説明

緩衝器

【課題】振動エネルギを利用しやすいエネルギへ変換してエネルギの回収を可能とする緩衝器を提供することである。
【解決手段】本発明における課題解決手段は、シリンダ1とシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2とを備えた緩衝器本体Bと、緩衝器本体Bの伸縮により緩衝器本体B内に充填される流体が通過する流路3とを備えた緩衝器Dにおいて、流路3を横切る磁界を発生する磁石4と、流路3に設けられて相対向して対となる電極5,6とを備え、流体を電気伝導性流体Eとしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の緩衝器にあっては、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を作動油が充填される油室と気体が充填される気体室とに区画するフリーピストンと、シリンダ内に摺動自在に挿入されて油室を二つの作動室に区画するピストンと、シリンダ内に移動自在に挿入されてピストンに連結されるロッドとを備えて構成され、車両の車体と車軸との間に介装されるなどして振動を減衰するようになっている。
【0003】
より詳細には、作動室同士を連通する流路が設けてあって、緩衝器は、ピストンがシリンダに対して相対移動する際に、圧縮される作動室から拡大する作動室へ向かう作動油の流れに減衰弁で抵抗を与えて、作動室間に差圧を生じさせて減衰力を発揮するようになっている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−321020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した緩衝器は、伸縮する際に減衰力を発揮して入力される振動を減衰させるが、エネルギの変換の観点からすれば、振動エネルギを吸収して熱エネルギに変換することで、振動を減衰させている。
【0006】
このように緩衝器は、振動を減衰させる点で特に問題があるわけではないが、振動エネルギを熱エネルギに変換するのみで、熱エネルギは何にも利用されることなく、放熱することでエネルギを捨てるのみであった。
【0007】
そこで、本発明は上記した点を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、振動エネルギを利用しやすいエネルギへ変換してエネルギの回収を可能とする緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、シリンダとシリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンとを備えた緩衝器本体と、上記緩衝器本体の伸縮により上記緩衝器本体内に充填される流体が通過する流路とを備えた緩衝器において、上記流路を横切る磁界を発生する磁石と、上記流路に設けられて相対向して対となる電極とを備え、上記流体を電気伝導性流体としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の緩衝器によれば、振動エネルギを利用しやすい電気エネルギへ変換することができ、エネルギの回収が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【図2】一実施の形態の緩衝器における流路の一部の斜視図である。
【図3】他の実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【図4】別の実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝器Dは、図1に示すように、シリンダ1とシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2とを備えた緩衝器本体Bと、緩衝器本体Bの伸縮により緩衝器本体B内に充填される電気伝導性流体Eが通過する流路3と、流路3を横切る磁界を発生する磁石4と、流路3に設けられて相対向して対となる電極5,6と備えて構成されている。
【0012】
本実施の形態の緩衝器Dの場合、より具体的には、ピストン2がシリンダ1内を一方室としてのロッド側室R1と他方室としてのピストン側室R2とに区画しており、流路3は、ロッド側室R1とピストン側室R2とを連通している。また、電気伝導性流体Eは、この例では、一方室R1と他方室R2内に充填されている。
【0013】
そして、この緩衝器Dにあっては、シリンダ1内に一端がピストン2に連結されるピストンロッド7が挿入されていて、片ロッド型の緩衝器とされている。また、ロッド側室R1およびピストン側室R2には、具体的にはたとえば、液体金属やイオン性液体、水、水溶液等の電気伝導性流体Eが充填されている。さらに、シリンダ1内の図1中下方には、シリンダ1の内周に摺接してピストン側室R2と気体室Aとを区画するフリーピストン8が設けられている。
【0014】
この緩衝器Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド7の体積は、気体室A内の気体の体積が膨張あるいは収縮してフリーピストン8が図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。このように緩衝器Dは、単筒型に設定されているが、フリーピストン8および気体室Aの設置に変えて、シリンダ1の外周や外部にリザーバを設けて当該リザーバによって上記ピストンロッド7の体積補償を行ってもよいし、シリンダ1に気体室を備えたタンクを接続して上記補償を行うようにしてもよい。
【0015】
なお、上記したところでは、緩衝器Dは、ピストンロッド7の一端にピストン2が連結される片ロッド型の緩衝器に設定されているが、ピストンロッドの中間にピストンを設ける両ロッド型の緩衝器に設定されてもよい。
【0016】
以下、各部について詳細に説明する。シリンダ1は、その上端がピストンロッド7を摺動自在に軸支するヘッド部材9で封止され、下端もまたボトム部材10によって封止されている。
【0017】
そして、流路3は、非磁性のパイプPで形成されており、ロッド側室R1とピストン側室R2とを連通している。そして、この流路3を横切る磁界を発生する磁石4が設けられるとともに、その途中には相対向して対となる電極5,6が設けられている。
【0018】
具体的には、図2に示すように、電極5,6が流路3内にパイプPに対して絶縁されつつ流路3内に面するように設置され、磁石4のS極とN極がパイプP外で相対向するよう配置されている。すなわち、流路3内周には、電極5,6がパイプPの周方向に180度の位相をもって配置されていて、磁石4のN極とS極は、パイプPの周方向に180度の位相をもって配置されるとともに、電極5と電極6との間に配置されている。このように、磁石4のS極とN極は180度の位相をもって配置されており、流路3の長手方向に対して直交する方向へ横切って磁界を発生している。なお、磁界が流路3を横切るとは、必ずしも流路3の長手方向に直行する方向のみならず、これに対して斜め方向へ横切るようにしてもよい。
【0019】
なお、図示するところでは、磁石4は、単一の磁石であってS極とN極で流路3を挟んで対向させるようにしているが、二つの磁石を用いて一方の磁石のS極を流路3へ向け、他方の磁石のN極を流路3へ向けて、対向させるようにしてもよい。また、磁石4のS極とN極は、流路3内に面するようにしてもよく、磁石4のS極とN極の長さは任意であり、電極5,6についても長さは任意である。
【0020】
この例では、緩衝器Dがシリンダ1に対してピストン2が図1中上下方向へ移動する伸縮作動を呈すると、ロッド側室R1からピストン側室R2へ、または、ピストン側室R2からロッド側室R1へと、流路3を介して電気伝導性流体が移動する。
【0021】
以上のように構成された緩衝器Dは、振動エネルギの入力を受けて緩衝器本体Bが伸縮作動を呈すると、上記したように、電気伝導性流体が流路3を介してロッド側室R1からピストン側室R2へ、または、ピストン側室R2からロッド側室R1へ移動する。
【0022】
緩衝器本体Bの伸縮作動の際に、流路3を通過する電気伝導性流体の流れに流路3の途中に設けた減衰弁11が抵抗を与えるので、ロッド側室R1とピストン側室R2に差圧が生じ、減衰力を発揮する。なお、流路3の他に一方室R1と他方室R2とを連通する通路を設けて、当該通路に減衰弁を設けて減衰力を発揮させるようにしてもよい。
【0023】
そして、図2に示すように、電気伝導性流体Eが流路3を流れる方向を二点鎖線矢印で示す向きとし、磁石4が形成する磁界の向きを一点鎖線矢印で示す向きとすると、電気伝導性流体Eが流路3を流れる際に磁石4によって形成される磁界を横切るので、電磁誘導によって誘導起電力が生じて、図2中三点鎖線矢印で示す向きに電気伝導性流体E内に電流が流れる。この電気伝導性流体E内を流れる電流は、電極5,6を通じて外部へ取り出すことができる。具体的には、この例では、電極5,6を蓄電装置12に接続してあって、上記の如くの発電によって蓄電装置12を充電することができるようになっている。なお、蓄電装置12は、キャパシタや蓄電池等の電気エネルギを蓄えることが可能であればよく、また、電極5,6は、蓄電装置12以外にも電力を必要とする負荷へ接続されてもよい。なお、電極5,6と蓄電装置12との間に、蓄電装置12に効率よく充電することができるように、充電回路を設けるようにしてもよく、この場合、電気伝導性流体Eが流路3を双方向に通過するので、通過方向に応じて電極5,6の極性が入れ替わるため、整流したうえで蓄電装置12を充電するとよい。
【0024】
つまり、この緩衝器Dは、外部から振動エネルギが入力されると、これを熱エネルギのみならず、利用しやすい電気エネルギにも変換することができ、容易にエネルギの回収が可能となる。
【0025】
つづいて、図3に示した他の実施の形態の緩衝器D1について説明する。この緩衝器D1は、上記した一実施の形態の緩衝器Dのピストン2にロッド側室R1とピストン側室R2とを連通するピストン通路13を設けてある。このピストン通路13は、途中にピストン側室R2からロッド側室R1へ向かう電気伝導性流体Eの流れのみを許容する逆止弁14が設けてある。これにより、ピストン通路13は、ピストン側室R2からロッド側室R1へ向かう電気伝導性流体Eの流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。
【0026】
以上が、この他の実施の形態の緩衝器D1が上述の一実施の形態の緩衝器Dと異なる部分であり、他の部分については、両緩衝器D,D1は同じ構成を備えているので、同様の部分については説明が重複するので詳しい説明を省略する。
【0027】
この緩衝器D1では、振動エネルギの入力を受けて緩衝器本体Bが伸長作動を呈すると、電気伝導性流体Eは、圧縮されるロッド側室R1からピストン側室R2へピストン通路13を介して移動できないので、流路3のみを介して移動する。この流路3を電気伝導性流体Eが通過すると、上述したように、誘導起電力が生じて電流が生じ、電極5,6を介して外部の蓄電装置12へ電流を取り出すことができる。つまり、緩衝器D1も緩衝器Dと同様に発電する。
【0028】
緩衝器本体Bの伸長作動の際に、流路3を通過する電気伝導性流体Eの流れに減衰弁11で抵抗を与えるので、ロッド側室R1とピストン側室R2に差圧が生じ、減衰力を発揮する。
【0029】
反対に、振動エネルギの入力を受けて緩衝器本体Bが収縮作動を呈すると、圧縮されるピストン側室R2からロッド側室R1へピストン通路13を介して電気伝導性流体Eが移動する。また、ピストンロッド7がシリンダ1へ侵入するので、気体室Aがこの侵入分の体積分だけ収縮して上記体積を補償してシリンダ1内の圧力を上昇させ、緩衝器D1は、この収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。この収縮作動時には、電気伝導性流体Eは、流路3を殆ど流れない。
【0030】
よって、この他の実施の形態の緩衝器D1は、外部から振動エネルギが入力されると、これを熱エネルギのみならず、利用しやすい電気エネルギにも変換することができ、容易にエネルギの回収が可能となる。
【0031】
また、電気伝導性流体Eが流路3を通過する方向が一定となるので、電極5,6の極性が一定となるので、蓄電装置12や外部負荷へ電流供給する際に、整流する必要がなくなる利点があり、整流に必要な回路や素子を設けずに済む。
【0032】
最後に、図4に示した別の実施の形態の緩衝器D2について説明する。この緩衝器D2では、他の実施の形態の緩衝器D1の構成に加えてピストン2とフリーピストン8との間に隔壁部材15を設けて、ピストン側室R2と気体室Aとの間に補償室Rを形成し、流路3が補償室Rを経由してロッド側室R1とピストン側室R2とを連通するようにしてある。
【0033】
具体的には、隔壁部材15は、シリンダ1内に固定されていて、ピストン側室R2と補償室Rとを仕切っている。また、隔壁部材15は、流路3の一部をなす補償通路としての隔壁通路16を備えていて、当該隔壁通路16は、補償室Rからピストン側室R2へ向かう電気伝導性流体Eの流れのみを許容する逆止弁17を備えており、補償室Rからピストン側室R2へ向かう電気伝導性流体Eの流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。補償室Rは、フリーピストン8を境にして気体室Aに面しており、電気伝導性流体Eが充填されている。
【0034】
この緩衝器D2では、振動エネルギの入力を受けて緩衝器本体Bが伸長作動を呈すると、電気伝導性流体Eは、圧縮されるロッド側室R1からピストン側室R2へピストン通路13を介して移動できないので、流路3のみを介して移動する。この流路3を電気伝導性流体Eが流れることによって電磁誘導によって発電することになる。
【0035】
緩衝器本体Bの伸長作動の際に、流路3を通過する電気伝導性流体Eの流れに減衰弁11で抵抗を与えるので、ロッド側室R1とピストン側室R2に差圧が生じ、減衰力を発揮する。
【0036】
反対に、振動エネルギの入力を受けて緩衝器本体Bが収縮作動を呈すると、圧縮されるピストン側室R2からロッド側室R1へピストン通路13を介して電気伝導性流体Eが移動するものの、ピストンロッド7がシリンダ1へ侵入するので、ピストンロッド侵入分の電気伝導性流体Eがロッド側室R1とピストン側室R2とで余剰となる。この余剰分の電気伝導性流体Eは、逆止弁17が開かないので隔壁通路16を介して補償室Rへ移動できないので、シリンダ1内から流路3へ押し出されて、流路3を介して補償室Rへ移動する。この流路3を電気伝導性流体Eが流れることによって電磁誘導によって発電することになる。
【0037】
また、この収縮作動時には、流路3を通過する電気伝導性流体Eの流れに減衰弁11で抵抗を与えるので、ロッド側室R1とピストン側室R2の圧力が上昇して、緩衝器D2は、収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0038】
よって、この別の実施の形態の緩衝器D2は、外部から振動エネルギが入力されると、これを熱エネルギのみならず、利用しやすい電気エネルギにも変換することができ、容易にエネルギの回収が可能となる。
【0039】
また、緩衝器D2を上述のように構成することで、緩衝器本体Bが伸縮作動を呈すると、必ず、流路3を電気伝導性流体Eが通過するので、緩衝器D2が作動中は必ず発電する。また、電気伝導性流体Eが流路3を通過する方向が一定となるので、電極5,6の極性が一定となる。これにより、発電効率を高めつつ、蓄電装置12や外部負荷へ電流供給する際に、整流に必要な回路や素子を設けずに済む。
【0040】
なお、上記したところでは、シリンダ1内に補償室Rと気体室Aを設けているが、シリンダ1外へ設けることも可能である。
【0041】
また、流路3は、上記した処では、シリンダ1内にピストン2で形成した一方室であるロッド側室R1と他方室であるピストン側室R2とを連通するようになっているが、これに限定されるものではない。したがって、たとえば、ピストン2に流路を設けてもよいし、緩衝器本体がシリンダ1の外方にリザーバを備える場合には、流路がリザーバと緩衝器本体B内を連通して緩衝器本体Bの伸縮時に電気伝導性流体Eが通過するようにしておけばよい。
【0042】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の緩衝器は、車両の制振用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 シリンダ
2 ピストン
3 流路
4 磁石
5,6 電極
13 ピストン通路
16 補償通路としての隔壁通路
D,D1,D2 緩衝器
A 気体室
B 緩衝器本体
R1 一方室としてのロッド側室
R2 他方室としてのピストン側室
R 補償室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダとシリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンとを備えた緩衝器本体と、上記緩衝器本体の伸縮により上記緩衝器本体内に充填される流体が通過する流路とを備えた緩衝器において、上記流路を横切る磁界を発生する磁石と、上記流路に設けられて相対向して対となる電極とを備え、上記流体を電気伝導性流体としたことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】

上記ピストンがシリンダ内を一方室と他方室とに区画し、上記流路が上記一方室と上記他方室とを連通する請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記ピストンに上記一方室と上記他方室とを連通するピストン通路を設け、当該ピストン通路が上記他方室から上記一方室へ向かう流れのみを許容し、上記流路が上記一方室から上記他方室へ向かう流れのみを許容することを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記他方室へ連通される補償室と、当該補償室から上記他方室へ向かう流れのみを許容する補償通路とを設け、上記流路は補償室を介して上記一方室と上記他方室とを連通することを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−184792(P2012−184792A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47357(P2011−47357)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】