超音波モータ及び超音波モータの駆動方法
【課題】超音波モータの始動時において不感帯があるために最低駆動電圧以上の電圧信号を圧電素子に印加しない限り駆動しない。その為、始動時の圧電素子に印加する電圧は大きい電圧が入力されることになり、低い速度にて動かすことができない
【解決手段】一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータにおいて、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号を異なる電圧信号にする。
【解決手段】一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータにおいて、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号を異なる電圧信号にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体やバイオ分野、光学分野において、精密な移動精度を要する半導体製造・検査装置や光学装置に使用される高精度位置決めを要する超音波モータ及び超音波モータの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブミクロン単位の精密な移動精度を要する磁気ヘッド検査装置や半導体分野及び光学分野の検査装置において、超音波モータの振動により被駆動体に推力を加え、被駆動体を目標位置に微小位置決めすることが可能な位置決め装置が数多く使用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には主面が正方形で一定の厚さを有する圧電素子を用い、その一側面に摺動部材が設けられ、この摺動部材にスライダ(被駆動体)が当接している超音波モータ装置が示されている。この圧電素子は片面が2分割した駆動電極で形成され、この面と反対側の面は共通電極で形成されていて、共通電極は接地電位に保持されている。そして、2分割した駆動電極の片方の電極に正弦波等の電圧が印加される(他方の電極は開放状態)ことによって圧電素子が駆動し、圧電素子の側面に取り付けた摺動部材の先端部が楕円運動する。この超音波モータ装置の駆動によりスライダ(被駆動体)が目標位置に移動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−33788
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように摩擦駆動により被駆動体を目標位置に移動させる超音波モータは、超音波モータの始動時に一定以上の電圧を印加するまで駆動することができない不感帯が存在する。このため、始動時や超音波モータに印加する電圧信号を反転させた直後において、暫く時間を経過した後でなければ超音波モータが駆動しないことになり、遅れが生じる原因となる。このことにより目標位置への移動指示に対しての追従性能が低下し、且つ被駆動体を超音波モータによって目標位置まで正確に移動させることができないという問題があった。
【0006】
特許文献1は1つの圧電素子からなる超音波モータであるが、被駆動体に加わる推力を大きくするために複数個の圧電素子からなる1つの超音波モータにて駆動することも行われている。図1は従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。図2は従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図である。図1では−Vから+Vまでの電圧を加えて、図2で速度が-νmaxからνmaxへ変化しているが、これは動作の概念を分かりやすく説明するためのものである。圧電素子に印加する電圧信号は交流で実際の方向の切り替えは、駆動方向を切り替える信号にて行っている。ここで言う印加電圧とは、切替信号による駆動方向の正負と圧電素子に印加する交流信号の振幅を乗算したものである。そして、図3は従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化、および超音波モータの動作速度を示す説明図である。例えば2個の圧電素子からなる超音波モータにおいて、超音波モータの始動時(圧電素子の駆動電極への印加電圧が0V)から両方の圧電素子に図1で示すような同じ電圧信号を印加すると、図2の斜線で示す領域である不感帯では超音波モータは全く駆動しない。この時、超音波モータは最低駆動電圧V0以上の電圧信号を圧電素子の駆動電極に印加しない限り駆動することはない。図3では横軸の印加電圧が最低駆動電圧V0になった時にνminの速度で超音波モータが駆動し始め、その後は圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号の大きさに比例して超音波モータの速度が速くなっている。図3は図2での不感帯の時と不感帯以外の時の超音波モータの速度を示しており、不感帯では超音波モータの速度が0なのに対して、不感帯以外では±νmin以上の速度で駆動することを矢印にて示している。ここで、−νmin以上の速度とは、超音波モータを進行させるべき順方向への速度を+の速度とすると、進行方向と逆方向へνmin以上の速度であることを表す。
【0007】
このように1つの圧電素子からなる超音波モータに限らず、複数個の圧電素子からなる超音波モータにおいても不感帯時に最低駆動電圧V0以上の電圧信号を圧電素子の駆動電極に印加しない限り駆動しないという問題がある。又、図3で示されるように、超音波モータは、0〜νmin、−νmin〜0の間の低い速度にて動かすことができないために、精密位置決め装置のようなナノレベルの誤差で高精度位置決めが求められる場合に、目標位置に正確に移動させることができない。
【0008】
更に、精密位置決め装置での使用では、超音波モータが具備する圧電素子への印加電圧と超音波モータの速度との関係が図3に示すように非線形となるため、サーボコントロール時にフィードフォワード処理がしにくいという問題もある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、摩擦駆動にて被駆動体を駆動する超音波モータにおいて、不感帯を小さく若しくは無くすことで、始動時や超音波モータに印加する電圧信号を反転させた時の遅れを改善すると共に、低速での駆動を可能とし、目標位置への移動指示に対しての追従性能や位置決め性能を向上させた超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータであり、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号が異なることを特徴としている。
【0011】
又、好適には、少なくとも1個の圧電素子を停止させることを特徴としている。
【0012】
又、好適には、少なくとも1個の圧電素子を被駆動体の駆動方向に対して逆方向に駆動することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、摩擦駆動によって被駆動体を駆動する超音波モータの不感帯を小さくするか、或いはなくすことができ、低速度での超音波モータの駆動やサーボコントロール時のフィードフォワード処理が容易になる。その結果、高精度な精密位置決めが実現可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図2】従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図である。
【図3】従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化、および超音波モータの動作速度を示す説明図である。
【図4】本発明に係る超音波モータの一例を示す概略図である。
【図5】本発明に係る超音波モータの別の一例を示す概略図である。
【図6】本発明に係る超音波モータによる精密位置決め装置の一例を示す概略図である。
【図7】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図8】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【図9】本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した一例を示す説明図である。
【図10】本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した一例を示す説明図である。
【図11】本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時と、異なる電圧信号を印加した時の駆動速度の関係を示す説明図の一例である。
【図12】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図13】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【図14】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図15】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【図16】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図17】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図4は本発明に係る超音波モータの一例を示す概略図である。そして、図4の(a)は本発明に係る超音波モータの一例と被駆動体を示す概略図であり、図4の(b)は本発明に係る超音波モータの一例を示す概略図である。図4にて本発明の特徴を説明する。
【0016】
本発明の超音波モータ1は2個以上の矩形型の形状をした圧電素子(矩形型圧電素子4)を内部ケース5の内部に一定の空間を空けて配列するように組み込んでいる。矩形型圧電素子4は主面の片方の面に1つ以上の駆動電極が形成されている。矩形型圧電素子4は主面の他方の面は共通電極であり、接地電位に保持されている。矩形型圧電素子4の側面2には摺動チップ3がエポキシ系樹脂接着剤により接着されている。ここで、矩形型圧電素子4と摺動チップ3が強固に接着されるにはできれば接着強度の大きいエポキシ系樹脂接着剤を使用することが好ましい。又、摺動チップ3は被駆動体7との接触によって磨耗粉が発生するのを防ぐためにアルミナ等の硬度の大きいセラミックスを使用することが好ましい。内部ケース5は外部ケース6の内部に組み込まれ、内部ケース5の背面と外部ケース6の間にある図示しないバネにより矩形型圧電素子4を組み込んだ内部ケース5は押圧されて摺動チップ3の先端部が被駆動体7に当接する。
【0017】
矩形型圧電素子4の駆動電極に正弦波等の電圧信号を印加すると、矩形型圧電素子4が駆動して摺動チップ3の先端部が楕円運動する。このことにより、摺動チップ3の先端部に当接している被駆動体7が矩形型圧電素子4の駆動方向と同一方向に移動することになる。ここで、図面には図示していないが、駆動電極は図示しない交流電源と結線されている。図4では超音波モータ1には2個の矩形型圧電素子4が組み込まれており、1個の矩形型圧電素子4に対して2倍の推力にて被駆動体7を移動させることができる。
【0018】
次に本発明の超音波モータに関して別の一例を下記に示す。図5は本発明に係る超音波モータの別の一例を示す概略図である。そして、図5の(a)は本発明に係る超音波モータの別の一例と被駆動体を示す概略図であり、図5の(b)は本発明に係る超音波モータの別の一例を示す概略図である。図5の基本構造は図4と変わらないが、図4は超音波モータ1に2個の矩形型圧電素子4が組み込まれているのに対して、図5には超音波モータ1に3個の矩形型圧電素子4が組み込まれている。従って1個の矩形型圧電素子4に対して3倍の推力にて被駆動体7を移動させることができる。
【0019】
図6は本発明に係る超音波モータによる精密位置決め装置の一例を示す概略図であり、図4、図5等の本発明に係る超音波モータを使用して精密位置決めを行う時の概略図を示している。本発明の超音波モータ1を設置した駆動機構9により、ガイドレール8上を移動する被駆動体7を目標位置まで移動させるものである。具体的には矩形型圧電素子4の駆動電極に正弦波等の電圧信号を印加すると、矩形型圧電素子4が駆動して摺動チップ3の先端部が楕円運動して、摺動チップ3の先端部に当接している被駆動体7が矩形型圧電素子4の駆動方向と同一方向に移動するものである。
【0020】
次に従来の超音波モータにおいて、不感帯時に最低駆動電圧V0以下の電圧信号を圧電素子の駆動電極に印加した際駆動せず、V0以上の電圧信号を印加すると急にνminの速度で動き出すという問題が発生していたが、この問題を解決するための超音波モータの駆動方法について以下に示す。
【0021】
図7は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、2個の矩形型圧電素子が組み込まれている超音波モータにおいて、各々の矩形型圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号が印加されている。矩形型圧電素子の一方には実線で示した電圧信号が印加され、矩形型圧電素子の他方には点線で示した電圧信号が印加されていて、圧電素子2の駆動電極に印加される点線で示した電圧信号は圧電素子1の駆動電極に印加される実線で示した電圧信号よりも印加する電圧値を小さくしている(点線で示した圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号の傾きの方が緩やかになっている)。図8は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、具体的には図7の2種類の電圧信号を各々の矩形型圧電素子の駆動電極に印加した時の超音波モータの速度の変化を示している。図8にて超音波モータが駆動し始める始動電圧である最低駆動電圧V0は、図2および図3にて示した矩形型圧電素子の両方の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時と比較して若干大きい電圧値になっているが、図8の矢印で示すように、図2および図3での両方の圧電素子に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータが駆動する速度(駆動速度)νmin、若しくは−νminよりも低速での駆動が可能になった。
【0022】
上記の例では、点線で示した電圧信号では動き始めの時点で圧電素子の駆動電極に印加される電圧信号が小さく、圧電素子を駆動できないレベルにある。このとき圧電素子に電圧を印加していなければ、圧電素子が与圧により被駆動体に常に接した状態となり摩擦力が大きい為、超音波モータは被駆動体を駆動できない。しかし、上記例で述べているような信号を印加すると、点線で示した電圧信号を印加された圧電素子は被駆動体を駆動できる推力は発生しないが、被駆動体と接触したり離れたりを繰り返す。このためブレーキとして働き超音波モータが駆動する速度(駆動速度)νmin、若しくは−νminよりも低速での駆動が可能になる。
【0023】
図4および図5のように複数個の圧電素子が組み込まれている超音波モータにおいて、各々の矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号が異なることによって、超音波モータが被駆動体を駆動する時の速度が低くなることを下記に示す。図9は本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の各圧電素子に印加する電圧信号の一例を示す説明図である。図10は本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の各圧電素子に印加する電圧信号の一例を示す説明図である。図11は本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時と、異なる電圧信号を印加した時の駆動速度の関係を示す説明図の一例である。そして、図9〜図11は超音波モータが具備する圧電素子の数を3個とした実施例である。ここで言う制御信号とはモータを駆動するための駆動回路に印加する信号を表している。具体的には図9で示されるように3個の矩形型圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの駆動速度を示すのが、図11にて実線で示されている「変更前」のグラフである。一方、図10で示されるように3個の矩形型圧電素子の内、1個の矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧値を小さくして、他の2個の矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧値を図9で矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と同一とした時の超音波モータの駆動速度を示すのが、図11にて点線で示されている「変更後」のグラフである。図11にて示されるように「変更後」の方が「変更前」よりも超音波モータの始動時における駆動速度が低くなっている。このことから、複数個の圧電素子を具備する超音波モータの各圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号を異なる信号とすることにより超音波モータの始動時における駆動速度が低くできることは明らかである。
【0024】
又、超音波モータの始動時における駆動速度が低くできる別の方法を下記に示す。図12は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、具体的には超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子の駆動電極に各々異なる電圧信号が印加されていることを示している。この時、矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧の絶対値は超音波モータが駆動し始める始動電圧である最低駆動電圧V0以上にする必要がある。もし、最低駆動電圧V0より低電圧を印加した場合は不感帯の範囲内であるので、超音波モータが駆動されない。又、図12では2個の矩形型圧電素子の内、実線で示される圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号に対して、点線で示される圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は実線で示される圧電素子1の電圧信号をおおよそ反転させたような電圧信号になる。つまり、圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号に対して、他方の圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は逆方向の電圧信号を印加している。ただし、この例では圧電素子2に印加する電圧信号は圧電素子1に印加する電圧信号とは異なり時間により単純増加、減少させていない。
【0025】
図13は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、具体的には図12における異なる2種類の電圧信号を超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子の駆動電極に各々印加した時の超音波モータの駆動速度が示されている。この時、圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号に対して、他方の圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は逆方向の電圧信号を印加しているので、2個の圧電素子の推力が同じになる箇所にて速度を0にすることができ、このことで超音波モータの速度を低速にすることができる。
【0026】
図14は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、図12において圧電素子1と圧電素子2に印加する電圧信号が負電圧から正電圧、或いは正電圧から負電圧に切り替るまでの時間を短縮したものである。図15は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、図14のように圧電素子1と圧電素子2に印加する電圧信号が負電圧から正電圧、或いは正電圧から負電圧に切り替るまでの時間を短縮することによって超音波モータの駆動速度を不感帯の少ない、ほぼ直線状の特性に近づけることができる。
【0027】
図16は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子に各々異なる電圧信号が印加されている。図16では実線で示される圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号が正電圧なのに対して、点線で示される圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は一定値の負電圧となっている。この時、矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧の絶対値は超音波モータが駆動し始める始動電圧である最低駆動電圧V0以上にする必要がある。もし、最低駆動電圧V0より低電圧を印加した場合は不感帯の範囲内であるので、超音波モータが駆動されない。そして、このような図16のような電圧信号を圧電素子に印加することによって、駆動電極に一定値の負電圧の電圧信号を印加されている一方の圧電素子は、常に同じ推力にて超音波モータの駆動する方向と逆方向に駆動している。2個の圧電素子の推力が同じになると超音波モータは停止する。
【0028】
図17は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、図16における異なる2種類の電圧信号を超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子の駆動電極に各々印加した時の超音波モータの駆動速度が示されている。図16のような電圧信号が印加されることによって、図17で示されるように超音波モータの駆動方向は順方向若しくは逆方向に駆動される。そして、図17では不感帯がなくなり、超音波モータを低速で駆動することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 超音波モータ
2 側面
3 摺動チップ
4 矩形型圧電素子
5 内部ケース
6 外部ケース
7 被駆動体
8 ガイドレール
9 駆動機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体やバイオ分野、光学分野において、精密な移動精度を要する半導体製造・検査装置や光学装置に使用される高精度位置決めを要する超音波モータ及び超音波モータの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブミクロン単位の精密な移動精度を要する磁気ヘッド検査装置や半導体分野及び光学分野の検査装置において、超音波モータの振動により被駆動体に推力を加え、被駆動体を目標位置に微小位置決めすることが可能な位置決め装置が数多く使用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には主面が正方形で一定の厚さを有する圧電素子を用い、その一側面に摺動部材が設けられ、この摺動部材にスライダ(被駆動体)が当接している超音波モータ装置が示されている。この圧電素子は片面が2分割した駆動電極で形成され、この面と反対側の面は共通電極で形成されていて、共通電極は接地電位に保持されている。そして、2分割した駆動電極の片方の電極に正弦波等の電圧が印加される(他方の電極は開放状態)ことによって圧電素子が駆動し、圧電素子の側面に取り付けた摺動部材の先端部が楕円運動する。この超音波モータ装置の駆動によりスライダ(被駆動体)が目標位置に移動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−33788
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように摩擦駆動により被駆動体を目標位置に移動させる超音波モータは、超音波モータの始動時に一定以上の電圧を印加するまで駆動することができない不感帯が存在する。このため、始動時や超音波モータに印加する電圧信号を反転させた直後において、暫く時間を経過した後でなければ超音波モータが駆動しないことになり、遅れが生じる原因となる。このことにより目標位置への移動指示に対しての追従性能が低下し、且つ被駆動体を超音波モータによって目標位置まで正確に移動させることができないという問題があった。
【0006】
特許文献1は1つの圧電素子からなる超音波モータであるが、被駆動体に加わる推力を大きくするために複数個の圧電素子からなる1つの超音波モータにて駆動することも行われている。図1は従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。図2は従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図である。図1では−Vから+Vまでの電圧を加えて、図2で速度が-νmaxからνmaxへ変化しているが、これは動作の概念を分かりやすく説明するためのものである。圧電素子に印加する電圧信号は交流で実際の方向の切り替えは、駆動方向を切り替える信号にて行っている。ここで言う印加電圧とは、切替信号による駆動方向の正負と圧電素子に印加する交流信号の振幅を乗算したものである。そして、図3は従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化、および超音波モータの動作速度を示す説明図である。例えば2個の圧電素子からなる超音波モータにおいて、超音波モータの始動時(圧電素子の駆動電極への印加電圧が0V)から両方の圧電素子に図1で示すような同じ電圧信号を印加すると、図2の斜線で示す領域である不感帯では超音波モータは全く駆動しない。この時、超音波モータは最低駆動電圧V0以上の電圧信号を圧電素子の駆動電極に印加しない限り駆動することはない。図3では横軸の印加電圧が最低駆動電圧V0になった時にνminの速度で超音波モータが駆動し始め、その後は圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号の大きさに比例して超音波モータの速度が速くなっている。図3は図2での不感帯の時と不感帯以外の時の超音波モータの速度を示しており、不感帯では超音波モータの速度が0なのに対して、不感帯以外では±νmin以上の速度で駆動することを矢印にて示している。ここで、−νmin以上の速度とは、超音波モータを進行させるべき順方向への速度を+の速度とすると、進行方向と逆方向へνmin以上の速度であることを表す。
【0007】
このように1つの圧電素子からなる超音波モータに限らず、複数個の圧電素子からなる超音波モータにおいても不感帯時に最低駆動電圧V0以上の電圧信号を圧電素子の駆動電極に印加しない限り駆動しないという問題がある。又、図3で示されるように、超音波モータは、0〜νmin、−νmin〜0の間の低い速度にて動かすことができないために、精密位置決め装置のようなナノレベルの誤差で高精度位置決めが求められる場合に、目標位置に正確に移動させることができない。
【0008】
更に、精密位置決め装置での使用では、超音波モータが具備する圧電素子への印加電圧と超音波モータの速度との関係が図3に示すように非線形となるため、サーボコントロール時にフィードフォワード処理がしにくいという問題もある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、摩擦駆動にて被駆動体を駆動する超音波モータにおいて、不感帯を小さく若しくは無くすことで、始動時や超音波モータに印加する電圧信号を反転させた時の遅れを改善すると共に、低速での駆動を可能とし、目標位置への移動指示に対しての追従性能や位置決め性能を向上させた超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータであり、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号が異なることを特徴としている。
【0011】
又、好適には、少なくとも1個の圧電素子を停止させることを特徴としている。
【0012】
又、好適には、少なくとも1個の圧電素子を被駆動体の駆動方向に対して逆方向に駆動することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、摩擦駆動によって被駆動体を駆動する超音波モータの不感帯を小さくするか、或いはなくすことができ、低速度での超音波モータの駆動やサーボコントロール時のフィードフォワード処理が容易になる。その結果、高精度な精密位置決めが実現可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図2】従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図である。
【図3】従来の超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化、および超音波モータの動作速度を示す説明図である。
【図4】本発明に係る超音波モータの一例を示す概略図である。
【図5】本発明に係る超音波モータの別の一例を示す概略図である。
【図6】本発明に係る超音波モータによる精密位置決め装置の一例を示す概略図である。
【図7】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図8】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【図9】本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した一例を示す説明図である。
【図10】本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した一例を示す説明図である。
【図11】本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時と、異なる電圧信号を印加した時の駆動速度の関係を示す説明図の一例である。
【図12】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図13】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【図14】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図15】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【図16】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例である。
【図17】本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図4は本発明に係る超音波モータの一例を示す概略図である。そして、図4の(a)は本発明に係る超音波モータの一例と被駆動体を示す概略図であり、図4の(b)は本発明に係る超音波モータの一例を示す概略図である。図4にて本発明の特徴を説明する。
【0016】
本発明の超音波モータ1は2個以上の矩形型の形状をした圧電素子(矩形型圧電素子4)を内部ケース5の内部に一定の空間を空けて配列するように組み込んでいる。矩形型圧電素子4は主面の片方の面に1つ以上の駆動電極が形成されている。矩形型圧電素子4は主面の他方の面は共通電極であり、接地電位に保持されている。矩形型圧電素子4の側面2には摺動チップ3がエポキシ系樹脂接着剤により接着されている。ここで、矩形型圧電素子4と摺動チップ3が強固に接着されるにはできれば接着強度の大きいエポキシ系樹脂接着剤を使用することが好ましい。又、摺動チップ3は被駆動体7との接触によって磨耗粉が発生するのを防ぐためにアルミナ等の硬度の大きいセラミックスを使用することが好ましい。内部ケース5は外部ケース6の内部に組み込まれ、内部ケース5の背面と外部ケース6の間にある図示しないバネにより矩形型圧電素子4を組み込んだ内部ケース5は押圧されて摺動チップ3の先端部が被駆動体7に当接する。
【0017】
矩形型圧電素子4の駆動電極に正弦波等の電圧信号を印加すると、矩形型圧電素子4が駆動して摺動チップ3の先端部が楕円運動する。このことにより、摺動チップ3の先端部に当接している被駆動体7が矩形型圧電素子4の駆動方向と同一方向に移動することになる。ここで、図面には図示していないが、駆動電極は図示しない交流電源と結線されている。図4では超音波モータ1には2個の矩形型圧電素子4が組み込まれており、1個の矩形型圧電素子4に対して2倍の推力にて被駆動体7を移動させることができる。
【0018】
次に本発明の超音波モータに関して別の一例を下記に示す。図5は本発明に係る超音波モータの別の一例を示す概略図である。そして、図5の(a)は本発明に係る超音波モータの別の一例と被駆動体を示す概略図であり、図5の(b)は本発明に係る超音波モータの別の一例を示す概略図である。図5の基本構造は図4と変わらないが、図4は超音波モータ1に2個の矩形型圧電素子4が組み込まれているのに対して、図5には超音波モータ1に3個の矩形型圧電素子4が組み込まれている。従って1個の矩形型圧電素子4に対して3倍の推力にて被駆動体7を移動させることができる。
【0019】
図6は本発明に係る超音波モータによる精密位置決め装置の一例を示す概略図であり、図4、図5等の本発明に係る超音波モータを使用して精密位置決めを行う時の概略図を示している。本発明の超音波モータ1を設置した駆動機構9により、ガイドレール8上を移動する被駆動体7を目標位置まで移動させるものである。具体的には矩形型圧電素子4の駆動電極に正弦波等の電圧信号を印加すると、矩形型圧電素子4が駆動して摺動チップ3の先端部が楕円運動して、摺動チップ3の先端部に当接している被駆動体7が矩形型圧電素子4の駆動方向と同一方向に移動するものである。
【0020】
次に従来の超音波モータにおいて、不感帯時に最低駆動電圧V0以下の電圧信号を圧電素子の駆動電極に印加した際駆動せず、V0以上の電圧信号を印加すると急にνminの速度で動き出すという問題が発生していたが、この問題を解決するための超音波モータの駆動方法について以下に示す。
【0021】
図7は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、2個の矩形型圧電素子が組み込まれている超音波モータにおいて、各々の矩形型圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号が印加されている。矩形型圧電素子の一方には実線で示した電圧信号が印加され、矩形型圧電素子の他方には点線で示した電圧信号が印加されていて、圧電素子2の駆動電極に印加される点線で示した電圧信号は圧電素子1の駆動電極に印加される実線で示した電圧信号よりも印加する電圧値を小さくしている(点線で示した圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号の傾きの方が緩やかになっている)。図8は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、具体的には図7の2種類の電圧信号を各々の矩形型圧電素子の駆動電極に印加した時の超音波モータの速度の変化を示している。図8にて超音波モータが駆動し始める始動電圧である最低駆動電圧V0は、図2および図3にて示した矩形型圧電素子の両方の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時と比較して若干大きい電圧値になっているが、図8の矢印で示すように、図2および図3での両方の圧電素子に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータが駆動する速度(駆動速度)νmin、若しくは−νminよりも低速での駆動が可能になった。
【0022】
上記の例では、点線で示した電圧信号では動き始めの時点で圧電素子の駆動電極に印加される電圧信号が小さく、圧電素子を駆動できないレベルにある。このとき圧電素子に電圧を印加していなければ、圧電素子が与圧により被駆動体に常に接した状態となり摩擦力が大きい為、超音波モータは被駆動体を駆動できない。しかし、上記例で述べているような信号を印加すると、点線で示した電圧信号を印加された圧電素子は被駆動体を駆動できる推力は発生しないが、被駆動体と接触したり離れたりを繰り返す。このためブレーキとして働き超音波モータが駆動する速度(駆動速度)νmin、若しくは−νminよりも低速での駆動が可能になる。
【0023】
図4および図5のように複数個の圧電素子が組み込まれている超音波モータにおいて、各々の矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号が異なることによって、超音波モータが被駆動体を駆動する時の速度が低くなることを下記に示す。図9は本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の各圧電素子に印加する電圧信号の一例を示す説明図である。図10は本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の各圧電素子に印加する電圧信号の一例を示す説明図である。図11は本発明に係る超音波モータが具備する複数個の圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時と、異なる電圧信号を印加した時の駆動速度の関係を示す説明図の一例である。そして、図9〜図11は超音波モータが具備する圧電素子の数を3個とした実施例である。ここで言う制御信号とはモータを駆動するための駆動回路に印加する信号を表している。具体的には図9で示されるように3個の矩形型圧電素子の駆動電極に同一の電圧信号を印加した時の超音波モータの駆動速度を示すのが、図11にて実線で示されている「変更前」のグラフである。一方、図10で示されるように3個の矩形型圧電素子の内、1個の矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧値を小さくして、他の2個の矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧値を図9で矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と同一とした時の超音波モータの駆動速度を示すのが、図11にて点線で示されている「変更後」のグラフである。図11にて示されるように「変更後」の方が「変更前」よりも超音波モータの始動時における駆動速度が低くなっている。このことから、複数個の圧電素子を具備する超音波モータの各圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号を異なる信号とすることにより超音波モータの始動時における駆動速度が低くできることは明らかである。
【0024】
又、超音波モータの始動時における駆動速度が低くできる別の方法を下記に示す。図12は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、具体的には超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子の駆動電極に各々異なる電圧信号が印加されていることを示している。この時、矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧の絶対値は超音波モータが駆動し始める始動電圧である最低駆動電圧V0以上にする必要がある。もし、最低駆動電圧V0より低電圧を印加した場合は不感帯の範囲内であるので、超音波モータが駆動されない。又、図12では2個の矩形型圧電素子の内、実線で示される圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号に対して、点線で示される圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は実線で示される圧電素子1の電圧信号をおおよそ反転させたような電圧信号になる。つまり、圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号に対して、他方の圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は逆方向の電圧信号を印加している。ただし、この例では圧電素子2に印加する電圧信号は圧電素子1に印加する電圧信号とは異なり時間により単純増加、減少させていない。
【0025】
図13は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、具体的には図12における異なる2種類の電圧信号を超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子の駆動電極に各々印加した時の超音波モータの駆動速度が示されている。この時、圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号に対して、他方の圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は逆方向の電圧信号を印加しているので、2個の圧電素子の推力が同じになる箇所にて速度を0にすることができ、このことで超音波モータの速度を低速にすることができる。
【0026】
図14は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、図12において圧電素子1と圧電素子2に印加する電圧信号が負電圧から正電圧、或いは正電圧から負電圧に切り替るまでの時間を短縮したものである。図15は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、図14のように圧電素子1と圧電素子2に印加する電圧信号が負電圧から正電圧、或いは正電圧から負電圧に切り替るまでの時間を短縮することによって超音波モータの駆動速度を不感帯の少ない、ほぼ直線状の特性に近づけることができる。
【0027】
図16は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に印加した電圧信号の一例であり、超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子に各々異なる電圧信号が印加されている。図16では実線で示される圧電素子1の駆動電極に印加される電圧信号が正電圧なのに対して、点線で示される圧電素子2の駆動電極に印加される電圧信号は一定値の負電圧となっている。この時、矩形型圧電素子の駆動電極に印加する電圧の絶対値は超音波モータが駆動し始める始動電圧である最低駆動電圧V0以上にする必要がある。もし、最低駆動電圧V0より低電圧を印加した場合は不感帯の範囲内であるので、超音波モータが駆動されない。そして、このような図16のような電圧信号を圧電素子に印加することによって、駆動電極に一定値の負電圧の電圧信号を印加されている一方の圧電素子は、常に同じ推力にて超音波モータの駆動する方向と逆方向に駆動している。2個の圧電素子の推力が同じになると超音波モータは停止する。
【0028】
図17は本発明に係る超音波モータが具備する圧電素子の駆動電極に異なる電圧信号を印加した時の超音波モータの速度の変化を示す説明図の一例であり、図16における異なる2種類の電圧信号を超音波モータが具備する2個の矩形型圧電素子の駆動電極に各々印加した時の超音波モータの駆動速度が示されている。図16のような電圧信号が印加されることによって、図17で示されるように超音波モータの駆動方向は順方向若しくは逆方向に駆動される。そして、図17では不感帯がなくなり、超音波モータを低速で駆動することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 超音波モータ
2 側面
3 摺動チップ
4 矩形型圧電素子
5 内部ケース
6 外部ケース
7 被駆動体
8 ガイドレール
9 駆動機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータであり、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号が異なることを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
少なくとも1個の圧電素子を停止させることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項3】
少なくとも1個の圧電素子を被駆動体の駆動方向に対して逆方向に駆動することを特徴とする請求項1および請求項2記載の超音波モータ。
【請求項4】
一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータにおいて、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号は、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と異なることを特徴とする超音波モータの駆動方法。
【請求項1】
一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータであり、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号が異なることを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
少なくとも1個の圧電素子を停止させることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項3】
少なくとも1個の圧電素子を被駆動体の駆動方向に対して逆方向に駆動することを特徴とする請求項1および請求項2記載の超音波モータ。
【請求項4】
一側面に摺動チップが1個以上接着され、1つ以上の駆動電極が形成された複数個の圧電素子と、複数個の圧電素子を保持するケースからなる超音波モータにおいて、少なくとも1個の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号は、他の圧電素子の駆動電極に印加する電圧信号と異なることを特徴とする超音波モータの駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−16138(P2012−16138A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149086(P2010−149086)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】
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