説明

苗移植機

【課題】苗トレイ搬送装置によってオペレータによる苗トレイの供給と取出の作業効率を確保しつつ、同苗トレイ搬送装置の小型化によってコンパクトな機体構成を可能とする苗移植機を提供する。
【解決手段】苗移植機P1は、複数の苗株を平面配列保持した苗トレイを所定位置に搬送する苗トレイ搬送装置4と、この苗トレイ搬送装置4によって所定位置に搬送された苗トレイから苗株を取り出す苗取出装置6と、この苗取出装置6によって取り出された苗株を受けて圃場に植付ける苗植付装置5とを備えて構成され、上記苗トレイ搬送装置4は、受けた苗トレイを傾倒した縦姿勢で下方に間歇移送する縦移送機構32と、この縦移送機構32による苗トレイの下降経路の下端位置から直近の待避位置の方向に苗トレイを待避させる待避機構33とから構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗トレイ搬送装置、苗取出装置、苗植付装置等を備えて苗トレイから苗株を順次取出して圃場に植付けする苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、苗トレイは多数の苗株を格子状に平面配列に保持し、この苗トレイを受ける苗移植機の苗トレイ搬送装置(苗載台41)は、傾斜姿勢の移送機構に周回案内部を備えて構成され、その上面側に受けた苗トレイを傾斜下方に向けて間歇移送し、その所定位置で苗取出装置が苗株を順次取出し、続けて、傾斜下端位置の周回案内部によって可撓性の苗トレイを移送機構の背面側に送り、苗トレイを反転状態で送出する。
【0003】
上記構成により、苗トレイ搬送装置にオペレータが苗トレイを供給すると順次苗株が取出されるとともに、空の苗トレイが順次排出側に送られることから、オペレータによる苗トレイの供給と取出の作業を効率よく進めることができる。
【特許文献1】特開2001−314107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記苗トレイ搬送装置は、傾斜姿勢の移送機構とその下端部の周回案内部とによって大きなスペースを要することから機体全長の長大化を招き、苗移植機の機体操作の観点からも機体のコンパクト化が望まれていた。
【0005】
解決しようとする問題点は、苗トレイ搬送装置によってオペレータによる苗トレイの供給と取出の作業効率を確保しつつ、同苗トレイ搬送装置の小型化によってコンパクトな機体構成を可能とする苗移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、複数の苗株を平面配列保持した苗トレイを所定位置に搬送する苗トレイ搬送装置と、この苗トレイ搬送装置によって所定位置に搬送された苗トレイから苗株を取り出す苗取出装置と、この苗取出装置によって取り出された苗株を受けて圃場に植付ける苗植付装置とを備える苗移植機において、上記苗トレイ搬送装置は、受けた苗トレイを傾倒した縦姿勢で下方に間歇移送する縦移送機構と、この縦移送機構による苗トレイの下降経路の下端位置から直近の待避位置の方向に苗トレイを待避させる待避機構とからなることを特徴とする。
【0007】
上記苗トレイ搬送装置の縦移送機構と待避機構とにより、苗トレイは縦姿勢で下降されつつ苗株が取出され、その下降経路の下端位置で待避移動される。
【発明の効果】
【0008】
上記構成の苗移植機は、苗トレイ搬送装置の縦移送機構により、苗株を横倒し状に保持する縦姿勢状態の苗トレイが下方に間歇移送され、その所定位置で苗取出装置によって苗株が取出された後、苗トレイは、その下降経路の下端位置から直近の待避位置の方向に待避機構によって移動待避される。したがって、苗トレイ搬送装置は、縦移送機構および待避機構が苗トレイの厚さ寸法に準じた投影面積範囲で構成可能となることから、その設置面積を最小限度に抑えてコンパクトに構成し、その結果、苗植付装置の小型化による機体構成のコンパクト化および機体の操作性向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態について、以下に図面に基づいて詳細に説明する。
図1、図2に側面図、平面図をそれぞれ示す苗移植機P1は、畝Aを跨いで走行する左右一対の前輪1f,1fと左右一対の後輪1,1からなる走行部を設けた機体の後部に歩行操縦用の操縦ハンドル2を設け、機体側面視で前記走行部の後側接地部(後輪)1,1から操縦ハンドル2にかけての前後間に、上下動して圃場に苗を植付ける苗植付装置5と、この苗植付装置5に苗株を供給する苗トレイ搬送装置4、苗取出装置6等からなる苗植付部を設けて構成したものである。
【0010】
本例では、上記車輪1f,1f,1,1のうち左右一対の前輪1f,1fを遊転車輪とし、左右一対の後輪1,1を駆動車輪としている。なお、上記車輪1f,1f,1,1によるホイールタイプの走行部に代えて、クローラタイプの走行部を採用することもできる。
【0011】
機体の各部の具体的な構成について説明する。
機体の前部には原動機13を搭載し、前部左右両側には前輪1f,1fを伸縮可能の前輪アー厶15で支持し、左右両側のアクスルハウジング16,16の周りに後部が上下動可能の伝動ケース17,17の後部側面から突出する車軸18に駆動車輪1,1を装着し、原動機13の後側に配置した走行ミッション19の後部からセンターフレーム10を後方に延出しつつ次第に立上がるように傾斜して形成し、その後端から更に後方に延びる歩行操縦用の操縦ハンドル2を形成する。センターフレーム10の最低位部には、スタンドを共用する横ずれ防止フレーム10cを圃場面まで延設する。この横ずれ防止フレーム10cは、機体の左右中央に位置する畝の谷部に接触して機体を所望の進行方向に案内する。操縦ハンドル2の後端部は、機体後方側に立つ操縦者が手で握る左右一対のグリップ部11,11を構成する。
【0012】
また、前記走行ミッション19の後側には、油圧等により駆動される車輪昇降用シリンダ20を有し、そのピストンロッドの先端部に左右横方向にのびるアーム21の中央部を連結している。このアーム21の左右両端部と左右両側のアクスルハウジング16,16の基部に一体形成したアーム22との間を、右側では連動ロッド23で連結し、左側では油圧等によって伸縮動作可能なローリング動作用シリンダ24を介在させて連結する。
【0013】
このように構成することにより、車輪昇降用シリンダ20を伸縮動作させると、左右の駆動車輪1,1が上下動し、機体が上下動することになる。また、ローリング動作用シリンダ24を伸縮動作させるとローリング動作用シリンダ24を設けた側の駆動車輪1が昇降し、機体が左右に傾動することになる。車輪昇降用シリンダ20は左右の駆動車輪1,1の間に配置されて畝上面に接地する不図示の接地センサによって機体の畝上面に対する高さが検出され、この検出高さが設定高さとなるように車輪昇降用シリンダ20が動作するように構成している。これらの手動動作のために、操縦ハンドル2付近に操作具を設ける。例えば、主クラッチレバー、手動水平レバー、植付け深さ調節レバー等を設け、操縦者が操作可能に構成する。
【0014】
(苗植付部)
次に、苗植付部について説明する。
苗植付部は、複数の苗株を平面配列保持した苗トレイWを所定位置に間歇搬送する苗トレイ搬送装置4と、この苗トレイ搬送装置4によって所定位置に搬送された苗トレイから苗株を取り出す苗取出装置6と、この苗取出装置6によって取り出された苗株を受けて圃場に植付ける苗植付装置5とから構成される。
【0015】
(苗トレイ搬送装置)
苗トレイ搬送装置4は、受けた苗トレイWを案内するように前下がりに傾斜した2条分の幅で苗トレイを受け入れる導入台31と、この導入台31によって案内された苗トレイを平置き姿勢を基準として90度位置の近傍まで傾倒した縦姿勢で間歇下降移送するガイドとローラーとによる縦移送機構32と、この縦移送機構32による苗トレイの下降経路の下端位置から直近の待避位置の方向に苗トレイを待避させる待避機構33とによって構成し、これを左右往復機構34によって機体幅方向に往復移動可能に構成する。
【0016】
上記待避機構33は、苗取出装置6によって苗トレイから全ての苗株が取出された後に縦移送機構32によって更に下降移送される苗トレイの下降経路の下端部に形成した背面側開口32wに臨む背板33pにより構成する。背板33pは背面側開口32wから自重で落下移動する苗トレイを待避位置で受け、その上端部および両側部を開放して構成する。この開放部により、苗トレイを上方と両側方のいずれからも取出すことができる。
【0017】
上記苗トレイ搬送装置4は、その縦移送機構32により、苗トレイは平置き状態から90度位置の近傍角度まで傾倒した縦姿勢で下降され、苗トレイの苗株ポットの配列ピッチと同間隔の間歇移送を行う。苗トレイは、縦移送機構32の下降経路の下端位置に達すると待避機構33の背板33pに沿う待避位置に移動されて保持されるので、屈曲性を要することなく展開状態のまま取扱うことができる。
【0018】
図例では、長方形状の苗トレイの長辺を左右に向け、短辺を上下に向けた縦姿勢で苗トレイ搬送装置4に供給し、縦移送機構32の下端部の後側に背面側開口32wと待避機構33を配置し、背板33pがセンターフレーム10の直前位置でその両側方に突出して構成することにより、後方の操縦ハンドル2側から空トレイを取出すことも、左右の側方から空トレイを取出すこともできる。
【0019】
左右往復機構34は、図1におけるB矢視拡大図を図3に示すように、センターフレーム10上に伝動ケース29を起立固定し、この伝動ケース29から左右の車輪1,1の外側までの安定範囲内で左右の支持フレーム34f、34fを平面視で左右対称に延設し、その両側端間にガイドレール34gを架設して縦移送機構32を幅方向にスライド可能に支持するとともに、この縦移送機構32の下端部に左右方向のレール32gを取付け、センターフレーム10の両側部に取付けた左右のローラ32r、32rで左右の往復動作を支持する。
【0020】
支持フレーム34f、34fの一方側(図例は右側)には伝動系を内設し、この伝動系によって回転する周回螺旋軸34sを介して縦移送機構32と連結する。周回螺旋軸34sは、右ねじと左ねじの螺旋溝を両端で連続して周回状に形成し、その螺旋溝と係合する縦移送機構32の横送り部32fを介して1条幅分の範囲を往復駆動可能に構成する。周回螺旋軸34sの軸端には送り爪34aを設ける。この送り爪34aは左右の折返し位置で縦移送機構32に作用することにより1ピッチ分の下降動作をさせる。
【0021】
(苗植付装置)
苗植付装置5,5は、本例では、左右の苗取出装置6,6と対応して簡易な左右対称配置が可能な2条植えに構成する。各苗植付装置5は苗を上方から投入されるようになっていて下部が前後に開閉する一対のくちばし状の苗植付具27とその上部の苗ガイド28とから構成される。苗植付装置5,5の上方に配置された左右の苗取出装置6,6から落下供給される苗株を苗ガイド28から苗植付具27に受けて下降し、畝Aに苗植付具27の下部を突き刺して前後に開き、植付穴を形成するとともに苗株をその植付穴に放出して植付ける。
【0022】
(苗取出装置)
苗取出装置6は、図4の内部透視拡大図に示すように、取出針51を突出固定したケース52c内に進退可能なスライドロッド53を設けた取出杆52と、この取出杆を駆動する駆動リンク56a,57,57aとによって構成される。上記スライドロッド53は先端に略U字状の押出部53pを備え、後端位置のコイルスプリング54により取出針51に沿って突出する方向に付勢され、その進退を制御する制御アーム55をケース内に揺動可能に軸支する。
【0023】
この制御アーム55を揺動させるカム56をケース52cの後部に軸支し、カム56と一体のカム軸56sに取付けたカム軸アーム56aを伝動ケース29の上位出力軸29sに取付ける。この上位出力軸29sの下位位置の同期逆転軸29tに逆転アーム57aを設け、この逆転アーム57aと連結する湾曲リンク57を介してケース52cの前部を支持する。
【0024】
上記構成の取出杆52は、カム軸アーム56aの回転に伴うカム56の相対回転によって制御アーム55が揺動され、カムパターンに応じてスライドロッド53が進退制御されるとともに取出杆52の位置が規定される。また、逆転アーム57aの回転により、カム軸アーム56aの角度位置に応じて取出杆52の姿勢が制御される。カム軸アーム56aと逆転アーム57aとが互いに逆回転することにより、取出杆52が後方に向いた水平姿勢から下向き姿勢に大きく変化して苗トレイ搬送装置4から苗植付装置5に対して苗株の受け渡しを行う。
【0025】
上記取出針51は、長手方向のスリットにより先端側を2つ割れに形成することにより、その先端部を苗トレイの苗株培土に突刺した際に押出部53pと協働して苗株を抱え込むように保持することができるので、苗トレイから苗株を確実に取出すことができる。また、押出部53pは、図4におけるA矢視図を図5(a)に示すように、取出針51を懐に挟むように形成することにより、取出した苗株を押出す際に取出針51を扱くように押出部53pをスライドさせて苗株を確実に解放することができる。
【0026】
さらに、取出針51は、図4におけるB矢視図を図5(b)に示すように、その外側に張出部51e,51eを形成し、スライド動作する押出部53pと干渉して先端部を開閉動作可能に構成する。苗株を苗トレイから取出す直前に押出部53pを一時的にスライドさせるようにカム56のカムパターンを形成することにより先端部が閉じるように構成する。
【0027】
また、取出針51は、別例の側面図を図6に示すように、先端部に抜け止め用の凹凸形状または返し部51kを形成し、必要により、その数を増減して設定することにより、苗株を苗トレイから確実に取出して抜き残しを防止することができる。
【0028】
苗植付部の伝動系は、走行ミッション19の後部に植付伝動ケース29が連結されていて、この植付伝動ケース29内の伝動機構を経由して苗植付装置5,5、苗トレイ搬送装置4、苗取出装置6等がタイミングを合わせて駆動される。苗植付具27は、リンク機構により植付軌跡線に沿って上下動され、また、苗植付具27の開閉機構が作動して、上端位置から下端位置まで下降するときははくちばし状の苗植付具27が閉じた状態となり、下端位置で前後に開き、そして、前後に開いた状態で上昇し、上端位置で再び閉じるように動作する。植付後の苗は、その左右側方の土が左右の鎮圧輪26,26で鎮圧されて覆土される。
【0029】
(苗積載台)
左右の後輪1,1の上方には、苗トレイを収容した苗箱Bを載せられるように苗積載台40を設ける。この苗積載台40は、センターフレーム10とともに低位構成の苗トレイ搬送装置4および苗取出装置6の上方に低位に配置できるので、苗トレイの取出しと苗トレイ搬送装置4への苗トレイ補給作業を容易に行うことができる。また、油圧シリンダブロック20から植付伝動ケース29間を結んで苗積載台40を前後の支柱40a,40bによって支持することにより、ハンドル2の上下方向の剛性を向上することができ、また、苗積載台40をトレッドと同一幅に構成することにより、苗トレイの補給が容易となり、より多くの積載量を簡易に確保することができる。
【0030】
次に、クローラ型の苗移植機P2について説明する。以下において、前記同様の部材はその符号を付することにより説明を省略する。
図7、図8に側面図、平面図をそれぞれ示す苗移植機P2は、前述の後輪1,1に代えてクローラ1c、1cを備え、略15cmの通常の畝高さの場合に、接地部の後部を少し反り上がるように設定し、自動水平制御の場合において、傾斜地谷側のクローラの動作側面図を図9に示すように、接地部の全長Lで完全に接地するように構成する。このようなクローラ1cの設定により、傾斜地において機体が谷側に引っ張られることなく、直進走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】苗移植機の側面図である。
【図2】図1の苗移植機の平面図である。
【図3】図1におけるB矢視拡大図である。
【図4】苗取出装置の内部透視拡大図である。
【図5】図4におけるA矢視図(a)およびB矢視図(b)である。
【図6】取出針の別の構成例である。
【図7】クローラ型の苗移植機の側面図である。
【図8】図7の苗移植機の平面図である。
【図9】傾斜地谷側のクローラの動作側面図である。
【符号の説明】
【0032】
4 苗トレイ搬送装置
5 苗植付装置
6 苗取出装置
10 センターフレーム
27 苗植付具
28 苗ガイド
29 植付伝動ケース
31 導入台
32 縦移送機構
33 待避機構
33p 背板
34 左右往復機構
40 苗積載台
52 取出杆
53 スライドロッド
P1 苗移植機
W 苗トレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の苗株を平面配列保持した苗トレイを所定位置に搬送する苗トレイ搬送装置と、この苗トレイ搬送装置によって所定位置に搬送された苗トレイから苗株を取り出す苗取出装置と、この苗取出装置によって取り出された苗株を受けて圃場に植付ける苗植付装置とを備える苗移植機において、
上記苗トレイ搬送装置は、受けた苗トレイを傾倒した縦姿勢で下方に間歇移送する縦移送機構と、この縦移送機構による苗トレイの下降経路の下端位置から直近の待避位置の方向に苗トレイを待避させる待避機構とからなることを特徴とする苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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