説明

船舶用の減速装置およびモータ付き減速装置

【課題】重量の増大を最小限に抑えつつ、強い波の衝撃荷重に対して十分な強度を有する船舶用の減速装置を得る。
【解決手段】船舶の甲板10に設置される減速装置G1であって、該減速装置G1が甲板10上に設置されたときの該減速装置G1の少なくとも上面50に、該上面50を平面視したときの内側(中央側)から外側(端部側)へ向けて、下り傾斜の傾斜面50A、50Bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用の減速装置およびモータ付き減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の甲板上には、係船用あるいは荷役用等の駆動設備が配備されている。
【0003】
特許文献1には、アンカー(錨)の繋がれたアンカーロープを巻き上げるためのアンカーロープ巻き取り機が開示されている。特許文献2には、係船ロープを巻き取るための巻き取りドラムを備えた係船ウインチが開示されている。
【0004】
これらの船舶用駆動設備は、モータあるいはエンジン等の駆動源の回転と必要なトルクとの関係から、駆動源の回転を減速装置にて減速し、所定のトルクに増強する構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−114489号公報(図1)
【特許文献2】特開2010−111514号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
船舶の甲板に載置される減速装置は、単に風雨に曝されているだけでなく、ときに乗り上げてきた波の衝撃荷重(押圧荷重、あるいは打撃荷重)をもろに受けることがある。したがって、船舶用の減速装置には、こうした波の衝撃荷重に対して十分に耐え得る強度も、また求められる。しかしながら、波の衝撃荷重は、(自然相手のものであるため)その大きさの想定自体が至難である。
【0007】
一方、ケーシングは、もともと重量の大きな大型部材であり、強度を高めるために単に厚さを厚くするという対応を行ったのでは、減速装置全体の重量が大幅に増大してしまう。船舶用の減速装置の場合、全体重量の大幅な増大は、コストが増大するだけでなく、甲板設置時の取り扱いが著しく不便になったり、(多数台設置されることもあることから)船体のバランスを崩す要因となったりするなど、デメリットが大きい。
【0008】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、重量の増大を最小限に抑えつつ、強い波の衝撃荷重に対して十分な強度を有する船舶用の減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、船舶の甲板に設置される減速装置であって、前記減速装置が前記甲板上に設置されたときの該減速装置の少なくとも上面に、該上面を平面視したときの内側から外側へ向けて、下り傾斜が形成されている構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明では、減速装置の少なくとも上面に、該上面を平面視したときの内側から外側へ向けて、下り傾斜を形成するようにしている。ここで、「上面を平面視したとき」とは、「上面を、甲板と垂直な方向の上側から見たとき」の意味である。「内側から外側へ向けて、下り傾斜を形成する」とは、「内側(中央側)の方が、外側(端部側)よりも高い(甲板からの高さが高い)」という意味である。
【0011】
例えば、上面を平面視したときの形状が矩形である場合、該矩形の左右方向に着目した場合は、左右方向の中央が内側、左右方向の端部が外側である。前後方向に着目した場合は、前後方向の中央が内側、前後方向の端部が外側である。本発明では、単一の方向(例えば左右方向)のみに着目して当該方向において内側が外側より高くなるようにしても、2つ(またはそれ以上)の方向に着目して各方向とも内側が外側より高くなるようにしてもよい。あるいは、球体や楕円体のような形状にて傾斜を形成し、全方向において、内側が外側より高くなるようにしてもよい。つまり、下り傾斜は、直線的に傾斜する場合だけでなく、曲線的に傾斜するものであってもよい。
【0012】
本発明によれば、ケーシングの上面の傾斜に沿って波を円滑に上面外に逃がす(かわす)ことができる。そのため、ケーシングの上面に掛かる波の衝撃荷重をより軽減でき、(ケーシング上面の厚さを徒に増大することなく)必要な強度を確保することができる。
【0013】
同様の趣旨により、本発明は、「船舶の甲板に設置される減速装置であって、前記減速装置が前記甲板上に設置されたときの該減速装置の少なくとも上面に、該上面を平面視したときの一端側の辺から他端側の辺へ向けて、下り傾斜が形成されている発明」と捉えることもできる。この構成の場合は、ケーシングの上面は、一端側より他端側の方が高い(甲板からの高さが高い)。減速装置の甲板上の設置位置、あるいは、他の構造物との位置関係によっては、打ち寄せてくる波の方向や角度の関係で、この形状の方が波の衝撃荷重の軽減に有効な場合がある。
【0014】
なお、上記の組み合わせにより、例えば、一の方向(例えば減速装置を特定の一面から見たときの左右方向)においては、内側が外側より高く(中央が高く)、他の方向(例えば同じ状況での前後方向)においては、一端側が他端側より高い、というような構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重量の増大を最小限に抑えつつ、強い波の衝撃荷重に対して十分な強度を有する船舶用の減速装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る船舶用のモータ付きの減速装置の斜視図
【図2】図1の減速装置の平面図
【図3】図1の減速装置の正面図
【図4】図1の減速装置の側面図
【図5】図2の矢視V−V線に沿う(減速装置部分の)断面図
【図6】図4の矢視VI−VI線に沿う(減速装置部分の)断面図
【図7】上記実施形態の変形例を示す図5相当の断面図
【図8】同じく図6相当の断面図
【図9】本発明の他の実施形態の一例に係る船舶用のモータ付きの減速装置の斜視図
【図10】同じく側面図
【図11】本発明のさらに他の実施形態の一例に係る船舶用のモータ付きの減速装置の斜視図
【図12】同じく側面図
【図13】本発明のさらに他の実施形態の一例に係る船舶用のモータ付きの減速装置の斜視図
【図14】同じく側面図
【図15】図13の減速装置の図5相当のバリエーションを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る船舶用のモータ付きの減速装置の斜視図、図2は、同じく平面図、図3は、同じく正面図、図4は、同じく側面図、図5は、図2の矢視V−V線に沿う(減速装置部分の)断面図、図6は、図4の矢視VI−VI線に沿う(減速装置部分の)断面図である。
【0019】
この減速装置G1は、船舶(図示略)の甲板10上に設置され、駆動源であるモータ12と連結されることによって、図示せぬ係船ウインチを駆動するために使用される。
【0020】
モータ12は、6ポールタイプの電動モータであり、制御機構(図示略)を収容する端子箱14が付設されている。モータ12は、端子箱14内に収容された制御機構によって800、1600、および2400rpmの三つの速度のうちのいずれかの速度で回転可能である。モータ12および端子箱14の形状については後に詳述する。
【0021】
減速装置G1は、モータ12のモータ軸と連結された入力軸(いずれも図示略)、ヘリカルギヤトレイン(図示略)および直交ギヤセット18(図5、図6参照)からなる減速機構20、および出力軸22を備えている。直交ギヤセット18は、この例ではベベルピニオン15およびベベルギヤ16からなり、入力軸と出力軸22の回転軸線方向を減速しながら直角に変換している。
【0022】
出力軸22は、図示せぬ係船ウインチ(被駆動体)の回転軸が挿入される中空部22Aを有するホローシャフトであり、一対の軸受24、26によって減速装置G1のケーシング28(具体的には、ギヤケーシング本体42およびサイドケーシング46:後述)に支持されている。なお、図5における符号29、31は、減速装置G1の内外をシールするオイルシールである。
【0023】
以下、該モータ12付きの減速装置G1のケーシング構造について詳細に説明する。
【0024】
なお、説明の便宜上、減速装置G1が甲板10上に配置された状態において、出力軸22の軸方向をX方向、該出力軸22と直角でかつ水平な方向(甲板10と平行な方向)をY方向、甲板10と垂直な方向をZ方向と称する。したがって、例えば、「高い」、「低い」という語は、甲板10からの垂直距離(Z方向の距離)の大小に対応しており、「下り傾斜」とは、徐々に甲板10からの距離が小さくなる傾斜を意味している。
【0025】
モータ12は、単一のモータケーシング本体32を備える。モータケーシング本体32は、小さな段差32A等を備えるものの、全体がほぼ円筒形で形成され、Y方向に沿って水平に配置されている。
【0026】
モータケーシング本体32には、端子箱14の取り付け口34、35が、X方向における対向する位置の2箇所に設けられている。端子箱14は、この2箇所に設けられたうちの1つの取り付け口34を利用して(該端子箱14の内側において)図示せぬボルトにより、モータケーシング本体32に固定されている。
【0027】
端子箱14は、(減速装置G1が甲板10上に配置された状態において)該端子箱14の上面36を平面視したときのモータケーシング本体32側(一端側)の辺36Aから反モータケーシング本体側(他端側)の辺36Bへ向けて、下り傾斜が形成されている。この実施形態では、該下り傾斜を、円の1/4の円弧の傾斜面36Cで構成しており、端子箱14の上面36は、この傾斜面36Cと辺36A付近の平坦面36Dとで構成されている。上面36の傾斜面36Cの面積は、平坦面36Dの面積よりも大きい。
【0028】
また、端子箱14のY方向両端部には、上面36から側面38、さらには下面40にまで連続した傾斜が形成されている。この傾斜は、端子箱14の上面36に着目したときには、該上面36を平面視したときに、端子箱14のY方向において、内側(中央側)から外側(端部側)に向けて低くなる下り傾斜の傾斜面36E、36Fが形成されていると捉えることができる。また、側面38に着目したときには、該側面38を側面視したときに、該側面38の側から端子箱14の反対側の側面(モータ12側の側面)に向かう傾斜の傾斜面38A、38Bが形成されていると捉えることができる。さらに、下面40に着目したときには、該下面40を底面視したときに、内側から外側に向けて上り傾斜40A、40Bが形成されていると捉えることもできる。なお、下面40には、該下面を底面視したときに、内側からから外側へ向けて上り傾斜40Cも形成されている。
【0029】
なお、本発明に係る上記傾斜形成は、「波を逃がす(かわす)」という趣旨から、通常のいわゆるR処理(端部を小径の円弧状に丸める端部処理)とは異なる。それは、通常のR処理は、あくまで、怪我などを避けるために部材の角を丸めることを目的としており、そのため、基本的に小径であるからである。例えば、該R処理を行おうとする方向の部材の(短辺側の)長さをL、端部の半径をdとすると、通常のR処理の場合、半径dは、せいぜい長さLの数十分の1〜十分の1程度である(例えば、本実施形態では、図4のR処理41を参照)。しかし、このような小径のR処理では、本発明の意図する「波を逃がす(かわす)」という効果は到底得られない。換言するならば、本発明に係る傾斜形成を、例えば円弧によって形成する場合は、該円弧の半径dは、長さLの1/5以上は確保されるのが好ましい(円弧でない場合は、傾斜部分が長さLの1/5以上は確保されるべきである)。この実施形態では、Y方向両端部の傾斜面36E、36F、38A、38B、40A、40Bについては長さL1の約1/6.4の半径d7(図3参照)が確保され、下面40の上り傾斜40Cについては、長さL2の約1/4の半径d8が確保されている(図4参照)。
【0030】
なお、端子箱14の予備の取り付け口35が、モータケーシング本体32のX方向の対称位置にも形成されている。この構成により、後述するギヤケーシングのX方向・Y方向の対称性と相まって、減速装置G1を甲板10に取り付ける際に、モータケーシング本体32のギヤケーシング本体42に対するY方向における延在方向の選択と、端子箱14の形成位置のX方向の選択(取り付け口34を用いるか35を用いるか)の自由度を確保することができる。
【0031】
一方、減速装置G1のケーシング28は、ギヤケーシング本体42、継ケーシング44、サイドケーシング46、および取り付けフランジ48とで主に構成されている。
【0032】
以下、順に説明してゆく。
【0033】
減速装置G1のケーシング28のギヤケーシング本体42は、減速装置G1が甲板10上に設置されたときの該減速装置G1の上面50に、該上面50を平面視したときの内側から外側へ向けて、下り傾斜が形成されている。ここで、内側とは、該上面50の中央、外側とは、該上面50の端部のことである。この実施形態の場合、上面50を平面視したときの形状は矩形であり(図2参照)、該矩形のX方向の内側(中央)が外側(端部)よりも高い下り傾斜の傾斜面50A(50A1および50A2)が形成されているだけでなく、Y方向においても、内側(中央)が外側(端部)よりも高い下り傾斜の傾斜面50B(50B1および50B2)が形成されている。すなわち、この実施形態では、下り傾斜を有する傾斜面として、対向する2組の傾斜面50A、50Bが形成されている。
【0034】
また、この実施形態では、ギヤケーシング本体42の下面56にも、該ギヤケーシング本体42の中央を水平に分割する対称面P1に対して前記上面50に形成された下り傾斜と「対称」に、該下面56を底面視したときの内側から外側に向けて、上り傾斜の2組の傾斜面56A(56A1および56A2)、56B(56B1および56B2)が形成されている。
【0035】
この実施形態においては、上面50および下面56とも、(取り付けフランジ48側の上面50の平坦面50Pおよび下面56の平坦面56Pを除いて)ほぼ下り傾斜の傾斜面50A、50B、および上り傾斜の傾斜面56A、56Bのみで構成されている。すなわち、この実施形態に係る上面50および下面56では、平坦面50P、56Pの面積は傾斜面50A、50B、あるいは56A、56Bの面積より遙かに小さい。これは、平坦面の面積が大きくなり過ぎると、本発明の意図する「波を逃がす(かわす)効果」が得られにくくなるためである。傾斜の形成された傾斜面の面積は、(傾斜の形成されていない)平坦面の面積よりも大きく形成する方が好ましい。
【0036】
図5は、図2の矢視V−V線に沿う減速装置G1部分の断面図、図6は、図4の矢視VI−VI線に沿う減速装置G1部分の断面図である。
【0037】
図5、図6から明らかなように、この実施形態では、上面50を構成する部材は、X方向、Y方向とも、Z方向の下側面50Gが平坦で、上側面の中央が肉厚とされることにより、該上側面に前記下り傾斜の傾斜面50A、50Bが形成されている。同様に、下面56を構成する部材は、X方向、Y方向とも、Z方向上側面56Kが平坦で、下側面の中央が肉厚とされることにより、該下側面に前記上り傾斜の傾斜面56A、56Bが形成されている。
【0038】
また、上面50では、減速機構20を構成するギヤのうち甲板10からの最高高さ(この例ではベベルギヤ16の歯先16A)H1が、下り傾斜のX方向の1つの最下端部(この例では、X方向サイドケーシング側の下端部50J)の外側の高さH2だけでなく、該最下端部50Jの内側の高さH3よりもさらに低く設定されている。また、このベベルギヤ16の歯先16Aの高さH1は、上面50の下り傾斜のY方向の1つの最下端部(この例では、Y方向モータ側の下端部50K)の外側の高さH4だけでなく、該最下端部50Kの内側の高さH5よりもさらに低く形成されている。なお、甲板からの高さは、ベベルギヤ16の軸心からの径方向の距離と言い替えて定義することも可能である。
【0039】
なお、上面50と下面56は、対称面P1を境に全く上下対称であるから、下面56でも、同様な上下関係が成立している(X方向、Y方向とも、ギヤ(16A)の最低高さが、上り傾斜の1つの最高端部の外側の高さだけでなく、該最高端部の内側の高さよりもさらに高く設定されている)。
【0040】
これらの構成は、本実施形態の発想(意図)が、「大きなギヤを収容しながら、ケーシング全体の外形をできるだけ小さく抑えるために、歯先の一部を含むようにケーシングの断面を凸形状にする」という発想とは全く異なっていることに起因している。換言するならば、本実施形態においては、ケーシング28の大きさをできるだけ低く抑えるという要請は、(否定はしないが)実現すべき必須の要請ではない。したがって、該ケーシング28の各部の形状(あるいは位置)は、収納しているギヤ(例えばベベルギヤ16)の大きさや位置と、必ずしも関係付ける必要はない。
【0041】
継ケーシング44は、ギヤケーシング本体42と前記モータケーシング本体32とを連結している。この実施形態では、継ケーシング44は、ギヤケーシング本体42およびモータケーシング本体32と単一の部材で一体的に形成されている。継ケーシング44は、モータ軸と入力軸とを連結している連結部(図示略)を覆うものであるため、その外径は、機能的には該連結部の外径より若干大きい程度の大きさで十分である。しかしながら、この実施形態では、モータケーシング本体32がギヤケーシング本体42から片持ち状態で支持されている構成であることを考慮して、特に図3に示されるように、継ケーシング44の外径d3を、敢えてモータケーシング本体32の外径d4およびギヤケーシング本体42のZ方向の大きさL3とほぼ同等の大きさとしている。これにより、モータ12および減速装置G1に打ち寄せた波が、径の小さい継ケーシングの部分に流れ込んで該継ケーシングの部分に波の衝撃荷重が集中することを避けることができる。
【0042】
サイドケーシング46は、ギヤケーシング本体42の出力軸22の周りを閉塞している。サイドケーシング46は、平板状の円形リングの外側4ヶ所46A〜46Dを切除した形状とされ、ボルト47によってギヤケーシング本体42と連結されている。これは、係船ウインチをできるだけ減速装置G1に近づけた状態で連結することを意図したためである。もし、例えば減速装置G1と係船ウインチ等の被駆動部材との取り付け位置が離れていて、このサイドケーシング46にも波の衝撃荷重が掛かる恐れがある場合には、後述するように、該サイドケーシング46についても傾斜を形成するように構成してもよい。
【0043】
取り付けフランジ48は、減速装置G1全体を甲板10上に垂直に立設された被取り付け壁(取り付け面)45に取り付けるためのもので、ギヤケーシング本体42とボルト49で連結されている。取り付けフランジ48は、小径のギヤケーシング側リング部48Aと大径の被取り付け壁側リング部48Bとを、複数の連結部材48Cで連結した構成とされている。これにより、連結部材48C間の隙間に波が流れ込んで下側から抜けることができるため、取り付けフランジ48に打ち寄せた波の衝撃荷重がそのままボルト49の付近に掛かってしまうのを防止できる。
【0044】
次に、上記モータ12付きの減速装置G1の作用を説明する。
【0045】
モータ12のモータ軸の回転は、減速装置G1の入力軸に伝達され、減速機構20によって減速された後、出力軸22の回転として取り出される。この結果、出力軸22の中空部22Aに挿入された係船ウインチの回転軸を、所望のトルクにて回転させることができる。
【0046】
ここで、この実施形態に係る減速装置G1および該減速装置G1に連結されたモータ12は、取り付けフランジ48の部分のみで(片持ち状態で)被取り付け壁45に支持されている。このため、ギヤケーシング本体42の上面50には、もともと極めて強い荷重(特に引張荷重)が掛かっている。
【0047】
そこへ、例えば、突風、大型の台風、あるいは地震による津波等によって発生した大きな波が甲板10上の減速装置G1やモータ12に乗り上げてくると、従来は、(ギヤケーシング本体の上面が平面であったため)減速装置の上面に乗り上げてきた波の荷重(特に曲げ荷重あるいは引張荷重)をまともに受け止めることになってしまっていた。さらに、減速装置の上面には、波がモータに降り掛かったときに該モータを押し下げようとする力に起因する引張荷重が加わることもあるため、従来の減速装置では、ギヤケーシング本体の特に上面は、ときに極めて過酷な状態とならざるを得なかった。
【0048】
しかし、本実施形態によれば、ギヤケーシング本体42の上面50上に乗り上げた波を、該上面50に形成した傾斜面50A、50Bに沿って円滑に上面50外に逃がす(かわす)ことができる。このため、上面50に掛かる波の衝撃荷重を大幅に軽減することができ、高い強度を維持することができる。なお、ここでの「強度」には、単にケーシング28が破壊されないというだけでなく、「ケーシング28内の軸受24、26やオイルシール29、31等の耐久性に影響を与えるような変形、波打ち、あるいは振動が発生しにくい」という概念を含んでいる。
【0049】
この実施形態では、特に、下り傾斜を、対向する2組(計4面)の傾斜面50A(50A1および50A2)と50B(50B1および50B2)とで形成し、かつ、上面50において平坦面50Pの面積が極小とされている(該平坦面50Pの面積を、傾斜面50A、50Bの面積が大きく上回っている)。このため、波をきわめて円滑に上面50外に逃がす(かわす)ことができるとともに、形状的にも該上面50の変形や波打ち現象を大きく抑制することができる。
【0050】
また、モータ12の外径が円筒形とされているため、波の影響を受けにくく、したがって、モータ12に掛かった波の荷重によってギヤケーシング本体42の上面50に掛かる荷重がより過酷になることを抑制することもできている。
【0051】
さらに、端子箱14についても、従来はほぼ直方体で形成され、波の衝撃荷重を受け易い形状であったが、本実施形態においては、(減速装置G1が甲板10上に配置された状態において)該端子箱14の上面36を平面視したときのモータケーシング本体32側(一端側)の辺36Aから反モータケーシング本体側(他端側)の辺36Bへ向けて、下り傾斜が形成され、かつ、端子箱14の上面36を平面視したときに、端子箱14のY方向において、内側(中央側)から外側(端部側)に向けて低くなる下り傾斜の傾斜面36E、36Fが形成されている。このため、同様の「波を逃がす」作用が、特に端子箱14の上面36において有効に得られている。この作用は、単に端子箱14が破壊されにくい、という直接的な効果だけでなく、「支持点」である取り付けフランジから遠い(腕が長い)位置にある端子箱14に掛るZ方向下側への荷重が低減されるという観点で、ギヤケーシング本体42の上面50の引張荷重や捻れ荷重に及ぼす悪影響が小さくなるという効果が得られる点で大きな意義がある。また、端子箱14の側面38や下面40も傾斜が形成されているため、ここでも波の影響を小さくできる。
【0052】
さらには、この実施形態は、ギヤケーシング本体42の上面50だけでなく、下面56に対しても対称面P1を境に対称に(下面56を底面視したときに内側から外側へ向けて)上りの傾斜面56A(56A1および56A2)、56B(56B1および56B2)が形成されている。このため、該上り傾斜の形成により、ギヤケーシング本体42の下面56自体の強度増強が担保されるため、結果として、上面50の補強としても極めて有益である。
【0053】
加えて端子箱14の取り付け口34、35がX方向で選択ができるように配慮されていることと相まって、本実施形態のギヤケーシング本体42は、その上下対称性により、いわゆる「勝手違いの取り付け」に対して非常に柔軟な対応が可能である。この作用効果は、特に、単一の係船ウインチ等をツイン駆動によって駆動する際に2台の減速装置G1を係船ウインチ等に対して対称に取り付けるときに大きなメリットとなる。
【0054】
また、この実施形態では、モータケーシング本体32がギヤケーシング本体42から片持ち状態で支持されている構成であることを考慮して、強度上、継ケーシング44の外径d3を、敢えてモータケーシング本体32の外径d4およびギヤケーシング本体42の外形L3とほぼ同等の大きさとしている。これにより、モータ12および減速装置G1に打ち寄せた波が、径の小さい継ケーシングの部分に流れ込んで該継ケーシングの部分に波の衝撃荷重が集中することを避けることができる。
【0055】
また、この実施形態では、取り付けフランジ48は、小径のギヤケーシング側リング部48Aと大径の被取り付け壁側リング部48Bとを、複数の連結部材48Cで連結した構成とされている。これにより、連結部材48C間の隙間に波が流れ込んで下側から抜けることができるため、取り付けフランジ48に打ち寄せた波の衝撃荷重がそのままギヤケーシング本体42に掛かってしまうのを防止できる。
【0056】
なお、上記実施形態では、X方向およびY方向とも中央部が厚いギヤケーシング本体42を採用していたが、これを図7、図8で示されるような均等な肉薄のギヤケーシング本体42Sで形成するようにしてもよい。これでも、「波を逃がす(かわす)効果」が得られる分、従来と同等の肉厚であっても、従来よりも強度の高いギヤケーシング本体42Sを得ることができる。図7、図8の減速装置G2は、肉厚以外は、先の実施形態と同様であるため、便宜上図中で同一または機能的に同一の部位に同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0057】
図9に、本発明の他の実施形態の一例に係る船舶用のモータ12付きの減速装置G3の斜視図を示す。図10は同じく側面図である。
【0058】
先の実施形態では、ギヤケーシング本体42の上面50が、X方向およびY方向とも、内側(中央側)が外側(端部側)よりも高くなる形状を採用していたが、この実施形態では、X方向については、減速装置G3が甲板10上に設置されたときの該減速装置G3のギヤケーシング本体68の上面70に、該上面70を平面視したときの取り付けフランジ48側(一端側)の辺70Aから反取り付けフランジ側(他端側)の辺70Bへ向けて、下り傾斜の傾斜面70Cが形成されている。なお、Y方向については内側が外側より高い下り傾斜の傾斜面70D、70Eが形成されている。下面73は、先の実施形態と同様、上面70と上下に対称である。
【0059】
この構成は、例えば、モータ12付きの減速装置G3の甲板10上での取り付け位置の関係で、波が図9の矢示Aの方向から押し寄せることが想定されているような場合に、該波をより効果的にX方向およびY方向に逃がす(かわす)ことができる。
【0060】
なお、この実施形態では、端子箱74に対しも、X方向においては、先の実施形態と同様に、該端子箱74の上面76を平面視したときにモータ12側(一端側)辺76Aから反モータ側(他側端)76Bへ向けて、下り傾斜の傾斜面76Cを形成しているが、Y方向においては、(該端子箱74の上面76を同じく平面視したときに)内側から外側へ向けて、先の実施形態よりも、さらに大きくかつ広範囲な下り傾斜の傾斜面76E、76Fを形成している。
【0061】
この結果、端子箱74の上面76にモータケーシング本体32を超えて押し寄せた波をモータ12側(一端側)から反モータ側へ効率的に流すことができるだけでなく、Y方向にも効率的に端子箱74の両サイドに振り分けることができている。
【0062】
また、図11、図12は、図9、図10の変形例を示している。
【0063】
この変形例では、減速装置G4が甲板10上に設置されたときの該減速装置G4のギヤケーシング本体78の上面80に、該上面80を平面視したときに反取り付けフランジ側の辺80Aから取付けフランジ48側の辺80Bへ向けて、下り傾斜の傾斜面80Cが形成されている(X方向での傾斜が図9、図10の傾斜と逆)。Y方向については内側が外側より高い下り傾斜の傾斜面80D、80Eが形成されている。下面83は、先の実施形態と同様、上面80と上下に対称である。
【0064】
この構成は、モータ12付きの減速装置G4の甲板10上での取り付け位置の関係で、波が図11の矢印Bの方向から押し寄せることが想定されているような場合に、該波をより効果的に逃がす(かわす)ことができる。
【0065】
その他の構成については、先の実施形態と同様であるため、図中で主な同一または機能的に類似する部分に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0066】
図13〜図15に、本発明のさらに他の実施形態の例を示す。
【0067】
この実施形態は、図1〜図4の実施形態に係る減速装置G1(および端子箱14)に対して、サイドケーシング86aについても「波の荷重低減」構成を採用したものである。すなわち、この実施形態では、減速装置G5の側面に位置するサイドケーシング86aに、該側面を側面視したときの内側(中央側)から外側(端部側)へ向けて、該減速装置G5の反対側の側面側(この例では取り付けフランジ48側)に向かう傾斜面88が形成されている。傾斜面88は、単一の球面の一部を切り取ったような外形形状(表面形状)とされている。
【0068】
このように、傾斜面88の外形形状を球面(あるいは楕円体の表面)の一部で形成すると、傾斜面と傾斜面(あるいは傾斜面と平坦面)との間の不連続性が発生しないため、より円滑に波を誘導できるという点で優れる。
【0069】
この構成は、甲板10上において、例えば、減速装置G5の甲板10上の位置、あるいは係船ウインチ等の被駆動体との位置関係で、サイドケーシング86aに対しても波が押し寄せる可能性がある位置に減速装置G5が設置される場合に有効である。
【0070】
図15の(A)、(B)は、図13、図14のサイドケーシング86aの断面形状のバリエーションの例を示している。
【0071】
図15の(A)の例は、サイドケーシング86aそのものであり、ほぼ全体が、中空部の殆どない肉厚の部材で形成されている。この構成は、甲板10上において、サイドケーシング86aに(減速装置G5の側部から)特に強い波が掛かる状態が想定されるときに有効であり、強度的に非常に強い。
【0072】
一方、図15の(B)の例では、前述の平板状のサイドケーシング46をそのまま用いるとともに、該サイドケーシング46に、(傾斜面88の形成された)薄肉の追加サイドカバー体86bを、ボルト91によって共締めするようにしている。
【0073】
追加サイドカバー体86bは、裏面(サイドケーシング側)に縦横に形成されたリーンホースメント(補強体)92を一体に備えている。リーンホースメント92は、サイドケーシング46に当接しており、追加サイドカバー体86bは、該リーンホースメント92を介して波の荷重に対しサイドケーシング46側から反力を受けることができる。そのため、追加サイドカバー体86b自体は、それほど厚い肉厚を必要としない。
【0074】
なお、追加サイドカバー体86bは、(リーンホースメントの部分を含めて)肉厚に形成し、そのまま追加サイドカバー体86bの全体がサイドケーシング46に当接するような構成としてもよい。逆に、リーンホースメントのない(傾斜面88のみを備えた薄肉の追加サイドカバー体としてもよい。
【0075】
こうした、追加サイドカバー体86bのような別途の部材である追加カバー体を連結・固定する構成は、サイドケーシングのみならず、ギヤケーシング本体の上面や下面等の傾斜の形成に対しても有効である。別の見方をするならば、本発明に係る「傾斜」は、必ずしもケーシングそのもので形成されている必要はなく、別体の追加カバー体をベースとなるケーシングに固定することによって形成するものであってもよい。
【0076】
追加カバー体を固定する構成を採用することにより,例えば、波の荷重に対して「本発明に係る対策」を施していない(従来の)減速装置をそのまま用意し、「オプション」のような体系で、追加カバー体を、ベースとなる減速装置の平坦面に取り付けることで「本発明に係るさまざまな傾斜面を有する減速装置」を得ることができるようになる。
【0077】
この手法は、大型且つコストが高いケーシング自体を複数種類用意するのではなく、単一(同一)のケーシングに対して、波対策を考慮した複数の追加カバー体(例えば、上面用追加カバー体、下面用追加カバー体、側面用追加カバー体等)を用意するだけで、結果として「減速装置各面の傾斜面を自在に得る」ことができることを意味している。これにより、例えば、図9および図11のような、勝手違いの傾斜も、「同一」のベースケーシングに対して、「同一」の追加カバー体を、勝手違いで取り付けるだけで対応できるようになり、コストや甲板上の設置位置に応じて、ユーザの要請にきめ細かに対応した「船舶用の減速装置のシリーズ」を構成することが可能になる。この追加カバー体を用いる構成は、当然、端子箱にも適用可能である。
【0078】
追加カバー体による減速装置の各面の傾斜の形成は、工場で予め一体化して甲板上に搬入することも、既に甲板上に設置済の減速装置に、実際の甲板での設置状況(波を受ける状況)に応じて、後付けすることも可能である。この点でも融通性が高い。
【符号の説明】
【0079】
G1…減速装置
10…甲板
12…モータ
14…端子箱
36…端子箱の上面
20…減速機構
42…ギヤケーシング本体
44…継ケーシング
46…サイドケーシング
48…取り付けフランジ
50…上面
50A、50B…傾斜面
56…下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の甲板に設置される減速装置であって、
前記減速装置が前記甲板上に設置されたときの該減速装置の少なくとも上面に、該上面を平面視したときの内側から外側へ向けて、下り傾斜が形成されている
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記下り傾斜を有する傾斜面として、対向する傾斜面が少なくとも2組形成されている
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記減速装置の下面に、該下面を底面視したときの内側から外側へ向けて、上り傾斜が形成されている
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記減速装置の側面に、該側面を側面視したときの内側から外側へ向けて、該減速装置の反対側の側面側に向かう傾斜が形成されている
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記傾斜が形成されている面において、該傾斜の形成されていない平坦面よりも該傾斜の形成された傾斜面の面積の方が大きい
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項6】
請求項1または2において、
前記減速装置の減速機構を構成するギヤの前記甲板からの最高高さが、前記下り傾斜の少なくとも1つの最下端部のケーシング外側の前記甲板からの高さよりも低い
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項7】
請求項1または2において、
前記減速装置の減速機構を構成するギヤの前記甲板からの最高高さが、前記下り傾斜の少なくとも1つの最下端部のケーシング内側の前記甲板からの高さよりも低い
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項8】
船舶の甲板に設置される減速装置であって、
前記減速装置が前記甲板上に設置されたときの該減速装置の少なくとも上面に、該上面を平面視したときの一端側の辺から他端側の辺へ向けて、下り傾斜が形成されている
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記減速装置が、前記甲板から垂直に立設された取付面に取付けられ、
前記上面を平面視したときの前記取付面側の辺から反取付面側の辺に向けて、前記下り傾斜が形成されている
ことを特徴とする船舶用の減速装置。
【請求項10】
船舶の甲板に設置される減速装置であって、モータと連結して使用される船舶用のモータ付き減速装置において、
前記減速装置が前記甲板上に設置されたときの前記モータの端子箱の少なくとも上面に、該上面を平面視したときの内側から外側へ向けて下り傾斜が形成されている
ことを特徴とする船舶用のモータ付き減速装置。
【請求項11】
船舶の甲板に設置される減速装置であって、モータと連結して使用される船舶用のモータ付き減速装置において、
前記減速装置が前記甲板上に設置されたときの前記モータの端子箱の少なくとも上面に、該上面を平面視したときの一端側の辺から他端側の辺へ向けて、下り傾斜が形成されている
ことを特徴とする船舶用のモータ付き減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−99983(P2013−99983A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243742(P2011−243742)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】