説明

耐熱性ペクチンリアーゼおよびそれを用いたペクチンの製造方法

【課題】植物材料から広義のペクチンを製造するにあたり、強酸のような比較的厳しい反応条件を使用することなく、かつ比較的高温条件において、高分子量を有するペクチンをより簡易にかつ効率良く製造することができる、耐熱性ペクチンリアーゼおよびそれを用いたペクチンの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、耐熱性に優れるペクチンリアーゼおよび当該リアーゼを用いたペクチンの製造方法を提供する。本発明のペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]は、代表的には、バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来であり、かつ至適反応温度が60℃以上である。このペクチンリアーゼを植物材料に作用させることにより、比較的高分子量でなるペクチンを効率良く製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物由来のペクチンリアーゼに関する。より詳細には、高温側に至適反応温度を有し、かつ高分子のポリメチルガラクチュロン酸および/またはポリガラクチュロン酸を含有するペクチンを効率良く製造し得る、耐熱性ペクチンリアーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
ペクチンは、植物体の非木質化組織に多く含まれる酸性多糖であり、広義には、主にポリメチルガラクチュロン酸(狭義にはペクチンといわれることもある)と、その一部が脱メチルエステル化されたポリガラクチュロン酸(狭義にはペクチン酸と言われることもある)とで構成される。このようなペクチンは、例えば、増粘多糖剤またはゲル化剤として広く用いられている。
【0003】
ペクチンは、レモンの皮、リンゴのような植物体に多く含まれており、木質化組織間を結合するための物質として知られている。また、その単離にあたっては、種々の方法が用いられている。例えば、従来では、当該植物体に塩酸または硝酸のような強酸を作用させることにより、木質化組織を構成するセルロース鎖との間の結合を切断して、ペクチンを取り出す方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような方法では、上記強酸を用いて60℃〜80℃の比較的高温条件下にて数十分から数時間処理する必要がある。このような厳しい条件での処理を要するので、高分子量のペクチンを製造するための工程管理は難しい。また、このような強酸の使用は、セルロース鎖とペクチンとの間の結合だけでなく、ペクチン自体の結合も部分的に切断することがあり、得られるペクチンは比較的低分子となる傾向にある。このため、得られたペクチンは、充分な粘性を得るために必要な高い分子量(例えば、100,000g/モル以上)を達成することが困難であるという問題があった。
【0005】
他方、このような強酸の使用を回避するために、ペクチンリアーゼおよび当該リアーゼ活性を有する微生物の使用も検討されている。
【0006】
従来、ペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]活性を有する微生物由来の酵素として、糸状菌および細菌由来の酵素が知られている。しかし、従来のペクチンリアーゼは60℃以上の反応温度での活性が著しく低いため、実際の用途は果汁の清澄化などに限定されている。
【0007】
繊維加工分野においても、綿などの天然繊維を精錬する際に、セルロース鎖からペクチンを除去することが重要とされている。従来の精練は、一般に、高温下で水酸化ナトリウムが使用されていた。これに対し、現在、ペクチン酸リアーゼ[EC4.2.2.2]、ペクチンエステラーゼ[EC3.1.1.11]などの酵素を利用したバイオ精錬法が行われている(例えば、特許文献2〜5参照)。しかし、これらのバイオ精錬で使用される酵素は、いずれもポリガラクチュロン酸(ペクチン酸)のみに作用し、ポリメチルガラクチュロン酸に作用するものではない。そのため、さらに精錬効率を高めるための技術が所望されている。
【特許文献1】特開平8−48702号公報
【特許文献2】特開2004−141081号公報
【特許文献3】特開2003−250571号公報
【特許文献4】特開2003−180364号公報
【特許文献5】特開2002−85077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、植物材料から広義のペクチンを製造するにあたり、強酸のような比較的厳しい反応条件を使用することなく、かつ比較的高温条件において、高分子量のペクチンをより簡易にかつ効率良く製造することができる耐熱性ペクチンリアーゼおよびそれを用いたペクチンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来であり、かつ至適反応温度が60℃以上である、ペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]を提供する。
【0010】
一つの実施態様では、上記至適反応温度は60℃から105℃である。
【0011】
別の実施態様では、上記ペクチンリアーゼは、下記の性質を有する:
(1)至適反応温度が70℃から80℃であり;そして
(2)SDS PAGEによる分子量が33,000Daである。
【0012】
また、別の実施態様では、上記ペクチンリアーゼは、pH7の至適反応温度が80℃である。
【0013】
異なる実施態様では、上記ペクチンリアーゼは、pH8の至適反応温度が70℃である。
【0014】
本発明はまた、植物材料に、上記ペクチンリアーゼを作用させる工程を包含する、ペクチンの製造方法を提供する。
【0015】
一つの実施態様では、上記ペクチンリアーゼを作用させる工程が、50℃から105℃の温度で行われる。
【0016】
本発明はまた、バチラス属に属し、かつ至適反応温度が60℃から105℃であるペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]を産生し得る能力を有する、微生物を提供する。
【0017】
本発明はまた、バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)に属し、かつペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]を産生し得る能力を有する、微生物を提供する。
【0018】
本発明はまた、バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)FERM P−20548株を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、強酸のような比較的厳しい反応条件を使用することなく、植物材料からペクチンを効率良く製造することができる。また、本発明の耐熱性ペクチンリアーゼは、比較的高温側に至適反応温度を有するため、ペクチン製造における当該リアーゼの処理温度を低く抑える必要がない。そのため、ペクチン製造工程の管理が比較的容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、本発明のペクチンリアーゼについて説明する。
【0021】
本発明のペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]は、バチラス属に属する微生物に由来する。
【0022】
このようなバチラス属に属する微生物は、至適反応温度が60℃から105℃であるペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]を産生し得る能力を有する微生物であるか、あるいはバチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)に属し、かつペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]を産生し得る能力を有する微生物である。
【0023】
このような微生物の例としては、バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)SWU RN13と命名された微生物が挙げられる。なお、バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)SWU RN13は、16SリボゾームDNA法により、バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)であることが確認されている。この微生物SWU RN13は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、平成17年5月26日に受託番号FERM P−20548が付与されている。
【0024】
本発明のペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]は、至適反応温度が、好ましくは60℃以上、より好ましくは60℃〜105℃、さらにより好ましくは65℃〜105℃、またさらにより好ましくは70℃〜80℃である。さらに、当該ペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]は、好ましくは、SDS PAGEによる分子量が33,000Daである。
【0025】
本発明のペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]はまた、後述する植物材料に作用させる際の反応系の至適反応pHが7付近の場合、至適反応温度は80℃であることが好ましく、あるいは後述する植物材料に作用させる際の反応系の至適反応pHが8付近の場合、至適反応温度は70℃であることが好ましい。
【0026】
本発明のペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]はまた、広義のペクチン(すなわち、主にポリメチルガラクチュロン酸とポリガラクチュロン酸とで構成される酸多糖類)のうちポリメチルガラクチュロン酸に主に作用するものであり、より具体的には、ポリメチルガラクチュロン酸を構成する1つのメチルガラクチュロン酸ユニットと、それに隣接する他のメチルガラクチュロン酸ユニットとの間のα−1,4−結合を部分的に切断する能力を有する。また、本発明のペクチンリアーゼを用いて得られるペクチンは、酸処理法に比べ温和な条件で製造されるため、比較的高い分子量(例えば、100,000g/モル以上)を保持している。
【0027】
本発明のペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]は、例えば、上記バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)SWU RN13(FERM P−20548)から、当業者が通常用いる分離・精製手段で得ることができる。
【0028】
なお、FERM P−20548株は、以下の菌学的性質を有する(LB培地(培地組成:1%ペプトン、0.5%塩化ナトリウム、0.5%酵母エキス)上で37℃で1日間培養した場合のコロニー形態を示す):
直径:5mm
色調:クリーム色がかった白
形:円形
隆起状態:扁平状
周縁:不規則
表面の形状など:ラフ
透明度:不透明
粘稠度:バター様。
また、FERM P−20548株がバチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)であることは、16SリボゾームDNA法により確認した。
【0029】
上記ペクチンリアーゼは、植物材料からペクチンを取り出すために使用される。したがって、上記ペクチンリアーゼを利用して、植物材料からペクチンを製造すること、あるいは植物材料からペクチンを除去することができる。上記ペクチンリアーゼを用いて植物材料からペクチンを製造する、あるいは除去するための方法について、以下に説明する。
【0030】
本発明の方法においては、植物材料に、上記ペクチンリアーゼを作用させる。
【0031】
本発明の方法に用いられる植物材料は、植物の全草であっても、あるいは植物の一部分であってもよい。このような植物部分としては、果実、根、茎、および葉が挙げられる。本発明の方法に用いられる植物材料は、ペクチンを含有する部位を含む限り、いかなる植物形態も使用可能である。さらに、本発明の方法に用いられる植物材料には、これらの全草または部位の抽出物(例えば、果汁も包含される)も包含される。本発明の方法に用いられる植物材料の形態は、未加工のもの、断片、細片または粉末のいずれをも包含する。さらに、本発明に用いられる植物材料は、乾燥物または生の状態のもののいずれをも包含する。未乾燥物、すなわち生の状態のものを用いることが好ましい。
【0032】
本発明の方法に用いられる植物材料に適切な植物は、一般にペクチンを多く含有する植物、あるいは後述する精錬のような、ペクチンを含む基材が挙げられる。具体的な例としては、特にこれらに限定されないが、レモン、リンゴ、ミカン、バナナ、ブドウ、グレープフルーツ、アプリコット、サクランボ、スグリ、ナシ、ラズベリー、イチゴ、トマト、モモ、ならびにビードパルプ、綿および麻が挙げられる。ペクチンの製造を目的とする場合、レモンまたはリンゴが好ましく、例えば、ペクチン含量が多いとの理由からレモンの皮が特に好ましい。
【0033】
本発明の方法においては、まず、上記植物材料と上記ペクチンリアーゼとを、例えば、緩衝液の存在下にて適宜混合する。植物材料に対する上記ペクチンリアーゼの量は、特に限定されないが、例えば、植物材料として500gの乾燥レモンの皮を使用する場合、好ましくは50ユニット〜100,000ユニットのペクチンリアーゼ、より好ましくは100ユニット〜50,000ユニットのペクチンリアーゼ、さらにより好ましくは500ユニット〜25,000ユニットのペクチンリアーゼが用いられる。使用するペクチンリアーゼの量が50ユニットを下回ると、ペクチンを効率良く植物から取り出すことができない恐れがある。また、使用するペクチンリアーゼの量が100,000ユニットを上回っても、植物から取り出されるペクチンの量に変化はなく、むしろ植物材料に対するペクチンリアーゼの作用の効率を低下する恐れがある。なお、上記ペクチンリアーゼ1ユニット(U)とは、後述の実施例1に示す反応条件下で1分間に1μmolの4,5−不飽和ガラクチュロン酸を生成する酵素量として定義される。
【0034】
本発明の方法においては、上記植物材料に対して上記ペクチンリアーゼを作用させる工程は、例えば、当業者に公知の加熱手段を用いることにより、好ましくは50℃〜105℃、より好ましくは60℃〜105℃、さらにより好ましくは65℃〜105℃、またさらにより好ましくは70℃〜80℃の温度で行われる。
【0035】
上記植物材料に対して上記ペクチンリアーゼを作用させる時間は、使用する植物材料および/またはペクチンリアーゼの量、反応温度などによって変動するため、必ずしも限定されないが、例えば、1時間〜20時間であり、より好ましくは3時間〜10時間である。
【0036】
上記のように、植物材料にペクチンリアーゼを作用させた後、植物から取り出されたペクチンは、当業者に公知の手段により、分離・精製することができる。
【0037】
このようにして、比較的分子量の高いペクチンを容易かつ効率的に製造することができる。
【0038】
また、繊維加工分野においては、このようにして、綿、麻などの天然繊維を容易かつ効率的に精練することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0040】
<実施例1:ペクチンリアーゼの調製>
大阪府立大学より分譲されたバチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)SWU RN13(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、平成17年5月26日に受託番号FERM P−20548が付与された株)を、200mlのLB培地に植菌し、37℃で一晩保存した。次いで、この培地を2リットルのLB培地に移すとともに、シュガービートを添加して、45℃でさらに48時間培養した。培地を遠心分離し(10,000rpmで10分間)、その後、上清を集め、70mmの大きさのフィルター(ADVANTEC社製No.2)で濾過した。その後、最終濃度が80w/v%となるように硫酸アンモニウムを添加し、撹拌して4℃で一晩放置した。次いで、この混合物を遠心分離し(10,000rpm、20分間)、沈殿物を20mMのリン酸緩衝液(pH7)に溶解し、同様のリン酸緩衝液に対して4℃にて一晩かけて透析を行った。
【0041】
その後、この混合物を、20mMのリン酸緩衝液(pH7)で平衡化した陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE−TOYOPEARL(東ソー社製))にかけ、未吸着画分を得、これを限外濾過して濃縮した。濃縮物を20mMのリン酸緩衝液(pH7)に溶解し、同様のリン酸緩衝液に対して4℃にて一晩透析を行った。得られた溶液を遠心分離し(10,000rpm、20分間)、さらに上清をカチオン交換クロマトグラフィー(RESOURCE S COLUMN(アマシャムバイオサイエンス社製))にかけた。溶出は、流速3ml/分、液量120mlの0〜0.5MのNaClグラジエントを使用して行った。吸着画分を集め、リン酸緩衝液(20mM、pH7)に対して4℃にて一晩透析を行った。
【0042】
次いで、上記で得た画分を遠心分離し(10,000rpm、20分間)、カチオン交換クロマトグラフィー(MONO Sカラム(アマシャムバイオサイエンス社製))にかけた。溶出は、流速1ml/分、液量20mlの0〜0.5MのNaClグラジエントを使用して行った。次いで、酵素活性を示す画分に、最終濃度が30w/v%となるように硫酸アンモニウムを添加した。得られた懸濁液を疎水クロマトグラフィー(フェニル−スパロース(phenyl−superose)カラム(アマシャムバイオサイエンス社製))にかけた。溶出は、流速0.5ml/分、液量20mlの30w/v%〜0w/v%の硫酸アンモニウム水溶液のグラジエントを使用して行った。この酵素活性を示す画分を集め、さらに限外濾過にかけた後、ゲル濾過を行った(Superdex 75、流速1ml/分)。さらに、ゲル濾過により得られた酵素活性を示す画分を、カチオン交換クロマトグラフィー(MONO Sカラム(アマシャムバイオサイエンス社製))にかけた。溶出は、流速1ml/分、液量20mlの0〜0.5MのNaClグラジエントを使用して行った。酵素活性を示す画分を集め、SDS−PAGEによって、これらがほぼ均一であることを確認した(10mg、15ユニット/mg)。なお、精製工程中の酵素活性を、後述する4,5−不飽和ガラクチュロン酸の生成によりモニターした。得られた酵素画分の酵素的性質を評価し、その酵素的性質を表1にまとめて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
上記精製工程で得られた酵素をSWU−RN13と命名した。まず、このSWU−RN13酵素がリアーゼ活性を有しているかを評価した。20mMのリン酸緩衝液(pH7.0)中の、0.1%ポリメチルガラクチュロン酸(Sigma社製P−9561)に酵素液(1mU)を添加して10mlとし、80℃で反応させた。分光光度計で235nmにおける時間毎の吸光度の増加を測定し、4,5−不飽和ガラクチュロン酸の生成をモニターした。図1に示すように、吸光度が時間経過に応じて増加しており、SWU−RN13酵素はリアーゼ活性を有していることがわかった。
【0045】
SWU−RN13酵素の基質特異性を評価するために、0%〜86%の間の種々のメチル化度(0%、10%、16%、31%、86%)のポリメチルガラクチュロン酸を基質として用いたこと以外は上記と同様の組成の反応溶液を、80℃で10分間反応させ、上述と同様にして酵素活性を測定した。酵素活性をユニット/mlとして示した。ここで、酵素1ユニット(U)とは、1分間に1μmolの4,5−不飽和ガラクチュロン酸を生成する酵素量として定義した。図2から、SWU−RN13酵素が、ポリメチルガラクチュロン酸のメチル化度の上昇とともに活性が高くなることがわかった。
【0046】
SWU−RN13酵素の至適pHを調べるために、緩衝液のpHを1〜11としたこと以外は、上記リアーゼ活性の測定に使用したものと同様の組成の反応溶液を80℃で15 分間反応させた。なお、緩衝液としては、pH1〜3まではNa−酢酸−HCl緩衝液を用い、pH4〜5まではNa−酢酸緩衝液を用い、pH6〜8まではNa−リン酸緩衝液を用い、そしてpH9〜11まではNa−炭酸緩衝液を使用した。上記と同様に、分光光度計で235nmでの吸光度を測定し、酵素活性を測定した。また、SWU−RN13のpH安定性を調べるために、上記酵素液を、上記各pHで、40℃で16時間保持した後、上記と同様にして酵素活性を調べた。SWU−RN13酵素の活性および安定性についてのpHプロフィールおよび値を、図3および図4に示す。酵素活性の至適反応pHは、8.0であった。そして酵素は、5.0〜8.0のpH範囲で安定であった。
【0047】
SWU−RN13酵素の至適温度を調べるために、上記リアーゼ活性の測定に使用したものと同様の酵素反応溶液を、pHを7.0または8.0とし、40〜100℃の間の種々の一定温度で、10分間反応させ、上記と同様に酵素活性を測定した。また、酵素の熱的安定性を調べるために、上記酵素反応溶液を、pH7.0で、上記の各温度で1時間保持した後、上記と同様にして酵素活性を調べた。pH7.0および8.0における酵素活性、およびpH7.0での熱的安定性について温度のプロフィールをそれぞれ、図5、図6および図7に示す。至適反応温度は、pH8.0で70℃であり、そしてpH7.0で80℃であった。また、この酵素の活性は、30〜60℃の温度の場合、pH7.0で1時間保持した後もなお顕著には損なわれなかった。
【0048】
SWU−RN13酵素の各金属イオンによる酵素活性に対する影響を検討した。20mMのリン酸緩衝液(pH7.0)中の、0.1%ポリメチルガラクチュロン酸(Sigma社製P−9561)に、表2に示す種々の金属イオン溶液(最終濃度1mM)と酵素液(1mU)を添加して0.2mlとし、80℃で10分間反応させ、上記と同様に酵素活性を測定した。金属イオンを添加しない場合およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(最終濃度1mM)を添加した場合を、それぞれコントロールとして同様に測定した。この結果を図8および表2に示す。SWU−RN13の酵素活性は、Ca2+およびCd2+で上昇したが、Hg2+およびFe3+で非常に阻害された。
【0049】
【表2】

【0050】
<実施例2:ペクチンリアーゼを用いたペクチンの製造>
14質量%の固形分を含む新鮮なレモンの皮(1000g)を冷凍し、自然解凍した。これに、1リットルのリン酸緩衝液(20ml、pH7)および実施例1で得られたペクチンリアーゼ500ユニットを添加し、50℃にて5時間反応させた。
【0051】
その後、不溶物をフィルター(アドバンテック社製No.6)で濾過し、水溶性画分を得た。この水溶性画分に3リットルのエタノールを添加し、沈殿物を遠心分離(3,000rpm、10分間)により得た。沈殿物を50℃にて減圧乾燥して、1.0gのペクチンを得た。使用したレモンの皮(固形分)と得られたペクチン量との関係を表3に示す。
【0052】
<実施例3:ペクチンリアーゼを用いたペクチンの製造>
レモンの皮とペクチンリアーゼとの反応に付与した温度を60℃としたこと以外は、実施例2と同様にして18gのペクチンを得た。使用したレモンの皮(固形分)と得られたペクチン量との関係を表3に示す。
【0053】
<実施例4:ペクチンリアーゼを用いたペクチンの製造>
レモンの皮とペクチンリアーゼとの反応に付与した温度を70℃としたこと以外は、実施例2と同様にして15gのペクチンを得た。使用したレモンの皮(固形分)と得られたペクチン量との関係を表3に示す。
【0054】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の耐熱性ペクチンリアーゼは、例えば、増粘多糖剤またはゲル化剤として広く用いられるペクチンの製造に有用である。本発明により製造されたペクチンは、食品加工分野、精錬などの繊維加工分野、紙・パルプ加工分野、およびバイオマス分解のような広範な技術分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ペクチンリアーゼSWU−RN13による4,5−不飽和ガラクチュロン酸の生成の経時変化を示すグラフである。
【図2】pH7.0かつ70℃におけるメチル化されたPGAについての、ペクチンリアーゼSWU−RN13の基質特異性を示すグラフである。
【図3】ペクチンリアーゼSWU−RN13の至適反応pHを示すグラフである。
【図4】ペクチンリアーゼSWU−RN13について、40℃で16時間経過した後のpH安定性を示すグラフである。
【図5】ペクチンリアーゼSWU−RN13のpH7.0での至適反応温度を示すグラフである。
【図6】ペクチンリアーゼSWU−RN13のpH8.0での至適反応温度を示すグラフである。
【図7】ペクチンリアーゼSWU−RN13のpH7.0での熱的安定性を示すグラフである。
【図8】各金属イオンに対するペクチンリアーゼSWU−RN13の酵素活性の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来であり、かつ至適反応温度が60℃以上である、ペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]。
【請求項2】
前記至適反応温度が60℃から105℃である、請求項1に記載のペクチンリアーゼ。
【請求項3】
下記の性質を有する、請求項1または2に記載のペクチンリアーゼ:
(1)至適反応温度が70℃から80℃であり;そして
(2)SDS PAGEによる分子量が33,000Daである。
【請求項4】
pH7での至適反応温度が80℃である、請求項3に記載のペクチンリアーゼ。
【請求項5】
pH8での至適反応温度が70℃である、請求項3に記載のペクチンリアーゼ。
【請求項6】
植物材料に、請求項1から5のいずれかに記載のペクチンリアーゼを作用させる工程を包含する、ペクチンの製造方法。
【請求項7】
前記ペクチンリアーゼを作用させる工程が、50℃から105℃の温度で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
バチラス属に属し、かつ至適反応温度が60℃から105℃であるペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]を産生し得る能力を有する、微生物。
【請求項9】
バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)に属し、かつペクチンリアーゼ[EC4.2.2.10]を産生し得る能力を有する、微生物。
【請求項10】
バチラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)FERM P−20548株。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−149374(P2006−149374A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282610(P2005−282610)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】