説明

筐体、筐体部品およびその製造方法

【課題】発熱体からの放熱をさらに促進し、高温環境でオイルと接触しても確実に放熱を促進できる、発熱体を収容するための筐体およびその部品を提供する。
【解決手段】窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子からなるフィラーが分散し、フィルム内においてフィラーの長軸がフィルムの厚さ方向に配向し、フィラーの配向状態が固定されるように乾燥させたポリアミック酸フィルムを、金属製の筐体部品本体の表面上に直接配置した状態で筐体部品本体とともに加熱することにより、フィルム中のポリアミック酸をイミド転化させてフィルムをポリイミドフィルムとするとともに、フィルムと筐体部品本体との間の接合を強化して、筐体部品10を製造する。放熱フィルム1,2が筺体30の内部空間および/または外部空間に面するように筺体部品10,20を組み立てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージおよび電池などの発熱体の収容に適した筐体、その部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子マトリックス中にフィラーを分散させた熱伝導フィルムを用いて発熱体からの放熱が促進される技術が知られている。フィラーは熱伝導率を高めるために添加される。カーボンファイバーのように磁化に異方性を有するフィラーは、磁界中で磁気トルクを受けて回転し、一方向に配向する。これを利用して、磁界の印加によりフィラーをフィルムの厚さ方向に配向させ、この方向についてのフィルムの熱伝導率を引き上げることが提案されている(特許文献1,2)。
【0003】
特許文献1では、フィラーを分散させた高分子組成物を金型のキャビティ内に注入して板状の熱伝導体が成形される。この熱伝導体は、キャビティ内において高分子組成物に磁界を印加してフィラーを配向させてから、高分子組成物を硬化させることにより製造される。この熱伝導体は、発熱体である半導体パッケージと、ヒートシンク、熱拡散板などの放熱部材との双方に接するように配置して使用される。
【0004】
特許文献2には、扁平状反磁性フィラーおよび針状反磁性フィラーを分散させて熱伝導率を向上させた熱伝導フィルムが開示されている。これらのフィラーは、磁界の印加によりフィルムの厚さ方向に配向した状態で分散している。このフィルムも、発熱体である半導体パッケージと放熱部材とを熱的に接続するために開発されたものである。
【0005】
このように、高分子マトリックス中にフィラーを分散させた熱伝導フィルムは、発熱体から放熱のための部材への熱伝導を促進する役割を果たしてきた。
【0006】
ところで、半導体パッケージおよび電池のような発熱体は、しばしば筺体内に収容して用いられる。発熱体を収容した筐体内は高温に至るため、筐体からの放熱を促進する技術が求められている。
【0007】
特許文献3には、筐体(容器ケース)からの放熱を促進するために、フィラーを含む被覆層を形成する技術が開示されている(請求項6)。被覆層は、輻射による放熱を促進するために筐体の内面または外面に配置される(段落0017)。被覆層は、予め作製したフィルムに粘着剤を用いて粘着層を形成し、この粘着層を介して筐体に貼り付けたり(段落0014)、フィラーを含む塗料を筐体に直接塗布し、塗料を乾燥させたりすること(段落0015)によって配置される。塗料を構成するバインダー樹脂としては、スチレン・ブタジエン樹脂、ブチルゴム、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が挙げられている(段落0016)。また、特許文献3では、遠赤外線の放射率に優れたフィラー、具体的には、無機酸化物およびケイ酸塩化合物からなる群から選択される少なくとも一種の粒子を用いることとされている(請求項1,6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−363421号公報
【特許文献2】特開2009−010296号公報
【特許文献3】特開2009−087875号公報(請求項1,6、段落0014−0017,実施例の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3は、熱伝導のみに頼ることなく、発熱体を収容した筐体からの放熱に適した技術を開示するものとして注目に値する。しかし、特許文献3に開示されている技術は、放熱の程度において改善の余地を残すものとなっている。また、特許文献3に開示されている技術は、厳しい環境下、例えば高温のオイルとの接触、長期間にわたる振動などを考慮するべき条件の下で使用される筐体からの放熱を確実に促進するという観点からも改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明は、発熱体からの放熱をさらに促進することが可能であるとともに、高温環境でオイルと接触するような過酷な環境の下において確実に放熱を促進できる、筐体およびその部品を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、上記筺体部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、その一側面から、
発熱体を収容するための筐体の一部を構成する筐体部品の製造方法であって、
窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子からなるフィラーが分散し、フィルム内において前記フィラーの長軸がフィルムの厚さ方向に配向しており、前記フィラーの配向状態が固定されるように乾燥させたポリアミック酸フィルムを、金属製の筐体部品本体の表面上に直接配置した状態で前記筐体部品本体とともに加熱することにより、前記フィルム中のポリアミック酸をイミド転化させて前記フィルムをポリイミドフィルムとするとともに、前記フィルムと前記筐体部品本体との間の接合を強化する工程を具備する、筐体部品の製造方法、を提供する。
【0012】
本発明は、その別の側面から、
発熱体を収容するための筐体の一部を構成する筐体部品であって、
放熱フィルムと、金属製の筐体部品本体とを備え、
前記放熱フィルムが、窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子であるフィラーが分散したポリイミドフィルムであり、
前記放熱フィルム内において前記フィラーの長軸が前記放熱フィルムの厚さ方向に配向しており、
前記放熱フィルムが、前記筐体部品本体の表面に直接接合している、筐体部品、を提供する。
【0013】
本発明は、別の側面から、
発熱体を収容するための筐体であって、
放熱フィルムと、金属製の筐体本体とを備え、
前記放熱フィルムが、窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子であるフィラーが分散したポリイミドフィルムであり、
前記放熱フィルム内において前記フィラーの長軸が前記放熱フィルムの厚さ方向に配向しており、
前記放熱フィルムが、前記筐体本体の表面に直接接合しており、
前記放熱フィルムが、前記筐体の内部空間または外部空間に面するように配置されている、筐体、を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による放熱フィルムでは、熱伝導特性に優れたフィラーがフィルムの厚さ方向に配向しているため、放熱フィルムの厚さ方向の熱伝導率が向上している。また、放熱フィルムと筐体本体または筐体部品本体とが直接接しているため、放熱フィルムと筐体(部品)本体との間に熱抵抗となる粘着層などが介在している場合と比較して、放熱フィルムと筐体(部品)本体との間における熱伝導が促進される。放熱フィルムからの放熱量またはこのフィルムの吸熱量は、その放熱または吸熱が輻射によるものであっても、放熱フィルムと筐体(部品)本体との間の熱伝導により律速されることがある。このため、熱伝導を促進すれば、放熱フィルムを介して放熱される熱量を制限する要素が排除されることになり、筺体の放熱特性が向上する。
【0015】
また、本発明では、耐熱性に優れた樹脂であるポリイミドを放熱フィルムの材料として用いるとともに、放熱フィルムと筐体本体または筐体部品本体とが直接結合している。このため、例えば筺体が車両内に設置されて、高温のオイルが接触しても、放熱フィルムが筐体から脱落せず確実に保持される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の筐体の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明の筐体の別の一形態を示す断面図である。
【図3】本発明の筐体のまた別の一形態を示す断面図である。
【図4】本発明の筐体のさらに別の一形態を示す断面図である。
【図5】本発明の筐体のまたさらに別の一形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、本発明の一形態では、放熱フィルム1が、筐体30を構成する筐体部品(筺体部品本体)10の表面に、筐体30の内部空間に面するように、言い換えればフィルム表面が内部空間に露出するように配置されている。筐体30は、筐体部品10を含む2以上の筐体部品10,20が接続して構成されている。筐体30の内部には、発熱体40が収容されている。ここでは、発熱体40として、リチウムイオン二次電池の単電池41,42・・・が組み合わされた組電池を示しているが、発熱体40がこれに限られるわけではない。
【0018】
筺体部品(筺体部品本体)10,20は、金属製の部材であるが、そのすべてが金属から構成されている必要はなく、樹脂その他の材料からなる付属品を備えていてもよい。筺体部品10,20は、例えば、部品同士の接続部における液密性を保持するために、樹脂製部材をその端部近傍に備えていても構わない。
【0019】
筺体部品(筺体部品本体)10,20を構成する金属としては、アルミニウム、ステンレスなどを挙げることができる。アルミニウムは、軽量で耐久性に優れ、筺体部品10,20に適した金属である。また、アルミニウム部材の表面は、保護酸化膜に覆われており、この保護酸化膜には、ポリアミック酸の官能基と反応する水酸基が豊富に含まれる。ポリアミック酸との化学反応を進行させる上でも、筺体部品(筺体部品本体)はアルミニウム製であることが好ましい。
【0020】
放熱フィルム1は、窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子であるフィラーが分散したポリイミドフィルムである。これらの粒子が混在する粉末をフィラーとして用いても構わない。窒化ホウ素粒子およびカーボン粒子のような異方性磁化率を有するフィラーは、磁界を印加すると、磁気トルクを受けて粒子の長軸が磁界の方向に配向する。このため、フィラーが配向可能である程度にフィルムを構成する材料が流動性を有している間にフィルムの厚さ方向に沿って磁界を印加すると、粒子の長軸をフィルムの厚さ方向に配向させることができる。フィラーの配向により、放熱フィルム1の厚さ方向の熱伝導率は、フィルムの膜面方向の熱伝導率よりも大きくなる。言い換えると、厚さ方向の熱伝導率が膜面方向の熱伝導率よりも有意に大きいことは、フィラーが厚さ方向に沿って配向していることを示している。ここで、有意に大きいとは、具体的には、20%以上大きいことを意味する。
【0021】
放熱フィルム1の厚さ方向についての熱伝導率は1.5W/mK以上、さらには2.0W/mK以上、特に2.2W/mK以上であることが好ましい。放熱フィルム1の厚さがごく薄い場合であっても、フィルム厚さ方向についての熱伝導率は筐体の放熱特性に大きな影響を及ぼす。
【0022】
放熱フィルムの厚さは20μm〜500μmが好ましい。薄すぎると赤外線を放射または吸収する特性が低下し、厚すぎるとフィルムの蓄熱量が過大となる。
【0023】
放熱フィルム1の赤外線放射(吸収)特性は、2μm〜14μmの波長域における赤外線吸収率により表示して、80%以上、さらには83%以上、特に85%以上が好ましい。
【0024】
フィラーとしては、熱伝導特性に優れ、磁界を印加することにより回転するフィラー、具体的には窒化ホウ素粒子およびカーボン粒子が適している。窒化ホウ素粒子としては、六方晶窒化ホウ素粒子を用いることが好ましい。カーボン粒子は、ピッチ系、PAN系および気相成長系などの各種カーボンファイバーに加え、カーボンナノチューブなどを用いることができる。これらの非球状粒子は、磁界の印加によって磁気トルクを受け、その長軸が磁界の方向に沿って配向する。
【0025】
フィラーは、ポリイミドフィルムにおいて、10〜70体積%、さらには15〜60体積%、特に20〜50体積%を占めることが好ましい。フィラーの添加量が少ないと熱伝導率および赤外線放射特性が十分に大きくならない。フィラーの添加量が多すぎるとフィルムの機械的強度が低下する。この範囲の量で含ませるためには、フィラーは、ポリアミック酸溶液に、この溶液の固形分に対して上記範囲の比率となるように添加するとよい。
【0026】
以下、放熱フィルム1を金属製の筐体部品本体の表面上に形成する方法を説明する。
【0027】
放熱フィルムは、フィラーを分散したポリアミック酸(ポリアミド)溶液を塗布液として形成することができる。この溶液は、酸二無水物とジアミンとを溶媒中で重合反応させて調製すればよい。
【0028】
好ましい酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0029】
好ましいジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパンが挙げられる。
【0030】
溶媒としては、溶解性などの観点からは有機極性溶媒、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホンが挙げられる。溶媒は、単独で用いてもよく、複数種類を併せて用いてもよい。なお、水が存在するとポリアミック酸が加水分解して低分子量化するため、ポリアミック酸の合成および保存は無水環境下で行うことが好ましい。
【0031】
溶媒中のモノマー濃度(溶媒における酸二無水物(a)およびジアミン(b)の合計量(a+b)の濃度)は5〜30重量%が好ましい。モノマーの反応温度は、80℃以下、さらには5〜50℃が好適である。
【0032】
ポリアミック酸溶液の粘度は、1〜1000Pa・s、特に5〜500Pa・sとすることが好ましい。粘度が低すぎると、塗布層を形成するときに溶液のハジキなどが生じやすくなる。粘度が高すぎると、塗布液のレべリング性などが低下する。
【0033】
ポリアミック酸溶液に、フィラーを添加し、公知の方法によって攪拌してフィラーを分散すれば、塗布液を調製することができる。フィラーの好ましい添加量は、上述したとおりである。
【0034】
塗布液は、例えばノズルから吐出することにより、筐体部品本体となる金属板などの表面に供給され、塗布膜となる。塗布液は、筐体部品本体ではなく、ガラス板など成膜用支持体の表面に塗布してもよい。ガラス板は、平滑な表面を有するために、成膜用支持体としては好適である。成膜用支持体の表面に塗布する場合、形成した塗布膜は、ポリアミック酸のイミド転化の前、例えばフィラーの配向処理の後であってポリアミック酸のイミド転化の前に、支持体から剥離して筐体部品本体の表面に直接接するように配置するとよい。
【0035】
塗布膜中のフィラーを配向させるために、塗布膜には磁界が印加される。磁界は、フィラーが膜の厚さ方向に沿って配向するように印加すればよいが、塗布膜の膜厚方向と平行に、より正確には磁力線が膜厚方向と平行となるように印加することが好ましい。印加する磁界は、1T(テスラ)以上、さらには2T以上が好ましい。1T未満の磁界では、10体積%以上のフィラーを十分に配向させることが難しくなる。
【0036】
フィラーを配向させた後、あるいはフィラーを配向させながら、塗布膜を乾燥させて硬化させることにより、フィラーが配向した硬化膜を得ることができる。塗布膜の乾燥は、ポリアミック酸のイミド転化が起こる温度よりも低い温度域、例えば50〜130℃で実施することが好ましい。この乾燥により、フィラーの配向状態が固定される。
【0037】
次いで、得られた硬化膜に含まれるポリアミック酸のイミド転化を行う。イミド転化は、硬化膜を筐体部品本体の表面上に配置した状態で実施する。イミド転化は、ポリアミック酸からの化学的脱水によっても進行させることができるが、加熱により行うことが好ましい。イミド転化は、300〜400℃に加熱することにより行うことができるが、最終的な加熱温度が左記範囲となるように段階的に加熱して実施してもよい。上記温度範囲で加熱する時間は、10分間〜60分間が適当である。このイミド転化により、フィラーが分散したポリイミドフィルムが放熱フィルムとして筐体部品本体の表面上に形成される。
【0038】
乾燥後さらに加熱することにより、ポリアミック酸のイミド転化とともに、筐体部品本体と放熱フィルムとの間の接合強度を増すことができる。接合強度の増加には、いわゆるアンカー効果による物理的結合の強化とともに、フィルムと筺体部品本体の表面との間に生成した化学結合が寄与している可能性が高い。この化学結合は、放熱フィルム中のポリアミック酸を構成する官能基、例えばカルボキシル基と、筐体部品本体の表面上に存在する官能基、例えば金属表面の酸化膜に存在する水酸基とが反応すること(例えば脱水縮合すること)によって形成されると考えられる。
【0039】
以上のように、放熱フィルムは、a)フィラーが分散したポリアミック酸溶液(塗布液)の調製工程、b)塗布液の塗布工程、c)塗布膜におけるフィラーの配向工程、d)塗布膜の乾燥工程、e)ポリアミック酸のイミド転化および結合の強化工程、を順次実施することにより、形成することができる。
【0040】
図1に示した形態では、放熱フィルム1は、筺体30の内部空間に露出するように配置されていた。しかし、これに限らず、放熱フィルム1は、筺体30の外部空間に露出するように配置してもよい。
【0041】
図2に示すように、筺体部品10の両面に放熱フィルム1,2を配置すると、筺体30からの放熱をより促進することが可能になる。この場合は、筺体30の内部空間に面する放熱フィルム1と、筺体30の外部空間に面してフィルム表面が外部空間に露出している放熱フィルム2とが、筺体部品10の表面に垂直な方向から見て重複するように、放熱フィルム1,2を配置することが好ましい。
【0042】
図1,2に示した形態では、筺体部品(筺体部品本体)10は、両面が平面である平板であった。しかし、これに限らず、筺体部品10は、各種形状を有していても構わない。筺体部品(筺体部品本体)は、例えば、当該筐体部品とその筐体部品以外の筐体部品とを接続するための接続部を備えていてもよい。この接続部は、例えば、筐体部品(筺体部品本体)の表面が部分的に隆起もしくは後退して形成された変形部、または貫通孔である。
【0043】
図3に示した形態では、筺体部品10の表面の端部に後退部15が形成されている。後退部15は、筺体部品20の端部を受け入れる接続部として機能する。図4に示した形態では、筺体部品10の表面の端部近傍に貫通孔11が形成されている。貫通孔11は、筺体部品20に形成された貫通孔21とともに、例えばボルトおよびナットである接続部材による接続を可能にするための接続部として機能する。接続部材(ボルト16およびナット17)を用いて図4に示した筺体部品10,20を固定した状態を図5として示す。
【実施例】
【0044】
まず、放熱フィルムの評価方法を説明する。
【0045】
〔赤外線吸収率〕
波長2〜14μmにおける全赤外線吸収率の測定には、赤外分光用積分球と、DTGS赤外線検出器による反射率測定装置とを取り付けたブルカー社製FT−IR(機種名:IFS66V)を使用した。2cm角の試料および黒体を準備し、室温25℃にて、波長2〜14μmの波長領域での放射エネルギーを求めた。全赤外線吸収率(ε)は、黒体の放射エネルギーをEb、試料の放射エネルギーをEsとすると、Es、Ebをそれぞれ波長2μm〜14μmの波長領域で積分して試料の全放射エネルギーおよび黒体の全放射エネルギーを算出し、(試料の全放射エネルギー)/(黒体の全放射エネルギー)を計算することにより求められる。なお、試料は不透明であるため、試料の透過率は0とみなした。
【0046】
〔熱伝導率〕
フィルムの厚さ方向の熱伝導率を下記式から求めた。
熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度
なお、熱拡散率は、キセノンフラッシュアナライザー(ブルカー・エイエックスエス製)を用いて測定した。比熱は、DSC(SIIナノテクノロジー製)を用いて測定した(昇温速度:10℃/分)。比重は、ブタノール浸漬法より測定した。
【0047】
[放熱特性]
アルミニウム板を用い、長さ80mm×幅80mm×高さ40mmの密閉空間を形成し、この密閉空間にセラミックヒーターを配置した。放熱面を上方に向けて底板上に配置したヒーターと天板との距離は約40mmであった。天板(アルミニウム天板)としては、各実施例および比較例において放熱フィルムを形成したアルミニウム板を用いた。このアルミニウム板は、放熱フィルムを形成した表面が下方を向くとともに放熱フィルムがヒーターの直上となるように配置した。言い換えれば、放熱フィルムの表面がヒーターの上方において筐体の内部空間を介してヒーターと相対するように、アルミニウム板を配置して測定を実施した。筐体の内部空間の温度は、筐体内部に設置した熱電対を用いて測定した。
【0048】
セラミックヒーターからの発熱を開始して16時間経過後の筐体内の密閉空間の温度を測定した。放熱フィルムを形成しないアルミニウム天板を用いた場合の筐体の内部空間の温度は190.6℃であった。
【0049】
[耐油性試験]
放熱フィルムが接合したアルミニウム板を150℃の自動変速機油(オートマチックトランスミッションフルード;ATF)中に3日間保持し、放熱フィルムが剥離するか否かを観察した。
【0050】
(実施例)
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、ピロメリット酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを、これらが等モルとなるとともに合計のモノマー濃度が25重量%となるように添加し、窒素雰囲気下、室温で攪拌しながら反応させた。反応による増粘が確認された後、70℃に加温しつつさらに攪拌を継続し、ポリアミック酸溶液を調製した。この溶液の粘度は100Pa・sであった。
【0051】
次に、このポリアミック酸溶液に、この溶液の固形分に対して20体積%となるように、カーボンファイバー(昭和電工株式会社製VGCF−H)を添加し、自転公転式攪拌機で分散させた。
【0052】
フィラーとしてカーボンファイバーを含むポリアミック酸溶液を、厚さ2mmのアルミニウム板の表面に直接塗布して塗布膜を形成した。また、この溶液を、ガラス板の表面に直接塗布して塗布膜を形成した。後者の塗布膜は、赤外線吸収率および熱伝導率を測定するためのフィルム(測定用放熱フィルム)を得るために形成したものである。塗布膜は、いずれも、厚さ0.5mm、大きさ60mm×60mmとした。
【0053】
それぞれの塗布膜に2Tの磁界をフィルムの厚さ方向に印加しながら、60℃で30分間保持し、塗布膜を乾燥させた。塗布膜の乾燥により、フィラーは、フィルムの厚さ方向に配向した状態で固定される。その後、塗布膜を形成したガラス板からは塗布膜を剥離した。ガラス板から剥離させた塗布膜、および塗布膜が形成されたアルミニウム板を、120℃で30分間および320℃で20分間の条件で段階的に加熱し、塗布膜中のポリアミック酸のイミド転化を実施した。こうして、測定用放熱フィルムと、放熱フィルムが接合したアルミニウム板(筐体部品)とを得た。このアルミニウム板は、放熱特性評価試験におけるアルミニウム天板として用いた。
【0054】
アルミニウム板上の放熱フィルムは、粘着剤を用いてフィルムを貼り付けた場合、また塗布膜を単に乾燥させてフィルムを形成した場合よりも遥かに強固にアルミニウム板に接着しており、引き剥がすことが困難であった。
【0055】
(比較例1)
フィラーを配向させるための磁界を印加しないことを除いては、実施例と同様にして、測定用放熱フィルムと、放熱フィルムが接合したアルミニウム板(筐体部品)とを得た。
【0056】
(比較例2)
ポリアミック酸溶液にカーボンファイバーを添加しないことを除いては、比較例1と同様にして、測定用放熱フィルムと、放熱フィルムが接合したアルミニウム板(筐体部品)とを得た。
【0057】
(比較例3)
沖電気工業株式会社製「まず貼る一番(登録商標)」ソフトタイプを放熱フィルムとした。この放熱フィルムには予め粘着剤層が形成されている。この放熱フィルムを、そのまま測定用放熱フィルムとするとともに、粘着剤層を実施例1で用いたアルミニウム板に接着して、放熱フィルムが接合したアルミニウム板(筐体部品)を得た。
【0058】
測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
比較例3では、放熱フィルムが粘着剤層を介して接合されているため、オイル中では接合力を保つことができず、放熱フィルムが剥離した。比較例3では、粘着剤層が熱抵抗となったため、赤外線吸収率が高いにもかかわらず、良好な放熱特性が得られなかった。また、実施例と比較例1との対比からは、フィルムの厚さ方向の熱伝導率が放熱特性に大きな影響を及ぼすことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、車両内に代表される厳しい環境下に設置される筺体からの放熱を促進する技術を提供するものとして、高い利用価値を有する。
【符号の説明】
【0062】
1,2 放熱フィルム
10,20 筺体部品(筺体部品本体)
11,15,21 接続部
16,17 接続部材
30 筺体
40 発熱体(リチウムイオン二次電池)
41,42 リチウムイオン二次電池(単電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を収容するための筐体の一部を構成する筐体部品の製造方法であって、
窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子からなるフィラーが分散し、フィルム内において前記フィラーの長軸がフィルムの厚さ方向に配向しており、前記フィラーの配向状態が固定されるように乾燥させたポリアミック酸フィルムを、金属製の筐体部品本体の表面上に直接配置した状態で前記筐体部品本体とともに加熱することにより、前記フィルム中のポリアミック酸をイミド転化させて前記フィルムをポリイミドフィルムとするとともに、前記フィルムと前記筐体部品本体との間の接合を強化する工程を具備する、筐体部品の製造方法。
【請求項2】
前記フィルムを300〜400℃に加熱して、イミド転化を実施するとともに前記接合を強化する、請求項1に記載の筺体部品の製造方法。
【請求項3】
前記筐体部品本体が、当該筐体部品本体と前記筐体部品以外の筐体部品とを接続するための接続部を備え、
前記接続部が、前記筐体部品本体の表面が部分的に隆起もしくは後退して形成された変形部、または貫通孔である、請求項1または2に記載の筐体部品の製造方法。
【請求項4】
前記筐体部品本体が、アルミニウム製である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の筐体部品の製造方法。
【請求項5】
前記放熱フィルムの厚さ方向の熱伝導率が1.5W/mK以上であり、前記放熱フィルムの波長2μm〜14μmにおける赤外線吸収率が80%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の筐体部品の製造方法。
【請求項6】
発熱体を収容するための筐体の一部を構成する筐体部品であって、
放熱フィルムと、金属製の筐体部品本体とを備え、
前記放熱フィルムが、窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子であるフィラーが分散したポリイミドフィルムであり、
前記放熱フィルム内において前記フィラーの長軸が前記放熱フィルムの厚さ方向に配向しており、
前記放熱フィルムが、前記筐体部品本体の表面に直接接合している、筐体部品。
【請求項7】
前記筐体部品本体が、当該筐体部品本体と前記筐体部品以外の筐体部品とを接続するための接続部を備え、
前記接続部が、前記筐体部品本体の表面が部分的に隆起もしくは後退して形成された変形部、または貫通孔である、請求項6に記載の筐体部品。
【請求項8】
前記筐体部品本体が、アルミニウム製である、請求項6または7に記載の筐体部品。
【請求項9】
前記放熱フィルムの厚さ方向の熱伝導率が1.5W/mK以上であり、前記放熱フィルムの波長2μm〜14μmにおける赤外線吸収率が80%以上である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の筐体部品。
【請求項10】
発熱体を収容するための筐体であって、
放熱フィルムと、金属製の筐体本体とを備え、
前記放熱フィルムが、窒化ホウ素粒子またはカーボン粒子であるフィラーが分散したポリイミドフィルムであり、
前記放熱フィルム内において前記フィラーの長軸が前記放熱フィルムの厚さ方向に配向しており、
前記放熱フィルムが、前記筐体本体の表面に直接接合しており、
前記放熱フィルムが、前記筐体の内部空間または外部空間に面するように配置されている、筐体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−164941(P2012−164941A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26325(P2011−26325)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】