説明

自走式車両

【課題】泥などが蓄積しない保護部によってパワーステアリング機構を保護することのできる自走式車両を提供する。
【解決手段】ハンドル21の操作によって左右の前輪15の方向を同時に変更するパワーステアリング機構psを有し、そのパワーステアリング機構psを介して左右のそれぞれの前輪15の方向を変更するトラクタ10において、走行時に、パワーステアリング機構psを障害物から保護するための保護棒71をシャーシ(車体フレーム)14に取り付けるとともに、保護棒71をパワーステアリング機構psの前方に、かつ、そのパワーステアリング機構psに沿って設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルの操作によって左右のタイヤの方向を同時に変更するパワーステアリング機構を有し、そのパワーステアリング機構を介して左右のそれぞれの車輪の方向を変更する自走式車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトラクタは、ハンドルの操作によって左右のフロントタイヤの方向を同時に変更するパワーステアリング機構(油圧機構)を備える。パワーステアリング機構は、シリンダ、ロッド付ピストンを備え、シリンダ内に作動油を流入、流出させることで、ピストンを移動させる。そして、ロッドを移動させることでタイヤの向きを変更させるようになっている。
【0003】
しかし、このようなパワーステアリング機構では、シリンダ、ロッドがむき出しの状態であり、走行中に、路面に落下した枯れ枝などの障害物にぶつかってしまい、これらが破損するといった懸念があった。そこで、パワーステアリング機構の前方、上方、下方、後方を箱状のカバーで保護する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−57173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような技術は、路面からの泥はねなどによって、いったん泥(と、それに伴う有機物など)が保護カバー内に入ってしまうとこれを取り除くことが容易ではない。このため、保護カバー内に泥が堆積し、パワーステアリング機構の作動に支障をきたすばかりか、堆積した泥などが保護カバーおよびパワーステアリング機構を腐食させてしまうという恐れがあった。そこでこの発明は、泥などが蓄積しない保護部によってパワーステアリング機構を保護することのできる自走式車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため請求項1に記載の発明は、ハンドルの操作によって左右の車輪の方向を同時に変更する油圧機構を有し、該油圧機構を介して左右のそれぞれの車輪の方向を変更する自走式車両において、
走行時に、前記油圧機構を障害物から保護するための棒状の保護部を車体フレームに取り付けるとともに、前記保護部を前記油圧機構の前方に、かつ、該油圧機構に沿って設けることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自走式車両において、前記車体フレームに貫通孔を設け、前記保護部を前記貫通孔に通すとともに、前記保護部にブラケットを設け、該ブラケットを介して前記保護部を前記車体フレームに固定することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の自走式車両において、前記保護部が、円筒と、該円筒内に貫通して備え、かつ、該円筒を回転自在に支持する円筒支持体とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、ハンドルの操作によって左右の車輪の方向を同時に変更する油圧機構を有し、該油圧機構を介して左右のそれぞれの車輪の方向を変更する自走式車両において、
走行時に、前記油圧機構を障害物から保護するための保護部を前記油圧機構の両端部にそれぞれ支持部材を設け、該支持部材に前記保護部を支持させるとともに、前記保護部が、走行方向に回転自在に構成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の自走式車両において、前記保護部が、円筒と、該円筒内に貫通して備え、かつ、該円筒を回転自在に支持する弾性部材とを備え、該弾性部材の両端を前記支持部材によって支持することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の自走式車両において、前記保護部が、円筒と、該円筒内に貫通して設けるワイヤーとを備え、
該ワイヤーが前記円筒を回転自在に支持するとともに、前記ワイヤーの両端に弾性部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、ハンドルの操作によって左右の車輪の方向を同時に変更する油圧機構を有し、その油圧機構を介して左右のそれぞれの車輪の方向を変更する自走式車両において、走行時に、油圧機構を障害物から保護するための棒状の保護部を車体フレームに取り付けるとともに、保護部を油圧機構の前方に、かつ、その油圧機構に沿って設けるので、油圧機構を確実に保護することが可能な自走式車両を提供することができる。また、保護部が棒状に形成され、構造が簡単なので、走行時に泥はねなどがあっても、そのはねた泥が保護部に蓄積しない構造となっている。このため、従来から問題となってきた保護部自体、また、この保護部に隣接する油圧機構を腐食から守ることができ、耐久性の向上した保護部(および油圧機構)を有する自走式車両を提供することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、車体フレームに貫通孔を設け、保護部を貫通孔に通すとともに、保護部にブラケットを設け、そのブラケットを介して保護部を車体フレームに固定するので、簡単な構成で保護部を車体フレームに取り付けることができる。また、少ない部品点数で保護部を車体フレームに固定することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、保護部が、円筒と、その円筒内に貫通して備え、かつ、その円筒を回転自在に支持する円筒支持体とを備えるので、草などが保護部に絡みつきそうになったときにも、円筒が自在に回転して、これを防止することができる。したがって、簡単な構成で、草などが保護部に絡みつくことを防ぐ自走式車両を提供することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、ハンドルの操作によって左右の車輪の方向を同時に変更する油圧機構を有し、その油圧機構を介して左右のそれぞれの車輪の方向を変更する自走式車両において、走行時に、油圧機構を障害物から保護するための保護部を油圧機構の両端部にそれぞれ支持部材を設け、その支持部材に保護部を支持させるとともに、保護部が、走行方向に回転自在に構成される。したがって、別途、保護部を支持するための大掛かりな構造を必要とせず、簡単な構成で油圧機構を保護することのできる自走式車両を提供することができる。また、草などが保護部に絡みつきそうになったときにも、円筒が自在に回転して、これを防止することができる。したがって、簡単な構成で、草などが保護部に絡みつくことを防ぐ自走式車両を提供することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、保護部が、円筒と、その円筒内に貫通して備え、かつ、その円筒を回転自在に支持する弾性部材とを備え、その弾性部材の両端を支持部材によって支持するので、草などが保護部に絡みつきそうになったときにも、円筒が自在に回転して、これを防止することができる。したがって、簡単な構成で、草などが保護部に絡みつくことを防ぐ自走式車両を提供することができる。また、障害物が保護部に強い衝撃を与える場合であっても、弾性部材が撓むことで、衝撃を緩和することができ、保護部が破損するこの防止することができる。また、弾性部材に常に一定の張力が働いているので、障害物が保護部に当接したときにも保護部は反発力を持って撓み、油圧機構に直接障害物が当接することを防ぐことができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、保護部が、円筒と、その円筒内に貫通して設けるワイヤーとを備え、そのワイヤーが円筒を回転自在に支持するとともに、ワイヤーの両端に弾性部材を備えるので、草などが保護部に絡みつきそうになったときにも、円筒が自在に回転して、これを防止することができる。したがって、簡単な構成で、草などが保護部に絡みつくことを防ぐ自走式車両を提供することができる。また、障害物が保護部に強い衝撃を与える場合であっても、弾性部材が撓むことで、衝撃を緩和することができ、保護部が破損するこの防止することができる。また、弾性部材に常に一定の張力が働いているので、障害物が保護部に当接したときにも保護部は反発力を持って撓み、油圧機構に直接障害物が当接することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の自走式車両の一例としてのトラクタの側面図である。
【図2】その一部拡大平面図である。
【図3】図1の要部正面図である。
【図4】(a)は図3の要部右斜視図、(b)は図3の要部側面図である。
【図5】(a)は図3の要部左斜視図、(b)は保護棒の斜視図、(c)は取付板の平面図、(d)はシャーシの概略左側面図である。
【図6】この発明の別の例の保護部の部分拡大斜視図である。
【図7】図6の保護部の、(a)はパワーステアリング機構と、その前方に備えるパワーステアリングプロテクターの斜視図、(b)はピストンロッド、ブラケット、連結部との取り付けを示す要部側面図、(c)はピストンロッド端部の正面図、(d)はブラケット端部の正面図、(e)はパワーステアリングプロテクターの要部拡大側面図である。
【図8】(a)、(b)、(d)はこの発明の保護部の別の例を示す斜視図、(c)は、(b)の要部概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1にこの発明の自走式車両としてのトラクタ10の側面図を、図2にはトラクタ10の部分拡大平面図を示す。トラクタ10は、ボンネット11内にエンジン、ラジエータ、エアクリーナ、バッテリーなどを備える。また、ボンネット11の前部には、前照灯12、吸気のためのフロントグリル13、後述する前輪15の前方を照らすサイドランプLなどを備える。
【0020】
エンジン、ラジエータ、バッテリーは、シャーシ(車体フレーム)14上に載置される。前輪(車輪)15は、フロントアクスル17を介してシャーシ14に取り付けられる。また、後輪16は、リアアクスルおよびリアアクスルハウジング(ともに不図示)を介してシャーシ14に取り付けられる。フロントアクスル17の前方には、油圧作動のパワーステアリング機構(油圧機構)psを水平に備える。パワーステアリング機構psは、後述するステアリングハンドル(ハンドル)21を回動させたとき、左右の前輪15の向きを同時に変えるためのものである。
【0021】
ボンネット11の後方には、ダッシュボード18を備え、ダッシュボード18上には、速度などを表示するメーターパネル19を設ける。ダッシュボード18に連続してステアリングコラムカバー20を設ける。ステアリングコラムカバー20の上端には、ステアリングハンドル21を突出して設ける。ステアリングコラムカバー20の上部側面には、機体の前後進を切り替えるリバーサレバー22、アクセルレバー23、作業機昇降レバーなどを突出して備える。ステアリングコラムカバー20の下部には、左ブレーキペダル(操作部)24A、右ブレーキペダル(操作部)24B、クラッチペダル(操作部)25などを設ける。
【0022】
ステアリングコラムカバー20の下方には、運転席フロア(フロア)26を設ける。運転席フロア26は、運転者が足を載せやすいように略平坦状のもので、ゴムなどによって滑り止め防止加工がなされている。運転席フロア26の下方には、トランスミッションを内設したミッションケースMなどを配置している。トランスミッションは、エンジンの駆動力を後輪16に伝達するためのものであり、トラクタ10の幅方向中央部に前後方向に配置される。運転席フロア26の左側端(両側端にあってもよい)には、運転者が運転席フロア26に乗り降りするためのステップstを設ける。
【0023】
運転席フロア26の後方には、運転席27を設ける。運転席27は、運転席フロア26より高い位置で、後輪16の上方に設けられる。運転席27の両側には、後輪16を上方から覆うフェンダー28を備える。運転席27の左側のフェンダー28上には、超低速レバー、主変速レバー29、PTOレバーなどを突出して備え、右側のフェンダー28上には、SCVレバー30、ポジションレバー、PTO入・切スイッチなどを備える。左右それぞれのフェンダー28の後端には、方向指示器とテールランプが一体となったコンビネーションランプなどが設けられる。
【0024】
運転席27の後方には、ROPSフレーム(安全フレーム)31を設ける。ROPSフレーム31は、不図示のリアアクスルケースから上方に向かって立ち上がるように設けられる。ROPSフレーム31は、運転者の選択によって、ヒンジ部31aにて後方に折りたたむことができるようになっている。また、ROPSフレーム31の縦フレーム31vには反射テープ(不図示)が巻きつけられる。この反射テープは、後方の車両からの光を反射するためのものである。
【0025】
なお、ROPSフレーム31の頂部にキャノピーを取り付けてもよい。キャノピーは、運転席27を覆い、日よけ、雨よけなどの目的に用いられる。
【0026】
運転席27の後方で、ROPSフレーム31の下方には、燃料タンクを備える。燃料タンクは、タンクカバー32によって覆われ、給油口33をタンクカバー32から露出して設ける。
【0027】
そして、トラクタ10の後部には、作業機を取り付けるためのリンク機構を設ける。リンク機構は、トラクタ10後面のほぼ中央に位置するトップリンク40と、下部両側に位置する一対のロワーリンク41とで構成される。リンク機構は、回動自在にシャーシ14に取り付けられる。また、トラクタ10の後部には、エンジンの駆動力を作業機に伝達するためのPTO軸42も設ける。
【0028】
図3、図4(a),(b)には、この発明のさらに要部を示す。パワーステアリング機構psは、正面視でフロントアクスル17の前方で、かつ、フロントアクスル17に略平行に設けられる。パワーステアリング機構psは、シャーシ14,14(シャーシ14,14は図3に示すように正面視でトラクタ10の車幅方向ほぼ中央に平行に設けられている。)の下方で、かつ、シャーシ14,14の長手方向(トラクタ10の進行方向)と略直行する方向に設けられる。シャーシ14,14には、パワーステアリング機構psを避けるための切り欠き14aがそれぞれ設けられる。
【0029】
パワーステアリング機構psは、トラクタ10の車幅方向のほぼ中央(シャーシ14,14の間)に設けられたシリンダ51と、シリンダ51内を油圧によって移動する不図示のピストンと、そのピストンに貫通して設けられた一本のピストンロッド52などで構成される。シリンダ51の左右両端部には、それぞれパイプが連結され(図示せず)、パイプを介してオイルポート(不図示)から作動油が流入出して、ピストンを移動させるようになっている。
【0030】
ピストンは、ピストンロッド52の長手方向の略中央に固設されている。したがって、ピストンが油圧によってシリンダ51内を左右方向(トラクタ10の幅方向)に動くと、これに連動して、ピストンロッド52も左右にスライドするように構成されている。ピストンロッド52の両先端部は、連結部Jの一端に取り付けられている(ピストンロッド52の先端には雄ネジが形成され、この雄ネジに螺合する雌ネジが連結部Jに形成される。そして、ピストンロッド52を連結部Jにネジ付けることで両者を固定するようになっている)。連結部Jの他端には、連結棒55の一端が取り付けられている。連結棒55の他端はテーパが形成され、ステアリングロッドエンド56の側部と連結されている。
【0031】
ステアリングロッドエンド56の下端には、アーム57の一端の上面が固設されている。一方、アーム57の他端は、回動ケース58(図5(a)を参照)に固設されている。回動ケース58は、前輪15のホイール15Wの内側に入り込むようにしてホイール15Wに取り付けられている(ホイール15Wは回動ケース58に対して回転自在である。)。なお、符号60は、キングピンである。そして、パワーステアリング機構psの前方には、保護棒(棒状の保護部)71を備える。
【0032】
保護棒71は、鉄板で構成される一対のシャーシ14,14にそれぞれ保護棒71の外径よりやや大きな貫通孔14hを形成して、そこに保護棒71を貫通して備える。貫通孔14hは、シャーシ14の切り欠き14aのやや前方(トラクタ10の進行方向)に形成される。貫通孔14hの位置は、詳しくは、保護棒71を設置したときに、正面視にてパワーステアリング機構psと重なる位置となるように形成される。
【0033】
図5(a)〜(d)には保護棒71の詳細を示す。保護棒71には取付板(ブラケット)71aが溶接などで固設される。取付板71aの下部には丸孔(保護棒71よりわずかに大きい)71cを設け、そこに保護棒71を通す。そして、溶接などで保護棒71と取付板71aとを連結する。取付板71aの上部には、ボルト71bを通すためのネジ孔71dを形成する。一方、左側(トラクタ10の進行方向の左側に配設される)のシャーシ14に形成された貫通孔14hのやや上方には、ボルト71bを通すためのネジ孔14gを形成する。なお、取付板71aに形成された丸孔(保護棒71を通す)71cとネジ孔71dとの中心距離L1と、シャーシ14に形成された貫通孔14hとネジ孔14gとの中心距離L2とは同一であることはいうまでもない。
【0034】
そして、保護棒71の右端71Rを左側(トラクタ10の進行方向に向かって)のシャーシ14の貫通孔14hに外側から挿入し、次に、右側のシャーシ14の貫通孔14hに内側から挿入する。そして、取付板71aを左側のシャーシ14に外側から当接させる。さらに、ボルト71bをネジ孔71dに取付板71aの外側より挿入し、シャーシ14の内側まで貫通させてナットで締め付け、保護棒71をシャーシ14に取り付ける。
【0035】
したがって、保護棒71はその長手方向の移動も規制され、障害物に当接して抜け落ちることがない。
【0036】
このように構成された保護棒71を備えるトラクタ10が走行中に、木の枝などの障害物に出くわした場合には、保護棒71がパワーステアリング機構psの前面にあるので、障害物からパワーステアリング機構psを保護することができる。
【0037】
なお、保護棒71は、1本でなく複数本設けてもよい。この場合、正面視にて縦方向に並べて備えるものとする。
【0038】
なお、この例では、保護棒71は、シリンダ51とピストンロッド52とを保護する長さで構成されているが、この発明はこれに限定されるものではなく、連結棒55も保護できるような長さに構成してもよい。
【0039】
図6,7にはこの発明の保護部の別の例を示す。この例では、保護部の形態以外の構成は、前述の例と同様であるので説明を省略する。
【0040】
この例のパワーステアリングプロテクター(保護部)170は、上下2列のカラー(円筒)171、そのカラー171内に貫通して備えられるワイヤー(円筒支持体)172、ワイヤー172の両端を保持する一対の支持部材173A,173Bなどからなる。カラー171は、金属製(または樹脂製)の円筒からなり、内径を11mm以上とすることが好ましい。ワイヤー172は、直径を10mm程度とする。このように、カラー171がワイヤー172上をトラクタ10の走行方向に対して回転自在となるように、カラー171とワイヤー172の内側との間に一定の隙間を形成するようにする。
【0041】
支持部材173Aは、金属板で形成され、一端をピストンロッド152の右側先端部分に嵌め付ける。詳しくは、支持部材173Aに六角形状の嵌合孔173a1を設ける。一方、ピストンロッド152の先端部には、雄ネジ152Bを形成し、雄ネジ152Bに隣接して台座部152Aを設ける。台座部152Aは、支持部材173Aの嵌合孔173a1に嵌め合わすことができるように六角形状に形成される。なお、台座部152Aの厚みは、支持部材173Aの板厚と同一とする。連結部J´の一端には雄ネジ152Bに螺合するネジ孔J1を形成する。そして、ピストンロッド152に支持部材173Aを嵌め合わせた後、雄ネジ152Bをネジ孔J1に螺合させて、ピストンロッド152を連結部J´に取り付ける。
【0042】
支持部材173Bは、支持部材173Aと同様に金属板で形成され、一端をピストンロッド152の左側(シリンダ51の左端部に突出している)先端部分に形成された台座部に嵌め付ける。なお、支持部材173Bをピストンロッド152に取り付ける構造については、前述の支持部材173Aをピストンロッド152に取り付ける構造と同様であるので、説明を省略する。
【0043】
支持部材173Aの他端部(嵌合孔173a1と反対の端部)には、2つの丸孔173a2を形成する。そして、この丸孔173a2には、ワイヤー172の右端部を通す。さらに、ワイヤー172をテーパーカラー176、圧縮バネ(弾性部材)174の順に通した後、ワッシャー175に通す。そして、ループ状に形成されたワイヤー172の先端にストッパー172Eを掛けてワイヤー172の端部がワッシャー175から抜けないようにしてワイヤー172をワッシャー175に掛け留める。
【0044】
テーパーカラー176は、金属製で薄い筒体に形成される。筒体の先端部の外径は、後端部のそれよりも小さく形成される。詳しくは、筒体の先端部の外径は、支持部材173Aの丸孔173a2の外径よりも小さく形成される。一方、筒体の後端部の外径は、支持部材173Aの丸孔173a2の外径よりも大きく形成される。したがって、筒体の側面にテーパが形成され、テーパーカラー176は丸孔173a2を通過することができないようになっている。
【0045】
テーパーカラー176の後端部には、圧縮バネ(弾性部材)174の一端を当接させる。したがって、テーパーカラー176の後端部の外径は、圧縮バネ174の外径以上となるように構成する(なお、テーパーカラー176に代えて、円環状のワッシャーを用いてもよい。その場合、円環状のワッシャーの外径は、丸孔173a2の外径よりも大きくする。また、ワッシャーの内径はカラー171の内径と同じかそれより大きいものとする。加えて、ワッシャーの円環部分に圧縮バネ174が当接するように構成する)。
【0046】
圧縮バネ174の反発力は、カラー171をワイヤー172に取り付けた際に、その重みでワイヤー172が撓むことがない程度以上のものとする。圧縮バネ172には、このようにワイヤー171に常に緊張力を与える機能と、ワイヤー172に障害物が当接したとき、その障害物の衝撃によってワイヤー172が破断しないようにする機能とを兼ね備えている。
【0047】
なお、支持部材173Bにおけるワイヤー172の端部の構成は支持部材173Aのそれと同様の構成であるので、説明を省略する。
【0048】
このように構成されたパワーステアリングプロテクター170を備えるトラクタ10が走行中に、木の枝などの障害物に出くわした場合には、2列のカラー171,171がパワーステアリング機構psの前面にあるので、障害物からパワーステアリング機構psを保護することができる。また、ワイヤー172の両端に圧縮バネ174を備えるので、ワイヤー172に強い力が加わると、圧縮バネ174が縮んでワイヤー172が撓む。これによって、ワイヤー172にかかる強い衝撃を緩和させることができ、ワイヤー172が断裂する可能性を低減することができる。
【0049】
なお、この例では、パワーステアリングプロテクター170に備えるカラー171を2列としたが、この発明はこれに限定されるものではなく、3列以上であってもよい。カラー171の列を多くするほど、万が一、1つのカラーが破損しても他のカラーがパワーステアリング機構psを保護することができる。
【0050】
図8(a)にはこの発明の別の例を示す。この例では、前述の例に代えて、カラー(円筒)271を一列配置する。これによって、パワーステアリングプロテクター270の構成を簡単にすることができる(この例では、カラー271の外径をカラー171のそれよりも大きくしてもよい)。取付位置は、ピストンロッド152と同一水平面上となるようにする。そして、ワイヤー(円筒支持体)272をカラー271の内側に通し、ワイヤー272の両端を支持部材273A,273Bに掛け止める。詳しくは、図7(e)にて前述したのと同様にして、ワイヤー272の前後端をワッシャーに通す。そして、ループ状に形成されたワイヤー272の先端にストッパーを掛けてワイヤー272の端部がワッシャーから抜けないようにしてワイヤー272をワッシャーに掛け留める。
【0051】
支持部材273A,273Bは、金属板で形成され、一端をピストンロッド152の右側先端部分に嵌め付ける。支持部材273A,273Bのピストンロッド152との嵌め合わせ構造、ピストンロッド152と連結部J´との取り付け構造は、前述の例と同様であるので説明を省略する。
【0052】
一方、支持部材273A,273Bの他端には、丸孔を形成する。この丸孔には、ワイヤー272の先端を掛け止める。
【0053】
図8(b)、(c)には、この発明のさらに別の例を示す。この例では、前述の例のワイヤー272に代えて、引張バネ(弾性部材)282を支持部材283A,283Bの間に掛け止める。支持部材283A,283Bの先端部分には、引張バネ282の両端部を掛け止めるための丸孔が形成される。そして、引張バネ282の外周には、円筒状の複数のカラー(円筒)281を一連に設ける(カラー281は、引張バネ282の長さ方向に移動自在、かつ、引張バネ282の周方向に回転自在である)。支持部材283A,283Bのピストンロッド152との嵌め合わせ構造、ピストンロッド152と連結部J´との取り付け構造は、前述の例と同様であるので説明を省略する。
【0054】
そして、引張バネ282の外径よりもやや大きな内径を有する短筒状の複数のカラー281に引張バネ282を通す。このようにパワーステアリングプロテクター280を構成することで、障害物がカラー281に当接したときには、引張バネ282が伸張して、障害物からの衝撃を緩和することができる。引張バネ282の引張強度をより強く設定すると、障害物からのより強い衝撃に耐えることができる。
【0055】
また、カラー281は短筒状であるので、引張バネ282の伸張に対応して、隣接するカラー281間に隙間を形成する。また、引張バネ282が伸張する際には、反発力を持って撓むため、障害物がシリンダ51やピストンロッド152などに直接ぶつかることを回避することができる。
【0056】
なお、引張バネ282のみでパワーステアリングプロテクターを構成してもよい。この場合、引張バネ282がシリンダ51やピストンロッド152を障害物から保護するように機能する。
【0057】
図8(d)にはこの発明のさらに別の例を示す。この例では、前述の例のカラーに代えて、保護棒(保護部)371を支持部材373A,373Bに溶接によって固定した。
【0058】
支持部材373A,373Bは、金属板で形成され、一端をピストンロッド152の両先端部分にそれぞれ嵌め付ける。支持部材373A,373Bのピストンロッド152との嵌め合わせ構造、ピストンロッド152と連結部J´との取り付け構造は、前述の例と同様であるので説明を省略する。
【0059】
支持部材373A,373Bの他端には、保護棒371の両端部をそれぞれ溶接にて固設する。この例では、前述の例と異なり、弾性部材を用いないので、保護棒371が柔軟性を有しない。したがって、障害物からの衝撃に耐えられるように、保護棒371の強度を強化する必要がある。
【0060】
上述の全ての例では、前輪15がステアリングハンドルによって操舵可能であり、前輪15にパワーステアリング機構psを備えたが、この発明は、後輪がハンドルによって操舵可能であり、後輪にパワーステアリング機構を備える車両(例えば、フォークリフトなど)にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明は、トラクタなどの自走式農作業車両に限定されるものではなく、バックホー、ブルドーザなどの自走式建設車両、また、フォークリフトなどの搬送車両、さらに、悪路を走行する自動車などあらゆる自走式車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 トラクタ(自走式車両)
14 シャーシ(車体フレーム)
14a 切り欠き
14g ネジ孔
14h 貫通孔
15 前輪(車輪)
15W ホイール
17 フロントアクスル
51 シリンダ
52,152 ピストンロッド
52E 雌ネジ
53 パイプ
54 ナット
55 連結棒
55E 雄ネジ
56 ステアリングロッドエンド
57 アーム
58 回動ケース
60 キングピン
71 保護棒(保護部)
71a 取付板(ブラケット)
71b ボルト
71c 丸孔
71d ネジ孔
71R 右端
152A 台座部
152B 雄ネジ
170,270,280,370 パワーステアリングプロテクター(保護部)
171,271,281 カラー(円筒)
172,272 ワイヤー(円筒支持体)
172E ストッパー
173a1 嵌合孔
173a2 丸孔
173A,173B,273A,273B,283A,283B,373A,373B 支持部材
174 圧縮バネ(弾性部材)
175 ワッシャー
176 テーパーカラー
282 引張バネ(弾性部材)
371 保護棒
J,J´ 連結部
J1 ネジ孔
ps パワーステアリング機構(油圧機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの操作によって左右の車輪の方向を同時に変更する油圧機構を有し、該油圧機構を介して左右のそれぞれの車輪の方向を変更する自走式車両において、
走行時に、前記油圧機構を障害物から保護するための棒状の保護部を車体フレームに取り付けるとともに、前記保護部を前記油圧機構の前方に、かつ、該油圧機構に沿って設けることを特徴とする、自走式車両。
【請求項2】
前記車体フレームに貫通孔を設け、前記保護部を前記貫通孔に通すとともに、前記保護部にブラケットを設け、該ブラケットを介して前記保護部を前記車体フレームに固定することを特徴とする、請求項1に記載の自走式車両。
【請求項3】
前記保護部が、円筒と、該円筒内に貫通して備え、かつ、該円筒を回転自在に支持する円筒支持体とを備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の自走式車両。
【請求項4】
ハンドルの操作によって左右の車輪の方向を同時に変更する油圧機構を有し、該油圧機構を介して左右のそれぞれの車輪の方向を変更する自走式車両において、
走行時に、前記油圧機構を障害物から保護するための保護部を前記油圧機構の両端部にそれぞれ支持部材を設け、該支持部材に前記保護部を支持させるとともに、前記保護部が、走行方向に回転自在に構成されたことを特徴とする、自走式車両。
【請求項5】
前記保護部が、円筒と、該円筒内に貫通して備え、かつ、該円筒を回転自在に支持する弾性部材とを備え、該弾性部材の両端を前記支持部材によって支持することを特徴とする、請求項4に記載の自走式車両。
【請求項6】
前記保護部が、円筒と、該円筒内に貫通して設けるワイヤーとを備え、
該ワイヤーが前記円筒を回転自在に支持するとともに、前記ワイヤーの両端に弾性部材を備えることを特徴とする、請求項4に記載の自走式車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−148404(P2011−148404A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11432(P2010−11432)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】