説明

車高測定装置

【課題】車体と路面との距離を高精度に測定が可能な車高測定装置を提供する。
【解決手段】車体4に設けられ、車体4と路面との距離を超音波を用いて測定する車高測定装置1Rは、超音波を路面の所定部位に向けて発信するとともに前記所定部位から跳ね返った反射波を受信する受発信手段を備え、前記所定部位は、自車の移動に伴い自車の車輪が踏んだ跡であり、前記受発信手段の車体4に対する取り付け位置は、車幅方向において車両直進時の左後輪2Rの車輪幅内であり、且つ、左後輪2Rに対し車体後方側に設けられたマッドガード3の後方とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、路面から車体底部までの距離を測定する車高測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体と路面との距離すなわち車高を測定する車高測定装置としては、受発信部を車体の底部に取り付け、発信部から路面に向けて超音波を発信し、路面で反射した反射波を受信部で受信し、発信から受信までの所要時間から車高を算出するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭61−38513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車体の底部に取り付けられる車高測定装置は、走行中に車輪が跳ね上げる飛び石等がぶつからないように配置することが望まれる。
そのため、従来は、図8、図9に示すように、各車輪Wから離れた部位、つまり、車体幅方向の中央で且つ車体前後方向における前後輪の中央に、車高測定装置50を配置していた。
【0004】
しかしながら、このように車高測定装置50を配置すると、「わだち」や「降雪路」を走行しているときに車高測定装置で測定される距離が、車両Vの接地点から車体底部までの距離とはならないため、実際の車高よりも低い値として測定され、誤差が生じる。
また、左右の車輪W,W間に位置する路面P’の凹凸が測定結果に影響を与えるため、これによる測定誤差も生じる。
【0005】
そこで、この発明は、車体と路面との距離を高精度に測定が可能な車高測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る車高測定装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、車体(例えば、後述する実施例における車体4)に設けられ、車体と路面(例えば、後述する実施例における路面P)との距離を音波または電磁波を用いて測定する車高測定装置(例えば、後述する実施例における車高測定装置1F,1R)であって、前記音波または電磁波(例えば、後述する実施例における超音波)を路面の所定部位に向けて発信するとともに前記所定部位から跳ね返った反射波を受信する受発信手段を備え、前記所定部位は、自車の移動に伴い自車の車輪(例えば、後述する実施例における左前輪2F、左後輪2R)が踏んだ跡であることを特徴とする車高測定装置である。
このように構成することにより、自車の車輪が踏んだ後の車輪跡と車体との距離を測定することができ、左右の車輪間の路面の凹凸などに起因する測定誤差を排除することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記受発信手段の車体に対する取り付け位置は、車幅方向において車両直進時の車輪幅内であり、且つ、車体前後方向において車輪に対し後方側であることを特徴とする。
このように構成することにより、受発信手段から音波または電磁波を車輪跡に発信し易く、且つ、車輪跡からの反射波を受信し易くなる。また、車体と路面との最短距離を測定することが可能となる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の発明において、前記受発信手段は、車輪に対し車体後方側に設けられたマッドガード(例えば、後述する実施例におけるマッドガート3)の後方に配置されていることを特徴とする。
このように構成することにより、走行中に車輪が跳ね上げる飛び石等が車高測定装置にぶつかるのを防止することができる。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、車両の姿勢を検出する車両姿勢検出手段(例えば、後述する実施例におけるヨーレートセンサ11)を備え、前記車両姿勢検出手段で検出される車両の姿勢が所定の条件を満たさない場合には、車高測定をキャンセルすることを特徴とする。
車両に大きなヨーレートが生じているときなどは、受発信手段から車輪跡に音波または電磁波を発信することができない場合もあって、測定誤差が生じる虞があるが、請求項4のように構成することにより、誤差が生じる車高測定を実施しないようにすることができる。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記車高測定装置の出力は、車両の前照灯の光軸の方向を調整する光軸調整手段(例えば、後述する実施例における光軸アクチュエータ12)を制御して前記光軸を略水平に保持する光軸調整制御に用いられることを特徴とする。
このように構成することにより、前照灯の光軸調整制御を適正に実施することができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、路面の凹凸などに起因する測定誤差を排除することができるので、本来の車高を精確に測定することができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、受発信手段から音波または電磁波を車輪跡に発信し易く、且つ、車輪跡からの反射波を受信し易くなる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、走行中に車輪が跳ね上げる飛び石等が車高測定装置にぶつかるのを防止することができるので、車高測定装置の損傷を防止することができ、長期に亘って正常な車高測定が可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、誤差が生じる車高測定を実施しないようにすることができるので、結果的に測定精度が向上する。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、前照灯の光軸調整制御を適正に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明に係る車高測定装置の実施例を図1から図7の図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、前後方向は車体の前後方向と一致する。
この実施例における車高測定装置は、その出力が、車両の前照灯の光軸の方向を略水平に保持する光軸調整制御に用いられる。
【0017】
図1および図2に示すように、車両Vには2つの車高測定装置1F,1Rが設けられている。車高測定装置1Fは車両Vの左前輪2Fの後方側に、車高測定装置1Rは左後輪2Rの後方側に配置されている。なお、以下の説明において、特に車高測定装置1F,1Rを区別する必要がないときは、車高測定装置1と記載する場合もある。
【0018】
図4および図5に示すように、車高測定装置1Rは、左後輪2Rの後方に設けられたマッドガード3の直ぐ後方における車体4の底部5に取り付けられている。さらに詳述すると、車高測定装置1Rの車体4に対する取り付け位置は、図3に示すように、車幅方向において車両直進時の左後輪2Rの車輪幅内に設定されている。
周知のようにマッドガード3は、走行中に左後輪2Rが跳ね上げる水、泥、小石等が後方に飛散するのを防止するものであり、車高測定装置1Rをマッドガード3の直ぐ後方に配置することにより、走行中に車輪が跳ね上げる飛び石等が車高測定装置1Rにぶつかるのを防止することができる。
なお、図示を省略するが、車高測定装置1Fの場合も同様であり、左前輪2Fの後方に設けられたマッドガードの直ぐ後方における車体4の底部5に取り付けられている。
【0019】
車高測定装置1は、図示を省略するが、発信部と受信部とからなる受発信手段を備えており、発信部は車高測定装置1から鉛直下方の路面に向けて超音波を発信し、受信部は、発信部から発信された超音波が路面で反射したときの反射波を受信する。そして、車高測定装置1は、発信から受信までの所要時間に基づいて車体4の底部5から路面までの距離を算出し、算出された距離に応じた出力信号を出力する。
【0020】
また、この実施例における車高測定装置1では、受発信手段の発信部から発信される超音波の照射角は、図6に示すように、該超音波の路面Pにおける照射幅Aが車輪の幅(車高測定装置1Fについては左前輪2Fの車輪幅、車高測定装置1Rについては左後輪2Rの車輪幅)Bよりも小さくなるように設定されている。
【0021】
このように構成された車高測定装置1F,1Rにおいては、車両Vの走行中に、受発信手段の発信部から発信した超音波を、自車の移動に伴い自車の車輪が踏んだ後の路面Pの車輪跡に照射することができ、前記車輪跡で反射した反射波を受信部で受信することができる。したがって、本来の車高である左前輪2Fあるいは左後輪2Rの接地点から車体4の底部5までの距離を精確に測定することができる。
また、車高測定が、左右の車輪間における路面P’の凹凸などに影響を受けることがなく、測定精度が向上する。
【0022】
車高測定装置1をマッドガード3の直ぐ後方に配置することにより、走行中に左前輪2Fまたは左後輪2Rが跳ね上げる飛び石等が車高測定装置1Fまたは1Rにぶつかるのを防止することができるので、車高測定装置1F,1R1の損傷を防止することができ、長期に亘って正常に車高を測定することができる。
【0023】
また、送受信手段の送信部から発信される超音波の照射角を前述の如く設定したことにより、例えば車両Vが「わだち」を走行するときに、図6に示すように、発信部から発信された超音波の路面Pにおける照射幅Aを、「わだち」の幅Cよりも小さくすることができる。
その結果、車両Vが「わだち」や「降雪路」を走行しているときにも、本来の車高である左前輪2Fあるいは左後輪2Rの接地点から車体4の底部5までの距離を精確に測定することができる。
なお、車両Vが大きくヨーイング(車両Vの上下軸回りの回転)やローリング(車両Vの前後軸回りの揺れ:横揺れ)をしているときには、受発信手段の発信部から発信した超音波を、路面Pにおける自車の車輪跡に照射することができない場合があり、測定誤差が大きくなる虞があるので、車高測定をキャンセルするのが好ましい。
また、車両Vが大きなピッチング(車両Vの左右軸回りの揺れ:縦揺れ)をしているときにも、測定誤差が大きくなる虞があるので、車高測定をキャンセルするのが好ましい。
そこで、例えば、車両Vのヨーレートを検出するヨーレートセンサ(車両姿勢検出手段)を車両Vに設けておき、検出されたヨーレートが所定の閾値よりも大きいときには、車高測定装置1F,1Rによる車高測定をキャンセルするように構成する。このようにすると、誤差が生じる車高測定を実施しないようにすることができ、結果的に測定精度が向上する。
【0024】
車高測定装置1F,1Rの出力に基づいて車両前照灯の光軸の方向を略水平に保持する前照灯光軸調整装置を、図7を参照して説明する。
前照灯光軸調整装置10は、前述した車高測定装置1F,1Rと、車両Vに発生するヨーレートを検出するヨーレートセンサ11と、前照灯の光軸の上下方向の傾きを調整する光軸アクチュエータ12と、制御装置13とを備えて構成されている。
【0025】
車高測定装置1Fは、左前輪2Fの後方における車体4の底部5から路面Pまでの距離に応じた出力信号を制御装置13へ出力し、車高測定装置1Rは、左後輪2Rの後方における車体4の底部5から路面Pまでの距離に応じた出力信号を制御装置13へ出力する。
制御装置13は、車高測定装置1F,1Rからの出力信号に基づいて、路面Pに対する車体4の前後方向軸の傾きを算出し、その算出結果に基づいて、前照灯の光軸を略水平(路面Pと略平行)にするために必要な光軸アクチュエータ12に対する制御量を算出し、光軸アクチュエータ12を制御する。
【0026】
なお、ヨーレートセンサ11によって検出されたヨーレートが、予め設定された閾値を越える場合には、制御装置13において車高測定装置1F,1Rの出力信号がキャンセルされ、キャンセルされている間は、路面Pに対する車体4の前後方向軸の傾き算出は行わず、前照灯の光軸は調整しない。
【0027】
この前照灯光軸調整装置10では、車高測定装置1F,1Rにより測定された高精度の車高情報に基づいて前照灯の光軸調整制御が行われるので、光軸調整制御を適正に実施することができる。
【0028】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、車高測定装置の用途は、前照灯の光軸調整制御用に限るものではなく、種々の用途に使用可能である。
前述した実施例では受発信手段から超音波を発信したが、電磁波を発信してもよい。
複数の車高測定装置を用いて車高を測定する場合には、各車高測定装置の出力値の平均値に基づいて車高を算出してもよい。また、複数の車高測定装置を用いて車高を測定する場合に、各車高測定装置の出力値のばらつきが所定値以上あるときには車高検出をキャンセルするようにしてもよい。
また、車高測定装置の出力に基づいてピッチ量やロール量を算出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明に係る車高測定装置の実施例における配置を示す車両の側面図である。
【図2】実施例における車高測定装置の配置を示す車両の平面図である。
【図3】実施例における車高測定装置の配置を示す車両の背面図である。
【図4】車高測定装置をマッドガートの後方に設けた場合の車両の要部側面図である。
【図5】車高測定装置をマッドガートの後方に設けた場合の車両の要部斜視図である。
【図6】実施例における車高測定装置から発信される超音波と車輪幅との関係を説明する図である。
【図7】実施例の車高測定装置を用いた前照灯光軸調整装置の構成図である。
【図8】従来の車高測定装置の配置例を示す車両の側面図である。
【図9】従来の車高測定装置の配置例を示す車両の背面図である。
【符号の説明】
【0030】
1F,1R 車高測定装置
2F 左前輪(車輪)
2R 左後輪(車輪)
3 マッドガード
4 車体
11 ヨーレートセンサ(車両姿勢検出手段)
12 光軸アクチュエータ(光軸調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に設けられ、車体と路面との距離を音波または電磁波を用いて測定する車高測定装置であって、
前記音波または電磁波を路面の所定部位に向けて発信するとともに前記所定部位から跳ね返った反射波を受信する受発信手段を備え、
前記所定部位は、自車の移動に伴い自車の車輪が踏んだ跡であることを特徴とする車高測定装置。
【請求項2】
前記受発信手段の車体に対する取り付け位置は、車幅方向において車両直進時の車輪幅内であり、且つ、車体前後方向において車輪に対し後方側であることを特徴とする請求項1に記載の車高測定装置。
【請求項3】
前記受発信手段は、車輪に対し車体後方側に設けられたマッドガードの後方に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の車高測定装置。
【請求項4】
車両の姿勢を検出する車両姿勢検出手段を備え、
前記車両姿勢検出手段で検出される車両の姿勢が所定の条件を満たさない場合には、車高測定をキャンセルすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車高測定装置。
【請求項5】
前記車高測定装置の出力は、車両の前照灯の光軸の方向を調整する光軸調整手段を制御して前記光軸を略水平に保持する光軸調整制御に用いられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車高測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−133845(P2010−133845A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310740(P2008−310740)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】