説明

緩衝器

【課題】低周波数帯域の振動の入力のみならず高周波数帯域の振動の入力に対しても充分に振動を抑制することができる緩衝器を提供することである。
【解決手段】本発明の緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を2つの作動室に区画する隔壁部材2と、二つの作動室R1,R2を連通するとともに通過流体に抵抗を与える減衰通路3と、減衰通路3を迂回して二つの作動室R1,R2を連通するバイパス路5と、バイパス路5の途中に設けた圧力室R3と、圧力室R3内に摺動自在に挿入されて圧力室R3を一方の作動室R2に連通される一方室6と他方の作動室R1に連通される他方室7とに区画するフリーピストン8と、フリーピストン8を中立位置に位置決める附勢手段9を備え、所定周波数以上の周波数で振動するとバイパス路5を閉じる弁手段10を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から緩衝器は、車両の車体と車軸との間に介装され、車両の振動を減衰させる用途に使用され、車両における乗り心地の向上と操縦性を向上させる役割を担っている。
【0003】
他方、車両は、一般的に、車軸と車体との間にバネ要素を介装させて走行中に路面から車軸へ入力される振動が車体に伝播することを抑制している。さらに、車軸は、タイヤを介して接地しており、タイヤがバネ要素として振舞うことから路面から車体へ振動が伝達される経路には二つのバネ要素が介在することになり、車両における上下方向の振動系には二つの共振点を持つ。そして、車体重量は車軸重量より重いため、車体が共振する共振周波数(バネ上共振周波数)は車軸が共振する共振周波数(バネ下共振周波数)より低くなるのが一般的である。
【0004】
したがって、二つの共振周波数の振動入力時に緩衝器が大きな減衰力を出力することができれば、車両の振動を効果的に減衰して、車両における乗り心地の向上と操縦性を向上させることに繋がるのであるが、これら共振周波数およびこの近傍以外の振動に対して大きな減衰力を発揮することになるとバネ要素による振動の絶縁を妨げて、却って乗り心地を損ねることがあるので、可能であれば緩衝器に周波数に依存した減衰力を発生させたい。
【0005】
しかしながら、車両の乗り心地に大きな影響を与えるのは、バネ下共振周波数の振動よりもバネ上共振周波数の振動であり、また、バネ上共振周波数とバネ下共振周波数の間の減衰力を小さくした方が乗り心地を向上できることが経験的に知られており、また、緩衝器の作動油の圧縮性から振動が高周波になればなるほど減衰力発生に応答遅れが生じてゲインが低下することから、従来の周波数感応の減衰力を発生する緩衝器(たとえば、特許文献1参照)では、バネ上共振周波数の振動の抑制を重視したものとなっており、バネ上共振周波数の振動に対しては大きな減衰力を発揮させ、周波数が高くなると徐々に減衰力が小さくなるようになっている。
【0006】
具体的には、この緩衝器は、シリンダと、シリンダとシリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を上室と下室に区画するピストンと、ピストンに設けられた上室と下室を連通して通過流体の流れに抵抗を与える減衰通路と、ピストンロッドの先端から側部に開通し減衰通路を迂回して上室と下室を連通するバイパス路と、バイパス路の途中に接続される圧力室を備えてピストンロッドの先端に取付けられたハウジングと、圧力室内に摺動自在に挿入され圧力室を一方室と他方室とに区画するフリーピストンと、フリーピストンを附勢するコイルバネとを備えて構成されている。
【0007】
ここで、緩衝器の伸縮時における上室と下室との差圧をPとし、上室から流出する液体の流量をQとし、上記差圧Pと第一通路を通過する液体の流量Q1との関係である係数をC1とし、他方室内の圧力をP1とし、この圧力P1と上室から他方室に流入する液体の流量Q2との関係である係数をC2とし、一方室内の圧力をP2とし、この圧力P2と一方室から下室内に流出する液体の流量Q2との関係である係数をC3とし、フリーピストンの受圧面積である断面積をAとし、フリーピストンの圧力室に対する変位をXとし、コイルバネのバネ定数をKとして、流量Qに対する差圧Pの伝達関数を求めると、式(1)が得られる。なお、式(1)中、sはラプラス演算子を示している。
【数1】

さらに、上記式(1)で示された伝達関数中のラプラス演算子sにjωを代入して、周波数伝達関数G(jω)の絶対値を求めると、以下の式(2)が得られる。
【数2】

上記各式から理解できるように、この緩衝器における流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、図4のボード線図に示したように、Fa=K/{2・π・A・(C1+C2+C3)}とFb=K/{2・π・A・(C2+C3)}の2つの折れ点周波数を持ち、また、F<Faの領域においては、伝達ゲインは略C1となり、Fa≦F≦Fbの領域においてはC1からC1・(C2+C3)/(C1+C2+C3)まで漸減するように変化し、F>Fbの領域においてはC1・(C2+C3)/(C1+C2+C3)となる。すなわち、流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、低周波数域では伝達ゲインが大きくなり、高周波数域では伝達ゲインが小さくなる。
【0008】
したがって、この緩衝器では、図5に示したように、低周波数帯域の振動の入力に対しては減衰係数を大きくして減衰力を発生し、他方、周波数が高くなっていくにつれて、減衰係数を小さくして減衰力を発揮する。
【特許文献1】特開2006−336816号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した緩衝器では、高周波数帯域に存在するバネ下共振周波数の振動を抑制するために必要最低限の減衰力を発揮するように設計され、これを下限として低周波数帯域に存在するバネ上共振周波数の振動に対して発生する減衰力をチューニングして、車両における乗り心地を向上するようにしているが、結局のところ、振動周波数が大きくなると発生減衰力が小さくなってしまうため、乗り心地への影響はバネ上共振周波数の振動に比較すれば小さいとは言え、バネ下共振周波数の振動の抑制が不十分となり、乗り心地と操縦性の点で更なる向上が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、低周波数帯域の振動の入力のみならず高周波数帯域の振動の入力に対しても充分に振動を抑制することができる緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を2つの作動室に区画する隔壁部材と、二つの作動室を連通するとともに通過流体に抵抗を与える減衰通路と、減衰通路を迂回して二つの作動室を連通するバイパス路と、バイパス路の途中に設けた圧力室と、圧力室内に摺動自在に挿入されて圧力室を一方の作動室に連通される一方室と他方の作動室に連通される他方室とに区画するフリーピストンとを備え、フリーピストンを中立位置に位置決める附勢手段とを備えた緩衝器において、所定周波数以上の周波数で振動するとバイパス路を閉じる弁手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の緩衝器によれば、低周波振動に対して従来の緩衝器と同様に大きな減衰係数にて減衰力を発揮し、高周波振動に対してはバイパス路が遮断されて減衰通路を迂回して作動室同士を交流する流量が皆無となり、全流量が減衰通路を通過するようになって、減衰係数を大きくして減衰力を発揮するようになる。
【0013】
したがって、この緩衝器にあっては、低周波数帯域の振動の入力のみならず高周波数帯域の振動の入力に対しても充分に振動を抑制することができ、車両における乗り心地と操縦性を向上させることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の緩衝器を各図に基づいて説明する。図1は、一実施の形態における緩衝器の概略図である。図2は、一実施の形態の具体的構成の一例における緩衝器の縦断面図である。図3は、一実施の形態の具体的構成の一例における緩衝器のピストン部の拡大縦断面図である。
【0015】
一実施の形態における緩衝器Dは、基本的には、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を2つの作動室である上室R1および下室R2に区画する隔壁部材たるピストン2と、一端がピストン2に連結されるピストンロッド15と、ピストン2に形成された上室R1および下室R2を連通する減衰通路3と、減衰通路3を迂回して上室R1と下室R2とを連通するバイパス路5と、ピストンロッド15の先端に固定されてバイパス路5の途中に圧力室R3を形成するハウジング4と、上記ハウジング4内に摺動自在に挿入されて圧力室R3を一方の作動室たる下室R2に連通される一方室6と他方の作動室たる上室R1に連通される他方室7とに区画するフリーピストン8と、フリーピストン8を圧力室R3内で中立位置に位置決める附勢手段9とを備えるとともに、緩衝器Dが所定周波数以上の周波数で伸縮振動するとバイパス路5を閉じる弁手段10を備えて構成されている。
【0016】
また、この緩衝器Dにあっては、上室R1および下室R2さらには圧力室R3内には流体として、たとえば、作動油が充満され、この緩衝器Dの場合、シリンダ1内の図中下方には、シリンダ1の内周に摺接して下室R2と気体室Gとを区画する摺動隔壁11が設けられている。緩衝器D内に充填する流体は、この場合、液体とされているが、気体であってもよく、流体が気体である場合には気体室Gやリザーバといったシリンダ1にピストンロッド15が出入りすることによるシリンダ1内の容積変化を補償する機構を設けなくともよい。
【0017】
なお、シリンダ1の上下端は閉塞されており、当該上端をピストンロッド15が摺動自在に貫いて、ピストンロッド15のシリンダ1内への出入りを許容している。
【0018】
そして、この実施の形態の場合、ピストンロッド15の先端に圧力室R3を形成するハウジング4が固定されており、圧力室R3はシリンダ1内に区画されている。減衰通路3は、ピストン2に設けられて上室R1と下室R2とを連通するとともに緩衝器Dが伸縮する際に通過する流体の流れに抵抗を与えて上室R1と下室R2に差圧を生じせしめて緩衝器Dに減衰力を発揮させるようになっている。
【0019】
バイパス路5は、この場合、上室R1に臨むピストンロッド15の側方から開口してハウジング4内の圧力室R3に通じ、さらには、ハウジング4を貫いて下室R2へ通じている。
【0020】
そして、圧力室R3内には、フリーピストン8が摺動自在に挿入されており、圧力室R3は、当該フリーピストン8によって上室R1に連通される他方室7と下室R2に連通される一方室6に仕切られている。
【0021】
さらに、フリーピストン8は、附勢手段9によって、圧力室R3内に中立位置に位置決められ、この附勢手段9は、フリーピストン8の中立位置からの図1中上下へ変位することを抑制するようになっている。特に、緩衝器Dの振動周波数が低く、上室R1内の圧力が伝播する他方室7と下室R2内の圧力が伝播する一方室6の圧力交番における周波数も低い場合には、附勢手段9の附勢力によってフリーピストン8の速度が小さく抑えられ、バイパス路5を介して上室R1から下室R2へ或いは下室R2から上室R1への流体の見かけ上の流量は少なくなり、その分、流体が減衰通路3を通過して緩衝器Dの減衰係数を大きくして減衰力を発揮する。
【0022】
なお、バイパス路5を介しての上室R1と下室R2との流体の流量を、見かけ上と表現しているのは、バイパス路5の途中に設けた圧力室R3内はフリーピストン8によって区画されており、厳密には上室R1と下室R2はバイパス路5によって通じていないが、フリーピストン8は、圧力室R3の一方室6と他方室7との圧力バランスによって変位して一方室6と他方室7の容積を変化させ、流体は、バイパス路5を通じて上室R1と下室R2とを行き来する振る舞いを呈するためである。
【0023】
すなわち、低周波振動に対して緩衝器Dは、従来の緩衝器と同様に大きな減衰係数にて減衰力を発揮し、車両のバネ上共振周波数を緩衝器Dが減衰係数を大きく維持する低周波数帯域の範囲に収めるように設定しておくことで、バネ上共振周波数の振動入力に対して減衰力が充分に発揮されて、車両の乗り心地と操縦性を向上させることができる。
【0024】
他方、弁手段10は、緩衝器Dに入力される振動周波数が所定周波数以上となる場合、具体的には振動周波数が高周波数帯域にある場合に、バイパス路5を閉塞するようになっている。弁手段10は、バイパス路5の途中に配置されており、図示しない弁体でバイパス路5を開閉するようになっており、緩衝器Dの伸縮周波数、緩衝器Dの伸縮周波数が現れる緩衝器Dの伸縮の際の上室R1と下室R2或いはこれらの圧力が伝播される一方室6、他方室7の圧力交番の周波数を検知するなどし、当該周波数が高いと弁体でバイパス路5を閉塞するようになっている。なお、周波数の検知は周知の緩衝器Dの伸縮ストロークを検知するセンサや圧力を検知するセンサによって行い、弁手段10が弁体でバイパス路5を通常では閉じる常閉型に設定される場合には当該周波数が低い場合に、弁体をソレノイド等の周知の駆動手段によって駆動してバイパス路5を開放し、反対に、周波数が高い場合には閉弁状態に維持するようにしてもよいし、弁手段10が弁体でバイパス路5を通常では開放する常開型に設定される場合には当該周波数が低い場合に、開弁状態に維持しておき、周波数が高い場合には弁体をソレノイド等の周知の駆動手段によって駆動してバイパス路5を閉塞するようにしてもよい。
【0025】
また、上記駆動形式では電力を消費するので、上記した上室R1と下室R2或いはこれらの圧力が伝播される一方室6、他方室7の圧力をパイロット圧として弁体に作用させて弁体に推力を与えるようにしておき、圧力交番の周波数が高い場合には、弁体でバイパス路5を遮断するように設定してもよい。
【0026】
すると、この緩衝器Dにあっては、振動周波数が低周波数帯域を越えると、上室R1と下室R2のバイパス路5を介しての見かけ上の流体の交流量も多くなり、減衰通路3を迂回する流量が増加するので、減衰通路3を流れる流量を減少させて緩衝器Dの減衰係数を低下させる。そして、バイパス路5が遮断される高周波数帯域を越えない状態では、緩衝器Dの減衰係数は周波数の上昇に伴って徐々に低下させる傾向となり、この低周波数帯域と高周波数帯域の間の振動に対しては、緩衝器Dは減衰係数を低くして減衰力を発生する。
【0027】
これに対して、緩衝器Dの振動周波数が高周波数帯域に達すると、バイパス路5が遮断されて減衰通路3を迂回して上室R1と下室R2とを交流する流量が皆無となり、全流量が減衰通路3を通過するようになって、緩衝器Dは減衰係数を大きくして減衰力を発揮するようになり、弁手段10でバイパス路5を遮断する所定周波数以上の周波数帯域の範囲に、バネ下共振周波数が入るように設定しておくことで、バネ下共振周波数の振動入力に対して減衰力が充分に発揮されて、車両の乗り心地と操縦性を向上させることができる。
【0028】
したがって、この緩衝器Dにあっては、低周波数帯域の振動の入力のみならず高周波数帯域の振動の入力に対しても充分に振動を抑制することができ、車両における乗り心地と操縦性を向上させることができるのである。なお、本実施の形態においては、緩衝器Dの減衰特性、具体的には減衰係数の変化、を説明するために、緩衝器Dの振動周波数に低周波数帯域、高周波数帯域およびこれらの中間でなる区分を設けているが、これらの区分の境界の周波数はそれぞれ任意に設定することができ、緩衝器Dが用いられる車両の振動の抑制に適するように設定されればよい。
【0029】
以上、緩衝器Dを概略図にて説明してきたが、以下、緩衝器Dの具体的な一構成例を図2および図3を用いて説明する。
【0030】
まず、ピストンロッド15は、その図3中下端側に小径部15aが形成されるとともに、小径部15aの先端側には螺子部15bが形成されている。
【0031】
そして、ピストンロッド15には、小径部15aの先端から開口する縦穴15bと、側方から開口して縦穴15bの側部へ通じる横孔15cと、側方から開口して縦穴15bの上端へ通じる圧力導入孔15dとを備えており、縦孔15b内には、弁手段10における他方側開閉弁13を収容するカートリッジ40が固定されて収容されている。
【0032】
ピストン2は、環状に形成されるとともに、その内周側にピストンロッド15の小径部15aが挿入されている。また、このピストン2には、上室R1と下室R2とを連通する減衰通路3a,3bが設けられ、減衰通路3aの図中上端はリーフバルブV1にて開閉され、他方の減衰通路3bの図中下端もリーフバルブV2によって閉閉されるようになっている。
【0033】
このリーフバルブV1,V2は、共に環状に形成され、内周側にはピストンロッド15の小径部15aが挿入され、内周側がピストンロッド15に固定されてピストン2に積層される。
【0034】
そして、リーフバルブV1は、緩衝器Dの収縮時に下室R2と上室R1の差圧によって撓んで開弁し減衰通路3aを開放して下室R2から上室R1へ移動する液体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝器Dの伸長時には減衰通路3aを閉塞するようになっており、他方のリーフバルブV2は、リーフバルブV1とは反対に緩衝器Dの伸長時に減衰通路3bを開放し、収縮時には減衰通路3bを閉塞する。すなわち、減衰通路3a,3bは、リーフバルブV1,V2によって通過する流体の流れに抵抗を与えて、緩衝器Dに減衰力を発生させるようになっている。このように、通路を一方通行とする場合には、緩衝器Dのように、減衰通路3a,3bを設けてそれぞれを緩衝器Dの伸長時あるいは収縮時のみ液体が通過するように構成してもよく、また、減衰通路が双方向流れを許容する場合には一つのみを設けるようにしてもよく、また、減衰通路3a,3bにて流体の流れに抵抗を与えるには、リーフバルブV1,V2以外にも、絞り弁等の他の弁を採用するようにしてもよい。また、リーフバルブV1,V2は、図示したところでは、単一の環状板で構成されているが、環状板の枚数は任意であり、緩衝器Dにて発生する減衰力に応じて決定すればよい。
【0035】
そして、ピストンロッド15の小径部15aの下端に設けた螺子部15eには、上記リーフバルブV2の下方から圧力室R3を形成するハウジング4が螺着され、このハウジング4によって、上記したピストン2、リーフバルブV1,V2がピストンロッド15に固定されている。このように、ハウジング4は、内部に圧力室R3を形成するだけでなく、ピストン2をピストンロッド15に固定する役割をも果たしている。すなわち、ハウジング4は、ピストンナットとしても機能するので、緩衝器Dの部品点数の削減に寄与している。
【0036】
このハウジング4について説明すると、ハウジング4は、ピストンロッド15の螺子部15eに螺合されるチャンバ21と、チャンバ21に図3中下方へ連なる筒状の弁保持部22とを備えて構成され、下室R2に臨んでいる。
【0037】
チャンバ21は、環状であって内周がピストンロッド15の螺子部15eに螺合する蓋21aと、筒部21bとを備えて構成され、筒部21bの内周にフリーピストン8が摺動自在に挿入されている。
【0038】
そして、弁保持部22は、チャンバ21の筒部21bより小径な保持筒22aと、保持筒22aの図3中上端外周に設けたフランジ22bとを備え、フランジ22bがチャンバ21の筒部21bの下端に螺子締結等によって固定されるようになっている。
【0039】
また、チャンバ21の蓋21aには、ハウジング4内外を連通するポート21cが設けられるとともに、弁保持部22のフランジ22bにもハウジング4内外を連通するポート22cが設けられている。
【0040】
そして、ポート21cは、ピストン2に設けたポート2aに連通され上室R1に通じてハウジング4内を上室R1へ連通し、ポート22cは下室R2に臨んでハウジング4内を下室R2へ連通している。なお、リーフバルブV1,V2がポート2aを塞がないように、リーフバルブV1,V2に孔27,28を設けてあり、ポート2aと上室R1との連通およびポート2aとポート21cとの連通が確保されている。
【0041】
さらに、ハウジング4は、ピストンロッド15に設けた縦穴15bおよび横孔15cを介して上室R1へ連通されるとともに、弁保持部22における保持筒22aの側部に設けた孔22dを介して下室R2に連通されている。
【0042】
また、ハウジング4は、内部に圧力室R3を形成し、この圧力室R3は上述したチャンバ21の筒部21bの内周に摺接するフリーピストン8によって一方室6と他方室7とに区画され、一方室6は、ポート22cとこれに並列される孔22dを介して一方の作動室たる下室R2へ連通され、他方室7は、ピストンロッド15の縦穴15bおよび横孔15cを介して上室R1へ連通されるとともに、ポート21cおよびポート2aを介して上室R1へ連通されている。
【0043】
フリーピストン8と蓋21aとの間にはバネ23が介装され、フリーピストン8とフランジ22bとの間にはバネ24が介装され、フリーピストン8はこれらバネ23,24によって挟持され、ハウジング4に対してバネ23,24のバネ力がバランスする中立位置に位置決められている。
【0044】
なお、中立位置は、必ずしもフリーピストン9の圧力室3内でのストローク中心に設定されずともよく、一方室6と他方室7が等圧におかれた状態でバネ23,24のバネ力が釣り合うフリーピストン8のハウジング4に対する位置である。また、この附勢手段9によって、フリーピストン8は、緩衝器Dが振動して中立位置から変位しても中立位置に復帰することができ、また、附勢手段9の附勢力の設定によっても緩衝器Dの振動周波数に対する発生減衰力の特性を調節することができる。
【0045】
この場合、附勢手段9は、バネ23,24によって構成されているが、バネ以外の弾性体で構成されてもよく、また、単一の弾性体やバネによって構成されてもよい。なお、単一の弾性体やバネで附勢手段9を構成する場合には、一端をフリーピストン8に固定し他端をチャンバ21に固定するようにし、フリーピストン8を中立位置に位置決めできるようにすればよい。
【0046】
つづいて、ポート21cのハウジング4内側の開口端は、環状板でなる他方側チェック弁26によって開閉されるようになっている。この他方側チェック弁26は、ハウジング4をピストンナット15の螺子部15eに螺着した後に蓋21aの下端に積層されて、ナット20によって内周側が固定され、外周の撓みが許容されてポート21cを開閉するようになっている。そして、他方側チェック弁26は、ポート21cを上室R1から他方室7へ向かう流体の流れに対しては撓んでポート21cを開放してこれを許容し、反対に、他方室7から上室R1へ向かう流体の流れに対してはポート21cを閉じてこれを阻止するようになっている。したがって、この実施の形態の場合、ポート21cおよびポート2aが、他方室7への流体の流入のみを許容する他方側吸込路として機能している。
【0047】
他方、ポート22cのハウジング4内側の開口端も、環状板でなる一方側チェック弁25によって開閉されるようになっている。この一方側チェック弁25は、フランジ22bに積層された後、弁保持部22内に収容固定される一方側開閉弁12を収容するカートリッジ30の上端開口部外周に設けた鍔30aによって内周側が固定され、外周の撓みが許容されてポート22cを開閉するようになっている。そして、一方側チェック弁25は、ポート22cを下室R2から一方室6へ向かう流体の流れに対しては撓んでポート22cを開放してこれを許容し、反対に、一方室6から下室R2へ向かう流体の流れに対してはポート22cを閉じてこれを阻止するようになっている。したがって、この実施の形態の場合、ポート22cが、一方室6への流体の流入のみを許容する一方側吸込路として機能している。
【0048】
さらに、弁保持部22内には、一方側開閉弁12が収容され、一方側開閉弁12は、環状弁座31と弁孔32を備えたカートリッジ30と、カートリッジ30に設けた弁孔32内に挿入されて弁孔32内を正面室35と背面室36とに区画し環状弁座31に離着座する弁体33と、弁体33を環状弁座31へ向けて附勢するバネ34と、正面室35と背面室36とを連通する弁流路37と、弁流路37を背面室36から正面室35へ向けて流れる流体の流れには抵抗を与えるが正面室35から背面室36へ向かう流体の流れにははオリフィスとして機能する弁要素38とを備えている。
【0049】
一方側開閉弁12について詳しく説明すると、カートリッジ30は、弁保持部22の保持筒22a内に挿入可能な筒とされており、上端開口部の外周に設けた鍔30aと、内周に設けた環状弁座31と、環状弁座31より図3中下方側に設けられて内周で弁体33を摺動自在にガイドする環状の正面ガイド30bと、下端開口部内周に設けられて内周で弁体33を摺動自在にガイドする環状の背面ガイド30cと、環状弁座31と正面ガイド30bとの間の内外を連通する透孔30dとを備えて構成され、正面ガイド30bと背面ガイド30cとの間に弁体33が収容される弁孔32を形成している。
【0050】
このカートリッジ30を弁保持部22内に挿入し、鍔部30aを一方側チェック弁24を介して弁保持部22のフランジ22bに衝合させつつ、カートリッジ30の下端外周にナット39を螺着することによって、カートリッジ30が弁保持筒22b内に収容固定されるようになっている。そして、このようにカートリッジ30が弁保持部22内に固定されると、透孔30dが保持筒22aに設けた孔22dに対向して孔22dを閉塞せず、カートリッジ30内を介して一方室6と下室R2とを連通するようになっている。
【0051】
弁体33は、正面ガイド30bおよび背面ガイド30cの内周に摺接する軸33aと、軸33aの図3中上端に形成されて環状弁座31に衝合可能なポペット型の弁頭33bと、軸33aの中間に設けられてカートリッジ30の内周であって正面ガイド30bと背面ガイド30cとの間に摺接するフランジ33cとを備えて構成され、弁体33をカートリッジ30内に収容すると、弁孔32がフランジ33cによって図3中上方に配置される正面室35と下方に配置される背面室36とに区画するようになっている。
【0052】
そして、弁体33が環状弁座31へ接近する方向へ変位する、すなわち、図3中上方へ変位すると、この変位に伴って正面室35の容積が減少して背面室36の容積が拡大し、反対に、弁体33が環状弁座31から遠ざかる方向へ変位する、すなわち、図3中下方へ変位すると、この変位に伴って正面室35の容積が拡大して背面室36の容積が減少するようになっている。
【0053】
また、フランジ33cには軸方向にこれを貫く弁流路37が設けられ、この弁流路37は、フランジ33cの下端に設けた環状溝37aに通じており、当該環状溝37aは弁要素38によって開閉されるようになっている。
【0054】
弁要素38は、環状板であって内周がフランジ33cと軸33aの外周に装着された弁要素38より小外径で環状のストッパリング33dによって挟持されることにより軸33aに固定され、外周側の撓みが許容されるとともに環状溝37aに対向するオリフィス38aを備えている。
【0055】
そして、弁流路37を正面室35から背面室36へ向かう流体の流れに対しては弁要素38が撓んで弁流路37を開放し、流体の流れに抵抗を与えず弁体33の環状弁座31への接近する移動を妨げず、反対に、弁流路37を背面室36から正面室35へ向かう流体の流れに対しては弁要素38が弁流路37を開放せず流体にオリフィス38aを通過させ、流体の流れに抵抗を与え、弁体33の環状弁座31から遠ざかる移動を妨げるようになっている。
【0056】
また、弁体33は、弁孔32内にあって、ストッパリング33dと背面ガイド30cとの間に挿入されるバネ34によって、環状弁座31へ向けて附勢されて、環状弁座31に弁頭33bが当接して、環状弁座31に着座している。なお、この実施の形態の場合、バネ34が弁要素38に干渉しないようにストッパリング33dにバネ34の一端を当接させているが、フランジ33cの外径が弁要素38の外径より大きく、バネ要素38に干渉しないようであればバネ34をフランジ33cの外周側に当接させるようにしてもよい。
【0057】
さらに、弁体33は、環状弁座31を通じて軸33aの弁頭33b側を一方室6に臨ませ、反対側の端部である図3中下端を背面ガイド30cの内周を通じて下室R2に臨ませており、環状弁座31に着座している状態では環状弁座31の内径を直径とする円の面積を受圧面積として、環状弁座31から離座した状態では軸33aの断面積を受圧面積として作用する一方室6内の圧力よって環状弁座31から遠ざかる方向へ附勢されるとともに、反対に、軸33aの断面積を受圧面積として作用する下室R2の圧力によって環状弁座31へ接近する方向へ附勢されている。
【0058】
したがって、一方室6内の圧力によって弁体33を図3中下方へ押し下げる力が、下室R2の圧力とバネ34による弁体33を図3中上方へ押し上げる力が上回ると、弁体33を環状弁座31から離座させて孔22dおよび透孔30dを介して一方室6を下室R2に連通させることになる。つまり、一方室6内の圧力が下室R2の圧力より所定値以上上回ると、一方側開閉弁12は、開弁して一方室6内の流体がカートリッジ30内、孔22dおよび透孔30dを通じて下室R2へ排出され、反対に、一方室6内の圧力が下室R2の圧力を所定値以上上回らなければ、一方側開閉弁12は閉弁状態に維持され、カートリッジ30内、孔22dおよび透孔30dを通じて流体が一方室6と下室R2とを行き来することが阻止される。
【0059】
すなわち、カートリッジ30内、孔22dおよび透孔30dで形成される通路は、一方室6から下室R2へ流体を排出するときにのみ通じ、この実施の形態の場合、この通路が一方側排出路として機能し、一方側開閉弁12は、圧力室R3内の圧力としての一方室6の圧力をパイロット圧として開弁動作して、一方側排出路を開放するようになっている。
【0060】
また、弁体33は、弁流路37と弁要素38の作用によって、環状弁座31へ接近する移動は抑制されず、環状弁座31から遠ざかる移動は抑制され、この環状弁座31から遠ざかる移動を抑制するのに、オリフィス38aを用いているので、一方室6と下室R2の圧力交番の周波数が高くなればなるほど、弁体33が環状弁座31から離座しにくくなり、一方室6と下室R2の圧力交番の周波数が車両のバネ下共振周波数帯域にまで高まると弁体33が環状弁座31に着座したままとなって、一方側排出路を遮断状態に維持するように設定されている。
【0061】
このように、一方側開閉弁12は、カートリッジ30に全ての部品が組みつけられ、アッセンブリ化されているので、ハウジング4への組み付けが容易であり、また、ハウジング4がチャンバ21と弁保持部22とに分割されているので、一方側開閉弁12を弁保持部22へ取付けてからチャンバ21と弁保持部22との結合を行えばよいので、この点でも組立加工が容易となる。
【0062】
さらに、ピストンロッド15の縦穴15b内には、他方側開閉弁13が収容されている。この他方側開閉弁13は、環状弁座41と弁孔42を備えたカートリッジ40と、カートリッジ40に設けた弁孔42内に挿入されて弁孔42内を正面室45と背面室46とに区画し環状弁座41に離着座する弁体43と、弁体43を環状弁座41へ向けて附勢するバネ44と、正面室45と背面室46とを連通する弁流路47と、弁流路47を背面室46から正面室45へ向けて流れる流体の流れには抵抗を与えるが正面室45から背面室46へ向かう流体の流れにははオリフィスとして機能する弁要素48とを備えている。
【0063】
カートリッジ40は、ピストンロッド15の縦穴15b内に挿入可能な筒とされており、内周に設けた環状弁座41と、環状弁座41より図3中上方側に設けられて内周で弁体43を摺動自在にガイドする環状の正面ガイド40aと、環状弁座41と正面ガイド40aとの間の内外を連通する透孔40bとを備えて構成され、正面ガイド40aの図3中上方に弁体43が収容される弁孔42を形成している。
【0064】
このカートリッジ40を縦穴15b内に挿入し、上端を縦穴15bの図3中上端に衝合させつつ、カートリッジ40の下方から縦穴15bにナット49を螺着することによって、カートリッジ40が縦穴15b内に収容固定されるようになっている。そして、このようにカートリッジ40が縦穴15b内に固定されると、透孔40bがピストンロッド15に設けた横孔15cに対向して横孔15cを閉塞せず、カートリッジ40内を介して他方室7と上室R1とを連通するようになっている。
【0065】
弁体43は、正面ガイド40aおよび圧力導入孔15dの縦孔部15fの内周に摺接する軸43aと、軸43aの図3中下端に形成されて環状弁座41に衝合可能なポペット型の弁頭43bと、軸43aの中間に設けられてカートリッジ40の内周であって正面ガイド40aより上方に摺接するフランジ43cとを備えて構成され、弁体43をカートリッジ40内に収容すると、弁孔42がフランジ43cによって図3中下方に配置される正面室45と上方に配置される背面室46とに区画するようになっている。
【0066】
そして、弁体43が環状弁座41へ接近する方向へ変位する、すなわち、図3中下方へ変位すると、この変位に伴って正面室45の容積が減少して背面室46の容積が拡大し、反対に、弁体43が環状弁座41から遠ざかる方向へ変位する、すなわち、図3中上方へ変位すると、この変位に伴って正面室45の容積が拡大して背面室46の容積が減少するようになっている。
【0067】
また、フランジ43cには軸方向にこれを貫く弁流路47が設けられ、この弁流路47は、フランジ43cの下端に設けた環状溝47aに通じており、当該環状溝47aは弁要素48によって開閉されるようになっている。
【0068】
弁要素48は、環状板であって内周がフランジ43cと軸43aの外周に装着された弁要素48より小外径で環状のストッパリング43dによって挟持されることにより軸43aに固定され、外周側の撓みが許容されるとともに環状溝47aに対向するオリフィス48aを備えている。
【0069】
そして、弁流路47を正面室45から背面室46へ向かう流体の流れに対して弁要素48が撓んで弁流路47を開放し、流体の流れに抵抗を与えず弁体43の環状弁座41への接近する移動を妨げず、反対に、弁流路47を背面室36から正面室45へ向かう流体の流れに対して弁要素48が弁流路47を開放せず流体にオリフィス48aを通過させ、流体の流れに抵抗を与え、弁体43の環状弁座41から遠ざかる移動を妨げるようになっている。
【0070】
また、弁体43は、弁孔42内にあって、ストッパリング43dと縦穴15bの上端との間に挿入されるバネ44によって、環状弁座41へ向けて附勢されて、環状弁座41に弁頭43bが当接して、環状弁座41に着座している。なお、この実施の形態の場合、バネ44が弁要素48に干渉しないようにストッパリング43dにバネ44の一端を当接させているが、フランジ43cの外径が弁要素48の外径より大きく、バネ要素48に干渉しないようであればバネ44をフランジ43cの外周側に当接させるようにしてもよい。
【0071】
さらに、弁体43は、軸43aの弁頭43b側を環状弁座41を通じて他方室7に臨ませ、反対側の端部である図3中上端を圧力導入孔15dを介して上室R1に臨ませており、環状弁座41に着座している状態では環状弁座41の内径を直径とする円の面積を受圧面積として、環状弁座41から離座した状態では軸43aの断面積を受圧面積として作用する他方室7内の圧力よって環状弁座41から遠ざかる方向へ附勢されるとともに、反対に、軸43aの断面積を受圧面積として作用する上室R1の圧力によって環状弁座41へ接近する方向へ附勢されている。
【0072】
したがって、他方室7内の圧力によって弁体43を図3中上方へ押し上げる力が、上室R1の圧力とバネ44による弁体43を図3中下方へ押し下げる力が上回ると、弁体43を環状弁座41から離座させて横孔15cおよび透孔40bを介して他方室7を上室R1に連通させることになる。つまり、他方室7内の圧力が上室R1の圧力より所定値以上上回ると、他方側開閉弁13は、開弁して他方室7内の流体がカートリッジ40内、横孔15cおよび透孔40bを通じて上室R1へ排出され、反対に、他方室7内の圧力が上室R1の圧力を所定値以上上回らなければ、他方側開閉弁13は閉弁状態に維持され、カートリッジ40内、横孔15cおよび透孔40bを通じて流体が他方室7と上室R1とを行き来することが阻止される。なお、上記した他方側開閉弁13の開弁する基準となる所定値は、必ずしも一方側開閉弁12における所定値に一致させずともよい。
【0073】
戻って、カートリッジ40内、横孔15cおよび透孔40bで形成される通路は、他方室7から上室R1へ流体を排出するときにのみ通じ、この実施の形態の場合、この通路が他方側排出路として機能し、他方側開閉弁13は、圧力室R3内の圧力としての他方室7の圧力をパイロット圧として開弁動作して、他方側排出路を開放するようになっている。
【0074】
また、弁体43は、弁流路47と弁要素48の作用によって、環状弁座41へ接近する移動は抑制されず、環状弁座41から遠ざかる移動は抑制され、この環状弁座41から遠ざかる移動を抑制するのに、オリフィス48aを用いているので、他方室7と上室R1の圧力交番の周波数が高くなればなるほど、弁体43が環状弁座41から離座しにくくなり、他方室7と上室R1の圧力交番の周波数が車両のバネ下共振周波数帯域にまで高まると弁体43が環状弁座41に着座したままとなって、他方側排出路を遮断状態に維持するように設定されている。
【0075】
この場合、バイパス路5は、一方側吸込路、一方側排出路、他方側吸込路および他方側排出路とで形成されており、これらはすべて一方通行に設定されており、フリーピストン8が図3中上方へ移動する際には、一方側吸込路と他方側排出路のみが機能し、反対に、フリーピストン8が図3中下方へ移動する際には、他方側吸込路と一方側排出路のみが機能するようになっている。
【0076】
また、弁手段10は、この場合、上述した一方側開閉弁12、他方側開閉弁13、一方側チェック弁25および他方側チェック弁26とで構成されている。
【0077】
そして、このようにバイパス路5が形成されることによって、弁手段10におけるバイパス路5の開閉が、それぞれ、一方側排出路に設けられる一方側開閉弁12と他方側排出路に設けられる他方側開閉弁13によって行うことができるようになっており、バイパス路5を単一の通路に形成して単一の開閉弁でバイパス路5の死活を制御するより、開閉弁の構成が簡単となる利点がある。
【0078】
また、一方側開閉弁12および他方側開閉弁13は、それぞれ、一方室6或いは他方室7の圧力をパイロット圧として動作するようになっており、慣性によって動作する弁よりも動作が確実で、また、その動作の制御に当たり弁要素37,47を用いているので弁体33,43がバイパス路5を閉じたままとなる周波数帯域の設定が簡単となる利点がある。
【0079】
また、一方側開閉弁12および他方側開閉弁13あっては、弁体33,43に圧力室R3と上室R1、下室R2の圧力を作用させることによって、緩衝器Dの振動周波数に依存してバイパス路5を開閉させるようにしているので、上室R1と下室R2の圧力のみを取り出して弁体33,43へ作用させるよりもパイロット圧力の導入構造が簡単となる。
【0080】
なお、摺動隔壁11は、下室R2側に凹部を備えており、緩衝器Dが最収縮した際には、上記ハウジング4の先端となる図1中下端が上記凹部に侵入することを許容しており、単筒型に構成される緩衝器Dにピストンロッド15の先端にハウジング4を設けることによるストローク長さのロスが、摺動隔壁11の凹部によって緩和されることになる。
【0081】
さて、このように具体的な緩衝器Dは、上記のごとくの構成を採用しており、つづいて、その動作について説明する。まず、緩衝器Dの振動周波数が低く、上室R1内の圧力が伝播する他方室7と下室R2内の圧力が伝播する一方室6の圧力交番における周波数も低い場合には、シリンダ1に対するピストン2の速度も低いため、上室R1と下室R2の差圧も大きくならず、附勢手段9の附勢力によってフリーピストン8の速度が小さく抑えられ、バイパス路5を介して上室R1から下室R2へ或いは下室R2から上室R1への流体の見かけ上の流量は少なくなり、その分、流体が減衰通路3a,3bを通過して緩衝器Dの減衰係数が大きくして減衰力を発揮する。
【0082】
すなわち、低周波振動に対して緩衝器Dは、従来の緩衝器と同様に大きな減衰係数にて減衰力を発揮し、車両のバネ上共振周波数を緩衝器Dが減衰係数を大きく維持する低周波数帯域の範囲に収めるように設定しておくことで、バネ上共振周波数の振動入力に対して減衰力が充分に発揮されて、車両の乗り心地と操縦性を向上させることができる。
【0083】
緩衝器Dの振動周波数が低周波数帯域を越えると、上室R1と下室R2のバイパス路5を介しての見かけ上の流体の交流量も多くなり、減衰通路3を迂回する流量が増加するので、減衰通路3a,3bを流れる流量を減少させて緩衝器Dの減衰係数を低下させる。そして、バイパス路5が遮断される高周波数帯域を越えない状態では、緩衝器Dの減衰係数は周波数の上昇に伴って徐々に低下させる傾向となり、この低周波数帯域と高周波数帯域の間の振動に対しては、緩衝器Dは減衰係数を低くして減衰力を発生する。
【0084】
他方、弁手段10における一方側開閉弁12および他方側開閉弁13は、緩衝器Dに入力される振動周波数が高周波数帯域にある場合に、バイパス路5を閉塞するようになっている。したがって、緩衝器Dの振動周波数が高周波数帯域に達すると、バイパス路5が遮断されて減衰通路3a,3bを迂回して上室R1と下室R2とを交流する流量が皆無となり、全流量が減衰通路3a,3bを通過するようになって、緩衝器Dは減衰係数を大きくして減衰力を発揮するようになり、弁手段10でバイパス路5を遮断する高周波数帯域の範囲に、バネ下共振周波数が入るように設定しておくことで、バネ下共振周波数の振動入力に対して減衰力が充分に発揮されて、車両の乗り心地と操縦性を向上させることができる。
【0085】
したがって、この緩衝器Dにあっては、低周波数帯域の振動の入力のみならず高周波数帯域の振動の入力に対しても充分に振動を抑制することができ、車両における乗り心地と操縦性を向上させることができるのである。
【0086】
そしてさらに、本実施の形態における緩衝器Dは、いわゆる単筒型の緩衝器として構成されているが、これをシリンダ1の外方にシリンダ1を覆うように形成される環状のリザーバを備えた複筒型の緩衝器として構成されてもよいし、また、シリンダ1の外方に全く別体のリザーバタンクを備えた緩衝器として構成とされてもよい。加えて、圧力室R3をシリンダ1外に設けることも可能であるが、シリンダ1内にハウジング4を設けて圧力室R3をシリンダ1内に形成することで緩衝器Dの外形の大型化を避けて車両への搭載性を悪化させることがないという利点がある。
【0087】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】一実施の形態における緩衝器の概略図である。
【図2】一実施の形態の具体的構成の一例における緩衝器の縦断面図である。
【図3】一実施の形態の具体的構成の一例における緩衝器のピストン部の拡大縦断面図である。
【図4】従来の緩衝器の流量に対する圧力の周波数伝達関数のゲイン特性を示したボード線図である。
【図5】従来の緩衝器の振動周波数に対する減衰特性を示した図である。
【符号の説明】
【0089】
1 シリンダ
2 ピストン
2a ピストンにおけるポート
3,3a,3b 減衰通路
4 ハウジング
5 バイパス路
6 一方室
7 他方室
8 フリーピストン
9 附勢手段
10 弁手段
11 摺動隔壁
12 一方側開閉弁
13 他方側開閉弁
15 ピストンロッド
15a ピストンロッドにおける小径部
15b ピストンロッドにおける縦穴
15c ピストンロッドにおける横孔
15d ピストンロッドにおける圧力導入孔
15e ピストンロッドにおける螺子部
20 ナット
21 チャンバ
21a チャンバにおける蓋
21b チャンバにおける筒部
21c チャンバにおけるポート
22 弁保持部
22a 弁保持部における保持筒
22b 弁保持部におけるフランジ
22c 弁保持部におけるポート
22d 弁保持部における孔
23,24 バネ
25 一方側チェック弁
26 他方側チェック弁
30,40 カートリッジ
30a カートリッジにおける鍔
30b,40a 正面ガイド
30c 背面ガイド
30d,40b 透孔
31,41 環状便座
32,42 弁孔
33,43 弁体
33a,43a 弁体における軸
33b,43b 弁体における弁頭
33c,43c 弁体におけるフランジ
33d,43d ストッパリング
34,44 バネ
35,45 正面室
36,46 背面室
37,47 弁流路
37a,47a 環状溝
38,48 弁要素
38a,48a オリフィス
39,49 ナット
D 緩衝器
G 気体室
R1 他方の作動室たる上室
R2 一方の作動室たる下室
R3 圧力室
V1,V2 リーフバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を2つの作動室に区画する隔壁部材と、二つの作動室を連通するとともに通過流体に抵抗を与える減衰通路と、減衰通路を迂回して二つの作動室を連通するバイパス路と、バイパス路の途中に設けた圧力室と、圧力室内に摺動自在に挿入されて圧力室を一方の作動室に連通される一方室と他方の作動室に連通される他方室とに区画するフリーピストンとを備え、フリーピストンを中立位置に位置決める附勢手段とを備えた緩衝器において、所定周波数以上の周波数で振動するとバイパス路を閉じる弁手段を設けたことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
バイパス路は、一方の作動室と一方室とをそれぞれ連通する一方側排出路と一方側吸込路と、他方の作動室と他方室とをそれぞれ連通する他方側排出路と他方側吸込路とを備え、弁手段は、一方側排出路の途中に設けられて所定周波数以上の振動入力で一方側排出路を閉じる一方側開閉弁と、一方側吸込路の途中に設けられて一方の作動室から一方室へ向かう流体の流れのみを許容する一方側チェック弁と、他方側排出路の途中に設けられて所定周波数以上の振動入力で他方側排出路を閉じる他方側開閉弁と、他方側吸込路の途中に設けられて他方の作動室から他方室へ向かう流体の流れのみを許容する他方側チェック弁とを備えてなることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
一方側開閉弁および他方側開閉弁は、上記各排出通路の途中に設けた環状弁座と、環状弁座に離着座可能に設定されて弁孔内に摺動自在に挿入されて弁孔内を背面室と正面室とに区画する弁体と、弁体を環状弁座に向けて附勢するバネと、背面室と正面室とを連通する弁流路と、弁流路を背面室から正面室へ向けて流れる流体の流れには抵抗を与えるが正面室から背面室へ向かう流体の流れにはオリフィスとして機能する弁要素とを備え、弁体が環状弁座へ接近する方向へ変位すると背面室が容積拡大し正面室が容積減少し、弁体が環状弁座から離れる方向へ変位すると背面室が容積減少し正面室が容積拡大するように設定されてなり、圧力室の圧力をパイロット圧として開弁動作することを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
弁体は、圧力室内の圧力の作用で環状弁座から離れる方向へ附勢されるとともに作動室の圧力の作用で環状弁座へ接近する方向へ附勢されることを特徴とする請求項2または3に記載の緩衝器。
【請求項5】
隔壁部材は、シリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドの先端に固定されるピストンであって、圧力室は、ピストンロッドに螺合されるハウジング内に形成され、隔壁部材をハウジングでピストンロッドに固定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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