耐冷靴
【課題】 極低温液体を取扱う作業に用いる耐冷靴の防護機能を向上させる。
【解決手段】 液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維からなる織布と、ゴムシートとを多層に積層して形成されることを特徴とする耐冷靴である。
【解決手段】 液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維からなる織布と、ゴムシートとを多層に積層して形成されることを特徴とする耐冷靴である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場において使用される耐冷靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体窒素および液化天然ガス(LNG)に代表され、液化プロパンガスなどを含む極低温液体を取扱う作業場、たとえば貯蔵タンクやタンクローリ車などでは、作業者が防寒靴を着用している。多く使用されている防寒靴は、革製またはゴム製で防水機能を有するように形成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
極低温作業用の防寒靴は、−100℃以下の極低温環境でも、作業者が凍傷を羅病しないように、低温断熱性能を有し、保温性が優れているとともに、極低温液体を取扱う際に生じる不慮の事故に対しても作業者を保護し得ることが必要である。
【0004】
従来から用いられている革製もしくはゴム製の防水機能を有する防寒靴は、次のような問題点を有している。
(1)大地震に伴う事故等により極低温液体が流出し、靴底が極低温液体に浸漬されると、割れが生じ、極低温液体が靴内部に浸透し、安全な歩行の確保が困難になる。
(2)極低温液体の流出箇所に接近しようとすると、靴底に割れが生じたりするので、流出箇所を応急に修理することができず、大事故の未然防止活動が困難となる。
(3)特に、極低温液体がたとえば液化プロパンガスや液化天然ガス等の可燃性を有する場合には、事故等によって燃焼し、その火炎にも曝露されるけれども、緊急避難に必要となる耐熱性や耐炎性を有していない。
【0005】
すなわち、従来流通している防寒作業用の靴の本底には、主として天然ゴム系やウレタン系のエラストマ材料が使用され、金型による加圧加熱成形や射出成形で製造されている。これらの材料をこれらの成形法によって本底として製造すると、本底材料内部に残留応力が発生している。事故等によって流出する極低温液体に靴底が浸漬されると、低温での熱収縮によって残留応力が増大し、靴底に割れが発生してしまう。
【0006】
また、一般に流通している防寒作業用の靴の靴底は、気密構造ではあるけれども、気密性は本底に使用している材料によって維持されている。このため、事故等によって流出する極低温液体に靴が浸漬された場合には、本底に割れが生じると、瞬時にその気密性が失われ、極低温液体が靴内部に浸透してしまう。
【0007】
また、一般的な防寒作業用の靴の甲の材料は、天然の革や合成皮革、あるいはゴム等が用いられている。これらの材料は、事故等で可燃性液体に火災が生じると、耐熱性や耐炎性を備えていないので、火炎にさらされる状態で緊急避難等を行う際の足元の安全性を確保することができない。
【0008】
本発明の目的は、極低温液体を取扱う際に必要となる各種作業などに対する着用者の安全性を高め、作業者が充分な活動を行うことができる耐冷靴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維からなる織布でゴムシートを挟んで積層して形成されることを特徴とする耐冷靴である。
【0010】
本発明に従えば、耐冷靴の本底が、アラミド繊維からなる織布でゴムシートを挟んで積層して形成されるので、本底を成形加工する際生じ得る残留応力を分散させ、また成形温度領域から極低温領域まで温度が低下する際の収縮率を低減させて、耐冷靴が極低温液体に浸漬されても低温熱収縮による本底の割れ発生を抑制することができる。
【0011】
また本発明は、本底と中底との間に、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布に対し、耐低温ゴムまたは高分子フィルムをコーティングした材料が挿入されることを特徴とする。
【0012】
本発明に従えば、耐冷靴の本底と中底との間には、−100℃以下でも物性低下の少ないアラミド繊維に代表される繊維の織布が挿入される。この織布には、最低温ゴムまたは高分子フィルムがコーティングされているので、気密性を有し、アラミド繊維によって極低温でも気密性を確保することができる。このため、極低温液体に浸漬されて、本底に割れが生じて極低温液体が耐冷靴内に侵入してきても、本底と中底との間に挿入され、耐低温ゴムや高分子フィルムがコーティングされた織布で極低温液体の浸透を防ぐことができる。
【0013】
また本発明は、甲が、火炎に曝露されても自己燃焼性がなく、耐熱温度の高い芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドに代表される耐熱繊維からなる織布と、フェルト地とで形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明に従えば、耐冷靴の甲の部分に、火炎に曝露されても自己燃焼性がなく、耐熱温度の高い芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドに代表される耐熱繊維からなる織布とフェルト地とで形成されているので、極低温液体が可燃性を有する液化プロパンガスや液化天然ガスで、事故等で火災が発生しても、緊急避難や消火活動などの際に、着用者を充分に保護することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐冷靴の本底を、積層構造にして、成形時の残留応力を分散させ、低温熱収縮率も低減して、極低温液体に浸漬するときの割れを防止することができる。
【0016】
また本発明によれば、本底に割れが生じて、極低温液体が耐冷靴内部に浸透しようとしても、本底と中底との間に挿入する極低温ゴムや高分子フィルムをコーティングした織布によって、極低温液体の浸透を阻止し、安全性を確保することができる。
【0017】
また本発明によれば、可燃性の極低温液体が流出して、火災などがさらに発生しても、緊急避難や消火活動などを行う作業者の足元の安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施の一形態の耐冷靴1の概略的な断面構成を示す。本実施形態の耐冷靴1の構成そのものは一般的なゴム底防水靴の断面構造と同等である。耐冷靴1では、甲材2を底面に吊込み、中底3に接着剤もしくは金属針による縫製で固定した後に、本底4を取付けて成形する。さらにゴム製縁巻テープ5で補強する。一般的なゴム底防水靴では、中底3には、通常は紙を主原料とする圧縮成形材料が使用される。中底3に、そのような材料を使用すると、本底8に貫通する割れが生じた場合に、その気密性は失われる。中底3に、気密性を有するプラスチック材料を使用した場合であっても、吊込まれている甲材2と中底3との間隙、もしくは甲材2の切断面を介して液体が浸透してしまう。
【0019】
図2は、図1の本底4の断面構成を示す。図2(a)は全体的な断面を示し、図2(b)はその一部を拡大して示す。本実施形態の本底4は、本底ゴム10に−100℃以下でも強度や柔軟性などの物性が低下しない繊維として代表的なアラミド繊維フィラメント11を、短く切断したチョップドストランド、すなわち繊維チョップの形で混合させて本底ゴム10を加硫成形している。アラミド繊維チョップを混合していると、アラミド繊維フィラメント11の周囲と本底ゴム10との間に、僅かな空間12が生じる。この僅かな空間12が、低温熱収縮時の応力集中を緩和吸収する機能を有し、極低温時の割れ発生を防止する効果を発現させていると考えられる。この空間12は、アラミド繊維フィラメント11にゴムとの密着性を向上させる薬品処理等を施さない方が、効率よく発生させることができる。
【0020】
図3は、アラミド繊維フィラメント11のチョップを混合させないで加硫成形した本底ゴム10の断面を示す。図1に示すような空間12は全く形成されない。
【0021】
本実施形態の本底4に関するアラミド繊維フィラメント11のチョップの混合は、加硫前の本底ゴム10について、金属ロールによる混練過程で行っている。一般的に繊維チョップをゴムに混練するときには、ゴムとの密着性をもたせるための薬品加工を施しているけれども、本実施形態では前述のような理由で薬品処理を施していない。
【0022】
本実施形態では、アラミド繊維フィラメント11のチョップの混合率を決定するために、繊維チョップ混合率を変化させた本底4を成形し、20分間の液体窒素浸漬試験を行っている。その試験結果を次の表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1で○は割れ無しを示し、×は割れ有りを示す。なお、チョップ混合法で形成する本底4の形状としては、登山靴などによくみうけられるブロックパターンを選定している。また後述する多層構造体による本底4の形状は、ロール底とし、同時に試験を行っている。
【0025】
試験に用いるアラミド繊維フィラメント11のチョップは、チョップ長が3mmおよび6mmとなる2種類の材料を用いている。衝撃試験は、1mmの高さからコンクリート床面に落下させて実施し、荷重試験は100kgの荷重を掛けて実施している。表1の試験結果からチョップ長が3mmのアラミド繊維フィラメント11を12%以上混合させれば、通常の使用では本底4に割れが発生しないことが明らかになっている。ここで述べる混合率は、重量に対するwt%で示し、純粋なゴムにカーボン等の配合剤を加えた総ゴム量に対する数値である。混合率が20%を越えると、混練作業が困難となり、製造が不可能となる。したがって、アラミド繊維フィラメント11のチョップとしての混合率は、12〜20%が適当である。
【0026】
アラミドフィラメント11のチョップは、混練過程でほぼフィラメント状態にまでほぐされ、本底ゴム10中に分散される。すなわち本底ゴム10は、このアラミド繊維フィラメント11によって、無数のセルに分割され、セルの集合体として捕えることができる。加硫温度から極低温域まで冷却される際の収縮過程では、発生する応力がこの微細なセルに分散され、局部的に集中することがなくなる。特に、登山靴の靴底に代表されるブロックパターンでは、ブロック下部の角に応力が集中しやすいけれども、表1に示したように割れ発生を防ぐことができる。
【0027】
図4は、本発明の実施の他の形態の本底14の断面構造を示す。本実施形態の本底14では、アラミド繊維織布15とゴムシート16との多層構造を有し、加硫温度から極低温まででゴムシート16の内部に生じる応力や歪みが、アラミド繊維織布15によって分散され、緩和吸収される。これによって、ゴムシート16が低温収縮しても、アラミド繊維織布15によって割れの発生を抑制することがきる。
【0028】
図5は、本発明の実施のさらに他の形態としての耐冷靴21の概略的な断面構造を示す。本実施形態で、図1の実施形態に対応する部分には同一の参照符を付し、重複した説明を省略する。本実施形態では、本底4と中底3との間に図6に示すようなラミネート材22を挿入している。ラミネート材22は、たとえば厚さ0.8mmのアラミド繊維織布23の両側に、厚さ1mmの天然ゴムとブタジエンゴムとの混合ゴムシートをコーティング24と貼付け、三層構造を構成している。さらに多層の構造にすることもできる。前述の表1のロール底は、このような多層構造で形成している。
【0029】
図5に示すような耐冷靴21は、図7に示すような(1)〜(4)の工程で製造することができる。
(1)甲材2を切込み、中底3に固定する。
(2)次に図6に示すようなラミネート材22を、ゴム系の接着剤で貼合わせる。
(3)ゴム製縁巻テープ5を甲材2からラミネート材22にかけて貼合わせて補強する。
(4)本底4を、ゴム系接着剤に貼付ける。
【0030】
図8は、図5の実施形態で、本底4を貼付ける前の試験体29について気密性を試験する目的の装置の概略的な構成を示す。試験体29は、金属製パッド30内に設置され、金属製パッド30内には液体窒素31が供給ノズル32から供給される。靴底内部の温度の経時変化は、熱電対33によって測定する。
【0031】
図9は、測定結果の一例を示す。図9で、甲の部分の温度が、約600秒経過後から上昇しているのは、金属製パッド30の液体窒素31が満杯になったので、供給ノズル32からの液体窒素31の供給を休止したためである。甲の部分は、供給ノズル32から供給される液体窒素31に直接当たり、この影響を受けやすいという事情がある。図8に示すような試験装置構成を考慮すれば、温度上昇はみられるけれども問題ではない。靴底については、液体窒素31に浸漬されたままであるので、その後も温度は低下し続ける。しかしながら、約25分経過後でも、靴の内側の温度は−160℃であり、液体窒素31の温度である−196℃には達しない。したがって、試験体29の内部には液体窒素31は浸透しておらず、ラミネート22によって気密性が保持されていることを証明している。試験体29は、本底4を装着していないので、本底4が貼付けられれば、さらに温度低下は少なくなると期待される。本底4に割れが生じて極低温液体が侵入しても、気密性を確保することができるので、前述の各実施形態の本底4のように、極低温液体に浸漬しても割れが生じない本底4を使用すれば、安全性を一層高めることができる。
【0032】
図10は、以上説明した各実施形態で、甲材2として好適な断面構造を示し、図11は図5の実施形態の甲材2として用いる場合の全体的な断面構造を示す。甲材2としては、最も外側に芳香族系ポリアミド繊維による織布40を配置する。織布40の表面には、気密性を保持させるためのシリコン樹脂によるコーティング41を形成する。コーティング41を施した織布40の内側には、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ5mmのフェルト地42を2枚配置する。さらにその内側にキルティング生地43を配置する。キルティング生地43は、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ2mmのフェルト地44を2枚と、芳香族系ポリアミド繊維による織布45とを縫合わせて形成する。このようなキルティング生地43を挿入することによって、断熱性を向上させることができる。
【0033】
図11に示すように、靴底の構造としても、本底4、ラミネート材22および中底3の内側に、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ5mmのフェルト地42を1枚配置し、その内側にキルティング生地43を縫い合わせている。さらに足元からの冷却に対する防護性を高めるため、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ7mmのフェルト地46を配置している。このような使用による耐冷靴21を、サーマルマネキンに装着して、液体窒素を25分間にわたって掛け続けたときの足の皮膚表面の温度の変化を図12に示す。
【0034】
測定は、図8と同様に、金属パッド30内に耐冷靴21を配置し、爪先部、踵部および液体窒素を注ぐ甲部で行っている。本試験では、踝以上の深さを有する金属パッド30を使用しているので、甲部は常に液体窒素に浸漬されている。試験開始後約240秒後から液体窒素31、金属製パッド30内に溜まり始める。これ以前は、耐冷靴21の温度が液体窒素31に比較して高く、耐冷靴21を冷却するために液体窒素が蒸発してしまうので、金属製パッド30内にはあまり残らない。
【0035】
試験終了時の爪先および甲部の皮膚表面温度は約13℃であり、踵部は18℃である。人が凍傷に羅病するといわれている温度である−3〜−4℃まで低下することがなく、本実施形態の耐冷靴21が、極低温液体の事故等による突発的な漏洩からの緊急避難、もしくは漏洩箇所の応急修理作業に充分耐え得るものであることが明らかとなっている。
【0036】
次に、漏洩した液化プロパンガスや液化天然ガス等の可燃性極低温液体が燃焼した場合の事故を想定して、耐冷靴21の甲材のISO DIS9151による火炎防護性試験を実施した。試験の結果、12℃温度上昇時間は58秒、24℃温度上昇時間は95秒であることが判明した。本試験は、生地の表面に80kW/m2の熱量を与えたときの生地裏側の温度上昇を測定して、火炎に対する防護性を評価する。公共消防機関では、24℃温度上昇時間15秒を目安として、消防服の評価を行っている。この目安から考慮すると、本実施形態の耐冷靴21は、その約6倍の性能を有することにより、充分な火炎に対する防護性を有しているといえる。
【0037】
以上説明した各実施形態の耐冷靴1,21では、本底4の材料としてアラミド繊維チョップを12〜20wt%混合させたゴムを採用して、液体窒素や液化天然ガス等に代表される極低温液体を取扱う作業上での突発的な事故等による極低温液体の流出で、足元が極低温液体に浸漬されたときにおいても低温熱収縮による本底4の割れの発生を防ぐことができる。さらに、ラミネート材22による気密構造を有する耐冷靴21では、局部的に大きな力が負荷され、万が一に本底4が割れても、極低温液体の靴内への浸透を防ぐことができる二重の安全機能を有している。また、甲材2に芳香族系ポリアミドや芳香族系ポリイミドに代表される耐熱繊維を使用していることによって、液化プロパンガスや液化天然ガス等の可燃性ガスの燃焼時の火炎に対しても充分な防護性を有している。したがって、液体窒素や液化天然ガス等に代表される極低温液体を取扱う作業場において、耐冷靴1,21とを装着すれば、地震等の突発的な事故による極低温液体の漏洩時にも、緊急避難や漏洩箇所の応急修理等の作業を行うために必要になる歩行を確保することができる。
【0038】
本発明は、以下の実施の形態が可能である。
(1)液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維のチョップドストランドを混合させたゴムで形成されることを特徴とする耐冷靴。
【0039】
耐冷靴の本底は、−100℃以下でも物性低下の少ない繊維のチョップドストランドを混合させたゴムで形成される。アラミド繊維に代表されるそのような繊維のチョップドストランドがゴムに混合されているので、本底として成形加工を行った際の残留応力を、アラミド繊維で分散させ、また成形温度領域から極低温領域までの収縮率を低減させて、靴底が極低温液体に浸漬されても低温熱収縮による本底の割れ発生を抑制することができる。
【0040】
液体窒素および液化天然ガス等に代表される極低温液体を取扱う作業場で、突発的な事故等による極低温液体の流出があり、足元が極低温液体に浸漬されるようなときであっても、低温熱収縮による本底の割れの発生を防ぐことができる。
【0041】
(2)液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布と、ゴムシートとを多層に積層して形成されることを特徴とする耐冷靴。
【0042】
耐冷靴の本底が、−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布と、ゴムシートとを多層に積層して形成されるので、本底を成形加工する際生じ得る残留応力を分散させ、また成形温度領域から極低温領域まで温度が低下する際の収縮率を低減させて、耐冷靴が極低温液体に浸漬されても低温熱収縮による本底の割れ発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の一形態による耐冷靴1の概略的な構造を示す正面断面図である。
【図2】図1の本底4の全体的な断面図および部分的に拡大して示す断面図である。
【図3】図1の耐冷靴1で、本底4にアラミド繊維フィラメント11を混合させないときの断面図である。
【図4】本発明の実施の他の形態の本底4の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の実施のさらに他の形態としての耐冷靴21の正面断面図である。
【図6】図5のラミネート材22の断面図である。
【図7】図6の耐冷靴21の製造工程を示す簡略化した斜視図である。
【図8】図5の耐冷靴21で本底4を貼付けない状態の試験体29について、気密性を調査する目的の試験を行う装置の構成を示す簡略化した側面断面図である。
【図9】図8の試験体29に対する気密性試験の結果を示すグラフである。
【図10】図1または図5の耐冷靴1,21で甲材2の構成を示す断面図である。
【図11】図5の耐冷靴21の詳細な断面構造を示す部分的な断面図である。
【図12】図5に示す耐冷靴21の防護機能についての試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1,21 耐冷靴
2 甲材
3 中底
4,14 本底
10 本底ゴム
11 アラミド繊維フィラメント
12 空間
15,23 アラミド繊維織布
16 ゴムシート
22 ラミネート材
24 コーティング
29 試験体
31 液体窒素
33 熱電対
40 織布
41 コーティング
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場において使用される耐冷靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体窒素および液化天然ガス(LNG)に代表され、液化プロパンガスなどを含む極低温液体を取扱う作業場、たとえば貯蔵タンクやタンクローリ車などでは、作業者が防寒靴を着用している。多く使用されている防寒靴は、革製またはゴム製で防水機能を有するように形成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
極低温作業用の防寒靴は、−100℃以下の極低温環境でも、作業者が凍傷を羅病しないように、低温断熱性能を有し、保温性が優れているとともに、極低温液体を取扱う際に生じる不慮の事故に対しても作業者を保護し得ることが必要である。
【0004】
従来から用いられている革製もしくはゴム製の防水機能を有する防寒靴は、次のような問題点を有している。
(1)大地震に伴う事故等により極低温液体が流出し、靴底が極低温液体に浸漬されると、割れが生じ、極低温液体が靴内部に浸透し、安全な歩行の確保が困難になる。
(2)極低温液体の流出箇所に接近しようとすると、靴底に割れが生じたりするので、流出箇所を応急に修理することができず、大事故の未然防止活動が困難となる。
(3)特に、極低温液体がたとえば液化プロパンガスや液化天然ガス等の可燃性を有する場合には、事故等によって燃焼し、その火炎にも曝露されるけれども、緊急避難に必要となる耐熱性や耐炎性を有していない。
【0005】
すなわち、従来流通している防寒作業用の靴の本底には、主として天然ゴム系やウレタン系のエラストマ材料が使用され、金型による加圧加熱成形や射出成形で製造されている。これらの材料をこれらの成形法によって本底として製造すると、本底材料内部に残留応力が発生している。事故等によって流出する極低温液体に靴底が浸漬されると、低温での熱収縮によって残留応力が増大し、靴底に割れが発生してしまう。
【0006】
また、一般に流通している防寒作業用の靴の靴底は、気密構造ではあるけれども、気密性は本底に使用している材料によって維持されている。このため、事故等によって流出する極低温液体に靴が浸漬された場合には、本底に割れが生じると、瞬時にその気密性が失われ、極低温液体が靴内部に浸透してしまう。
【0007】
また、一般的な防寒作業用の靴の甲の材料は、天然の革や合成皮革、あるいはゴム等が用いられている。これらの材料は、事故等で可燃性液体に火災が生じると、耐熱性や耐炎性を備えていないので、火炎にさらされる状態で緊急避難等を行う際の足元の安全性を確保することができない。
【0008】
本発明の目的は、極低温液体を取扱う際に必要となる各種作業などに対する着用者の安全性を高め、作業者が充分な活動を行うことができる耐冷靴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維からなる織布でゴムシートを挟んで積層して形成されることを特徴とする耐冷靴である。
【0010】
本発明に従えば、耐冷靴の本底が、アラミド繊維からなる織布でゴムシートを挟んで積層して形成されるので、本底を成形加工する際生じ得る残留応力を分散させ、また成形温度領域から極低温領域まで温度が低下する際の収縮率を低減させて、耐冷靴が極低温液体に浸漬されても低温熱収縮による本底の割れ発生を抑制することができる。
【0011】
また本発明は、本底と中底との間に、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布に対し、耐低温ゴムまたは高分子フィルムをコーティングした材料が挿入されることを特徴とする。
【0012】
本発明に従えば、耐冷靴の本底と中底との間には、−100℃以下でも物性低下の少ないアラミド繊維に代表される繊維の織布が挿入される。この織布には、最低温ゴムまたは高分子フィルムがコーティングされているので、気密性を有し、アラミド繊維によって極低温でも気密性を確保することができる。このため、極低温液体に浸漬されて、本底に割れが生じて極低温液体が耐冷靴内に侵入してきても、本底と中底との間に挿入され、耐低温ゴムや高分子フィルムがコーティングされた織布で極低温液体の浸透を防ぐことができる。
【0013】
また本発明は、甲が、火炎に曝露されても自己燃焼性がなく、耐熱温度の高い芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドに代表される耐熱繊維からなる織布と、フェルト地とで形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明に従えば、耐冷靴の甲の部分に、火炎に曝露されても自己燃焼性がなく、耐熱温度の高い芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドに代表される耐熱繊維からなる織布とフェルト地とで形成されているので、極低温液体が可燃性を有する液化プロパンガスや液化天然ガスで、事故等で火災が発生しても、緊急避難や消火活動などの際に、着用者を充分に保護することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐冷靴の本底を、積層構造にして、成形時の残留応力を分散させ、低温熱収縮率も低減して、極低温液体に浸漬するときの割れを防止することができる。
【0016】
また本発明によれば、本底に割れが生じて、極低温液体が耐冷靴内部に浸透しようとしても、本底と中底との間に挿入する極低温ゴムや高分子フィルムをコーティングした織布によって、極低温液体の浸透を阻止し、安全性を確保することができる。
【0017】
また本発明によれば、可燃性の極低温液体が流出して、火災などがさらに発生しても、緊急避難や消火活動などを行う作業者の足元の安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施の一形態の耐冷靴1の概略的な断面構成を示す。本実施形態の耐冷靴1の構成そのものは一般的なゴム底防水靴の断面構造と同等である。耐冷靴1では、甲材2を底面に吊込み、中底3に接着剤もしくは金属針による縫製で固定した後に、本底4を取付けて成形する。さらにゴム製縁巻テープ5で補強する。一般的なゴム底防水靴では、中底3には、通常は紙を主原料とする圧縮成形材料が使用される。中底3に、そのような材料を使用すると、本底8に貫通する割れが生じた場合に、その気密性は失われる。中底3に、気密性を有するプラスチック材料を使用した場合であっても、吊込まれている甲材2と中底3との間隙、もしくは甲材2の切断面を介して液体が浸透してしまう。
【0019】
図2は、図1の本底4の断面構成を示す。図2(a)は全体的な断面を示し、図2(b)はその一部を拡大して示す。本実施形態の本底4は、本底ゴム10に−100℃以下でも強度や柔軟性などの物性が低下しない繊維として代表的なアラミド繊維フィラメント11を、短く切断したチョップドストランド、すなわち繊維チョップの形で混合させて本底ゴム10を加硫成形している。アラミド繊維チョップを混合していると、アラミド繊維フィラメント11の周囲と本底ゴム10との間に、僅かな空間12が生じる。この僅かな空間12が、低温熱収縮時の応力集中を緩和吸収する機能を有し、極低温時の割れ発生を防止する効果を発現させていると考えられる。この空間12は、アラミド繊維フィラメント11にゴムとの密着性を向上させる薬品処理等を施さない方が、効率よく発生させることができる。
【0020】
図3は、アラミド繊維フィラメント11のチョップを混合させないで加硫成形した本底ゴム10の断面を示す。図1に示すような空間12は全く形成されない。
【0021】
本実施形態の本底4に関するアラミド繊維フィラメント11のチョップの混合は、加硫前の本底ゴム10について、金属ロールによる混練過程で行っている。一般的に繊維チョップをゴムに混練するときには、ゴムとの密着性をもたせるための薬品加工を施しているけれども、本実施形態では前述のような理由で薬品処理を施していない。
【0022】
本実施形態では、アラミド繊維フィラメント11のチョップの混合率を決定するために、繊維チョップ混合率を変化させた本底4を成形し、20分間の液体窒素浸漬試験を行っている。その試験結果を次の表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1で○は割れ無しを示し、×は割れ有りを示す。なお、チョップ混合法で形成する本底4の形状としては、登山靴などによくみうけられるブロックパターンを選定している。また後述する多層構造体による本底4の形状は、ロール底とし、同時に試験を行っている。
【0025】
試験に用いるアラミド繊維フィラメント11のチョップは、チョップ長が3mmおよび6mmとなる2種類の材料を用いている。衝撃試験は、1mmの高さからコンクリート床面に落下させて実施し、荷重試験は100kgの荷重を掛けて実施している。表1の試験結果からチョップ長が3mmのアラミド繊維フィラメント11を12%以上混合させれば、通常の使用では本底4に割れが発生しないことが明らかになっている。ここで述べる混合率は、重量に対するwt%で示し、純粋なゴムにカーボン等の配合剤を加えた総ゴム量に対する数値である。混合率が20%を越えると、混練作業が困難となり、製造が不可能となる。したがって、アラミド繊維フィラメント11のチョップとしての混合率は、12〜20%が適当である。
【0026】
アラミドフィラメント11のチョップは、混練過程でほぼフィラメント状態にまでほぐされ、本底ゴム10中に分散される。すなわち本底ゴム10は、このアラミド繊維フィラメント11によって、無数のセルに分割され、セルの集合体として捕えることができる。加硫温度から極低温域まで冷却される際の収縮過程では、発生する応力がこの微細なセルに分散され、局部的に集中することがなくなる。特に、登山靴の靴底に代表されるブロックパターンでは、ブロック下部の角に応力が集中しやすいけれども、表1に示したように割れ発生を防ぐことができる。
【0027】
図4は、本発明の実施の他の形態の本底14の断面構造を示す。本実施形態の本底14では、アラミド繊維織布15とゴムシート16との多層構造を有し、加硫温度から極低温まででゴムシート16の内部に生じる応力や歪みが、アラミド繊維織布15によって分散され、緩和吸収される。これによって、ゴムシート16が低温収縮しても、アラミド繊維織布15によって割れの発生を抑制することがきる。
【0028】
図5は、本発明の実施のさらに他の形態としての耐冷靴21の概略的な断面構造を示す。本実施形態で、図1の実施形態に対応する部分には同一の参照符を付し、重複した説明を省略する。本実施形態では、本底4と中底3との間に図6に示すようなラミネート材22を挿入している。ラミネート材22は、たとえば厚さ0.8mmのアラミド繊維織布23の両側に、厚さ1mmの天然ゴムとブタジエンゴムとの混合ゴムシートをコーティング24と貼付け、三層構造を構成している。さらに多層の構造にすることもできる。前述の表1のロール底は、このような多層構造で形成している。
【0029】
図5に示すような耐冷靴21は、図7に示すような(1)〜(4)の工程で製造することができる。
(1)甲材2を切込み、中底3に固定する。
(2)次に図6に示すようなラミネート材22を、ゴム系の接着剤で貼合わせる。
(3)ゴム製縁巻テープ5を甲材2からラミネート材22にかけて貼合わせて補強する。
(4)本底4を、ゴム系接着剤に貼付ける。
【0030】
図8は、図5の実施形態で、本底4を貼付ける前の試験体29について気密性を試験する目的の装置の概略的な構成を示す。試験体29は、金属製パッド30内に設置され、金属製パッド30内には液体窒素31が供給ノズル32から供給される。靴底内部の温度の経時変化は、熱電対33によって測定する。
【0031】
図9は、測定結果の一例を示す。図9で、甲の部分の温度が、約600秒経過後から上昇しているのは、金属製パッド30の液体窒素31が満杯になったので、供給ノズル32からの液体窒素31の供給を休止したためである。甲の部分は、供給ノズル32から供給される液体窒素31に直接当たり、この影響を受けやすいという事情がある。図8に示すような試験装置構成を考慮すれば、温度上昇はみられるけれども問題ではない。靴底については、液体窒素31に浸漬されたままであるので、その後も温度は低下し続ける。しかしながら、約25分経過後でも、靴の内側の温度は−160℃であり、液体窒素31の温度である−196℃には達しない。したがって、試験体29の内部には液体窒素31は浸透しておらず、ラミネート22によって気密性が保持されていることを証明している。試験体29は、本底4を装着していないので、本底4が貼付けられれば、さらに温度低下は少なくなると期待される。本底4に割れが生じて極低温液体が侵入しても、気密性を確保することができるので、前述の各実施形態の本底4のように、極低温液体に浸漬しても割れが生じない本底4を使用すれば、安全性を一層高めることができる。
【0032】
図10は、以上説明した各実施形態で、甲材2として好適な断面構造を示し、図11は図5の実施形態の甲材2として用いる場合の全体的な断面構造を示す。甲材2としては、最も外側に芳香族系ポリアミド繊維による織布40を配置する。織布40の表面には、気密性を保持させるためのシリコン樹脂によるコーティング41を形成する。コーティング41を施した織布40の内側には、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ5mmのフェルト地42を2枚配置する。さらにその内側にキルティング生地43を配置する。キルティング生地43は、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ2mmのフェルト地44を2枚と、芳香族系ポリアミド繊維による織布45とを縫合わせて形成する。このようなキルティング生地43を挿入することによって、断熱性を向上させることができる。
【0033】
図11に示すように、靴底の構造としても、本底4、ラミネート材22および中底3の内側に、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ5mmのフェルト地42を1枚配置し、その内側にキルティング生地43を縫い合わせている。さらに足元からの冷却に対する防護性を高めるため、芳香族系ポリアミド繊維による厚さ7mmのフェルト地46を配置している。このような使用による耐冷靴21を、サーマルマネキンに装着して、液体窒素を25分間にわたって掛け続けたときの足の皮膚表面の温度の変化を図12に示す。
【0034】
測定は、図8と同様に、金属パッド30内に耐冷靴21を配置し、爪先部、踵部および液体窒素を注ぐ甲部で行っている。本試験では、踝以上の深さを有する金属パッド30を使用しているので、甲部は常に液体窒素に浸漬されている。試験開始後約240秒後から液体窒素31、金属製パッド30内に溜まり始める。これ以前は、耐冷靴21の温度が液体窒素31に比較して高く、耐冷靴21を冷却するために液体窒素が蒸発してしまうので、金属製パッド30内にはあまり残らない。
【0035】
試験終了時の爪先および甲部の皮膚表面温度は約13℃であり、踵部は18℃である。人が凍傷に羅病するといわれている温度である−3〜−4℃まで低下することがなく、本実施形態の耐冷靴21が、極低温液体の事故等による突発的な漏洩からの緊急避難、もしくは漏洩箇所の応急修理作業に充分耐え得るものであることが明らかとなっている。
【0036】
次に、漏洩した液化プロパンガスや液化天然ガス等の可燃性極低温液体が燃焼した場合の事故を想定して、耐冷靴21の甲材のISO DIS9151による火炎防護性試験を実施した。試験の結果、12℃温度上昇時間は58秒、24℃温度上昇時間は95秒であることが判明した。本試験は、生地の表面に80kW/m2の熱量を与えたときの生地裏側の温度上昇を測定して、火炎に対する防護性を評価する。公共消防機関では、24℃温度上昇時間15秒を目安として、消防服の評価を行っている。この目安から考慮すると、本実施形態の耐冷靴21は、その約6倍の性能を有することにより、充分な火炎に対する防護性を有しているといえる。
【0037】
以上説明した各実施形態の耐冷靴1,21では、本底4の材料としてアラミド繊維チョップを12〜20wt%混合させたゴムを採用して、液体窒素や液化天然ガス等に代表される極低温液体を取扱う作業上での突発的な事故等による極低温液体の流出で、足元が極低温液体に浸漬されたときにおいても低温熱収縮による本底4の割れの発生を防ぐことができる。さらに、ラミネート材22による気密構造を有する耐冷靴21では、局部的に大きな力が負荷され、万が一に本底4が割れても、極低温液体の靴内への浸透を防ぐことができる二重の安全機能を有している。また、甲材2に芳香族系ポリアミドや芳香族系ポリイミドに代表される耐熱繊維を使用していることによって、液化プロパンガスや液化天然ガス等の可燃性ガスの燃焼時の火炎に対しても充分な防護性を有している。したがって、液体窒素や液化天然ガス等に代表される極低温液体を取扱う作業場において、耐冷靴1,21とを装着すれば、地震等の突発的な事故による極低温液体の漏洩時にも、緊急避難や漏洩箇所の応急修理等の作業を行うために必要になる歩行を確保することができる。
【0038】
本発明は、以下の実施の形態が可能である。
(1)液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維のチョップドストランドを混合させたゴムで形成されることを特徴とする耐冷靴。
【0039】
耐冷靴の本底は、−100℃以下でも物性低下の少ない繊維のチョップドストランドを混合させたゴムで形成される。アラミド繊維に代表されるそのような繊維のチョップドストランドがゴムに混合されているので、本底として成形加工を行った際の残留応力を、アラミド繊維で分散させ、また成形温度領域から極低温領域までの収縮率を低減させて、靴底が極低温液体に浸漬されても低温熱収縮による本底の割れ発生を抑制することができる。
【0040】
液体窒素および液化天然ガス等に代表される極低温液体を取扱う作業場で、突発的な事故等による極低温液体の流出があり、足元が極低温液体に浸漬されるようなときであっても、低温熱収縮による本底の割れの発生を防ぐことができる。
【0041】
(2)液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布と、ゴムシートとを多層に積層して形成されることを特徴とする耐冷靴。
【0042】
耐冷靴の本底が、−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布と、ゴムシートとを多層に積層して形成されるので、本底を成形加工する際生じ得る残留応力を分散させ、また成形温度領域から極低温領域まで温度が低下する際の収縮率を低減させて、耐冷靴が極低温液体に浸漬されても低温熱収縮による本底の割れ発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の一形態による耐冷靴1の概略的な構造を示す正面断面図である。
【図2】図1の本底4の全体的な断面図および部分的に拡大して示す断面図である。
【図3】図1の耐冷靴1で、本底4にアラミド繊維フィラメント11を混合させないときの断面図である。
【図4】本発明の実施の他の形態の本底4の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の実施のさらに他の形態としての耐冷靴21の正面断面図である。
【図6】図5のラミネート材22の断面図である。
【図7】図6の耐冷靴21の製造工程を示す簡略化した斜視図である。
【図8】図5の耐冷靴21で本底4を貼付けない状態の試験体29について、気密性を調査する目的の試験を行う装置の構成を示す簡略化した側面断面図である。
【図9】図8の試験体29に対する気密性試験の結果を示すグラフである。
【図10】図1または図5の耐冷靴1,21で甲材2の構成を示す断面図である。
【図11】図5の耐冷靴21の詳細な断面構造を示す部分的な断面図である。
【図12】図5に示す耐冷靴21の防護機能についての試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1,21 耐冷靴
2 甲材
3 中底
4,14 本底
10 本底ゴム
11 アラミド繊維フィラメント
12 空間
15,23 アラミド繊維織布
16 ゴムシート
22 ラミネート材
24 コーティング
29 試験体
31 液体窒素
33 熱電対
40 織布
41 コーティング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維からなる織布でゴムシートを挟んで積層して形成されることを特徴とする耐冷靴。
【請求項2】
本底と中底との間に、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布に対し、耐低温ゴムまたは高分子フィルムをコーティングした材料が挿入されることを特徴とする請求項1記載の耐冷靴。
【請求項3】
甲が、火炎に曝露されても自己燃焼性がなく、耐熱温度の高い芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドに代表される耐熱繊維からなる織布およびフェルト地で形成されることを特徴とする請求項1または2記載の耐冷靴。
【請求項1】
液体窒素および液化天然ガスに代表される極低温液体を取扱う作業場で使用する耐冷靴において、本底が、アラミド繊維からなる織布でゴムシートを挟んで積層して形成されることを特徴とする耐冷靴。
【請求項2】
本底と中底との間に、アラミド繊維に代表される−100℃以下でも物性低下の少ない繊維からなる織布に対し、耐低温ゴムまたは高分子フィルムをコーティングした材料が挿入されることを特徴とする請求項1記載の耐冷靴。
【請求項3】
甲が、火炎に曝露されても自己燃焼性がなく、耐熱温度の高い芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドに代表される耐熱繊維からなる織布およびフェルト地で形成されることを特徴とする請求項1または2記載の耐冷靴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−203105(P2007−203105A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128548(P2007−128548)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【分割の表示】特願平10−208232の分割
【原出願日】平成10年7月23日(1998.7.23)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【分割の表示】特願平10−208232の分割
【原出願日】平成10年7月23日(1998.7.23)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】
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