説明

空気圧除振システム

【課題】空圧を利用した除振装置において、減衰特性が高く、減衰周波数が広く、除振対象物の姿勢制御が可能な空気圧除振システムを提供する。
【解決手段】空気圧除振装置と、該空気圧除振装置によって支持された除振台の変位を検出する変位センサと、調圧度合いを電気的に調節する回転手段および該回転手段によって回転される接離方向に可撓性を有する調圧装置を有する一次圧を二次圧に減圧するモータ駆動式レギュレータと、前記空気圧除振装置に接続された補助タンクおよび絞り手段と、前記変位センサが検出した変位信号を受けて、該変位信号が設定値を保つように演算し、補正信号を前記モータ駆動式レギュレータに出力する演算手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FA(ファクトリオートメーション)等において使用される空圧装置を使用した空気圧除振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の工業製品特に精密部材等のワークの加工には、除振台が使用されている。従来の除振台を備えた除振装置は、除振対象物である除振台上のワークに床面からの振動を遮断し、ワークの振動を迅速に収束させるために、空気バネ等のパッシブ脚で構成されている。従来の除振装置は、3点支持を基本構成とする3本のパッシブ脚で除振台を支持している。このような従来の空気バネを使用した除振装置は、空気バネ内の圧力を一定に保つことにより、除振台上の振動を減衰させ、床の振動を除振台に伝えないように動作している。
【0003】
また、本件出願人は、空圧装置に供給する気体の圧力を調整する装置として、調圧のための駆動力を調圧部に伝達する駆動伝達系にバックラッシュが無く、応答性のよい調圧装置を開発した(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11-95843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年はワークにより精密さが要求されるようになってきた。しかし、従来の空気バネは、機械的な弁を介して圧力を一定に保つ構成であるため、減衰特性が低い、減衰周波数範囲が狭いなど特性が低かった。しかも、除振対象物として移動式テーブルが使用された場合、移動式テーブルの移動動作により除振対象物の重心が移動する場合があるが、除振対象物の重心が移動しても、各空気バネの圧力が一定に保たれるため、除振対象物が傾斜してしまう問題があった。
【0005】
そこで本発明は、空圧を利用した除振装置において、減衰特性が高く、減衰周波数が広く、除振対象物の姿勢制御が可能な空気圧除振システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために本発明は、空気圧除振装置と、該空気圧除振装置によって支持された除振台の変位を検出する変位センサと、調圧度合いを電気的に調節する回転手段および該回転手段によって回転される接離方向に可撓性を有する調圧装置を有する一次圧を二次圧に減圧するモータ駆動式レギュレータと、前記空気圧除振装置に接続された補助タンクおよび絞り手段と、前記変位センサが検出した変位信号を受けて、該変位信号が設定値を保つように演算し、補正信号を前記モータ駆動式レギュレータに出力する演算手段とを備えたことに特徴を有する。
【0007】
好ましくは、前記空気圧除振装置と補助タンクとを絞り手段を介して接続する。
さらに、前記調圧装置と空気圧除振装置とを接続する吸排気管から分岐された吸排気管に前記絞り手段および補助タンクを接続する。
より具体的には、前記空気圧除振装置は、べローズ式の空気バネで形成できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気圧除振システムによれば、空気圧除振装置によって振動を減衰するとともに、バックラッシュが無い駆動機構によって駆動される調圧装置によって空気圧除振装置の空気圧が調整されるので、除振台の傾斜を予防し、傾斜した場合も迅速に復帰させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1には、本発明を適用した空気圧除振システムの実施形態をブロックで示す図である。この空気圧除振システムでは、床(地面)70と除振台71との間に、略正三角形の頂点となる3箇所に、空気圧除振装置としてのベローズ式の空気圧バネ10が設けられるが、構造は全て同一なので、図1には1個のみ示し、1個の空気圧バネ10について説明する。
【0010】
空気圧バネ10は、縦断面が半円形を呈する全体としてドーナツ形状のベローズ11が、中空円板形状の取付板12、13を介して底板14、天板15に、内部に密閉空間S1を形成するように密着固定されている。底板14は床70に固定され、天板15は除振台71の底面に固定されている。ベローズ11としては、ゴム等の弾性部材に繊維を貼り付けたものなど、柔軟性、可撓性を有する素材で形成され、垂直、水平方向に伸縮、移動可能な構造のものが使用される。
【0011】
底板14の略中央には吸気口14aが形成されていて、この吸気口14aに吸排気管P1が接続されている。吸排気管P1は、絞り(エアオリフィス)21を介して補助タンク22に接続されている。
【0012】
さらにこの空気圧バネ10の吸排気管P1には、吸気口14aと絞り21との間に、吸排気管P2を介してモータ駆動式レギュレータ40の二次圧口に接され、モータ駆動式レギュレータ40の一次圧口には、吸排気管P3を介してコンプレッサ100が接続されている。つまり空気圧バネ10には、コンプレッサ100から一次圧で供給された圧搾空気が、モータ駆動式レギュレータ40によって設定された二次圧に減圧されて供給される。
【0013】
空気圧バネ10には、床70と除振台71との間に、除振台71の位置(高さ、鉛直方向位置)、変位を測定する変位センサ(またはポジションセンサ)16が設けられている。変位センサ16が測定した除振台71の変位信号は、演算(駆動制御)回路30により処理され、変位信号が所定値を保つように、この実施形態では水平を保つように、対応するモータ駆動式レギュレータ40が駆動されて二次圧が調整される。
【0014】
演算回路30に入力された変位信号は、増幅アンプ31で増幅され、ローパスフィルタ32で高周波成分が除去され、A/D変換器33でデジタル信号に変換され、PID補償器34により、パルス変換回路35に入力されるパルス制御入力が演算される。そうしてパルス変換回路35により、モータ駆動式レギュレータ40を駆動するパルス信号が生成される。このようにPID制御により生成されたパルス信号によりモータ駆動ドライバ36を介して、モータ駆動式レギュレータ40が駆動される。なお、増幅アンプ31、ローパスフィルタ32、A/D変換器33、パルス変換回路35、およびモータ駆動式レギュレータ40は、3個の空気圧バネ10およびモータ駆動式レギュレータ40毎に独立して設けられている。PID補償器34は1個であって、これらの各変位信号をそれぞれ処理して、各モータ駆動式レギュレータ40を独立して駆動制御する。
【0015】
図2に、モータ駆動式レギュレータ40の一部切断正面図を示し、図3にモータ駆動式レギュレータ40の側面図を示した。このモータ駆動式レギュレータ40は、コンプレッサ100から入力された一次圧空気(図2の矢印IN)を二次圧空気(図2の矢印OUT)として出力する際に、出力側の二次圧を調整するための調圧機器本体60と、出力側の二次圧を設定するために上記調圧機器本体60に連結される調圧ネジ61と、この調圧ネジ61を回して調圧度合いを調整するための回転駆動装置41と、前記調圧ネジ61と回転駆動装置41との間に介在される、回転駆動装置41の回転駆動力を調圧ネジ61に伝達するための連結継ぎ手50とを備えている。
【0016】
調圧機器本体60は、調圧ネジ61を回動させて軸方向に上下させることにより、調圧機器本体60の出力側の二次圧を調整することができるようになっている。
【0017】
回転駆動装置41には、回転駆動源としてのモータが備えられている。この実施例ではモータとして、回転角制御精度が極めて高く、遠隔制御が可能なステッピングモータを備えた。
【0018】
回転駆動装置41のモータ軸42には、接続部材43を介して連結継ぎ手50が接続される。連結継ぎ手50は、所定の間隔を空けて対向配置された、間隔が変化する方向に可撓性を有する一対の半球形の椀型部材51、52を備えている。椀型部材51、52には、頂点(中央)に接続用の円形の穴が形成されている。一方の椀型部材51の穴には接続部材43が挿入され、一体に回動するように穴の周縁部に固定され、他方の椀型部材52の穴には、調圧ネジ61の突出端部に固定された接続部材62が挿入され、一体に回動するように穴の周縁部に固定されている。
【0019】
一対の椀型部材51、52は、対向する円形の周縁部が互いに接合され、リング状の固定部材53で固定されている。なお、椀型部材51、52は固定部材53を用いることなく接合することができる。例えば、椀型部材51、52の周縁部を当接させた後に、これらの開口周縁部を融着させて固着させてもよい。
【0020】
回転駆動装置41に演算回路30が接続されている。そうして、演算回路30から出力されるパルス信号により回転駆動装置41のステップモータがステップ回動し、モータ軸42、連結継ぎ手50を介して調圧ネジ61を回転駆動して調圧する。つまり、回転駆動装置41のモータ軸42が回転すると、椀型部材51、52を介して調圧ネジ61が回動し、該調圧ネジ61がそのリードにしたがって回転しながら上方または下方に移動することにより、調圧機器本体60の出力側の二次圧を調整することができる。
【0021】
モータ軸42は、回転にかかわらず軸方向には移動しないが、椀型部材51、52が軸方向に変形して調圧ネジ61がモータ軸42対して接離移動するのを許容する。その際、一対の椀型部材51、52は、軸周りの捻れ力に対してはほとんど撓まないのでバックラッシュ等が無く、モータ軸42の回転を調圧ネジ61に、遅延なく1対1の回転比で伝達することができる。
【0022】
調圧機器本体60には公知の種々の構造のものを用いることができるが、高精度で応答時間が短いものがよい。可撓性の連結継ぎ手50は、図示の半球形状の椀型部材51、52に限定されず、円錐形状でもよく、接合部の外周形は多角形でもよい。演算回路30はパーソナルコンピュータ等で構成することが可能であり、制御方式もPID制御に限定されない。
【0023】
図4には、本実施形態の空気圧除振システムにおいて、絞り(エアオリフィス)21の開閉度を異ならせた除振特性をグラフで示した。
【0024】
このグラフでは、絞り21の開度(エア通路の断面積)を3段階に変化させた場合の振動伝達率を示している。つまり、絞り21を最も絞った状態と、絞り21を半分開放した状態と、絞り21を全開した状態で床70に振動を加えたときの除振台71の振動特性を示している。同グラフにおいて、縦軸は振動の伝達倍率(dB)、横軸は周波数である。共振倍率とは、(除振台71の振動)/(床70の振動) の比率であって、同グラフにおいて0(dB)から下が除振台71の振動が床70より小さくなるので、除振していることを意味している。逆に0(dB)より上は除振台71の振動が床70の振動より大きくなるので、共振していることを意味している。
【0025】
絞り開度小の場合は、絞り21を挟んでベローズ内空間S1と補助タンク22との間を行き来できる空気流量が少ないため、共振領域では減衰を効かせることができず、共振ピークが残っている。
【0026】
絞り開度中の場合は、絞り21を挟んでベローズ内空間S1と補助タンク22との間を行き来できる空気流量が適しているため、共振レベルが大幅に抑えられている。
【0027】
絞り開度大の場合は、絞り21を挟んでベローズ内空間S1と補助タンク22との間を行き来できる空気流量が多いため、低周波域では補助タンク22の容量を合わせた固有振動数と、高周波域では補助タンク22の容量が影響しない固有振動数の2つの共振ピークが出ている。
【0028】
つまり、補助タンク22の容量+空気バネ内容積(ベローズ内空間S1の容量)が大きければ固有振動数が低くなり、逆に小さくなると固有振動数は高くなる。この実施形態では、絞り開度中の場合が最適であることが分かる。
【0029】
空気バネ10で保持する除振対象物が除振台71に設けられた移動式テーブル等の場合は、除振台上の重心が移動する。重心が移動しても空気圧バネ10は、通常の振動は減衰させることができるが、除振台71の傾斜を防止することはできない。つまり、二次圧が一定の場合は、除振台上の重心が移動すると除振台71が傾斜してしまう。そこで本実施形態は、除振台71の姿勢を一定に、水平に保つために、変位センサ16、演算回路30およびモータ駆動式レギュレータ40を備えている。
【0030】
この実施形態では、各変位センサ16の変位信号を入力した演算回路30が、モータ駆動式レギュレータ40を駆動するパルス信号を演算し、モータ駆動式レギュレータ40を駆動し、二次圧を調整して除振台71を目標の位置に保持する。
【0031】
また除振台71または床70に予期せぬ振動が加わっても、各変位センサ16の位置信号を入力した演算回路30が、モータ駆動式レギュレータ40を駆動するパルス信号を演算し、このパルス信号に基づいてモータ駆動式レギュレータ40を駆動し、二次圧を調整して振動が収束するまでの時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を適用した空気圧除振システムの実施形態をブロックで示す図である。
【図2】同空気圧除振システムに使用した調圧装置の実施例であるモータ駆動式レギュレータの一部切断正面図である。
【図3】同空気圧除振システムに使用した調圧装置の実施例であるモータ駆動式レギュレータの側面図である。
【図4】本発明を適用した空気圧除振システムの実施形態において、絞りの開度を変えて測定した動作特性をグラフで示した図である。
【符号の説明】
【0033】
10 空気圧バネ
11 ベローズ
14 底板
14a 吸気口
15 天板
16 変位センサ
21 絞り(エアオリフィス)
22 補助タンク
30 演算回路
31 増幅アンプ
32 ローパスフィルタ
33 A/D変換器
34 PID補償器
36 モータ駆動ドライバ
40 モータ駆動式レギュレータ
41 回転駆動装置
42 モータ軸
50 連結継ぎ手
51 52 椀型部材
53 固定部材
60 調圧機器本体
61 調圧ネジ
62 接続部材
70 床(地面)
71 除振台
100 コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧除振装置と、
該空気圧除振装置によって支持された除振台の変位を検出する変位センサと、
調圧度合いを電気的に調節する回転手段および該回転手段によって回転される接離方向に可撓性を有する調圧装置を有する一次圧を二次圧に減圧するモータ駆動式レギュレータと、
前記空気圧除振装置に接続された補助タンクおよび絞り手段と、
前記変位センサが検出した変位信号を受けて、該変位信号が設定値を保つように演算し、補正信号を前記モータ駆動式レギュレータに出力する演算手段と、を備えたことを特徴とする空気圧除振システム。
【請求項2】
前記空気圧除振装置と補助タンクとは、絞り手段を介して接続されている請求項1記載の空気圧除振システム。
【請求項3】
前記空気圧除振装置と絞りとを接続する吸排気管の途中に、前記調圧装置の二次圧が接続されている請求項2記載の空気圧除振システム。
【請求項4】
前記空気圧除振装置は、べローズ式の空気バネである請求項1乃至3のいずれか一項記載の空気圧除振システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−118564(P2006−118564A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305758(P2004−305758)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】