説明

触媒体及びこれを用いた空気調和機

【課題】長期間にわたって一酸化炭素等の有害物質を除去可能な触媒体及びこれを用いた空気調和機を提供する。
【解決手段】基体と、基体上に形成された吸湿性を有する吸湿性コート層と、吸湿性コート層に保持され、気体中に含まれる反応目的分子と他の物質との反応を触媒するPt、Au、Rh、Ag、Pd、Ir等の触媒物質と、を有する触媒体。好ましくは、前記吸湿性コート層として、平均細孔径が50nm以下の多孔質シリカを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中に含まれる有害物質などの反応目的分子を除去する触媒体及びこれを用いた空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素は、人体に極めて有毒であることが知られており、自然環境における一酸化炭素濃度は、0.01〜0.2ppm程度である。ところが、近年、家屋の気密性が高くなっているため、換気が十分に行われない室内において石油やガスなどを用いた暖房器具や調理機器を使用した場合や、多数人がタバコを喫煙したなどの場合において、室内の一酸化炭素の濃度が10ppm以上に高まることがある。
【0003】
一酸化炭素は、酸素よりも約250倍も赤血球中のヘモグロビンと結合しやすく、またヘモグロビンの4つある結合サイトのうち1つが一酸化炭素と結合したカルボキシヘモグロビンは、他のサイトに結合した酸素を放出しにくいという性質を持つ。よって、微量の一酸化炭素が人体に取り込まれた場合でも、酸素運搬能力が減少して、人体が酸素欠乏状態になる。また、一酸化炭素とヘモグロビンの結びつきは非常に強く、結合後72時間くらいはその影響が持続する。このため、微量の一酸化炭素であっても血液中の赤血球が増加する多血症(赤血球増加症)状態になり、血栓等が生じる恐れがある。
【0004】
一般に、一酸化炭素濃度が200ppm以上となると、2〜3時間で前頭部に軽度の頭痛といった一酸化炭素中毒症状が生じ、この濃度未満であっても、上述したように人体が酸素欠乏状態となる。また、一酸化炭素は、血管内皮を障害するとともに、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)を破壊するため、動脈硬化を促進させることが知られている。よって、一酸化炭素の吸引は、少量であっても、循環器系や血管系の健康障害をひきおこす危険性があるため、生活環境中に発生した一酸化炭素を迅速に除去する必要がある。
【0005】
ところで、一酸化炭素除去用の触媒としては、従来、MnO−CuO系のホプカライト触媒が利用されていた。しかし、このホプカライト触媒は、空気中の水分によって、一酸化炭素を酸化除去する能力が低下してしまう。このため、湿度を有する通常の室内環境(温度10〜30℃、湿度20〜60%)では長時間の使用に耐えないという問題があった。
【0006】
一酸化炭素除去触媒に関する技術としては、下記特許文献1〜3が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平1-159058号公報
【特許文献2】特開2006-17425号公報
【特許文献3】米国特許第4991181号
【0008】
特許文献1は、細孔直径が110Å以下の細孔を実質的に含まないアルミナ担体上に、Pt又はPdとともに、Fe、Co、Ni等を担持させる技術である。この技術によると、耐吸湿性に優れた一酸化炭素除去触媒を提供できるとされる。
【0009】
この技術では、アルミナ担体の細孔で水分を吸着させ、雰囲気ガス中の水分を除去することにより、水分の触媒への悪影響を防止するのであるが、日本の様な湿度が比較的高い地域で用いる場合には、長時間の使用によりアルミナの水分吸着能力が飽和してしまうため、触媒の活性状態が長く続かないという問題があった。
【0010】
特許文献2は、ハニカム形状の基体に、親水性のゼオライトを担持させ、更に0.10〜0.20重量%の白金を担持させた触媒を、250℃〜400℃に加熱させて一酸化炭素を除去する技術である。この技術によると、効率的に一酸化炭素を除去できるとされる。
【0011】
しかし、この技術では、触媒を250〜400℃に加熱しなければならない。このため、一酸化炭素除去装置の温度が非常に高温となり、冷却機を取り付けなければ、安全に使用できないという問題があった。
【0012】
特許文献3は、シリカゲルなどに酸化スズなどを担持させ更にPtを担持させ、少量の水を加えることにより一酸化炭素を酸化除去する技術である。この技術によると、効率的に一酸化炭素を除去できるとされる。
【0013】
しかし、この技術を用いても、一酸化炭素除去性能が未だ不十分であった。
【0014】
また、室内環境においては、一酸化炭素以外にも、トリメチルアミン、ホルムアルデヒド、メチルメルカプタン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アンモニア、一酸化イオウ、硫化水素等の有害物質が存在する場合がある。このため、これらの有害物質も一酸化炭素とともに除去することが求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、PtやAu等の触媒物質の一酸化炭素酸化除去能力が、触媒物質近傍に水分を存在させ、かつその水分量が多いほど高まることを見出した。また、触媒物質近傍に水分を存在させてもトリメチルアミン、ホルムアルデヒド、メチルメルカプタン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アンモニア、一酸化イオウ、硫化水素等の有害物質をも除去できることを見出した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであって、通常の室内環境で使用する場合においても一酸化炭素等の有害物質の除去率が高く、且つ使用寿命の長い触媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための第1の本発明は、基体と、前記基体上に形成された吸湿性を有する吸湿性コート層と、前記吸湿性コート層に保持された触媒物質と、を有する触媒体である。
【0018】
上記触媒物質としては、気体中に含まれる反応目的分子と他の物質との反応を触媒する作用を有する触媒物質を使用できる。この構成によると、基体上に形成された吸湿性コート層が、一酸化炭素含有空気などの環境雰囲気中の水分を吸収する。よって触媒物質周囲の水分量が増大する。この水分により、触媒物質の一酸化炭素等に対する触媒活性が高められるので、特別な加熱手段等を設けなくとも、通常の室内環境において反応目的物質(例えば一酸化炭素)と他の物質(例えば酸素)とを効率よく反応させることができる。この結果として、環境雰囲気中に含まれる一酸化炭素等の有害物質を無害な物質に変換させることができる。
【0019】
また、上記構成では吸湿性コート層が空気などの環境雰囲気中の水分を吸収し、この水分が触媒物質の触媒活性を高めるように作用するが、空気中の水分は途絶えることがないので、ホプカライトを用いた従来技術のように、長時間の使用によって触媒活性が低下するといったことがない。よって、上記構成によると、長寿命な触媒体を実現することができる。
【0020】
なお、本発明にかかる触媒体を取り巻く雰囲気中に水分が存在しない場合には、予め上記吸湿性コート層に水分を吸湿させておけばよい。また、触媒体を取り巻く雰囲気中に水分および反応物質(酸素、活性酸素、オゾン、過酸化水素など)が存在しない場合には、その雰囲気中に加湿空気などを添加することにより上記と同様な作用効果を得ることができる。
【0021】
上記構成においては、前記吸湿性コート層が、吸湿物質を含んでなるものであり、前記触媒物質が、前記吸湿性コート層中の吸湿物質に直接接触している構成とすることができる。
【0022】
前記吸湿性コート層としては、吸湿物質のみからなる層でもよく、また吸湿物質と結着剤などその他のものとの混合物からなる層であってもよいが、吸湿物質が吸湿した水分を効率よく活用するために、触媒物質が吸湿性コート層中の吸湿物質に直接接触している構成とするのが好ましい。
【0023】
また、上記構成において、前記吸湿物質は、平均細孔径が50nm以下の多孔質シリカである構成とすることができる。多孔質シリカを用いると、良質な吸湿性コート層を形成できるからである。
【0024】
また、多孔質シリカとしては、平均が50nm以下のものを用いるのが好ましい。この細孔径の多孔質シリカはシリカ細孔内に効率よく水分を吸着できるからである。
【0025】
また、上記構成においては、前記多孔質シリカの平均細孔径が0.5nm〜2nmであり、比表面積が500m/gより大きく1000m/g以下である構成とすることができる。また、上記構成においては、前記多孔質シリカの平均細孔径が2nmより大きく20nm以下であり、比表面積が100m/g〜500m/g以下である構成とすることができる。
【0026】
平均細孔径が2nm以下のものは、一般にミクロ孔と呼ばれ、このミクロ孔内に一旦捕捉された水分は放出されにくい。よって、平均細孔径が2nm以下の多孔質シリカを用いると、触媒物質の近傍に常に水分が存在する状態を形成し易い。
【0027】
他方、平均細孔径が2〜50nmのものは、一般にメソ孔と呼ばれ、このものは高湿時に吸着した水分を低湿時に放出する性質を有する。また、この細孔径であると細孔内に微粒子状の触媒物質(およそ1〜10nm)を存在させることができるやすいという利点がある。
【0028】
なお、上記ミクロ孔の場合、ミクロ孔内における分子拡散速度が遅いので、一酸化炭素除去プロセス全体の効率を高めにくい。他方、メソ孔の場合、ミクロ孔よりも比表面積が小さいので、一酸化炭素の反応場が少なくなり、反応効率が悪くなる傾向がある。よって、シリカの平均細孔径及び比表面積は、これらの利点欠点を勘案して実際の使用環境に適合するように設定するのが好ましい。
【0029】
つまり、常に湿度が低いような環境であればミクロ孔の割合の高い、例えばミクロ孔が50%以上、好ましくは60%以上の多孔質シリカを用い、日本のように湿度が変化するような環境であればメソ孔の割合の高い、例えばメソ孔が50%以上、好ましくは60%以上の多孔質シリカを用いる。また、ミクロ孔、メソ孔を30〜70%の割合で併せ持つ多孔質シリカであれば、あらゆる湿度環境に対応できる。
【0030】
また、上記構成においては、前記吸湿性物質は、親水性ゼオライトである構成とすることができる。
【0031】
また、上記構成においては、前記触媒物質は、Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Irからなる群より選択された少なくとも一種以上の金属微粒子であり、且つその平均粒径が10nm以下である構成とすることができる。
【0032】
また、上記触媒物質としては、触媒活性に優れることから、Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Irのいずれか一種以上を用いることが好ましい。また、触媒物質の表面積が大きいほど、反応面積が大きくなるので、平均粒径を10nm以下とすることが好ましい。
【0033】
また、上記構成において、前記吸湿性物質を含む吸湿性コート層は、基体表面に直接塗着され形成されていてもよく、下地層を介して塗着され形成されていてもよい。
【0034】
また、上記基体としては、ハニカム構造体、発泡体状や、粉末状(球状、粒状を含む)、繊維状、布状、又はリング状などの構造体を用いることができる。
【0035】
また、上記下地層としては、製造の容易さ、コスト面からアルミナからなる層とすることが好ましい。
【0036】
また、上記構成においては、前記アルミナが、粉末アルミナであり、前記粉末アルミナの表面ラフネス値が0.5〜3.0μmである構成とすることができる。
【0037】
アルミナ層の構成を上記のように規制すると、多孔質シリカ層と基体との接着性がより高まるので好ましい。
【0038】
上記課題を解決するための第2の本発明は、ハニカム構造を有するハニカム基体と、前記ハニカム基体の壁面に直接又は下地層を介して塗着された吸湿性コート層と、前記吸湿性コート層上に担持された物質であって気体中に含まれる反応目的分子と他の物質との反応を触媒する触媒物質と、を備えることを特徴とする触媒体である。
【0039】
この構成では、ハニカム基体を用いるが、ハニカム基体は壁面の総表面積が大きいので、吸湿性コート層の面積を大きくできる。よって、より多くの触媒物質を配置でき、かつ気体通過の際の圧力損失が小さいので、気体を円滑に通過させることができ、気体中(例えば空気中)に含まれる有害物質などの反応目的物質(例えば一酸化炭素)が触媒物質に極めて効率よく接触する。これにより、反応目的物質と他の物質(例えば酸素)との反応が高効率で進む結果、反応目的物質(例えば一酸化炭素)を一層確実に除去できることになる。
【0040】
ここで、圧力損失の観点から、ハニカム基体のハニカムチャネル径は、好ましくは300μm以上とするのがよい。
【0041】
また、ハニカム基体は、金属製が好ましい。金属製であると製造が容易であり、製造コストを下げることができる。ただし、金属製のハニカム基体は、表面に凹凸が少なく、多孔質シリカからなる吸湿性コート層との接着性が悪いため、より好ましくは金属ハニカム基体と多孔質シリカ層との間に、微細な凹凸のある下地層を形成するのが好ましい。これにより多孔質シリカからなる、吸湿性コート層の接着性が向上する。
【0042】
また、上記構成において、前記ハニカム基体は、セラミック製のハニカム基体である構成とすることができる。
【0043】
セラミック製のハニカム基体は、金属製のハニカム基体と同様に製造が容易である。また、セラミック製のハニカム基体を用いる場合、ハニカム基体自体の表面に凹凸があるので、多孔質シリカからなる吸湿性コート層との接着性がよい。このため、金属ハニカムを用いた場合と異なり、下地層を形成しなくてもよい。セラミックハニカムの表面の平均細孔径は、アルミナ層と同様に、50nm以上とすることが好ましい。
また、ハニカム基体は細孔を制御した多孔質シリカとすることもできる。これにより吸湿性コート層を別に形成する必要がなくなる。
【0044】
上記第2の発明において、前記触媒物質としては、Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Irからなる群より選択された少なくとも一種以上の金属微粒子であり、且つその平均粒径が10nm以下である構成とすることができる。
【0045】
また、上記触媒物質としては、触媒活性の面から、Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Irのいずれか一種以上を用いることが好ましい。また、触媒の表面積が大きいほど、反応面積が大きくなるので、平均粒径を10nm以下とすることが好ましい。
【0046】
また、前記触媒物質の濃度としては、触媒体全体の容量に対して0.5〜2.0g/Lである構成とすることができる。
【0047】
触媒物質の濃度が過小であると、十分に一酸化炭素等を除去することができない。他方、触媒物質の濃度が2.0g/Lを超えると、触媒量を増やしても一酸化炭素等の除去効率が上がらなくなるとともに、コスト高になる。よって、上記範囲内に規制することが好ましい。
【0048】
上記課題を解決するための第3の本発明は、上記いずれかに記載の触媒体をフィルタとして用いることを特徴とする空気調和機である。
【0049】
ここで、空気調和機には、一酸化炭素除去装置は勿論のこと、空気清浄機、除湿機、加湿器、エアーコンディショナー等が含まれる。
【発明の効果】
【0050】
以上に説明したように、本発明によると、加熱手段を設けることなくして、通常の室内環境において反応目的物質(例えば一酸化炭素)と他の物質(例えば酸素)とを長期にわたって高効率で反応させることができる触媒体を提供することができ、この触媒体は、気体中に含まれる一酸化炭素等の有害物質を効率よく且つ低コストでもって除去することができるという顕著な作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0052】
(実施の形態1)
図1〜図3を参照して、本発明の実施の形態1における触媒体の構造について説明する。
【0053】
本実施の形態1にかかる触媒体は、図1に示すように、金属ハニカム基体11と、金属製のハニカム基体11の壁面に形成された凹凸を有する下地層(アルミナ層)12と、アルミナ層12の上に形成された吸湿性コート層13としての平均細孔径が50nm以下の多孔質シリカ層と、吸湿性コート層13上に担持されたPt、Au、Rh、Ag、Pd、Ir等からなる平均粒径10nm以下の触媒物質14を備えている。
【0054】
基体がハニカム形状であるため、この触媒体のハニカム孔内を一酸化炭素等の有害物質含有空気が通過する時の圧力損失を小さくすることができる。
【0055】
また、表面に凹凸の少ない金属製のハニカム基体11上に、微細な凹凸を有するアルミナ層12を形成することにより、金属製のハニカム基体11と、多孔質シリカからなる吸湿性コート層13との接着性が高められる。このアルミナ層12として、より好ましくは粉末状のアルミナを用いる。
【0056】
また、吸湿性コート層13は、多孔質シリカからなり、雰囲気ガスや有害物質含有空気中の水分を吸着保持し、且つ触媒物質の周囲に水分を供給することによって、吸湿性コート層13上に担持された触媒物質14の一酸化炭素等の除去活性を高めるように機能する。なお、吸湿性コート層としては、多孔質シリカに限定されるものではない。
【0057】
また、触媒物質14は、平均粒径が10nm以下のPt、Au、Rh、Ag、Pd、Ir等からなり、この触媒体のハニカム孔内を通過する一酸化炭素(CO)を酸化除去する。また、トリメチルアミン、ホルムアルデヒド、メチルメルカプタン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アンモニア、一酸化イオウ、硫化水素等の有害物質もまた、酸化除去する。
【0058】
図2に示すように、多孔質シリカの平均細孔径が、触媒物質14の平均粒径よりも小さい場合には、多孔質シリカの細孔近傍に触媒物質14を担持している。特に平均細孔径が2nm以下のミクロ孔と呼ばれる細孔を有する多孔質シリカは、水分吸着能が極めて高い。このため、どのような湿度環境下においても、雰囲気ガス中の水分を効率よく吸着する。この結果、図2に示すように、触媒物質14の周囲には常に水分(HO)が存在し、この水分によって触媒物質の一酸化炭素酸化除去触媒活性が高められる。
【0059】
図3に示すように、多孔質シリカの平均細孔径が、触媒物質14の平均粒径よりも大きい場合には、多孔質シリカの細孔内及び細孔近傍に触媒物質14を担持している。特に平均細孔径が2〜50nm以下のメソ孔と呼ばれる細孔を有する多孔質シリカは、水分吸着能はミクロ孔よりは劣るものの、高湿時に吸着した水分を低湿時に放出する性質を有する。この結果、図3に示すように、細孔内に担持された触媒物質14の周囲には常に水分(HO)が存在し、また細孔近傍に担持された触媒物質14の周囲にはメソ孔内の水分が放出されて供給され、この水分によって触媒物質14の一酸化炭素酸化除去触媒活性が高められる。
【0060】
すなわち、ミクロ孔シリカ、メソ孔シリカどちらを用いても、空気中の水分を積極的に利用するため、水分の飽和によって触媒活性が低下することがなく、長期間にわたって一酸化炭素を酸化除去できる。
【0061】
この一方で、ミクロ孔の場合、ミクロ孔内における分子拡散速度が遅いので、一酸化炭素除去プロセス全体の効率化には不向きとなる可能性がある。また、メソ孔の場合、比表面積がミクロ孔よりも小さくなるため、一酸化炭素除去反応場が少なくなり、反応効率が悪くなる可能性がある。
【0062】
これらのことから、実際の使用環境に応じて、適宜多孔質シリカの平均細孔径及び比表面積、触媒物質の平均粒径を設定することが好ましい。
【0063】
上記構成の触媒体の作製方法を以下に示す。
【0064】
(ケイ酸ナトリウム溶液の調整)
まず、ビーカに脱イオン化した蒸留水を入れ、これにケイ酸ナトリウム溶液を溶解させ、濃度Cが0.8〜1.5mol/Lのケイ酸ナトリウム水溶液を作成する。この時の水溶液の温度は20〜30℃であることが好ましい。
【0065】
(強酸性イオン交換樹脂の添加)
上記ケイ酸ナトリウム水溶液に、pHがpH(2.68〜5.4)になるまで、H型強酸性イオン交換樹脂を加える。このH型強酸性イオン交換樹脂としては、蒸留水に24時間以上浸したH型強酸性イオン交換樹脂を使用することが好ましく、蒸留水に浸したH型強酸性イオン交換樹脂を60メッシュ以下のふるいにかけて分別し、ふるいを通ったものを使用することがより好ましい。
【0066】
(強酸性イオン交換樹脂の除去)
pHが2.68〜5.4にした時点で、H型強酸性イオン交換樹脂を加えるのを止め、ふるいでビーカ中の強酸性イオン交換樹脂を取り除く。
【0067】
(重合)
強酸性イオン交換樹脂を取り除くと、重合(ゲル化)が進行し、これに伴いpHは少しずつ増加する。
【0068】
(アンモニアの添加)
次に、このケイ酸ナトリウム水溶液に、pHがpH2(7.98〜8.24)になるまで、NH水溶液を加える。pHが7.98〜8.24になった時点で、NH水溶液を加えるのを止めて、シリカゾル溶液を調整する。
【0069】
(アルミナコート金属ハニカムの準備)
上記作業と並行して、粉末アルミナを水、アルコール等に拡散させたアルミナゾルに、金属製ハニカム11を浸漬し、これを乾燥、焼成して、金属ハニカム基体11上にアルミナ層12を形成する。
好ましくは、金属ハニカムにコーティングされた粉末アルミナの表面ラフネスの値を0.5〜3.0μmとし、平均細孔径を50nm以上とする。
表面ラフネスの値は原子間力顕微鏡(Digital Instruments社製 Nano Scope IIIa)を用いて像を観測し、その像を付属の画像処理ソフトを用いて処理することにより求めることができる。
【0070】
(シリカ溶液への浸漬)
上記で調整したシリカゾルの調整溶液に、上記で作製した粉体アルミナ層が形成された金属ハニカムを、5〜25℃の条件で5〜10秒間浸漬し、この後水分を乾燥除去する。この浸・乾燥サイクルを10〜20回繰り返す。
【0071】
(シリカの細孔の拡大)
シリカを飽和させた、濃度d(10%以上)のNH水溶液に温度T(20℃〜60℃)でtNH3(5〜50時間)浸漬させることにより、シリカの細孔径を拡大させる。この工程は、主にメソ孔を有するシリカ層を作成する場合に必要であり、ミクロ孔を有するシリカを作成する場合には、省略してよい。
【0072】
(シリカ層の作製)
この後、20℃〜30℃、湿度30〜60%の雰囲気中にTpri(0.1〜1時間)放置する。放置後、T℃(100〜130℃)の恒温糟の中にTsec(1〜2時間)放置してエージングして、アルミナ層12の上にシリカからなる吸湿性コート層13を形成する。
【0073】
(触媒物質の担持)
この様にして作成したシリカ層(吸湿性コート層13)の上に、平均粒径が1〜10nmのPt、Au、Rh、Ag、Pd、Ir等の超微粒子14を0.5g/L〜2g/Lの割合で担持させる。担持方法は、Pt等の超微粒子を含んだ溶液に、シリカ層コーティング後のハニカム体を浸漬し、乾燥することにより行う。担持量の調整は、Pt等の超微粒子を含んだ溶液のPt等の濃度を変更することにより行う。このときの溶媒としては、水、アルコール等を用いることができる。
【0074】
〔作製条件とシリカの物性との関係〕
下記表1に、上記実施の形態1に記載の方法に従って作製した作製した触媒体の作製条件と、触媒体の吸湿性コート層のシリカのBET比表面積及び平均細孔径との関係を示す。
BET比表面積SBET(m/g)は、自動ガス吸着装置(日本ベル社製、BELSORP MINI)を用いて窒素吸脱着等温線を測定し、得られた吸脱着等温線に対しBETプロットを適用し解析し、算出した。
平均細孔径dは窒素吸脱着曲線にt−plot法を適用してメソ細孔容積Vmesを求め、以下の数式により求めた。


【0075】
なお、具体的な作製条件は、ケイ酸ナトリウム溶液としては、和光純薬工業社製ケイ酸ナトリウム溶液を用い、H型強酸性イオン交換樹脂としては、ローム・アンド・ハース社製アンバーライトIR120−H−AGを用い、粉体アルミナとしては、大明化学工業社製高純度アルミナ粉体を用い、金属ハニカムとしてはSUS(ステンレススチール)ハニカム(ハニカムチャネル径:300μm以上、ハニカム基体の比表面積:100m/g以上)を用いた。また、SUSハニカムはシリカゾル溶液に25℃条件で5秒漬け、その後乾燥させるというサイクルを10回繰り返した。
【0076】
【表1】

【0077】
上記表1において、Cはケイ酸ナトリウム水溶液の濃度、pHは強酸性イオン交換樹脂によるイオン交換終了時の水溶液のpH、pHはNH水溶液添加後の水溶液のpH、tpriはSUSハニカムをシリカゾルに浸漬した後にアンモニア水に浸漬することなく恒温槽に投入するまでのエージング時間、dはSUSハニカムをシリカゾルに浸漬した後に浸漬する水溶液のNH濃度、TはNH水溶液に浸漬するときの温度、tNH3はNH水溶液に浸漬する時間、Tは恒温槽の温度、tsecは恒温槽中でのエージング時間である。
【0078】
触媒体のシリカ層の吸湿性コート層のシリカの平均細孔径dは、1.00〜7.60nmであり、BET比表面積SBETは、117〜794m/gであった。
【0079】
(実施例1)
上記実施の形態1と同様にして、実施例1にかかる触媒体を作製した。具体的な吸湿性コート層(シリカ層)の作製条件は、上記表1の(a)の条件である。触媒としてはPtを用い、Ptの平均粒径は3nmとし、Pt含有量は0.5g/Lとした。
平均粒径は透過型電子顕微鏡(日本FEI社製 TecnaiF20)を用いて像を観測し、像内のPtの粒径を測定しその相加平均をとったものである。
【0080】
(実施例2)
吸湿性コート層(シリカ層)を、上記表1の(g)の条件で作製したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2にかかる触媒体を作製した。
【0081】
(比較例1)
アルミナ層上に吸湿性コート層(シリカ層)を形成しなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1にかかる触媒体を作製した。
【0082】
(比較例2)
アルミナ層上に吸湿性コート層(シリカ層)を形成しなかったこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例2にかかる触媒体を作製した。
【0083】
(実験1)
室温(25℃)において、異なるガス湿度条件下におけるCOの酸化で発生するCO濃度とCOの除去率を測定した。各湿度条件において、CO濃度は200ppm、空間速度(SV値)は61000/hrとした。この結果を下記表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
上記表2からわかるように、実施例、比較例ともに、ガス湿度が高いほどCO除去率が高くなる傾向にあることがわかる。また、実施例のほうが、比較例よりも、低いガス湿度においても高いCO除去率が得られることがわかる。
【0086】
このことは、次のように考えられる。Pt触媒の一酸化炭素酸化除去触媒活性は、Ptの周囲に水分が多いほど高まる。実施例では、Ptは吸湿性のシリカ層上に担持されており、このシリカ層が形成されていない比較例よりもPtの周囲の水分量が多い。よって、実施例のほうが、比較例よりも高いPt触媒活性を示すため、CO除去率が高まる。
【0087】
なお、Ptに代えて、Au、Rh、Ag、Pd、Irを用いた場合にも、上記と同様の結果が得られた。
【0088】
(実験2)
異なる空間速度(SV値)でCOを除去する実験を行った。SV値と、CO除去率との関係を下記表3に示す。なお、環境温度は、25℃、湿度50%とした。
【0089】
【表3】

【0090】
上記表3からわかるように、実施例のほうが、比較例よりも、どのSV値においても高いCO除去率が得られることがわかる。また、SV値が大きくなるに従い、比較例では大きく一酸化炭素(CO)除去率が低下しているが、実施例では大きな差が見られないことがわかる。
【0091】
このことは、次のように考えられる。比較例では、上記実験1で考察したように、Ptの触媒活性が低い。このため、空間速度(SV値)が高まるに伴い、除去できない一酸化炭素量が増大する。他方、実施例では、水分によってPtの触媒活性が高められているため、空間速度(SV値)が高くなっても、高い一酸化炭素除去率が得られる。
【0092】
また、実験1、実験2ともに、ミクロ孔を有するシリカを用いた実施例1と、メソ孔を有するシリカを用いた実施例2との間に、一酸化炭素除去性能について有意な差がないことがわかる。メソ孔において、細孔径が20nmまで確認を行ったが、除去能力に差が見られなかった。
【0093】
(実験3)
実施例1にかかる触媒体を用いて、CO濃度100ppmの空気を21日間流し続け、COを除去する実験を行った。なお、空間速度(SV値)122000hr−1、環境温度25℃、湿度50%とした。この結果を下記表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
上記表4から、実施例1にかかる触媒体は、長時間使用しても劣化を起こすことなく、高効率で一酸化炭素を除去できることがわかる。
【0096】
また、実施例1にかかる触媒体では、ホルムアルデヒドを効率よく除去できることも確認した。
【0097】
(実施の形態2)
図4に、実施の形態2における触媒体の構造について説明する。
ハニカム基体としてのセラミック製のハニカム基体15の上に、吸湿性コート層13が形成されている。吸湿性コート層13は、多孔質シリカからなる。吸湿性コート層13上に、Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Ir等の触媒物質14が担持されている。
【0098】
本実施の形態は、金属製のハニカム基体の代わりにセラミック製のハニカム基体15を用い、アルミナ層(下地層)を形成していないこと以外は、上記実施の形態1と同様の構成である。よって、この触媒体の作製方法もまた、上記の相違点以外は同様であるため、その説明を省略する。
【0099】
〔作製条件とシリカの物性との関係〕
下記表5に、上記実施の形態2に従って作製した触媒体の作製条件と、触媒体の吸湿性コート層のシリカのBET比表面積及び平均細孔径との関係を示す。セラミックハニカムとしては、日本ガイシ社製ハニセラムを用いた。
【0100】
【表5】

【0101】
上記表5の(i)及び(o)の条件で作製した触媒体に対して、上記実験1、2と同様の試験を行ったところ、上記実施例1、実施例2とほぼ同等な結果が得られた。
【0102】
(実施の形態3)
図5に、実施の形態3にかかる空気調和機の概略図を示す。なお、この図において、内部構造を示すため一部破断して図示している。
【0103】
図5に示すように、空気調和機100は、外気を空気調和機内部に取り入れる吸気口1と、外気を空気調和機内部に取り入れ、外部へと送り出す送風手段2と、送風手段2の送風量等を制御する制御手段5と、触媒体フィルタ10と、触媒体フィルタを通過した気体を空気調和機外部に送り出す排気口8と、を備える。空気調和機を電気で駆動する場合、電源4と、スイッチ9とを更に備える。
【0104】
触媒体フィルタ10は、上記実施の形態1で示したように、SUSハニカム上に粉体アルミナ層が形成され、このアルミナ層上に多孔質シリカ層(吸湿性コート層)が形成され、この多孔質シリカ層上に、Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Ir等の超微粒子が担持されている構造の触媒体7が入っている。
【0105】
吸気口1には、空気調和機100に空気を取り入れるための開口が形成されている。吸気口1には、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタなどの防塵用フィルタが設けられていてもよい。
【0106】
送風手段2としては、プロペラ状の送風機、あるいは圧力式ノズルなどのように空気を圧縮して空気を送り出す手段を用いることができる。
【0107】
排気口8には、触媒体フィルタ10を通過した空気を排出するための開口が形成されている。
【0108】
スイッチ9は、制御手段5と電気的に接続されている。なお、スイッチ9は、制御部5がスイッチ機能を有する電源4と接続されている場合には、省略することができる。
【0109】
触媒体フィルタ10は、上記の触媒体7を備えている。この触媒体7が、室内環境(室温25℃前後、湿度50%前後)で一酸化炭素等を酸化除去する。
【0110】
そして、一酸化炭素等が除去された空気が、排気口8から排出される。
【0111】
なお、本発明は、上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、適宜変更して実施することが可能である。また、基体としては、ハニカム構造体以外に、粉末状、球状、粒状、発泡体状、繊維状、布状、又はリング状構造のものを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上説明したように、本発明によると、湿度条件にかかわらず、長時間にわたって一酸化炭素等の有害物質を除去可能な触媒体及びこれを用いた空気調和機を提供できる。よって産業上の意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施の形態1にかかる触媒体のハニカム壁面の構造を示す概略図である。
【図2】実施の形態1において、多孔質シリカの平均細孔径が、触媒物質の平均粒径よりも小さい場合の、多孔質シリカの細孔の動作を示すイメージ図である。
【図3】実施の形態1において、多孔質シリカの平均細孔径が、触媒物質の平均粒径よりも大きい場合の、多孔質シリカの細孔の動作を示すイメージ図である。
【図4】実施の形態2にかかるハニカム構造体の構造を示す概略図である。
【図5】実施の形態3にかかる空気調和機の内部構造を示す概略図である。
【符号の説明】
【0114】
1 吸気口
2 送風手段
4 電源
5 制御手段
7 触媒体
8 排気口
9 スイッチ
10 触媒体フィルタ
11 金属製のハニカム基体
12 アルミナ層(粉末アルミナ層)
13 吸湿性コート層(多孔質シリカ層)
14 触媒物質(Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Ir)
15 セラミック製のハニカム基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成された吸湿性を有する吸湿性コート層と、
前記吸湿性コート層に保持された触媒物質と、
を有する触媒体。
【請求項2】
前記吸湿性コート層が、吸湿物質を含んでなるものであり、
前記触媒物質が、前記吸湿性コート層中の吸湿物質に直接接触している、
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒体。
【請求項3】
前記吸湿物質は、平均細孔径が50nm以下の多孔質シリカである、
ことを特徴とする請求項2に記載の触媒体。
【請求項4】
前記多孔質シリカの平均細孔径が0.5nm〜2nmであり、比表面積が500m/gより大きく1000m/g以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の触媒体。
【請求項5】
前記多孔質シリカの平均細孔径が2nmより大きく20nm以下であり、比表面積が100〜500m/gである、
ことを特徴とする請求項3に記載の触媒体。
【請求項6】
前記触媒物質は、Pt、Au、Rh、Ag、Pd、Irからなる群より選択された少なくとも一種以上の金属微粒子であり、且つその平均粒径が10nm以下である、
ことを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の触媒体。
【請求項7】
前記触媒物質の濃度が、触媒体全体の容量に対して0.5〜2.0g/Lである、
ことを特徴とする請求項6に記載の触媒体。
【請求項8】
前記吸湿性物質を含む吸湿性コート層は、基体表面に直接または下地層を介して塗着され形成されている、
ことを特徴とする請求項1ないし7の何れかに記載の触媒体。
【請求項9】
前記下地層は、アルミナからなる、
ことを特徴とする請求項8に記載の触媒体。
【請求項10】
前記アルミナが、粉末アルミナであり、
前記粉末アルミナの表面ラフネス値が0.5〜3.0μmである、
ことを特徴とする請求項9記載の触媒体。
【請求項11】
ハニカム構造を有するハニカム基体と、
前記ハニカム基体の壁面に直接又は下地層を介して塗着された吸湿性コート層と、
前記吸湿性コート層上に担持された物質であって気体中に含まれる反応目的分子と他の物質との反応を触媒する触媒物質と、
を備えることを特徴とする触媒体。
【請求項12】
前記ハニカム基体は、金属製のハニカム基体である、ことを特徴とする請求項11に記載の触媒体。
【請求項13】
前記ハニカム基体は、セラミック製のハニカム基体である、ことを特徴とする請求項11に記載の触媒体。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の触媒体がフィルタとして用いられてなる空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−289934(P2007−289934A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77574(P2007−77574)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】