説明

超音波振動子

【課題】圧電素子ユニットの振動を効率良く外部に取り出すことが可能な小型で外締めタイプのランジュバン型超音波振動子を提供する。
【解決手段】圧電素子ユニット2の電極を外部に取り出すために裏打部材33に形成される貫通孔331を、その当接面33a側の開口が、裏打部材33の当接面33aの中心Oと貫通孔331の開口との最短距離(中心Oから開口における中心O側端までの距離)が、圧電素子ユニット2の半径長さの90%(0.9r)よりも大きく且つ100%(r)より小さくなるような位置に形成する。これと共に、圧電素子ユニット2を、貫通孔331を塞いでしまうことがなく、且つ、圧電素子ユニット2を構成する各圧電素子21の外周が、裏打部材33の当接面33aの中心から、圧電素子21の半径長さの110%(1.1r)以内に位置するように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の電気歪みにより超音波振動を発生させる超音波振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の圧電素子と電極端子板とを交互に積層してなる圧電素子ユニットを、金属ブロックからなる前面板と裏打板との間に配置する構造を有したランジュバン型超音波振動子が知られている。
【0003】
そして、圧電素子ユニットを固定する構造としては、圧電素子ユニットを構成する圧電素子や電極端子板をリング状に形成することで圧電素子ユニットの中心に貫通孔を形成し、この貫通孔にボルトを挿通させることで、これら圧電素子,電極端子板を一体に結合するボルト締めタイプのものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、医療用途では、例えば、歯石除去等で用いるハンディタイプの機器に適用するために、小型・小径の超音波振動子が強く望まれている。
しかし、圧電素子をリング状に形成する必要があるボルト締めタイプのランジュバン型超音波振動子では、圧電素子の外形寸法は、振動に必要な最小限の面積より、ボルトを挿通させる孔の面積を加えた分だけ大きくなり、圧電素子自体を十分に小型化することができず、ひいては、圧電素子ユニットを用いて構成される超音波振動子を十分に小型化することができないという問題があった。
【0005】
これに対して、前面板,裏打板と、一端に前面板、他端に裏打板が固定される筒状に形成された側面板とで構成され、前面板又は裏打板を、ハンダやカシメ、或いはネジ止めによって側面板に固定する構造を有し、側面板の内部に収納される圧電素子ユニットを前面板と裏打板とで挟持する外締めタイプのものも知られている(例えば、引用文献2〜4参照)。
【0006】
そして、圧電素子ユニットで発生させた振動を前面板の振動放射面に効率よく伝達するために、圧電素子ユニットは、通常、前面板や裏打板の中央に位置するように固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−236835号公報
【特許文献2】特開2003−199195号公報
【特許文献3】特開2004−160081号公報
【特許文献4】特開2003−264773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、裏打板には、圧電素子ユニットの電極を取り出すための貫通孔を設ける必要がある。
しかし、図9(a)に示すように、圧電素子ユニットM1の中心が裏打板M2の中心Oと一致するように固定すると、貫通孔M3を形成するためのスペースが圧電素子ユニットM1に当接する部位の外側の全周にわたって確保されることになるが、貫通孔M3を形成する部分以外はデッドスペースとなり、十分な小型化を達成することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するために、圧電素子ユニットの振動を効率良く外部に取り出すことが可能な小型で外締めタイプのランジュバン型超音波振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、前面部材および裏打部材により圧電素子ユニットを挟持した状態で側面部材内に収納する外締め構造の超音波振動子において、圧電素子の給電線を挿通させるために裏打部材に形成された貫通孔の開口が、圧電素子ユニットの非当接部位に位置し、裏打部材の中心と貫通孔の開口との最短距離が、圧電素子の積層方向に対して直交する面での該圧電素子の断面に内接する内接円の半径長さの90%よりも大きく且つ100%より小さいことを特徴とする。
【0011】
なお、圧電素子の断面形状は、円形,正多角形や点対称の形状等であることが望ましい。
このように構成された本発明の超音波振動子では、図9(b)に示すように、圧電素子の内接円M1の中心と裏打部材M2の中心Oとが一致するように固定する場合(図9(a)参照)と比較して、貫通孔M3が裏打部材M2の中心Oに寄った位置に形成されるため、裏打部材M2、ひいては当該超音波振動子を小型化することができる。
【0012】
しかも、圧電素子ユニットを、裏打部材の中心からのずれが10%以内、且つ、貫通孔を塞ぐことがない位置に配置することが可能であり、そのような配置を実現することによって、圧電素子ユニットが発生させる振動を効率良く取り出すことができる。
【0013】
ここで図8は、圧電素子ユニットの取付位置(裏打部材の中心からのずれ割合)と、圧電素子ユニットを裏打部材の中心に取り付けた時の振幅に対する振幅の減少割合を測定した結果を示すグラフである。但し、圧電素子(ひいては圧電素子ユニット)の断面形状は円形とした。図8に示すように、ずれ割合が10%以内であれば、先端振動(前面部材の振動取出面での振動)の減少割合を3%以内に抑えることができることがわかる。
【0014】
本発明において、圧電素子の断面形状が円形である場合、裏打部材の中心と圧電素子ユニットの外周との距離は、圧電素子の半径長さの110%以内であることが望ましい。この場合、圧電素子ユニットは、裏打部材の中心からのずれ割合が圧電素子の半径長さの10%以内となる位置に、確実に配置されることになる。
【0015】
本発明において、裏打部材は、圧電素子ユニットと一体化した状態で、側面部材に組み付けられていてもよい。
この場合、裏打部材に対して圧電素子ユニットを精度よく組み付けることで、側面部材や前面部材に対する圧電素子ユニットの取付精度を確保することができるため、組み付け作業を容易にすることができる。
【0016】
即ち、裏打部材と圧電素子ユニットとの一体化を、側面部材の外部で行うことができるため、位置合わせ用の組み立て治具等を使用することができ、その結果、必要な位置決め精度を容易に確保することができる。
【0017】
ところで、上述したように裏打部材と圧電素子ユニットとが予め一体化されている場合、これを側面部材や前面部材と一体化する際に、圧電素子ユニットと前面部材との密着性を確保する必要がある。
【0018】
そのためには、前面部材と圧電素子ユニットとの間に、板状又は箔状に形成され且つ圧電素子ユニットより優れた延性または展性を有する介在物を設けることが望ましい。
このような介在物を設ける場合、次の製造方法を用いることができる。
【0019】
即ち、裏打部材を、圧電素子ユニットと一体化した後で側面部材に固定し、板状又は箔状に形成され且つ圧電素子ユニットより優れた延性または展性を有する介在物を、前面部材と圧電素子ユニットとの間に介在させた状態で、前面部材と側面部材との組付けを行う。
【0020】
このように、圧電素子ユニットと前面部材との間に介在物を介在させることにより、前面部材と圧電素子ユニットとを直接当接させた場合と比較して、両者間の密着性を高めることができる。その結果、圧電素子ユニットが発生させた振動を、前面部材に効率よく伝達すること、即ち、振動特性を向上させることや、超音波振動子毎の振動特性のバラツキを抑制することができる。
【0021】
ところで、本発明の超音波振動子は、側面部材の前面部材が固定される側の内周面、及び、前面部材の外周面には、それぞれネジ部が形成され、ネジ部は一方が雄ネジ、他方が雌ネジであり、側面部材と前記前面部材とは、前記雌ネジと前記雄ネジとの螺合により固定される構造を有していてもよい。
【0022】
この場合、前面部材を側面部材に螺合する際に、介在物が前面部材と圧電素子ユニットとの間の摩擦を低下させ、圧電素子ユニットにねじれの応力が加わることを抑制するため、位置ずれや積層ずれを防止しつつ、圧電素子ユニットに対して適度な加重を与えることができる。つまり、介在物を設けることにより、ねじれの応力による影響が軽減されるため、安価なネジ止め構造を採用しても、精度の高い製造を行うことができる。
【0023】
また、このように前面部材と側面部材とをネジ止めする場合、更に、側面部材の軸方向に対して直交する断面での側面部材の中空部の断面形状を非円形に形成し、前面部材と圧電素子ユニットとの間に、板状に形成された第2の介在物を設けてもよい。但し、第2の介在物は、中空部内での側面部材の軸方向に沿った第2の介在物の移動を可能とし、且つ中空部内での軸方向に沿った回転軸まわりの第2の介在物の回転を阻止する形状に形成され、少なくとも前面部材と第2の介在物の間に介在物が存在するように配置する。
【0024】
このような第2の介在物を設ける場合、次の製造方法を用いることができる。
即ち、前面部材と側面部材との螺合を行う際に、少なくとも前面部材と第2の介在物の間に介在物を介在させる。
【0025】
このような第2の介在物を介在させることにより、前面部材によるねじ込み回転運動を直線的な運動に変換することができるため、位置ずれや積層ずれによる特性劣化や、平行度や密着性の低下による振動阻害をより一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】超音波振動子の全体構成を示す断面図である。
【図2】外装体を分解した状態で示す斜視図である。
【図3】圧電素子ユニットを分解した状態で示す斜視図である。
【図4】裏打部材の当接面における貫通孔の形成位置、及び圧電素子ユニットの配置を示す説明図である。
【図5】超音波振動子の製造方法を示す説明図である。
【図6】超音波振動子の他の実施形態を示す断面図である。
【図7】側面部材の断面形状、第2の介在物の外形の変形例を示す説明図である。
【図8】圧電素子ユニットの位置ずれと先端振動幅の減少との関係を示すグラフである。
【図9】従来の問題点、及び本発明の効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、歯石除去の医療用途等に使用されるハンディ型の超音波振動子1の全体構成を示す断面図である。
【0028】
図1に示すように、超音波振動子1は、通電により動作し超音波振動の発生源となる圧電素子ユニット2と、圧電素子ユニット2を収納すると共に、圧電素子ユニット2が発生させた超音波振動を放射する外装体3とからなる。
【0029】
[外装体]
図2は、分解した状態の外装体3の構成を示す斜視図である。
図2に示すように、外装体3は、円筒状に形成された側面部材31と、側面部材31の一方の開口端に固定される前面部材32と、側面部材31の他方の開口端に固定される裏打部材33とからなる。なお、側面部材31,前面部材32,裏打部材33は、耐食性に優れた金属(例えばTi,Ti合金,ステンレス等)を用いて構成されている。
【0030】
側面部材31には、少なくとも両端部おける内周壁に(本実施形態では内周壁の全体に渡って)雌ネジが形成され、更に、その内周壁の全体に絶縁コートを施すことによって短絡防止層が形成されている。
【0031】
前面部材32は、一端に圧電素子ユニット2を当接させる当接面32a、他端に超音波振動を放射させる振動放射面32bを有し、当接面32a側に位置する大径部(本実施形態ではφ4.0mm)から振動放射面32b側に位置する小径部(本実施形態ではφ1.6mm)に向けて連続的に径が小さくなる略円錐形状の金属ブロックとして構成されている。
【0032】
また、前面部材32において、側面部材31の当接面32a側端は、側面部材31の内径と同じ長さの外径を有した円柱状の部位を有しており、その円柱状部位の外周壁には、側面部材31の内周壁に形成された雌ネジと螺合する雄ネジが形成されている。
【0033】
更に、前面部材32は、当接面32aから振動放射面32bに至るその軸方向の長さが、圧電素子ユニット2の共振周波数における波長をλとして、例えばλ/4の長さに構成されており、圧電素子ユニット2で生じる超音波振動を振動放射面32bまで伝達するホーンとして機能するように構成されている。
【0034】
一方、裏打部材33は、一端に圧電素子ユニット2を当接させる当接面33aを有し、当接面33a側を小径とする段差を設けた略円柱形状の金属ブロックとして構成されている。
【0035】
また、裏打部材33において、小径部位の外径は、側面部材31の内径と同じ長さを有しており、その小径部位の外周壁には、側面部材31の内周壁に形成された雌ネジと螺合する雄ネジが形成されている。
【0036】
また、裏打部材33には、圧電素子ユニット2に対する給電線を挿通させるための貫通孔331が形成されており、この貫通孔331は、当接面33aから大径部位側の端面33bまで貫通するように形成されている。
【0037】
なお、貫通孔331の当接面33a側の開口は、圧電素子ユニット2の非当接部位に位置し、且つ、裏打部材33の当接面33aの中心Oと貫通孔331の開口との最短距離(中心Oから開口における中心O側端までの距離)が、圧電素子ユニット2の半径長さの90%よりも大きく且つ100%より小さくなるような位置、即ち、貫通孔331の開口における中心O側端が図4中の半径0.9r(rは圧電素子21の半径長さ)の円より外側且つ半径rの円より内側に位置するように形成されている。
【0038】
[圧電素子ユニット]
図3は、圧電素子ユニット2を分解した状態で示す斜視図である。
図3に示すように、圧電素子ユニット2は、円板状に形成され上下端面に電極層が形成された複数の圧電素子21(21a〜21d)と、導電性材料により円板状に形成された給電用の電極端子板22(22a〜22c)とを交互に積層した構造を有しており、エポキシ樹脂等の接着剤によって一体に固着されている。
【0039】
以下では、圧電素子21a,21bの間に位置する電極端子板22a、及び圧電素子21c,21dの間に位置する電極端子板22cを正極端子板、圧電素子21b,21cの間に位置する電極端子板22bを負極端子板とも呼ぶ。
【0040】
このうち、圧電素子21は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて、プレス成形、焼成後、両端面に導電ペーストを塗布し、油中分極処理することで厚み方向に分極されている。その後、所定の形状に研削、研磨し、両端面に銀(Ag)蒸着することで導電層が形成されている。なお、本実施形態において、圧電素子21は、直径2.5mm、厚さ1.0mmに形成されている。
【0041】
一方、電極端子板22は、ベリリウム銅からなり、圧電素子21と同径の円板部221、及び給電線との接続のために円板部221の径方向に突出した突起部222を備えている。なお、本実施形態において、電極端子板22は、直径2.5mm(即ち、圧電素子21と同径)、厚さ0.05mmに形成されている。また、電極端子板22の突起部222は、側面部材31と接触したり、圧電素子ユニット2の振動を阻害したりすることがないように、必要最小限の大きさ(本実施形態では突出量0.2mm)に形成されている。
【0042】
そして、正極端子板22a,22cと負極端子板22bとが互いに短絡することがないように、正極端子板22a,22cの突起部222が同一方向に突出し、負極端子板22bの突起部222が、正極端子板22a,22bの突起部222とは異なる方向(ここでは正反対の方向)に突出するように固定されている。
【0043】
このように構成された圧電素子ユニット2は、前面部材32の当接面32aと、裏打部材33の当接面33aとの間に挟持された状態で、側面部材31が形成する中空部内に保持される。
【0044】
但し、圧電素子ユニット2は、裏打部材33とは直接接触し、前面部材32とは金属箔(厚みが0(0より大)〜0.5μm程度)からなる介在物4を介して接触するように構成されている。
【0045】
この介在物4は、圧電素子21の電極(Ag等)や、前面部材32を構成する材料(Ti,Ti合金,ステンレス等)より延性または展性の優れた金属(Au,Cu,Re,Ru,Pt,Sn,In,Pb等)で構成されている。なお、介在物4は、箔状のものに限らず、板状のものやハイブリッド状(箔や板を二枚以上合わせたもの)であってもよい。
【0046】
また、圧電素子ユニット2は、裏打部材33の当接面32aの略中心に位置し、且つ、正極端子板22a,22cの突起部222と、裏打部材33の貫通孔331との距離が最短となるような向きに配置されている。
【0047】
また、正極端子板22a,22cの突起部222、及び負極端子板22bの突起部222には、極細ワイヤーまたは金属ロッド等からなるリード線L1,L2がハンダにより接続されている。そして、正極端子板22a,22cに接続されたリード線L1は、その一端が外装体3の外部に突出するように、貫通孔331を挿通した状態に配線されている。但し、リード線L1の貫通孔331内に配線される部分は、裏打部材33と短絡することがないように、絶縁材料にて被覆されている。一方、負極端子板22bに接続されたリード線L2は、端部が、裏打部材33の当接面33aにハンダにより接続され、即ち、負極端子板22bと裏打部材33(ひいては側面部材31を介して前面部材32)とは短絡されている。
[振動子の製造方法]
次に、超音波振動子1の製造方法を、図5を参照して説明する。
【0048】
まず、図5(a)(b)に示すように、裏打部材33の当接面33aに圧電素子21と電極端子板22をエポキシ接着剤で交互に積層して一体化する。
この時、圧電素子ユニット2によって、裏打部材33に設けられた貫通孔331を塞いでしまうことがなく、且つ、圧電素子ユニット2を構成する各圧電素子21の外周が、裏打部材33の当接面33aの中心から、半径1.1r(圧電素子21の半径長さの110%)以内に位置する(図4参照)ような位置精度が得られるように、積層用の専用治具を用いて作業を行う。なお、図4において、斜線で示した部位は、裏打部材33の当接面33a上における圧電素子ユニット2の固定位置を示す。
【0049】
また、この時、正極端子板22a,22cは、突起部222と貫通孔331との距離が最短となるような向きに配置され、負極端子板22bは、突起部222が正極端子板22a,22cとは異なる方向(ここでは反対方向)に突出する向きに配置される。
【0050】
次に、図5(b)(c)に示すように、圧電素子ユニット2と一体化した裏打部材33の貫通孔331にリード線L1を挿通させ、当接面33a側に露出したリード線L1の部位を、正極端子板22a,22cの突起部222にハンダ付けする。これにより端面33b側に突出したリード線L1の部位が、超音波振動子1の正極となる。
【0051】
また、負極端子板22bの突起部222に、別のリード線L2をハンダ付けし、その一端を裏打部材33の当接面33aにおける圧電素子ユニット2の非当接部位にハンダづけする。これにより、裏打部材33全体が超音波振動子1の負極となる。
【0052】
この時、各電極端子板22の突起部222でのハンダ量が過大であると振動を阻害する要因となるため、ハンダ接続に用いるハンダ量は必要最小限に抑える。
次に、図5(c)(d)に示すように、側面部材31の内周面に形成された雌ネジと、圧電素子ユニット2を一体化した裏打部材33の外周面に形成された雄ネジとを螺合して両者を一体に固定する。
【0053】
次に、図5(d)(e)に示すように、圧電素子ユニット2の非固定端と、前面部材32の当接面32aとの間に介在物4を介在させた状態で、側面部材31の内周面に形成された雌ネジと、前面部材32の外周面に形成された雄ネジとを螺合することにより、圧電素子ユニット2を加圧締め付けする。これにより外締め構造の超音波振動子1ができあがる。
【0054】
この時の締付強さは、例えば、圧電素子ユニット2の静電容量が約1.2倍(本実施形態では180pF→220pF)になるように制御する。
[作用効果]
このように構成された超音波振動子1では、圧電素子ユニット2の中心と、裏打部材33の当接面33aの中心Oとを一致させる場合と比較して、貫通孔331を当接面33aの中心O側寄りに配置されるため、貫通孔331を設けることで生じるデッドスペースを削減することができ、裏打部材33、ひいては当該超音波振動子1を小型化することができる。
【0055】
しかも、超音波振動子1では、圧電素子ユニット2の中心と当接面33aの中心Oとのずれが10%以内となるようにされているため、圧電素子ユニット2が発生させる振動を効率良く取り出すことができる。
【0056】
また、超音波振動子1では、圧電素子ユニット2と裏打部材33とを一体に形成した後、これを、側面部材31に組み付けているため、圧電素子ユニット2と裏打部材33とを一体に形成する際に、側面部材31の制約を受けることなく作業することができるため、専用の治具を用いて高い位置精度を簡単に実現することができる。
【0057】
更に、超音波振動子1では、圧電素子ユニット2及び裏打部材33と一体化された側面部材31に、前面部材32を組み付ける際には、圧電素子ユニット2との間に介在物4を介在させて、前面部材32をねじ込むようにされている。
【0058】
これにより、前面部材32と圧電素子ユニット2とを直接当接させた場合と比較して、締め付け時における両者間の滑りやすさを高めることができるため、ねじり応力が圧電素子ユニット2に伝わることを抑止すること、更には、締め付け終了時における両者間の密着性を高めることができる。
【0059】
その結果、圧電素子ユニット2の位置ずれやねじり応力による素子ずれを要因とする振動特性の低下やバラツキを抑制することができ、しかも、圧電素子ユニット2で発生した振動を前面部材32の振動放射面32aに効率良く伝達することができるため、振動特性に優れた小型の超音波振動子1を提供することができる。
【0060】
[評価実験]
介在物4の効果について評価実験を行った。
上述の超音波振動子1を実施例、上述の超音波振動子1から介在物4を省略したものを比較例とし、その両者について、前面部材32による締め付け強度を変化させながら、振動放射面32bでの振幅(但し、共振周波数での振幅)を測定した。振幅の測定には、レーザドップラー装置を用いた。
【0061】
なお、介在物4としては、厚さ0.2μmのAu箔を使用した。
実施例では比較例より4μm以上大きな振幅が得られる結果となった。
[他の実施形態]
上記実施形態では、前面部材32を側面部材31に取り付ける際に、既に、側面部材31に固定されている裏打部材33と一体化されている圧電素子ユニット2との間に、介在物4を介在させているが、図6(a)に示すように、更に、介在物4と圧電素子ユニット2との間に、前面部材32のねじ込みによる回転運動を、側面部材31の軸方向に沿った直線運動に変換するための第2の介在物(以下では「ロック板」という)5を介在させてもよい。
【0062】
この場合、図6(b)に示すように、側面部材31の中空部の断面形状、及びロック板5の外周形状を、非円形状、且つ、互いに係合し合う形状にする。
具体的な形状としては、図6(b)に示すように、ロック板5を、円板の中心を挟んで径方向に突出する二つの凸部5aを設けた形状とし、側面部材31の内周面には、これら突起と係合する二つの凹溝31aを設けた形状とすることが考えられる。
【0063】
これにより、ロック板5は、側面部材31の軸方向に沿った中空部内での直線的な移動が可能となり、且つ、中空部内での前記軸方向に沿った回転軸まわりに回転が阻止されることになり、前面部材32によるねじれ応力が圧電素子ユニット2に伝わることをより確実に阻止することができる。
【0064】
また、側面部材31の中空部の断面形状、及びロック板5の外周形状は、図7(a)に示すように、凸部5a,凹溝31aの数を増やしたもの(図では4個ずつ)としたり、図7(b)に示すように、ロック板5側に凹部5b、側面部材31の内周面に凸条31bを設けたもの(但し、この場合は凸条31bの先端部分に雌ネジを形成する)としたり、図7(c)に示すように、両者の形状を楕円状に形成したものとしたりしてもよい。側面部材31の中空部の断面形状、及び第2の介在物5の外周形状は、これらに限らず、多角形状であってもよいし、凸部5a,凹部5bや、凹溝31a,凸条31bの数を1個か3個,又は5個以上としてもよい。なお、図7において、一点鎖線で示した部位は、前面部材32を螺合した時の雄ネジの位置、即ち、側面部材31における雌ネジの形成位置を示す。
【0065】
ロック板5を設ける場合、介在物4はロック板5に対して前面部材32側だけでなく、ロック板5に対して圧電素子ユニット2側にも(即ち、ロック板5の両面に)設けてもよい。なお、介在物4は、密着性の向上が目的であれば両側に設けることが好ましく、また、捻り応力の軽減が目的であれば、前面部材32側に設ければ十分である。
【0066】
また、介在物4,5は、負極電極板を兼ねていてもよい。
上記実施形態では、側面部材31と裏打部材33との固定を安価なネジ止めによって行っているが、溶接やかしめ等によって固定してもよい。この場合、一体化する部材同士(側面部材31と裏打部材33)を押圧した状態で作業(溶接やかしめ)を行う必要があるが、ネジ止めの場合より容易に、圧電素子ブロック2(側面部材31と一体化されている)と裏打部材33とを密着した状態に組み付けることができる。
【0067】
なお、押圧下での溶接については、例えば、特開2006−303443号公報、特開2006−303444号公報等に記載された公知の技術であるため、ここではその詳細についての説明を省略する。
【0068】
上記実施形態では、圧電素子21として円板状のもの、即ち、積層方向に直交する面での断面形状が円形である場合について、満たすべき各種条件を規定したが、断面形状は円形に限らず、例えば、正多角形やその他の点対称な形状であってもよい。点対称な形状であると、発生する超音波振動の等方性が高まることにより、不要な振動を抑制するだけでなく、入力パワーに対する出力効率を向上させることが出来る。但し、この場合、断面の内接円が規定した条件を満たす必要がある。
【符号の説明】
【0069】
1…超音波振動子 2…圧電素子ユニット 4,5…介在物 5a…凸部 5b…凹部 21…圧電素子 22…電極端子板 31…側面部材 31a…凹溝 31b…凸条 32…前面部材 32a…当接面 32b…振動放射面 33…裏打部材 33a…当接面 33b…端面 331…貫通孔 L1,L2…リード線 M1…圧電素子ユニット M2…裏打部材 M3…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子及び電極板を積層してなる圧電素子ユニットと、
前記圧電素子ユニットを挟持する前面部材および裏打部材と、
前記圧電素子ユニットを収納すると共に、前記前面部材および前記裏打部材により前記圧電素子ユニットが挟持された状態を保持する側面部材と、
を備えた外締め構造の超音波振動子において、
前記圧電素子の給電線を挿通させるために前記裏打部材に形成された貫通孔の開口が、前記圧電素子ユニットの非当接部位に位置し、
前記裏打部材の中心と前記貫通孔の開口との最短距離が、前記圧電素子の積層方向に対して直交する面での該圧電素子の断面に内接する内接円の半径長さの90%よりも大きく且つ100%よりも小さいことを特徴とする超音波振動子。
【請求項2】
前記圧電素子は、前記断面の形状が円形であり、
前記裏打部材の中心と前記圧電素子ユニットの外周との距離は、前記圧電素子の半径長さの110%以内であることを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項3】
前記裏打部材は、前記圧電素子ユニットと一体化した状態で、前記側面部材に組み付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超音波振動子。
【請求項4】
前記前面部材と前記圧電素子ユニットとの間に、板状又は箔状に形成され且つ前記圧電素子ユニットより優れた延性または展性を有する介在物を設けたことを特徴とする請求項3に記載の超音波振動子。
【請求項5】
前記側面部材の前記前面部材が固定される側の内周面、及び、前記前面部材の外周面には、それぞれネジ部が形成され、
前記ネジ部は一方が雄ネジ、他方が雌ネジであり、
前記側面部材と前記前面部材とは、前記雌ネジと前記雄ネジとの螺合により固定されていることを特徴とする請求項4に記載の超音波振動子。
【請求項6】
前記側面部材の軸方向に対して直交する断面での前記側面部材の中空部の断面形状を非円形に形成し、
前記前面部材と前記圧電素子ユニットとの間に、板状に形成された第2の介在物を設け、
当該第2の介在物は、前記中空部内での前記側面部材の軸方向に沿った当該第2の介在物の移動を可能とし、且つ前記中空部内での前記軸方向に沿った回転軸まわりの当該第2の介在物の回転を阻止する形状に形成され、
少なくとも前記前面部材と第2の介在物の間に前記介在物が存在することを特徴とする請求項5に記載の超音波振動子。
【請求項7】
圧電素子及び電極板を積層してなる圧電素子ユニットと、
前記圧電素子ユニットを挟持する前面部材および裏打部材と、
前記圧電素子ユニットを収納すると共に、前記前面部材および前記裏打部材により前記圧電素子ユニットが挟持された状態を保持する側面部材と、
を備えた外締め構造の超音波振動子の製造方法であって、
前記裏打部材を、前記圧電素子ユニットと一体化した後で前記側面部材に固定し、
板状又は箔状に形成され且つ前記圧電素子ユニットより優れた延性または展性を有する介在物を、前記前面部材と前記圧電素子ユニットとの間に介在させた状態で、前記前面部材と前記側面部材との組付けを行うことを特徴とする超音波振動子の製造方法。
【請求項8】
前記超音波振動子は、前記側面部材の前記前面部材が固定される側の内周面、及び、前記前面部材の外周面には、それぞれネジ部が形成され、前記側面部材と前記前面部材とは、前記雌ネジと前記雄ネジとの螺合により固定される構造を有しており、
前記側面部材の軸方向に対して直交する断面での前記側面部材の中空部の断面形状が非円形に形成されている場合、
前記中空部内での前記側面部材の軸方向に沿った移動を可能とし、且つ前記中空部内での前記軸方向に沿った回転軸まわりの回転を阻止する形状に形成された第2の介在物を使用し、
前記前面部材と前記側面部材との螺合を行う際に、少なくとも前記前面部材と第2の介在物の間に前記介在物を介在させることを特徴とする請求項7に記載の超音波振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−160586(P2011−160586A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21301(P2010−21301)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】