説明

立方晶窒化硼素焼結体

【課題】焼結金属や鋳鉄などの金属の切削加工において、耐摩耗性に優れた立方晶窒化硼素焼結体を提供する。
【解決手段】立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して88〜97体積%と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Alの金属、炭化物、窒化物、酸化物、硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の結合相:残部とからなり、結合相厚みの平均値は0.1〜1.0μmである立方晶窒化硼素焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立方晶窒化硼素焼結体に関し、その中でも特に焼結金属や鋳鉄などの切削工具として好適な立方晶窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのバルブシート材、ギア材部品などに焼結金属を使用することが増加している。焼結金属は難削材として知られており、これらを切削加工するために立方晶窒化硼素焼結体を切削工具として用いることが多い。また、鋳鉄を高速で切削する場合にも立方晶窒化硼素焼結体を切削工具として用いることが多い。
【0003】
立方晶窒化硼素焼結体の従来技術としては、cBNを結合相で焼結した焼結体であって、cBNの含有率が体積%で45−70%で、cBN粒子の平均粒度が0.01以上2μm未満であり、結合相厚みの平均値が1.0μm以下で、その標準偏差が0.7以下であることを特徴とするcBN焼結体がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、cBNを40〜70wt%含有し、残部が結合相の焼結体において、cBNの粒径が0.01μm以上0.40μm以下であって、かつ、結合相厚みの平均値が0.10μm以上0.70μm以下であることを特徴とする超微粒cBN基焼結体がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−44347号公報
【特許文献2】特開2002−302732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
焼結金属や鋳鉄などの金属の切削加工に立方晶窒化硼素焼結体を切削工具として使用すると、立方晶窒化硼素焼結体中の結合相が選択的に摩耗する。結合相が選択的に摩耗すると立方晶窒化硼素粒子を保持できず立方晶窒化硼素粒子が脱落し摩耗が進行する。
【0007】
このような切削加工においては、cBNの含有率が体積%で45−70%で、cBN粒子の平均粒度が0.01以上2μm未満であり、結合相厚みの平均値が1.0μm以下であるcBN焼結体は、cBN焼結体の結合相が選択的に摩耗し、工具寿命が短くなるという問題があった。
【0008】
また、cBNを40〜70wt%含有し、残部が結合相の焼結体において、cBNの粒径が0.01μm以上0.40μm以下であって、かつ、結合相厚みの平均値が0.10μm以上0.70μm以下である超微粒cBN基焼結体は、結合相が微粒化しているため耐摩耗性は向上しているが、さらなる工具寿命延長の要求には答えられなくなってきた。そこで、本発明は焼結金属や鋳鉄などの金属の切削加工において、耐摩耗性に優れた立方晶窒化硼素焼結体の提供を目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性を向上させる研究を行ったところ、結合相厚みの平均値をできる限り小さくすること、および、立方晶窒化硼素の含有量を多くすることによって、耐摩耗性が向上し工具寿命を延長できるという知見を得て本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して88〜97体積%と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Alの金属、炭化物、窒化物、酸化物、硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の結合相:残部とからなり、結合相厚みの平均値は0.1〜1.0μmである。
【0010】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して88〜97体積%と、結合相:残部とからなる。本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素が88体積%未満であると耐摩耗性が低下し、97体積%を超えると相対的に結合相が減少して焼結性が低下する。そこで立方晶窒化硼素の含有量を88〜97体積%とした。その中でも、立方晶窒化硼素の含有量は93〜95体積%であるとさらに好ましい。
【0011】
本発明の結合相は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Alの金属、炭化物、窒化物、酸化物、硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種からなる。本発明の結合相は立方晶窒化硼素を結合して耐摩耗性を高くする作用がある。その中でも結合相は、W、Co、Alの金属、炭化物、窒化物、酸化物、硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種からなるとさらに好ましい。
【0012】
本発明の結合相厚みの平均値は0.1〜1.0μmとした。これは、結合相厚みの平均値が1.0μmを超えて大きくなると、結合相が選択的に摩耗するため耐摩耗性が低下し、結合相厚みの平均値を0.1μm未満にすると工具の強度低下を招くためである。
【0013】
結合相厚みの平均値を0.1〜1.0μmにするためには、立方晶窒化硼素を平均粒径1.0μm以下の微粒にするとよい。しかしながら結合相が少なく立方晶窒化硼素が微粒であると焼結性が低下する傾向がみられる。微粒立方晶窒化硼素に適切な量の粗粒立方晶窒化硼素を添加すると焼結性が向上する。すなわち、本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素は、粒径が0.01〜1.0μmの微粒立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して34〜62体積%と、粒径が1.0μm超〜10μmの粗粒立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して26〜63体積%とからなり、微粒立方晶窒化硼素と粗粒立方晶窒化硼素との合計は、立方晶窒化硼素焼結体全体に対して88〜97体積%となるようにすると、結合相厚みを薄く、焼結性を上げることができるため、さらに好ましい。これは、粒径が0.01〜1.0μmの微粒立方晶窒化硼素が62体積%を超えて多くなると、または、粒径が1.0μm超〜10μmの粗粒立方晶窒化硼素が26体積%未満になると焼結性が低下し、粒径が0.01〜1.0μmの微粒立方晶窒化硼素が34体積%未満になると、または、粒径が1.0μm超〜10μmの粗粒立方窒化硼素が63体積%を超えて多くなると、結合相厚さの平均値を1.0μm以下にすることが困難になるためである。
【0014】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法としては、平均粒径0.01〜1.0μmの微粒立方晶窒化硼素粉末と、平均粒径1.5〜10μmの粗粒立方晶窒化硼素粉末と、結合相粉末とを用意し、次に、微粒立方晶窒化硼素粉末:30〜70体積%、粗粒立方晶窒化硼素粉末:20〜65体積%、ただし微粒立方晶窒化硼素粉末と粗粒立方晶窒化硼素粉末との合計が88〜97体積%、残りが結合相粉末となるように混合粉末を配合して湿式混合等によって混合し、得られた混合粉末を金属カプセルに充填した後、超高圧発生装置の容器内に装入し、圧力6〜7GPa、温度1600〜1700℃、保持時間10〜60分という条件で焼結する方法を挙げることができる。
【0015】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体の用途の一つとして、切削工具を挙げることができる。その中でも焼結金属用立方晶窒化硼素焼結体切削工具または鋳鉄用立方晶窒化硼素焼結体切削工具として用いると、耐摩耗性に優れ、工具寿命を延長できるため、さらに好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、金属の切削加工において優れた耐摩耗性を示す。その中でも特に焼結金属切削加工または鋳鉄切削加工において優れた耐摩耗性を示す。その結果として従来の立方晶窒化硼素焼結体より工具寿命を延長できる。
【実施例】
【0017】
表1に示す粒度分布を持つ立方晶窒化硼素(以下cBNと称す。)粉末を用意し、平均粒径2μmのWC粉末、平均粒径2μmのTiN粉末、平均粒径1.5μmのCo粉末、平均粒径4μmのAl粉末を用意する。体積比でWC:Co:Al=2:7:5となるように結合相粉末Aを配合し、体積比でTiN:Al=5:2となるように結合相粉末Bを配合した。さらに表1のcBN粉末と結合相粉末A,Bとを表2の配合組成に配合した。配合した混合粉末を湿式混合し、混合後に乾燥した混合粉末を金属カプセルに充填した後、超高圧発生装置の容器内に装入し、圧力6.5GPa、温度1650℃、保持時間30分の焼結条件で焼結し、発明品1〜4および比較品1〜3を得た。なお、比較品1は特開2000−44347号公報の特許請求の範囲に含まれる。比較品2は特開2002−302732号公報の特許請求の範囲に含まれる。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
得られた焼結体は研磨して、電子顕微鏡にて3000倍で写真撮影したところ、cBN粒子と結合相が観察された。この写真において任意の直線を引き、cBNの粒径および結合相厚さを測定した。また、電子顕微鏡および付属のEDS,WDSを用いて、cBNの粒径、cBNの含有量(体積%)、結合相の含有量(体積%)を測定し、組織の均一性を確認した。これらの結果は表3、4に示した。また、試験荷重:4.90N、荷重保持時間:15秒の試験条件でヌープ硬さ(Hk)測定を行い、その結果を表4に示した。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
得られた焼結体は、超硬合金基材に銀ロウ(45Ag−30Cu−25Zn、以上重量%)を介して接合し、所定の切削工具形状に研磨加工した。得られた切削工具について切削試験を行った。切削試験結果は表5および表6に示す。
【0024】
[切削試験1]
被削材:0.5Ni−0.5Mo−0.5C−0.2Mn−残Fe(以上重量%)のギア材用焼結金属(HRA69)
形状:TNGA160412
切削速度:Vc=100m/min
切り込み:ap=0.15mm
送り:f=0.15mm/rev
工具寿命の判定基準:コーナ摩耗量VBcが0.3mmに達したとき工具寿命とした。
【0025】
【表5】

【0026】
表5によると、比較品1〜3は発明品1〜4よりも工具寿命に至るまでの加工数が少なかった。これに対して発明品1〜4は耐摩耗性が良好で長寿命であった。
【0027】
[切削試験2]
被削材:FC220
形状:CNGA120412
切削速度:Vc=800m/min
切り込み:ap=0.5mm
送り:f=0.3mm/rev
工具寿命の判定基準:コーナ摩耗量VBcが0.3mmに達したとき工具寿命とした。
【0028】
【表6】

【0029】
表6によると、比較品1〜3は発明品1〜4よりも工具寿命に至るまでの加工数が少なかった。これに対して発明品1〜4は耐摩耗性が良好で長寿命であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して88〜97体積%と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Alの金属、炭化物、窒化物、酸化物、硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の結合相:残部とからなり、結合相厚みの平均値は0.1〜1.0μmである立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
結合相は、W、Co、Alの金属、炭化物、窒化物、酸化物、硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種からなる請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
立方晶窒化硼素は、粒径が0.01〜1.0μmの微粒立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して34〜62体積%と、粒径が1.0μm超〜10μmの粗粒立方晶窒化硼素:立方晶窒化硼素焼結体全体に対して26〜63体積%とからなり、微粒立方晶窒化硼素と粗粒立方晶窒化硼素との合計は、立方晶窒化硼素焼結体全体に対して88〜97体積%である請求項1または2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
立方晶窒化硼素焼結体は、焼結金属用立方晶窒化硼素焼結体切削工具として用いられる請求項1〜3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
立方晶窒化硼素焼結体は、鋳鉄用立方晶窒化硼素焼結体切削工具として用いられる請求項1〜3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。

【公開番号】特開2006−315898(P2006−315898A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139285(P2005−139285)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【Fターム(参考)】