説明

車両用照明灯具

【課題】プロジェクタ型の車両用照明灯具において、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうことなく、投影レンズの意匠に斬新性を持たせる。
【解決手段】リフレクタ16からの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面18aを有し、その前端縁18a1が投影レンズ12の後側焦点Fを通るようにして配置されたミラー部材18を備えた構成とする。その上で、投影レンズ12の構成として、その前面12aにおける略上半部12aBが、稜線Rを介して5つの前面領域12a1〜12a5に分割された構成とする。これにより、車両用照明灯具10を観察する歩行者等に対して、その投影レンズ12の意匠が斬新性を有しているという印象を与えるようにした上で、ロービーム用配光パターンを形成する際に、そのカットオフラインの上方へ向かう光の量を少なくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ミラー部材を備えたプロジェクタ型の車両用照明灯具に関するものであり、特に、その投影レンズの構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、プロジェクタ型の車両用照明灯具においては、投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源からの光をリフレクタにより投影レンズへ向けて反射させるように構成されている。
【0003】
そして、このような車両用照明灯具によって、ロービーム用配光パターン等のような上端部にカットオフラインを有する配光パターンを形成する際には、リフレクタからの反射光の一部を遮蔽するためのシェードが、その上端縁が投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るようにして配置された構成が多く採用されている。
【0004】
その際、例えば「特許文献1」に記載されているように、発光素子等を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具においては、光源を上方側から覆うようにしてリフレクタが配置された構成とした上で、シェードの代わりに、リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面を有するミラー部材が、その上向き反射面の前端縁が投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るようにして配置された構成とし、これにより光源からの光の有効利用を図るようにすることも多い。
【0005】
この「特許文献1」に記載された投影レンズは、カットオフラインの上方近傍に現れる分光色を目立たなくするため、その前面が凹凸状の鉛直断面形状を有する構成となっている。
【0006】
一方「特許文献2」には、車両用照明灯具の投影レンズとして、前面が凸面状の楕円面で構成されるとともに後面が凹面状の楕円面で構成された楕円レンズから、所定の中心角で扇形に切り出した同一形状の4つのレンズ片を、周方向に繋ぎ合わせた構成のものが記載されている。そして、この「特許文献2」には、このようにして構成された投影レンズが、リフレクタを備えたプロジェクタ型の車両用照明灯具にも適用可能である旨の記載がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−265864号公報
【特許文献2】特開2009−43543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、車両のデザイン性向上を図る観点から、プロジェクタ型の車両用照明灯具に対して、その投影レンズの意匠に斬新性を持たせるというニーズが高まってきている。
【0009】
しかしながら、上記「特許文献1」に記載された投影レンズは、その前面が微細な凹凸状の鉛直断面形状を有しているに過ぎないので、その意匠に斬新性を持たせる上で不十分である。
【0010】
一方、上記「特許文献2」に記載された投影レンズは、その前面が稜線を介して複数の前面領域に分割されているので、これが単一曲面で形成されている場合とは異なるレンズ意匠を演出することが可能である。
【0011】
しかしながら、この「特許文献2」に記載された投影レンズは、直射型の車両用照明灯具でかつその光源が点光源に近い灯具に組み込まれる場合には、通常の投影レンズと略同様に取り扱うことが可能であるが、リフレクタを備えたプロジェクタ型の車両用照明灯具に組み込まれる場合には、次のような問題がある。
【0012】
すなわち、リフレクタからの反射光は、投影レンズの後側焦点から離れた位置においてその焦点面を通過する成分を含んでいるので、投影レンズを構成している4つのレンズ片のうち、ある1つのレンズ片の後面に入射したリフレクタからの反射光が、必ずしも同じレンズ片の前面に到達するとは限らず、その際、異なるレンズ片の前面に到達した一部の光は、このレンズ片の前面から所期の出射方向とは異なる方向へ出射してしまうこととなる。
【0013】
したがって、このようなプロジェクタ型の車両用照明灯具を、上端部にカットオフラインを有する配光パターンを形成するために用いるようにした場合には、そのカットオフラインの上方へ向かう光が発生してしまい、これにより対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうおそれがある、という問題がある。
【0014】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、プロジェクタ型の車両用照明灯具において、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうことなく、投影レンズの意匠に斬新性を持たせることができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、投影レンズの構成に工夫を施すことにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0016】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具は、
投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、この光源を上方側から覆うように配置され、該光源からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面を有し、該上向き反射面の前端縁が上記後側焦点またはその近傍を通るようにして配置されたミラー部材と、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記投影レンズの前面における略上半部が、稜線を介して複数の前面領域に分割されている、ことを特徴とするものである。
【0017】
上記「光源」の種類は特に限定されるものではなく、また、この「光源」は、投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置されていれば、その具体的な位置や向き等は特に限定されるものではない。
【0018】
上記「ミラー部材」は、その上向き反射面の前端縁が投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るようにして配置された状態で、その上向き反射面においてリフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるように構成されていれば、その上向き反射面の具体的な形状等は特に限定されるものではない。
【0019】
上記「投影レンズの前面における略上半部」は、稜線を介して複数の前面領域に分割されていれば、その具体的な分割数や分割形状等は特に限定されるものではなく、また、これら各「前面領域」の具体的な表面形状についても特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0020】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源からの光を、この光源を上方側から覆うように配置されたリフレクタによって投影レンズへ向けて反射させるプロジェクタ型の灯具として構成されており、さらに、上記リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面を有し、その前端縁が投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るようにして配置されたミラー部材を備えた構成となっているが、その際、投影レンズは、その前面における略上半部が、稜線を介して複数の前面領域に分割されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0021】
すなわち、このように投影レンズの前面における略上半部が稜線を介して複数の前面領域に分割されていることにより、この車両用照明灯具を観察したとき、その投影レンズが、単一曲面で形成されている通常の投影レンズとは異なった意匠で見えるようにすることができる。その際、一般に、ヘッドランプ等の車両用照明灯具は、歩行者等の目の位置よりもかなり低い位置において車体に取り付けられるので、投影レンズの前面における略上半部が稜線を介して複数の前面領域に分割された構成となっていれば、歩行者等の観察者に対して、投影レンズの意匠が斬新性を有しているという印象を与えることが十分可能である。
【0022】
一方、投影レンズの前面の表面形状が、通常の投影レンズの場合と異なっていると、投影レンズからの出射光の向きが所期の方向からずれてしまうので、上端部にカットオフラインを有する配光パターンを形成する際に、そのカットオフラインの上方へ向かう光が発生してしまい、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうおそれがある。
【0023】
しかしながら、本願発明においては、ミラー部材を備えたプロジェクタ型の灯具構成を前提とした上で、投影レンズの前面の全領域ではなくその略上半部が稜線を介して複数の前面領域に分割された構成となっているので、上端部にカットオフラインを有する配光パターンを形成するようにした場合においても、以下の理由で、カットオフラインの上方へ向かう光の量を少なくすることができ、これにより対向車ドライバ等にグレアを与えてしまわないようにすることができる。
【0024】
すなわち、ミラー部材を備えたプロジェクタ型の車両用照明灯具からの照射光により形成される配光パターンは、リフレクタで反射した後、投影レンズに直接到達する光によって形成される第1の配光パターンと、ミラー部材の上向き反射面で反射してから投影レンズに到達する光によって形成される第2の配光パターンとの合成配光パターンとして形成されるが、その大半は第1の配光パターンによって形成されるようになっている。その際、第1の配光パターンは、投影レンズの前面における略下半部から出射する光によって形成され、第2の配光パターンは、投影レンズの前面における略上半部から出射する光によって形成されるようになっている。
【0025】
したがって、投影レンズの前面における略上半部が稜線を介して複数の前面領域に分割された構成とすることにより、この略上半部からの出射光の一部がカットオフラインの上方へ向かう光となったとしても、その光量はあまり多くはならないので、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまわないようにすることが可能となる。
【0026】
このように本願発明によれば、プロジェクタ型の車両用照明灯具において、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうことなく、投影レンズの意匠に斬新性を持たせることができる。
【0027】
上記構成において、投影レンズの後面における略上半部が、谷線を介して複数の前面領域と同数の複数の後面領域に分割された構成とし、そして、これら各後面領域が、投影レンズの後側焦点の位置からの光を各前面領域から投影レンズの光軸と平行な方向へ出射させるように設定された表面形状で形成された構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0028】
すなわち、ミラー部材の上向き反射面で反射した後、投影レンズに到達した光を、各後面領域と各前面領域との組合せによって、通常の投影レンズの場合と略同様にして偏向制御することができる。そしてこれにより、対向車ドライバ等に対するグレア防止を一層確実に図ることができる。
【0029】
その際、各後面領域は谷線を介して分割されているので、投影レンズの後側焦点の位置から出射して各後面領域から投影レンズに入射した光を、各前面領域に対してその周囲の稜線から内側に多少離れた中心寄りの領域に到達させるようにすることができる。したがって、各後面領域から投影レンズに入射した光が、稜線を越えて該後面領域に対応すべき前面領域に隣接する前面領域や一般部に到達し、その出射光が迷光となってしまうのを未然に防止することができる。実際には、ミラー部材の上向き反射面からの反射光は、投影レンズの後側焦点の位置およびその周辺の各位置からの光として投影レンズに到達するが、その際、ミラー部材の上向き反射面の各位置からの反射光の入射角度と投影レンズの後側焦点の位置からの光の入射角度との差が、稜線と中心寄りの領域との間隔に対応する角度以下であれば、各後面領域から入射した光をこれに対応すべき各前面領域に到達させることができる。
【0030】
しかも、このように投影レンズの後面における略上半部が、谷線を介して複数の前面領域と同数の複数の後面領域に分割された構成とすることにより、投影レンズにクリスタル感を持たせることができ、これによりレンズ意匠の斬新性を高めることができる。
【0031】
上記構成において、ミラー部材の上向き反射面における前端縁から所定幅の前端領域が、非反射面として形成された構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0032】
すなわち、投影レンズの前面における略上半部からの出射光のうち、迷光としてカットオフラインの上方へ向かう光は、主としてミラー部材の上向き反射面における前端縁に近い領域からの反射光によるものである。したがって、ミラー部材の上向き反射面における前端縁から所定幅の前端領域を、非反射面として形成しておけば、第2の配光パターンの明るさをあまり減少させてしまうことなく、カットオフラインの上方へ向かう光を効果的に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面面
【図2】図1のII−II線断面図
【図3】上記車両用照明灯具の主要構成要素を示す斜視図
【図4】上記車両用照明灯具の投影レンズを、その後方から見て示す図
【図5】上記投影レンズの光学的作用を示す側断面図
【図6】(a)は、上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンを透視的に示す図、(b)、(c)は、上記ロービーム用配光パターンを構成する2つの配光パターンを示す図
【図7】上記実施形態の変形例を示す、図3と同様の図
【図8】上記変形例における投影レンズの光学的作用を示す側断面図
【図9】上記変形例の作用を説明するための、図6(c)と同様の図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0035】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面面であり、図2は、そのII−II線断面図である。また、図3は、この車両用照明灯具10の主要構成要素を示す斜視図である。
【0036】
これらの図に示すように、この車両用照明灯具10は、投影レンズ12と、この投影レンズ12の後側焦点Fよりも後方側に配置された光源14と、この光源14を上方側から覆うように配置され、該光源14からの光を投影レンズ12へ向けて反射させるリフレクタ16と、このリフレクタ16からの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面18aを有し、該上向き反射面18aの前端縁18a1が後側焦点Fを通るようにして配置されたミラー部材18とを備えた構成となっている。
【0037】
その際、光源14およびリフレクタ16はミラー部材18に支持されており、投影レンズ12は、レンズホルダ20を介してミラー部材18に支持されている。
【0038】
この車両用照明灯具10は、ヘッドランプの一部として組み込まれた状態で用いられる灯具ユニットであって、ヘッドランプに組み込まれた状態では、その投影レンズ12の光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。
【0039】
光源14は、白色発光ダイオードの発光チップであって、横長矩形状の発光面を有している。そして、この光源14は、その発光面を光軸Ax上において上向きにした状態で配置されている。
【0040】
リフレクタ16の反射面16aは、光軸Axと同軸の長軸を有するとともに光源14の発光中心を第1焦点とする略楕円面状の曲面で構成されている。その際、この反射面16aは、その光軸Axに沿った鉛直断面形状が後側焦点Fのやや前方に位置する点を第2焦点とする楕円形状に設定されており、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。そしてこれにより、リフレクタ16は、光源14からの光を、鉛直断面内においては後側焦点Fのやや前方に位置する点に収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置をかなり前方へ移動させるようになっている。
【0041】
ミラー部材18の上向き反射面18aは、該ミラー部材18の上面にアルミニウム蒸着等による鏡面処理を施すことにより形成されている。この上向き反射面18aは、光軸Axよりも左側(灯具正面視では右側)に位置する左側領域が光軸Axを含む水平面で構成されており、光軸Axよりも右側に位置する右側領域が、短い斜面を介して左側領域よりも一段低い水平面で構成されている。そして、この上向き反射面18aの前端縁18a1は、後側焦点Fを含む焦点面に沿って延びるように形成されている。これにより、ミラー部材18は、その上向き反射面18aにおいて、リフレクタ16の反射面16aから投影レンズ12へ向かう反射光の一部を上向きに反射させて投影レンズ12に入射させ、これらを下向き光として投影レンズ12から出射させるようになっている。
【0042】
図4は、投影レンズ12を、その後方から見て示す図である。また、図5は、投影レンズ12の光学的作用を示す側断面図である。
【0043】
これらの図にも示すように、投影レンズ12は、前面が凸面で後面が平面の平凸非球面レンズに近似したレンズ形状を有しており、その外周フランジ部12cにおいてレンズホルダ20に支持されている。
【0044】
この投影レンズ12の前面12aは、その略上半部12aBが、それ以外の一般部12aAとは異なる表面形状を有している。すなわち、この前面12aの一般部12aAは、通常の平凸非球面レンズの一部として構成されているが、その略上半部12aBは、稜線Rを介して5つの前面領域12a1、12a2、12a3、12a4、12a5に分割されている。
【0045】
また、この投影レンズ12の後面12bは、その略上半部12bBが、それ以外の一般部12bAとは異なる表面形状を有している。すなわち、この後面12bの一般部12bAは、通常の平凸非球面レンズの一部として構成されているが、その略上半部12bBは、谷線Tを介して5つの後面領域12b1、12b2、12b3、12b4、12b5に分割されている。
【0046】
なお、図2に示す投影レンズ12において、2点鎖線で示す曲線および直線は、投影レンズ12における前面12aの略上半部12aBが、仮に一般部12aAを延長した形状の曲面で形成されるとともに、その後面12bの略上半部12bBが、仮に一般部12bAを延長した形状の平面で形成されているとした場合の、それぞれの断面形状を示す曲線および直線である。
【0047】
図1および3に示すように、投影レンズ12の前面12aにおける略上半部12aBに形成された各稜線Rは、横方向に略円弧状に延びており、5つの前面領域12a1〜12a5は上下5段で形成されている。その際、灯具正面視において、中間に位置する3つの前面領域12a2、12a3、12a4は、左右両側が上方へ湾曲した横長の中細帯状領域として形成されており、最上段の前面領域12a1は、上端縁が上向き凸曲線で下端縁が下向き凸曲線で構成された横長の中太帯状領域として形成されており、最下段の前面領域12a5は、上端縁が上向き凹曲線で下端縁が下向き凹曲線で構成されるとともにこれら上下両端縁が光軸Ax上において接触した横長の中細帯状領域として形成されている。
【0048】
また、これら5つの前面領域12a1〜12a5は、図2および5に示すように、光軸Axと平行な鉛直面に沿った断面形状が、いずれも直線形状に設定されている。これにより、投影レンズ12の前面12aは、各稜線Rを角部とする多角形の鉛直断面形状を有する構成となっている。
【0049】
一方、図4に示すように、投影レンズ12における後面12bの略上半部12bBに形成された5つの後面領域12b1〜12b5は、5つの前面領域12a1〜12a5の略後方にそれぞれ位置するように形成されているが、各谷線Tは、灯具正面視において、各稜線Rよりも大きい曲率の曲線形状でやや光軸Ax寄りの位置に形成されている。
【0050】
また、図2および5に示すように、これら各後面領域12b1〜12b5は、光軸Axと平行な鉛直面内において、いずれも凸曲線状に形成されている。
【0051】
そしてこれにより、これら各後面領域12b1〜12b5は、該後面領域から投影レンズ12に入射した後側焦点Fの位置からの光を、上下方向に関して、これらに対応すべき各前面領域12a1〜12a5に対して、その上下両側に位置する稜線Rから内側に離れた中心寄りの領域に到達させるとともに、該前面領域に到達した後側焦点Fの位置からの光を、光軸Axに沿った平行光として投影レンズ12から前方へ出射させるようになっている。
【0052】
図6(a)は、車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンPLを透視的に示す図である。
【0053】
このロービーム用配光パターンPLは、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2を有している。このカットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH−Vを鉛直方向に通るV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側の対向車線側部分が下段カットオフラインCL1として形成されるとともに、V−V線よりも左側の自車線側部分が、この下段カットオフラインCL1から傾斜部を介して段上がりになった上段カットオフラインCL2として形成されている。
【0054】
このロービーム用配光パターンPLは、リフレクタ16で反射した光源14からの光によって投影レンズ12の後側焦点面上に形成された光源14の像を、投影レンズ12により上記仮想鉛直スクリーン上に反転投影像として投影することにより形成され、そのカットオフラインCL1、CL2は、ミラー部材18の上向き反射面18aの前端縁18a1の反転投影像として形成されるようになっている。
【0055】
このロービーム用配光パターンPLにおいて、下段カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。これは光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びていることによるものである。
【0056】
このロービーム用配光パターンPLは、図6(b)に示す第1の配光パターンPAと図6(c)に示す第2の配光パターンPBとを重畳させた合成配光パターンとして形成されている。
【0057】
第1の配光パターンPAは、リフレクタ16で反射した後、投影レンズ12に直接到達する光によって形成される配光パターンである。一方、第2の配光パターンPBは、ミラー部材18の上向き反射面18aで上向きに反射してから投影レンズ12に到達する光によって形成される配光パターンである。ロービーム用配光パターンPLの大半は第1の配光パターンPAによって形成され、第2の配光パターンPBは、エルボ点Eを中心とするカットオフラインCL1、CL2の下方近傍領域の明るさを増大させるようになっている。
【0058】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0059】
本実施形態に係る車両用照明灯具10は、投影レンズ12の後側焦点Fよりも後方側に配置された光源14からの光を、この光源14を上方側から覆うように配置されたリフレクタ16によって投影レンズ12へ向けて反射させるプロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されており、さらに、リフレクタ16からの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面18aを有し、その前端縁18a1が投影レンズ12の後側焦点Fを通るようにして配置されたミラー部材18を備えた構成となっているが、その際、投影レンズ12は、その前面12aにおける略上半部12aBが、稜線Rを介して5つの前面領域12a1〜12a5に分割されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0060】
すなわち、このように投影レンズ12の前面12aにおける略上半部が稜線Rを介して5つの前面領域12a1〜12a5に分割されていることにより、車両用照明灯具10を観察したとき、その投影レンズ12が、単一曲面で形成されている通常の投影レンズとは異なった意匠で見えるようにすることができる。その際、一般に、ヘッドランプ等の車両用照明灯具は、歩行者等の目の位置よりもかなり低い位置において車体に取り付けられるので、投影レンズ12の前面12aにおける略上半部12aBが稜線Rを介して5つの前面領域12a1〜12a5に分割された構成となっていれば、歩行者等の観察者に対して、投影レンズ12の意匠が斬新性を有しているという印象を与えることが十分可能である。
【0061】
一方、投影レンズ12の前面12aの表面形状が、通常の投影レンズの場合と異なっていると、投影レンズ12からの出射光の向きが所期の方向からずれてしまうので、ロービーム用配光パターンPLを形成する際に、そのカットオフラインCL1、CL2の上方へ向かう光が発生してしまい、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうおそれがある。
【0062】
しかしながら、本実施形態においては、ミラー部材18を備えたプロジェクタ型の灯具構成を前提とした上で、投影レンズ12の前面12aの全領域ではなくその略上半部12aBが稜線Rを介して5つの前面領域12a1〜12a5に分割された構成となっているので、ロービーム用配光パターンPLを形成するようにした場合においても、以下の理由で、カットオフラインCL1、CL2の上方へ向かう光の量を少なくすることができ、これにより対向車ドライバ等にグレアを与えてしまわないようにすることができる。
【0063】
すなわち、ミラー部材18を備えたプロジェクタ型の車両用照明灯具10からの照射光により形成されるロービーム用配光パターンPLは、リフレクタ16で反射した後、投影レンズ12に直接到達する光によって形成される第1の配光パターンPAと、ミラー部材18の上向き反射面18aで反射してから投影レンズ12に到達する光によって形成される第2の配光パターンPBとの合成配光パターンとして形成されるが、その大半は第1の配光パターンPAによって形成されるようになっている。その際、第1の配光パターンPAは、投影レンズ12の前面12aにおける略下半部から出射する光によって形成され、第2の配光パターンPBは、投影レンズ12の前面12aにおける略上半部から出射する光によって形成されるようになっている。
【0064】
したがって、投影レンズ12の前面12aにおける略上半部12aBが稜線Rを介して5つの前面領域12a1〜12a5に分割された構成とすることにより、この略上半部12aBからの出射光の一部がカットオフラインCL1、CL2の上方へ向かう光となったとしても、その光量はあまり多くはならないので、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまわないようにすることが可能となる。
【0065】
このように本実施形態によれば、プロジェクタ型の車両用照明灯具10において、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうことなく、投影レンズ12の意匠に斬新性を持たせることができる。
【0066】
特に、本実施形態においては、投影レンズ12の後面12bにおける略上半部12bBが、谷線Tを介して5つの後面領域12b1〜12b5に分割されており、そして、これら各後面領域12b1〜12b5が、投影レンズ12の後側焦点Fの位置からの光を各前面領域12a1〜12a5から投影レンズ12の光軸Axと平行な方向へ出射させるように設定された表面形状で形成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0067】
すなわち、ミラー部材18の上向き反射面18aで反射した後、投影レンズ12に到達した光を、各後面領域12b1〜12b5と各前面領域12a1〜12a5との組合せによって、通常の投影レンズの場合と略同様にして偏向制御することができる。そしてこれにより、対向車ドライバ等に対するグレア防止を一層確実に図ることができる。
【0068】
その際、各後面領域12b1〜12b5は谷線Tを介して分割されているので、投影レンズ12の後側焦点Fの位置から出射して各後面領域12b1〜12b5から投影レンズ12に入射した光を、各前面領域12a1〜12a5に対してその周囲の稜線Rから内側に多少離れた中心寄りの領域に到達させるようにすることができる。したがって、各後面領域12b1〜12b5から投影レンズ12に入射した光が、稜線Rを越えて該後面領域に対応すべき前面領域12a1〜12a5に隣接する前面領域や一般部12aAに到達し、その出射光が迷光となってしまうのを未然に防止することができる。実際には、ミラー部材18の上向き反射面18aからの反射光は、投影レンズ12の後側焦点Fの位置およびその周辺の各位置からの光として投影レンズ12に到達するが、その際、ミラー部材18の上向き反射面18aの各位置からの反射光の入射角度と投影レンズ12の後側焦点Fの位置からの光の入射角度との差が、稜線Rと中心寄りの領域との間隔に対応する角度以下であれば、各後面領域12b1〜12b5から入射した光をこれに対応すべき各前面領域12a1〜12a5に到達させることができる。
【0069】
しかも、このように投影レンズ12の後面12bにおける略上半部12bBが、谷線Tを介して5つの後面領域12b1〜12b5に分割された構成とすることにより、投影レンズ12にクリスタル感を持たせることができ、これによりレンズ意匠の斬新性を高めることができる。
【0070】
上記実施形態においては、投影レンズ12の前面12aにおける略上半部12aBが、稜線Rを介して上下方向に5つの前面領域12a1〜12a5に分割されているものとして説明したが、4つ以下または6つ以上の前面領域に分割された構成とすることも可能であり、また、左右方向に分割された構成、上下左右両方向に分割された構成とすることも可能である。さらに、各稜線Rの一部または全部に段差が形成された構成とすることも可能である。
【0071】
上記実施形態においては、ミラー部材18の構成として、その上向き反射面18aの前端縁18a1が後側焦点Fを通るようにして配置されているものとして説明したが、この前端縁18a1が後側焦点Fから多少外れた位置を通るようにして配置された構成とすることも可能である。このようにした場合には、ロービーム用配光パターンPLのカットオフラインCL1、CL2が多少不鮮明になるが、上記実施形態の場合と略同様の作用効果を得ることができる。
【0072】
上記実施形態においては、投影レンズ12の前面12aにおける略上半部12aBが、光軸Axを含む水平面よりも多少下方へはみ出した領域として設定されているが、この略上半部12aBの下端縁の位置については、ちょうど光軸Axを含む水平面の位置あるいはこれよりも多少上方にずれた位置に設定することも可能である。その際、リフレクタ16からの反射光が確実に到達しない位置に設定することが好ましい。
【0073】
上記実施形態においては、車両用照明灯具10が、左配光のロービーム用配光パターンPLを形成するように構成されているが、右配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されている場合、あるいは上端部に水平カットオフラインのみを有する配光パターンを形成するように構成されている場合においても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより同様の作用効果を得ることができる。
【0074】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0075】
図7は、上記実施形態の変形例に係る車両用灯具110を示す、図3と同様の図であり、図8は、その投影レンズ112の光学的作用を示す側断面図である。
【0076】
これらの図に示すように、本変形例に係る車両用灯具110は、その基本的な構成については上記実施形態の場合と同様であるが、その投影レンズ112の後面112bにおける略上半部112bBの形状およびミラー部材118の上向き反射面118aの構成が、上記実施形態の場合と異なっている。
【0077】
すなわち、本変形例の投影レンズ112は、その後面112bにおける略上半部112bBが、上記実施形態のような5つの後面領域12b1〜12b5に分割おらず、その後面112bにおける一般部112bAを延長した形状の平面で形成されている。また、本変形例のミラー部材118の上向き反射面118aは、その前端縁118a1から所定幅の前端領域118bが、非反射面として形成されている。
【0078】
本変形例の構成を採用することにより、次のような作用効果を得ることができる。
【0079】
本変形例の投影レンズ112は、その後面112bにおける略上半部112bBが平面で形成されているので、その形状を単純化することができる。しかしながら、この投影レンズ112に対して、その後面112bの略上半部112bから入射した後側焦点Fの位置からの光は、その前面12aの略上半部12aBを構成する5つの前面領域12a1〜12a5から光軸Axに沿った平行光として前方へ出射することとはならず、図8に示すように上下方向に僅かに拡散する光として出射することとなる。
【0080】
図9は、本変形例の作用を説明するための、図6(c)と略同様の図であって、図9(a)は、本変形例の比較例の作用を示す図であり、図9(b)は、本変形例の作用を示す図である。
【0081】
本変形例のミラー部材118において、その上向き反射面118aの前端領域118bが、仮に非反射面として形成されていないとすると、投影レンズ112からの出射光の一部が上向きの光となって、図9(a)に示すように、第2の配光パターンPB´の上端縁PBa´がカットオフラインCL1、CL2から上方へはみ出してしまい、これにより対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうおそれがある。
【0082】
その点、本変形例においては、ミラー部材118の上向き反射面118aにおける前端領域118bが、非反射面として形成されているので、投影レンズ112からカットオフラインCL1、CL2の上方へ向かう光を除去して、第2の配光パターンPBの上端縁PBaの位置をカットオフラインCL1、CL2の下方近傍まで下げることができ、これにより対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうおそれをなくすことができる。
【0083】
なお、本変形例のミラー部材118を上記実施形態の投影レンズ12と組み合わせた構成とすることも可能である。このような構成を採用することにより、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまうおそれをより確実になくすことができる。
【0084】
なお、上記実施形態およびその変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0085】
10、110 車両用照明灯具
12、112 投影レンズ
12a 前面
12aA、12bA、112bA 一般部
12aB、12bB、112bB 略上半部
12a1、12a2、12a3、12a4、12a5 前面領域
12b、112b 後面
12b1、12b2、12b3、12b4、12b5 後面領域
12c 外周フランジ部
14 光源
16 リフレクタ
16a 反射面
18、118 ミラー部材
18a、118a 上向き反射面
18a1、118a1 前端縁
20 レンズホルダ
118b 前端領域
Ax 光軸
CL1 下段カットオフライン
CL2 上段カットオフライン
E エルボ点
F 後側焦点
PA、PB 配光パターン
PBa 上端縁
PL ロービーム用配光パターン
R 稜線
T 谷線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、この光源を上方側から覆うように配置され、該光源からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるための上向き反射面を有し、該上向き反射面の前端縁が上記後側焦点またはその近傍を通るようにして配置されたミラー部材と、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記投影レンズの前面における略上半部が、稜線を介して複数の前面領域に分割されている、ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記投影レンズの後面における略上半部が、谷線を介して上記複数の前面領域と同数の複数の後面領域に分割されており、
これら各後面領域が、上記後側焦点の位置からの光を上記各前面領域から上記投影レンズの光軸と平行な方向へ出射させるように設定された表面形状で形成されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
上記ミラー部材の上向き反射面における前端縁から所定幅の前端領域が、非反射面として形成されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用照明灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−45681(P2013−45681A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183483(P2011−183483)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】