説明

複式筆記具

【課題】 クリップと作動子の固定構造が簡単であって容易に固定することができ、がたつくことがなくて確実に固定されるスライド式の複式筆記具を提供する。
【解決手段】 クリップ6の尾端部に第1空所61と第2空所62を形成し、第1空所と第2空所の間のクリップ裏面に係止凹63を形成する。第2空所側壁の先端側には縦リブ64を形成する。クリップ固定用作動子5の接続部51に係止突部52を形成し、接続部の先端に両側面に縦溝54を形成した係止突出部53を形成する。クリップ固定用作動子の係止突部および係止突出部をクリップの第1空所と第2空所にそれぞれ嵌め込み、クリップを先端側にスライドさせ、係止突部をクリップの係止凹部に係合し、係止突出部の縦溝にクリップの縦リブを嵌め込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内に複数の筆記体が収容され、筆記体のペン体を選択的に突出させて筆記する複式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
尾端に作動子が接続された複数本の筆記体が軸筒内に前後動可能に収容され、軸筒の窓孔から径方向に突出した作動子の操作部をスライドすると筆記体のペン体が軸筒の先端開口から突出するスライド式の複式筆記具は、簡単な構造で軸筒内に3本以上のボールペンやシャープペンシルの筆記体を収容することができ、また簡単な操作で筆記体のペン体を選択的に軸筒の先端開口から突出することができるので数多く実用化されている。
【特許文献1】特開平11−20380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかるスライド式の複式筆記具は、筆記体の尾端に接続された作動子の操作部を軸筒の窓孔から径方向に突出させるために、収容した筆記体の数と等しい窓孔を軸筒の円周面に設ける必要があるが、クリップが軸筒に固定されたものにおいては、クリップの部分を除いた軸筒の円周面に窓孔を設けることになる。しかし最近ではボールペンの多色化が進み、5本や6本の筆記体を収容したものも実用化されているが、筆記体の数が多くなると窓孔を設けるための中心角度が小さくなって隣接する作動子の操作部が接近するので、操作部をスライドするときに、指先が他の操作部に接触して操作しにくくなる。このため、1の作動子にクリップを固定してクリップに作動子の操作部の機能を持たせ、軸筒の円周面を有効に利用する複式筆記具が実用化されている。
【0004】
クリップを作動子に固定する複式筆記具においては、その固定構造が簡単であって容易に固定することができ、かつ一旦固定するとがたつくことがなくて確実に固定されることが必要であるが、これらの要件を十分に満たすものはまだ実用化されていないのが実情である。そこで本発明は、これらの要件を十分に満たすスライド式の複式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、本発明は、尾端に作動子が接続された複数本の筆記体が軸筒内に前後動可能に収容され、これらの作動子の1つにはクリップが固定され、軸筒の窓孔から径方向に突出した作動子の操作部ないしクリップをスライドすると筆記体のペン体が軸筒の先端開口から選択的に突出して筆記可能になる複式筆記具において、クリップの尾端部に第1空所を形成するとともに、この第1空所の先端側に第2空所を形成し、第1空所と第2空所の間のクリップ裏面に係止凹部を形成し、第2空所側壁の先端側には一対の対向する縦リブを形成し、クリップ固定用作動子の軸筒の窓孔から突出する接続部の尾端に係止突部を形成するとともに、この接続部の先端には、両側面に縦溝を形成した係止突出部を形成し、クリップ固定用作動子の係止突部および係止突出部をクリップの第1空所と第2空所にそれぞれ嵌め込み、クリップ固定用作動子に対してクリップを先端側にスライドさせると、係止突部がクリップの係止凹部に係合するとともに、係止突出部の縦溝にクリップの縦リブが嵌まり込んでクリップとクリップ固定用作動子が固定されるようにする。
【発明の効果】
【0006】
クリップをクリップ固定用作動子に固定するので、クリップがこの作動子の操作部の機能も持ち、軸筒の円周面を有効に利用できて5〜6本の筆記体を軸筒に収容できるが、クリップ固定用作動子の係止突部および係止突出部をクリップの第1空所と第2空所にそれぞれ嵌め込み、クリップ固定用作動子に対してクリップを先端側にスライドさせるのみで固定できるので構造が簡単であるとともに固定作業が極めて容易である。そして、クリップ固定用作動子の係止突部がクリップの係止凹部に係合するとともに、係止突出部の縦溝にクリップの縦リブが嵌まり込んでいるので、がたつくことがなく確実に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は1の作動子にクリップを固定したスライド式の複式筆記具を示すが、図1において、軸筒1の先端には先口2が螺着され、尾端には尾栓7が嵌着されている。また、軸筒1の尾端部には軸筒1内に収容された筆記体3の数と同数の窓孔11が同一円周上に等間隔で形成されている。筆記体3は例えば6本のボールペンレフィールであり、リターンスプリング8にて尾端側に弾発された状態で同心円状に前後動可能に収容されている。
【0008】
筆記体3の尾端にはそれぞれ作動子4が接続されており、作動子4の1つがクリップ固定用作動子5である。作動子4の背面には作動部42が形成され、正面には操作部41が形成されており、操作部41が軸筒1の窓孔11から径方向に突出している。また、クリップ固定用作動子5の背面には作動部42と同じ構造の作動部55が形成されており、正面に形成された接続部51が窓孔11から突出している。そして、その固定構造を後述するが、接続部51にはクリップ6が固定されいる。したがって、クリップ6が作動子4の操作部41と同じ役目をしている。
【0009】
操作部41ないしクリップ6を指先で先端側にスライドさせると筆記体3のペン体31が先口2の先端開口から突出するとともに、作動部42ないし作動部55が軸筒1内の係止段部(図示せず)に係合して筆記可能になる。そして、この状態から他の操作部41ないしクリップ6を指先で先端側にスライドさせると、作動部42ないし作動部55が前進位置にある作動部42ないし作動部55と干渉してこれを径方向に変位させるので、軸筒1の係止段部との係合が解除され、リターンスプリング8の弾発力により先端開口21から突出していたペン体31が先口2内に没入する。以上の作用はスライド式複式筆記具として周知のものである。
【0010】
クリップ固定用作動子5は合成樹脂で成形されており、図2に示すように、その先端の円柱部56が筆記体3の尾端開口に嵌着されて接続される。円柱部56の尾端側には、リターンスプリング8を受けるばね受け部57が形成されている。クリップ固定用作動子5の背面には、前述のとおり、作動部55形成され、正面の突出部分が接続部51である。そして、接続部51の尾端部には係止突起52が形成されている。係止突起52の先端側は傾斜面になっている。また、接続部51の先端に係止突出部53が突設されており、係止突出部53の両側面には縦溝54が形成されている。
【0011】
合成樹脂で成形されたクリップ6の尾端部には、図3に示すように、貫通孔である第1空所61が形成され、第1空所61の先端側に同じく貫通孔である第2空所62が形成されている。そして、第1空所61と第2空所62の間の裏面には係止凹部63が形成されており、第2空所62の両側壁面の先端部には一対の縦リブ64が対向して形成されている。縦リブ64の幅はクリップ固定用作動子5の縦溝54の幅に等して縦リブ64が縦溝54に嵌り込めるようになっており、また、第2空所62の縦リブ64が形成されていない尾端側の部分はクリップ固定用作動子5の係止突出部53が入り込める大きさになっている。なお、第1空所61と第2空所62は貫通孔である必要はなく、クリップ6の裏面から見て有底の凹部であってもよい。
【0012】
図4はクリップ6をクリップ固定用作動子5に固定する操作の説明図であるが、先ず、(A)に示すように、クリップ固定用作動子5の係止突出部53をクリップ6の第2空所62の尾端側に嵌め込み、縦リブ64と縦溝54の位相を合わせる。このとき、係止突起52は第1空所61内に位置している。そして、クリップ6をクリップ固定用作動子5に対してスライドさせると、(B)に示すように、縦リブ64が縦溝54内に入り込み、更に(C)では、クリップ6が僅かに弾性変形して係止突起52が係止凹部63の尾端側の壁に乗り上げ、(D)に示すように、係止突起52が係止凹部63に係合すると組みつけが完了する。このように、組み付け操作は非常に簡単である。
【0013】
図5はクリップ6をクリップ固定用作動子5に固定した状態を示すが、縦リブ64が縦溝54に嵌り込んで係合して係止突出部53の先端面53aが第2空所62の先端壁62aに当接し、かつ係止凹部63に係合した係止突起52が係止凹部63の尾端壁63aにほぼ当接している。したがって、クリップ6は上下方向にがたつくことがなく、また、縦リブ64が縦溝54に嵌り込んで係合しているので、クリップ6がクリップ固定用作動子5から離間する方向にがたついたり、クリップ固定用作動子5に対して回転することもなく、しっかりと確実に固定することかできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】複式筆記具の一部断面図である。
【図2】(a)はクリップ固定用作動子の平面図、(b)は正面図、(c)はA−A線における断面図である。
【図3】(a)はクリップの正面図、(b)は断面図である。
【図4】クリップと作動子の固定の過程説明図である。
【図5】(a)はクリップと作動子を固定した状態の一部断面図、(b)はB−B線における断面図である。
【符号の説明】
【0015】
1 軸筒
11 窓孔
2 先口
21 先端開口
3 筆記体
31 ペン体
4 作動子
41 操作部
42 作動部
5 クリップ固定用作動子
51 接続部
52 係止突起
53 係止突出部
54 縦溝
55 作動部
6 クリップ
61 第1空所
62 第2空所
63 係止凹部
64 縦リブ
7 尾栓
8 リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尾端に作動子が接続された複数本の筆記体が軸筒内に前後動可能に収容され、これらの作動子の1つにはクリップが固定され、軸筒の窓孔から径方向に突出した作動子の操作部ないしクリップをスライドすると筆記体のペン体が軸筒の先端開口から選択的に突出して筆記可能になる複式筆記具において、
前記クリップの尾端部に第1空所が形成されるとともに、該第1空所の先端側に第2空所が形成され、該第1空所と第2空所の間のクリップ裏面には係止凹部が形成され、第2空所側壁の先端側には一対の対向する縦リブが形成され、
前記クリップ固定用作動子の軸筒の窓孔から突出する接続部の尾端に係止突部が形成されるとともに、該接続部の先端には、両側面に縦溝が形成された係止突出部が形成され、
前記クリップ固定用作動子の係止突部および係止突出部をクリップの第1空所と第2空所にそれぞれ嵌め込み、クリップ固定用作動子に対してクリップを先端側にスライドさせると、該係止突部がクリップの係止凹部に係合するとともに、係止突出部の縦溝にクリップの縦リブが嵌まり込んでクリップとクリップ固定用作動子が固定されることを特徴とする複式筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−276415(P2007−276415A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109376(P2006−109376)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000002314)セーラー万年筆株式会社 (49)
【Fターム(参考)】