説明

窓用合わせガラス及びガラス窓部材

【課題】高い透光性に加え、耐熱衝撃、耐貫通性、気密性に優れるとともに、充分な剛性を有する窓用合わせガラスを提供する。
【解決手段】窓用合わせガラス10は、複数の板ガラス20が樹脂層30を介して積層された多層構造をなし、板ガラス20は無アルカリ硼珪酸ガラスで形成されている。各板ガラス20の厚さはそれぞれ1mm以下であり、全ての板ガラス20の合計厚さは2〜10mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種建造物等の窓材として用いられる窓用合わせガラス、及びこの窓用合わせガラスを含むガラス窓部材に関する。
【0002】
板ガラスは、その透光性や平滑性、気密性等の優れた性能のため様々な用途で使用されている。例えば、各種建造物の窓板ガラスや車のフロントガラスとして、あるいは様々な物品等を陳列するショーケースの透光窓として、さらには電子部品、例えば液晶表示装置やプラズマディスプレイなどの画像表示装置の表示窓として、また電子部品を収納する各種パッケージの窓材として多様な性能を付与された板ガラスが利用されている。このような各種の板ガラスは、板ガラスの強度上の脆さを補うために、複数枚を積層して合わせガラスとして利用される場合がある。合わせガラスは、耐貫通性や強度の点で優れた性能を発揮するため、防犯用窓材として利用されることが多くなってきている。このため、防犯用窓材について多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、防犯を目的とした窓板ガラスとして、ホウ珪酸ガラス製の板ガラスを使用し、それらの相互間に介在させる中間膜としてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライドの共重合体を使用する合わせガラスが開示されている。また、特許文献2には、衝撃性、耐貫通性が良好で防犯性に優れる積層ガラスが開示されており、そこでは、2枚の透明基板をその周辺部に配置されたスペーサを介して重ね併せる積層ガラスにおいて、一方又は双方の透明基板はその板面に接着樹脂層を介して有機樹脂フィルムが積層、接着一体化されたフィルム強化基板となっている。さらに、特許文献3には、耐衝撃性、耐貫通性、防犯性に優れ、かつ接着性が良好であるため耐久性にも優れ、厚さが薄く、しかも製造も容易なフィルム強化ガラスが開示されており、そこでは、板ガラスと有機樹脂フィルムとを、板ガラス側のPVB樹脂を主成分とする第1の接着樹脂層と有機樹脂フィルム側のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を主成分とする第2の接着樹脂層とで積層接着している。また、特許文献4では、建築物の窓やドア用のガラスや車両用の窓ガラスとして好適に使用することのできる軽量で、断熱性、安全性に優れた積層体が開示されており、そこでは、板ガラスがアクリル樹脂面でポリビニルブチラール樹脂を介して接合している。
【特許文献1】特開2006−96612号公報
【特許文献2】特開2002−87849号公報
【特許文献3】特開2003−176159号公報
【特許文献4】特開平6−99547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の合わせ板ガラスは、通常の単体構造の窓板ガラスよりも剛性の高い構造となるため、衝突等によって人体が受ける衝撃は大きくなる。さらに、板ガラス自体が破壊する際に発生する鋭利なガラス破片によって、人体に切創等の負傷が生じるのを回避するのは困難であった。また、合わせガラスは通常、その表裏の透光面がガラス面により構成されることが多く、単体の板ガラスと同様に経時的に表面に微細な傷が生じる心配があると共に、用途によっては経時的な強度低下が懸念される場合もある。
【0005】
一方、近年のバリアフリー構造を有する住環境の全国的な拡がりからも判るように、高齢者や身体障害者であっても安心して日々の生活を送ることが可能となる住環境を実現するということが、時代の要請となっている。このような状況下で、より安心して生活することのできる環境、住空間を求める要望は、消費者から一層大きくなっており、このような住環境を構築する上で、より安心して使用することのできる窓用合わせガラスが求められている。
【0006】
また、板ガラスは、ショーケースとしても有用な材料である。この用途では、板ガラスは内容物への接触を防ぐ壁材としての役割のほか、内容物の美観を損なわない透明度、加えて日常的な接触に耐える強度を有している。そのため、一般的なショーケースでは、厚さ10mm前後の単板の窓板ガラスが用いられている。透明材料であるポリカーボネートなどの樹脂板に比べて耐傷性が高いという点も、ショーケース用窓材として重宝される理由の一つである。一方、近年では、防犯への意識が高まり、警備システムを含めてセキュリティー機構が種々発達してきた。一般の窓よりも数倍厚い単板ガラスは、内容物の展示や閲覧といった通常の使用では割れることはないが、防犯性という点では、破壊時に音が生じる点以外、頼れる点は少ない。通常の建造物であれば、ショーケースが存在する室内に窃盗の侵入を一旦許してしまうと、ハンマーやバールなどの日常的工具によって窓材が簡単に打ち割られてしまい、内容物への接触や持ち出しを簡単に許してしまう危険性がある。よって、ショーケースに適した特性を持ちつつ、防犯性を有する窓材が切望されている。
【0007】
本発明は、高い透光性に加え、耐熱衝撃、耐貫通性、気密性に優れるとともに、充分な剛性を有する窓用合わせガラス、特に防犯性が要求されるショーケースに適した窓用合わせガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の窓用合わせガラスは、複数の板ガラスが樹脂層を介して積層された積層体からなり、表裏の透光面を構成する板ガラスのうち少なくとも一方は無アルカリ硼珪酸ガラスからなり、各板ガラスの厚さはそれぞれ1mm以下であり、複数の板ガラスの合計厚さは2〜10mmであることを特徴とする。
【0009】
本発明において、無アルカリ硼珪酸ガラスとは、実質的にアルカリ金属元素を含有せず、酸化物換算の質量百分率表示で硼素酸化物(B)と珪素酸化物(SiO)の含有量の合計が60%以上であるガラス組成を有するガラスを意味する。ここで、実質的とは、ガラスの製造工程において、溶融ガラスと接触する耐火物やガラス原料中の不純物などから不可避的にガラス中に混入する微量のアルカリ金属元素、例えば酸化物換算の質量百分率表示で1%未満のアルカリ金属元素を含んでいても良いという意味である。
【0010】
各板ガラスの厚さをそれぞれ1mm以下とすることは、合わせガラスの透光面に加わる外力、例えば機械的な衝撃力を弾性的に吸収するために重要である。より高い外力吸収性能の実現には、各板ガラスの厚さをそれぞれ1mm未満とする方が好ましく、より好ましくは0.9mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下とする。
【0011】
本発明において、樹脂層を形成する樹脂は、板ガラス同士を所要の強度で固定できる接着力を有し、かつ、可視光線に対する透過性能と化学的耐久性に優れたものであれば良く、その種類は特に問わない。樹脂層を形成する樹脂は、1種類である必要はなく、必要に応じて複数種の樹脂を混合して使用できる。また、各樹脂層は、1層であっても良いし、樹脂材料が異なる2層以上のものであっても良い。各樹脂層を2層以上にする場合、各層の厚さを同じとしても良いし、異ならせても良い。
【0012】
複数の板ガラスを樹脂層を介して積層する方法は、特に限定されず、例えば、隣接する板ガラス間に液状樹脂を注入した後に樹脂を硬化させる方法、フィルム状樹脂を板ガラス間に挟みこんだ状態で加圧加熱処理を行う方法が挙げられる。
【0013】
表裏の透光面を構成する板ガラスのうち少なくとも一方を形成する無アルカリ硼珪酸ガラスの組成は、板ガラスの所望の機械的性質、耐候性、表面平滑性等を得ることができるものであれば、任意である。例えば、この無アルカリ硼珪酸ガラスの組成は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO+B 60%以上、NaO+KO+LiO 1%以下であり、好ましくはAl 1〜25%、RO(R=Mg+Ca+Sr+Ba+Zn) 2〜30%を含む。また、製造条件を適正範囲内で安定制御し易くする点では、上記の組成範囲において、SiO+B 60〜80%、Al 5〜20%とするのがよい。このようなガラス組成を有するガラスとして、例えば日本電気硝子株式会社が製造する液晶表示装置搭載用の薄板ガラス(商品コード:OA−10、OA−21)がある。
【0014】
表裏の透光面を構成する板ガラスのうち他方は、上記の無アルカリ硼珪酸ガラスで形成しても良いし、所望の性能を確保できる限りにおいて、その他のガラス、例えば、無アルカリガラス、上記とは異なるガラス組成の無アルカリ硼珪酸ガラス又は無アルカリアルミノ硼珪酸ガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、結晶化ガラス、着色ガラス、化学強化ガラス、物理強化ガラス、焼結ガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、無鉛ガラス、グリーンガラス及び網入りガラス等、各種の無機の板ガラスで形成しても良い。また、3枚以上の板ガラスを積層する場合、中間層を構成する板ガラスについても上記の事項が該当する。
【0015】
本発明者の研究によれば、上述のような構成とすることで、人体やその一部が窓用合わせガラスの透光面に直接衝突しても人体が受ける衝撃を低減でき、さらに繰返しの衝突があっても透光面に傷が生じ難い。この性質は、窓用合わせガラスの透光面を構成する板ガラスを無アルカリ硼珪酸ガラスで形成した場合に特に顕著であり、石英ガラスのような単一成分の無アルカリガラスや、パイレックス(登録商標)のようなアルカリ成分を含有するホウ珪酸ガラスでは、このような性質が得られない。また、上記の性質に加えて、特に耐候性等の化学的な耐久性やガラス製造時に得られるガラスの均質性を考慮する場合は、無アルカリアルミノ硼珪酸ガラスを採用するのが好ましい。ガラス組成としてアルミニウム成分を含む方が、溶融時にガラス原料の溶解が容易となり、ガラスの均質度を上げ易く、得られるガラスのガラス表面の耐候性を高くできる。また、均質度の高い方がガラス表面の耐傷性についても向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の窓用合わせガラスは、上記の構成を有するため、人体や動物、または運搬物が不用意に衝突しても、それによってガラスが容易に破損しない。また、衝撃力が窓用合わせガラス合わせガラスの吸収作用によって和らげられるため、人体が受ける衝撃が低減され、負傷の可能性が軽減される。さらに、衝撃吸収によって、ガラス自身が破壊されないため、人体への切創負傷も生じ難い。また、日常の接触によって傷が生じ難いため、長期の使用によっても、美観が維持できる他、破損強度も低下し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の窓用合わせガラスは、上述の構成に加え、樹脂層が熱可塑性樹脂からなり、その層さが0.1〜2mmであれば、より高い衝撃吸収能を発揮できるため好ましい。ここで、0.1〜2mmは、隣接する板ガラス間に介在する各樹脂層の厚さである。
【0018】
窓用合わせガラスにおける各板ガラス及び各樹脂層の厚さは、例えば、ノギス、レーザー計測機、顕微鏡等の計測機器を使用して5点以上計測し、その平均値として求めることができる。
【0019】
各樹脂層の厚みが0.1mmに満たない場合は、衝撃吸収性の低下に加え、板ガラス同士を固定する性能にばらつきが生じ易くなる。この場合、板ガラスと樹脂層の界面に剥がれが生じる等の問題が発生し易くなる。一方、樹脂層の厚みが2mmを超えると、窓用合わせガラスとしての剛性が低くなる場合がある。
【0020】
樹脂層を形成する熱可塑性樹脂は、所望の性能を有し、板ガラスと積層した場合に光学的に高い透過率が得られるものであれば、特に限定されない。例えば、樹脂層を形成する熱可塑性樹脂として、ポリエチレン(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、セルロースアセテート(CA)、ジアリルフタレート樹脂(DAP)、ユリア樹脂(UP)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル(UP)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルアルコール(PVAL)、酢酸ビニル樹脂(PVAc)、アイオノマー(IO)、ポリメチルペンテン(TPX)、塩化ビニリデン(PVDC)、ポリスルフォン(PSF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メタクリル−スチレン共重合樹脂(MS)、ポリアレート(PAR)、ポリアリルスルフォン(PASF)、ポリブタジエン(BR)、ポリエーテルスルフォン(PESF)、又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を使用できる。この中でも、無アルカリ硼珪酸ガラスとの組合せで好ましいものとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリビニルブチラール(PVB)が挙げられる。
【0021】
また、樹脂層を形成する樹脂に、可視光線を透過する添加物を添加しても良い。この添加物としては、例えば、屈折率や分散を適正に調整したガラス、結晶化ガラスなどが挙げられる。
【0022】
また、樹脂層を形成する樹脂に着色剤、赤外線や紫外線などの特定波長光線を吸収する吸収剤を適量配合して、付加的な性能を付与できる。同様な理由で、酸化防止剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤、塗料性改良剤、及び耐電防止剤等の各種添加剤や薬剤なども適量配合できる。
【0023】
本発明の窓用合わせガラスは、上述に加え、板ガラスのビッカース硬度試験によるクラック抵抗率が、ソーダライムシリカガラスの5倍以上であるならば、板ガラス表面に生じた傷等に起因して窓用合わせガラスが破損する虞が小さくなる。
【0024】
ここで、上記のクラック抵抗率は、ビッカース硬度試験で圧子痕から生じるクラック数を計測することで評価できる。このクラック抵抗率は、ガラス表面へのクラックの生成し難さを表す指標として用いられ、別名クラックレジスタンスとも称する。このクラック抵抗率(クラックレジスタンス)の計測方法は、和田らが提案した方法(M.Wada et al.Proc.,the Xth ICG,vol.11,Ceram.Soc.,Japan,Kyoto,1974,p39)に従う。
【0025】
クラック抵抗率(クラックレジスタンス)の測定は、温度25℃、相対湿度30%の空気雰囲気中で行う。測定では、ビッカース硬度試験機の試料ステージ上に清浄な板ガラス透光面を水平に置き、菱形の水平断面外観を有するビッカース圧子を種々の荷重で降下させる(ビッカース圧子:対面角136°のダイヤモンド正四角錐圧子)。圧子を15秒間ガラス表面に押し付けた後は、除荷してガラス表面に形成された圧子痕を観察する。圧子痕の四隅から発生したクラック数を調べ、1つの圧子痕から最大発生し得るクラック数(4個)に対して比率を算出して、クラック発生率を得る。この一連の試験手順は、1つの荷重条件について、20個の試験体を用いて繰返し行う。試験結果は、種々の荷重の試験結果とともに、荷重値とクラック発生率のグラフに示す。そして、そのグラフの近似曲線から、50%のクラック発生率に相当する荷重値を求める。この50%のクラック発生率に相当する荷重値が、クラック抵抗率(R50)となる。クラック抵抗率(R50)は、その値が大きい程、ガラス表面のクラックが生成し難いことを表している。本願発明の窓用合わせガラスは、このクラック抵抗率(R50)が、ソーダライムシリカガラスの5倍以上の値となるものである。
【0026】
上記のクラック抵抗率が、ソーダライムシリカガラスの5倍未満であると、初期強度は充分に高くても長期に亘る使用に耐えない場合もある。
【0027】
クラック抵抗率は、ガラスの構造によって定まる。クラック抵抗率の大きさは、ガラス構造を形成する成分による網目構造の粗密性、およびガラスに外力が加えられた際の網目構造の滑り易さが関係する。網目構造の粗密性へのガラス成分の影響については、アルカリ酸化物やアルカリ土類酸化物が多いと、ガラスの網目構造に在る隙間が減少する。一般的な珪酸を含むガラスでは、酸化ナトリウムや酸化カルシウムという成分を多く含むため、ガラス構造はある程度密になっている。一方、この珪酸ガラスに加わる成分として、酸化アルミニウムや酸化ホウ素といった成分の濃度が高くなると、ガラスの網目構造は、隙間が増えた構造となる。この網目構造の隙間は、外力が加わった場合に、変形を吸収するように緩衝作用を有する。このため、ガラス網目構造に隙間が多いガラスでは、外力が加わっても結合が切断し難く、ビッカース圧子によりクラックが発生し難い。さらに、酸化ホウ素成分を含むガラスにおいては、酸化ホウ素のトライアングル構造が滑りによって動くため、塑性流動によって外力を逃がし易い。一方、珪酸成分のみにより構成されるシリカガラスでは、珪酸の四面体構造が3次元配列を有するため、塑性流動が実質不可能な構造をとる。これらの理由から、ホウ珪酸ガラス、しいては無アルカリのホウ珪酸ガラスでは、外力によってガラスの網目構造が切れ難く、クラック抵抗率は高い。
【0028】
上記のように、クラック抵抗率がソーダライムシリカガラスの5倍以上であることにより、長期に亘りガラス表面に擦傷痕が形成されにくく、そのため擦傷痕に起因する板ガラスの破壊現象が容易に発生し難く、優れた耐久性を維持し続けることができる。同時に、傷の発生防止による美観の低減にも効果がある。また、一般的に用いられる単板窓板ガラスよりも傷が付き難く、加えて衝撃吸収(や耐貫通性)を有するために打ち破りに対しても一定の防犯性を有している。これらの特徴から、本発明の窓用合わせガラスは、特に、長期の美観維持性に加えて防犯性も要求されるショーケース用窓材として優れた性能を発揮する。
【0029】
本発明の窓用合わせガラスは、透光面が略矩形状(正方形又は長方形)の透光面を有し、該透光面の最下端が建造物の床面から2000mm以内に位置するように施工されると、ガラス透光面への生活環境下の様々な衝突現象に対して、有効かつ効果的な防御性能を発揮できるため好ましい。
【0030】
例えば、屋内外の階段の側面やエスカレーター等の側面の採光用窓材として本発明の合わせガラスを施工する場合は、透光面の最下端と階段やエスカレーター等の各踏み段との距離の最大値が2000mm以下であればよい。
【0031】
本発明の窓用合わせガラスは、透光面の辺寸法(透光面が長方形の場合は短辺の寸法)が300〜1500mmの範囲内にあれば、様々な建造物や構築物の窓部材として活用できるため好ましい。
【0032】
本発明の窓用合わせガラスは、JIS R3205に従う落球試験において、JIS B1501に従う1.0kgの鋼球を2400mm上空より落下させた場合に反跳高さが300mm以上となるもの、もしくはJIS B1501に従う2.3kgの鋼球を4800mm上空より落下させた場合に反跳高さが1000mm以上となるものであれば、高い柔軟性を有し、容易にガラスが破損しないため、優れた衝撃吸収能を実現できて好ましい。
【0033】
ここで、上記の反跳高さは、上記の条件で鋼球を窓用合わせガラスに落下させた際に、該鋼球が窓用合わせガラスに対して最初に反跳するときの高さを意味する。このような反跳高さの計測には、巻尺やレーザー計測機等の高さ計測器具を使用できる。ビデオ撮影装置を用いると、反跳高さや反跳の様子を詳細に確認できる。
【0034】
本発明の窓用合わせガラスと、該窓用合わせガラスの端部に設けられた支持部材とでガラス窓部材を構成することができる。支持部材は、例えば、窓用合わせガラスの相対向する端部にそれぞれ設けられる。窓用合わせガラスの水平方向に相対向する端部をそれぞれ支持部材で支持すると共に、上下方向に相対向する端部のうち少なくとも下端部を支持部材で支持するようにしても良い。また、窓用合わせガラスを枠状の支持部材(窓枠)で支持するようにしても良い。
【0035】
上記の支持部材は、プラスチック、ゴム、岩石、金属、ガラス、ガラスセラミックス及び木材の群から選ばれた1以上の材料を用いて構成することができる。例えば、上記の支持部材の材質として、樹脂又はFRP等のプラスチック、天然又は化成のゴム、天然又は人工の岩石、アルミ、鉄合金等の金属、ガラス繊維又は粉末ガラス等のガラス、ガラスセラミックス、天然又は合成の木材を用いることができる。
【0036】
本発明のガラス窓部材は、表裏の透光面のうち少なくとも一方に被覆膜を形成することで、その光学性能や機械性能を微調整できる。
【0037】
上記の被覆膜は、反射防止膜(ARコートともいう)、赤外線反射膜(又は赤外線カットフィルター)、無反射膜、導電膜、帯電防止膜、ローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドパスフィルター、遮蔽膜、強化膜、保護膜などである。表裏の透光面にそれぞれ被覆膜を形成する場合、両透光面の被覆膜は相互に同一種類であっても、異なる種類であっても良い。また、上記の被覆膜は、同一又は異なる機能を有する複数の膜層で多層構造しても良い。
【0038】
上記被覆膜の材質として、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、酸化タンタル(又はタンタラ)(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化クロム(Cr)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化バナジウム(VO)、酸化チタンジルコニウム(ZrTiO)、硫化亜鉛(ZnS)、クリオライト(NaAlF)、チオライト(NaAlF1)、フッ化イットリウム(YF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化バリウム(BaF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ランタン(LaF)、フッ化ガドリニウム(GdF)、フッ化ディスプロシウム(DyF)、フッ化鉛(PbF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)膜、酸化インジウム−スズ膜(ITO膜)、SiOとAlの多層膜、SiOx−TiOx系多層膜、SiO−Ta系多層膜、SiOx−LaOx−TiOx系列の多層膜、In−Y固容体膜、アルミナ固容体膜、金属薄膜、コロイド粒子分散膜、ポリメチルメタクリレート膜(PMMA膜)、ポリカーボネート膜(PC膜)、ポリスチレン膜、メチルメタクリレートスチレン共重合膜、ポリアクリレート膜等の組成を有するものを使用できる。
【0039】
被覆膜の形成方法については、所定の表面精度、機能を実現でき、製造に要する費用について支障のない方法であれば各種の方法を採用できる。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、熱CVD法、レーザーCVD法、プラズマCVD法、分子線エピタキシー法(MBE法)、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、有機金属化学気相成長法(MOCVD)等の化学的気相成長法(またはCVD法)、さらにゾル−ゲル法、スピンコーティングやスクリーン印刷の塗布法、メッキ法等の液相成長法を採用できる。ただし、この中でもCVD法は、低温で密着性の良い被覆膜が形成でき、種々の被膜に対応可能で化合物の被膜形成にも適しているため、好ましい。
【0040】
さらに、樹脂フィルムなどの表面保護膜を窓用合わせガラスの全表面又は一部表面に設けても良い。
【実施例1】
【0041】
図1に、実施例に係る窓用合わせガラスの部分断面図を示す。この窓用合わせガラス10は、複数の板ガラス20が樹脂層30を介して積層された多層構造をなしている。各板ガラス20の厚さはそれぞれ0.7mmであり、全部の板ガラス20(この例では3枚)の合計厚さは2.1mmである。また、各板ガラス20はそれぞれ無アルカリ硼珪酸ガラス、特に無アルカリアルミノ硼珪酸ガラスからなり、その組成は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO+B 60%以上、Al 5〜20%、RO(R=Mg+Ca+Sr+Ba+Zn) 2〜30%、NaO+KO+LiO 1%以下である。樹脂層30は隣接する板ガラス20間に介在し、各樹脂層30の厚さは0.3mmである。この実施例において、樹脂層30はエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる。
【0042】
図2は、図1の窓用合わせガラス10を使用したガラス窓部材50を示している。窓用合わせガラス10の透光面20aは短辺が800mmの長方形をなし、その4つの角部は半径30mmのR面加工が施されている。このガラス窓部材50、例えば、マンション1階ロビーの採光用窓や換気用窓として利用され、透光面20aの最下端(長辺)が床面から100mmの高さ位置になるように施工される。
【0043】
窓用合わせガラス10の両側端部にはそれぞれアルミニウム製の支持部材51が設けられている。支持部材51は、コ字形の装着部51bと、装着部51bの基部の外面側に設けられた軸部51aとを備え、装着部51bの両側部で窓用合わせガラス10の側端部を挟持している。支持部材51は、例えば、装着部51bを窓用合わせガラス10の側端部に装着した後、装着部51bの両側端部をそれぞれ透光面20aに加締めることによって、側端部に固定される。これにより、窓用合わせガラス10の側端部は、厚さ方向に圧縮応力が与えられた状態で、支持部材51によって挟持される。このガラス窓部材50は、図示されていない壁面の開口部に設けられた受け治具に対して、支持部材51の軸部51aを回動軸として回動自在に取り付けられる。このような構造は、採光に加えて除湿や除塵も可能であるため、マンションの住環境を快適に維持管理するのに有用である。
【0044】
図3は、図1の窓用合わせガラス10を使用した他のガラス窓部材60を示している。このガラス窓部材60は、窓枠状の支持部材、例えばアルミニウム製のフレーム61を備えており、換気等を必要としない場合に施工される。具体的には、モルタル壁面等に設けた溝(図示省略)に嵌め込まれる。支持部材としてのフレーム61は、断面コ字形の装着溝30を備えており、窓用合わせガラス10はこの装着溝30に装着されて保持される。ここでは、アルミ製フレーム61を使用したが、木枠、硬質ゴム枠、ガラス枠、ガラスセラミックス枠、岩石枠あるいはFRP製の枠体であっても使用可能であり、住環境に合わせた意匠性を加味した設計を採用できる。
【0045】
上記のガラス窓部材50、60は、例えば、マンション1階ロビーのように人の往来がある場所で、腰より下方に配置された状態で施工される。そのため、窓用合わせガラス10の透光面20aに傷等が生じやすい環境だが、無アルカリ硼珪酸ガラスからなる薄板ガラス20を採用しているため、破損要因となる傷が生じ難く、長期使用でも強度低下が起こり難い。また、このような施工場所では、歩行中に誤って足で透光面20aを蹴ってしまうことも起こり得るが、窓用合わせガラス10はそのような人体からの衝撃があっても、破損することがなく、また、人体についても、打撲などの傷害が起こり難く、安全である。
【0046】
このように、実施例に係る窓用合わせガラス10は、人体などによる衝撃に対して優れた性能を示す。そのため、一般の住宅以外にも、ホテルや飲食店、病院、学校、駅校舎等の公共建造物や老人ホームや養護施設等の福祉関連建造物など、安全性が強く要望される場所や設備では、特に利用価値が高い。
【実施例2】
【0047】
窓用合わせガラスについて行った性能評価試験、および得られた結果について示す。
【0048】
まず、日本電気硝子株式会社製のOA−10材質からなる所定寸法の板ガラス(0.7mm板厚及び0.5mm板厚)を用意し、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリビニルブチラール(PVB)の所定厚さの樹脂を挟んで積層した。OA−10材質の板ガラスとして、液晶表示装置として一度組み立てられた板ガラスのリサイクル品も利用できる。このリサイクル利用では、洗浄工程で表面の汚れや付着物を除く必要がある。OA−10材質のガラス板を新たに製造する場合には、原料調合、溶融、均質化を経て、オーバーフローダウンドロー法等の成形によって寸法精度の高い板ガラスを得る必要がある。
【0049】
次に、窓用合わせガラスのヤング率の測定について述べる。測定は、3点曲げ試験装置を用いて行う。今回の評価では、3点曲げ計測装置として、島津製作所製強度試験装置を使用した。測定条件としては、常温常圧の環境、支点間距離120mm、クロスヘッド速度0.5mm/minを採用した。
【0050】
表1に、ヤング率の測定結果を示す。表1には、各試料について、板ガラスの単体厚さ(1枚の板厚)、積層枚数(層数)、合計厚さ(総厚寸法)、樹脂層の材質、各樹脂層の厚さ(一層の厚み)、層数を示した。実施例としては、試料No.1から試料No.14まで、計14個の試験体の結果を示している。比較例としては、試料No.101から試料No.103まで、計3個の試験体の結果を示している。
【0051】
【表1】

【0052】
また、窓用合わせガラスの衝撃吸収性の評価するために、JIS R3205に従う落球試験を行った。JIS B1501に従う鋼球(直径64mmで質量1.0kgのもの、あるいは直径83mmで質量2.3kg)を610mm角の透光面を有する窓用合わせガラス上へと落下させて、反跳高さを計測した。落下させた鋼球の反跳高さについては、目視による計測を行い、VTRを利用して高さデータの確認も行った。試験を行うに際しては、610mm角の透光面を有する窓用合わせガラスを鉄製金属枠に水平に固定した。剛球は、窓用合わせガラスの610mm角の透光面の中心から半径25mm以内の位置に落下するように試験体の上方に保持し、自由落下させて試験を行った。鉄製金属枠は、外寸600mm角、内寸570mm角、高さ150mmであり、底面には660mm角の鉄板が溶接されている。この鉄製金属枠は、水平床面上の3mm厚のゴム板上に載置した。これらの条件において、衝撃吸収性を評価した。
【0053】
落球試験は、1.0kgの鋼球を、高さ50cm、80cm、100cm、120cm、150cm、190cm、240cm、300cm、380cm及び480cmから落下させて行った。この1.0kgの剛球落下で貫通が起こらなかった場合、2.3kgの鋼球による落球試験を引き続き行った。
【0054】
表2に、落球試験の評価結果を示す。表2には、各試料について、板ガラスの単体厚さ(1枚の板厚)、積層枚数(層数)、合計厚さ(総厚寸法)、樹脂層の材質、各樹脂層の厚さ(一層の厚み)、層数を示した。実施例として、試料No.15と試料No.16の試験体の結果を示している。比較例として、試料No.102と試料No.104の結果を示している。
【0055】
【表2】

【0056】
また、窓用合わせガラスに使用した日本電気硝子株式会社製のOA−10材質の板ガラスについて、その透光面のクラック抵抗性を評価した。評価は、ビッカース硬度試験装置を用いた。今回用いた装置は、松沢精機株式会社製の微小硬度計MTX−50であり、JIS Z2251微小硬さ試験に使用可能な性能を有している。測定は、温度25℃、相対湿度30%の空気雰囲気中で行った。
【0057】
クラック抵抗率は、クラックレジスタンスとも呼ばれる。測定では、試験ステージ上にガラス表面が水平になるように試験体を置き、その表面にビッカース圧子を種々の荷重で押し付ける。押付け荷重は100g、500g、1000g及び2000gで、押付け時間はそれぞれ15秒間とした。同じ条件の試験体20枚について、同手順の操作を行った。試験体表面に残った菱形の圧子痕について、その四隅から発生したクラック数を100倍の実体顕微鏡を用いて計測した。20枚の試験体については全部で80箇所の圧子痕隅があり、それに対してクラック発生数を求めて、クラック発生率を求めた。
【0058】
図4に、各荷重での測定で得たクラック発生率を示す。図4からクラック発生率50%となる荷重値を読み取り、これをクラック抵抗率(R50)とする。表3に試験体のクラック抵抗率(R50)を示す。ここでは、上記のOA−10に加えて、比較例として、通常のホウ珪酸ガラスであるパイレックス(登録商標)、窓板ガラスとして使用されるソーダライムシリカガラス(略称:ソーダ板)についても計測を行った。
【0059】
【表3】

【0060】
上記の一連の評価結果を総括する。表1のヤング率の評価結果から、実施例の窓用合わせガラスは、ヤング率が20GPa以下と低く、柔らかい構造であるといえる。表2の落球での反跳高さ評価では、高さ240cmから落下させた1.0kgの鋼球が50〜60cmまで跳ね上がり、高さ480cmから落下させた2.3kgの鋼球が150cmまで跳ね上がっている。これは、衝突体を跳ね返す性能に優れていることを示す。表3のラック抵抗率(R50)では、1000gを超える非常に高い値を示し、他のガラスとは大きく異なっている。この結果は、ガラス表面の傷に対する抵抗性能が高いことを示している。これらの結果をまとめると、実施例の窓用合わせガラスは、加えられた衝撃を吸収することで破損され難く、衝撃体にも大きなダメージを負わせず、傷も受け難いという秀逸な性能を発揮するものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例に係る窓用合わせガラスの部分断面図である。
【図2】実施例に係るガラス窓部材の斜視図である。
【図3】実施例に係る他の形態のガラス窓部材の斜視図である。
【図4】荷重とクラック発生率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
10 窓用合わせガラス
20 板ガラス
20a 透光面
30 樹脂層
50、60 ガラス窓部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板ガラスが樹脂層を介して積層された窓用合わせガラスであって、
表裏の透光面を構成する前記板ガラスのうち少なくとも一方は無アルカリ硼珪酸ガラスからなり、
前記各板ガラスの厚さはそれぞれ1mm以下であり、前記複数の板ガラスの合計厚さは2〜10mmであることを特徴とする窓用合わせガラス。
【請求項2】
前記樹脂層は熱可塑性樹脂からなり、その厚さは0.1〜2mmであることを特徴とする請求項1に記載の窓用合わせガラス。
【請求項3】
前記板ガラスのビッカース硬度試験によるクラック抵抗率が、ソーダライムシリカガラスの5倍以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窓用合わせガラス。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の窓用合わせガラスと、該窓用合わせガラスの端部に設けられた支持部材とを備えたことを特徴とするガラス窓部材。
【請求項5】
前記支持部材が、プラスチック、ゴム、岩石、金属、ガラス、ガラスセラミックス及び木材からなる群から選ばれた1以上の材料で構成されていることを特徴とする請求項4に記載のガラス窓部材。
【請求項6】
前記窓用合わせガラスの表裏の透光面のうち少なくとも一方に、被覆膜が形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のガラス窓部材。
【請求項7】
ショーケース用窓部材として用いられる請求項4から請求項6の何れかに記載のガラス窓部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−308400(P2008−308400A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126008(P2008−126008)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】