説明

車両の制御装置及び車両の制御方法

【課題】燃料電池の廃熱を利用してヒータコアを加熱する車両の制御装置において、制御装置全体としての燃費を向上させる。
【解決手段】車両の制御装置は、燃料電池と、ヒータコアを有する空調機構と、第1媒体回路と、第1媒体回路に配置されたラジエータと、前記第1媒体回路に配置されたバイパス回路と、第1媒体回路に配置された調整弁と、第2媒体回路と、冷却媒体流通用ポンプと、燃料電池温度を取得する温度取得部と、燃料電池温度が所定の暖機終了温度に達するまで、燃料電池を暖機させる暖機制御部と、燃料電池温度が暖機終了温度よりも低い温度である連携温度よりも低い場合に、第1媒体回路と第2媒体回路とを独立状態とし、連携温度以上の場合に、連携状態とする状態切替部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の廃熱を空調に利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を電力源とする車両において、燃料電池の廃熱を空調設備(エアコン)の暖房に利用する制御装置(システム)が知られている。例えば、燃料電池とラジエータとの間で冷却媒体を循環させる回路(以下、仮に「冷却回路」と呼ぶ)と、暖房用のヒータコアを通って冷却媒体を循環させる回路(以下、仮に「加熱回路」と呼ぶ)とを備え、燃料電池の温度が、燃料電池の発電効率が高い温度範囲(例えば、72℃〜80℃、以下、「高効率温度範囲」と呼ぶ)にある場合に、これら2つの回路を互いに連携させて、燃料電池の廃熱により冷却媒体を介してヒータコアを昇温させるシステムが提案されている(特許文献1)。また、低温環境下において、燃料電池を高効率温度範囲に達するまで暖機するシステムが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−315524号公報
【特許文献2】特開2009−158399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池の温度が高効率温度範囲にある場合に冷却回路と加熱回路とを連携させる技術に、燃料電池を高効率温度範囲に達するまで暖機する技術を適用した場合、燃料電池の温度が高効率温度範囲に達するまで燃料電池の廃熱が利用されないこととなる。したがって、燃料電池の温度が高効率温度範囲に達するまでの間にユーザから暖房の要求があると、ヒータコアとは別に設けられた電気ヒータ等により加熱回路の冷却媒体を加熱する必要がある。電気ヒータの電力は燃料電池から供給されるため、かかる電力を得るために燃料電池において発電を行わねばならず、車両の制御装置全体としての燃費の悪化を招いていた。
【0005】
また、従来においては、暖機終了温度(暖機による最終的な燃料電池の温度)よりも高い温度で冷却回路と加熱回路との連携がなされ得ていた。一般に、連携前においては、加熱回路内の冷却媒体の温度は冷却回路内の冷却媒体の温度よりも低いため、連携により比較的低い温度の冷却媒体が加熱回路から冷却回路に流入することとなる。この場合、燃料電池の温度が暖機終了温度よりも低下するおそれがあり、暖機の実効性が損なわれると共に、連携後において冷却媒体を昇温させるために電気ヒータ等の使用が必要となり、車両の制御装置全体としての燃費の悪化を招いていた。
【0006】
本発明は、燃料電池の廃熱を利用してヒータコアを加熱すると共に、燃料電池の暖機を行う車両の制御装置において、制御装置全体としての燃費を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]車両の制御装置であって、前記車両に電力を供給する燃料電池と、ヒータコアを有する空調機構と、前記燃料電池を通って冷却媒体を循環させるための第1媒体回路と、前記第1媒体回路に配置されたラジエータと、前記第1媒体回路に配置され、前記ラジエータをバイパスして前記冷却媒体を流通させるバイパス回路と、前記第1媒体回路に配置され、前記ラジエータに流れる前記冷却媒体と前記バイパス回路に流れる前記冷却媒体との流量比を調整する調整弁と、前記ヒータコアを通って冷却媒体を循環させるための第2媒体回路と、前記第1媒体回路及び前記第2媒体回路のうち、少なくとも一方に配置される冷却媒体流通用ポンプと、前記燃料電池の温度を代表する温度である燃料電池温度を取得する温度取得部と、前記燃料電池温度が暖機終了温度に達するまで、前記燃料電池を暖機させる暖機制御部と、前記燃料電池温度が、前記暖機終了温度よりも低い温度である連携温度よりも低い場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに切り離された状態である独立状態とし、前記燃料電池温度が前記連携温度以上の場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに連携された状態である連携状態とする状態切替部と、を備える、車両の制御装置。
【0009】
適用例1の車両の制御装置では、暖機終了温度よりも低い連携温度が設定されているので、空調機構において特に熱を供給したい始動時等において、より早いタイミングから第1媒体回路及び第2媒体回路を連携させることができ、燃料電池の廃熱を無駄なくヒータコアの加熱に利用することができる。したがって、ヒータコアに供給する冷却媒体を加熱するための電気ヒータ等の使用を抑制でき、かかる電気ヒータ等への電力供給のための燃料電池における発電を抑制できるので、車両の制御装置全体として燃費を向上させることができる。加えて、暖機終了前に第1媒体回路及び第2媒体回路を連携させるので、暖機終了後に第2媒体回路内の比較的低温の冷却媒体が第1媒体回路に流入し、暖機の実効性が損なわれてしまうことを抑制できると共に、温度の低下した第1媒体回路内の冷却媒体を加熱するための電気ヒータ等の使用を抑制できる。なお、適用例1における暖機終了温度とは、暖機制御部が暖機を終了させる温度と、暖機による最終的な燃料電池の温度(暖機終了後においても冷却媒体の流通により昇温した場合には、その最終的な温度)とを含む意味を有する。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載の車両の制御装置において、前記連携温度は、前記燃料電池が安定的に運転可能な安定運転温度範囲における下限温度以上である、車両の制御装置。
【0011】
このような構成により、少なくとも安定運転温度範囲における下限温度以上において第1媒体回路と第2媒体回路とが連携される。一般に、第2媒体回路内の冷却媒体の温度は、第1媒体回路との連携前において第1媒体回路内の冷却媒体の温度よりも低いので、これら2つの回路の連携により、第1媒体回路内の冷却媒体の温度が低下し、燃料電池温度が低下する。この場合であっても、連携温度が安定運転温度範囲の下限温度以上であるので、連携後において燃料電池を安定的に運転させることができる。燃料電池が安定的に運転可能な状態とは、例えば、燃料電池の少なくとも1つ以上のセル電圧が極端に低下しない(例えば、0Vまで低下しない)状態を意味する。なお、一般に、安定運転温度範囲における下限温度は、暖機終了温度よりも低い。
【0012】
[適用例3]適用例1に記載の車両の制御装置において、前記連携温度は、前記燃料電池が所定の耐久性能を維持可能な耐久温度範囲における下限温度以上である、車両の制御装置。
【0013】
このような構成により、少なくとも耐久温度範囲における下限温度以上において第1媒体回路と第2媒体回路とが連携される。したがって、これら2つの媒体回路の連携後においても、燃料電池の耐久性能の急激な低下を抑制することができる。なお、一般に、耐久温度範囲は、安定運転温度範囲内の温度範囲である。また、一般に、耐久温度範囲の下限温度は、暖機終了温度よりも低い。
【0014】
[適用例4]適用例1に記載の車両の制御装置において、前記連携温度は、0℃以上である、車両の制御装置。
【0015】
このような構成により、より低い温度から第1及び第2媒体回路の連携を実現できるので、例えば、車両の制御装置の始動時において、燃料電池の廃熱をより早いタイミングからヒータコアの昇温に利用でき、車両の制御装置全体としての燃費をより向上させることができる。また、連携温度を0℃以上とすることにより、連携後に燃料電池内部における生成水の凍結を抑制できるので、生成水の凍結に伴い反応ガスの供給や生成水の排水が滞ることを抑制できる。なお、一般に、0℃は、暖機終了温度よりも低い。
【0016】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の車両の制御装置において、さらに、前記空調機構の要求熱量を取得する要求熱量取得部と、前記燃料電池の発電量を取得する発電量取得部と、前記調整弁を制御することにより、前記第1の媒体回路を流通する前記冷却媒体の温度を調整して、前記燃料電池温度を調整する温度調整部と、前記温度調整部が前記燃料電池温度を調整する際の目標温度を設定する目標温度設定部と、前記発電量における前記燃料電池の発熱量が、前記要求熱量以下となる前記燃料電池温度の温度範囲である低下温度範囲が存在するか否かを判定すると共に、前記低下温度範囲が存在する場合に、前記低下温度範囲を求める低下温度範囲決定部と、を備え、前記目標温度設定部は、前記低下温度範囲が存在する場合に、前記低下温度範囲の上限温度を、前記目標温度として設定する、車両の制御装置。
【0017】
このような構成により、低下温度範囲の上限温度を目標温度として設定するので、要求熱量を満たすために必要最低限の熱量を燃料電池において生じさせることができる。この場合、燃料電池において要求熱量よりも多い熱量の発生を抑制できる。換言すると、燃料電池の発電効率の低下を必要最低限に抑えることができるので、燃料電池の燃費を向上させることができる。
【0018】
[適用例6]適用例5に記載の車両の制御装置において、前記目標温度設定部は、前記低下温度範囲の上限温度が、前記燃料電池が安定的に運転可能な安定運転温度範囲における上限温度よりも高い場合には、前記低下温度範囲の上限温度に代えて、前記安定運転温度範囲における上限温度を、前記目標温度として設定する、車両の制御装置。
【0019】
このような構成により、安定運転温度範囲内の温度を目標温度とするので、燃料電池の出力安定性を確保することができる。また、より高い温度を目標温度として設定することができるので、目標温度に至る前に、冷却媒体の熱を放出することを抑制できる。したがって、燃料電池の廃熱を無駄にせずに済み、車両の制御装置全体としての燃費を向上させることができる。
【0020】
[適用例7]適用例5または適用例6に記載の車両の制御装置において、前記目標温度設定部は、前記低下温度範囲決定部により前記低下温度範囲が存在しないと判定された場合には、前記燃料電池が安定的に運転可能な安定運転温度範囲における上限温度を、前記目標温度として決定する、車両の制御装置。
【0021】
このような構成により、安定運転温度範囲内の温度を目標温度とするので、燃料電池の出力安定性を確保することができる。また、より高い温度を目標温度として設定することができるので、目標温度に至る前における冷却媒体の熱の放出を抑制できる。したがって、燃料電池の廃熱を無駄にせずに済み、車両の制御装置全体としての燃費を向上させることができる。
【0022】
[適用例8]適用例5ないし適用例7のいずれかに記載の車両の制御装置において、前記温度調整部は、前記燃料電池温度が上昇する過程において、前記燃料電池温度が前記目標温度に達するまで放熱を抑制する、車両の制御装置。
【0023】
このような構成により、燃料電池温度が目標温度に達するまで放熱を抑制するので、目標温度に至るまでは、燃料電池の廃熱を冷却媒体に蓄積しておくことができる。したがって、例えば、ユーザにより、より高い温度を指定して暖房要求があった場合に、冷却媒体に蓄積された熱を利用してヒータコアを温めることができるので、応答性を向上させることができると共に、車両の制御装置全体としての燃費を向上させることができる。
【0024】
[適用例9]車両の制御方法であって、前記車両は、ヒータコアを有する空調機構と、前記燃料電池を通って冷却媒体を循環させるための第1媒体回路と、前記第1媒体回路に配置されたラジエータと、前記第1媒体回路に配置され、前記ラジエータをバイパスして前記冷却媒体を流通させるバイパス回路と、前記ヒータコアを通って冷却媒体を循環させるための第2媒体回路と、を有し、(a)前記ラジエータに流れる前記冷却媒体と前記バイパス回路に流れる前記冷却媒体との流量比を調整することにより、前記第1媒体回路を流通する前記冷却媒体の温度を調整して、前記燃料電池の温度を代表する温度である燃料電池温度を調整する工程と、(b)前記燃料電池温度が暖機終了温度に達するまで、前記燃料電池を暖機させる工程と、(c)前記燃料電池温度を取得する工程と、(d)前記燃料電池温度が、前記暖機終了温度よりも低い温度である連携温度よりも低い場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに切り離された状態である独立状態とし、前記燃料電池温度が前記連携温度以上の場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに連携された状態である連携状態とする工程と、を備える、車両の制御方法。
【0025】
適用例9の車両の制御装置では、暖機終了温度よりも低い連携温度が設定されているので、空調機構において特に熱を供給したい始動時等において、より早いタイミングから第1媒体回路及び第2媒体回路を連携させることができ、燃料電池の廃熱を無駄なくヒータコアの加熱に利用することができる。したがって、ヒータコアに供給する冷却媒体を加熱するための電気ヒータ等の使用を抑制でき、かかる電気ヒータ等への電力供給のための燃料電池における発電を抑制できるので、車両の制御装置全体として燃費を向上させることができる。加えて、暖機終了前に第1媒体回路及び第2媒体回路を連携させるので、暖機終了後に第2媒体回路内の比較的低温の冷却媒体が第1媒体回路に流入し、暖機の実効性が損なわれてしまうことを抑制できると共に、温度の低下した第1媒体回路内の冷却媒体を加熱するための電気ヒータ等の使用を抑制できる。なお、適用例1における暖機終了温度とは、暖機制御部が暖機を終了させる温度と、暖機による最終的な燃料電池の温度(暖機終了後においても冷却媒体の流通により昇温した場合には、その最終的な温度)とを含む意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例としての車両制御装置の構成を示す説明図である。
【図2】図1に示すFC発熱量マップを模式的に示す説明図である。
【図3】暖房要求対応処理及び温度設定処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】参照発熱量マップと要求熱量との関係の第1の例を示す説明図である。
【図5】参照発熱量マップと要求熱量との関係の第2の例を示す説明図である。
【図6】参照発熱量マップと要求熱量との関係の第3の例を示す説明図である。
【図7】FC制御ユニットにおいて実行される温度調整処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】連携状態の車両制御装置における冷却媒体の流れを示す第1の説明図である。
【図9】連携状態の車両制御装置における冷却媒体の流れを示す第2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
A.実施例:
A1.システム構成:
図1は、本発明の一実施例としての車両制御装置の構成を示す説明図である。この車両制御装置10は、燃料電池により得られた電力を駆動用電力として用いる電気自動車に搭載されて用いられる。車両制御装置10は、燃料電池(以下、FC(Fuel Cell)とも呼ぶ)スタック20と、第1媒体回路R1と、空調機構50と、第2媒体回路R2と、2つの媒体回路R1,R2を互いに接続させる2つの媒体流路(第5,9媒体流路)65,69と、FC制御ユニット100と、空調制御ユニット200とを備えている。
【0028】
燃料電池スタック20は、固体高分子電解質型の燃料電池であり、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を有する単セルが複数積層された構成を備えている。燃料電池スタック20には、図示しない水素ガスタンクから、燃料ガスとしての水素ガスが燃料ガス流路22を介して供給される。また、燃料電池スタック20には、図示しないエアコンプレッサにより、酸化剤ガスとしての空気が酸化剤ガス流路24を介して供給される。燃料電池スタック20には、上述した燃料ガス及び酸化剤ガスに加えて、冷却媒体が供給され、発電に伴い昇温した各単セルが冷却媒体によって冷却される。本実施例では、冷却媒体として不凍液を用いるものとするが、不凍液に代えて、純水等の任意の媒体を利用することもできる。
【0029】
燃料電池スタック20には、負荷40が電気的に接続されており、燃料電池スタック20における電気化学反応により生じた電力が負荷40に供給される。燃料電池スタック20と負荷40との間には、電圧センサ41及び電流センサ42が配置されている。なお、負荷40とは、例えば、図示しない電気自動車の駆動用モータや、後述する2つの電動ファン31,32や、電気ヒータ55や、2つのポンプ32,54を意味する。
【0030】
第1媒体回路R1は、燃料電池スタック20を冷却するための冷却媒体の流通路であり、第1〜4媒体流路61,62,63,64により構成されている。第1媒体回路R1には、第1ポンプ32と、ラジエータ30と、第1電動ファン31と、第1三方弁33と、第1〜3温度センサ34,35,36とが接続されている。
【0031】
第1媒体流路61は、第1三方弁33及び燃料電池スタック20の冷却媒体流入口と接続されており、第1三方弁33から流出される冷却媒体を、燃料電池スタック20に流入させる。第2媒体流路62は、燃料電池スタック20の冷却媒体流出口及び第3,4媒体流路63,64と接続されており、燃料電池スタック20から流出される冷却媒体を、第3媒体流路63又は第4媒体流路64に流入させる。また、第2媒体流路62は、第5媒体流路65及び第9媒体流路69とも接続されており、燃料電池スタック20から流出される冷却媒体を第2媒体回路R2に送出すると共に、第2媒体回路R2から流出される冷却媒体を第3媒体流路63又は第4媒体流路64に流入させる。第3媒体流路63は、第2媒体流路62及び第1三方弁33と接続されており、第2媒体流路62から流出される冷却媒体を第1三方弁33に流入させる。第4媒体流路64は、第3媒体流路63と同様に、第2媒体流路62及び第1三方弁33と接続されており、第2媒体流路62から流出される冷却媒体を第1三方弁33に流入させる。
【0032】
図1において、太い実線の矢印は、冷却媒体の流れを示している。図1の例では、第1冷却媒体は、媒体回路R1において、燃料電池スタック20,第2媒体流路62,第3媒体流路63及び第4媒体流路64,第1媒体流路61の順序で循環している。なお、後述するように、車両制御装置10では、第2媒体流路62から流出された冷却媒体が第3媒体流路63に流入せず、全て第4媒体流路64に流入する場合もある。
【0033】
また、図1の例では、第1媒体回路R1及び第2媒体回路R2において、それぞれ独立して冷却媒体が循環されている。以下、このように、車両制御装置10において、第1媒体回路R1と第2媒体回路R2とで互いに独立して冷却媒体が循環されている状態を「独立状態」と呼ぶ。なお、車両制御装置10では、燃料電池スタック20の温度Tに応じて第1媒体回路R1と第2媒体回路R2とが物理的に接続され、冷却媒体のやりとりが行われる。以下、このように、車両制御装置10において第1媒体回路R1と第2媒体回路R2とが互いに接続され冷却媒体のやりとりが行われる状態を「連携状態」と呼ぶ。
【0034】
ラジエータ30は、第3媒体流路63に配置されている。第1電動ファン31は、ラジエータ30の近傍に配置されている。ラジエータ30は、第2媒体流路62を介して燃料電池スタック20から送られてくる冷却媒体を、第1電動ファン31からの風により冷却し、冷却媒体の熱を車外へと放出する。ここで、第4媒体流路64にはラジエータが配置されていないことからも理解できるように、第4媒体流路64は、ラジエータ30をバイパスして、第2媒体流路62と第1媒体流路61とを接続するバイパス回路である。したがって、第4媒体流路64を通過する冷却媒体の放熱量は、第3媒体流路63を通過する冷却媒体の放熱量に比べて少ない。
【0035】
第1三方弁33は、3つの媒体流路61,63,64に接続された電磁弁であり、弁の開度を調整することにより、第3媒体流路63から第1媒体流路61へ流通する冷却媒体と、第4媒体流路64から第1媒体流路61へ流通する冷却媒体との流量比を調整する。第1ポンプ32は、第1媒体流路61に配置され、第3媒体流路63及び第4媒体流路64から送られてきた冷却媒体を燃料電池スタック20へと送出する。
【0036】
暖機終了温度センサ34は、第1媒体流路61において燃料電池スタック20の冷却媒体流入口付近に配置されており、第1媒体流路61を流通する冷却媒体の温度を測定する。第2温度センサ35は、第2媒体流路62において燃料電池スタック20の冷却媒体流出口付近に配置されており、第2媒体流路62を流通する冷却媒体の温度を測定する。第3温度センサ36は、第3媒体流路63においてラジエータ30の出口付近に配置されており、第3媒体流路63を流通する冷却媒体の温度を測定する。
【0037】
空調機構50は、ヒータコア51と、第2電動ファン52と、ケーシング53とを備えている。ヒータコア51は、加熱用熱交換機であり、第2媒体回路R2を流通する冷却媒体の熱によって昇温される。第2電動ファン52は、ヒータコア51に対して送風することにより、ケーシング53の外部(車室内)に向けてヒータコア51により温められた空気を送出する。なお、空調機構50は、図示しないダクトを介して、各種吹出口(ベンチレーター,フット,デフロスタ等)と接続され、これら吹出口から温風を送出する。
【0038】
第2媒体回路R2は、空調機構50(ヒータコア51)に対して熱を伝えるための冷却媒体の流通路であり、第6〜8媒体流路66,67,68により構成されている。第2媒体回路R2には、第2三方弁58と、第2ポンプ54と、電気ヒータ55と、第4,5温度センサ56,57とが接続されている。
【0039】
第6媒体流路66は、第2三方弁58及びヒータコア51の冷却媒体流入口と接続されており、第2三方弁58から流出される冷却媒体を、ヒータコア51に流入させる。第7媒体流路67は、ヒータコア51の冷却媒体流出口及び第8,9媒体流路68,69と接続されており、ヒータコア51から流出される冷却媒体を、第8媒体流路68又は第9媒体流路69に流入させる。なお、第5媒体流路65は、第2媒体流路62及び第2三方弁58と接続されており、車両制御装置10が連携状態の場合に、第2媒体流路62から流出される冷却媒体を第2三方弁58に流入させる。第9媒体流路69は、第7媒体流路67及び第2媒体流路62と接続されており、車両制御装置10が連携状態の場合に、第7媒体流路67から流出される冷却媒体を第2媒体流路62に流入させる。
【0040】
図1に示すように、車両制御装置10が独立状態の場合に、冷却媒体は、第2媒体回路R2において、ヒータコア51,第7媒体流路67,第8媒体流路68,第6媒体流路66の順番で循環している。
【0041】
第2三方弁58は、3つの媒体流路65,66,68に接続された電磁弁であり、弁の開度を調整することにより、第6媒体流路66と第5媒体流路65とを接続する状態と、第6媒体流路66と第8媒体流路68とを接続する状態とのいずれかの状態に切り替える。
【0042】
第2ポンプ54は、第6媒体流路66に配置され、第5媒体流路65または第8媒体流路68から送られてきた冷却媒体をヒータコア51へと送出する。電気ヒータ55は、第2ポンプ54とヒータコア51との間に配置されており、第6媒体流路66を流通する冷却媒体を温める。
【0043】
第4温度センサ56は、第6媒体流路66においてヒータコア51の入口付近に配置されており、ヒータコア51に流入する冷却媒体の温度を測定する。第5温度センサ57は、第6媒体流路66においてヒータコア51の出口付近に配置されており、ヒータコア51から排出される冷却媒体の温度を測定する。
【0044】
FC制御ユニット100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ102とを備えている。メモリ102には、主として燃料電池スタック20を制御するための図示しないFC制御プログラムが格納されており、CPU101は、このFC制御プログラムを実行することにより、弁調整部111,連携温度設定部112,及び目標温度設定部113として機能する。FC制御ユニット100は、第1ポンプ32,第1三方弁33及び第2三方弁58と接続されており、これら各要素を制御する。また、FC制御ユニット100は、3つの温度センサ34〜36と、電圧センサ41と、電流センサ42と接続されており、これらセンサにおいて得られた測定値を取得する。また、FC制御ユニット100は、空調制御ユニット200と接続されており、互いに情報をやりとりする。
【0045】
弁調整部111は、第1三方弁33及び第2三方弁58の弁開度を調整する。連携温度設定部112は、第1媒体回路R1と第2媒体回路R2との連結を許可する温度(以下、「連携温度」と呼ぶ)を設定する。目標温度設定部113は、燃料電池スタック20に供給する冷却媒体の温度を調整する際に目標とする温度(以下、「目標温度」と呼ぶ)を設定する。
【0046】
急速暖機制御部114は、燃料電池スタック20を、各単セルにおける発電効率が高い状態にある温度範囲(以下、「高効率温度範囲」と呼ぶ)に達するまで急速に昇温(急速暖機)させる。この高効率温度範囲は、例えば、72℃以上80℃以下である。急速暖機の方法として、例えば、通常運転に比して燃料電池スタック20へのエアの供給量を絞る(例えば、エアストイキ比を1.0付近に設定する)ことにより、低い発電効率で運転させ、発電損失(熱損失)を高めて昇温させる方法を採用することができる。
【0047】
メモリ102には、前述のFC制御プログラムに加えて、FC発熱量マップ121及び安定運転温度範囲122が予め格納されている。
【0048】
図2は、図1に示すFC発熱量マップを模式的に示す説明図である。図2において、横軸は燃料電池スタック20の温度(T)を示し、縦軸は熱量を示す。FC発熱量マップ121は、燃料電池スタック20の温度と燃料電池スタック20における発熱量(FC発熱量)とを対応付けるマップである。メモリ102には、FC発熱量マップ121として、FC発電量ごとに複数のマップが格納されている。図2では、FC発熱量が異なる3つのマップL1〜L3を模式的に示しているが、3つに限らず任意の数のマップをFC発熱量マップ121としてメモリ102に格納しておくこともできる。FC発熱量マップ121(L1〜L3)は、予め、燃料電池スタック20の温度を変えて発電量と発熱量とを測定する実験を行い、メモリ102に格納しておくことができる。
【0049】
ここで、燃料電池スタック20における発電量が増加するほど、同じ温度における燃料電池スタック20における発熱量はより高くなる。図2では、マップL3,L2,L1の順序で、燃料電池スタック20における発電量は多い。したがって、同じ温度では、3つのマップL3,L2,L1の順序で発熱量が多い。
【0050】
各マップL1〜L3に示すように、低温度範囲(T<T1)では、温度変化に対する発熱量の変化が大きくなっている。具体的には、低温度範囲では、若干の温度低下に伴い発熱量が急増する。これは、低温度範囲において燃料電池スタック20の温度が低下すると、各MEA内の触媒の活性化が阻害されることに加えて、フラッディングにより触媒として機能できる有効触媒量(有効発電面積)が減少するために発電効率が低下し、熱が生じるからである。同様に、高温度範囲(T>T2)において、若干の温度上昇に伴い発熱量が急増する。これは、高温度範囲において燃料電池スタック20の温度が上昇すると、各MEA内の電解質膜が乾燥して膜抵抗値が高くなるため、熱が生じるからである。
【0051】
上記低温度範囲及び高温度範囲では、燃料電池スタック20を構成する単セルのうち、いくつかのセルにおいて電圧の低下が認められる。この場合、燃料電池スタック20全体としての出力電圧も安定しないため、これら温度範囲(T<T1,T>T2)は、燃料電池スタック20の動作温度として、不適切な温度範囲となる。換言すると、T1≦T≦T2を満たす温度範囲Rg0(以下、「安定運転温度範囲Rg0」と呼ぶ)では、燃料電池スタック20の出力電圧は安定するので、この安定運転温度範囲Rg0は、燃料電池スタック20の動作温度として適した温度範囲である。安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1及び上限温度T2は、予め実験により求められ、図1に示す安定運転温度範囲122としてメモリ102に格納される。例えば、下限温度T1として30℃を、上限温度T2として90℃を、それぞれ設定することもできる。
【0052】
図2に示すように、安定運転温度範囲Rg0の中央には、高効率温度範囲RgSが存在する。この高効率温度範囲RgSでは、各単セルにおける発電効率が最も高い状態にあるため、発熱量(熱損失)は最も低い状態にある。高効率温度範囲RgSには、暖機終了温度Teが設定されている。燃料電池スタック20の急速暖機は、燃料電池スタック20の温度Tが比較的低い所定温度範囲(例えば、0℃以下)である場合に開始され、燃料電池スタック20の温度Tが暖機終了温度Teに達すると終了する。
【0053】
図1に示す空調制御ユニット200は、CPU201と、メモリ202とを備えている。メモリ202には、空調機構50を制御するための図示しない空調制御プログラムが格納されており、CPU201は、この空調制御プログラムを実行することにより、要求熱量算出部211,操作パネル制御部212,及び温度調整部213として機能する。要求熱量算出部211は、後述する暖房要求対応処理において、FC制御ユニット100側に通知する要求熱量を算出する。操作パネル制御部212は、図示しない電気自動車の操作パネルと接続されており、操作パネルを介したユーザ入力を受け付ける。ユーザ入力としては、例えば、冷房/暖房の指定や、車室内温度の指定などを含む。温度調整部213は、電気ヒータ55及び第2電動ファン52を制御することにより、空調機構50から吹き出す風の温度を調整し、車室内の温度がユーザにより指定された温度となるように調整する。
【0054】
空調制御ユニット200は、第2ポンプ54,電気ヒータ55,及び第2電動ファン52と接続されており、これら各要素を制御する。また、空調制御ユニット200は、2つの温度センサ56,57と接続されており、これらセンサにおいて得られた測定値を取得する。
【0055】
メモリ202には、空調機構50を制御するための、図示しない制御マップが格納されており、温度調整部213は、2つの温度センサ56,57から得られた温度に基づき、この制御マップを参照して、電気ヒータ55及び第2電動ファン52を制御する。
【0056】
車両制御装置10では、上述した構成を備えることにより、後述する暖房要求対応処理,温度設定処理,及び温度調整処理を実行することで、システム全体としての燃費を向上させることができる。
【0057】
前述の第1三方弁33は、請求項における調整弁に相当する。また、第2三方弁58及び弁調整部111は請求項における状態切替部に、連携温度設定部112及び目標温度設定部113は、請求項における目標温度設定部,要求熱量取得部,発電量取得部,及び低下温度範囲決定部に、第4媒体流路64は請求項におけるバイパス回路に、第1ポンプ32及び第2ポンプ54は請求項における冷却媒体流通用ポンプに、暖機終了温度Teは請求項における暖機終了温度に、それぞれ相当する。
【0058】
A2.暖房要求対応処理及び温度設定処理:
図3は、暖房要求対応処理及び温度設定処理の手順を示すフローチャートである。図3において、左側は暖房要求対応処理のフローチャートを、右側は温度設定処理のフローチャートを、それぞれ示す。空調制御ユニット200では、図示しない操作パネルを介して暖房要求及び車室内温度の指定が入力されると、暖房要求対応処理が開始される。暖房要求対応処理とは、空調制御ユニット200が、ユーザの暖房要求に応じて空調機構50を制御する処理である。FC制御ユニット100では、図示しない電気自動車の起動後、温度設定処理が開始される。温度設定処理とは、後述する温度調整処理において用いられる連携温度及び目標温度を設定する処理である。本実施例では、電気自動車の始動直後において、ユーザにより暖房要求がなされたものとして、以下説明する。なお、暖房要求対応処理及び温度設定処理とは別に、急速暖機制御部114により燃料電池スタック20の急速暖機が実行される。
【0059】
暖房要求対応処理が開始されると、操作パネル制御部212は、連携要求を制御ユニット100に通知する(ステップS105)。連携要求とは、車両制御装置10を連携状態とする要求を意味する。
【0060】
温度設定処理が開始されると、FC制御ユニット100において、連携温度設定部112は、連携要求を受信するまで待機しており(ステップS205)、連携要求を受信すると、メモリ102より安定運転温度範囲122を読み出し、安定運転温度範囲の下限温度を連携温度として設定する(ステップS210)。図2の例では、安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1が、連携温度Tcとして設定される。ここで、連携温度Tcとは、2つの媒体回路R1,R2の接続を許可する温度を意味する。
【0061】
車両制御装置10では、2つの媒体回路R1,R2は、燃料電池スタック20の温度Tが連携温度Tcよりも低い場合には接続されず、燃料電池スタック20の温度Tが連携温度Tc以上の場合には接続される。
【0062】
このように、安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1を連携温度Tcとして設定するのは、以下の理由による。下限温度T1は、暖機終了温度Te(または急速暖機による最終的な燃料電池スタック20の温度T)よりも低い温度であるので、燃料電池スタック20の温度Tが高効率温度範囲RgSに達する以前から2つの媒体回路R1,R2を連携させることができる。したがって、燃料電池スタック20の廃熱を無駄なくヒータコア51の加熱に利用することができるので、電気ヒータ55の使用を抑制し、車両制御装置10全体として燃費を向上させることができるからである。加えて、急速暖機終了前に連携するので、急速暖機終了後に、第2媒体回路R2内の比較的低温の冷却媒体が第1媒体回路R1に流入して暖機の実効性が損なわれてしまうことを抑制できるからである。また、連携開始の際には、第2媒体回路R2内の冷却媒体の温度は第1媒体回路R1内の冷却媒体の温度に比べて低いので、連携によって燃料電池スタック20の温度Tは一時的に低下する。したがって、安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1よりも低い温度を連携温度Tcに設定した場合に、連携後において、燃料電池スタック20の温度Tが安定運転温度範囲Rg0よりも低下して出力安定性が確保できないおそれがある。そこで、車両制御装置10では、安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1を連携温度Tcとして設定することで、燃料電池スタック20の出力安定性を確保するようにしている。
【0063】
目標温度設定部113は、電流センサ42から通知される電流値及び電圧センサ41から通知される電圧値に基づき、燃料電池スタック20の発電量を算出する(ステップS215)。目標温度設定部113は、ステップS215で得られた発電量に基づき、メモリ102に格納されているFC発熱量マップ121の中から、現在参照すべきFC発熱量マップ(以下、「参照発熱量マップ」と呼ぶ)を決定する(ステップS220)。前述のように、FC発熱量マップ121は、燃料電池スタック20の発電量ごとに定められているため、ステップS215で得られた現在の発電量に基づき、参照発熱量マップが定められる。なお、得られた発熱量に対応するFC発熱量マップが存在しない場合には、最も近い発熱量に対応付けられたマップを、参照発熱量マップとして決定することもできる。或いは、得られた発熱量の前後の発熱量に対応する2つのFC発熱量マップを、参照発熱量マップとして決定することもできる。
【0064】
目標温度設定部113は、参照発熱量マップを決定すると、要求熱量の通知要求を、空調制御ユニット200に送信する(ステップS225)。要求熱量とは、ユーザにより指定された車室内温度を実現するために必要な、ヒータコア51を温めるための熱量を意味する。
【0065】
空調制御ユニット200において、要求熱量算出部211は、前述のステップS105の後、要求熱量の通知要求を受信するまで待機している(ステップS110)。要求熱量算出部211は、要求熱量の通知要求を受信すると、要求熱量を決定する(ステップS115)。この要求熱量の決定は、ユーザが指定した車室内温度,外気温度,換気率(室内気と室外気との利用率),日射量,窓からの放熱量等により公知の方法により求めることができる。
【0066】
要求熱量算出部211は、要求熱量を決定すると、FC制御ユニット100に決定した要求熱量を通知する(ステップS120)。要求熱量の通知の後、温度調整部213は、図示しない制御マップを参照して電気ヒータ55及び第2電動ファン52を制御することにより、ヒータコア51に流入する冷却媒体の温度を調整して、空調機構50より温風を送出させる(ステップS125)。
【0067】
FC制御ユニット100において、目標温度設定部113は、前述のステップS225の後、要求熱量の通知を受信するまで待機しており(ステップS230)、要求熱量を受信すると、参照発熱量マップにおいて、要求熱量よりも低い温度範囲(以下、「低下温度範囲」と呼ぶ)が存在するか否かを判定する(ステップS235)。
【0068】
図4は、参照発熱量マップと要求熱量との関係の第1の例を示す説明図である。図4において縦軸及び横軸は、図2と同じである。図4では、参照発熱量マップとして図2に示すFC発熱量マップL2が決定され、要求熱量として熱量Qrが通知された例を示している。
【0069】
図4に示すように、参照発熱量マップとしてFC発熱量マップL2が決定された場合には、参照発熱量マップにおいて要求熱量Qrを下回る低下温度範囲Rg1が存在する。この低下温度範囲Rg1では、燃料電池スタック20の発熱量が比較的低いため、2つの媒体回路R1,R2を接続して燃料電池スタック20から排出された冷却媒体をヒータコア51に供給しても、冷却媒体の熱のみではヒータコアを所望の温度に上昇させることはできない。
【0070】
低下温度範囲が存在する場合、目標温度設定部113は、図3に示すように、低下温度範囲の上限温度が、安全運転温度範囲の上限温度以上であるか否かを判定し(ステップS240)、低下温度範囲の上限温度が安全運転温度範囲の上限温度以上の場合には、安全運転温度範囲の上限温度を目標温度(Tt)に設定し(ステップS250)、低下温度範囲の上限温度が安全運転温度範囲の上限温度よりも低い場合には、低下温度範囲の上限温度を目標温度Ttに設定する(ステップS245)。
【0071】
図4の例では、低下温度範囲Rg1の上限温度T4は、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2よりも低い。したがって、この場合、低下温度範囲Rg1の上限温度T4が目標温度Ttに設定される。
【0072】
このように、低下温度範囲Rg1の上限温度T4を目標温度Ttとして設定するのは、要求熱量Qrを満たすために必要最低限の熱量を、燃料電池スタック20により生じさせること、及び安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2以下の温度に設定して燃料電池スタック20の出力電圧の安定性を確保することを目的としている。なお、目標温度Ttとして、低下温度範囲Rg1の下限温度T3を用いず、上限温度T2を採用するのは、以下の理由による。仮に、低下温度範囲Rg1の下限温度T3を目標温度Ttに設定した場合、燃料電池スタック20が昇温して冷却媒体の温度が下限温度T3を上回ると、後述するように、燃料電池スタック20の廃熱は、冷却媒体を介してラジエータ30により放出されるため無駄になってしまう。これに対し、低下温度範囲Rg1の上限温度T2を目標温度Ttに設定することにより、冷却媒体の温度が下限温度T3を上回ったとしても、冷却媒体の熱は排出されないので、かかる熱を暖房等に利用することができるからである。
【0073】
図5は、参照発熱量マップと要求熱量との関係の第2の例を示す説明図である。図5において縦軸及び横軸は、図4と同じである。図5では、参照発熱量マップとして図2に示すFC発熱量マップL1が決定され、要求熱量として熱量Qrが通知された例を示している。
【0074】
図5に示すように、参照発熱量マップとしてFC発熱量マップL1が決定された場合には、参照発熱量マップにおいて低下温度範囲Rg10が存在するものの、低下温度範囲Rg10の上限温度T6は、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2よりも高い温度となっている。したがって、この場合、ステップS250が実行され、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2が目標温度Ttに設定される。
【0075】
このように、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2を目標温度Ttとして設定するのは、安定運転温度範囲Rg0の範囲内で可能な限り高い温度を設定することにより、燃料電池スタック20の出力電圧の安定性を確保すると共に、可能な限り要求熱量Qrに近い熱量をヒータコア51に供給することにより、燃料電池スタック20の燃費を向上させることを目的としている。
【0076】
図6は、参照発熱量マップと要求熱量との関係の第3の例を示す説明図である。図6において縦軸及び横軸は、図4と同じである。図6では、参照発熱量マップとして図2に示すFC発熱量マップL3が決定され、要求熱量として熱量Qrが通知された例を示している。
【0077】
図6に示すように、参照発熱量マップとしてFC発熱量マップL3が決定された場合には、参照発熱量マップにおいて低下温度範囲が存在しない。したがって、この場合、ステップS250が実行され、図5と同様に、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2が目標温度Ttに設定される。
【0078】
このように、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2を目標温度Ttとして設定するのは、安定運転温度範囲Rg0の範囲内で可能な限り高い温度を設定することにより、燃料電池スタック20の出力電圧の安定性を確保すると共に、燃料電池スタック20の廃熱を可能な限りラジエータ30から放出させないことを目的としている。
【0079】
A3.温度調整処理:
図7は、FC制御ユニットにおいて実行される温度調整処理の手順を示すフローチャートである。FC制御ユニット100では、上述した温度設定処理が終了すると、温度調整処理が開始される。なお、本実施例では、温度調整処理の開始前において、車両制御装置10は図1のように独立状態にあるものとして説明する。ただし、図1に示すラジエータ30に向かう冷却媒体はなく、第2媒体流路62を流れる冷却媒体は全て第4媒体流路64に流入しているものとする。
【0080】
弁調整部111は、燃料電池スタック20の温度Tを取得する(ステップS305)。本実施例では、燃料電池スタック20の温度T(燃料電池スタック20の温度を代表する温度T)として、第2温度センサ35で検知した温度を採用する。なお、第2温度センサ35に代えて、他の温度センサで検知した温度や、酸化剤ガス流路24及び燃料ガス流路22に配置された図示しない温度センサで検知した温度を、燃料電池スタック20の温度Tとして採用することもできる。
【0081】
弁調整部111は、燃料電池スタック20の温度Tが、連携温度以上になるまで待機する(ステップS310)。燃料電池スタック20の温度Tは、燃料電池スタック20の発電開始に伴い上昇を始める。
【0082】
弁調整部111は、燃料電池スタック20の温度Tが連携温度Tcに達すると、第2三方弁58を調整して、第5媒体流路65と第6媒体流路66との間において冷却媒体を流通させることにより、第1媒体回路R1と第2媒体回路R2とを連携(接続)させる(ステップS315)。
【0083】
図8は、連携状態の車両制御装置における冷却媒体の流れを示す第1の説明図である。図8では、燃料電池スタック20の温度Tが、連携温度Tc以上であり、かつ、目標温度Ttよりも低い温度範囲にある場合の冷却媒体の流れを示している。
【0084】
図8に示すように、連携状態では、燃料電池スタック20から排出された冷却媒体は、第5媒体流路65及び第2三方弁58を介して第6媒体流路66に流入し、第2ポンプ54によって、電気ヒータ55を通ってヒータコア51に流入される。なお、燃料電池スタック20から排出された冷却媒体の一部は、第5媒体流路65ではなく、第2媒体流路62に流入する。ヒータコア51から排出された冷却媒体は、第7媒体流路67及び第9媒体流路69を介して第2媒体流路62に戻り、第4媒体流路64を介して第1媒体流路61に戻る。このとき、第2媒体流路62から第3媒体流路63へ流入する冷却媒体はないため、冷却媒体はラジエータ30により冷却されることはない。したがって、燃料電池スタック20の発電に伴う廃熱により、ヒータコア51に流入する冷却媒体の温度は次第に上昇する。
【0085】
図7に示すステップS315の後、弁調整部111は、現在の燃料電池スタック20の温度Tを取得し(ステップS320)、燃料電池スタック20の温度Tが目標温度Ttよりも高いか否かを判定する(ステップS325)。弁調整部111は、燃料電池スタック20の温度Tが目標温度Tt以上となるまで上記ステップS320,325を繰り返す。
【0086】
弁調整部111は、燃料電池スタック20の温度Tが目標温度Tt以上となると、第1三方弁33を調整し、第2媒体流路62から第3媒体流路63に向かう冷却媒体の量を増加させることにより、冷却媒体をラジエータ30により冷却させて温度Tが目標温度Ttを維持するように制御を行う(ステップS330)。具体的には、弁調整部111は、第2温度センサ35の検知温度(燃料電池スタック20の出口温度)が目標温度となるように、燃料電池スタック20の発熱量を考慮して、温度センサ34の検知温度(燃料電池スタック20の入口温度)の目標値を設定する。そして、弁調整部111は、燃料電池スタック20の入口温度が目標値となるように、第3温度センサ36の検知温度(ラジエータ30の出口温度)に基づき第1三方弁33における開度を調整する。
【0087】
図9は、連携状態の車両制御装置における冷却媒体の流れを示す第2の説明図である。図9では、燃料電池スタック20の温度Tが、目標温度Tt以上の場合の冷却媒体の流れを示している。
【0088】
図9に示すように、車両制御装置10が連携状態であり、燃料電池スタック20の温度Tが目標温度Tt以上の場合には、第3媒体流路63に冷却媒体が流入され、ラジエータ30により冷却される。なお、他の媒体流路における冷却媒体の流れは、図8と同様である。燃料電池スタック20から排出される冷却媒体の温度が、ラジエータ30における冷却によって目標温度Ttを下回った場合には、ラジエータ30に向かう冷却媒体の量が減少されて冷却媒体は昇温される。このようにして、燃料電池スタック20の温度T(ヒータコア51に流入される冷却媒体の温度)は、目標温度Ttを維持するように制御される。
【0089】
以上の温度調整処理により、図4の例では、電気自動車の始動後に暖房要求があると、燃料電池スタック20の温度及び発熱量の動作点は、参照発熱量マップL2に沿って右に移動し、動作点P1において2つの媒体回路R1,R2は連携される。その後、動作点が動作点P2に至ると、この動作点P2を維持するように第1三方弁33の開度が調整される。具体的には、燃料電池スタック20の温度が動作点P2の温度T4(Tt)から上昇した場合に、第2媒体流路62から第3媒体流路63に向かう冷却媒体の流量を増加させ、第2媒体流路62から第4媒体流路64に向かう冷却媒体の流量を減少させるように第1三方弁33の開度が調整される。一方、燃料電池スタック20の温度が動作点P2の温度T4(Tt)よりも低下した場合には、第2媒体流路62から第3媒体流路63に向かう冷却媒体の流量を減少させ、第2媒体流路62から第4媒体流路64に向かう冷却媒体の流量を増加させるように第1三方弁33の開度が調整される。
【0090】
図5の例では、動作点P11において2つの媒体回路R1,R2は連携され、その後、動作点P12を維持するように第1三方弁33の開度が調整される。図6の例では、動作点P21において2つの媒体回路R1,R2は連携され、その後、動作点P22を維持するように第1三方弁33の開度が調整される。
【0091】
ここで、図5,6の例では、要求熱量Qr以上の熱量を有する冷却媒体がヒータコア51に供給されることとなる。この場合、温度調整部213は、電気ヒータ55を停止させると共に、第2電動ファン52の送風量を低下させることにより、空調機構50から送出される温風の風量を減らし、車内温度がユーザの指定温度を超えてしまうことを抑制する。この場合、2つの媒体回路R1,R2内の冷却媒体の温度は、目標温度Ttを超えた温度に維持される。換言すると、目標温度を超えた分の燃料電池スタック20の廃熱は、2つの媒体回路R1,R2内の冷却媒体に蓄積されて保持される。したがって、その後、より高い温度の暖房要求があった場合に、冷却媒体に蓄積された熱量を利用して温風を送出できるので、応答性を向上させることができると共に燃料電池スタック20の発電効率の低下を抑制できる。なお、第2電動ファン52からの送風量を低下させることに代えて、ヒータコア51を通過させる冷却媒体量を低下させることで、車室内温度がユーザの指定温度を超えてしまうことを抑制させることもできる。
【0092】
以上説明したように、車両制御装置10では、連携温度Tcとして、暖機終了温度Te(または急速暖機による最終的な燃料電池スタック20の温度T)よりも低い温度である安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1に設定するので、空調機構50に特に熱を供給したい始動時において、より早いタイミングから2つの媒体回路R1,R2を連携させることができ、燃料電池スタック20の廃熱を無駄なくヒータコア51の加熱に利用することができる。したがって、電気ヒータ55の使用を抑制できるので、車両制御装置10全体として燃費を向上させることができる。加えて、急速暖機終了前に2つの媒体回路R1,R2を連携させるので、急速暖機終了後に、第2媒体回路R2内の比較的低温の冷却媒体が第1媒体回路R1に流入して暖機の実効性が損なわれることを抑制できると共に、温度の低下した冷却媒体を加熱するための電気ヒータ55の使用を抑制できる。
【0093】
また、連携温度Tcを安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1に設定するので、燃料電池スタック20の出力電圧の安定性を確保しつつ、より低い温度において2つの媒体回路R1,R2を連携させることが可能となり、燃料電池スタック20の廃熱を無駄なくヒータコア51の昇温に利用することができる。
【0094】
また、低下温度範囲Rg1が存在し、かつ、低下温度範囲Rg1の上限温度T4が安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2よりも低い場合には、低下温度範囲Rg1の上限温度を目標温度Ttとして設定するので、燃料電池スタック20の出力電圧の安定性を確保しつつ、要求熱量Qrを満たすために必要最低限の熱量を燃料電池スタック20において生じさせることができる。この場合、燃料電池スタック20において、要求熱量Qrよりも多い熱量の発生を抑制できる。換言すると、燃料電池スタック20の発電効率の低下を必要最低限に抑えることができる。したがって、燃料電池スタック20における燃費を向上させることができる。また、比較的高い温度(例えば、低下温度範囲Rg1の下限温度よりも高い温度や、高効率温度範囲RgSよりも高い温度)を目標温度Ttとして設定するので、比較的低い温度(例えば、高効率温度範囲RgS内の温度)を目標温度に設定する構成に比べて、ラジエータ30からの放熱を抑制できる。したがって、燃料電池スタック20の廃熱を無駄にせずに済み、車両制御装置10全体としての燃費を向上させることができる。
【0095】
また、低下温度範囲Rg10が存在し、かつ、低下温度範囲Rg10の上限温度T6が安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2以上の場合、或いは、低下温度範囲が存在しない場合には、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2を目標温度Ttとして設定するので、燃料電池スタック20の出力電圧の安定性を確保することができる。また、要求熱量Qrを超えた分の熱量を2つの媒体回路R1,R2内の冷却媒体に蓄積するので、その後、より高い温度の暖房要求があった場合に、かかる熱量を利用することができる。したがって、要求熱量Qrを超えた分の熱量をラジエータ30から排出(放熱)する構成に比べて、車両制御装置10全体としての燃費を向上させることができる。
【0096】
B.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0097】
B1.変形例1:
上記実施例では、連携温度Tcは、安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1に設定されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、連携温度Tcとして、燃料電池スタック20の耐久性能から定められる温度範囲内の任意の値を設定することもできる。一般に、各単セルにおいて電解質膜や触媒層は、所定の温度範囲(一般に安定運転温度範囲Rg0よりも狭い範囲)から外れた温度環境下で使用されると、電流集中等により劣化が急速に進む。したがって、燃料電池スタック20の耐久性能から定められる温度範囲の下限値以上、かつ、上限値以下の任意の温度を連携温度Tcとすることにより、燃料電池スタック20の耐久性能を確保することができる。この温度範囲は、予め耐久試験により求めて、安定運転温度範囲122に代えてメモリ102に格納しておくことができる。なお、この耐久性能から定められる温度範囲の下限温度は、一般に、暖機終了温度Teよりも低い。
【0098】
また、例えば、連携温度Tcとして、燃料電池スタック20の定格出力電力を確保可能な温度範囲内の任意の値に設定することができる。一般に、燃料電池スタック20では、定格出力電力値が定められているが、運転温度が非常に低い(又は非常に高い)場合には、発電効率が低下して、出力電力が定格出力電力よりも低下し得る。そこで、燃料電池スタック20の定格出力電力を確保可能な温度範囲の下限値以上、かつ、上限値以下の任意の温度を連携温度Tcとすることにより、燃料電池スタック20の出力電力が定格出力電力を下回ることを抑制できる。この温度範囲は、予め試験により求めて、安定運転温度範囲122に代えてメモリ102に格納しておくことができる。なお、この定格出力電力を確保可能な温度範囲の下限温度は、一般に、暖機終了温度Teよりも低い。
【0099】
また、例えば、連携温度Tcとして、0℃と定めることができる。このようにすることにより、より低い温度から連携させることができる。また、0℃よりも低い温度において連携させた場合には、連携後において燃料電池スタック20の温度Tが0℃よりも低下して、各単セル内で生成水が凍ってしまうおそれがある。この場合、反応ガスの供給や生成水の排水が抑制され、発電効率が極端に低下してしまう。そこで、連携温度Tcを0℃とすることにより、連携後における各単セル内での生成水の凍結を抑制できる。なお、この構成における連携温度Tc(0℃)は、一般に、安定運転温度範囲Rg0の下限温度T1及び暖機終了温度Teよりも低い。
【0100】
以上の実施例及び変形例からも理解できるように、暖機終了温度Teよりも低い任意の温度を、本発明の車両制御装置における連携温度として採用することができる。
【0101】
B2.変形例2:
上記実施例では、目標温度Ttは、低下温度範囲Rg1の上限温度T4又は安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2に設定されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図4の例においては、低下温度範囲Rg1の上限温度T4よりも高く安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2よりも低い任意の温度を、目標温度Ttとして設定することもできる。このような構成により、低下温度範囲Rg1が存在する場合において、より高い温度を目標温度Ttとして設定するので、予めより多くの熱量を2つの媒体回路R1,R2に蓄積しておくことができる。したがって、その後に、より高い温度を指定した暖房要求があった場合に、迅速に対応できると共に、燃料電池スタック20における低効率な運転を抑制でき、燃費を向上させることができる。
【0102】
また、例えば、目標温度Ttとして、高効率温度範囲RgS内の任意の温度を設定することもできる。かかる構成においても、少なくとも連携温度Tcよりも高い温度を目標温度Ttとして設定できるので、目標温度Ttに達する前から2つの媒体回路R1,R2を連携させることができ、車両制御装置10全体としての燃費を向上させることができる。
【0103】
また、例えば、目標温度Ttを固定温度とせず、可変とすることもできる。例えば、連携後(T≧Tc)の目標温度Ttを、連携前(T<Tc)の目標温度Ttよりも高くする(例えば、+5℃高くする)こともできる。このような構成により、連携後は、冷却媒体の温度がより高い温度に維持されるので、冷却媒体により多くの熱を蓄積させておくことができる。したがって、その後に、より高い温度の暖房要求があった場合に、迅速に対応できると共に、燃料電池スタック20における低効率な運転を抑制でき、燃費を向上させることができる。ただし、かかる構成においても、目標温度Ttを、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2以下とすることが好ましい。燃料電池スタック20の出力安定性を確保することができるからである。
【0104】
以上の実施例及び変形例からも理解できるように、連携温度Tcよりも高く、かつ、安定運転温度範囲Rg0の上限温度T2よりも低い任意の温度を、本発明の車両制御装置における目標温度として採用することができる。
【0105】
B3.変形例3:
上記実施例では、安定運転温度範囲Rg0は、固定された温度範囲(例えば、30℃〜90℃)であったが、これに代えて、可変の温度範囲とすることもできる。例えば、各単セルにおける電解質膜の湿潤状態に応じて、安定運転温度範囲Rg0を変更することもできる。一般に、電解質膜が非常に乾燥した状態、或いは、非常に湿潤な状態では、高効率温度範囲RgSに比較的近い温度においても、各単セルにおいて電圧の低下が起こり得る。そこで、電解質膜が非常に乾燥した状態、或いは、非常に湿潤な状態では、安定運転温度範囲Rg0をより狭めて、高効率温度範囲RgSにより近づけることで、燃料電池スタック20全体としての出力安定性を確保することができる。なお、各単セルにおける電解質膜の湿潤状態は、例えば、燃料電池スタック20の抵抗値(インピーダンス)を測定して、かかる抵抗値に基づき推定することができる。
【0106】
B4.変形例4:
上記実施例では、暖房用の熱源として、ヒータコア51及び電気ヒータ55のみを用いていたが、これに加えて、ヒートポンプや、さらなる電気ヒータを用いることもできる。具体的には、第2電動ファン52とヒータコア51との間に、或いは、ヒータコア51を介して第2電動ファン52と反対側(温風吹き出し側)に、ヒートポンプや電気ヒータを配置することもできる。
【0107】
B5.変形例5:
上記実施例では、燃料電池スタック20の温度Tが目標温度Ttに達するまでは、ラジエータ30での放熱を抑制していたが、これに代えて、目標温度Ttに達する前に、ラジエータ30での放熱を許可することもできる。
【0108】
B6.変形例6:
上記実施例では、燃料電池スタック20の温度Tを目標温度Ttに維持させるために、第1三方弁33の弁開度を調整していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、燃料電池スタック20の温度Tが目標温度Ttよりも高くなった場合には、2つの媒体回路R1,R2の連携を解除して、第1媒体回路R1内の冷却媒体のみをラジエータ30により冷却させることもできる。このような構成により、ラジエータ30での冷却対象とする媒体量を減らすことができるので、燃料電池スタック20の温度Tを急速に低下させて目標温度Ttに迅速に戻すことができる。
【0109】
B7.変形例7:
上記実施例では、2つの媒体回路R1,R2を連携させるために、第2三方弁58を調整して、第1媒体回路R1と第2媒体回路R2とを物理的に接続して、2つの媒体回路R1,R2間で冷却媒体を行き来させていたが、本発明はこれに限定されるものではない。第1媒体回路R1と第2媒体回路R2とに接続された熱交換機を配置し、かかる熱交換器を介して2つの媒体回路R1,R2を互いに連携させる(熱のやりとりを行わせる)こともできる。この場合、第1媒体回路R1,R2の少なくとも一方において、熱交換機をバイパスする流路を設け、かかるバイパス流路に冷却媒体を流通させることによって、独立状態を形成することもできる。すなわち、一般には、任意の方法により2つの媒体回路R1,R2を独立状態又は連携状態とする状態切替部を、本発明の車両制御装置に採用することができる。
【0110】
B8.変形例8:
上記実施例では、車両制御装置10は、電気自動車に搭載されて用いられていたが、これに代えて、ハイブリッド自動車,船舶,ロボットなどの各種移動体に適用することもできる。また、燃料電池スタック20を定置型電源として用い、車両制御装置10をビルや一般住宅等の建物における制御装置として適用することもできる。
【0111】
B9.変形例9:
上記実施例において、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。また、これとは逆に、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0112】
10…車両制御装置、20…燃料電池スタック、22…燃料ガス流路、24…酸化剤ガス流路、30…ラジエータ、31…第1電動ファン、32…第1ポンプ、33…第1三方弁、34…暖機終了温度センサ、35…第2温度センサ、36…第3温度センサ、40…負荷、41…電圧センサ、42…電流センサ、50…空調機構、51…ヒータコア、52…第2電動ファン、53…ケーシング、54…第2ポンプ、55…電気ヒータ、56…第4温度センサ、57…第5温度センサ、58…第2三方弁、61…第1媒体流路、62…第2媒体流路、63…第3媒体流路、64…第4媒体流路、65…第5媒体流路、66…第6媒体流路、67…第7媒体流路、68…第8媒体流路、69…第9媒体流路、100…FC制御ユニット、102…メモリ、111…弁調整部、112…連携温度設定部、113…目標温度設定部、122…安定運転温度範囲、200…空調制御ユニット、202…メモリ、211…要求熱量算出部、212…操作パネル制御部、213…温度調整部、R1…第1媒体回路、R2…第2媒体回路、121,L1〜L3…FC発熱量マップ、P1,P2,P11,P12,P21,P22…動作点、T1…下限温度、T2…上限温度、T3…下限温度、T4…上限温度、T6…上限温度、Qr…要求熱量、Tc…連携温度、Tt…目標温度、Te…暖機終了温度、Rg0…安定運転温度範囲、Rg1,Rg10…低下温度範囲、RgS…高効率温度範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
前記車両に電力を供給する燃料電池と、
ヒータコアを有する空調機構と、
前記燃料電池を通って冷却媒体を循環させるための第1媒体回路と、
前記第1媒体回路に配置されたラジエータと、
前記第1媒体回路に配置され、前記ラジエータをバイパスして前記冷却媒体を流通させるバイパス回路と、
前記第1媒体回路に配置され、前記ラジエータに流れる前記冷却媒体と前記バイパス回路に流れる前記冷却媒体との流量比を調整する調整弁と、
前記ヒータコアを通って冷却媒体を循環させるための第2媒体回路と、
前記第1媒体回路及び前記第2媒体回路のうち、少なくとも一方に配置される冷却媒体流通用ポンプと、
前記燃料電池の温度を代表する温度である燃料電池温度を取得する温度取得部と、
前記燃料電池温度が暖機終了温度に達するまで、前記燃料電池を暖機させる暖機制御部と、
前記燃料電池温度が、前記暖機終了温度よりも低い温度である連携温度よりも低い場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに切り離された状態である独立状態とし、前記燃料電池温度が前記連携温度以上の場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに連携された状態である連携状態とする状態切替部と、
を備える、車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記連携温度は、前記燃料電池が安定的に運転可能な安定運転温度範囲における下限温度以上である、車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記連携温度は、前記燃料電池が所定の耐久性能を維持可能な耐久温度範囲における下限温度以上である、車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記連携温度は、0℃以上である、車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両の制御装置において、さらに、
前記空調機構の要求熱量を取得する要求熱量取得部と、
前記燃料電池の発電量を取得する発電量取得部と、
前記調整弁を制御することにより、前記第1の媒体回路を流通する前記冷却媒体の温度を調整して、前記燃料電池温度を調整する温度調整部と、
前記温度調整部が前記燃料電池温度を調整する際の目標温度を設定する目標温度設定部と、
前記発電量における前記燃料電池の発熱量が、前記要求熱量以下となる前記燃料電池温度の温度範囲である低下温度範囲が存在するか否かを判定すると共に、前記低下温度範囲が存在する場合に、前記低下温度範囲を求める低下温度範囲決定部と、
を備え、
前記目標温度設定部は、前記低下温度範囲が存在する場合に、前記低下温度範囲の上限温度を、前記目標温度として設定する、車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の制御装置において、
前記目標温度設定部は、前記低下温度範囲の上限温度が、前記燃料電池が安定的に運転可能な安定運転温度範囲における上限温度よりも高い場合には、前記低下温度範囲の上限温度に代えて、前記安定運転温度範囲における上限温度を、前記目標温度として設定する、車両の制御装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の車両の制御装置において、
前記目標温度設定部は、前記低下温度範囲決定部により前記低下温度範囲が存在しないと判定された場合には、前記燃料電池が安定的に運転可能な安定運転温度範囲における上限温度を、前記目標温度として決定する、車両の制御装置。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の車両の制御装置において、
前記温度調整部は、前記燃料電池温度が上昇する過程において、前記燃料電池温度が前記目標温度に達するまで放熱を抑制する、車両の制御装置。
【請求項9】
車両の制御方法であって、
前記車両は、ヒータコアを有する空調機構と、前記燃料電池を通って冷却媒体を循環させるための第1媒体回路と、前記第1媒体回路に配置されたラジエータと、前記第1媒体回路に配置され、前記ラジエータをバイパスして前記冷却媒体を流通させるバイパス回路と、前記ヒータコアを通って冷却媒体を循環させるための第2媒体回路と、を有し、
(a)前記ラジエータに流れる前記冷却媒体と前記バイパス回路に流れる前記冷却媒体との流量比を調整することにより、前記第1媒体回路を流通する前記冷却媒体の温度を調整して、前記燃料電池の温度を代表する温度である燃料電池温度を調整する工程と、
(b)前記燃料電池温度が暖機終了温度に達するまで、前記燃料電池を暖機させる工程と、
(c)前記燃料電池温度を取得する工程と、
(d)前記燃料電池温度が、前記暖機終了温度よりも低い温度である連携温度よりも低い場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに切り離された状態である独立状態とし、前記燃料電池温度が前記連携温度以上の場合に、前記第1媒体回路と前記第2媒体回路とを互いに連携された状態である連携状態とする工程と、
を備える、車両の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−121542(P2011−121542A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282684(P2009−282684)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】