説明

耐熱衝撃性窒化珪素焼結体及びその製造方法

【課題】色ムラがなく、耐熱衝撃性に優れた窒化珪素焼結体を提供する。
【解決手段】ネオジムと鉄を含み、Fe/Ndで表される質量比が0.17〜10であることを特徴とする耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。鉄を酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%、ネオジムを酸化物換算で0.05〜0.59質量%含み、マグネシウム、イットリウム及びネオジムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%含み、MgO/(Y+Nd)で表される質量比が0.5〜10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱衝撃性に優れた窒化珪素焼結体に関する。例えば、金属溶湯に接触する溶湯部材として用いられる。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素は、耐熱性に優れ、金属とは濡れ難いことから、金属溶湯を流し込む溶湯部材に適している。
【0003】
溶湯部材には、一瞬で500℃以上の金属溶湯が注ぎ込まれ、場合によっては、溶湯を冷却させるために、部材そのものを急冷させる必要が生じる。そのため、溶湯部材には、耐熱衝撃性が要求される。耐熱衝撃性に関わるパラメータには熱伝導率、熱膨張率や強度などがあり、一般的に、低熱膨張率、低ヤング率、高強度、高熱伝導率なものほど、耐熱衝撃性に優れている。窒化珪素については、特に熱伝導率及び強度に主眼を置いた研究が多くなされている。
【0004】
例えば、窒化珪素の熱伝導率を向上させるために、従来多く用いられていたAl−RE(希土類元素)−O系ではなく、Mg−Y−O系の焼結助剤を用いることが提案されている(特許文献1および2参照)。
【0005】
特許文献1では、窒化珪素結晶粒子中へのAl原子の固溶、およびサイアロン相の形成によって窒化珪素結晶自体の熱伝導率が低下することから、焼結助剤にMg−Y−O系を用いた例が示されている。具体的には、窒化珪素を主成分とし、希土類元素およびMgを酸化物換算による合量で4〜30モル%、希土類金属とMgを酸化物換算のモル比(RE/MgO)が0.1〜15となる比率で含有するとともに、Alの酸化物換算量が1モル%以下の相対密度が48〜56%の成形体を、1500〜1800℃の非酸化性雰囲気中で焼成して、相対密度90%以上に緻密化して、焼結体の切断面における窒化珪素結晶の平均長軸径が0.5〜3μmの熱伝導率50W/m・K、強度600MPa以上の窒化珪素質放熱部材を得ることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2も特許文献1と同様に、Mg−Y−O系の焼結助剤を用いた例が示されている。具体的には、窒化ケイ素質粉末1〜50重量部と、平均粒子径が0.2〜4μmのα型窒化珪素粉末99〜50重量部と、Mgと、La,Y及びYbを含む希土類元素から選択された少なくとも1種の希土類元素でなる焼結助剤とからなる焼結体であって、前記Mgを酸化マグネシウム換算し、La,Y及びYbを含む希土類元素から選択された少なくとも1種の元素を酸化物(RE)換算し、これら酸化物換算含有量の合計が0.6〜7wt%、且つ(MgO/RE)の重量比が1〜70である窒化ケイ素質焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−44351号公報
【特許文献2】特開2004−262756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの文献に記載された発明では、熱伝導率および曲げ強度は高いものの、耐熱衝撃性としては十分なものとは言えず、より耐熱衝撃性の高い部材が求められていた。また、Mg−Y−O系の焼結助剤では、焼結体に色ムラが生じる場合があり、改善が望まれていた。
【0009】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、色ムラがなく、耐熱衝撃性に優れた窒化珪素焼結体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ネオジムと鉄を含み、
Fe/Ndで表される質量比が0.17〜10であることを特徴とする耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。本発明は、窒化珪素焼結体において、ネオジムと鉄を所定量含ませることで、耐熱衝撃性が向上することを見出したものである。上記の範囲とすることで、酸化ネオジムの液相化温度が低下し窒化珪素の粒成長が促進され、緻密化と耐熱衝撃性が向上する。また、ネオジムと鉄を含ませることで、窒化珪素焼結体の色ムラを低減することができる。
【0011】
鉄を酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%、ネオジムを酸化物換算で0.05〜0.59質量%含ませることが好ましい。上記質量比とし、かつこのような含有量とすることで耐熱衝撃性が向上する。
【0012】
さらに、本発明では、マグネシウム及びイットリウムが含まれていても良い。例えば、マグネシウム、イットリウム及びネオジムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%含み、MgO/(Y+Nd)で表される質量比が0.5〜10である窒化珪素焼結体とすることができる。マグネシウムやイットリウムを含ませることで、より一層耐熱衝撃性が向上する。
【0013】
本発明の窒化珪素焼結体は、焼結体断面観察による平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合が20%以下、1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合が25%以上、これらの合計が30〜70%であることを特徴とする。このような組織を形成することにより耐熱衝撃性は飛躍的に向上する。これは、熱伝導率の向上に加え、上記のような複合組織により粗大粒子によるクラックの偏向(クラックディフレクション)による破壊エネルギー散逸効果が最大限に発揮されるため、焼結体が高靭化し、優れた耐熱衝撃性が得られる。
【0014】
原料粉末の成形体を脱脂して得られた脱脂体を、少なくとも内面が窒化物で構成された容器内に設置し、1200℃以上における不活性ガス雰囲気圧を0.5〜2.0MPaとして焼結したものであることが好ましい。炭素が付着するのを防ぎ、色ムラの発生を抑えるためである。また、不活性ガス雰囲気とし、その圧力を制御するのは、窒化珪素の分解を防ぎ、緻密化を促進し、酸化マグネシウム等の液相形成成分の揮発を防ぐためである。このような焼結条件の調整により、耐熱衝撃性に優れた窒化珪素焼結体を得ることができる。さらに、不活性ガス雰囲気圧の制御は、室温以上で行うことがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
色ムラがなく、耐熱衝撃性に優れた窒化珪素焼結体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の窒化珪素焼結体について、より詳細に説明する。
【0017】
本発明の窒化珪素焼結体は、ネオジムと鉄を含む。本発明は、窒化珪素焼結体において、ネオジムと鉄を所定量含ませることで、耐熱衝撃性が向上することを見出したものである。また、ネオジムと鉄を含ませることで、窒化珪素焼結体の色ムラが低減される。色ムラは輻射に影響することから、部材の均熱を図るために色調は均一であることが好ましい。色ムラが低減されるのは、これらを両方添加することで発色を打ち消し合っているためと推察される。
【0018】
ネオジムと鉄の含有量は、Fe/Ndで表される質量比が0.17〜10となるようにすることが好ましい。上記の範囲とすることで、酸化ネオジムの液相化温度が低下し窒化珪素の粒成長が促進され、緻密化と耐熱衝撃性が向上する。また、このような範囲であれば、色ムラを抑えることができる。
【0019】
また鉄を酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%、ネオジムを酸化物換算で0.05〜0.59質量%含ませることが好ましい。上記質量比とし、かつこのような含有量とすることで耐熱衝撃性が向上するまた、また、色ムラを抑えることができる。
【0020】
さらに、本発明では、マグネシウム及びイットリウムが含まれていても良い。例えば、マグネシウム、イットリウム及びネオジムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%含み、MgO/(Y+Nd)で表される質量比が0.5〜10である窒化珪素焼結体とすることができる。マグネシウムやイットリウムを含ませることで、より一層耐熱衝撃性が向上する。
【0021】
マグネシウムやイットリウムを酸化物等の形態で添加すると、窒化珪素原料粉末の表面に存在するシリカと反応し液相を形成し、窒化珪素粒子の粒成長を促進する。上記範囲で含有させることにより容易に緻密化することができる。
【0022】
本発明の窒化珪素焼結体は、焼結体断面観察による平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合が20%以下、1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合が25%以上、これらの合計が30〜70%であることを特徴とする。このような組織を形成することにより耐熱衝撃性は飛躍的に向上する。これは、熱伝導率の向上に加え、上記のような複合組織によりクラックが進展し難くなるためである。
【0023】
また、本発明の窒化珪素焼結体は、焼結体表面と内部の平均長軸径の差が10%以下である。上記のように、平均長軸径を調整するとともに、焼結体の表面と内部との組織を均一化することで耐熱衝撃性を高めることができる。なお、平均長軸径は、2〜5μmとすることが好ましい。このような範囲であれば窒化珪素焼結体の緻密化が可能である。なお、焼結体表面は、焼結後研削加工が施されていない焼き放しの表面をいう。本発明の窒化珪素焼結体は、耐熱衝撃性に優れており、例えば、金属溶湯に接する溶湯部材として用いることができる。このような部材では、溶湯の流路など加工が困難なものや、複雑形状のため焼結後の加工でコスト高となるものが多い。生加工で形状を付与することによって焼結後の加工をなくし、焼き放し表面を有する部材が用いられる。したがって、本発明の窒化珪素焼結体は、焼き放し表面を有し、かつ耐熱衝撃性が求められる部材に好適である。
【0024】
また、本発明は、焼き放しの焼結体表面と、焼結体内部に含まれるマグネシウムの含有率の差が1%以下とすることが好ましい。焼結体の表面と内部とのマグネシウム含有率の差を小さくすることは、上記のような焼結体の結晶構造を得るうえで好ましい。
【0025】
次に本発明の窒化珪素焼結体の製造方法について説明する。
【0026】
原料である窒化珪素粉末の平均粒径は1μm以下が好ましい。また、β分率が10%以下の窒化珪素原料粉末を用いることが好ましい。さらに、純度は、粒界相の生成等に影響するため、高純度であることが好ましく、具体的には、98.0%以上であることが望ましい。このような原料粉末を用いることで極めて耐熱衝撃性の良好な窒化珪素焼結体を得ることが容易になる。なお、本発明では、レーザー回折式粒度分布測定によるメジアン径(D50)をもって原料粉末の平均粒径とする。
【0027】
窒化珪素の原料粉末には、ある程度の酸素が含まれていることが好ましい。これは複合酸化物及び酸化物からなる液相を形成するためである。酸素量としては、1〜3質量%が好ましい。このような範囲とすることは原料粉末の表面に存在するシリカと酸化鉄、酸化ネオジム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム等が液相を形成し、粒成長を制御して耐熱衝撃性を向上させるうえで好ましい。
【0028】
ネオジムの添加は、酸化ネオジム、水酸化ネオジム、硝酸ネオジム等のネオジム化合物の原料粉末を用いることができる。鉄は酸化第二鉄の他、酸化第一鉄、水酸化鉄、硝酸塩等の種々の粉末を適用することができる。これらの純度は高純度であることが好ましく、純度97%以上、より好ましくは99%以上の原料粉末を用いることが望ましい。また、平均粒径は、1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0029】
マグネシウムの添加は、酸化マグネシウムの他、水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム等種々のマグネシウム化合物の粉末を用いることができる。純度は、粒界相の生成等に影響するため、高純度であることが好ましく、純度97%以上、より好ましくは99%以上の原料粉末を用いることが望ましい。また、平均粒径は、1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0030】
イットリウムを添加する場合も同様に、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、硝酸イットリウム等のイットリウム化合物の原料粉末を用いることができる。
【0031】
原料粉末の混合は、乾式、湿式問わず種々の方法により行うことができる。
【0032】
原料粉末は、プレス成形、CIP成形、鋳込み成形等の成形方法により成形される。プレス成形やCIP成形等の乾式成形を用いる場合には、原料粉末にバインダを加えて噴霧乾燥法等により顆粒とすることが好ましい。
【0033】
上記成形方法により得られた成形体について、バインダや分散剤等の有機物を除去するための脱脂を行う。脱脂は、500〜600℃で行うことが好ましい。
【0034】
焼結は、常圧焼結、加圧雰囲気焼結、ホットプレス焼結等の焼結方法により作製できる。焼成温度はα型からβ型の転移が生じる温度以上が好ましく、1700〜1900℃が好ましい。1900℃より高温では、窒化珪素の分解が生じ、1700℃より低温では、十分に緻密化しない場合がある。
【0035】
焼成雰囲気は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気が好ましく、窒素を用いることがより好ましい。その場合の圧力は、0.5〜2.0MPaで行うことが好ましい。これは、窒化珪素の分解を防ぎ、緻密化を促進するためである。また、酸化マグネシウム等の液相形成成分の揮発を防ぐためである。特に酸化マグネシウムは揮発し易く、焼成初期から雰囲気圧を指定の圧力範囲にしないと緻密化不足や色ムラが生じ易くなる。上記雰囲気で制御する温度域は酸化マグネシウムの揮発が生じやすい1200℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、室温(25℃)以上が最も好ましい。
【0036】
また、焼結は、少なくとも内面が窒化物で構成された容器内に脱脂体を入れて行うことが好ましい。これは、炉壁や発熱体等の炭素が脱脂体に付着するのを防ぐためである。炭素が付着すると、色ムラが生じ易くなるため好ましくない。上記容器としては、窒化珪素、窒化ホウ素等の窒化物焼結体からなるものや、カーボンの容器の内面に窒化珪素やBN等を塗布したものを用いることができる。さらに、容器内には、その容積に対し0.01g/cm以上の雰囲気形成粉末を脱脂体とともに入れて焼結を行っても良い。雰囲気形成粉末は、脱脂体と同成分の粉末や、揮発し易い酸化マグネシウムやその他の添加物からなる粉末、またはそれらの混合粉末としても良い。このような雰囲気形成粉末を用いることは焼結体の組織を均一化するうえで好ましい。
【0037】
本発明の窒化珪素焼結体は、窒化珪素を主成分とする。その窒化珪素はβ型窒化珪素であることが望ましい。α型窒化珪素は熱伝導率が低いため好ましくない。したがって、本発明の窒化珪素焼結体は、β型窒化珪素粒子と、酸化マグネシウムやその他の添加物等からなる粒界相から構成される。
【0038】
次に、本発明の窒化珪素焼結体の製造方法について説明する。
【0039】
以下、実施例を用いて本発明の窒化珪素焼結体の製造方法について説明する。
【0040】
[窒化珪素焼結体の作製]
窒化珪素原料粉末(平均粒径が1.0μm、酸素量が1.5%、β分率が6%以下)に、酸化ネオジム、酸化マグネシウム源の水酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化第二鉄を用いて表1に示すような組成で添加して混合した。水酸化マグネシウムの添加量は、窒化珪素焼結体に含まれる酸化マグネシウム量が所定の数値になるように調整して添加した。得られた混合粉末に対して成形用バインダとしてアクリル樹脂を、イオン交換水を溶媒として添加し、噴霧乾燥後、篩を通して成形用顆粒を得た。なお、平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定機により測定した。
【0041】
得られた成形用顆粒を成形圧1.5t/cmで□50×25mmの板状の成形体を得た。
【0042】
脱脂は大気中、500℃×6hr、20℃/hrで行った。
【0043】
焼成は、容器に窒化ホウ素サヤを用い、その容積に対し0.05g/cmの成形体と同組成粉末を入れ、所定温度まで真空中で焼成し、おおよそ□40×20mmの焼結体を得た。所定温度以降は、雰囲気を調整して行った。焼結温度は、1750〜1900℃とした。表1にこれらの条件を記した。表1にこれらの条件を記した。
【0044】
[評価]
焼結体の密度は、アルキメデス法により算出した。平均長軸径の測定方法は、焼結体の任意の切断面を鏡面加工し、酸素+四弗化炭素の混同ガス中で粒界相をエッチングした後に、走査型電子顕微鏡観察を行い、その写真を用いて算出した。具体的には、少なくとも50個の粒子に交差するよう無作為に直線を引き、交差した粒子全てについて長軸径を求め平均した。また、交差した粒子の面積を求めて、平均長軸径に対して0.5倍以下及び1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合(表1において、それぞれA、Bと表記)を算出した。焼結体表面と内部の平均長軸径の差については、焼き放しの表面から1mmの切断面と10mmの切断面をそれぞれ、表面と内部として評価した。なお、焼結体の平均長軸径は内部のものを採用し、表面の平均長軸径から内部のそれを引いた差を平均長軸径で除したものを表面と内部の差を百分率で評価した。
【0045】
耐熱衝撃性の評価は、4×4×40mmの試験片を大気雰囲気中1000℃で1時間保持した後に、23℃の水中へ投下したときのクラック有無を確認することによって行った。色ムラは目視により、その有無を調べた。クラックが生じなかったものを「○」とし、生じたものを「×」とした。表1では、クラックの発生したもの、相対密度が著しく低いもの、及び焼結体が得られなかったものの作製No.の後に「※」を表記した。
【0046】
【表1】

【0047】
作製No.2〜5、8〜10、13〜17、20、23では、耐熱衝撃性に優れ、色ムラのない緻密な窒化珪素焼結体が得られた。
【0048】
一方、作製No.1ではネオジムが含まれていなかったため、耐熱衝撃性の良好な窒化珪素焼結体が得られなかった。また、窒化珪素焼結体には色ムラが生じていた。
【0049】
また、作製No.6ではネオジムの含有量が多すぎたため、耐熱衝撃性の良好な窒化珪素焼結体が得られなかった。また、窒化珪素焼結体には色ムラが生じていた。
【0050】
作製No.7では、平均長軸径が小さく、平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合が20%を超えたことから、焼結体が高靭化せず、耐熱衝撃性が低かった。また、窒化珪素焼結体には色ムラが生じていた。
【0051】
作製No.11では、鉄の含有量が多く、平均長軸径が大きく、平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合が20%を超えたことから、焼結体が高靭化せず、耐熱衝撃性が低かった。また、窒化珪素焼結体には色ムラが生じていた。
【0052】
作製No.12では、ガラス相が多く生成したため耐熱衝撃性が低かった。また、窒化珪素焼結体には色ムラが生じていた。
【0053】
作製No.18では、平均長軸径に対して1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合が25%に満たず、また、平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合との合計が、30%に満たなかったことから、焼結体が高靭化せず、耐熱衝撃性が低かった。また、窒化珪素焼結体には色ムラが生じていた。
【0054】
作製No.19では、窒素雰囲気圧が小さかったため焼結体が得られなかった。
【0055】
作製No.21では、窒素雰囲気圧が大きかったため焼結体が緻密化しなかった。
【0056】
作製No.22では、平均長軸径が小さく、平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合が20%を超え、また、平均長軸径に対して1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合が25%に満たなかったことから、焼結体が高靭化せず、耐熱衝撃性が低かった。また、窒化珪素焼結体には色ムラが生じていた。
【0057】
作製No.24では、平均長軸径が大きく、平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合と、平均長軸径に対して1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合との合計が70%を超えたことから、焼結体が高靭化せず、耐熱衝撃性が低かった。
【0058】
なお、本発明の窒化珪素焼結体のX線回折においては、β型の窒化珪素のみ検出され、α型窒化珪素は検出されなかった。また、作製No.2〜5、8〜10、13〜17、20、23では、焼結体表面と内部の平均長軸径の差が10%以下であった。さらに表面と内部のマグネシウム含有率の差をFE−EPMA(フィールドエミッション電子線マイクロプローブアナライザ,日本電子社製JXA−8500F)により測定したところ、作製No.2〜5、8〜10、13〜17、20、23は1%以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジムと鉄を含み、
Fe/Ndで表される質量比が0.17〜10であることを特徴とする耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。
【請求項2】
鉄を酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%、ネオジムを酸化物換算で0.05〜0.59質量%含む請求項1記載の耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。
【請求項3】
マグネシウム、イットリウム及びネオジムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%含み、
MgO/(Y+Nd)で表される質量比が0.5〜10である請求項1または2記載の耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。
【請求項4】
焼結体断面観察による平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合が20%以下、1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合が25%以上、これらの合計が30〜70%である請求項1記載の耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。
【請求項5】
原料粉末の成形体を脱脂して得られた脱脂体を、少なくとも内面が窒化物で構成された容器内に設置し、1200℃以上における不活性ガス雰囲気圧を0.5〜2.0MPaとして焼結した請求項1〜3記載の耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。
【請求項6】
室温以上における不活性ガス雰囲気圧を0.5〜2.0MPaとして焼結した請求項4記載の耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。
【請求項7】
前記不活性ガスは、窒素である請求項4または5記載の耐熱衝撃性窒化珪素焼結体。
【請求項8】
鉄を酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%、ネオジムを酸化物換算で0.05〜0.59質量%含み、Fe/Ndで表される質量比が0.17〜10であり、
マグネシウム、イットリウム及びネオジムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%含み、
MgO/(Y+Nd)で表される質量比が0.5〜10であり、
焼結体断面観察による平均長軸径に対して0.5倍以下の長軸径を有する粒子の面積割合が20%以下、1.5倍以上の長軸径を有する粒子の面積割合が25%以上、これらの合計が30〜70%である耐熱衝撃性窒化珪素焼結体の製造方法であって、
少なくとも内面が窒化物で構成された容器内に、原料粉末の成形体を脱脂して得られた脱脂体を設置し、
1200℃以上における不活性ガス雰囲気圧を0.5〜2.0MPaとして焼結することを特徴とする耐熱衝撃性窒化珪素焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2011−132070(P2011−132070A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293194(P2009−293194)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】