説明

車両用照明灯具

【課題】配光の反り上がり及び反り下がりをなくして車両照明に適した配光パターンが得られるとともに、水平方向の視認性に優れ、また、設計の自由度が得られる車両用照明灯具を提供する。
【解決手段】車両前後方向に延びる光軸上に配置された投射レンズ11と、この投射レンズ11の後側焦点近傍に配置された発光素子6とを備え、発光素子6からの直射光を投射レンズ11で偏向制御する車両用照明灯具において、投射レンズ11は、正面視においては横長形状を成し、上面視においては前面側が車両前方向に突出し、かつ、後面側が車両前方向に凹んだ弓形形状を成しているとともに、投射レンズ11の光軸OAより下半分のレンズ部の曲面11Lは、発光素子6からの光を下方に偏向させる形状として成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用照明灯具に関するものであり、特に、光源として例えばLED等の半導体型の発光素子を使用するプロジェクタタイプの車両用照明灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光源としてLED等の半導体型の発光素子を使用したプロジェクタタイプの車両用前照灯は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の車両用前照灯は、車両前後方向に延びる光軸上に配置された横長形状のシリンドリカルレンズと、このシリンドリカルレンズの後側焦点近傍に配置された発光素子を備え、上記発光素子からの直射光を上記レンズで水平方向に拡散させて前方へ照射する構造になっている。
【0004】
図9は、シリンドリカルレンズを使用した従来の車両用前照灯における拡散タイプの配光パターンの一例を示す。同図において、符号S1で示す部分は配光の反り上がりとなる部分で、符号S2で示す部分は配光の反り下がりとなる部分であり、部分S1,S2以外の部分が照明に必要とされる有効配光部分である。すなわち、部分S1である配光の反り上がりは対向車側に眩惑光として悪い影響を与え、部分S2である配光の反り下がりは路面光ムラとなり、車両近くに光抜けという悪い影響を与える。しかし、横長形状のシリンドリカルレンズの場合には、このような問題となる部分S1,S2が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−213879号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の横長形状のシリンドリカルレンズを使用した車両用照明灯具では、対向車側に眩惑光となる配光の反り上がりや、路面光のムラとなる配光の反り下がり等が発生し、配光面での問題点があった。
【0007】
また、単に横長形状をしたシリンドリカルレンズを使用した車両用照明灯具の構造では、車両左右方向の横幅寸法を大きく必要とする。このため、例えばランプレンズ(アウターレンズ)等、灯具外側の形状が曲面形状で設計されているような場合、その灯具外側の形状に合わせづらく、灯具設計時におけるレイアウトに制限を受けるという問題点があった。さらに、2次元上で光りを拡散させているので、水平方向の配光に視認性が乏しいという問題点もあった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、配光の反り上がり及び反り下がりをなくして車両照明に適した配光パターンが得られるとともに、水平方向の視認性に優れ、また、設計の自由度が得られる車両用照明灯具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用照明灯具は、車両前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍に配置された発光素子とを備え、上記発光素子からの直射光を上記レンズで偏向制御する車両用照明灯具において、前記凸レンズは、正面視においては横長形状を成し、上面視においては前面側が車両前方向に突出し、かつ、後面側が車両前方向に凹んだ弓形形状を成しているとともに、前記凸レンズの光軸より下半分のレンズ部は、前記光源からの光を下方に偏向させる形状として成る。
【0010】
この構成によれば、正面視においては横長形状を成し、上面視においては前面側が車両前方向に突出し、かつ、後面側が車両前方向に凹んだ弓形形状を成している凸レンズを使用することにより、水平方向の視認性に優れた配光を得ることができる。また、前記凸レンズの光軸より下半分のレンズ部が、光源からの光を下方に偏向させることにより、上方に向かう光線が下側に向かい、配光の反り上がり及び反り下がりをなくした配光を可能にする。さらに、凸レンズが車両前方向に突出している弓形形状を成していることにより、例えばアウターレンズ等、灯具外側の形状が曲面形状で設計されているような場合であっても、その灯具外側の形状に合わせ易く、設計時におけるレイアウトの制限をあまり受けることがない。
【0011】
上記構成において、前記凸レンズは裏面側に焦線を有して成る、構成を採用できる。
【0012】
この構成によれば、レンズ焦線に発光素子の光源を配置することで、灯具の薄型化を可能にすることができる。また、水平方向における視認性に優れた幅の広い配光を得ることができる。
【0013】
上記構成において、前記凸レンズは、裏面側が光軸より下半分の曲面の曲率が上半分の曲面の曲率より大で、かつ、後方へ向かって傾斜させて成る、構成を採用できる。
【0014】
この構成によれば、光源からの光を下方へ正確に偏向制御させて、配光の反り上がり及び反り下がりをなくした配光を可能にする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水平方向の視認性に優れた配光を得ることができる。また、配光の反り上がり及び反り下がりをなくした配光が可能になる。さらに、灯具外側の形状に合わせ易いので、灯具設計時におけるレイアウトに制限を受けることが少なく、設計の自由度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用照明灯を示す側面図。
【図2】本実施形態の車両用照明灯具の正面図。
【図3】上段ランプユニットのレンズ及び光源の配置を模式的に示す鉛直断面図。
【図4】同上レンズの斜視図。
【図5】同上レンズの上面図。
【図6】同上レンズの正面図。
【図7】図6のA−A線断面図。
【図8】上段ランプユニットから照射される配光パターンを示す図。
【図9】従来の車両用前照灯から照射される配光パターンを示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。図1及び図2は本発明に係る実施形態の車両用照明灯を示すもので、図1はその側面図、図2はその正面図である。以下の説明において、図1の左右方向左側を前方、右側を後方とし、また上下方向を上下、紙面に垂直な方向を左右として説明する。
【0018】
図1及び図2において、符号1は、この実施形態における車両用前照灯である。該車両用前照灯1は上段ランプユニット2(大拡散用配光)と、下段ランプユニット3(斜めカットライン用配光)と、ランプレンズ4等から構成されている。なお、ランプレンズ4は、例えば素通しのアウターレンズである。
【0019】
上段ランプユニット2及び下段ランプユニット3は、ユニット搭載部を兼ねるアルミダイカスト製のヒートシンク5上に配置されている。また、上段ランプユニット2は、本発明の最も特徴とする構成を備える車両用照明灯としてのランプユニットである。
【0020】
以下、前記上段ランプユニット2の構成についてさらに詳細に説明する。この上段ランプユニット2は、光学ユニット2Aと光源ユニット2Bとで成る。
【0021】
前記光源ユニット2Bは、光源としての発光素子6をヒートシンク5上に設けて成る。該発光素子6は、1mm四方程度の大きさの発光チップを複数個並べた略長方形の外形を有する半導体型の発光素子としての白色ダイオード(LED)であって、熱伝導性を有する基板7に支持された状態で、かつ、図3に示すように光軸OAのすぐ上側に位置して前方に向けて配置されている。なお、この光源ユニット2Bは前記基板7を介してヒートシンク5に固定されている。
【0022】
一方、光学ユニット2Aは、投射レンズ11を備える。投射レンズ11は、図4乃至図7に詳細に示す。該投射レンズ11は、正面視においては図6に示すように横長形状を成し、上面視においては図5に示すように前面側が車両前方向に突出し、かつ、後面側が曲率R1で車両前方向に凹んだ弓形形状を成す凸レンズで構成されている。また、この投射レンズ11は、図5に示すように裏面(後方)側に焦線(線上の焦点)12を有している。そして、本実施形態においては、この投射レンズ11の焦線12上に発光素子6を配置しており、これにより発光素子6からの直射光を水平方向に拡張させて前方に照射し、拡散タイプの所定の配光パターンを投影することができるように構成している。
【0023】
また、前記投射レンズ11のレンズ裏面側には、該レンズ裏面側を車両前方向に凹ませることによって、切り欠き状の湾曲部13が形成されている。さらに、投射レンズ11のレンズ裏面は、該投射レンズの基本焦点を形成する曲率Rに対し図7に示すように、光軸OAより下半分側のレンズ部裏面における曲面11Lの曲率RLは、基本焦点を形成する曲率Rより大きく(R<RL)、光軸OAより上半分側のレンズ部裏面における曲面11Hの曲率RHは、該投射レンズの基本焦点を形成する曲率Rより小さくし(RL>R)(RH<R)とし、かつ、曲面11Lが曲面11Hよりも後方へ向かって角度θ傾斜させた状態に形成されている。なお、前記角度θは、0°以上5°以下(0°<θ<5°)で設定される。
【0024】
この実施形態における上段ランプユニット2は、以上のごとき投射レンズ11を形成するとともに、該投射レンズ11のレンズ焦線12上に発光素子6を配置した構造としたことにより、発光素子6から投射レンズ11に入射された直射光は、図3に示すように、出射光L1,L2,L3として外部(車両の前方)に照射される。
【0025】
すなわち、レンズ中心付近に入射された光は出射光L1として光軸OAに沿ってほぼ水平に出射し、レンズ上側(上半分側のレンズ部)に入射された光は出射光L2として出射光L1よりやや下側に偏向されて出射し、レンズ下側(下半分側のレンズ部)に入射された光は出射光L3として出射光L1よりも下側に偏向されて出射する。
【0026】
そして、この投射レンズ11による偏向制御により、図8に示すように、水平方向における視認性に優れた幅の広い下向きの配光パターンを得ることができる。また、この配光では、従来の車両用照明灯具で問題となっていた配光の反り上がり及び反り下がりをなくした配光が可能になる。
【0027】
したがって、本実施形態における車両用照明灯具では、正面視においては横長形状を成し、上面視においては前面側が車両前方向に突出し、かつ、後面側が車両前方向に凹んだ弓形形状を成している投射レンズ(凸レンズ)11を使用しているので、水平方向における視認性に優れた配光を得ることができる。
【0028】
また、前記投射レンズ11の光軸OAより下半分のレンズ部の曲面11Hが、光源(受光素子6)からの光を下方に偏向させるので、上方に向かう光線が下側に向かい、配光の反り上がり及び反り下がりをなくした配光を可能にする。
【0029】
さらに、投射レンズ11が車両前方向に突出している弓形形状を成していることにより、例えばランプレンズ4の形状等、灯具外側の形状が曲面形状で設計されているような場合であっても、その灯具外側の形状に合わせ易く、灯具設計時におけるレイアウトに制限をあまり受けることがなくなる。
【0030】
また、さらにレンズ焦線12に発光素子6の下側の一辺を配置しているので、灯具の薄型化が可能になるとともに、光源(受光素子6)からの光をさらに下方に偏向させ水平方向における視認性に優れた幅の広い配光を得ることができる。
【0031】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明は車両用照明灯具について説明したが、車両用灯具に限らず一般の信号灯等にも応用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 車両用前照灯
2 上段ランプユニット
2A 光学ユニット
2B 光源ユニット
3 下段ランプユニット
4 ランプレンズ
5 ヒートシンク
6 発光素子(LED)
7 基板
11 投射レンズ(凸レンズ)
11L 下半分の曲面
11H 上半分の曲面
12 レンズ焦線
13 湾曲部
L1 出射光
L2 出射光
L3 出射光
R1 弓形の曲率
R2 焦線の曲率
RL 曲率
RH 曲率
OA 光軸
θ 傾斜角度
S1 配光の反り上がり部分
S2 配光の反り下がり部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍に配置された発光素子とを備え、上記発光素子からの直射光を上記レンズで偏向制御する車両用照明灯具において、
前記凸レンズは、正面視においては横長形状を成し、上面視においては前面側が車両前方向に突出し、かつ、後面側が車両前方向に凹んだ弓形形状を成しているとともに、前記凸レンズの光軸より下半分のレンズ部は、前記光源からの光を下方に偏向させる形状として成ることを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
前記凸レンズは裏面側に焦線を有して成ることを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
前記凸レンズは、裏面側が光軸より下半分の曲面の曲率が上半分の曲面の曲率より大で、かつ、後方へ向かって傾斜させて成ることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用照明灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−277817(P2010−277817A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128650(P2009−128650)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000000136)市光工業株式会社 (774)
【Fターム(参考)】