説明

苗移植機

【課題】苗載せ台部分の改良により苗植付装置が苗載せ台から苗を容易に掻き取って、圃場への苗の植付を精度よく行うことができるようにした苗移植機を提供すること。
【解決手段】走行車体2の後部にある苗タンク51に積載された苗を下方に送る苗送り装置54と苗受板51cを設け、苗送り装置54から苗植付装置52に移される苗を案内する苗ガイド57bを苗受板51cに設け、苗タンク51に風孔部51eを形成した苗移植機であり、風孔部51eがあるので風の流れが苗タンク51に遮られることが防止されるため、走行車体2のエンジン20等の冷却が必要な部品を風で冷却することができるので、オーバーヒート等による作業の中断が防止され、作業能率が従来より向上し、苗タンク51に積載した苗の量が減り始めると、作業者は風孔部51eから後方を視認することができるので、苗の植付状態や苗送りが正常に行われているかを確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行装置を有する機体上に苗を載せて走行しながら苗植付装置で苗を植え付ける苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
機体後部に苗を積載する苗載せ台(苗タンク)と該苗タンク下端部から苗を取って圃場に植え付ける苗植付装置を備えた苗移植機が知られている。
下記特許文献1及び特許文献2記載の苗移植機には、苗タンク下端部に設けた苗を受ける苗受板に切り欠きを形成し、この切り欠きに苗植付装置で掻き取る苗の姿勢を安定させる苗ガイドを設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−236357号公報
【特許文献1】特開2007−143501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び2記載の苗移植機における苗載せ台の下端部の苗受板切り欠きに設けた苗ガイドはゴム等の弾性体で成型しているため、苗が接触した際に苗に大きな抵抗がかかるので、苗の根部を纏めている土が崩れ、苗の束がバラバラになって圃場に植え付けられなくなる問題がある。また、前記接触抵抗によって苗の葉部がちぎれてしまい、苗の生育が悪くなり、収穫量が低下する問題がある。
そこで、本発明の課題は、苗載せ台部分の改良により苗植付装置が苗載せ台から苗を容易に掻き取って、圃場への苗の植え付を精度よく行うことができるようにした苗移植機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、下記構成によって達成される。
すなわち、請求項1に係る発明は、走行車体(2)上にエンジン(20)を配置し、走行車体(2)の後部に苗を積載する苗タンク(苗載せ台)(51)と、該苗タンク(51)に積載された苗を下方に送る苗送り装置(54)を設け、苗送り装置(54)で送られてきた苗を受け止めるために苗タンク(51)の下端部に苗受板(前板)(51c)を設け、苗送り装置(54)で送られてきた苗を取って圃場に植え付ける苗植付装置(52)を苗タンク(51)の後部に配置し、苗植付装置(52)に移された苗を案内する苗案内部材(苗ガイド)(57)を前記苗受板(51c)に設けた構成からなる苗植付部(4)を設けた苗移植機において、苗タンク(51)に風孔部(51e)を形成し、苗送り装置(54)を苗送り無端帯(54a)を有する構成とし、苗案内部材(57)を回転体(57a)を有する構成としたことを特徴とする苗移植機である。
【0006】
請求項2に係る発明は、苗受板(51c)の下部に支持板(68)を取り付け、該支持板(68)に上下一対の回転体(57a)を設け、該上下一対の回転体(57a)に苗案内無端帯(57b)を巻回して苗案内部材(57)を構成し、該苗案内部材(57)は苗が接触すると回転する構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【0007】
請求項3に係る発明は、前記風孔部(51e)を、苗タンク(51)の上端部から苗送り装置(54)の上方に亘って左右方向に細長い形状で一または複数個形成し、苗タンク(51)の上端部から苗送り装置(54)の上方に亘って上下方向に細長い突起体(リブ)(51f)を設けたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【0008】
請求項4に係る発明は、苗送り装置(54)の苗送り無端帯(54a)の表面に、該苗送り無端帯(54a)の厚みよりも厚い搬送突起(54aa)を等間隔に複数形成し、該搬送突起(54aa)の基部側の表面又は裏面側の苗送り無端帯(54a)に窪み(54ab)を形成したことを特徴とする請求項1または3記載の苗移植機である。
【0009】
請求項5に係る発明は、苗送り装置(54)の苗送り無端帯(54a)の表面に、該苗送り無端帯(54a)の厚みよりも厚い搬送突起(54aa)を等間隔に複数形成し、該搬送突起(54aa)を形成した部分の裏側に裏側突起(コブ)(54ac)を形成したことを特徴とする請求項1または3記載の苗移植機である。
【0010】
請求項6に係る発明は、走行車体(2)に作業者が搭乗する操縦座席(31)を設け、 苗タンク(51)の左右両側にリンクアーム(71)を設け、左右どちらか一側のリンクアーム(71)の基部に回転体(ギア)(71a)を設け、該回転体(ギア)(71a)に噛合する回転体(73)と回動駆動装置(駆動モータ)(77)を前記苗タンク(51)の側面に設け、左右のリンクアーム(71)の端部に苗を積載可能な前後方向に長い補助苗載せ部材(72)を設け、回動駆動装置(77)を作動させて回転体(73)を約180度回転させるとリンクアーム(71)と補助苗載せ部材(72)が操縦座席(31)よりも走行車体(2)の前側に位置し、回動駆動装置(77)を作動させて回転体(73)を約90度回転させると補助苗載せ部材(72)が操縦座席(31)の上方に位置する構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、苗タンク(苗載せ台)51に風孔部51eを形成したことにより、走行車体2を通り抜ける風の流れが苗タンク51に遮られることが防止されるため、エンジン20等の冷却が必要な部品を風で冷却することができるので、オーバーヒート等による作業の中断が防止され、作業能率が向上する。
【0012】
また、苗タンク51に積載した苗の量が減り始めると、作業者は風孔部51eから走行車体2の後方を視認することができるので、苗の植付状態や苗送りが正常に行われているかを確認することができ、作業能率が従来より向上すると共に、苗の植付や苗送りの異常による苗の植え直し作業が不要となるため、作業者の労力が軽減される。
【0013】
そして、苗案内部材57を回転体で構成したことにより、苗植付装置52に移動された苗が苗案内部材57に接触した際の苗の搬送抵抗を小さくすることができるので、接触の衝撃で苗が崩れて苗植付装置52で適切に植えられなくなることが防止され、苗の植付精度が従来より向上する。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、苗案内部材57を上下一対の回転体57aと該回転体57aに巻回した苗案内無端帯57bで構成し、苗案内部材57に苗が接触すると回転する構成としたことにより、苗植付装置52に移動された苗が接触した際の接触抵抗が一層小さくなるので、接触の衝撃で苗が崩れて苗植付装置52で適切に植えられなくなることが防止され、苗の植付精度が従来よりも向上する。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、苗タンク51の上端部から苗送り装置54の上方に亘って左右方向に細長い風孔部51eを一または複数個形成したことにより、走行車体2を通り抜ける風の流れが苗タンク51に遮られることが防止されるため、走行車体2に搭載したエンジン20等の冷却が必要な部品を風で冷却することができ、オーバーヒート等による作業の中断が防止され、作業能率が向上する。
【0016】
また、風孔部51eが左右方向に細長いことにより、作業者は風孔部51eから後方を確実に視認することができるので、圃場での苗の植付状態や苗送りが正常に行われているかどうかを確認することができ、作業能率が向上すると共に、苗の植付や苗送りの異常による苗の植え直し作業が不要となるため、作業者の労力が従来より軽減される。
【0017】
そして、苗タンク51の上端部から苗送り装置54の上方に亘って上下方向に細長い突起体51fを設けたことにより、苗タンク51に積載した苗が風孔部51eに引っ掛かることなく下方に移動し易くなるので、苗が正常に苗受板51cまで送られて、苗植付装置52による苗の植え付け不良が防止されるため、苗の植付精度が従来より向上すると共に、植え損なった苗を手作業で植える必要がなく、作業者の労力が軽減される。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、苗送り装置54を構成する苗送り無端帯54aの表面に、苗送り無端帯54aの厚みよりも厚い搬送突起54aaを等間隔に複数形成したことにより、苗が確実に苗送り無端帯54aに載った状態で保持されるので、苗が滑って苗タンク51から脱落したり、歪んだ姿勢になってしまうことが防止され、必要なタイミングで苗植付装置52が苗を取ることができ、苗の植付精度が従来より向上する。
【0019】
また、搬送突起54aaの基部側の苗送り無端帯54aの厚みを、苗送り無端帯54aの他の部分の厚みよりも薄く形成したことにより、苗送り装置54が駆動していないときは苗送り無端帯54aが弛むため、苗を苗タンク51に積み込む際に苗送り無端帯54aが苗の抵抗になることを防止できるので、苗の積み込み作業が能率よく行える。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、苗送り装置54の苗送り無端帯54aの表面に、苗送り無端帯54aの厚みよりも厚い搬送突起54aaを等間隔に複数形成したことにより、苗が確実に苗送り無端帯54aに載った状態で保持されるので、苗が滑って苗タンク51から脱落したり、歪んだ姿勢になってしまうことが防止され、必要なタイミングで苗植付装置52が苗を取ることができ、苗の植付精度が従来より向上する。
【0021】
また、搬送突起54aaを形成した部分の裏側に裏側突起54acを形成したことにより、苗送り無端帯54aは駆動力がかかると伸張するため、苗送り装置54が作動した際に搬送ミスをすることが防止されるので、苗の植付精度が従来より向上する。
【0022】
さらに、苗送り装置54が駆動していないときは苗送り無端帯54aが弛むため、苗を苗タンク51に積み込む際に苗送り無端帯54aが苗の抵抗になることが防止できるので、苗の積み込み作業が能率よく行える。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、回転体73を約180度回転させると補助苗載せ台72が操縦座席31よりも走行車体2の前側に位置することにより、機外から機体に積み込む苗を作業者が取り易くなるので、作業能率が従来より向上する。
また、補助苗載せ台72に苗を載置しておくことができるので、苗の積載量が増加し、苗の補給に圃場端に戻る頻度が減少するため、作業能率が従来より向上する。
【0024】
そして、回転体73を約90度回転させると補助苗載せ台72が操縦座席31の上方に位置することにより、補助苗載せ台72が操縦座席31の日除け又は、施肥ホッパ60の雨よけとなるので、夏場に作業を行う場合に作業者の疲労を軽減することができ、作業者の労力が従来より軽減されると共に、休憩の頻度を減少させるので作業能率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態の苗移植機の側面図である。
【図2】図1の苗移植機の平面図である。
【図3】図1の苗移植機の苗タンクの底部側面図(図3(a))と図3(a)の矢印S方向から見た要部矢視図(図3(b))である。
【図4】図1の苗移植機の苗タンクの機体背面視図(図4(a))と図4(a)のA−A線矢視断面図(図4(b))である。
【図5】図1の苗移植機の苗送りベルトの一部断面図(図5(a))と苗送り無端帯の一部平面図(図5(b))である。
【図6】図1の苗移植機の苗送りベルトの一部断面図である。
【図7】図1の苗移植機の苗送りベルトの一部断面図である。
【図8】図1の苗移植機の苗送りベルトの一部断面図(図8(a))と一部平面図(図8(b))である。
【図9】図1の苗移植機の側面図(図9(a)〜図9(c))である。
【図10】図1の苗移植機の油圧回路構成図である。
【図11】図1の苗移植機のエンジンオイル温度とラジエータ水温に基づくエンジン回転数の制御フローチャートである。
【図12】図1の苗移植機のエンジンオイル温度とラジエータ水温に基づくエンジン回転数の制御ブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1及び図2は本発明の苗移植機の典型例である粉粒体繰出し装置として施肥装置を装着した乗用型田植機の側面図と平面図である。この施肥装置付き乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。搭乗オペレータが乗用型田植機の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向と後進方向をそれぞれ前、後という。
【0027】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11(走行装置)を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギアケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギアケース18,18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11,11が取り付けられている。
【0028】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及び油圧無段変速装置(HST)23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギアケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5へ伝動される。
【0029】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35は一部格子状になっており(図2参照)、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
【0030】
昇降リンク装置3は平行リンク機構であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。
【0031】
メインフレーム15に固着したリンクベースフレーム42と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に昇降油圧式シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0032】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し、苗を一株分ずつ各条の苗取出口51a,…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a,…に供給すると苗送りベルト54,…により苗を下方に移送する苗タンク(苗載せ台)51、苗取出口51a,…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52,…、次行程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ75(図1)等を備えている。
【0033】
苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。これらフロート55,56,56を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55,56,56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52,…により苗が植え付けられる。各フロート55,56,56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が迎角制御センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ、前記昇降油圧式シリンダ46を制御する油圧バルブ(図示せず)を切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0034】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61,…によって一定量ずつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62,…でフロート55,56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず),…まで導き、施肥ガイド,…の前側に設けた作溝体76(図1),…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62,…に吹き込まれ、施肥ホース62,…内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0035】
苗植付部4には整地装置の一例であるロータ27(第1ロータ27aと第2ロータ27bの組み合わせを単にロータ27ということがある)が取り付けられている。また、苗タンク51は苗植付部4の全体を支持する左右方向と上下方向に幅一杯の矩形の支持枠体65の支持ローラ65aをレールとして左右方向にスライドする構成である。
【0036】
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく一対の予備苗載せ台38,38が機体の前後に張り出す位置と上下に並んだ位置とに回動可能に設けられている。
切替駆動装置66により第1、第2、第3移動リンク部材39a,39b,39cの作動(回動)により第1、第2、第3予備苗載せ台38a,38b,38cが前後方向に並ぶ展開状態と各予備苗載せ台38a,38b,38cが上下方向に並ぶ収納状態とに切り替えられる。
【0037】
図3(a)に苗タンク51の底部側面図と図3(b)に図3(a)の矢印S方向から見た要部を示すように、走行車体2の後部に苗を積載する苗載せ台(苗タンク)51に積載された苗を下方に送る苗送りベルト54a(図5等参照)を有する苗送り装置54を設け、苗タンク51の上方から該苗送りベルト54aに送られてきた苗を受け止める苗受板(前板)51cを苗タンク51の下端部に設ける。苗送りベルト54aに送られてきた苗は前板51cに設けた一対の苗案内部材(苗ガイド)57の間に案内されて苗植付装置52により圃場に植え付けられる。
【0038】
前板51cの下部に支持板68を取り付け、該支持板68に苗案内部材57を設ける。支持板68には上下一対の回転軸に支持されたフリーローラからなる回転体57aを設け、該上下一対の回転体57aに苗案内用の無端ベルト(苗案内部材)57bを巻回する。該苗案内用の無端ベルト57bは並列状に間隔を開けて一対ずつ配置され、該一対のベルト57bの間に苗植付装置52の植込杆52a(図1)で掻き取られた苗が案内される。苗植付装置52の植込杆52aの回転に合わせ、一対の苗送りベルト57bの間を苗が通るため、苗の植付位置が乱れることが防止され、苗植付性能が従来よりも向上する。
【0039】
なお、苗案内部材57の苗送りベルト57bは、苗との接触で生じる摩擦抵抗力によって上下一対の回転体57a及び苗送りベルト54aが時計回り方向または反時計回り方向に回転する回転体として構成する。
【0040】
該苗案内部材57を回転体として構成したことにより、苗植付装置52に掻き取られた苗が苗案内部材57に接触した際の苗の搬送抵抗を小さくすることができるので、前記接触の衝撃で苗の根部を纏めている土が崩れて苗の纏まりが無くなり、苗植付装置52で適切に植え付けられなくなることが防止され、苗の植付精度が従来よりも向上する。
【0041】
図4(a)に苗タンク51の機体背面視図と図4(b)に図4(a)のA−A線矢視断面図を示すが、苗タンク51の上端部から苗送り装置54の上方に亘って左右方向に細長い風孔部51eを1つ以上形成している。この風孔部51eを通して通風が行われるので、走行車体2のエンジン20等の冷却が必要な部品を風で冷却することができ、エンジン20周りのオーバーヒート等による作業の中断が防止され、作業能率が従来より向上する。さらに風孔部51eを通して走行車体2前方からの向かい風を逃がすことができ、苗植付作業性能の低下を防止することができる。また、苗タンク51に積載した苗の量が減り始めると、作業者は風孔部51eから後方を視認することができるので、苗の植付状態や苗送りが正常に行われているかどうかを確認することができ、作業能率が従来より向上すると共に、苗の植付や苗送りの異常による苗の植え直し作業が不要となるため、作業者の労力が軽減される。
【0042】
さらに、それぞれの風孔部51eの上下間の苗タンク51上に、風孔部51eの左右方向中心部の両側に縦長のリブ(突起体)51fを一つずつ設けている。このため、苗タンク51に積載した苗がリブ51f上を通り、風孔部51eに引っ掛かることなく下方に移動し易くなるので、苗が正常に苗受板51cまで送られず、苗植付装置52が苗を植え付けられなくなることが防止されるため、苗の植付精度が向上すると共に、植え損なった苗を手作業で植える必要がなく、作業者の労力が従来より軽減される。
【0043】
図5に、苗送り装置54の苗送り無端帯(無端ベルト)54aの一部断面図(図5(a))と苗送りベルト54aの一部平面図(図5(b))を示すように、表面に他の無端ベルト領域の厚みよりも厚い搬送突起54aaを等間隔に複数形成することで、苗が確実に苗送り無端帯54aに乗った状態で保持されるので、苗が滑って苗タンク51から脱落したり、歪んだ姿勢になってしまうことが防止され、必要なタイミングで苗植付装置52が苗を取ることができ、苗の植付精度が従来より向上する。
【0044】
また、図5に示すように搬送突起54aaの基部側の苗送りベルト54aの厚みを他の部分より薄くした窪み54abを設けることで、搬送突起54aaの付け根部分のコシを弱くして、苗補給時に楽に苗を苗送りベルト54a上に載せることができる。苗送りベルト54aが駆動していないときは、苗送りベルト54aが弛むため、苗を苗タンク51に積み込む際に苗送りベルト54aが苗の抵抗になることが防止できるので、苗の積み込み作業が能率よく行える。
【0045】
また図6の苗送りベルト54aの一部断面図に示すように、表面に他の無端ベルト領域の厚みよりも厚い搬送突起54aaを等間隔に複数形成し、該搬送突起54aaのあるベルト表面より反対側の表面に窪み54abを設けた構成にすると、苗送り無端帯(無端ベルト)54aの外観を損なうことなく、図5の搬送突起54aaのあるベルト表面側に設ける窪み54abと同様の作用効果を奏することができる。
【0046】
図7の苗送りベルト54aの一部断面図に示すように、表面に他の無端ベルト領域の厚みよりも厚い搬送突起54aaを等間隔に複数形成し、該搬送突起54aaのベルト反対側表面に他の無端ベルト領域の厚みよりも厚いコブ54acを形成しておくことで前記搬送突起54aaが強固になり、搬送突起54aaに、いわゆる「コシ」を持たせることができて苗送り性能が従来より向上する。
【0047】
図8の苗送りベルト54aの苗送り無端帯(無端ベルト)の一部断面図(図8(a))と苗送り無端帯54aの一部平面図(図8(b))を示すように、苗送り無端帯(無端ベルト)54aの厚みを従来のものより全体に薄くし、表面に他の無端ベルト領域の厚みよりも厚い搬送突起54aaを等間隔に複数形成し、該搬送突起54aaのベルト反対側表面に他の無端ベルト領域の厚みよりも厚いコブ54acを形成しておくことで、前記搬送突起54aaが強固になり、搬送突起54aaに、いわゆる「コシ」を持たせることができて苗送り性能が従来より向上する。
【0048】
また、図9(a)の苗移植機の側面図に示すように、苗タンク51の左右両側に中間部で回動自在に接続したリンクアーム71を設け、左右どちらか一側のリンクアーム71の基部に駆動モータ77で駆動するギア73を設け、該ギア73に噛合するリンクアーム71の基部に一体的に設けられたギア71aが配置され、左右のリンクアーム71の前端部に苗を積載可能な前後方向に長い補助苗載せ台72を設けた構成を採用することができる。
【0049】
図9(a)の位置から図9(b)の苗移植機の側面図に示すように、駆動モータ77を作動させてギア73を約90度回転させることで、ギア71aと一体のリンクアーム71が図9(b)に示す位置に回動し、補助苗載せ台72は操縦座席31の上方に位置するのでサンバイザーまたは施肥ホッパ60の日よけ・雨よけの一部として用いることができ、夏場に作業を行う場合に作業者の疲労を軽減することができ、作業者の労力が軽減されると共に、休憩の頻度を減少させることで作業能率が従来より向上する。
【0050】
また、図9(c)の苗移植機の側面図に示すように駆動モータ77を作動させてギア73を約180度回転させて、補助苗載せ台72を操縦座席31よりも機体前側に移すと、機外から補助苗載せ台72上に積み込む苗を作業者が取り易くなるので、作業能率が従来より向上する。
【0051】
本実施例の苗移植機は、パワーステアリングと苗植付部4の昇降用の油圧シリンダ、油圧式無段変速装置(HST)23を作動させる油圧回路を有する図10に示す油圧回路構成を備えている。
【0052】
従来構造の油圧回路では、低温時、オイルクーラの圧力損失によってHST23のTポート背圧が上昇し、HST23のオイルシールのリップがめくれ、作動油がHSTから流出する不具合が生じることがあった。
【0053】
そこで図10の油圧回路図に示すように、HST23からオイルタンク(ミッションケース)12への作動油回収ライン84にオイルクーラ80とチェックバルブ81を直列に設ける。こうして低温時には作動油の流動性が低いのでチェックバルブ81の耐圧力に負けるため、HST23からオイルタンク(ミッションケース)12への作動油回収ライン84を作動油が通過できず、前記作動油回収ライン84を流れる作動油はHST23に戻り、従来のように作動油がHST23から流出する不具合が生じるおそれはない。
【0054】
上記により、作業時間にかかわらずブレーキペダル(図示せず)を踏み込むと、踏み込み量に対応するペダル荷重が感じられるようになるので、作業者はブレーキペダルの踏み込み量を体感的に捉えることができ、操作性が向上する。
また、ブレーキペダルを踏み込んで油圧無段変速装置23を停止させると、発電ブレーキが油圧シリンダに確実に伝達されるため、停止時に機体が揺れることが防止され、快適な機体の停止動作を行える。
【0055】
また、図11のフローチャートと図12の制御ブロック図に示すように、本実施例の苗移植機では、エンジン20の安全装置としてエンジン20使用中のエンジンオイルの温度、ラジエータの水温が所定温度以上になっていることが検知されたら、エンジン20をアイドリングにする。
【0056】
エンジン20にエンジン回転数調節モータ20aを設け、エンジン20の回転数を制御装置100を介して調節可能に構成し、エンジンオイルを貯留するオイルタンク(ミッションケース)12に油温を検知するオイルタンク温度センサ82aを設けると共に、冷却水を貯留するラジエータ(図示せず)に水温を検知するラジエータ温度センサ83を設ける。
【0057】
そして、圃場を走行する際にかかる走行負荷や、苗植付部4等の作動によりエンジン20が平常時よりも高い熱を発し、エンジンオイルや冷却水が許容範囲を越える温度まで熱されたことをオイルタンク温度センサ82aまたはラジエータ温度センサ83のいずれか一方、あるいは両方の温度センサ82a,83が検知すると、制御装置100がエンジン回転数調節モータ20aにエンジン20の回転数をアイドリング回転まで低下させる信号を発し、信号を受けたエンジン回転数調節モータ20aが駆動することにより、エンジン20の回転を強制的に低下させて異常な過熱状態を終了させる。
【0058】
この構成により、エンジンオイルや冷却水が過熱されて蒸発し、過熱によるエンジン20の焼きつきの発生を抑えることができるので、過負荷がかかる作業を行ってもエンジン20が破損しにくくなり、駆動系の耐久性が向上する。
【0059】
また、過熱状態になるとエンジン20の回転数を下げてアイドリング回転数にすることにより、傾斜地や路上で止まってしまうことがないため、傾斜地を滑り降りたり、路上で身動きが取れなくなることが防止され、安全な位置まで移動してから過熱の原因を調べることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の苗移植機は、田植機に限らず、野菜苗などのその他の苗を植え付ける苗移植機として利用可能性がある。
【符号の説明】
【0061】
1 施肥装置付き乗用型田植機 2 走行車体
3 昇降リンク装置 4 苗植付部
5 粉粒体繰出し装置(施肥装置) 10 前輪
11 後輪 12 オイルタンク(ミッションケース)
13 前輪ファイナルケース 15 メインフレーム
18 後輪ギアケース 20 エンジン
20a エンジン回転数調節モータ
21 ベルト伝動装置 23 油圧無段変速装置(HST)
25 植付クラッチケース 26 植付伝動軸
27(27a,27b) ロータ(第1ロータ,第2ロータ)
28 施肥伝動機構 30 エンジンカバー
31 座席 32 フロントカバー
34 ハンドル 35 フロアステップ
36 リヤステップ
38a,38b,38c 第1、第2、第3予備苗載せ台
39a,39b,39c 第1、第2、第3移動リンク部材
40 上リンク 41 下リンク
42 リンクベースフレーム 43 縦リンク
44 連結軸 46 昇降油圧式シリンダ
50 伝動ケース 51 苗タンク(苗載せ台)
51a 苗取出口 51c 苗受板(前板)
51e 風孔部 52 苗植付装置
53 ブロア用電動モータ 54 苗送り装置
54a 苗送りベルト 54aa 搬送突起(コブ)
54ab 窪み 54ac 裏側突起(コブ)
55 センターフロート 56 サイドフロート
57 苗案内部材(苗ガイド) 57a 回転体
57b 苗案内用の無端ベルト 58 ブロア
59 エアチャンバ 60 肥料ホッパ
61 繰出部 62 施肥ホース
65 支持枠体 65a 支持ローラ
66 切替駆動装置 68 支持板
71 リンクアーム 71a、73 ギア
72 補助苗載せ台 75 線引きマーカ
76 作溝体 77 駆動モータ
80 オイルクーラ 81 チェックバルブ
82a オイルタンク温度センサ
83 ラジエータ温度センサ 84 作動油回収ライン
100 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)上にエンジン(20)を配置し、走行車体(2)の後部に苗を積載する苗タンク(51)と、該苗タンク(51)に積載された苗を下方に送る苗送り装置(54)を設け、苗送り装置(54)で送られてきた苗を受け止めるために苗タンク(51)の下端部に苗受板(51c)を設け、苗送り装置(54)で送られてきた苗を取って圃場に植え付ける苗植付装置(52)を苗タンク(51)の後部に配置し、苗植付装置(52)に移された苗を案内する苗案内部材(57)を前記苗受板(51c)に設けた構成からなる苗植付部(4)を設けた苗移植機において、
苗タンク(51)に風孔部(51e)を形成し、
苗送り装置(54)を苗送り無端帯(54a)を有する構成とし、
苗案内部材(57)を回転体(57a)を有する構成とした
ことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
苗受板(51c)の下部に支持板(68)を取り付け、該支持板(68)に上下一対の回転体(57a)を設け、該上下一対の回転体(57a)に苗案内無端帯(57b)を巻回して苗案内部材(57)を構成し、該苗案内部材(57)は苗が接触すると回転する構成とした
ことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記風孔部(51e)を、苗タンク(51)の上端部から苗送り装置(54)の上方に亘って左右方向に細長い形状で一または複数個形成し、
苗タンク(51)の上端部から苗送り装置(54)の上方に亘って上下方向に細長い突起体(51f)を設けた
ことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項4】
苗送り装置(54)の苗送り無端帯(54a)の表面に、該苗送り無端帯(54a)の厚みよりも厚い搬送突起(54aa)を等間隔に複数形成し、
該搬送突起(54aa)の基部側の表面又は裏面側の苗送り無端帯(54a)に窪み(54ab)を形成した
ことを特徴とする請求項1または3記載の苗移植機。
【請求項5】
苗送り装置(54)の苗送り無端帯(54a)の表面に、該苗送り無端帯(54a)の厚みよりも厚い搬送突起(54aa)を等間隔に複数形成し、
該搬送突起(54aa)を形成した部分の裏側に裏側突起(54ac)を形成した
ことを特徴とする請求項1または3記載の苗移植機。
【請求項6】
走行車体(2)に作業者が搭乗する操縦座席(31)を設け、
苗タンク(51)の左右両側にリンクアーム(71)を設け、
左右どちらか一側のリンクアーム(71)の基部に回転体(71a)を設け、
該回転体(71a)に噛合する回転体(73)と回動駆動装置(77)を前記苗タンク(51)の側面に設け、
左右のリンクアーム(71)の端部に苗を積載可能な前後方向に長い補助苗載せ部材(72)を設け、
回動駆動装置(77)を作動させて回転体(73)を約180度回転させるとリンクアーム(71)と補助苗載せ部材(72)が操縦座席(31)よりも走行車体(2)の前側に位置し、
回動駆動装置(77)を作動させて回転体(73)を約90度回転させると補助苗載せ部材(72)が操縦座席(31)の上方に位置する構成とした
ことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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