説明

窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法

【課題】 高い熱伝導性を有しながら、ブレードによる切断、スクライブ処理後の折割処理等の加工において粒界破壊によるチッピングが起こり難く、加工の際に高い寸法精度が求められる用途に好適な窒化アルミニウム焼結体を提供する。
【解決手段】 イットリウム元素換算で0.1〜0.5質量%の量のイットリウム化合物を含有し、該イットリウム化合物のうち、窒化イットリウムが占める比率が、5〜30%であり、且つ、該窒化イットリウムの少なくとも一部が窒化アルミニウム結晶粒子の二粒界に存在し、且つ、相対密度が98%以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム焼結体に関する。詳しくは、高い熱伝導性を有しながら、ブレードによる切断、スクライブ処理後の折割処理等の加工(以下、これらの加工を総称して切断加工ともいう。)において粒界破壊によるチッピングが起こり難く、加工の際に高い寸法精度が求められる用途に好適な窒化アルミニウム焼結体を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム焼結体は、高い熱伝導率を有していることから、光通信、DVD等のメディア分野において、レーザーダイオードや発光ダイオードのヒートシンクなどに適用されている。
【0003】
ヒートシンクのような小型の基板は、該基板よりも大型の窒化アルミニウム基板を切断加工することによって製造されるが、この切断加工の際に、基板にチッピングが生じる場合がある。ここで、チッピングとは、切断加工時に窒化アルミニウム焼結体の粒界破壊が起こり、窒化アルミニウム結晶粒が剥離することにより、該窒化アルミニウム結晶粒が剥離した跡が「欠け」として観察されることをいう。上記剥離は窒化アルミニウム結晶粒が2〜3個連なった状態で起きることが多い。
【0004】
従来、窒化アルミニウム焼結体の高熱伝導化のためには緻密化が容易に達成できる粒径の小さな等軸状の粉末が好ましいとされてきた。実際、このような粉末を使用し還元焼成を行った場合には、その高い焼結性を反映して結晶粒の著しい成長が起こり、例えば240W/m・K以上の熱伝導性を有する焼結体を容易に得ることができる。しかしながら、上記焼結体の破断面を観察すると、焼結性の高さ故に著しい粒成長が起こっていることがわかる。一般に、窒化アルミニウム焼結体を構成する結晶粒の粒子径が大きくなると熱伝導率は高くなるが、その反面、結晶粒の剥離によって生じるチッピング幅も大きくなる。
そのため、レーザーダイオード等を搭載する際の画像認識での障害になるといった問題が懸念され、チッピング幅を低減することが求められてきた。
【0005】
従来、高熱伝導性を維持しながら、切断加工におけるチッピングを減少させる方法としては、焼結体中の結晶粒径を小さくし、チッピングの程度を低減することが報告されている(特許文献1)。しかし、この窒化アルミニウム基板の切断加工においては、上記結晶粒径が小さい分チッピングが抑制されるものの、粒界破壊が起こっていることには変わりがなく、また、焼結助剤添加量が少なく粒成長も抑制させているためAlN結晶粒の高純度化が十分になされておらず熱伝導率が70〜180W/m・Kと低いものであった。
【0006】
これに対し、210W/m・Kという高熱伝導率を有しながらチッピング幅の分布が小さい窒化アルミニウム焼結体として、原料である窒化アルミニウム粉末の粒度分布をシャープに制御し、これを低温で長時間焼成した窒化アルミニウム基板が知られている(特許文献2)。しかしながら、この窒化アルミニウム基板も、切断加工においては、結晶粒の大きさが揃っていることによるチッピングの分布は小さいものの、粒界破壊が起こり、根本的な問題の解決には至っていない。
【0007】
このように、窒化アルミニウム焼結体において高い熱伝導率を有しながら、切断加工における結晶粒の破壊率を向上し、チッピングを本質的に低減させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−164422号公報
【特許文献2】特開2008−74642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、高熱伝導、具体的には220W/m・Kを超える熱伝導率を有しながら、切断加工時における結晶粒の内部破壊率が高く、チッピングが起こり難い窒化アルミニウム焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱伝導性を高く維持するためにイットリウム系の焼結助剤を使用して相対密度を高めた焼結体においても、かかる焼結助剤が三重点に存在することを抑えた焼結を行えば、前記三重点による界面破壊の促進を防止できるという知見を得た。上記知見に基づき更に研究を重ねた結果、前記焼結助剤を使用した場合であっても、特定の焼成条件を選択して、該焼結助剤を窒化イットリウムとして、特定の割合で二粒界に分散して存在せしめることにより、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、イットリウム元素換算で0.1〜0.5質量%の量のイットリウム化合物を含有し、該イットリウム化合物のうち、窒化イットリウムが占める比率が、5〜30%であり、且つ、該窒化イットリウムの少なくとも一部が窒化アルミニウム結晶粒子の二粒界に存在し、且つ、相対密度が98%以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体である。
【0012】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、粒内破壊率が90%以上という高い値を示すことが好ましく、また、その熱伝導性の指標となる、結晶粒のC軸長さが、4.9800オングストローム以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結体において、窒化アルミニウム結晶粒において、粒径が1〜7μmの範囲にある結晶粒の占める割合が95質量%以上であることが好ましい。
【0014】
前記本発明の窒化アルミニウム焼結体は、炭素を300ppm〜600ppmの範囲で含有し、一次粒子径が0.3μm〜10μmの範囲で分布を有し、0.3〜2μmの範囲が50〜70%、残部が30〜50%からなり、粒度分布曲線のピークが0.7〜1.3と3.5〜4.5μmの範囲に存在する窒化アルミニウム粉末100質量部とイットリウム系化合物よりなる焼結助剤3〜6質量部とを、還元雰囲気下で焼成することによって製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、高い熱伝導率(220W/m・K以上)を有しながら、切断加工時における結晶粒の内部破壊率が90%以上と高く、これにより、切断加工後の破断面に生じるチッピングを極めて低く抑えることが可能な窒化アルミニウム焼結体が提供される。
【0016】
従って、高熱伝導を要求され、切断加工によって製造される部品の製造において、その切断面のチッピングによる歩留まりの低下を確実に防止することができ、その工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の焼結体破断面のSEM反射電子像の写真
【図2】比較例1の焼結体破断面のSEM反射電子像の写真
【図3】チッピング幅の評価モデル図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム結晶粒間、即ち、粒界に、焼結助剤由来の窒化イットリウムを含むイットリア化合物の相を含有していることが重要である。即ち、かかる化合物が、窒化イットリウム以外のイットリウム化合物のみ、例えば、酸化イットリウムやイットリウムアルミネートのみで構成される場合は、本発明の高い粒内破壊率は得られず、本発明のかかる効果は達成できない。
【0019】
また、この場合、上記窒化イットリウムの少なくとも一部は、窒化アルミニウム結晶粒子の二粒界に存在することが、得られる窒化アルミニウム焼結体において高い粒内破壊率を達成するために、併せて必要である。
【0020】
そのため、本発明の窒化アルミニウムは、後述する製造方法に示すように、焼結助剤としてイットリウム化合物、例えば酸化イットリウムを使用し、窒素の存在下に還元焼成することによって製造され、粒界に窒化イットリウムを含むイットリア化合物の相が形成され、且つ、二粒界において、窒化イットリウムが存在する。
【0021】
本発明において、上記イットリウム化合物の含有量は、イットリウム元素換算で0.1〜0.5質量%、好ましくは、0.2〜0.4質量%であり、且つ、該イットリウム化合物のうち、窒化イットリウムが占める比率が、5〜30%、好ましくは、10〜20%であることが、窒化アルミニウム焼結体の粒内破壊率を向上するために重要である。即ち、イットリウム化合物の含有量が前記範囲より少ない場合、粒界破壊となり、また、多い場合は、熱伝導率が低下する。また、窒化イットリウムの占める比率が、前記範囲より少ない場合、窒化アルミニウム結晶粒間の接着性が十分でなく、粒界破壊が生じ易くなる。逆に、窒化イットリウムの占める比率が上記範囲より多くても、粒界破壊が起こり易くなる。これは、窒化イットリウムが多量に存在することにより、窒化アルミニウム結晶粒と焼結助剤相の熱膨張係数の差から、焼結後の降温中に窒化アルミニウム粒と助剤相界面とでひずみが生じやすく、粒界が弱くなるためと推定される。
【0022】
尚、前記イットリウム化合物のうち、窒化イットリウムが占める比率は、後述する実施例において具体的に示すが、同一視野において、電解放出型電子線プローブマイクロアナライザによる元素分析を行い、イットリウム、酸素に付いての元素マッピングの結果より、イットリウムがマッピングされた面積に対する、上記イットリウムのマッピングと重なる位置にある酸素のマッピングされた面積を該イットリウムがマッピングされた面積から差し引いた面積の比率(面積比率)を算出することによって求めることができる。
【0023】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、前記窒化イットリウムの少なくとも一部が窒化アルミニウム結晶粒子の二粒界に存在することが大きな特徴である。即ち、従来、イットリアを焼結助剤として使用し、窒素の存在下に還元焼成することによって窒化アルミニウム焼結体を得ることは知られているが、かかる方法によって得られる焼結体は、通常、三重点に集中して存在する。
【0024】
また、前記窒化イットリウムが二粒界に存在する形態は、相として確認できない形態で存在することが好ましい。具体的には、二粒界をTEM−HAADF(電界放射型透過電子顕微鏡)により5万倍の倍率で観察した場合、相として目視で確認することはできないが、同視野にてEDX(エネルギー分散型X線分光法)により、イットリウムが検出され、且つ、酸素が検出されない状態である。従って、窒化イットリウムが、2粒界に存在する場合であっても、相として明確に確認できる程度に多量に存在すると、得られる窒化アルミニウム焼結体は、粒内破壊率が低下する傾向にある。これに対して、本発明は、後述の特殊な製造方法によって、窒化イットリウムの少なくとも一部を二粒界に存在させたものであり、かかる組織により、窒化アルミニウム結晶粒子間の接合力を高め、粒内破壊率を著しく向上させることができたのである。
【0025】
また、前記のように、本発明の窒化アルミニウム焼結体において、窒化イットリウムは、二粒界において相として確認できない形態で、適当量存在していることより、窒化アルミニウム結晶粒子の結晶格子に何らかの作用を及ぼしているものと推定される。その証拠には、本発明の窒化アルミニウムは、後述する高い相対密度を有しているにも拘らず、その結晶粒子の硬度が一般の結晶粒子より遥かに低いという特徴を有する。即ち、本発明の窒化アルミニウム焼結体を構成する結晶粒子のマイクロビッカース硬度は、30〜60N/mmという低い値を示し、かかる硬度も、本発明の窒化アルミニウム焼結体の粒内破壊のし易さに寄与しているものと推定される。
【0026】
尚、マイクロビッカース硬度は、後述する実施例に記載の測定方法によって測定された値である。
【0027】
更に、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、98%以上、特に、99%以上の相対密度を有することが特徴である。即ち、かかる相対密度が上記範囲より小さい焼結体は、熱伝導率が十分でなく、本発明の目的を達成することができない。かかる焼結体の相対密度が前記範囲にあることは、焼結が高度に進行し、その結果、高純度化された窒化アルミニウム結晶粒子が得られるものと推定される。
【0028】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、熱伝導性の指標である、窒化アルミニウム結晶粒のC軸長さが、4.9800オングストローム以上、特に、4.9802オングストローム以上であることが好ましい。
【0029】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結体において、窒化アルミニウム結晶粒の大きさは、特に制限されるものではないが、一般に、粒径が1〜7μmの範囲にある結晶粒の占める割合が95個数%以上であることが好ましい。即ち、かかる結晶粒径が7μmより大きい結晶粒を多く含む場合、結晶粒間の接合が低下し、粒内破壊率が低下する傾向にある。
また、結晶粒径が1μmより小さい結晶粒を多く含む場合、高い熱伝導率を達成することが困難となる。
【0030】
また、上記窒化アルミニウム結晶粒の大きさは、前記1〜7μmの範囲内で、二山の粒度分布を有することが好ましい。即ち、粒度分布曲線のピークが1〜3μmと4〜6μmの範囲にそれぞれ存在することが好ましい。
【0031】
本発明の窒化アルミニウム焼結体の形状は、特に制限されるものではないが、板状が一般的であり、特に、電子部品を搭載するための基板用としては、厚みが0.1〜50mm、一般には0.2〜10mm、特に0.5〜2mmが代表的である。
【0032】
(窒化アルミニウム焼結体の製造方法)
本発明の窒化アルミニウムの製造方法は特に制限されないが、代表的な製造方法として、以下の方法が挙げられる。
【0033】
即ち、炭素を300ppm〜600ppmの範囲で含有し、一次粒子径が0.3μm〜6μmの範囲の分布を有し、0.3〜2μmの範囲が50〜70%、残部が30〜50%からなり、粒度分布曲線のピークが0.7〜1.3と3.5〜4.5μmの範囲に存在する窒化アルミニウム粉末100質量部とイットリウム系化合物よりなる焼結助剤3〜6質量部とを、窒素流通下、還元雰囲気で焼成する方法が挙げられる。
【0034】
上記窒化アルミニウム粉末としては、含有される炭素濃度が300ppm〜600ppmの範囲にあることが必要である。即ち、窒化アルミニウム粉末中に含まれる炭素は緻密化ならびに粒成長を抑制するとともに、焼結助剤相の移動を活発にする効果があり、炭素を適度に含む粉末を用いることによって高い粒内破壊率を達成するために必要な粒成長抑制と焼結助剤移動による焼結体内窒化アルミニウム粒子の均一な高純度化を適度なバランスで達成することができる。
【0035】
従って、炭素濃度が上記範囲よりも低い場合には、焼結助剤相は2粒界に厚く存在して粒界にひずみを生じさせ、また粒成長もしやすくなるため密着性向上のために必要な小さい粒子が減少し、粒界破壊率が多くなる。また、上記よりも炭素濃度が前記範囲より高い場合は、焼成過程で助剤相の動きが活発に動きすぎ、焼結体中の窒化イットリウム相の分布および窒化アルミニウム粒子の粒成長も不均一となるため、所望の熱伝導率や粒内破壊率を有する焼結体が得られなくなる。
また、上記窒化アルミニウム粉末はその一次粒子径が0.3〜7μmの範囲の分布を有することが望ましく、更にはその範囲が0.5〜6μmであることが好ましい。また、その分布内において、0.3〜2μmの範囲が50〜70%、残部が30〜50%からなることが、粒度分布曲線のピークが0.7〜1.3と3.5〜4.5μmの範囲に存在することが重要である。
一次粒子径が揃っており、その粒度が小さい場合、その粒径を反映して反応性が高いため一様に粒成長がしやすく、その接するAlN粒子数は少なくなる。そのため降温によって生じる残留応力によって、ひずみが生じるとこれを分散できず、密着性の強い窒化アルミニウム−窒化アルミニウム粒子界面を得ることができない。また素早い緻密化と粒成長によって追いやられた焼結助剤の過度の偏析も生じるため、その破断面は粒界破壊となり良好な切断面を有する焼結体が得られない。また、粒度分布が上記範囲よりも幅広い場合や、仮に0.3〜10μmの分布を有していても、2μmよりも大きい一次粒子が50%よりも大きい場合は、十分な緻密化が起こりにくく、所望の熱伝導率を得ることができない。また、ボイドの残留や粒界破壊した粒子が大きくなる傾向となるため、破断面の外観に関しても所望の形状をとることができない。上記範囲の分布を有する窒化アルミニウム粉は更に、その粒度分布曲線のピークを0.7〜1.3μmと3.5〜4.5μmの範囲に有することが望ましい。
【0036】
上記範囲の粒度分布を有する粉末を使用することにより、3.5〜4.5μmの一次粒子が焼結による緻密化の速度を適度に遅くすることができるため、焼結助剤相は三重点に押し出されることなく高度に分散された状態で少なくとも一部が2粒界に留まることができ、これがAlN結晶粒同士を強固に結合するため、高い粒内破壊率の実現に寄与するものと推定される。また、0.7〜1.3μmの粒子は比較的大きい結晶粒子同士を架橋するように存在することによって、ひずみが生じた際にその吸収と分散の役割をにない、AlN−AlN粒子の密着性の一層の向上を可能とする。
【0037】
上記窒化アルミニウム粉末の粒度分布は、窒化アルミニウム粉末の原料と成り得るAl粒子やAl粒子の粒径を調整してもよいし、粒径の異なる窒化アルミニウム粉末をブレンドするなど、任意の方法よって調整することができる。
本発明において、焼結助剤は、焼結助剤としての機能や窒化イットリウムの相を焼結体に形成することを考慮すれば、酸化イットリウムを使用することが好ましい。また、前記焼結助剤の粒径は、小さい程好ましく、具体的には粒径0.1μm〜0.3μm、比表面積が12m/g以上、純度99.9%以上であることが望ましい。
【0038】
上記焼結助剤の添加量は、窒化アルミニウムに対して3〜6質量%の割合で添加することが望ましい。即ち、3質量%よりも少ない場合は、密着性向上させる小粒子の減少と窒化アルミニウム粒子の高純度化の不足が起こるため、所望の特性を有する焼結体を得ることができない。逆に6質量%よりも多い場合は助剤の偏析が起こりやすくその歪から粒界破壊が増大する。また、焼結助剤相が多いとその液相量の多さから粒の再配列が非常にしやすく却って粒成長を促す場合があるため、所望の特性を有する焼結体を得ることができない。
【0039】
窒化アルミニウム粉末と焼結助剤とは、公知の方法で混合することができる。例えば、ボールミル等の混合機によって、乾式または湿式により混合する方法が好適で採用できる。上記方法の中で、湿式で混合する場合は、水、アルコール類、炭化水素類等の分散媒を使用するが、分散性の点でアルコール類、炭化水素類を用いることが好ましい。
【0040】
また、グリーン体を製造するために使用される有機バインダーとしては、ポリビニルブチラール等のブチラール樹脂、ポリメタクリルブチル等のアクリル樹脂等、公知のものが挙げられる。
【0041】
上記有機バインダーは、窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、0.1〜30重量部、好ましくは、1〜15重量部の割合で配合することが好ましい。
【0042】
また、グリーン体を製造するための組成物中には、必要に応じて、グリセリン化合物類などの分散剤及びフタル酸エステル類などの可塑剤も添加してよい。
【0043】
上記した窒化アルミニウム粉末、焼結助剤粉末、及び有機バインダーよりなる組成物は、例えば、ドクターブレード法等によりシート状のグリーン体に成形される。
得られたグリーン体は、空気中、窒素中、水素中等の任意の雰囲気で加熱し、脱脂されるがコスト面と脱脂の均一性から空気中で脱脂することが望ましい。脱脂における温度は、有機バインダーの種類によっても異なるが、300〜900℃が好ましく、300〜600℃が特に好ましい。脱脂の目的はバインダー分の除去であって、脱脂過程で所定量のカーボンを残すことを目的とはしていない。あくまで粉末由来のカーボンを存在させることが重要である。
【0044】
本発明において、上記方法により得られた脱脂体は還元雰囲気にて焼成されるが、その際、焼成温度は1800〜1860℃、焼成時間は15〜40時間であることが望ましい。焼成温度が1800℃より低い場合、焼結助剤の焼結体外への排出が十分に行われず、焼結体に残留する焼結助剤が多量に析出するため、窒化アルミニウム粒子と焼結助剤相との熱膨張差によって生じる歪が顕著になるため粒界破壊が起こりやすくなり、良好な破断面が得られなくなるとともに、十分な高熱伝導化を達成することができない。また、該焼成温度が1860℃よりも高い場合、粒界に存在する焼結助剤成分の系外への排出が急激に起こり、窒化アルミニウム結晶粒の粒成長が著しくなるため、密着強度を向上させるために必要な小粒径の窒化アルミニウム粒子が消失するため、良好な外観を有する破断面を得ることができない。
【0045】
また、焼成時間に関しても上記範囲外では助剤の分布や熱伝導率が望む値が得られず、本発明の目的を達成することができない。
【0046】
上記焼成において、窒素を含有する還元雰囲気は、酸素を含まず、且つ、窒素及び炭素分を含有するガス雰囲気である。このように、還元雰囲気に窒素を存在させることにより、焼結助剤として添加したイットリアが窒化イットリウムとなる反応を助長し、粒内破壊率の高い窒化アルミニウム焼結体を得ることに寄与する。
【0047】
また、上記窒素を含有する還元雰囲気下での焼成により、窒化アルミニウム結晶粒のC軸長さが、4.9800オングストローム以上を容易に達成することができ、熱伝導率の高い窒化アルミニウム焼結体を得ることが可能となる。
【0048】
本発明において、上記窒素を含有する還元性雰囲気を実現する方法としては、窒素ガスを流通しながら、窒化アルミニウム脱脂体とカーボンとを容器内に共存させる方法、カーボン製の容器を用いる方法等が挙げられる。その中でも、得られる熱伝導率、助剤残留量等を勘案すると、窒化アルミニウム板状脱脂体とカーボンとを容器内に共存させる方法が好適であり、特に通気部を有する容器内に窒化アルミニウム板状脱脂体とカーボンとを収容する方法が、さらに好適である。
【0049】
また、上記カーボンの発生源は特に制限されず、無定形炭素や黒鉛等の公知の形態のカーボンを用いることができ、固体状のカーボンが好適である。上記カーボンの形状としては、特に制限されず、粉末状、繊維状、フェルト状、シート状、板状のいずれもよく、またそれらを組み合わせてもよい。その中でも、より高い熱伝導率を得ることを勘案すると、板状の無定形炭素や黒鉛が好適である。
【0050】
上記、板状カーボンの寸法は還元雰囲気の強度を決定するため、緻密化と焼結助剤相が系外へ排出される速度に影響を与える。そのため、容器内に仕込む脱脂体の体積とカーボン板の重量比M(M=脱脂体重量/カーボン板重量)は1.2≦M<1.8の範囲であることが望ましい。上記範囲よりもMが小さい場合、還元強度が強すぎるため、粒内破壊モードを得る上で小粒径を維持するために必要な焼結助剤までも系外へ排出されてしまうことに加え、急激な移動を強いられるために焼結助剤の分布に偏りが生じ、基板に反りが発生するため後工程の加工にも悪影響を与える。また、上記範囲よりもMが大きい場合には焼結助剤が十分に系外に排出されず、助剤相の偏析のため破断面は粒界破壊となる他、窒化アルミニウム粒の高純度化も十分になされず、高い熱伝導率を得ることができない。
【0051】
上述した方法で窒化アルミニウム焼結体を製造することにより、従来には得られなかった熱伝導率220W/m・K以上を有しながら、粒内破壊率90%以上の焼結体が得られる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<測定方法>
(1)窒化アルミニウム焼結体中の二粒界に存在するYNの同定およびその存在比率:
得られた窒化アルミニウム焼結体の破断面をRa≦0.05μm、Rz≦0.2μmとなるように鏡面加工し、この鏡面加工破断面を電解放出型電子線プローブマイクロアナライザ(FE−EPMA:(株)日本電子製 JXA−8530F)により任意の倍率(例えば1000〜5000倍)で4視野観察し、その視野内に見られる各焼結助剤相をEPMAにて同定した。
【0054】
またイットリウム、酸素に付いての元素マッピングの結果より、イットリウムがマッピングされた面積(S)に対する、上記イットリウムのマッピングと重なる位置にある酸素のマッピングされた面積(S)を該イットリウムがマッピングされた面積から差し引いた面積の比率を、画像解析システム(IP−1000PC;旭化成工業製)を用いて解析し、(1)式を用いて算出した。
焼結助剤相に占めるYN助剤相の面積比率(%)=(S−S/S)×100(1)
【0055】
(2)窒化アルミニウム焼結体中のY量の定量:
窒化アルミニウム焼結体を粉砕し粉末状にした後、アルカリ溶融後、酸で中和し、島津製作所製「ICP−1000」を使用して溶液のICP発光分析によりY量を定量した。
【0056】
(3)窒化アルミニウム焼結体の相対密度評価
焼結体の密度はJIS R 1634に基づきアルキメデス法により測定した。ICP発光分析により定量したYを酸化イットリウムに換算した際の焼結体の相対密度を算出した。窒化アルミニウムの密度は3.26g/cm、酸化イットリムの密度5.03g/cmとした。
【0057】
(4)窒化アルミニウム焼結体中の窒化アルミニウム結晶粒のc軸長さ:
X線回折装置を用い、Siを外部標準試料として測定し、リードベルト解析により算出した。この際用いた面は、Siは(111)、(220)、(311)、(422)、(440)、(531)面を、AlNは(102)、(110)、(112)、(202)、(210)、(211)、(105)である。
【0058】
(5)2粒界に存在する窒化イットリウムの同定方法:
電界放射型透過電子顕微鏡(PhilipsElectron Optics社製 Tecnai F20)を用いて窒化アルミニウム焼結体鏡面加工面の任意の二粒界に対し、50,000倍にてHAADF像を観察し、助剤相の有無を確認した。
同視野にてEDXにより、分析しイットリウムが検出され、且つ、酸素が検出されない状態であるかどうかを確認した。
【0059】
(6)窒化アルミニウム焼結体の粒内破壊率:
走査電子顕微鏡(倍率3000倍)を用いて窒化アルミニウム焼結体の破断面を任意に5視野撮影し、その撮影視野内に存在する粒界破壊した粒子の面積の総和(SSUM(GRAIN))を画像解析システム(IP−1000PC;旭化成工業製)を用いて解析し、(2)式に代入してその平均値を算出した。
粒内破壊率(%)=100−(SSUM(GRAIN)/撮影視野面積)×100(2)
【0060】
(7)窒化アルミニウム粉末の粒度分布ならびに窒化アルミニウム焼結体を構成する窒化アルミニウム結晶粒の粒径:
窒化アルミニウム粉末を、走査電子顕微鏡(倍率3000倍)を用いて任意の5視野観察し、画像解析システム(IP−1000PC;旭化成工業製)を用いて構成する粒子径ならびに粒度分布を評価した。
【0061】
また、窒化アルミニウム焼結体については、鏡面加工した窒化アルミニウム焼結体の破断面を上記と同様にして構成する粒子径ならびに粒度分布を評価した。
【0062】
(8)窒化アルミニウム粉末中の炭素濃度:
炭素濃度は、窒化アルミニウム焼結体を粉末状にした後、堀場製作所製「EMIA−110」を使用して、粉末を酸素気流中で燃焼させ、発生したCO、COガス量から定量した。
【0063】
(9)窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率:
理学電気(株)製「LF/TCM−FA8510B」を使用して、レーザーフラッシュ法により、2次元法で測定した。
【0064】
(10)切断加工性の評価(破断時のチッピング幅および突起高さ):
両面鏡面研磨(Ra≦0.05μm、Rz≦0.2μm)した□25mm×t0.24mmの焼結体を、図3に示すように、2μmの深さまで10本スクライブし、これを割った時のチッピング幅を測定した。また、破断面に生じる突起の高さをSEMで観察した。
なお、チッピング幅や突起高さはサンプル内で最も凹凸のある部分の測定値を10本で平均化したものである。
【0065】
<実施例1>
炭素濃度が400ppm、一次粒子径が0.3μm〜6μmの範囲の分布を有し、0.3〜2μmの範囲が50%、残部が50%からなり、粒度分布曲線のピークが1.0μmと4.0μmに存在する窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、焼結助剤として酸化イットリウム粉末を5重量部、分散剤としてソルビタントリオレエート、結合剤としてポリビニルブチラールを8重量部、可塑剤としてジブチルフタレート、および溶媒を加えた混合物をボールミルで混合し、脱溶媒した後、ドクタ−ブレード法によりシート成形を行った。
【0066】
得られたシートより72mm角、厚さ0.75mmの成形体を作製した。この成形体を大気中、550度にて3時間脱脂した。
【0067】
次いで該脱脂体とカーボン板の重量比率が1.4になるように、脱脂体とカーボン板を容器内に1枚入れ、還元雰囲気中、1820℃で30時間焼成した。得られた焼結体の作製条件を表1に、物性を表2に示す。また破断面のSEM反射電子像を図1に示す。
【0068】
<実施例2>
炭素濃度が500ppm、一次粒子径が0.3〜6μmの範囲の分布を有し、0.3〜2μmの範囲が70%、残部が30%からなり、粒度分布曲線のピークが0.8μmと4.5μmに存在する窒化アルミニウム粉末100重量部を用いて、実施例1と同条件で作製した焼結体の作製条件を表1に、また、物性を表2に示す。
【0069】
<実施例3>
実施例1の脱脂体を用いて概脱脂体とカーボンの重量比率が1.7となるように、脱脂体とカーボン板を容器内に1枚入れ、還元雰囲気中、1800℃で20時間焼成した。得られた焼結体の作製条件を表1に、物性を表2に示す。
【0070】
<実施例4>
実施例1の脱脂体を用いて概脱脂体とカーボンの重量比率が1.2となるように、脱脂体とカーボン板を容器内に1枚入れ、還元雰囲気中、1860℃で40時間焼成した。得られた焼結体の作製条件を表1に、物性を表2に示す。
【0071】
<比較例1>
一次粒子径の分布が0.3〜3μm、炭素濃度200ppmの窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、焼結助剤として酸化イットリウム粉末を5重量部加え、実施例1と同様に脱脂焼成を行った。得られた焼結体の焼成条件を表1に、物性を表2に示す。また破断面のSEM反射電子像を図2に示す。
【0072】
<比較例2>
炭素濃度が300ppm、一次粒子径の分布が0.3μm〜6μmであって、0.3〜2μmの範囲が30%、残部が70%からなり、粒度分布曲線のピークが1μmと5μmに存在する窒化アルミニウム粉末100質量部に対して、焼結助剤として酸化イットリウム粉末を5重量部加え、実施例1と同様に脱脂焼成を行った。得られた焼結体の焼成条件を表1に、また、物性を表2に示す。
【0073】
<比較例3>
実施例1の窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、焼結助剤として酸化イットリウム粉末を8重量部、他実施例1と同様にして作製した脱脂体を用い、実施例1の条件で焼結体を作製した。得られた焼結体の焼成条件を表1に、また、物性を表2に示す。
【0074】
<比較例4>
実施例1で作製した脱脂体のみを密閉性容器に入れ、カーボン雰囲気が実質存在しない雰囲気で1820℃で30時間焼成した。得られた焼結体の焼成条件を表1に、また、物性を表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明で得られる窒化アルミニウム焼結体は高い熱伝導率(例えば220W/m・K以上)を有しながら、良好な切断および破断面が得られるため、本発明の窒化アルミニウム焼結体および本発明の製造方法によって製造された窒化アルミニウム焼結体は、高い寸法精度で切断および破断することができ、ヒートシンクなどの基板として好的に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム元素換算で0.1〜0.5質量%の量のイットリウム化合物を含有し、該イットリウム化合物のうち、窒化イットリウムが占める比率が、5〜30%であり、且つ、該窒化イットリウムの少なくとも一部が窒化アルミニウム結晶粒子の二粒界に存在し、且つ、相対密度が98%以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
窒化アルミニウム結晶粒のC軸長さが、4.9800オングストローム以上である請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
窒化アルミニウム焼結体の任意の破断面における粒内破壊率が90%以上である請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項4】
窒化アルミニウム結晶粒において、粒径が1〜7μmの範囲にある結晶粒の占める割合が95%以上である請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項5】
炭素を300ppm〜600ppmの範囲で含有し、一次粒子径が0.3μm〜7μmの範囲で分布を有し、0.3〜2μmの範囲が50〜70%、残部が30〜50%からなり、粒度分布曲線のピークが0.7〜1.3と3.5〜4.5μmの範囲に存在する窒化アルミニウム粉末100質量部とイットリウム系化合物よりなる焼結助剤3〜6質量部とを、窒素を含有する還元雰囲気下で焼成することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−254542(P2010−254542A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204748(P2009−204748)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】