説明

触媒コンバータ装置

【課題】排気中の水分に起因する電極部材間の絶縁性の低下を抑制可能な触媒コンバータ装置を得る。
【解決手段】触媒担体14を通電するための電極棒32の周囲に絶縁層34が備えられ、電極棒32がケース筒体28と絶縁される。触媒担体14よりも下流側には、排熱回収器50が備えられ、排気から回収した熱を、循環配管52により絶縁層34に作用させることで、絶縁層34の温度を上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気管に設けられる触媒コンバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関で生じた排気を浄化するために排気管に設けられる触媒コンバータ装置では、たとえば特許文献1に記載されているように、触媒を担持する触媒担体(ハニカム構造体)に通電して昇温させ、エンジン冷間時等であっても高い触媒効果が得られるようにしたものがある。
【0003】
ところで、特許文献1に記載の構造では、ハニカム構造体に通電するための電極棒の表面に絶縁コーティングを施して、絶縁性の劣化を防止している。
【0004】
しかし、排気中の水分(水蒸気)等が絶縁体の表面で結露すると、この水分(液体)によって電極とケースたが短絡されるため、電極間の絶縁性が低下し、触媒担体への給電効率も低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−257058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、排気中の水分に起因する電極部材間の絶縁性の低下を抑制可能な触媒コンバータ装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明では、排気管に取り付けられて内部を排気が流れるケース筒体と、前記ケース筒体に設けられ、エンジンから排出される排気を浄化するための触媒を担持すると共に通電によって加熱される触媒担体と、前記ケース筒体を貫通して前記触媒担体に接触され前記触媒担体に通電するための一対の電極部材と、前記電極部材の少なくとも一方と前記ケース筒体との間に配置され電極部材をケース筒体から絶縁する絶縁部材と、前記ケース筒体又は前記排気管において前記触媒担体よりも下流側に設けられ、排気の熱を回収して前記絶縁部材に供給する排熱回収装置と、を有する。
【0008】
この触媒コンバータ装置では、触媒担体が電極部材を通じて通電され加熱昇温されると、担持された触媒による浄化効果をより早く発揮させることができる。また、電極部材の少なくとも一方とケース筒体の間には絶縁部材が配置されており、この電極部材がケース筒体から絶縁されている。このため、2つの電極部材がケース筒体を介して短絡されることが防止され、触媒担体へ効率的に通電できる。
【0009】
排気中には、内燃機関の燃焼で生じた蒸気(気体の水分)が含まれることがある。絶縁部材は、特にエンジンの始動直後等において温度が低い場合があり、この蒸気が絶縁部材の表面に触れると結露するおそれがある。
【0010】
ケース筒体又は排気管における触媒担体よりも下流側には、排熱回収装置が設けられている。排熱回収装置は、排気管内の発熱体基板の熱を回収し、絶縁部材に供給する。これにより、絶縁部材の表面における結露を抑制できる。また、絶縁部材の表面に付着した水分の蒸発が促進される。これにより、水分の付着に起因する電極部材とケース筒体と
【0011】
短絡が防止される。電極部材間の絶縁性の低下も抑制されるので、触媒担体への給電効率の低下を抑制できる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記排熱回収装置が、前記排気から熱を回収する回収装置本体と、前記回収装置本体と前記絶縁部材との間で熱媒体を循環させる循環部材と、を有する。
【0013】
回収装置本体で回収した熱を、循環部材による熱媒体の循環で絶縁部材に供給することで、効率的に絶縁部材へ熱供給することが可能になる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、前記熱媒体が前記回収装置本体からの加熱により液体から気体へと気化されると共に、前記絶縁部材への熱供給により気体から液体へと液化される。
【0015】
回収装置本体において熱媒体が気化されるので、気化されない構成と比較して多くの熱をエネルギーを熱媒体により輸送することができる。そして、絶縁体への熱供給時には、熱媒体は気体から液体へと液化されるので、効率的に熱媒体の熱を絶縁部材に供給できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記構成としたので、排気中の水分に起因する電極部材間の絶縁性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の車両用排気装置の概略構成を排気管への取付状態で中心線を含む断面で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、本発明の第1実施形態の触媒コンバータ装置12が排気管10への装着状態で示されている。
【0019】
図1に示すように、触媒コンバータ装置12は、導電性及び剛性を有する材料(導電性セラミック、導電性樹脂や金属等を適用可能であるが、本実施形態では特に導電性セラミックとしている)によって形成された触媒担体14を有している。触媒担体14は、ハニカム状または波状等とした薄板を渦巻状あるは同心円状等に構成することで材料の表面積が増大された円柱状あるいは円筒状に形成されており、表面には触媒(白金、パラジウム、ロジウム等)が付着された状態で担持されている。触媒は、排気管10内を流れる排気(流れ方向を矢印F1で示す)中の有害物質を浄化する作用を有している。なお、触媒担体14の表面積を増大させる構造は、上記したハニカム状や波状に限定されるものではない。
【0020】
触媒担体14には2枚の電極板16A、16Bが貼着され、さらに電極板16A、16Bにはそれぞれ、金属等の導電性を有する材料で構成された導線部材20A、20Bを介して端子18A、18Bが接続されている。端子18A、18Bはいずれも、中心の電極棒32の周囲を絶縁層34が覆う構造とされている。
【0021】
導線部材20A、20Bは、たとえばジグザグ状に、あるいは螺旋状に形成されて可撓性を有するようになっており、後述するようにケース筒体28と触媒担体14とが相対移動した場合に、この相対移動を吸収することが可能とされている。そして、端子18A、18Bから導線部材20A、20B及び電極板16A,16Bを通じて触媒担体14に通電することで、触媒担体14を加熱できる。この加熱により、表面に担持された触媒を昇温させることで、触媒の浄化作用をエンジン始動直後等であっても早期に発揮させることができるようになっている。
【0022】
絶縁層34は電気絶縁性を有する材料によって円筒状に形成されておいり、電極棒32の外周面を全周にわたって覆うことで、電極棒32から電極取付カバー36(詳細は後述する)への電気の流れが阻止されている。
【0023】
絶縁層34の周囲は、電極取付カバー36が覆っている。電極取付カバー36は、金属製とされることで所定の剛性を有する円筒状に形成されている。電極取付カバー36の内周面には雌ネジ38が形成されている。
【0024】
触媒担体14の外周には、絶縁性材料によって略円筒状に形成された保持部材26が配置されている。さらに、保持部材26の外周には、ステンレス等の金属で略円筒状に成形されたケース筒体28が配置されている。換言すれば、略円筒状のケース筒体28の内部に、触媒担体14が収容されると共に、ケース筒体28と触媒担体14との間に配置された保持部材26により、触媒担体14がケース筒体28の内部に、同心(中心線CL)で保持されている。そして、絶縁性を有する保持部材26が触媒担体14とケース筒体28との間に配置されているので、触媒担体14からケース筒体28への電気の流れが阻止されている。
【0025】
また、保持部材26は所定の弾性も有している。金属製のケース筒体28と導電性セラミック製の触媒担体14とでは線膨張係数が異なっているため、排気管10内を通過する排気の熱や触媒担体14への通電加熱による膨張量が異なることとなるが、この膨張量の違いが、保持部材26の弾性により吸収される。さらに、排気管10を通じた振動の入力に対しても、保持部材26が緩衝作用を発揮しつつケース筒体28と触媒担体14との位置ズレを吸収する。なお、保持部材26は、上記した絶縁性及び弾性を有すれば、材質は限定されないがが、材料の例としては、繊維マットが好ましく、この他にインタラムマットやムライト等も適用可能である。
【0026】
また、図1から分かるように、保持部材26を全体で見たとき、触媒担体14と保持部材26とは軸方向で概ね同じ長さに形成されており、触媒担体14の上流側端面14Aと保持部材26の上流側端面26Aとは略面一になっている。同様に、触媒担体14の下流側端面14Bと保持部材26の下流側端面26Bとは略面一になっている。
【0027】
保持部材26には、軸方向中央の所定位置に、2箇所の電極室40が形成されている。この電極室40に、導線部材20A、20Bや端子18A、18Bの先端部分が収容されている。
【0028】
ケース筒体28には、電極室40に対応する位置に取付孔42が形成されている。ケース筒体28には、この取付孔42に対応して電極取付ボス44が固定されている。電極取付ボス44は、端子18A、18Bの先端部分が挿通される挿通孔が形成されると共に、取付孔42を覆う蓋板部44Fと、この蓋板部44Fの中央から立設された円筒状の円筒部44Cとを有している。
【0029】
円筒部44Cの内周面には、雌ネジ38が螺合される雄ネジ46が形成されている。ケース筒体28に電極取付ボス44が固定された状態で、円筒部44Cの雄ネジ46に電極取付カバー36の雌ネジ38を螺合させていくことで、端子18A、18Bが、電極取付ボス44に取り付けられる。
【0030】
触媒担体14よりも排気の流れ方向下流側には、排熱回収器50が配置されている。排熱回収器50は、排気の熱(エネルギー)を回収することができる。排熱回収器50と絶縁層34との間には、循環往路52Aと循環復路52Bの2本の配管で構成された循環配管52が設けられている。排熱回収器50は本発明の回収器本体の一例であり、排熱回収器50と循環配管52とで、本発明の排熱回収装置48が構成されている。
【0031】
循環配管52の内部には、排熱回収器50からの熱で気化し、この熱を絶縁層34に作用させることで液化する熱媒体が収容されており、排熱回収器50と絶縁層34の間に、いわゆるヒートループ式の伝熱手段が構成されている。すなわち、熱媒体が、気体の状態で排熱回収器50から循環往路52Aを経て絶縁層34に達し、液化される。液化された熱媒体は、循環復路52Bを経て排熱回収器50に戻る。ヒートループ式の伝熱手段では、熱媒体の循環のための動力源を用いることなく、熱媒体を循環させることが可能である。熱媒体としては、このような相変化を生じる沸点の液体(オイル等)を用いることができる。
【0032】
本実施形態では特に、循環往路52Aを循環復路52Bよりもケース筒体28に近い位置に配置している。このように循環往路52Aをケース筒体28に接近させて配置することで、循環往路52Aにケース筒体28からの熱が作用しやすくなり、気体状態の熱媒体が冷却されることを抑制している。
【0033】
なお、図1では排熱回収器50をケース筒体28に設けているが、ケース筒体28の下流側の排気管10に設けてもよい。また、排熱回収器50で回収された熱は、絶縁層34に直接的に作用するようになっていてもよいが、電極取付ボス44や電極取付カバー36を介して作用するようになっていてもよい。
【0034】
次に、本実施形態の触媒コンバータ装置12の作用を説明する。
【0035】
図1から分かるように、エンジンからの排気は、排気管10内において、まず、触媒コンバータ装置12を通過し、これによって排気中の排気中の有害物質が浄化される。特に、本実施形態の触媒コンバータ装置12では、端子18A、18B(電極棒32)から電極板16A、16Bを通じて触媒担体14に通電し、触媒担体14を加熱することで、触媒担体14に担持された触媒本体を昇温させ、浄化作用をより早く発揮させることができる。たとえば、エンジンの始動直後等、排気の温度が低い場合には、あらかじめ触媒担体14への通電加熱を積極的に行うことで、エンジン始動初期における触媒本体の浄化性能を高く確保できる。なお、排気の温度が充分に高い場合は、触媒担体14が排気からの熱で昇温されるので、触媒担体14に通電する必要はない。
【0036】
排気中には水分が含まれているため、この水分を含んだ排気が保持部材26や触媒担体14を通過し電極室40に入ることがある。さらにこの水分は、電極室40内において絶縁層34の表面で結露して液化するおそれがある。特に、エンジンの始動直後は、絶縁層34の温度も低いため、排気中の水分が絶縁層34に触れると結露しやすい。また、絶縁層34は触媒担体14から離れているので、たとえ触媒担体14が昇温されても、その熱は絶縁層34に伝わりにくく、絶縁層34の温度は上がり難い。
【0037】
このように絶縁層34の表面に結露が発生すると、絶縁層34の絶縁性が低下するため、電極棒32とケース筒体28とが、絶縁層34、電極取付カバー36及び電極取付ボス44を介して短絡されてしまうおそれがある。結果的に、2つの電極棒32が短絡されてしまうと、触媒担体14への給電効率が低下する。
【0038】
これに対し、本実施形態の触媒コンバータ装置12では、絶縁層34に排熱回収器50で回収した熱を作用させることで、絶縁層34の温度を上げることができる。このため、絶縁層34の表面での結露すなわち液体水分の付着を抑制することができる。また、たとえ絶縁層34に液体水分が付着していても、この水分の蒸発を促進して除去することが可能になる。これにより、本実施形態の触媒コンバータ装置12では、排気中の水分に起因する電極棒32の間の絶縁性の低下を抑制できる。そして、触媒担体14への給電効率を高く維持することが可能になる。
【0039】
しかも、排熱回収器50は、触媒担体14よりも排気の流れ方向(矢印F1方向)の下流側に配置されている。したがって、排気の熱をまず触媒担体14に作用させて触媒担体14を効率的に加熱昇温させることができ、しかも、その後に排気中に残った熱を有効に利用して、絶縁層34を昇温させることができる。絶縁層34の加熱のためのあらたなエネルギー源が不要であり、車両走行のための駆動力にも影響しないので、燃費が低下することもない。
【0040】
なお、上記では、排熱回収器50で回収した熱を絶縁層34に作用させるために、いわゆるヒートループ式(熱媒体が循環往路52Aでは気体、循環復路52Bでは液体)の伝熱手段を有する例を挙げたが、排熱回収器50の熱を効率的に絶縁層34に作用させることが可能であれば、伝熱手段としてはヒートループ式のものに限定されない。たとえば、熱媒体が、循環往路52A及び循環復路52Bの双方で液体の状態を維持するタイプの伝熱手段でもよい。また、このような流体を用いることなく、たとえば固体の伝熱部材を用いて、排熱回収器50で回収した熱を伝導熱として絶縁層34に作用させてもよい。ただし、ヒートループ式の伝熱手段では、熱媒体が気体の状態で熱を排熱回収器50から絶縁層34に移動させ、しかも絶縁層34に対しては、相変化により凝集熱として熱を作用させるので、熱伝達の開始が早くなると共に、熱の伝達速度も速くなり、短時間で効率的に絶縁層34を加熱することができる。
【0041】
本発明の絶縁部材としても、上記では電極棒32(電極部材)の周囲に配置された絶縁層34を挙げたが、要するに、電極棒32をケース筒体28から電気的に絶縁できればよく、たとえば、電極取付ボス44をケース筒体28間に絶縁部材が設けられていてもよい。さらに、絶縁部材は、2つの電極棒32の双方に対応して設けられている必要はなく、一方の電極棒32にのみ対応して設けられていても、電極棒32どうしがケース筒体28を介して電気的に短絡されることを抑制できる。2つの電極棒32の双方に対応して絶縁部材を配置すると、絶縁効果をより確実に維持できる。
【符号の説明】
【0042】
10 排気管
12 触媒コンバータ装置
14 触媒担体
28 ケース筒体
32 電極棒(電極部材)
34 絶縁層
48 排熱回収装置
50 排熱回収器
52 循環配管(循環部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管に取り付けられて内部を排気が流れるケース筒体と、
前記ケース筒体に設けられ、エンジンから排出される排気を浄化するための触媒を担持すると共に通電によって加熱される触媒担体と、
前記ケース筒体を貫通して前記触媒担体に接触され前記触媒担体に通電するための一対の電極部材と、
前記電極部材の少なくとも一方と前記ケース筒体との間に配置され電極部材をケース筒体から絶縁する絶縁部材と、
前記ケース筒体又は前記排気管において前記触媒担体よりも下流側に設けられ、排気の熱を回収して前記絶縁部材に供給する排熱回収装置と、
を有する触媒コンバータ装置。
【請求項2】
前記排熱回収装置が、
前記排気から熱を回収する回収装置本体と、
前記回収装置本体と前記絶縁部材との間で熱媒体を循環させる循環部材と、
を有する請求項1に記載の触媒コンバータ装置。
【請求項3】
前記熱媒体が前記回収装置本体からの加熱により液体から気体へと気化されると共に、前記絶縁部材への熱供給により気体から液体へと液化される請求項2に記載の触媒コンバータ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−112302(P2012−112302A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261512(P2010−261512)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】