説明

複合シート、その製造方法、及びその複合シートを用いた非水電解質二次電池

【課題】 放電容量を維持しつつ安全性を向上させた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン電池をはじめとする非水電解質二次電池のセパレータ40として、ガラス繊維不織布42とポリエチレンの微多孔膜41とを備えた複合シートを用いる。この複合シートのガラス繊維不織布42に、非水電解質により湿潤する樹脂であるポリフッ化ビニリデンを付着させるとともに、微多孔膜41とガラス繊維不織布42とを接着する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は複合シート、その製造方法、及びその複合シートを用いた非水電解質二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】リチウムイオン電池などの非水電解質二次電池には、セパレータとして熱可塑性樹脂の微多孔膜が用いられている。この微多孔膜は、電池の温度が上昇した場合に、その微多孔の閉塞によって電流を停止し、その電流による電池の温度上昇を防止するシャットダウン機能を備えている。ところが、熱により微多孔膜が収縮して正極と負極とが短絡を起こす場合があった。
【0003】そこで、微多孔膜の収縮による短絡を防止すべく、熱により収縮しないガラス繊維を含む層を熱可塑性樹脂の微多孔膜と併用する技術が、特開平9−161757号公報に開示されている。
【0004】また、非水電解質二次電池に用いられる非水電解質は、有機溶媒に電解質塩を溶解したものであり、電池外部に漏出等すると燃焼のおそれがあるため、その量を少なくして、安全性を向上させる技術が知られている。
【0005】従って、上記2つの技術の組み合わせによって、電池をさらに安全にできることが予想される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、熱可塑性樹脂の微多孔膜とガラス繊維を含む層とを積層したセパレータを用いた電池において非水電解質の量を減少させた場合、放電容量の低下が著しいという問題点があった。
【0007】本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、放電容量を減少させることなく安全性を向上させることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために請求項1に係る複合シートは、非水電解質二次電池のセパレータとして用いられる複合シートであって、ガラス繊維を含む層と熱可塑性樹脂の微多孔膜とを備え、前記ガラス繊維の一部に非水電解質によって湿潤する樹脂が付着していることを特徴とする。
【0009】請求項2の発明は、前記微多孔膜が前記ガラス繊維を含む層と前記非水電解質によって湿潤する樹脂で接着されてなることを特徴とする。
【0010】請求項3の発明に係る非水電解質二次電池のセパレータとして用いられる複合シートの製造方法は、ガラス繊維を含む層と熱可塑性樹脂の微多孔膜とを積層して積層体とし、次にこの積層体を非水電解質によって湿潤する樹脂の溶液に浸漬し、その後乾燥することを特徴とする。
【0011】請求項4の発明に係る非水電解質二次電池は、正極板と負極板との間に、請求項1または請求項2記載の複合シートからなるセパレータを備えることを特徴とする。
【0012】
【発明の作用およびその効果】本発明者らが鋭意研究したところ、ガラス繊維を含む層を備えたセパレータの非水電解質二次電池で非水電解質量を減少させていくと、ガラス繊維の表面の濡れ性が低いため、非水電解質がセパレータ内部に十分保持されなくなり、放電容量が低下することがわかった。
【0013】そこで、請求項1及び請求項4の発明では、非水電解質二次電池のセパレータとして用いられる複合シートは、ガラス繊維の一部に非水電解質によって湿潤する樹脂が付着している構成とした。これにより、ガラス繊維の表面の非水電解質に対する濡れ性が向上するから非水電解質の量を減少させた場合であっても、セパレータは、非水電解質を十分に保持でき、非水電解質二次電池の容量を維持できる。従って、非水電解質二次電池の放電特性を維持しつつ、電池内部に含まれる非水電解質の量を減少させることができ、非水電解質二次電池の安全性を向上させることができる。
【0014】請求項2及び請求項4の発明では、微多孔膜がガラス繊維を含む層と樹脂で接着されている構成とした。この構成では、微多孔膜がガラス繊維を含む層と接着されることにより固定されているから、電池の温度が上昇した場合であっても、微多孔膜の収縮がより抑制される。よって、シャットダウン機能を発揮できるセパレータの有効面積を十分に確保することができ安全性をさらに向上できる。
【0015】請求項3の発明によれば、樹脂の溶液に積層体を浸漬する簡単な操作により、ガラス繊維の一部に樹脂を付着させることができるとともに、微多孔膜とガラス繊維を含む層とを接着できるから複合シートの製造が容易となる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明にかかる複合シート及びそれを用いた非水電解質二次電池を具体化した一実施形態について、図1ないし図3を参照しつつ説明する。
【0017】図1に発電要素10の一例を示す。本発明の非水電解質二次電池は、略直方体状の発電要素10が、図示しない非水電解質と共に金属などにより形成された図示しない角型の電池容器に収納されてなる。発電要素10は平板状の負極板30と、同じく平板状の正極板20とを、複合シート43からなるセパレータ40を介して積層することにより構成されている。
【0018】図2に、発電要素10の断面図を示す。正極板20は、アルミニウムなどの金属箔からなる正極集電体21の両面に、リチウムイオンを吸蔵・放出する物質を構成要素とする正極合剤層22が形成されてなる。一方、負極板30は、銅などの金属箔からなる負極集電体31の両面に、リチウムイオンを吸蔵・放出する物質を構成要素とする負極合剤層32が形成されてなる。正極板20及び負極板30の一端にはそれぞれ、ニッケルなどの金属片からなる正極リード端子23及び負極リード端子33が溶接されている。セパレータ40は複合シート43からなり、このセパレータ40は、正極板20及び負極板30より、わずかに大きく形成されている。
【0019】次に複合シート43について詳細に説明する。複合シート43は、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなる微多孔膜41とガラス繊維を含む層であるガラス繊維不織布42とが積層されてなる。そして、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの非水電解質によって湿潤する樹脂が、ガラス繊維不織布42を構成するガラス繊維の一部に付着しているとともに、そのPVdFにより微多孔膜41がガラス繊維不織布42に接着されている。これにより、微多孔膜41がガラス繊維不織布42に対してずれることが無いから、複合シート43の取り扱いが容易となる。
【0020】複合シート43は、以下のように製造することができる。図3にその製造装置の概略的側面図を示す。リール1には微多孔膜41が巻回され、リール2にはガラス繊維不織布42が巻回されている。そのリール1、2から供給された微多孔膜41及びガラス繊維不織布42を、ロールプレス3で一体にプレスして積層体を作製する。この積層体を非水電解質によって湿潤する樹脂溶液槽4に浸漬し、樹脂溶液を付着させる。樹脂溶液が付着した積層体をロールプレス5に通過させて、過剰な樹脂溶液が除かれる。その後、その積層体を乾燥炉6内に走行させ、溶媒を蒸発させて複合シート43とする。このようにして複合シート43を作製することにより、ガラス繊維の一部に樹脂を付着させることができるとともに、微多孔膜41とガラス繊維不織布42とを接着できるから、複合シート43の製造が容易となる。この複合シート43は、リール7で巻き取った後、必要な大きさに切断されて、セパレータ40が作製される。
【0021】ここで、複合シート43の厚さ、すなわち微多孔膜41の厚さとガラス繊維不織布42の厚さとの和は、70μm以下が好ましく、より好ましくは65μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。これにより、発電要素10がコンパクトになって、発電要素10の体積あたりの放電容量が向上するからである。
【0022】また、複合シート43の厚さに対する、ガラス繊維不織布42の厚さの割合は、10%〜95%が好ましく、より好ましくは30%〜80%、さらに好ましくは40%〜70%である。これにより、微多孔膜41のシャットダウン特性と、ガラス繊維不織布42による非水電解質の保持特性との双方が良好となるからである。
【0023】微多孔膜41としては、大きなイオン透過度を備え、所定の機械的強度を備え、絶縁性を備えた熱可塑性樹脂の薄膜が用いられる。微多孔膜41を構成する熱可塑性樹脂としては、耐有機溶剤性と疎水性から、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系の樹脂を用いることができる。微多孔膜41の孔径としては、一般に電池用として用いられる範囲が用いられ、例えば、0.01μm〜10μmのものが用いられる。また、微多孔膜41の厚みとしては、一般に電池用として用いられる範囲が用いられ、例えば、5μm〜300μmのものが用いられる。
【0024】本発明のガラス繊維を含む層としては、ガラス繊維の不織布または織物を用いることができ、例えば、ガラス繊維のフィラメントを束ねた糸を織った織物、糸を格子状に組み合わせ、織らずに接着剤で結合したクロス状の組布及び不織布が用いられる。ここで用いられるガラス繊維の繊維径は、10μm以下が好ましく、特に0.5μm〜10μmが好ましい。また、ガラス繊維のフィラメントを束ねたガラス糸は、外径0.01mm〜0.1mmを用いることが好ましい。
【0025】ガラス繊維の織物としては、例えば、ガラス糸を平織、あや織、トルコ朱子織、模写織、からみ織などの織り方で織り上げた織物を利用することができる。これらの織物、または不織布の厚さは、25μm〜100μmが好ましく、目付けは10g/m〜100g/mが好ましい。また、厚さを25μmとしたときの相対目付けを25g/m以下にすることにより、ガラス繊維を含む層の平面空隙が多くなり、適度な凹凸ができるから、複合シート43の接着強度を高くすることができる。これらの理由により、平織、模写織、からみ織のガラス繊維の織物が好ましい。
【0026】また、これらガラス繊維の原料としては、優れた耐アルカリ性、耐酸性及び耐水性を有する耐食性材料が好ましい。例えばモル%で、SiOが63〜72%、TiOが5〜9%、ZrOが28〜10.5%、TiO+ZrOが13〜17%、CaOが1〜5%、NaOが8〜19%、LiOが0〜4%、KOが0.5〜5%、NaO+LiO+KOが10〜20%の組成を有し、BaO、B、Fを含有しない組成のものが好ましい。
【0027】本発明の非水電解質としては、非水電解液又は固体電解質のいずれも使用することができる。固体電解質としては、公知の固体電解質を用いることができ、例えば無機固体電解質、ポリマー固体電解質を用いることができる。
【0028】非水電解液は、周知のものを使用できる。例えばエチレンカーボネート(EC)などの環状炭酸エステル系、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状炭酸エステル系などの非水溶媒に六フッ化りん酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩を溶解したものが挙げられる。
【0029】非水電解質によって湿潤する樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂またはゴム弾性を有する樹脂を用いることができ、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ポリエチレンオキサイドを単独で、あるいは混合して用いることができる。
【0030】非水電解質によって湿潤する樹脂を溶解する溶媒は、用いる樹脂によっても異なるが、その樹脂を溶解するものであれば特に限定されない。例えば、PVdFに対してN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることができる。
【0031】非水電解質には、セパレータ40に対する濡れ性を向上させて非水電解質の保持量を向上させるために、界面活性効果を有する化合物を添加することができる。界面活性を有する化合物としては、電池内部の酸化還元雰囲気に対する安定性の観点から、フッ素化アルキルエステル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンが好ましい。
【0032】ポリエチレングリコールジメチルエーテルを非水電解質に添加する割合は、0.5重量%〜7重量%が好ましく、より好ましくは1重量%〜5重量%、さらに好ましくは2重量%〜4重量%である。ポリエチレングリコールジメチルエーテルを添加する割合が0.5重量%以上であれば、界面活性効果によってガラス繊維不織布42の濡れ性が向上して出力特性がさらに向上するためである。また、その添加する割合が7重量%を超える場合には、非水電解質の粘度が上昇し、リチウムイオンの移動を妨げるため好ましくない。
【0033】フッ素化アルキルエステルは、フッ素置換されたアルキル鎖とエステル結合を備えていれば特に限定されない。また、非水電解質に対してフッ素化アルキルエステルを添加する割合は、ポリエチレングリコールジメチルエーテルと同様の理由により、0.01重量%〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.1重量%〜4重量%、さらに好ましくは0.5重量%〜2重量%である。
【0034】また、非水電解質に対してγ−ブチロラクトンを添加する割合は、ポリエチレングリコールジメチルエーテルと同様の理由により、非水電解質に対して、1重量%〜10重量%が好ましく、より好ましくは3重量%〜8重量%、さらに好ましくは5重量%〜7重量%である。
【0035】以下、本実施形態の効果について説明する。本実施形態にかかる非水電解質二次電池に用いられているセパレータ40は、PVdF溶液に浸漬し、乾燥させることによって製造された複合シート43からなる。このため、セパレータ40に含まれるガラス繊維の一部には、非水電解質によって湿潤する樹脂であるPVdFが付着しており、セパレータ40の濡れ性が向上する。従って、電池全体の非水電解質の量を減らした場合であっても、セパレータ40に含まれる非水電解質の保持量が維持され、電極間のリチウムイオンの移動が妨げられないから、電池の放電容量を維持できる。ここで、電池全体での非水電解質の量を減らすことにより、電池の安全性が向上するから、電池の放電容量を維持しつつ、電池の安全性を向上させることができる。
【0036】また、本実施形態では、微多孔膜41がガラス繊維不織布42と非水電解質によって湿潤する樹脂で接着されている。ガラス繊維不織布42によって微多孔膜41が固定されているから、電池の温度が上昇した場合であっても、微多孔膜の収縮が抑制される。よって、シャットダウン機能を発揮できるセパレータの有効面積を十分に確保することができ、安全性をさらに向上できる。
【0037】<他の実施形態>本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0038】(1)上記実施形態では微多孔膜41を非水電解質によって湿潤する樹脂によりガラス繊維不織布42に接着して複合シート43が構成されているが、本発明によれば微多孔膜41は必ずしもガラス繊維不織布42に接着されている必要はない。非水電解質によって湿潤する樹脂が付着したガラス繊維不織布42を微多孔膜41と積層した複合シート43であってもよい。
【0039】(2)上記実施形態ではセパレータ40を介して平板型電極板を積層するスタック型の発電要素10を備えた非水電解質二次電池について示したが、発電要素10の形状は、これに限定されない。発電要素10の形状として、例えば、断面が円形状、長円形状または非円形状である巻回型、あるいは、セパレータを介してシート状電極板を折りたたんで積層する型など、あらゆる形状であってもよい。
【0040】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
1.複合シート及び非水電解質二次電池の作製<実施例1>(複合シートの作製)複合シート43を図3の概略的側面図に示す装置で製造した。複合シート43にはポリエチレン製の微多孔膜41を用いた。微多孔膜41の厚さは20μm、透気度は330sec/100ccである。また、ガラス繊維不織布42としては、フィラメント径が5μm、糸外径が0.06mm、目付けが25g/mであり、厚さが38μmのものを用いた。なお、実施例において、膜の厚さは走査型電子顕微鏡により膜の断面を観察することにより測定し、透気度はJIS P8117に準処して測定した。
【0041】非水電解質によって湿潤する樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。PVdFは、6重量%のNMP溶液として用いた。そして、複合シート43を乾燥させる乾燥炉6の温度を100℃とし、複合シート43に対するPVdFの付着量は3.5g/mとした。製造した複合シート43を切断して、セパレータ40とした。
【0042】(正極板の作製)正極板20は、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体21の両面に、正極合剤ペーストを塗付し、プレスし、乾燥することにより正極合剤層22を形成して作製した。正極合剤ペーストは、正極活物質としてLiCoOを94重量%、導電剤としてグラファイトを4重量%、結着剤としてPVdFを2重量%及び分散媒としてNMPを混合して調製した。なお、正極板20全体の厚さは177μmであった。
【0043】(負極板の作製)負極板30は、厚さ14μmの銅箔からなる負極集電体31の両面に負極合剤ペーストを塗付し、正極板20と同様に作製した。負極合剤ペーストは、負極活物質としてグラファイト92重量%、結着剤としてPVdFを8重量%及び分散媒としてNMPを混合して調製した。負極板30の厚さは正極板20と同じとした。
【0044】(非水電解質の調製)非水電解質は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比1:1で混合した溶媒に、LiPFを1mol/l溶解したものを用いた。
【0045】(電池の作製)正極板20を40枚、負極板30を41枚、複合シートであるセパレータ40を80枚積層して発電要素10を作製した。この発電要素10をアルミニウム製の角筒型の電池容器に収納して非水電解質二次電池を作製した。非水電解質は電池容器の内部空間体積に対する割合が55、60、65、70、75%になるようにして、真空注液により電池内部に注入した。ここで、電池容器の内部空間体積に対する、注入した非水電解質体積の割合を注液率とした。なお、この電池の設計放電容量は、10Ahとした。
【0046】<比較例1>セパレータ40のガラス繊維不織布42にPVdFが付着しておらず、ガラス繊維不織布42が微多孔膜41と接着されていない他は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。なお、本比較例では、ガラス繊維不織布42と微多孔膜41とをプレスすることのみによって作製したセパレータ40を用いた。
【0047】<実施例2>セパレータ40のガラス繊維不織布42にのみPVdFが付着し、微多孔膜41がガラス繊維不織布42と接着されていない他は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。なお、本実施例では、ガラス繊維不織布42のみをPVdF溶液に浸漬、乾燥し、この乾燥したガラス繊維不織布42に微多孔膜41を積層することにより作製したセパレータ40を用いた。
【0048】<比較例2>実施例1と、微多孔膜41をガラス繊維不織布42に接着する樹脂のみ異なるセパレータ40を用いた非水電解質二次電池を作製した。比較例2では、複合シート43を作製する際に、PVdFのNMP溶液に代えてカルボキシメチルセルロース(CMC)の4重量%水溶液を用いた。
【0049】<実施例3〜実施例6>実施例1とセパレータ40に付着する樹脂の量が異なる非水電解質二次電池を作製した。なお、実施例3ないし実施例6において、セパレータ40に含まれる樹脂の量を表1のようにした。
【0050】2.試験(1)容量確認試験実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例2における注液率の異なる非水電解質二次電池電池について、20℃の温度雰囲気下で容量確認試験を行った。各電池は2A・4.2Vで定電流定電圧充電により充電開始から3時間充電した後、一旦2Aの定電流で2.75Vまで放電を行った。その後再び、2A・4.2Vで定電流定電圧充電により充電開始から3時間充電した。再充電した電池を、2Aの定電流により2.75Vまで放電を行い、それぞれの注液率における放電容量を測定した。
【0051】(2)オーブン試験実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例2における非水電解質二次電池についてオーブン試験を行った。オーブン試験では、注液率が55%及び70%の電池について試験を行った。
【0052】まず、作製した各電池を2A・4.2Vで定電流定電圧充電により充電開始から8時間充電した。そして、充電した電池をオーブン中に設置し、5℃/分の速度で100℃〜150℃の間の特定の温度まで昇温して、それぞれの電池をその特定の温度で90分間保持した。90分経過後、オーブンから電池を取り出し、電池が漏液、発煙するなど異常な状態に至ったか否かについて観察した。異なる温度のオーブンに設置した電池の中で、異常な状態に至らなかった電池の置かれたオーブンの温度のうち最も高い温度を、その電池の耐熱温度とした。
【0053】(3)過充電試験実施例1、実施例2及び比較例1における非水電解質二次電池について過充電試験を行った。過充電試験は電池の注液率が70%の電池について行った。各電池は2A・4.2Vで定電流定電圧充電により充電開始から8時間充電した後、充電した電池を一旦2Aの定電流で2.75Vまで放電を行った。その後さらに、2A・12Vで12.5時間定電流定電圧充電を行い、電池が漏液、発煙するなど異常な状態に至るか否かについて観察した。
【0054】3.結果(1)容量確認試験実施例1〜実施例6、比較例1、及び比較例2について、注液率の異なる電池の放電容量を測定した。注液率55%および注液率70%の電池の放電容量を表1に示す。
【0055】
【表1】


【0056】注液率70%において、試験を行った全ての電池の放電容量が設計放電容量と同程度の値となった。一方、注液率55%において、比較例1及び比較例2の電池の放電容量は設計放電容量より低下し、実施例1〜実施例6の電池の放電容量は設計放電容量を維持していた。これは、実施例1〜実施例6の電池にはガラス繊維に非水電解質によって湿潤しやすい樹脂であるPVdFが付着しているため、ガラス繊維不織布42の非水電解質保持量が向上し、非水電解質が不足することによる放電容量の減少が起きにくいためであると考えられる。
【0057】ここで、その一例として実施例1及び比較例1の電池の放電容量を図4に示す。比較例1の電池は注液率60%以上において設計放電容量と同程度の放電容量が得られているが、注液率60%未満ではその放電容量の低下が確認された。一方、実施例1の電池は、注液率55%以上75%までにわたって、放電容量が設計放電容量と同程度であった。
【0058】従って、PVdFが付着したガラス繊維不織布42を用いた複合シート43をセパレータ40として用いることにより、非水電解質を減少させた場合であっても非水電解質二次電池の放電容量を維持することができた。
【0059】また、比較例2の電池は、樹脂がセパレータ40に付着していたにもかかわらず、実施例1〜実施例6の電池より注液率55%における放電容量が劣っていた。その原因として、比較例2で用いられたカルボキシメチルセルロースは、非水電解質によって湿潤しないためであると考えられる。
【0060】次に、実施例1及び実施例3〜実施例6における注液率55%の電池について比較する。これらの電池は、セパレータ40に付着したPVdFの量において異なっている。表1に示されるように、実施例1及び実施例3〜実施例6の電池の放電容量は全て、比較例1の電池の容量より大きくなっていた。
【0061】(2)オーブン試験実施例1〜実施例6、比較例1、及び比較例2における非水電解質二次電池のオーブン試験の結果を表2に示す。
【0062】
【表2】


【0063】全ての実施例及び全ての比較例において、注液率70%の電池より注液率55%の電池の耐熱温度が高かった。これは、注液率、すなわち電池容器の内部空間体積に対する非水電解質の割合が小さい場合、温度の上昇による電池内圧の上昇が生じ難いため、漏液などに至る可能性が少ないためであると考えられる。
【0064】次に、注液率70%の電池において実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2おける非水電解質二次電池のオーブン試験の結果を比較する。実施例1の電池の耐熱温度が最も高く130℃であり、実施例2の電池では、耐熱温度が120℃であった。一方、比較例1〜比較例2の電池では耐熱温度が100〜110℃であった。
【0065】これは、実施例1、2の電池はガラス繊維にPVdFが付着しているため、非水電解質のガラス繊維不織布42に対する濡れ性が向上しており、温度が上昇した場合であっても、ガラス繊維が非水電解質を保持し、非水電解質が漏出しにくいためと考えられる。
【0066】(3)過充電試験過充電試験の結果を表3に示す。表3では、電池が漏液、発煙するなどの異常な状態に至ったものを△とし、異常の見られなかった電池を○とした。ガラス繊維不織布42と微多孔膜41とを接着した実施例1は液漏れなどが発生しなかった。これは、接着により熱収縮しないガラス繊維不織布42に微多孔膜41が固定されるから、過充電により温度が上昇した場合でも、その収縮が防止されて、シャットダウン機能を発揮するセパレータの有効面積が十分に確保することができるためと考えられる。
【0067】
【表3】


【0068】以上の結果から明らかなように、本発明によれば、非水電解質二次電池の放電容量を減少させることなく安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の発電要素を示す斜視図
【図2】図1のII−II線で切断した断面図
【図3】非水電解質二次電池の複合シートを製造する装置の概略的側面図
【図4】非水電解質二次電池の注液率と放電容量との関係を表すグラフ
【符号の説明】
40…複合シート
41…ポリエチレン微多孔膜
42…ガラス繊維不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非水電解質二次電池のセパレータとして用いられる複合シートであって、ガラス繊維を含む層と熱可塑性樹脂の微多孔膜とを備え、前記ガラス繊維の一部に非水電解質によって湿潤する樹脂が付着していることを特徴とする複合シート。
【請求項2】 前記微多孔膜が前記ガラス繊維を含む層と前記非水電解質によって湿潤する樹脂で接着されてなることを特徴とする請求項1記載の複合シート。
【請求項3】 非水電解質二次電池のセパレータとして用いられる複合シートの製造方法であって、ガラス繊維を含む層と熱可塑性樹脂の微多孔膜とを積層して積層体とし、次にこの積層体を非水電解質によって湿潤する樹脂の溶液に浸漬し、その後乾燥することを特徴とする複合シートの製造方法。
【請求項4】 正極板と負極板との間に、請求項1または請求項2記載の複合シートからなるセパレータを備えることを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2003−323878(P2003−323878A)
【公開日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−127155(P2002−127155)
【出願日】平成14年4月26日(2002.4.26)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【Fターム(参考)】