説明

精確にレーザ出力を補正できる高出力レーザ装置

【課題】レーザ装置の内外の環境要因に大きく左右されるレーザおよびレーザパワーモニタを備えたレーザ装置であっても、該環境要因の影響を効果的に減じて、定格出力から低出力まで、精確にレーザ出力を補正できる高出力レーザ装置の提供。
【解決手段】レーザ装置10は、レーザ出力値を測定するレーザパワーモニタ12と、レーザパワーモニタ12により測定された出力測定値とレーザ出力指令値とが合致するように、レーザ電源14への励起エネルギー注入量を補正する出力補正機能を備えたレーザ制御装置16とを有し、レーザ制御装置16は、レーザ出力指令を作成するレーザ出力指令部18を有し、レーザ出力指令は、補正する必要がない場合は励起エネルギー指令に換算されてレーザ電源14に送られるが、補正の必要がある場合はレーザ制御装置16の出力補正部24がレーザ出力指令を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ装置に関し、特には、レーザ出力をより精確に補正できる高出力のレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工などの目的で使用されるレーザ装置においては、所定の加工性能を得るためにレーザ出力を補正する必要がある場合が多い。例えば特許文献1には、レーザ発振器又はレーザ応用装置の所定箇所の測定温度が一定の温度範囲内になるようにレーザ発振器を暖機又は冷却をした上で、レーザ出力指令値を補正する補正係数を決定するレーザ装置が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、実際のレーザ運転前に予め、レーザ電源に対して複数の指令電圧を異なるレベルでランダムに与えることにより、指令電圧値または指令電流値とレーザ光のエネルギー値との関係を示すデータテーブルを作成し、実際のレーザ運転時には、出力指令値に対応する指令電圧または指令電流を該データテーブルから読み出して、レーザ電源に対して出力する手段を備えたレーザ出力制御装置が開示されている。
【0004】
さらに特許文献3には、連続発振開始毎に少なくとも最初の発振のレーザ光のエネルギーとレーザ励起強度に関連した情報を記憶手段に記憶し、発振休止後次回の連続発振開始時のレーザ励起強度を決定する際に、この記憶されていた前回の連続発振時の最初の発振のレーザ光のエネルギーとレーザ励起強度に関連した情報を用いることにより、発振開始直後から目標エネルギー設定値に対するレーザエネルギーのずれ量を補正し、レーザ出力を一定にすることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−251855号公報
【特許文献2】特開平9−107146号公報
【特許文献3】特開平6−61565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ装置において、指令値に合致したレーザ出力を得る方法として、フィードバック制御を用いる方法がある。但しフィードバック制御には、レーザパワーモニタなどの、レーザ出力を迅速かつ精確に測定する手段が不可欠である。但しレーザパワーモニタは波長帯によっては高価で信頼性に欠けるため、検出周期の遅いパワーモニタが用いられる場合がある。このような場合、精度の高いフィードバック制御を行うことはできず、代わりにオープンループ制御又はフィードフォワード制御を組み合わせたフィードバック制御を用いて、指令値に合致したレーザ出力を得る方法が採用されることが多い。そしてこれらの場合、予め出力指令に対する実際のレーザ出力を予測するために、何らかの係数を求めるためのレーザ出力の補正を要する。
【0007】
また、レーザは定格出力を出力できるように設計されているため、小さな出力では変動の割合が大きくなる。併せて、レーザパワーモニタについても、定格出力を精確に測定するように設計されているため、小さな出力では相対的に誤差が大きくなる。また当該変動や誤差はレーザ装置の内外の環境要因に大きく左右されるので、精確な出力補正は難しい。
【0008】
さらには、レーザおよびレーザパワーモニタは様々な因子の影響を受けるため、小さなレーザの出力およびその測定は、測定時に至る温度変化の履歴にも左右される。すなわち、レーザおよびパワーモニタの内外の数箇所の温度が以前の測定時と同一であっても、必ずしも同じ測定結果とはならない。
【0009】
そこで本発明は、レーザ装置の内外の環境要因に大きく左右されるレーザおよびレーザパワーモニタを備えたレーザ装置であっても、該環境要因の影響を効果的に減じて、定格出力から低出力まで、精確にレーザ出力を補正できる高出力レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、所定のプログラムまたは操作者の入力に基づいてレーザ出力指令を作成するレーザ出力指令部と、前記レーザ出力指令に基づいてレーザ電源に送られる励起エネルギー指令を作成する励起エネルギー指令部と、前記レーザ電源が出力した励起エネルギーにより得られるレーザ出力を測定するレーザパワーモニタと、前記レーザパワーモニタにより測定されたレーザ出力と前記レーザ出力指令に含まれる指令出力とが合致するように、前記指令出力を補正するための補正係数を決定する出力補正部と、を備えるレーザ装置であって、補正係数決定のためのレーザ出力指令とは異なる、予め設定された単一または複数のレーザ出力指令条件および継続時間にて予備レーザ出力を行う手段と、所定時間後に補正係数決定のためのレーザ出力指令条件および継続時間にて補正用レーザ出力を行う手段と、をさらに備え、前記出力補正部は、前記予備レーザ出力および前記補正用レーザ出力の測定結果に基づいて補正係数を決定することを特徴とするレーザ装置を提供する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、前記予備レーザ出力のレーザ出力は、出力値の異なる複数のレーザ出力指令によって出力され、前記出力値の異なる複数のレーザ出力指令は、出力値の高いレーザ出力から出力値の低いレーザ出力の順にレーザ出力を行う指令を含むことを特徴とするレーザ装置を提供する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、前記出力補正部は、複数のレーザ出力指令条件におけるレーザ出力の測定結果に基づいてレーザ出力指令の補正を行うものであり、かつ、予め定めた値より低いレーザ出力指令条件のときのみ、前記出力補正部が前記レーザパワーモニタにより測定されたレーザ出力と指令出力とが合致するように前記指令出力を補正することを特徴とするレーザ装置を提供する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、前記出力補正部は、複数のレーザ出力指令条件におけるレーザ出力の測定結果に基づいてレーザ出力指令の補正を行うものであり、かつ、最も低いレーザ出力指令条件を、他のレーザ出力指令条件での出力測定結果より算出することを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置において、レーザ装置を提供する。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、前記出力補正部は、複数のレーザ出力指令条件におけるレーザ出力の測定結果に基づいてレーザ出力指令の補正を行うものであり、かつ、最も低いレーザ出力指令条件を、他のレーザ出力指令条件および予め記憶されている過去の出力補正における測定結果より算出することを特徴とするレーザ装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、補正用のレーザ出力指令とは異なるレーザ出力指令条件にて事前にレーザ出力を一定の順序に従って行うことにより、レーザの出力特性およびレーザパワーモニタの測定特性が安定し、精確な出力補正が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ装置の概略構成を示す図である。
【図2】指令出力と励起エネルギーの関係を示すグラフである。
【図3】励起エネルギーとレーザ出力の関係を示すグラフである。
【図4】指令出力とレーザ出力の関係を示すグラフである。
【図5】指令出力とレーザ出力の関係を示すグラフであって、レーザ出力の補正例を説明するグラフである。
【図6】(a)励起エネルギーとレーザ出力の関係を示すとともに、レーザ出力の補正例を説明するグラフであり、(b)(a)の部分拡大図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るレーザ装置の概略構成を示す図である。
【図8】レーザ出力の補正操作を実行するにあたり、その前に補正用のレーザ出力指令とは異なるレーザ出力指令条件を定められた順序にて順次レーザ出力を行う様子を示したグラフである。
【図9】図8とは異なる出力指令条件にて順次レーザ出力を行う様子を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明に係るレーザ装置の概略構成を示す図である。レーザ装置10は、レーザ出力値を測定するレーザパワーモニタ12と、該レーザパワーモニタ12により測定されたレーザ出力測定値とレーザ出力指令値とが合致するように、レーザ電源14への励起エネルギー注入量を補正する出力補正機能を備えたレーザ制御装置16とを有する。
【0018】
レーザ制御装置16は、NCプログラムなどの所定のプログラム又は操作員からの直接入力を解読してレーザ出力指令を作成するレーザ出力指令部18を有し、該レーザ出力指令は、製造直後などの補正する必要がない場合は、励起エネルギー指令部20において電力、電圧又は光量などの励起エネルギー指令値に換算され、レーザ電源14に指令される。レーザ電源14は、該励起エネルギー指令値に従って、放電又は励起光といったエネルギーを放電管22内のレーザガスなどのレーザ媒体に与え、レーザ発振を起こす。一方、レーザ出力指令を補正する必要がある場合はレーザ制御装置16の出力補正部24がレーザ出力指令を補正するが、これについては後述する。
【0019】
放電管22の各端には、全反射鏡であるリア鏡26及び部分反射鏡である出力鏡28が配置されており、これらの鏡と放電管22とにより光共振器が構成される。放電管22にレーザ電源14より高周波電力が供給されると、放電管内のレーザガスが放電により励起され、光共振器において光が発生する。その光はリア鏡26と出力鏡28との間で反射を繰り返しながら、誘導放出により増幅され、その一部は出力鏡28からレーザ光として外部へ取り出される。
【0020】
出力鏡28から出力されたレーザ光の一部は、該レーザ光の光路上に配置された部分透過鏡30を透過し、上述のレーザパワーモニタ12によって測定される。外部にレーザ出力されるレーザ光に対する、レーザパワーモニタ12で測定に使用されるエネルギーの割合は0.1〜0.5%程度である。部分透過鏡30で反射されたレーザ光は発振器の外に出射され、様々なアプリケーションに使用されるが、部分透過鏡30で反射されたレーザ光を遮断又はビームアブソーバ32に向けて反射可能に構成されたシャッタ34を設け、該シャッタ34によってレーザ光が発振器の外に漏れないようにすることも可能である。なお、リア鏡26を部分透過鏡として、図1における部分透過鏡の機能も持たせ、レーザパワーモニタ12をリア鏡26の背後に配置する構成も可能である。
【0021】
レーザパワーモニタ12からのレーザ出力測定値がアナログ値の場合は、レーザ制御装置16は、該レーザ出力測定値をアナログ信号値に変換するパワーモニタ値換算部(換算器)36を有する。パワーモニタ値換算器36は、レーザパワーモニタ12からの出力値(アナログ信号)をA/D変換した上で、ゼロ点を補正し所定の倍率を乗じて、正しいレーザ出力値としてレーザ制御装置16が扱える情報にする。
【0022】
次に図2〜図4を参照して、出力指令に含まれる指令出力、励起エネルギー及びレーザ出力の関係を説明する。図2において曲線状の換算関数で示されるように、指令出力が与えられると、上述の励起エネルギー指令部20が、該指令出力に相当する励起エネルギー量を算出する。図3はレーザ出力特性を示しており、レーザ電源14から励起エネルギーが与えられると、それに応じてレーザ出力が得られる。ここで図2における換算関数の曲線が、図3におけるレーザ出力特性の逆関数となっていれば、図4に示す如く、指令出力に比例した好ましいレーザ出力が得られる。しかし一般的に、レーザ装置の環境やレーザ装置の構成部品の経年変化などにより、図3におけるレーザ出力特性は変化する。
【0023】
これに対処する方法は幾つか考えられ、その一つはフィードバック制御を採用することであるが、このためには、精確で迅速なレーザ出力の測定が可能なレーザパワーモニタが不可欠である。ただし、このようなレーザパワーモニタは波長帯によっては高価であり、信頼性に欠ける場合もある。そこで、検出周期の遅いパワーモニタを用いることが考えられるが、その場合には、精度の高いフィードバック制御を行うことはできなくなるので、代わりにオープンループ制御、又はフィードフォワード制御を併用したフィードバック制御を用いて、指令どおりのレーザ出力を得る方法が採用されることが多い。このとき、図2〜図4で示した関数を、その時々に応じて補正すれば、レーザ出力の精度を高めることができる。
【0024】
例えば、図4に示す指令出力とレーザ出力との関係が、図5に示すように、特性曲線40から特性曲線42に変化したとする。この場合に、Pc4に相当する指令出力が与えられると、レーザ出力P4(特性曲線40のA点)が得られるべきところが、P4より大きいレーザ出力P4’(特性曲線42のB点)が得られてしまう。このとき、A点とB点のレーザ出力の比、すなわちP4/P4’をPc4に乗じてPc4’を得て、該Pc4’を指令出力とすることにより、概略、出力P4を得ることができる。
【0025】
上述のような補正に用いる点を、例えば4つ(P1〜P4)に増やすことで、より精確なレーザ出力を得ることができる。さらに、レーザ出力が0W近傍のP0における補正は、微小なレーザ出力での精度を高めることができる。
【0026】
また、図3の励起エネルギーとレーザ出力の関係を表す特性曲線を補正することができれば、図2の指令出力と励起エネルギー指令値の関係曲線はその逆関数であるから、図4に示すようにレーザ出力指令値とレーザ出力とを合致させる(Pc=Pa)ことができる。そのような考え方の具体例を示したものが図6である。図6(a)は、特性曲線が44から46に変化したときに、E1からE4の励起エネルギー注入量に対して、P1からP4のレーザ出力が得られていたところが、それぞれ変化する状態を示している。ここで、レーザ装置による運転に先立ち予めE1からE4の励起エネルギーに対するレーザ出力値を測定して、該測定値に基づき、曲線44で表される本来の出力特性のときに得られていた出力に応じてエネルギー注入量を補正しておけば、レーザ装置の運転時には出力指令値に概略合致するレーザ出力が得られる。
【0027】
図6の特性曲線において、出力補正を考える場合においても、発振閾値に近いP0となる例えばE0のようなエネルギー注入量(図6(b)参照)を求めておくことは、精確な微小なレーザ出力を得るために有効である。そして、補正を行う計算式としては、例えば、元の特性曲線44を以下の式(1)で表すとき、補正後の特性曲線46は、以下の式(2)によって計算することができる。
Pa = f(Ec) + Ect (1)
Pa = k×f(Ec) + Ect' (2)
【0028】
ここで、fは、EcからPaを求めるための関数であり、出力特性表として励起エネルギー指令手段に格納されたパラメータから補間計算するなどして求めることができる。またEctは、図で示すように発振閾値に相当するEc(励起エネルギー指令値)である。なおkは補正係数であるが、複数の出力に基づいて補正を行う場合は、それぞれの区間によって、k12, k23 .. のように複数の補正係数を用いることもできる。
【0029】
ここで、EctやEct'を精確に求めることは困難な場合があるので、元の特性曲線44を次式(3)で表し、補正後の特性曲線46を式(4)によって計算することもできる。
Pa = f(Ec) (3)
Pa = k×f(Ec) + ΔEct (4)
【0030】
ここで、ΔEctは次式(5)によって求められるが、図6(a)の発振閾値付近を拡大した図6(b)からわかるように、ΔEctは(E0'−E0)で近似することができるので、式(4)は式(6)のようなより実用的な式に変更してもよい。このように、ΔEctも補正係数の一つと考えることができる。
ΔEct = Ect' − Ect (5)
Pa = k×f(Ec) + (E0'−E0) (6)
【0031】
上述のようにレーザ出力特性の変化に応じて出力補正を行うことは非常に有効であり、このことは、フィードバックを用いない制御では出力指令値又は励起エネルギー注入量に対する補正係数を算出することになり、フィードフォワード制御を併用するフィードバック制御ではフィードフォワード量の増減に関する係数を求めることになり、PI制御であれば積分器に指令出力に応じて与えるプリセット値を計算するための要素となる値を求めることになる。
【0032】
上述のような補正係数を求める操作(以降、係数決定操作と称する)は、例えばレーザ装置を運転してレーザ加工などを行う前の予備操作として行われる。以下、図1のレーザ装置において係数決定操作がどのように行われるかを説明する。
【0033】
図1において、レーザ装置10を運転してレーザを出力するときは、シャッタ34を開いてレーザ光線を外部に出射するが、係数決定操作を行うときは、シャッタ34を閉じて外部にレーザは出射せずにビームアブソーバ32にレーザ出力する。ビームアブソーバ32はレーザビームをほぼ100%吸収し熱に変える働きをする。
【0034】
レーザ出力指令部18は指令出力を含む出力指令を作成するが、同時に補正命令を出力補正部24に出力する。補正命令は幾つかの信号を含んでおり、これらの信号には、レーザ装置10が外部にレーザ出力を行う運転時に指令出力について補正計算を行って励起エネルギー指令部20に対する指令出力に対して補正係数を用いた演算を施すための信号や、係数決定操作の実行を指令する信号などが含まれる。またレーザ出力指令部18は、後述する予備レーザ出力や補正用レーザ出力を行うための指令も作成することができる。
【0035】
係数決定操作は、例えば以下のような手順で実行される。まず、操作員からの直接入力又は予め用意されたNCプログラムによる指示により、レーザ出力を補正するための補正係数を求めるシーケンスが起動される。レーザ出力指令部18は、定められた指令出力を含む出力指令を出力補正部24に出力すると同時に、補正命令として、補正係数を求める指令を出力補正部24に出力する。出力補正部24は、レーザ出力指令部18からの指令に従い、レーザ出力が安定するまで一定時間又は出力の変動が小さくなるまで、励起エネルギー指令部20に、指令出力を含む出力指令を送る。このときは、運転時と異なり指令出力には補正係数を乗じないものとする。
【0036】
励起エネルギー指令部20は、出力補正部からの指令出力に応じた励起エネルギー指令値をレーザ電源14に指令する。レーザ電源14はこれに応じて、出力鏡28とリア鏡26との間のレーザ媒体にエネルギーを注入する。注入されたエネルギーにより励起されたレーザ媒体は、発光を始め、この光はリア鏡26と出力鏡28で発振・増幅され、部分透過鏡である出力鏡28からレーザビームが出射される。これはパワーモニタ12で測定され、測定されたレーザ出力値は出力補正部24にて、指令出力と比較される。レーザ出力値と指令出力が合致していれば補正係数は1になるが、合致してなければ出力補正部24に格納されている計算式にしたがって補正係数が算出される。
【0037】
算出された補正係数は出力補正部24に記憶される。前述のように補正係数は一つとは限らず、何点かの出力に応じて複数用意される場合もある。なおこの間、シャッタ34は閉じられ、レーザ出力はビームアブソーバ32で吸収されるので、外部にレーザが出力されることはない。
【0038】
次に、レーザ装置10を運転してレーザ加工などを行う場合、レーザ出力指令部18は出力補正部24に対して、指令出力に補正係数を用いて演算を行う指示を出すとともに、出力指令を送る。出力補正部24は、指令出力と補正係数から計算された結果を励起エネルギー指令部20に送る。このようにすると、出力されたレーザのレーザ出力値は概略指令出力と合致するものになる。
【0039】
なお、複数の出力にて補正を行う場合、補正に用いられる出力以外の指令出力については、補正係数を補間演算する。こうして、あらゆる指令出力も適切に処理することが可能となる。
【0040】
図7は、本発明の第2の実施形態に係るレーザ装置10’を示す図であり、図6に示すような励起エネルギー指令量に対して補正を行う場合の構成例を示している。なお図1の形態と同等の機能を有する構成要素には同じ参照符号を付し、詳細な説明は省略する。またレーザ電源やパワーモニタなどのレーザ制御装置16’以外の部分も図1と同等でよいので、図示は省略する。
【0041】
レーザ制御装置16’において、係数決定操作の実行が補正命令として与えられると、一つまたは複数の励起エネルギーに対し順次、実際のレーザ出力値が測定される。実際には励起エネルギー指令値は指令出力値として与えられるので、図7に示す第2の実施形態では、励起エネルギー指令値と、パワーモニタで測定されたレーザ出力値とを出力補正部24’で比較することにより、励起エネルギーについての補正係数が求まる。レーザ装置10’を運転する際は、励起エネルギー指令値に補正係数を乗ずることにより、指令出力とレーザ出力値が概略一致する。
【0042】
従来は、係数決定操作を行うにあたって、出力指令条件を一定に保ち、これを一定時間保持して安定させた後、又は、レーザ出力もしくはレーザ装置内の温度の変化が所定の範囲内に収まるまで待った後に、補正に用いるレーザ出力値を得ていた。これに対して本発明は、補正用のレーザ出力指令とは異なるレーザ出力指令条件を定められた順序にて順次レーザ出力を行い、その後、レーザ出力を補正するためのレーザ出力を行ってこれを測定し、このレーザ出力測定値に基づいてレーザ出力の補正を行うことを特徴とする。なお補正用のレーザ出力指令とは異なるレーザ出力指令条件と、その出力順序は、出力補正部もしくはレーザ出力指令部に格納されていてもよいし、又は、NCプログラム等によって外部から与えられてもよい。
【0043】
従来の方法は、係数決定操作に先立つレーザ装置の運転の履歴の影響を受けてしまう。具体的には、レーザ装置が立上げ直後なのか否か、或いは又はこれに加え、立上げ時のレーザ装置内外の温度状況などの要因により、求められた出力補正係数は影響を受け異なったものになる虞があるからである。殊に、レーザ発振するかしないかの発振閾値に近い微小なレーザ出力はその影響を大きく受けやすい。これに対し本発明では、補正用のレーザ出力指令とは異なるレーザ出力指令条件にて事前にレーザ出力を一定の順序に従って行うので、レーザの出力特性およびレーザパワーモニタの測定特性が安定し、発振閾値に近い微小なレーザ出力においても精確な出力補正が可能となる。
【0044】
さらに、本発明では、高い出力指令に続いて低い出力指令を行って、レーザ装置の暖機運転を行った後、レーザの係数決定操作を行うことができる。レーザ出力はレーザ装置に注入されるエネルギーの数%から多くても30%であるため、余分なエネルギーは熱として除去されるが、あるレーザ出力指令があったときにレーザ装置を構成する多くの部品が定常の温度状態に達するには、レーザ装置の各々の構成要素について、入熱量、除去される熱量および内部の温度状態が平衡状態となる必要があり、これには長い時間がかかる。そこで、高出力で迅速にレーザ装置を暖機した後、低出力でレーザ装置およびパワーモニタの過剰な熱を除去することにより、迅速かつ精確な係数決定操作が可能となる。
【0045】
一般に、パワーモニタのような高感度のセンサ類は、レーザ装置内が高温になると安定的に精確な測定ができなくなる傾向がある。殊に、発振閾値に近い微小なレーザ出力を測定しようとする場合は、高出力でのレーザ発振を停止した直後もレーザ装置内は高温であるので、パワーモニタは一定温度まで冷却しなければ正常な値を出力しない。一方で、容積の大きい部品では、レーザ装置の立上げ後からその温度が安定するまでに、かなりの時間を要するものがある。このような部品については、レーザ出力が高い場合は比較的早く温度が定常状態となるが、レーザ装置の立上げ直後に発振閾値に近い微小な出力で測定を行おうとすると、レーザ装置が温度的な定常状態に達するまで多大な時間を要する。そこで、上述のように一旦、高出力で加熱後、冷却時間をおいて係数決定操作を実行することが極めて有効である。すなわち、高出力で迅速に暖機した後、低い出力でレーザおよびパワーモニタの過剰な熱を除去して安定した状態にすることにより、温度などのパラメータの繰り返し性がよくなり、早くて正確なレーザ出力補正が可能となる。
【0046】
図8および図9はその具体例を示すものであり、補正係数決定用のレーザ出力指令により得られる補正用レーザ出力に基づいて補正係数決定操作を実行するにあたり、その前に補正係数決定用のレーザ出力指令とは異なる、予め設定された単一または複数のレーザ出力指令条件および継続時間にて、予め定められた順序で順次レーザ出力(これを予備レーザ出力とも称する)を行う様子を示したものである。
【0047】
先ず図8は、予め出力条件1にてレーザ発振を行ってから、発振閾値Ectを上回る、測定すべき励起エネルギー注入量E0(出力条件2)を一定時間保持し、最後にレーザ出力の測定を行い、係数決定操作を実施することを示している。一方図9は、予め出力条件1にてレーザ発振を行ってから、発振閾値Ectを若干下回る励起エネルギー注入量(出力条件2’)を一定時間保持し、その後、発振閾値Ectを上回る2点の励起エネルギー注入量(E1、E0)を指定する出力条件3、4にてそれぞれレーザ出力の測定を行い、係数決定操作を実施することを示している。
【0048】
また本発明では、複数のレーザ出力指令条件においてレーザ出力の補正を行うレーザ装置において、低いレーザ出力指令条件のときにのみ、補正用のレーザ出力指令とは異なるレーザ出力指令条件にてレーザ出力を行った後、レーザ出力の補正を行うこともできる。一般に、高出力でのレーザ出力は、高出力レーザであれば早くに安定し、またパワーモニタも高出力測定用のものが選択されているので、高出力でのレーザ出力については精確な補正が可能である。しかし、高出力レーザにおいて、発振閾値に近い低出力での係数決定操作については、レーザの状態も安定せず、パワーモニタの測定値も誤差を含み易い。そこで、そのような低出力での補正のみについて本発明を適用することにより、補正操作にかかる時間およびコストを低減することができる。
【0049】
ところで、発振閾値付近の微小なレーザ出力を得るのに相当するエネルギー注入量を求めることは、微小なレーザ出力での出力補正を行う上で重要なことであるが、以下のような困難を伴う。図6における特性曲線44においては、励起エネルギー注入量E0にて、発振閾値に近い微小なレーザ出力P0を得ることができる(C点)。ところが、出力特性が特性曲線46に変化した場合は、E0に相当するレーザ出力はゼロとなってしまう。そこで、エネルギー注入量を変化させて、レーザ出力ゼロに相当する励起エネルギー注入量Ect’を簡単に求めることができれば問題はないが、試行錯誤では多大な時間を費やしてしまう。一方、励起エネルギー注入量を漸増又は漸減させる方法もあるが、これでは、レーザ出力の測定開始からEct’に相当するエネルギー注入量を得るまでの時間がまちまちとなり、本発明が意図するところの、一定の温度履歴の中でのレーザ出力測定を実現することができない。
【0050】
そこで、本発明では、複数のレーザ出力指令条件においてレーザ出力を測定し、得るべき最も低いレーザ出力となる出力条件は、他のレーザ出力指令条件での出力測定結果より算出するようにした。例えば、図6(b)に示すように、レーザ出力特性が曲線44から曲線46に変化したときにまず、特性曲線44においてレーザ出力P1(D点)が得られる励起エネルギーでのレーザ出力を測定する。特性曲線46によれば、レーザ出力P1’(F点)が得られる。同様に、図6(a)に示すように、特性曲線46における、特性曲線44においてレーザ出力P2が得られる励起エネルギーでのレーザ出力P2’が得られる。P1’とP2’から、特性曲線46の発振閾値近傍の励起エネルギーに対するレーザ出力の傾きが得られる。そこで、F点からG点を計算すれば、特性曲線46において出力P0に相当する励起エネルギーE0’を求めることができる。換言すれば、励起エネルギーE0’においてレーザ出力を測定すれば、ほぼP0に近いレーザ出力を1回の測定で得ることができ、精確な出力補正係数を求めることができる。
【0051】
或いは、本発明では、過去の出力補正時に取得したデータおよびそこから計算で得られた数値を用いて、補正時に用いる最も低いレーザ出力となる出力条件、例えば励起エネルギー指令値を、予め計算で求めることもできる。図6(b)において、特性曲線44又は46の傾きは、一般的には複数の測定点から求める必要がある。特性が曲線44から46に変化する場合、励起エネルギーEctおよびEct’(すなわちX切片)が移動すると同時に、厳密には曲線の傾きも変化する。しかし、傾きの変化は、少なくとも発振閾値近傍であるP0からP1の範囲においては、X切片の移動と比較して、励起エネルギーとレーザ出力との関係に与える影響は小さい。
【0052】
そこで、過去の係数決定操作時に特性曲線46において、F点からG点を算出する際に、変化前の特性曲線44におけるCD間の傾きを算出に用いることができる。つまり、以前の特性曲線における傾きを記憶しておき、係数決定操作時にこの傾きを用いてE0’を算出する。このようにすることで、発振閾値近傍の微小なレーザ出力での係数決定操作については、測定点を2点で済ますことができる。
【0053】
なお図9に示した例において、出力条件3にて測定されたレーザ出力値と、過去の係数決定操作時の測定、計算された特性曲線の傾きから出力条件4を求めてレーザを出力させた上で、発振閾値に程近い微小なレーザ出力での係数決定操作を行うことができる。
【0054】
レーザ発振するかしないかの小さなレーザ出力においては、出力の高い他の補正点を測定してから、レーザ出力条件を予め算出して補正を行うことが考えられるが、暖機運転を行った後に測定した出力が意図したレーザ出力近辺の値とはならなかったとき、そのような低出力での補正は精確なものではなくなってしまう。ここで、再測定する場合は暖機運転から始めないと、精確な出力測定ができない。そこで、非常に小さなレーザ出力の測定においては、予め測定した比較的大きな出力測定の結果から予想できるレーザ出力条件を算出した上で、補正を実施する。このようにすることにより、必要最小限の時間で精確な低出力での補正を行うことができる。
【0055】
以上、レーザ出力条件が連続出力であることを前提に説明したが、一般のレーザ装置においては、周波数が1Hzから10KHz程度のパルスを出力して、パルス波形に対応したレーザ出力を行うことが多い。この場合、出力条件として、パルス周波数、パルスデューティ、単位時間当たりのパルス数、パルスオンタイム及びパルスオフタイムなどの条件も付加される。また、レーザ出力条件として数千Wというようなレーザ出力に代えて、放電電流値や励起光量などのレーザ光以外の物理量を用いることもできる。さらには、レーザ出力、放電電流値、励起光量などの操作物理量を、例えば式(4)のΔEctで表すようにオフセット部を別に指定したり、さらにこのオフセット部を固定部分と可変部分とに分けて指定したりするということもレーザ出力条件に含むものとする。また、レーザ出力の測定値としては、時間平均されたエネルギーや、1パルス当りの熱量や尖頭値を用いることがある。
【0056】
また、図8および図9において、出力補正の前後(出力条件1の前、出力条件2又は4の後)においても発振閾値以下の励起エネルギーが供給されているが、これは多くのレーザ装置で採用されているものであって、予備放電又はシマー放電と称されるものに該当し、レーザ出力指令時に迅速かつ安定した立ち上がりを実現する効果がある。そして、図9においては、出力条件2’においてレーザ発振閾値Ectを若干下回るエネルギーを供給することにより、効果的な冷却を行いつつ、一部のレーザ装置の構成要素が過度に冷却されることを防止している。また、発振閾値Ectやシマー放電の放電電流値を変化させた出力指令を行い、補正に用いるレーザ出力値を測定することもできる。
【符号の説明】
【0057】
10、10’ レーザ装置
12 レーザパワーモニタ
14 レーザ電源
16、16’ レーザ制御装置
18 レーザ出力指令部
20 励起エネルギー指令部
24、24’ 出力補正部
32 ビームアブソーバ
34 シャッタ
36 パワーモニタ値変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のプログラムまたは操作者の入力に基づいてレーザ出力指令を作成するレーザ出力指令部と、
前記レーザ出力指令に基づいてレーザ電源に送られる励起エネルギー指令を作成する励起エネルギー指令部と、
前記レーザ電源が出力した励起エネルギーにより得られるレーザ出力を測定するレーザパワーモニタと、
前記レーザパワーモニタにより測定されたレーザ出力と前記レーザ出力指令に含まれる指令出力とが合致するように、前記指令出力を補正するための補正係数を決定する出力補正部と、を備えるレーザ装置であって、
補正係数決定のためのレーザ出力指令とは異なる、予め設定された単一または複数のレーザ出力指令条件および継続時間にて予備レーザ出力を行う手段と、
所定時間後に補正係数決定のためのレーザ出力指令条件および継続時間にて補正用レーザ出力を行う手段と、をさらに備え、
前記出力補正部は、前記予備レーザ出力および前記補正用レーザ出力の測定結果に基づいて補正係数を決定することを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記予備レーザ出力のレーザ出力は、出力値の異なる複数のレーザ出力指令によって出力され、
前記出力値の異なる複数のレーザ出力指令は、出力値の高いレーザ出力から出力値の低いレーザ出力の順にレーザ出力を行う指令を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記出力補正部は、複数のレーザ出力指令条件におけるレーザ出力の測定結果に基づいてレーザ出力指令の補正を行うものであり、かつ、予め定めた値より低いレーザ出力指令条件のときのみ、前記出力補正部が前記レーザパワーモニタにより測定されたレーザ出力と指令出力とが合致するように前記指令出力を補正することを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記出力補正部は、複数のレーザ出力指令条件におけるレーザ出力の測定結果に基づいてレーザ出力指令の補正を行うものであり、かつ、最も低いレーザ出力指令条件を、他のレーザ出力指令条件での出力測定結果より算出することを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記出力補正部は、複数のレーザ出力指令条件におけるレーザ出力の測定結果に基づいてレーザ出力指令の補正を行うものであり、かつ、最も低いレーザ出力指令条件を、他のレーザ出力指令条件および予め記憶されている過去の出力補正における測定結果より算出することを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−174720(P2012−174720A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32129(P2011−32129)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】