説明

線状構造物の流動化対策工法

【課題】液状化する地盤に構築された構造物の流動化を、液状化地盤に平面視が格子状の地盤改良壁構造を形成して抑止する流動化対策工法を提供する。
【解決手段】構造物が一方向に長く連続する線状構造物1又は3である場合に、同線状構造物の横断面の片側、又は両側の地盤に形成する平面視が格子状の地盤改良壁2又は4は、当該線状構造物の地震時残留変位量が規定値以内に収まることを条件として、同線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁同士の間隔は狭く形成し、横断面と直交する方向の地盤改良壁同士の間隔は広く形成して、平面視が、線状構造物の横断面方向に長い長方形格子状の地盤改良壁を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液状化する地盤に構築された構造物の流動化を、同液状化地盤に平面視が格子状の地盤改良壁構造を形成して抑止する流動化対策工法、特にいえば、構造物が一方向に長く連続する、例えば護岸構造物や堤防盛土の如き線状構造物である場合に、その流動化を合理的、経済的に抑止する流動化対策工法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状化する地盤に構築された護岸構造物や堤防盛土の如き線状構造物が流動化するのを抑止する流動化対策工法としては、図1Aに例示した護岸構造物1については、背面側(陸側)地盤中に平面視が格子状の地盤改良壁2を形成する。また、図1Bに例示した堤防盛土3の場合は、その横断面の両側(両脇)の地盤中に平面視が格子状の地盤改良壁4、4を形成して同構造物の流動化を抑止する流動化対策工法が知られ実施されている。前記2種の流動化対策工法は、要するに地形的条件の差異により、対策工法の手法、形式が異なっているにすぎない。
液状化地盤に平面視が格子状の地盤改良壁2あるいは4を形成して、地盤を格子状改良壁で取り囲んだ場合、自然地盤に比べて剛性がはるかに大きい改良壁にせん断力が流れるため、地盤に発生するせん断応力は小さくなり、同地盤の液状化が抑制されることは既に良く知られている。
【0003】
ちなみに、下記の特許文献1には、液状化する可能性がある地盤(以下、液状化地盤という場合がある。)に、平面視が格子状の地盤改良壁(難透水性壁構造体)を形成して、格子状壁で取り囲んだ非固化土壌(地下水および砂等)の流動性を遮断して、せん断ひずみを減少させ、過剰間隙水圧の上昇を抑制して液状化を抑止する方法の発明が開示されている。もっとも前記発明の方法は、平面視が格子状の地盤改良壁(難透水性壁構造体)を形成して、その上に建物のような地上構造物を構築するなど、液状化しない通常の地盤として取り扱う(同公報3頁左欄の14行〜18行目)ことを実現したことに意義が大きいと認められる。
また、下記の特許文献2には、上記特許文献1に開示された平面視が格子状の地盤改良壁(難透水性壁構造体)による地盤の液状化防止策には、寸法的にどのような格子が有効で経済的であるかの研究、開発が未だなされていない(同公報1頁左欄の「発明の詳細な説明」の8行〜9行目)ことを解決課題とし、格子壁の加振方向(地震の震動方向=面内方向)の垂直面形状を方形とすると共に、同壁の幅寸Lと高さ寸法Hとの比(L/H)を0.5〜0.8にすると地盤の液状化抑止効果が大きいことを提案している。
更に下記の特許文献3には、平面視が格子状の地盤改良壁を形成して液状化地盤の液状化を抑止する方法において、適正な格子間隔を簡易に算定する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第1930164号(特開昭61−5114号公報)
【特許文献2】特許第2568115号(特開平2−132220号公報)
【特許文献3】特開2001−355229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の発明は、平面視が格子状の地盤改良壁(難透水性壁構造体)を形成して、格子状壁で取り囲んだ非固化土壌(地下水および砂等)の流動性を遮断し、せん断ひずみを減少させ、過剰間隙水圧の上昇を抑制して液状化を抑止する方法の基本原理を開示するに止まり、具体的に、平面視が格子状の地盤改良壁の縦辺、横辺の長さをどの程度の大きさにするべきか、又は縦辺、横辺がどの程度の大きさであると、液状化地盤の液状化を抑止する作用効果が大きいかについての具体的な開示、提案は見あたらない。
また、上述した特許文献2に開示された発明は、格子壁の加振方向(地震の震動方向=面内方向)の垂直面形状を方形とし、その幅寸Lと高さ寸法Hとの比(L/H)を0.5〜0.8にすると、地盤の液状化抑止効果が大きいと記載するのみで、やはり平面視格子状の地盤改良壁の縦辺、横辺の長さをどの程度の大きさにするべきかについて言及したり技術的な提案をする内容ではない。
上記特許文献3には、格子壁の適正な間隔を簡易に算定する方法が開示されているものの、その前提となっているのは、平面視が「正方形」の格子状をなす地盤改良壁(難透水性壁構造体)を形成する考えに限定した内容にすぎない。
従来技術の現状が上述の通りである理由として考えられるのは、自然発生の地震動の方向性が特定されない以上は、直交する方向に改良壁が必要であり、結局、改良壁はどの方向から地震が入力しても良いように、平面視が正方形の格子が基本と考えられているからに他ならない。
因みに、従来一般の平面視が正方形格子状の地盤改良壁(難透水性壁構造体)の壁芯間隔は、通例8m前後のものが多く、その壁厚は1m〜2m程度の大きさとされている。
【0006】
ところで、兵庫県南部地震の発生以降、いわゆるレベル2地震動に対する耐震設計の必要性が高まっている。その場合、従来の許容応力度設計法に代わって、性能規定型設計法が主流になりつつある。
性能規定型で耐震設計を行う場合に、その対象が、たとえば護岸構造物や堤防盛土の流動化防止対策である場合に求められる耐震性能は、護岸構造物や堤防盛土の地震時残留変位量が、ある規定値以内に収まることが条件とされる。
因みに、ここでいう既定値は、線状構造物を設計する際に、地震後も当該構造物を供用できる性能として定められる。
格子状地盤改良壁で地盤を取り囲んだ場合、地震動によるせん断力は、自然地盤に比べて剛性がはるかに大きい地盤改良壁に流れるため、地盤に発生するせん断力は小さくなり、地盤の液状化が抑止されることは既に述べた。もっとも、地震動によって発生するせん断力を負担するのは、大部分が地震動と同じ方向のいわゆる「面内方向改良壁」であることは、旧建設省の土木研究所で行われた、図2に示す小型模型振動実験のモデルa〜eに関する、図3の実験結果として知られている。
例えば図2(d)に示す、地震動と同じ方向のいわゆる「面内方向改良壁」だけの長壁で囲まれた内側地盤の過剰間隙水圧発生量は、同(e)に示す「格子状改良壁」で取り囲んだ内側地盤の過剰間隙水圧発生量と大差がなく、同程度の液状化抑止効果を期待できることを図3から理解できる。
一方、図2(c)に示すように、地震動の方向と直交するいわゆる「面外方向改良壁」だけの短壁に囲まれた内側地盤の過剰間隙水圧発生量は、同前の(e)に示す「格子状改良壁」で取り囲んだ地盤の場合に比してかなり大きく、液状化抑止効果が小さいことを図3から理解できる。
【0007】
上記図2、図3の小型模型振動実験モデルおよび実験結果の検討によると、地震動の方向と平行な「面内方向改良壁」だけの長壁でも液状化抑止効果を期待できる。しかし、地震動の方向性が特定されないために、直交方向にも「面外方向改良壁」が必要であることは既に述べた通りである。よって、構造物が流動化することを抑止する流動化対策工法としては、平面視が格子状をなす地盤改良壁(難透水性壁構造体)の形成は不可避と考えられる訳であるが、必ずしも平面視が「正方形」であるべき必要性のないことも理解できるのである。
【0008】
次に、図4には、図2(c)(d)のように二つの地盤改良壁(長壁)に挟まれた地盤の過剰間隙水圧比を深度方向に応力解析した結果を示す。
先ず図4Aには、図2(c)の如く地震動の方向と直交する二つの「面外方向改良壁」の間隔が10mの場合(図中の■線)と、同5mの場合(図中の□線)について、地盤の過剰間隙水圧比を深度方向に応力解析した結果を示す。両者の過剰間隙水圧比にはさして差のないことが確認される。
次に、図4Bには、図2(d)の如く地震動の方向と平行な二つの「面内方向改良壁」に挟まれた地盤の過剰間隙水圧比を深度方向に応力解析した結果を示す。図4Bを見ると、二つの面内方向改良壁の間隔が5m(●実線)と8m(■線)、および10m(○点線)とでは、それぞれの過剰間隙水圧比に明りょうな大小差が現れている。特にいえば、壁間隔が5mの●実線は、格子モデル(実線)よりも過剰間隙水圧比がかなり小さくなっている。壁の間隔が10m(○点線)の場合は、過剰間隙水圧比が最も大きくなっている。これはつまり、二つの「面内方向改良壁」の間隔の大小は、液状化防止の効果、ひいては構造物の流動化抑止の対策効果に与える影響度が大きいことが明らかである。
【0009】
次に、上記図1A、Bに示した護岸構造物1や堤防盛土3の如き線状構造物に関する、入力地震動の方向と線状構造物の残留変位量との関係について説明する。
図5Aに、護岸構造物の断面構造の例を示し、図5Bには、前記護岸断面の護岸構造物1が直交する問題を有限要素法で解析する時の3次元モデルを示す。
図5B中に示す加振方向Cの地震動を入力として与えるとき、地震動Cの入力と平行な方向の護岸を「面内方向護岸T」と呼び、地震動の入力と直交方向の護岸を「面外方向護岸S」と呼ぶことにする。
図6は、図5Bに示す3次元モデルに、図5Cに示す態様の地震動を与えた際の動的解析で得られた、前記直角二方向の護岸T、Sの水平方向残留変位量の分布を示している。護岸天端の最大残留変位量は、「面外方向護岸S」が1.306mであるのに対して、「面内方向護岸T」のそれは0.493mであり、「面外方向護岸S」の約37%の残留変位しか発生していないことが確認された。
護岸天端の最大残留変位量に上記の差異が生ずる理由は次のように考えられる。
「面外方向護岸S」を海側へ変位させる作用力は、護岸背面の「砂」の液状化による流動力と、当該「面外方向護岸S」に作用する慣性力である。これに対して、「面内方向護岸T」には、「面外方向護岸S」と同様に護岸背面の「砂」の液状化による流動力は作用するものの「面内方向護岸T」を海側へ変位させる慣性力の成分が生じないためである。
上記の通り、線状構造物の場合には、その線状(構造物)と直交する方向の地震動によって発生する、いわゆる「横断面方向の残留変位量」は、同方向の地震動によって発生する「横断面直交方向の残留変位量」に比して遙かに大きい(約2.6倍)ことが確認されたのである。
因みに、以上の知見は、2005年12月の土木学会論文集 No.806/III−73「廃棄物処分場護岸隅角部での遮水矢板の耐震性能に関する解析的考察」より得ている。
【0010】
上記の知見を逆説的にいえば、線状構造物の特性として、線状構造物の横断面と平行する方向(線状構造物と直交する方向)の地震動に対する流動化抑止力は大きく必要であるが、線状構造物の横断面と直交する方向(線状構造物の線状と平行する方向)の地震動に対する流動化抑止力は比較的に小さくても良いことがわかる。
したがって、線状構造物の流動化を抑止する流動化対策として形成する、平面視が格子状をなす地盤改良壁は、線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁(以下、横断面平行方向地盤改良壁という場合がある。)同士の間隔Lと、同横断面と直交する方向の地盤改良壁(以下、横断面直交方向地盤改良壁という場合がある。)同士の間隔Lとは、必ずしも同じ(つまり、平面視が正方形の格子状)であるべき理由がない。
図6に示す、地震動の入力と平行な「面内方向護岸T」、および直交する方向の「面外方向護岸S」のそれぞれにおける最大残留変位量の大きな差異を考慮すると、地震動の入力と直交する方向の「面外方向護岸S」に対する流動化抑止力は大きく必要である。これを換言すると、上記したように、線状構造物の特性として、同線状構造物と直交する方向の地震動に対する流動化抑止力は大きく必要である。
翻って、上記図4Bに示す応力解析の結果を見ると、線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁(横断面平行方向地盤改良壁)同士の間隔Lは、地盤の液状化度を表す過剰間隙水圧比に与える影響が大きいので、できるだけ狭く設定するべきとの結論が得られる。一方、図4Aよると、上記線状構造物の横断面と直交する方向の地盤改良壁(横断面直交方向地改良壁)同士の間隔Lの大小は、地盤の液状化度を表す過剰間隙水圧比にさしたる影響がないので、その壁間隔Lはできるだけ広く設定することが、施工上および経済上好ましいとの結論が得られる。
何故なら、液状化地盤に平面視が格子状の地盤改良壁構造を形成することにより構造物の流動化を抑止する流動化対策工法を実施するにあたっては、構造物の地震時残留変位量を規定値以内に収めつつ、液状化地盤の改良率を下げる、又は改良土量を低減することによりコストダウンと工期の短縮化を図ることが、当面の大きな解決課題となっているからである。
【0011】
そこで本発明の目的は、線状構造物の地震時残留変位量の上述した特性に着眼して、平面視が格子状をなす地盤改良壁を形成して同構造物の流動化を抑止する方策として、線状構造物の横断面と平行な横断面平行方向地盤改良壁同士の間隔Lは狭く形成し、前記横断面と直交する横断面直交方向地盤改良壁同士の間隔Lは広く形成して、平面視が線状構造物の横断面と平行方向に長い長方形格子状の地盤改良壁を形成して、線状構造物の流動化を抑制する目的を達成しつつ、地盤改良率を低減し、改良土量を低減化して工事費の節減と工期の短縮化を実現できる、線状構造物の流動化対策工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る線状構造物の流動化対策工法は、液状化する地盤に構築された構造物の流動化を、同液状化地盤に形成した平面視が格子状の地盤改良壁により抑止する流動化対策工法において、
構造物が一方向に長く連続する線状構造物1又は3である場合に、同線状構造物の横断面の片側、又は両側の地盤に形成する平面視が格子状の地盤改良壁2又は4は、当該線状構造物の地震時残留変位量が規定値以内に収まることを条件として、同線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁同士10、10の間隔Lは狭く形成し、前記横断面と直交する方向の地盤改良壁同士11、11の間隔Lは広く形成して、平面視が、線状構造物の横断面方向に長い長方形格子状の地盤改良壁を形成することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した線状構造物の流動化対策工法において、
平面視が、線状構造物1又は3の横断面の方向に長い長方形格子状の地盤改良壁を形成するにあたり、先ず線状構造物が構築された地盤を改良した地盤改良壁の設計強度と剛性を設定し、線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁10について当該地盤の液状化防止に必要な間隔LY1を求め、
また、前記線状構造物1又は3の横断面と平行な方向の地盤改良壁10について格子状地盤改良壁構造体としての健全性を確保できる横断面平行方向地盤改良壁同士10の間隔LY2を求め、
前記のように求めた2種の間隔LY1とLY2とを比較して、小さい方の間隔を線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁同士の間隔Lと定めること、
他方、線状構造物1又は3の横断面と直交する方向の地盤改良壁同士11の間隔Lは、当該地盤改良壁が格子状改良壁構造体としての健全性を確保できる壁間隔を、横断面直交方向地盤改良壁同士11の間隔Lとして求め定めることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した線状構造物の流動化対策工法において、
横断面直交方向地盤改良壁同士11、11の間隔Lと、横断面平行方向地盤改良壁同士10、10の間隔Lとの関係は、L<L≦5×Lの式により求め定めることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した線状構造物の流動化対策工法において、
線状構造物は、護岸構造物1、堤防盛土3、鉄道や道路の盛土、地下の上・下水道管や各種のトンネル、ボックスカルバートなどであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る線状構造物の流動化対策工法は、平面視が格子状をなす地盤改良壁の形成に関し、線状構造物1又は3の横断面と平行な横断面平行方向地盤改良壁同士10、10の間隔Lは狭く形成し、同横断面直交方向地盤改良壁同士11、11の間隔Lを広く(L<L≦5×L)形成して、平面視が長方形の格子状地盤改良壁を形成するので、従来の平面視が正方形の格子状地盤改良壁を形成する場合に比して、当然に地盤改良率を低減でき、改良土量を低減できるので、工事費の節減と工期の短縮化を達成できる。
もちろん、線状構造物1又は3の流動化を抑制する効果は、平面視が正方形の格子状地盤改良壁を形成する場合に比して、勝るとも劣らない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
線状構造物1又は3の横断面の片側、又は両側の地盤に形成する平面視格子状の地盤改良壁2又は4は、前記線状構造物の地震時残留変位量が規定値以内に収まることを条件として、線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁同士10、10の間隔Lは狭く形成し、前記横断面と直交する方向の地盤改良壁同士11、11の間隔Lは広く形成して、平面視が、線状構造物の横断面と平行な方向に長い長方形格子状の地盤改良壁を形成する。
【実施例1】
【0017】
以下に、本発明に係る線状構造物の流動化対策工法を、実施例と共に説明する。
図1Aに例示する護岸構造物1、或いは図1Bに例示する堤防盛土3のように一方向に連続する線状構造物を、液状化する地盤に構築した場合に、同線状構造物の流動化を、同液状化地盤片側又は両側に形成した、平面視が格子状の地盤改良壁2或いは4により抑止する流動化対策工法を実施するにあたり、長方形格子状の地盤改良壁を形成する設計フローは、図10のようになる。
【0018】
先ずは現地調査あるいは既往データの精査により、地盤改良壁の現場強度を仮定するステップS1に始まる。
次には、前記仮定に基づき、地盤改良壁の設計強度と剛性を設定するステップS2を実行する。その手法としては、例えば現場サイトで採取した試料を用いた室内配合試験を行い、室内強度として設計強度と剛性を設定する。
その後に、設計ステップフローは二手に分かれる。その一方は、図10の右側へのステップフローで、地盤改良壁のせん断応力を検討し、健全性を確認するステップS3を実行する。このステップS3では、地震動が入力した場合に、格子壁内部の地盤が仮に液状化しても、地盤の摩擦抵抗、或いは剛性を考慮できなくても、格子状地盤改良壁が構造体としての健全性を確保できておれば、同格子状地盤改良壁の滑動に対するせん断抵抗を、格子状地盤改良壁だけで確保できたことになり、格子状地盤改良壁が成立する。ひいてはその格子状地盤改良壁における横断面平行方向地盤改良壁同士10の間隔LY2および横断面直交方向地盤改良壁同士11の間隔LX2が定まることになる(ステップS4およびS5)。前記の間隔LX2は、そのまま横断面直交方向地盤改良壁同士11の間隔Lとして定められる。
【0019】
次に、図10の左側へのステップフローでは、地盤の液状化防止に必要な格子状改良壁の間隔を検討するステップS6を実行する。もっとも、前記右側のステップS3と当該ステップS6には先後の関係がなく、同時並行に実行してよい。
このステップS6では、主として線状構造物1又は3と直交する方向、換言すれば、線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁同士10、10の間隔LY1を求める作業を行う。
その理由は、上記段落番号[0009]に記載した知見の通り、線状構造物1又は3の場合は、その特性として、線状構造物と直交する方向(線状構造物の横断面と平行な方向)の地震動によって発生する横断面と平行方向の地震時残留変位量は、線状と平行方向の地震動によって発生する横断面方向の地震時残留変位量に比して遙かに大きいからである。これを言い換えると、線状構造物1又は3と直交する方向の地震動に対しては、流動化抑止効果の大きい格子状地盤改良壁を形成しなければならない。しかし、線状構造物と平行方向の地震動に対する流動化抑止効果は、前者ほどに大きくは必要としない。よって、平面視が格子状の地盤改良壁は、平面視正方形の格子状をなす地盤改良壁である必要はなく、むしろ、そのように形成することは非効率で不経済であると理解されるのである。
【0020】
そこで、上記段落番号[0009]に記載した知見を参照する。すなわち、線状構造物1又は3の流動化を抑止する流動化対策として平面視を格子状に形成する地盤改良壁のうち、線状構造物の線状と直交する方向の地震動と平行な方向(横断面平行方向)の地盤改良壁同士10、10の間隔LY1の大小は、地盤の液状化度を表す過剰間隙水圧比に与える影響がすこぶる大きい(図4B)。よって、好ましくは同間隔LY1を狭く設定しなければならない。他方、前記地震動の方向と直交する方向(線状構造物の横断面直交方向)の地盤改良壁同士11、11の間隔Lの大小は、地盤の液状化度を表す過剰間隙水圧比にさしたる影響がない(図4A)ので、同間隔Lはできるだけ広く設定することが望ましいとの結論に到達する。
【0021】
以上の知見を勘案し総合評価する設計フローとして、ステップS8では、上記ステップ7で求めた、液状化防止の観点で定められる、線状構造物1又は3の線状と直交する方向の地震動と平行な方向(横断面平行方向)の地盤改良壁同士10、10の間隔LY1と、先のステップS4で求めた、同じく線状構造物と直交する方向の地盤改良壁10について健全性の観点で求めた間隔LY1とを比較検討し、小さい方の数値を横断面平行方向地盤改良壁同士10、10の間隔Lとして定める。
かくして決定ステップS9では、線状構造物1又は3の横断面平行方向地盤改良壁同士10、10の間隔Lと、および先のステップS5で求め設定した横断面直交方向地盤改良壁同士11、11の間隔Lを決定する。
こうして、図7にモデル化した実施例1を示したように、線状構造物1と直交する方向の地震動を基軸として、平面視が長方形(L×L)の格子状地盤改良壁10、11を合理的、経済的に求め施工することができる。
図7に示す実施例1は、平面視が長方形の格子状地盤改良壁に関する地形的条件として、左側(又は右側)に線状構造物1が同紙面の上下方向に長く構築されている。図7中の符号10が線状構造物の横断面平行方向地盤改良壁を示し、11が横断面直交方向地盤改良壁を示す。
更に、図8は、上記平面視が長方形の格子状地盤改良壁のうち、横断面平行方向地盤改良壁10を直径がφ1000mmの2軸地盤改良機でラップ施工し、横断面直交方向地盤改良壁11は直径がφ1600mmの単軸地盤改良機で施工した実施例2を示す。
また、図9は、横断面平行方向地盤改良壁10を直径がφ1000mmの2軸地盤改良機でラップ施工し、横断面直交方向地盤改良壁11は2軸の高圧噴射併用地盤改良機で直径φが1900mmに施工した実施例3を示している。
【0022】
次に、上記図10の左側のステップS6、S7において求める、線状構造物と直交する方向の地震動と平行な横断面平行方向地盤改良壁同士10、10の液状化防止の観点に基づく間隔LY1、および同右側のステップS5において求める、横断面直交方向地盤改良壁11同士の間隔Lについて、それぞれ地盤改良体が滑動しない、つまり滑動安全率が1以上で、線状構造物の流動化による変位を許容値内に抑止して流動化対策工法として実効性がある具体的大きさを定量的に求める手法について説明する。
本実施例では、液状化する地盤に形成した改良体の滑動に対する安全率を、「液状化対策工法設計・施工マニュアル(案)平成11年3月」にしたがって計算を行い、格子状改良壁同士の壁中心間隔LとLを種々に変えて検討を行った。
前記の計算は、図7のような格子状改良壁の一列分につき、横断面平行方向地盤改良壁10同士の間隔Lを3.4mに固定し、横断面直交方向地盤改良壁11同士の間隔Lは3.4m、8.5m、17mの3種を採択して行った。
【0023】
地盤改良壁の線状構造物横断面方向への滑動に対する安全率Fの算定は、地盤改良壁に作用する力を、図11のように定義した上で、次のように行う。
線状構造物の横断面平行方向の地震動に対する安全率Fは、次の数1で計算する。
(数1)
=(PPH+F)/(PAH+H)
線状構造物の横断面直交方向の地震動に対する安全率Fは、次の数2で計算する。
(数2)
=(PPH+F)/PAH
線状構造物の横断面直交方向の地震動(加振)に対する安全率Fは、上記したように、線状構造物に横断面方向の慣性力成分が発生しないので、横断面平行方向の地震動に対する安全率Fよりも高くなる。
上記のようにして各断面方向の地震動に対する安全率を計算した結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
図12には、上記計算結果の一覧を、格子状壁の壁中心間隔と安全率との関係をまとめている。格子状壁で囲まれた地盤が非液状化である場合(表1のNo.1、No.3、No.5)は、底面せん断抵抗は改良壁と地盤を足した面積に対してせん断抵抗を計算している。格子状壁で囲まれた地盤が液状化する場合(表1のNo.2、No.4、No.6)は、底面せん断抵抗は改良壁の面積に対してだけせん断抵抗を計算している。この液状化する場合(表1のNo.2、No.4、No.6)の滑動安全率は、いずれも1以下であることが象徴的である。
図12によれば、線状構造物の横断面直交方向の地震動(加振)については、格子状壁で囲まれた地盤が液状化して地盤部分のせん断抵抗を考慮できないため、線状構造物の断面と直交する方向の地盤改良壁の壁中心間隔は、線状構造物の横断面平行方向の地盤改良壁の壁中心間隔の5倍に広げてもなお、平面視が長方形の格子状改良壁の、線状構造物の横断面方向の滑動に対する安全率は、格子状壁で囲まれた地盤が液状化しない条件下における線状構造物の断面方向地震動(加振)の滑動に対する安全率より高いので、前記格子状改良壁の壁中心間隔の比を最大5としても、本発明の平面視長方形の格子状改良壁の線状構造物の流動化を抑止する流動化対策効果を十分期待できるのである。
【0026】
したがって、本発明によれば、横断面直交方向地盤改良壁同士11、11の間隔Lと、横断面平行方向地盤改良壁同士10、10の間隔Lとの関係は、L<L≦5×Lの範囲で求め定めるかぎり、線状構造物の流動化対策工法として実効性のある実施ができることは明らかである。
【0027】
具体的には表1に示したように、線状構造物の横断面平行方向の地盤改良壁の壁中心間隔Lは一例として3.4mに設定していることを考慮すると、線状構造物の断面と直交する方向の地盤改良壁の壁中心間隔Lは17mでもよいことが理解される。
もっとも、図8に示す長方形格子状地盤改良壁の実施例は、横断面平行方向の地盤改良壁の壁中心間隔Lは6.4mで、横断面直交方向地盤改良壁の壁中心間隔Lは10.5m、図9に示す長方形格子状地盤改良壁の実施例は、横断面平行方向の地盤改良壁の壁中心間隔Lは6.4mで、横断面直交方向地盤改良壁の壁中心間隔Lは13mの場合を示している。
従来の平面視正方形の格子状地盤改良壁の一辺の長さが8m前後の実施例が多いことを考慮して横断面平行方向の地盤改良壁の壁中心間隔Lを8mとするときは、横断面直交方向地盤改良壁の壁中心間隔Lは20mないし30mのおおきさで実施する可能性があることを容易に理解されるであろう。
【0028】
以上に本発明を実施例と共に説明したが、もとより本発明は実施例の内容に限定されるものではない。本発明の要旨と目的を逸脱しない範囲で、いわゆる当業者が必要に応じて行う設計変更や応用、利用として種々な態様で実施されることを念のため申し添える。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】A、Bは線状構造物構造物の例をモデル化して示す斜視図である。
【図2】a〜eは振動実験モデルを示す平面図である。
【図3】振動実験の結果を示すグラフである。
【図4】A、Bは地盤の応力解析図である。
【図5】Aは護岸構造物の断面図、Bは解析用3次元モデル図、Cは入力する地震動の波形図を示す。
【図6】護岸の動的解析による水平方向残留変位量の分布図である。
【図7】本発明による地盤改良壁の実施例を主要部について示す平面図である。
【図8】本発明による地盤改良壁の異なる実施例を主要部について示す平面図である。
【図9】本発明による地盤改良壁の異なる実施例を主要部について示す平面図である。
【図10】本発明による地盤改良壁の設計フロー図である。
【図11】地盤改良壁に作用する力のモデル図である。
【図12】格子状壁の間隔と安全率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1、3 線状構造物
2、4 地盤改良壁
10 線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁
横断面平行方向地盤改良壁同士の間隔
11 横断面と直交する方向の地盤改良壁
横断面直交方向地盤改良壁同士の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化する地盤に構築された構造物の流動化を、同液状化地盤に形成した平面視が格子状の地盤改良壁により抑止する流動化対策工法において、
構造物が一方向に長く連続する線状構造物である場合に、同線状構造物の横断面の片側、又は両側の地盤に形成する平面視が格子状の地盤改良壁は、前記線状構造物の地震時残留変位量が規定値以内に収まることを条件として、線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁同士の間隔は狭く形成し、前記横断面と直交する方向の地盤改良壁同士の間隔は広く形成して、平面視が、線状構造物の横断面の方向に長い長方形格子状の地盤改良壁を形成することを特徴とする、線状構造物の流動化対策工法。
【請求項2】
平面視が、線状構造物の横断面の方向に長い長方形格子状の地盤改良壁を形成するにあたり、先ず線状構造物が構築された地盤を改良した地盤改良壁の設計強度と剛性を設定し、線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁について当該地盤の液状化防止に必要な間隔LY1を求め、
また、前記線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁について格子状地盤改良壁構造体としての健全性を確保できる横断面平行方向地盤改良壁同士の間隔LY2を求め、
前記のように求めた2種の間隔LY1とLY2とを比較して、小さい方の間隔を線状構造物の横断面と平行な方向の地盤改良壁同士の間隔Lと定めること、
他方、線状構造物の横断面と直交する方向の地盤改良壁同士の間隔Lは、当該地盤改良壁が格子状地盤改良壁構造体としての健全性を確保できる壁間隔を横断面直交方向地盤改良壁同士の間隔として求め定めることを特徴とする、請求項1に記載した線状構造物の流動化対策工法。
【請求項3】
横断面直交方向地盤改良壁同士の間隔Lと、横断面平行方向地盤改良壁同士の間隔Lとの関係は、L<L≦5×Lの式により求め定めることを特徴とする、請求項2に記載した線状構造物の流動化対策工法。
【請求項4】
線状構造物は、護岸構造物、堤防盛土、鉄道や道路の盛土、地下の上・下水道管や各種のトンネル、ボックスカルバートなどであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した線状構造物の流動化対策工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−327209(P2007−327209A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157881(P2006−157881)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【Fターム(参考)】