超音波モータおよびその駆動方法
【課題】滑らかに動作電圧を変化させて動作の追随性および摩擦磨耗特性を向上させることができる超音波モータおよびその駆動方法を提供する。
【解決手段】圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータであって、屈曲1次振動で駆動する屈曲振動層3aと、屈曲振動層3aに対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する伸縮振動層3bと、を備える。このように、伸縮振動層3bを屈曲振動層3aから別個の層として構成することにより、まず伸縮振動のみ駆動させておき徐々に屈曲振動電圧を上昇させて、屈曲振動電極への入力電圧を制御して実質0Vから動作させることが可能となる。その結果、滑らかに動作電圧を変化させて指示への追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、素子の寿命を長くすることができる。
【解決手段】圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータであって、屈曲1次振動で駆動する屈曲振動層3aと、屈曲振動層3aに対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する伸縮振動層3bと、を備える。このように、伸縮振動層3bを屈曲振動層3aから別個の層として構成することにより、まず伸縮振動のみ駆動させておき徐々に屈曲振動電圧を上昇させて、屈曲振動電極への入力電圧を制御して実質0Vから動作させることが可能となる。その結果、滑らかに動作電圧を変化させて指示への追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、素子の寿命を長くすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータおよびその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波モータは、静粛で高トルクが得られることにより各種の分野への応用が検討されている。超音波モータは、圧電振動子からなり、振動体の駆動力伝達部位に加圧接触させて移動体(ガイドプレート)を移動させる。すなわち、圧電振動子に高周波電圧を入力すると、振動体に機械的な振動が発生し、振動体と移動体との摩擦力により移動体へ運動エネルギーが伝播され、その結果モータ出力が取り出せる。従来、区分した同形パターンの内部電極を積層することによって多重モードを同時駆動させる超音波モータが知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
たとえば、特許文献1記載の超音波モータは、矩形で単板の圧電振動子を積層して積層型圧電振動子を構成し、積層型圧電振動子が、伸縮1次振動モードと第一屈曲振動モードとを組み合わせた多重振動モードで振動する。単板の圧電振動子は伸縮1次振動モードで振動するとともに屈曲1次振動モードで振動し、単板の圧電振動子は、厚さ方向に複数積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−104193号公報
【特許文献2】特開2005−65358号公報
【特許文献3】特開2000−116162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような超音波モータの多重モードの駆動は同時に行われるため、動作開始のためには一定以上の入力電圧が必要である。そのため位置制御のための電圧制御は難しい。また、一定の動作により生じやすい磨耗を低減するためには動作電圧を下げ推力を落とす必要性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、滑らかに動作電圧を変化させて動作の追随性および摩擦磨耗特性を向上させることができる超音波モータおよびその駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の超音波モータは、圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータであって、屈曲1次振動で駆動する屈曲振動層と、前記屈曲振動層に対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する伸縮振動層と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、伸縮振動層を屈曲振動層から別個の層として構成することにより、まず伸縮振動のみ駆動させておき徐々に屈曲振動電圧を上昇させて、屈曲振動電極への入力電圧を制御して実質0Vから動作させることが可能となる。その結果、滑らかに動作電圧を変化させて指示への追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、素子の寿命を長くすることができる。
【0009】
(2)また、本発明の超音波モータは、前記屈曲振動層の駆動層数の、前記伸縮振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴としている。このように、伸縮振動と屈曲振動の積層比を調整することで、高速度で駆動可能な超音波モータを実現できる。
【0010】
(3)また、本発明の超音波モータは、前記伸縮振動層の駆動層数の、前記屈曲振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴としている。このように、伸縮振動と屈曲振動の積層比を調整することで、大きな推力で駆動可能な超音波モータを実現できる。
【0011】
(4)また、本発明の超音波モータの駆動方法は、上記の超音波モータの駆動方法であって、最初に前記伸縮振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、前記伸縮振動層への電圧印加開始後に、前記屈曲振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、を含み、前記2つのステップにより滑らかな駆動を可能にすることを特徴としている。このような駆動方法により滑らかに動作電圧を変化させて摩擦磨耗特性を向上させ、超音波モータの寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、滑らかに動作電圧を変化させて、動作の追随性および摩擦磨耗特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る超音波モータの正面図である。
【図2】本発明に係る超音波モータが伸縮1次振動をしている様子を示す図である。
【図3】本発明に係る超音波モータが屈曲1次振動をしている様子を示す図である。
【図4】本発明に係る圧電振動子の斜視図である。
【図5】屈曲振動層および伸縮振動層の各層数比と速度対推力の関係を示すグラフである。
【図6】(a)屈曲振動層上の電極パターンを示す平面図である。(b)グランド電極のパターンを示す平面図である。(c)伸縮振動層上の電極パターンを示す平面図である。
【図7】本発明に係る超音波モータの駆動層上の電極に対する配線を示す図である。
【図8】駆動調整しないときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。
【図9】駆動調整したときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。
【図10】駆動調整しないときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。
【図11】駆動調整したときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、超音波モータ10の正面図である。図1に示すように、超音波モータ10は圧電振動子1と摺動チップ2を備えており、圧電層と電極とが交互に積層された矩形積層型の圧電振動子1を多重振動モードで振動させることで駆動可能となっている。圧電振動子1は、矩形積層型の圧電セラミックスから形成されており、各層が厚さ方向に分極している。また、圧電振動子1の図中y方向端面の中央部に、駆動力を伝達する摺動チップ2が設けられている。
【0016】
図2は、超音波モータが伸縮1次振動をしている様子を示す図である。図2に示すように、圧電振動子1が伸縮1次振動モードで振動する際の伸縮方向は、図2中、矢印Aの方向と平行である。また、図3は、超音波モータが屈曲1次振動をしている様子を示す図である。図3に示すように、圧電振動子1が屈曲1次振動モードで振動する際の方向(剪断方向)は、図2に示す矢印Aと平行であるが、図3に示すように、圧電振動子1の両端で方向が互いに逆となる。図2に示す伸縮1次振動モードと図3に示す屈曲1次振動モードとが合成(縮退)することによって、摺動チップ2は楕円運動をし、駆動力が生ずる。
【0017】
図4は、圧電振動子1の斜視図である。圧電振動子1は、矩形積層型の圧電セラミックスから形成されており、各層の分極方向は、図4に示す座標軸のz軸方向の正負のいずれかに一致している。
【0018】
圧電振動子1は、屈曲振動層3aおよび伸縮振動層3bを備えている。屈曲振動層3aは、屈曲1次振動で駆動する。伸縮振動層3bは、屈曲振動層に対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する。このように、圧電振動子1は、伸縮振動層3bを屈曲振動層3aから独立した別個の層として構成されている。したがって、まず伸縮振動層3bにより伸縮振動のみ駆動させておき、徐々に屈曲振動電圧を上昇させて、屈曲振動電極への入力電圧を制御して実質0Vから動作させることが可能となる。その結果、滑らかに動作電圧を変化させて指示への追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、素子の寿命を長くすることができる。
【0019】
なお、図4に示すように、圧電振動子1は屈曲振動層3aおよび伸縮振動層3bについて多層構造であるが、単層のものが並列した構造でもよい。圧電振動子1が伸縮1次振動モードで振動する際の伸縮方向は、x軸と平行である。また、圧電振動子1が屈曲1次振動モードで振動する際の剪断方向は、y軸と平行である。
【0020】
圧電振動子1は、積層された圧電層の表面または層間に交互に設けられたグランド電極および駆動電極を有している。圧電振動子1は、用途に応じて各振動層の駆動層数の比を変えることができる。図5は、屈曲振動層および伸縮振動層の各層数比と速度対推力の関係を示すグラフである。図5に示す関係は、シミュレーションにより算出できる。
【0021】
図5に示すように、たとえば、屈曲振動層3aの駆動層数の、伸縮振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下である場合には、屈曲振動層3aの影響が大きく、高速度で駆動可能な超音波モータを実現できる。一方、伸縮振動層3bの駆動層数の、屈曲振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下である場合には、伸縮振動層3bの影響が大きく、大きな推力で駆動可能な超音波モータ10を実現できる。このように、伸縮振動と屈曲振動の積層比を調整することで、所望の速度と推力が得られる。
【0022】
図6(a)は、屈曲振動層上の電極パターンF1を示す平面図である。駆動電極4a、4bは、それぞれ概ね主面の2分の1の面積に等分されている。そして、それぞれ圧電振動子1の側面に露出する取り出し部分を有している。たとえば駆動電極4aには所定の交流電圧が印加され、駆動電極4bには駆動電極4aへの印加電圧とは位相がπ/2異なる電圧を印加する。
【0023】
図6(b)は、グランド電極のパターンGNDを示す平面図である。グランド電極4cと駆動電極4a、4bまたは4dとの間に電界が生じることで、その間の圧電層1bが変位する。図6(c)は、伸縮振動層上の電極パターンL1を示す平面図である。駆動電極4dは、一面にわたる矩形形状に形成されている。
【0024】
駆動電極4a、4b、4dは、外部電極により入力端子に接続されている。また、グランド電極4cは、外部電極により接地端子に接続されている。スルーホールを用いず外部接続にすることにより動作活性層体積比率を大きくし、動作に寄与しない不活性層体積比率を少なくすることができる。たとえば駆動電極4dには、駆動電極4aと同じ電圧が印加される。
【0025】
図7は、超音波モータ10の駆動層上の電極に対する配線を示す図である。図7に示すように、超音波モータ10において、駆動層上には、矩形の圧電層1bの一方の主面を2分割するように、駆動電極4aと駆動電極4bとが設けられている。そして、駆動層の他方の主面にはグランド電極4cが設けられ、接地されている。駆動電極4a、4bは、互いに絶縁された状態で個別に設けられる。
【0026】
超音波モータ10の駆動回路は、2つの交流電圧源5a、5bによって構成される。交流電圧源5aは、駆動電極4dにV0sinωtの電圧を印加している。図2に示すように長手方向に伸縮する伸縮1次振動モードの振動が発生する。
【0027】
また、交流電圧源5aは、駆動電極4aにV0sinωtの電圧を印加し、交流電圧源5bは、電極4bにV0cosωtの電圧を印加する。このように、圧電振動子1の駆動電極4a、4bに対して位相がπ/2ずれた電圧V0sinωtおよびV0cosωtが印加されると、圧電振動子1には、図3に示すように、幅方向(剪断方向)で屈曲する屈曲1次振動モードの振動が発生する。
【0028】
そして、伸縮1次振動モードの共振周波数と、屈曲1次振動モードの共振周波数とが等しいときに、両振動モードが合成(縮退)され、圧電振動子1のチップには楕円振動が発生する。なお、電圧V0sinωtとV0cosωtとは、それぞれ第1の交流電圧と第2の交流電圧とに該当する。両者が入れ替わっても何ら問題はない。
【0029】
なお、上記の例では、屈曲1次振動モードにつき2相信号入力の構成を説明しているが、1相信号入力の構成を採ってもよい。この場合、一方の駆動電極4aに、交流電圧源5aによってV0sinωtの交流信号を印加し、他方の駆動電極4bを開放状態とすることで動作させることも可能である。
【0030】
(駆動調整)
超音波モータ10については特に以下のような駆動調整が好適である。まず、最初に伸縮振動層3bへ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させる。そして、伸縮振動層3bへの電圧印加開始後に、屈曲振動層3aへ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させる。このようにして、2つのステップにより滑らかな駆動を可能にする。これにより滑らかに動作電圧を変化させて、動作の追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、超音波モータ10の寿命を長くすることができる。
【0031】
(実施例1)
超音波モータ10を用いた位置決め装置を作製し、上記の駆動方法で駆動調整を行わない場合と駆動調整を行う場合について指示値x0への現在値xの追随性について試験を行った。図8は、駆動調整しないときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。図8に示すように、駆動調整しないときには、指示値x0と現在値xとが乖離しやすく、偏差Δxが大きくなっている。
【0032】
一方、図9は、駆動調整したときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。図9に示すように、駆動調整を行うことで、ほとんど偏差Δxを生じさせず指示値x0に対する現在値xが一致した。
【0033】
(実施例2)
また、駆動調整を行わない場合と行う場合について位置決め装置を所定時間、運転を続けたところ、パーティクル数に差が生じた。図10は、駆動調整しないときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。パーティクルの径ごとにパーティクル発生数を記録した。図10に示すように駆動調整しないときには、10分程度の運転によりパーティクルが増加している。
【0034】
一方、図11は、駆動調整したときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。この場合には、20分以上の運転にも関わらずパーティクル数の増加は見られなかった。
【0035】
以上の実施例より、超音波モータ10を駆動調整しつつ駆動することで、指示に対する追随性を向上させるとともに、パーティクルの発生を防止し耐久性を向上させることが実証された。
【符号の説明】
【0036】
1 圧電振動子
1b 圧電層
2 摺動チップ
3a 屈曲振動層
3b 伸縮振動層
4a、4b 駆動電極
4c グランド電極
4d 駆動電極
5a、5b 交流電圧源
10 超音波モータ
x 現在値
x0 指示値
Δx 偏差
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータおよびその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波モータは、静粛で高トルクが得られることにより各種の分野への応用が検討されている。超音波モータは、圧電振動子からなり、振動体の駆動力伝達部位に加圧接触させて移動体(ガイドプレート)を移動させる。すなわち、圧電振動子に高周波電圧を入力すると、振動体に機械的な振動が発生し、振動体と移動体との摩擦力により移動体へ運動エネルギーが伝播され、その結果モータ出力が取り出せる。従来、区分した同形パターンの内部電極を積層することによって多重モードを同時駆動させる超音波モータが知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
たとえば、特許文献1記載の超音波モータは、矩形で単板の圧電振動子を積層して積層型圧電振動子を構成し、積層型圧電振動子が、伸縮1次振動モードと第一屈曲振動モードとを組み合わせた多重振動モードで振動する。単板の圧電振動子は伸縮1次振動モードで振動するとともに屈曲1次振動モードで振動し、単板の圧電振動子は、厚さ方向に複数積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−104193号公報
【特許文献2】特開2005−65358号公報
【特許文献3】特開2000−116162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような超音波モータの多重モードの駆動は同時に行われるため、動作開始のためには一定以上の入力電圧が必要である。そのため位置制御のための電圧制御は難しい。また、一定の動作により生じやすい磨耗を低減するためには動作電圧を下げ推力を落とす必要性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、滑らかに動作電圧を変化させて動作の追随性および摩擦磨耗特性を向上させることができる超音波モータおよびその駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の超音波モータは、圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータであって、屈曲1次振動で駆動する屈曲振動層と、前記屈曲振動層に対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する伸縮振動層と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、伸縮振動層を屈曲振動層から別個の層として構成することにより、まず伸縮振動のみ駆動させておき徐々に屈曲振動電圧を上昇させて、屈曲振動電極への入力電圧を制御して実質0Vから動作させることが可能となる。その結果、滑らかに動作電圧を変化させて指示への追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、素子の寿命を長くすることができる。
【0009】
(2)また、本発明の超音波モータは、前記屈曲振動層の駆動層数の、前記伸縮振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴としている。このように、伸縮振動と屈曲振動の積層比を調整することで、高速度で駆動可能な超音波モータを実現できる。
【0010】
(3)また、本発明の超音波モータは、前記伸縮振動層の駆動層数の、前記屈曲振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴としている。このように、伸縮振動と屈曲振動の積層比を調整することで、大きな推力で駆動可能な超音波モータを実現できる。
【0011】
(4)また、本発明の超音波モータの駆動方法は、上記の超音波モータの駆動方法であって、最初に前記伸縮振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、前記伸縮振動層への電圧印加開始後に、前記屈曲振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、を含み、前記2つのステップにより滑らかな駆動を可能にすることを特徴としている。このような駆動方法により滑らかに動作電圧を変化させて摩擦磨耗特性を向上させ、超音波モータの寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、滑らかに動作電圧を変化させて、動作の追随性および摩擦磨耗特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る超音波モータの正面図である。
【図2】本発明に係る超音波モータが伸縮1次振動をしている様子を示す図である。
【図3】本発明に係る超音波モータが屈曲1次振動をしている様子を示す図である。
【図4】本発明に係る圧電振動子の斜視図である。
【図5】屈曲振動層および伸縮振動層の各層数比と速度対推力の関係を示すグラフである。
【図6】(a)屈曲振動層上の電極パターンを示す平面図である。(b)グランド電極のパターンを示す平面図である。(c)伸縮振動層上の電極パターンを示す平面図である。
【図7】本発明に係る超音波モータの駆動層上の電極に対する配線を示す図である。
【図8】駆動調整しないときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。
【図9】駆動調整したときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。
【図10】駆動調整しないときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。
【図11】駆動調整したときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、超音波モータ10の正面図である。図1に示すように、超音波モータ10は圧電振動子1と摺動チップ2を備えており、圧電層と電極とが交互に積層された矩形積層型の圧電振動子1を多重振動モードで振動させることで駆動可能となっている。圧電振動子1は、矩形積層型の圧電セラミックスから形成されており、各層が厚さ方向に分極している。また、圧電振動子1の図中y方向端面の中央部に、駆動力を伝達する摺動チップ2が設けられている。
【0016】
図2は、超音波モータが伸縮1次振動をしている様子を示す図である。図2に示すように、圧電振動子1が伸縮1次振動モードで振動する際の伸縮方向は、図2中、矢印Aの方向と平行である。また、図3は、超音波モータが屈曲1次振動をしている様子を示す図である。図3に示すように、圧電振動子1が屈曲1次振動モードで振動する際の方向(剪断方向)は、図2に示す矢印Aと平行であるが、図3に示すように、圧電振動子1の両端で方向が互いに逆となる。図2に示す伸縮1次振動モードと図3に示す屈曲1次振動モードとが合成(縮退)することによって、摺動チップ2は楕円運動をし、駆動力が生ずる。
【0017】
図4は、圧電振動子1の斜視図である。圧電振動子1は、矩形積層型の圧電セラミックスから形成されており、各層の分極方向は、図4に示す座標軸のz軸方向の正負のいずれかに一致している。
【0018】
圧電振動子1は、屈曲振動層3aおよび伸縮振動層3bを備えている。屈曲振動層3aは、屈曲1次振動で駆動する。伸縮振動層3bは、屈曲振動層に対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する。このように、圧電振動子1は、伸縮振動層3bを屈曲振動層3aから独立した別個の層として構成されている。したがって、まず伸縮振動層3bにより伸縮振動のみ駆動させておき、徐々に屈曲振動電圧を上昇させて、屈曲振動電極への入力電圧を制御して実質0Vから動作させることが可能となる。その結果、滑らかに動作電圧を変化させて指示への追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、素子の寿命を長くすることができる。
【0019】
なお、図4に示すように、圧電振動子1は屈曲振動層3aおよび伸縮振動層3bについて多層構造であるが、単層のものが並列した構造でもよい。圧電振動子1が伸縮1次振動モードで振動する際の伸縮方向は、x軸と平行である。また、圧電振動子1が屈曲1次振動モードで振動する際の剪断方向は、y軸と平行である。
【0020】
圧電振動子1は、積層された圧電層の表面または層間に交互に設けられたグランド電極および駆動電極を有している。圧電振動子1は、用途に応じて各振動層の駆動層数の比を変えることができる。図5は、屈曲振動層および伸縮振動層の各層数比と速度対推力の関係を示すグラフである。図5に示す関係は、シミュレーションにより算出できる。
【0021】
図5に示すように、たとえば、屈曲振動層3aの駆動層数の、伸縮振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下である場合には、屈曲振動層3aの影響が大きく、高速度で駆動可能な超音波モータを実現できる。一方、伸縮振動層3bの駆動層数の、屈曲振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下である場合には、伸縮振動層3bの影響が大きく、大きな推力で駆動可能な超音波モータ10を実現できる。このように、伸縮振動と屈曲振動の積層比を調整することで、所望の速度と推力が得られる。
【0022】
図6(a)は、屈曲振動層上の電極パターンF1を示す平面図である。駆動電極4a、4bは、それぞれ概ね主面の2分の1の面積に等分されている。そして、それぞれ圧電振動子1の側面に露出する取り出し部分を有している。たとえば駆動電極4aには所定の交流電圧が印加され、駆動電極4bには駆動電極4aへの印加電圧とは位相がπ/2異なる電圧を印加する。
【0023】
図6(b)は、グランド電極のパターンGNDを示す平面図である。グランド電極4cと駆動電極4a、4bまたは4dとの間に電界が生じることで、その間の圧電層1bが変位する。図6(c)は、伸縮振動層上の電極パターンL1を示す平面図である。駆動電極4dは、一面にわたる矩形形状に形成されている。
【0024】
駆動電極4a、4b、4dは、外部電極により入力端子に接続されている。また、グランド電極4cは、外部電極により接地端子に接続されている。スルーホールを用いず外部接続にすることにより動作活性層体積比率を大きくし、動作に寄与しない不活性層体積比率を少なくすることができる。たとえば駆動電極4dには、駆動電極4aと同じ電圧が印加される。
【0025】
図7は、超音波モータ10の駆動層上の電極に対する配線を示す図である。図7に示すように、超音波モータ10において、駆動層上には、矩形の圧電層1bの一方の主面を2分割するように、駆動電極4aと駆動電極4bとが設けられている。そして、駆動層の他方の主面にはグランド電極4cが設けられ、接地されている。駆動電極4a、4bは、互いに絶縁された状態で個別に設けられる。
【0026】
超音波モータ10の駆動回路は、2つの交流電圧源5a、5bによって構成される。交流電圧源5aは、駆動電極4dにV0sinωtの電圧を印加している。図2に示すように長手方向に伸縮する伸縮1次振動モードの振動が発生する。
【0027】
また、交流電圧源5aは、駆動電極4aにV0sinωtの電圧を印加し、交流電圧源5bは、電極4bにV0cosωtの電圧を印加する。このように、圧電振動子1の駆動電極4a、4bに対して位相がπ/2ずれた電圧V0sinωtおよびV0cosωtが印加されると、圧電振動子1には、図3に示すように、幅方向(剪断方向)で屈曲する屈曲1次振動モードの振動が発生する。
【0028】
そして、伸縮1次振動モードの共振周波数と、屈曲1次振動モードの共振周波数とが等しいときに、両振動モードが合成(縮退)され、圧電振動子1のチップには楕円振動が発生する。なお、電圧V0sinωtとV0cosωtとは、それぞれ第1の交流電圧と第2の交流電圧とに該当する。両者が入れ替わっても何ら問題はない。
【0029】
なお、上記の例では、屈曲1次振動モードにつき2相信号入力の構成を説明しているが、1相信号入力の構成を採ってもよい。この場合、一方の駆動電極4aに、交流電圧源5aによってV0sinωtの交流信号を印加し、他方の駆動電極4bを開放状態とすることで動作させることも可能である。
【0030】
(駆動調整)
超音波モータ10については特に以下のような駆動調整が好適である。まず、最初に伸縮振動層3bへ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させる。そして、伸縮振動層3bへの電圧印加開始後に、屈曲振動層3aへ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させる。このようにして、2つのステップにより滑らかな駆動を可能にする。これにより滑らかに動作電圧を変化させて、動作の追随性を向上させるとともに、摩擦磨耗特性を向上させ、超音波モータ10の寿命を長くすることができる。
【0031】
(実施例1)
超音波モータ10を用いた位置決め装置を作製し、上記の駆動方法で駆動調整を行わない場合と駆動調整を行う場合について指示値x0への現在値xの追随性について試験を行った。図8は、駆動調整しないときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。図8に示すように、駆動調整しないときには、指示値x0と現在値xとが乖離しやすく、偏差Δxが大きくなっている。
【0032】
一方、図9は、駆動調整したときの位置決め装置の指示への追随性を示すグラフである。図9に示すように、駆動調整を行うことで、ほとんど偏差Δxを生じさせず指示値x0に対する現在値xが一致した。
【0033】
(実施例2)
また、駆動調整を行わない場合と行う場合について位置決め装置を所定時間、運転を続けたところ、パーティクル数に差が生じた。図10は、駆動調整しないときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。パーティクルの径ごとにパーティクル発生数を記録した。図10に示すように駆動調整しないときには、10分程度の運転によりパーティクルが増加している。
【0034】
一方、図11は、駆動調整したときの時間に対するパーティクル数の変化を示すグラフである。この場合には、20分以上の運転にも関わらずパーティクル数の増加は見られなかった。
【0035】
以上の実施例より、超音波モータ10を駆動調整しつつ駆動することで、指示に対する追随性を向上させるとともに、パーティクルの発生を防止し耐久性を向上させることが実証された。
【符号の説明】
【0036】
1 圧電振動子
1b 圧電層
2 摺動チップ
3a 屈曲振動層
3b 伸縮振動層
4a、4b 駆動電極
4c グランド電極
4d 駆動電極
5a、5b 交流電圧源
10 超音波モータ
x 現在値
x0 指示値
Δx 偏差
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータであって、
屈曲1次振動で駆動する屈曲振動層と、
前記屈曲振動層に対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する伸縮振動層と、を備えることを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記屈曲振動層の駆動層数の、前記伸縮振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記伸縮振動層の駆動層数の、前記屈曲振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の超音波モータの駆動方法であって、
最初に前記伸縮振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、
前記伸縮振動層への電圧印加開始後に、前記屈曲振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、を含み、
前記2つのステップにより滑らかな駆動を可能にすることを特徴とする超音波モータの駆動方法。
【請求項1】
圧電層と電極とが交互に積層され、電圧の印加により駆動する超音波モータであって、
屈曲1次振動で駆動する屈曲振動層と、
前記屈曲振動層に対して並列に積層され、伸縮1次振動で駆動する伸縮振動層と、を備えることを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記屈曲振動層の駆動層数の、前記伸縮振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記伸縮振動層の駆動層数の、前記屈曲振動層の駆動層数に対する比が、1以上9以下であることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の超音波モータの駆動方法であって、
最初に前記伸縮振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、
前記伸縮振動層への電圧印加開始後に、前記屈曲振動層へ電圧を印加し、徐々に印加電圧を上昇させるステップと、を含み、
前記2つのステップにより滑らかな駆動を可能にすることを特徴とする超音波モータの駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−75258(P2012−75258A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218729(P2010−218729)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
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