑制している。
【0066】
(他の成分)
また、上述の熱伝導充填材の他に、本実施形態に係る積層基材の絶縁層、または液晶ポリエステルフィルムの中に、本発明の目的を損なわない範囲で、公知の充填材、添加剤等を含有させてもよい。これらも、上述の液状組成物に添加し分散させ、後述の製造方法を採用することで、本実施形態に係る積層基材の絶縁層、または液晶ポリエステルフィルムの中に含有させる。
【0067】
他の充填材としては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂などの有機系フィラーが挙げられる。
【0068】
添加剤としては、公知のカップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
【0069】
また、液晶ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーなどを一種または二種以上を含有させてもよい。
【0070】
〈積層基材及び液晶ポリエステルフィルムの製造方法〉
こうして得られる液状組成物を、支持基材の上に塗布した後、液状組成物から溶媒を除去し、得られたフィルムを熱処理することで、目的とする積層基材または液晶ポリエステルフィルムを製造する。
より具体的には、前記液状組成物を、導電箔のような支持基材上に塗布し、120℃以上220℃以下に加熱して前記溶媒を除去して塗膜を形成し(乾燥工程)、前記導電箔の上に形成される塗膜を、原料の液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度に加熱して絶縁層を形成する(熱処理工程)ことにより、目的とする積層基材を製造することができる。
また、前記液状組成物を、導電箔のような支持基材上に塗布し、120℃以上220℃以下に加熱して前記溶媒を除去して塗膜を形成し(乾燥工程)、前記支持基材の上に形成される塗膜を、原料の液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度に加熱して(熱処理工程)、前記支持基材を除去して液晶ポリエステルフィルムを得る(フィルム化工程)ことにより、目的とする液晶ポリエステルフィルムを製造することができる。
【0071】
積層基材の製造方法としては、具体的には、支持基材として金属箔のような導電性を有する導電箔を用いると、導電箔の表面に熱伝導充填材を含む液晶ポリエステルの絶縁層が形成された、目的とする積層基材を得ることができる。
本明細書において「導電箔」とは、薄く平らに形成した金属を意味する。導電箔としては、具体的には銅箔、アルミニウム箔、及びステンレス箔が挙げられる。
また、液晶ポリエステルフィルムの製造方法としては、前記積層基材と同様に支持基材の表面に熱伝導充填材を含むフィルム状の液晶ポリエステルを形成し、支持基材を除去することで、目的とする熱伝導充填材を含む液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0072】
液晶ポリエステルフィルムを製造するための支持基材としては、例えば、ガラス板、樹脂板、金属板などの板状部材や、樹脂フィルム及び金属箔などのフィルム状部材など種々の形態のものを用いることができる。
【0073】
また、積層基材の製造方法、および液晶ポリエステルフィルムの製造方法に共通して、液状組成物の支持基材上への塗布方法としては、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法及びスクリーン印刷法が挙げられる。
【0074】
(乾燥工程)
溶媒の除去は、溶媒の蒸発により行うことが、操作が簡便で好ましく、その方法としては、例えば、加熱、減圧及び通風が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。中でも、生産性や操作性の点から、加熱により行うことが好ましく、通風しながら加熱することにより行うことがより好ましい。溶媒の除去温度は、好ましくは120℃以上220℃以下、より好ましくは120℃以上200℃以下、さらに好ましくは140℃以上180℃以下である。また、溶媒の除去時間は、0.2時間以上3時間以下である。なお、ここでの溶媒の除去は完全である必要はなく、次の熱処理で残存溶媒が除去されてもよい。すなわち、液状組成物に含まれる溶媒のうち、50質量%以上100質量%以下を除去することが好ましい。
【0075】
溶媒の除去温度が120℃よりも低いと、溶媒の除去時に液晶ポリエステルの流動性が低く、溶媒が揮発するときに生じる気泡が、塗膜内で空孔として残存しやすい。このような空孔の存在は、得られる本実施形態に係る積層基材の絶縁層または液晶ポリエステルフィルムの熱伝導性を大きく低下させることとなる。また、空孔が存在すると、得られる本実施形態に係る積層基材の絶縁層または液晶ポリエステルフィルムの絶縁性が低下しやすい。
ここで「塗膜」とは、乾燥する前の絶縁層を意味する。
【0076】
また、溶媒の除去温度が220℃よりも高いと、溶媒除去の操作中に原料として用いる液晶ポリエステルの高分子量化が進行し、流動性が低下するため、溶媒が揮発するときに生じる気泡が、塗膜内で空孔として残存しやすい。
【0077】
なお、溶媒の除去温度は、用いる溶媒の沸点未満とすることが好ましい。溶媒の沸点以上となると、溶媒の揮発により塗膜の表面が荒れ、均一な塗膜が得られにくいためである。
【0078】
(熱処理工程)
本実施形態では、溶媒の除去により得られたフィルムを、原料の液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度まで昇温し、原料の液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度で熱処理する。熱処理のための昇温は0℃以上220℃以下の温度から行うことが好ましい。これにより、得られる本実施形態に係る積層基材の絶縁層または液晶ポリエステルフィルム内においては、液晶ポリエステルが液晶相を示し、厚さ方向に配向したドメインを形成する。このようなドメインが形成された液晶ポリエステルは、ドメインが形成されていない(アモルファス状態の)液晶ポリエステルと比べ熱伝導率が高まり、厚さ方向の熱伝導性に優れる本実施形態に係る積層基材の絶縁層または液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0079】
ここで「液晶転移温度」とは、液晶化温度とも呼ばれ、偏光顕微鏡を用いて、直交ニコル下、10℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させるときに、シュリーレン模様を示す温度である。偏光顕微鏡の加熱ステージ上に液晶ポリエステルを置き、直交ニコル下、10℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、シュリーレン模様を示す温度により測定することができる。なお、静置下では液晶ポリエステルが完全溶融しない場合は、スプリング圧により加圧下で液晶ポリエステルを完全溶解させた。
【0080】
0℃以上220℃以下の温度から液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度まで行う熱処理のための昇温の速度は、好ましくは1.0℃/分以上200℃/分以下、より好ましくは3.0℃/分以上180℃/分以下、さらに好ましくは8.0℃/分以上150℃/分以下である。昇温速度が速いほど、熱処理後のフィルムの厚さ方向の熱伝導性が向上する傾向にある。
【0081】
昇温時間が長いと、昇温中に液晶ポリエステルが高分子量化し、昇温中に液晶ポリエステルの液晶転移温度が上昇する場合がある。すると、設定した昇温後の到達温度(設定した熱処理温度)が、液晶ポリエステルの液晶転移温度よりも低くなるという事態が起こる場合がある。そのため、昇温の開始温度が低い場合は、速い昇温速度に設定し昇温時間を短くすることが好ましい。このようにすることで、昇温中の液晶転移温度の変化を抑制し、所望の熱処理を行うことができる。
【0082】
前記速度での昇温は、0℃以上220℃以下の温度から行うことが好ましく、40℃以上150℃以下の温度から行うことがより好ましい。また、前記液晶転移温度+10℃以上の温度まで行うことが好ましく、前記液晶転移温度+20℃以上の温度まで行うことがより好ましい。
【0083】
前記液晶転移温度以上での熱処理は、(液晶転移温度+10℃)以上(液晶転移温度+80℃)以下で行うことが好ましく、(液晶転移温度+20℃)以上(液晶転移温度+60℃)以下で行うことがより好ましい。また、前記液晶転移温度以上での熱処理時間は、好ましくは0.5時間以上10時間以下、より好ましくは2時間以上4時間以下である。
【0084】
こうして得られる液晶ポリエステルフィルムの厚さは、厚さ方向の熱伝導性や柔軟性の点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下である。また、あまり薄いと脆くなるので、10μm以上であることが好ましい。
すなわち、本発明に係る積層基材の絶縁層又は液晶ポリエステルフィルムの厚さは、10μm以上500μm以下が好ましく、30μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0085】
支持基材として金属箔等の導電箔を用いることにより、支持基材とフィルムとを分離することなく、目的とする積層基材を製造することができる。
【0086】
積層基材には、さらに前記導電箔以外の導電層を形成することとしてもよい、このような導体層の形成は、金属箔を接着剤による接着、熱プレスによる融着等により絶縁層上に積層することにより行ってもよいし、金属粒子をメッキ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法等により絶縁層上にコートすることにより行ってもよい。金属箔又は金属粒子を構成する金属の例としては、銅、アルミニウム及び銀が挙げられるが、導電性やコストの点から、銅が好ましく用いられる。
【0087】
こうして得られる積層基材は、導電箔に所定の配線パターンを形成し、必要に応じて複数枚積層することにより、液晶ポリエステルフィルムを絶縁層とするプリント配線板として好適に用いることができる。
【0088】
(フィルム化工程)
また、積層基材から導電箔を除去、または、積層基材から絶縁層を剥離することにより、目的とする液晶ポリエステルフィルムを製造することができる。支持基材と液晶ポリエステルフィルムとの分離は、熱処理工程後に行ってもよいし、溶媒の除去後の熱処理前(すなわち、乾燥工程後、かつ熱処理工程前)に行ってもよい。
【0089】
以上のような方法によれば、高い熱伝導性を有する積層基材の製造方法を提供することができる。また、高い熱伝導性を有する液晶ポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
【0090】
なお、上述した例は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0091】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用いて測定した。液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を、流動開始温度として測定した。
【0093】
(液晶転移温度)
偏光顕微鏡(ECLIPSE LV100POL、ニコン社製)に取り付けた加熱ステージ(顕微鏡用冷却加熱ステージ10002、リンカム社製)上に粉末状の樹脂を置き、直行ニコル下10℃/分で昇温したとき、樹脂が溶融して液晶層特有のシュリーレン模様を示す樹脂温度を実測することにより求めた。なお、静置下で完全溶融しない場合は、粉末状の樹脂を一対のスライドグラスで挟持し、加熱ステージに設けられたサンプル固定用のスプリングを用いて、樹脂を挟持したスライドグラスを固定することで、樹脂にスプリング圧を加え、加圧下において同様にシュリーレン模様を示す樹脂温度を実測することにより求めた。
【0094】
(製造例1:液晶ポリエステル(1)の製造)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸2823g(15.0モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1134g(7.5モル)、イソフタル酸1246g(7.5モル)及び無水酢酸2603g(25.8モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分間かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃に到達した時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。この液晶ポリエステル(1)は、流動開始温度が180℃、液晶転移温度が240℃であった。
【0095】
(製造例2:液晶ポリエステル(2)の製造)
製造例1で得られた液晶ポリエステル(1)を、窒素ガス雰囲気下、255℃で3時間加熱することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。この液晶ポリエステル(2)は流動開始温度が300℃、液晶転移温度が400℃であった。
【0096】
(実施例1)
製造例1で得られた液晶ポリエステル粉末2200gをN−メチルピロリドン7800gに加え、100℃で2時間加熱して、完全に溶解し透明な溶液が得られることを確認した後、密度から換算し熱伝導充填材として体積平均粒径5μmの球状α−アルミナ粉末(スミコランダムAA−5、住友化学株式会社製)を加えた。
【0097】
ここで、熱伝導充填材の充填量は、液晶ポリエステルおよび熱伝導充填材の総和に対して、50体積%とした。得られた液状組成物を攪拌および脱泡し、この得られた溶液を銅箔上に溶媒除去後の厚みが80μmとなるように塗布した後、150℃で0.5時間乾燥させた。続いて、窒素気流下にて40℃から昇温速度9.0℃/分にて300℃まで加熱し、3時間熱処理した。得られた銅箔付きフィルムから銅箔をエッチングし、実施例1の液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0098】
(比較例1)
製造例2で得られた液晶ポリエステル粉末800g、N−メチルピロリドン9200gを用いたこと、および、溶媒除去時の乾燥条件(温度、時間)が150℃で1時間であること以外は、実施例1と同様にして、比較例1の液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0099】
(比較例2)
溶媒除去時の乾燥温度を100℃であること以外は、実施例1と同様にして、比較例2の液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0100】
(熱伝導率)
以上のようにして得られた液晶ポリエステルフィルム(実施例1および比較例1、2)の熱伝導率は、熱拡散率と定圧比熱容量と密度の測定より、以下の式により算出した。
熱伝導率(W/(m・K))
=熱拡散率(m/s)×比熱(J/(kg・K))×密度(kg/m
【0101】
(熱拡散率)
熱拡散率の測定は、サンプルサイズ10mm×10mm×0.1mmで、温度波熱分析法(ai-Phase Mobile、アイフェイズ社製)を用い、サンプル厚み方向について、室温にて測定した。
【0102】
(比熱)
比熱の測定は装置として示差走査熱量計(DSC7、パーキンエルマー社製)を用い、サファイヤ標準物質との比較より測定した。
【0103】
(密度)
密度の測定はアルキメデス法により測定した。
【0104】
実施例1および比較例1,2について、結果を下表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
測定の結果、実施例1では、比較例のサンプルと比べ熱伝導率が高いものが得られた。
一方、比較例1では、熱処理時に液晶転移温度以上の加熱を行っていないため、熱伝導率が低いものとなっている。
また、比較例2では、溶媒除去時の乾燥温度が120℃よりも低かったため、空孔が多く残存し、比重が低下している。そのため、実施例1と同じ材料を用いているにも関わらず、熱伝導率が低くなっている。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電箔と、導電箔上に形成される絶縁層とを有する積層基材の製造方法であって、
液晶ポリエステルと、前記液晶ポリエステルを溶解させる溶媒と、熱伝導充填材とを含み、前記液晶ポリエステルの含有量と前記熱伝導充填材の含有量との和に対する前記熱伝導充填材の含有量の割合が30体積%以上80体積%以下である液状組成物を、導電箔上に塗布し、120℃以上220℃以下に加熱して前記溶媒を除去して塗膜を形成する乾燥工程と、
前記導電箔の上に形成される塗膜を、前記液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度に加熱して絶縁層を形成する熱処理工程と、を含む積層基材の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、0℃以上220℃以下の温度から前記液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度まで1.0℃/分以上200℃/分以下の速度で前記塗膜の温度を昇温して絶縁層を形成する請求項1に記載の積層基材の製造方法。
【請求項3】
前記熱伝導充填材が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1つの無機物の粉末を含む請求項1又は2に記載の積層基材の製造方法。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルである請求項1から3のいずれか1項に記載の積層基材の製造方法。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項5】
前記液晶ポリエステルが、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有する請求項4に記載の積層基材の製造方法。
【請求項6】
前記式(3)で示される繰返し単位において、X及びYのうちの少なくとも一つが、イミノ基である請求項4または5に記載の積層基材の製造方法。
【請求項7】
液晶ポリエステルと、前記液晶ポリエステルを溶解させる溶媒と、熱伝導充填材とを含み、前記液晶ポリエステルの含有量と前記熱伝導充填材の含有量との和に対する前記熱伝導充填材の含有量の割合が30体積%以上80体積%以下である液状組成物を、支持基材上に塗布し、120℃以上220℃以下に加熱して前記溶媒を除去して塗膜を形成する乾燥工程と、
前記支持基材の上に形成される塗膜を、前記液晶ポリエステルの液晶転移温度以上の温度に加熱する熱処理工程と、
前記支持基材を除去して液晶ポリエステルフィルムを得るフィルム化工程と、を含む液晶ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−63649(P2013−63649A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−191631(P2012−191631)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】