軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法
【課題】軌道上を走行する車両に設置されたセンサから時系列的に出力される検査値データを軌道位置データと対応付けるのに際して、少ない処理で簡単に行うことができるようにする。
【解決手段】検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存し、前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定し、処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行い、軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける。
【解決手段】検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存し、前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定し、処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行い、軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサから時系列的に出力される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道上を走行する車両においては、その軌道保守を行うために、軌道の状態を検査することが行われており、検査として、例えば、レールの傷、摩耗または変位、レール遊間量の検査、車両の動揺の検査などが、各種センサを用いて行われる。
【0003】
これらの検査を行う場合、センサを用いて取得される検査値データは、その検査値データがどこの軌道位置のデータであるかを表す軌道位置データとの対応付けがなされて、格納される必要がある。
【0004】
従来、軌道検測車のような検査専用車両では、軌道位置データを得るために車輪の回転から距離を計測するエンコーダや、地上子からの軌道位置データを受信可能な車上受信装置が装備されており、検査値データと軌道位置データとの対応付けが行えるようになっている。
【0005】
しかしながら、検査専用車両を用いずに、通常の営業車で検査値データを取得しようとすると、上記軌道位置データを取得するための装置が装備されていないために、軌道位置の決定が困難になる、という問題がある。
【0006】
このような問題を解決するためのものとして、特許文献1ないし特許文献3に示すものが知られている。
【0007】
特許文献1の測定位置照合方式では、軌道の高低狂いデータと車両の上下動揺加速度との間に非常に強い線形依存関係が存在することに着目して、低域通過ろ波処理をした軌道の高低狂いデータと上下動揺データとの相関処理を実施し、最大値を求めている。軌道の高低狂いデータは、軌道検測車による定期検測により軌道位置データとの対応付けがなされて形成されているので、この軌道の高低狂いデータと、上下動揺加速度測定データとを照合することで軌道位置を決定するものである。
【0008】
特許文献2の並列記録方式では、軌道検測車で測定した列車動揺データと、営業車で測定した動揺データとの照合を行うために、営業車で測定した進行方向の加速度データを2重積分して距離にして軌道位置データである走行キロ程を求め、上下方向及び左右方向の加速度データに対して、軌道位置データとの照合を行っている。
【0009】
特許文献3の車両走行動揺解析システム及び方法では、GPSアンテナ及びGPS受信機を有し、GPSアンテナによりGPS受信機が受信するGPS信号により取得される位置情報に基づいて車両の位置情報を補正している。
【0010】
【特許文献1】特許第2933832号公報
【特許文献2】特許第2720172号公報
【特許文献3】特許第3993222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の構成では、軌道の高低狂いデータと車両の上下動揺加速度データとの間に線形依存関係があるといっても、ある長い波長帯において関係が成り立つのであり、直接の両データ同士を比較する限りにおいては、類似性は見られない。そのため、両データを低域通過ろ波処理しなければ対応付けを行うことができず、類似性を示す波長の選択が困難である、という問題がある。
【0012】
また、特許文献2の構成では、進行方向の加速度データを2重積分しているが、加速度データに含まれるオフセットや誤差が積分により増大し、正確に照合を行うことが困難である、という問題がある。
【0013】
また、特許文献3の構成では、GPS信号により取得される位置情報は、ある範囲の誤差を持つ緯度経度情報であるために、GPS信号により取得される緯度経度情報を軌道位置に対応付ける更なる照合作業が必要になる、という問題がある。
【0014】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、その目的は、少ない処理で簡単に軌道位置データと対応付けることができる軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む。
【0016】
請求項2記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する手段と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む。
【0017】
請求項3記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む。
【0018】
請求項4記載の本発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段が、
前記処理区間における軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとを表示する手段と、
軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフの中から対応する屈曲点対の選択を促す手段と、
選択された対応する屈曲点対に基づき、屈曲点対に該当する角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む。
【0019】
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載のシステムにおいて、前記検査値データと同期して、車両上に設置された加速度センサによって車両の進行方向の加速度を表す加速度データを順次取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
前記選択された角速度データの屈曲点対の間において加速度データを2回積分して距離を表す距離データを算出する手段と、
前記算出された距離データに基づいて、前記屈曲点対の間にある角速度データを前記距離データに基づき軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む。
【0020】
請求項6記載の本発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段は、
前記処理区間における軌道管理図を構成するデータと、角速度データまたは角度データとの相関をとって、軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとの偏移量を求める手段と、
該偏移量から角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む。
【0021】
請求項7記載の本発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記検査値データと同期して、軌道位置データと関連する測定基準データを取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
処理区間における前記測定基準データと軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと関連付けられた前記測定基準データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む。
【0022】
請求項8記載の本発明は、請求項7記載の前記測定基準データが、車両上に設置された入力手段によって入力された、軌道近傍の既定物の通過を表すデータであることを特徴とする。
【0023】
請求項9記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む。
【0024】
請求項10記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する工程と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む。
【0025】
請求項11記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、角速度データまたはそれを積分した角度データは、軌道管理図と類似の変化傾向を持つために、精度良く検査値データと軌道位置データとの照合を行うことができる。
【0027】
即ち、ヨー角速度は、軌道管理図の曲線線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良く軌道位置データと検査値データとの照合を行うことができる。ヨー角速度は、右カーブまたは左カーブの角度変化に対応しており、感度が高く、照合作業を一層簡単に且つ精度良く行うことができる。また、ヨー角速度は、軌道の異常、車両の異常の影響を比較的受け難い点でも、軌道位置データの照合に使用するデータとして最適である。
【0028】
また、ロール角速度を積分したロール角は、軌道管理図の曲線線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良く軌道位置データと検査値データとの照合を行うことができる。
【0029】
また、ピッチ角速度は、軌道管理図の勾配線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良く軌道位置データと検査値データとの照合を行うことができる。
【0030】
軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとを表示することで、両者の比較を行うことができ、対応する屈曲点対を選択させることで、精度良く、角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行うことができる。
【0031】
さらに、加速度データを2回積分した距離によって、屈曲点対間を補正することにより、横カーブまたは上下カーブを走行する際の車両の加減速に対応して、検査値データと軌道位置データとの照合の精度をさらに向上させることができる。
【0032】
または、軌道管理図のデータと角速度データまたは角度データとの相関をとることによって、自動的に角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行うことができる。
【0033】
また、軌道近傍の既定物の通過を表すデータといった測定基準データを用いて、軌道位置データと関連付けられた前記測定基準データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付けるので、検査値データと軌道位置データとの照合の精度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明による軌道位置データ付与方法を実施した軌道位置データ付与システムの全体図を示す概略説明図である。
【0035】
図において、軌道位置データ付与システム10は、大別して、車両上に設置されて角速度等を測定し、測定によって取得された該角速度データ等を記録するデータ記録装置12と、地上においてデータ記録装置12で記録されたデータを解析するデータ解析装置14及び充電器16と、に大別することができる。
【0036】
データ記録装置12は、さらに、センサ部20と、収録回路22と、バッテリ28とを備えて、可搬性を持った装置となっている。
【0037】
センサ部20は、車両の進行方向の加速度ax、車両の左右方向の加速度ay、車両の上下方向の加速度az、車両のロール角変化であるロール角速度rr、車両のピッチ角変化であるピッチ角速度rp、車両のヨー角変化であるヨー角速度ryを検出する。例えば、センサ部20は、3軸の加速度と2軸の角速度を出力するマイクロ慣性センサ(東京計器株式会社製「MESAG」)を2個直交して配置することにより、これらの3つの加速度及び3つの角速度を検出することができる。またはセンサ部20は、3個の加速度計と3個の角速度計とから構成することもできる。
【0038】
図2に示すように、収録回路22は、メモリ32と、角速度データを含む検査値データをメモリ32に格納する制御部34と、マーキング部36と、入力部38とを備える。必要に応じてセンサ部20と制御部34との間にA/D変換器を設けることができる。
【0039】
メモリ32は、データ記録装置12とは一体または別体となった任意の記録媒体とすることができ、一定周期毎の角速度データを含む検査値データを時系列的に格納する。
【0040】
マーキング部36は、手動で操作可能であり、この操作が行われたときに、メモリ32にセンサ部20からのデータと対応付けられて後述の測定基準データとしてのマーキングデータが格納される。
【0041】
入力部38は、測定/記録の開始、終了/記録の終了の指令及び後述の測定基準データを入力するためのものである。
【0042】
尚、前記制御部34、マーキング部36及び入力部38の少なくとも一部は、キーボード、マウスといった入力手段を備えたノート型パソコンのような携帯型コンピュータで構成することもできる。
【0043】
この例では、データ記録装置12は、軌道位置データを付与するための機能と、軌道保守のために必要な検査を行う機能とを兼用しており、検査装置も兼ねている。センサ部20から得られる検査値データは、動揺測定を行うものとして使用される。データ記録装置12が軌道位置データを付与するための機能のみを持つ場合には、センサ部20は、少なくとも1つの角速度データのみ、または少なくとも1つの角速度データと進行方向の加速度データのみを出力するものであってもよい。
【0044】
データ解析装置14は、CPUを有するコンピュータで構成され、データ解析装置14に格納された軌道位置データ付与プログラムを実行することにより、コンピュータであるデータ解析装置14は、図3に示すように、処理区間決定処理手段140、曲線線形図再生処理手段142、角速度表示処理手段144、マーキング表示処理手段146、軌道位置データ−角速度データ−検査値データ対応付け処理手段148、繰り返し判断処理手段150として機能する。またデータ解析装置14は、メモリ32がセットされることによって、またはメモリ32のデータがダウンロードされることによって、データ保存手段としても機能する。このデータ解析装置14を構成するコンピュータは、データ記録装置12の一部を構成するコンピュータと同じものであってもよく、または別のものであってもよい。
【0045】
また、データ解析装置14には、軌道の曲線線形データと軌道位置データとしてのキロ程との対応付けが記録された曲線線形テーブル42、軌道の勾配線形データと軌道位置データとしてのキロ程との対応付けが記録された勾配線形テーブル44、軌道上の停車場データその他既定物データと軌道位置データとしてのキロ程との対応付けが記録された既定物テーブル46及び検査値データと軌道位置データとしてのキロ程とを対応付けたデータ出力テーブル48が格納される。
【0046】
軌道の曲線線形データ及び軌道の勾配線形データは、既知の軌道管理図を元にそれぞれ作成されるものである。
【0047】
図4A(a)は、軌道管理図の曲線線形図の一例であり、軌道管理図の曲線線形図は、横軸がキロ程、中立線より上側が右カーブ(軌道の起点から終点に向かって右カーブ)、下側が左カーブ(軌道の起点から終点に向かって左カーブ)を表す。
【0048】
軌道管理図の曲線線形図及び曲線線形テーブル42で用いられる記号BTC、BCC、ECC、ETC、BIT、EIT、BRT、PRT、ERTの意味は、図5(a)〜(c)に示す通りであり、これらの記号は旋回変化点を表す。これらの旋回変化点は、いずれも曲線線形図において、屈曲点として表わされる。
【0049】
図4B(a)は、軌道管理図の勾配線形図の一例であり、軌道管理図の勾配線形図は、横軸がキロ程、縦軸が軌道の勾配を表し、左から右へ上昇する傾きが上り勾配及び左から右へ下降する傾きが下り勾配を表す。
【0050】
軌道管理図の勾配線形図及び勾配線形テーブル44で用いられる記号BVC、PIVC、EVCの意味は、図5(d)に示す通りであり、これらの記号は勾配変化点を表す。これらの勾配変化点のうちの中間点PIVCが、勾配線形図において、屈曲点として表れる。
【0051】
図6Aに示すように、曲線線形テーブル42では、曲線線形図の各旋回変化点とキロ程との対応付けが一レコードとして記録されている。各レコードは、さらにページ、方向、曲率半径R(m)、カントC(mm)及びスラックS(mm)のフィールドを持つ。ページは、軌道管理図のページを表し、方向は、Rは右カーブ、Lは左カーブを表し、曲率半径Rは、終点方向の曲率半径を表す。曲率半径R、カントC及びスラックSは、旋回変化点が円弧曲線始点BCC及び次の円弧曲線の始点EITの場合に、その点からの軌道の曲率半径、カント及びスラックとして、該当するレコードに記録される。
【0052】
図6Bに示すように、勾配線形テーブル44では、勾配線形図の各勾配変化点とキロ点との対応付けが一レコードとして記録されている。各レコードは、さらに、ページ、勾配値(‰)、曲率半径(m)のフィールドを持つ。ページは、軌道管理図のページを表し、勾配値は終点方向の勾配を表し、+値は上り勾配、−値は下り勾配を表し、曲率半径は、勾配変化点の接続曲線半径を表す。勾配値、曲率半径は、勾配変化点がPIVCの場合に該当するレコードに記録される。
【0053】
図6Cに示すように、既定物テーブル46では、停車場名とキロ程との対応付けが一レコードとして記録されている。記号は、INが停車場のホームの起点側のキロ程、Cが停車場の代表キロ程、OUTが停車場のホームの終点側のキロ程を表している。
【0054】
尚、既定物テーブル46には、停車場以外の既定物の情報を記録することもでき、例えば既定物として、トンネル、橋、ATS(地上子)のキロ程との対応付けを含めることができる。
【0055】
以上の曲線線形テーブル42、勾配線形テーブル44及び既定物テーブル46は、1つのテーブルとして構成することも可能であり、また、これらの内のいずれかのテーブルは省略することも可能である。
【0056】
以上のように構成される軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法の手順を説明する。
【0057】
1. 測定前の準備
予め、データ記録装置12のバッテリ28を充電器16により充電し、データ記録装置12には、記録可能な容量を持つメモリ32をセットしておく。
【0058】
2. 車両上での測定
角速度データを含む検査値データを取得するために、データ記録装置12を車両に運び、車両の任意の場所、例えば床上や座席に、データ記録装置12を設置する。このときに、センサ部20の方向と車両の座標とを一致させるようにして設置する必要がある。
【0059】
測定前に入力部38から測定開始地点の測定基準データとしてのキロ程及び/または停車場名の入力を行う。
【0060】
データ記録装置12は、入力部38からの測定/記録開始指令の入力があると、測定及び記録を開始し、車両の停止/走行に関係なく、一定周期でセンサ部20からのデータを時系列的にメモリ32に格納し、入力部38からの測定/記録終了指令の入力があると、測定及び記録を終了する。
【0061】
測定後に入力部38から測定終了地点の測定基準データとしてのキロ程及び/または停車場名の入力を行う。
【0062】
この例では、メモリ32に記録される検査値データは、進行方向加速度データ、左右方向加速度データ、上下加速度データ、ロール角速度データ、ピッチ角速度データ、ヨー角速度データであり、これらは同期して記録される。また、メモリ32には、測定基準データとしての測定開始地点及び測定終了地点のキロ程及び/または停車場名が記録される。
【0063】
即ち、この時点で、各角速度データを含む検査値データは、共通のデータID(または通し番号)と対応付けられ、データIDは、前記一定周期を一定キロ程とする暫定的なキロ程と実質的に対応付けられていることになる。
【0064】
測定開始地点及び測定終了地点の測定基準データもデータIDと対応付けられる。
【0065】
測定中に、既定物テーブル46に格納した停車場等の既定物を停車または通過するときには、作業者がマーキング部36を操作する。これによって、上記メモリ32に、上記センサ部20で得られる角速度データを含む検査値データと同期して、データIDと対応付けられて測定基準データとしてのマーキングデータが記録される。
【0066】
尚、測定中に、停車場に停車するときに、マーキングデータを記録する代わりに、測定基準データとして、その停車場のキロ程及び/または停車場名を入力部38を用いて記録することとしてもよい。
【0067】
3. 地上での処理
測定終了後に、地上において、データ解析装置14による軌道位置データ付与プログラムにより、メモリ32に記録されたデータに対して処理を行う。
【0068】
3−1 処理区間決定処理
軌道位置データ付与処理を行う処理区間を決定し、処理区間に対応するメモリ32に記録された角速度データであるヨー角速度データを読み出す。
【0069】
この処理区間の決定は、任意の方法・手段により決定することができるが、例えば、この処理区間は、以下のように決定することができる。
・処理区間を測定開始地点と測定終了地点の間、即ち、測定区間全体とすることができる。この場合には、メモリ32に記録されている測定開始地点と測定終了地点のキロ程を読み出し処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程とする。
・測定区間全体が長い場合には、メモリ32に記録された複数の測定基準データの任意の2つの測定基準データの間を処理区間とし、順次、処理区間を掃引していくことが好ましい。
【0070】
2つの測定基準データ間としては、例えば、隣合う停車場間とすることが考えられる。
選択された2つの測定基準データがメモリ32でキロ程として記録されている場合には、それらのキロ程を処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程とする。また、測定基準データがメモリ32で停車場名として記録されている場合には、既定物テーブル46を参照し、キロ程に変換したものを処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程とする。尚、既定物テーブル46の停車場名のIN、C、OUTのいずれに対応するキロ程に変換するかは、データ記録装置12が設置された車両の位置とホームとの関係に応じて予め決まる。一般的には、データ記録装置12が車両の先頭付近、中間付近、最後尾付近に設置された場合には、その停車場のOUT、C、INのキロ程をそれぞれ読み出せばよい。
勿論、停車場以外の既定物を処理区間の開始または終了とすることもできる。
【0071】
・または、処理区間は予め決められた距離(例えば、1km、5km等)毎の区間とすることが考えられる。この場合、当然ながら、メモリ32に記録されたヨー角速度には距離の情報がないから、暫定的に対応付けられたキロ程を用いてメモリ32から読み出す範囲を決定する。より具体的には、測定開始地点と測定終了地点とのキロ程の差により求めた暫定的な測定距離Lをデータ数で割り算したものを隣り合うデータID間の暫定的な距離として、予め決められた距離に対応するヨー角速度データを読み出すこととしてもよい。
【0072】
どのように処理区間を決定するかは、予めシステムで決められたものとするか、作業者による選択によって決定することにしてもよい。
【0073】
3−2 曲線線形図再生及びヨー角速度表示処理
曲線線形テーブル42を読み出して、前記決定された処理区間にある旋回変化点、方向、曲率半径を読み出し、これらから図7A上段に示すように曲線線形図を再生する。再生される曲線線形図の横軸の始点と終点が、前記2つの処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程に対応する。
【0074】
また、メモリ32に記録された処理区間に対応する角速度データであるヨー角速度のデータを読み出し、図7A下段に示すように、曲線線形図と上下に並べて縦軸をヨー角速度とするヨー角速度のグラフを表示する。曲線線形図と同様に、ヨー角速度のグラフの横軸は処理区間であり始点と終点は一致しており、始点と終点との間でヨー角速度データがデータIDの順番に等間隔に配置される。
【0075】
3−3 マーキング表示処理
決定された処理区間内に、メモリ32に記録された測定基準データとしてのマーキングデータがある場合には、ヨー角速度のグラフの対応横軸位置にマークを表示する。即ち、そのマーキングデータと同期する、同一のデータIDの横軸位置にマーク(▲)を表示する。
【0076】
対応して、既定物テーブル46から前記決定された処理区間の間に、既定物がある場合には、曲線線形図において、その既定物のキロ程の位置にマーク(▲)を表示する。
【0077】
3−4 軌道位置データ−ヨー角速度データ比較処理
図4A及び図7Aに示すように、曲線線形図とヨー角速度のグラフは、非常に類似する変化傾向を持つ。これらを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である旋回変化点同士の対応付けを行う。
【0078】
具体的には、作業者により、ヨー角速度のグラフにおける対応するべき1つの屈曲点(即ち旋回変化点)の選択(例えばマウスで右クリックする)動作が行われ、次に、曲線線形図におけるそれに対応するべき屈曲点(即ち旋回変化点)の選択(例えばマウスで右クリックする)動作が行われると、2つの選択された点同士を線で繋ぐ表示を行う(図7B)。
【0079】
同様の処理を必要に応じて複数回繰り返し、複数の屈曲点(即ち旋回変化点)対を線で繋ぐ表示を行った後、作業者により「位置合わせ」実行指令の入力がなされると、線で繋がれた屈曲点対に該当するヨー角速度(具体的にはそのデータID)と曲線線形図のキロ程とを対応付ける。
【0080】
また、曲線線形図とヨー角速度のグラフにそれぞれマークが表示されているときには、ヨー角速度のグラフのマークに該当するヨー角速度(具体的にはそのデータID)と曲線線形図のマークのキロ程とを対応付ける。
【0081】
キロ程が対応付けられたヨー角速度(具体的にはそのデータID)の間にある、屈曲点及びマーク以外のヨー角速度(具体的にはそのデータID)については、按分処理によりキロ程を対応付ける。
【0082】
こうして、キロ程とデータIDとが対応付けられると、この対応関係をデータ出力テーブル48に格納する。
【0083】
データ出力テーブル48は、図6Dに示すフィールドを持つことができる。
【0084】
3−5 繰り返し処理
順次、以上の処理3−1〜3−4を、処理区間を変えて行う。通常、最初に決定された処理区間の始点は測定開始地点となり、最後に決定された処理区間の終点は測定終了地点となる。すべての処理区間について処理を行い、データIDに対してキロ程を対応付けることで、処理を終了する。
【0085】
こうして作成されたデータ出力テーブル48により、検査値データである加速度データ及び角速度データに対してキロ程が付与されたことになる。
【0086】
以上の処理によれば、ヨー角速度を利用することにより、キロ程との照合を行うことができる。ヨー角速度は、曲線線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良くキロ程と検査値データとの照合を行うことができる。ヨー角速度は、右カーブまたは左カーブに対応しており、他の角速度に比較して感度が高いために、照合作業を一層簡単に且つ精度良く行うことができる。また、ヨー角速度は、軌道の異常、車両の異常の影響を比較的受け難い点でも、キロ程の照合に使用するデータとして最適である。
【0087】
また、角速度データ等の積分の必要がないために、積分により発生する誤差の問題を回避することができる。
【0088】
3−6 キロ程精度向上処理
以上の処理においては屈曲点及びマーク以外の部分について、按分処理を行い、均等にキロ程を配分したが、さらに精度良く照合を行うために、この屈曲点及びマーク以外の部分について、加速度データを使用してキロ程精度向上処理を行うことができる。以下にその処理について説明する。
【0089】
検査値データの1つでもある進行方向加速度データを2回積分する。これにより、距離が求まる(図7D)。積分の範囲は、前記キロ程との対応付けがなされている屈曲点またはマークに対応付けされたデータID(通し番号)から、次の対応付けがなされている屈曲点またはマークに対応付けられたデータID(通し番号)までの間とし、その間のデータIDに対応する積分値を順次求める。
【0090】
積分の誤差により、積分終了時に得られる距離は、屈曲点またはマークと次の屈曲点またはマークまでのキロ程の差と同じであるとは限らない。よって、その場合には、積分時に得られる距離が、キロ程の差になるように伸縮処理を行い、各データIDに対応する積分値でキロ程を決定する。
【0091】
これによって、車両のカーブの通過に伴う加減速に対応して、キロ程を付与することができるので、精度を向上させることができる。積分する範囲を局所的とすることで、積分による誤差の影響を低減することができる。
【0092】
3−7 キロ程精度向上処理2
以上の例では、ヨー角速度は、センサ部20のヨー角速度出力を座標変換せずに使用しており、座標変換しなくてもヨー角速度のグラフにおいて、屈曲点の位置が精度良く現れるが、さらに精度を向上させるためには、データ解析装置14またはデータ記録装置12に、ヨー角速度、ロール角速度、ピッチ角速度の3軸の角速度を用いてまた必要に応じて加速度を用いて、公知の座標変換を行い車体系からその車両外の座標系に変換を行う処理を行う手段を設けることも可能である。
【0093】
4. 地上での処理2
以上の3−2の曲線線形図再生及びヨー角速度表示処理、3−3のマーキング表示処理、3−4の軌道位置データ−ヨー角速度データ対応処理では、作業者に対して視覚的に表示を行い、作業者の選択支援を得て、対応付けを行っている。この処理の代替処理として、作業者の選択支援なく自動的に処理することもできる。
【0094】
そのために、データ解析装置14は、曲線線形テーブル42に基づきまたは元の軌道管理図に基づき、曲線線形を所定距離毎にデータ化し、データIDと対応付けた曲線線形テーブル43(不図示)を備える。
【0095】
角速度データであるヨー角速度データを平滑化するフィルタ処理を行い、フィルタ処理されたデータx(n)(n:データID)と、曲線線形テーブル43のデータy(m)(m:データID)との間で相関関数を計算し、その値が最大となる偏移量Δn=m−nを求める。
【0096】
【数1】
ここで、N1〜N1+ΔNは処理区間に対応する。
【0097】
こうして、ヨー角速度データに対応するデータIDが表す暫定的なキロ程と、キロ程との偏移量Δnを求めて、その偏移量分だけずらすことで、データIDとキロ程との対応付けを行うことができるので、その結果をデータ出力テーブル48に出力する。
【0098】
5. 地上での処理3
以上の例では、ヨー角速度データを主として用いてキロ程との照合を行ったが、これに限るものではなく、ロール角速度データを主として用いて、または副次的に用いてキロ程との照合を行ってもよい。
【0099】
ロール角速度データを積分すると、図4A(d)に示すように、それは、曲線線形図と類似する傾向がある。これはカーブで設定されるカントをロール角として検出するからである。
【0100】
よって、ヨー角速度データの代わりに、ロール角速度データを積分したロール角データに対して、以上の3−1〜3−6、または4の処理を行っても良い。
【0101】
この場合には、処理区間において、ロール角速度データを積分してロール角を求める。そして、ロール角と曲線線形図とを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である旋回変化点同士の対応付けを行う。
【0102】
または、フィルタ処理されたロール角のデータと、曲線線形テーブル43のデータとの間で相関関数を計算し、その値が最大となる偏移量を求める。この偏移量が、ロール角速度データに対応するデータIDが暫定的なキロ程と、キロ程との偏移量となるので、データIDとキロ程との対応付けを行い、データ出力テーブル48を出力する。
【0103】
このように、ロール角速度を用いる場合でも、1回の積分によって、軌道管理図と類似の変化傾向を持たせることができるので、精度良くキロ程と検査値データとの照合を行うことができる。
【0104】
6. 地上での処理4
または、ヨー角速度データの代わりに、ピッチ角速度データを主として用いて、または副次的に用いてキロ程との照合を行うこともできる。
【0105】
ピッチ角速度またはそれを積分したピッチ角は、図4Bに示すように、それは、勾配線形図と類似する傾向がある。
【0106】
よって、ヨー角速度データの代わりに、ピッチ角速度データまたはピッチ角速度を積分したピッチ角データに対して、以上の3−1〜3−6、または4の処理を行っても良い。
【0107】
この場合には、前記曲線線形テーブル42の代わりに勾配線形テーブル44を用いて処理区間の勾配線形図を再生する。
【0108】
この場合の勾配線形図の再生に関しては、ピッチ角速度データを用いる場合には、図4B(a)で示した勾配線形図ではなく、図4B(d)で示す変形勾配線形図を用いるとよい。この変形勾配線形図は、上向きの勾配に変化するときにはPIVCをピークとする上向きの三角形を、下向きの勾配に変化するときには、PIVCをピークとする下向きの三角形で、勾配を表現したものであり、図4B(b)に示すピッチ角速度と類似の変化傾向を持つ。
【0109】
よって、このピッチ角速度と変形勾配線形図とを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である勾配変化点同士の対応付けを行う。
【0110】
または、ピッチ角データを用いる場合には、処理区間において、ピッチ角速度データを積分してピッチ角を求め、ピッチ角と勾配線形図とを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である勾配変化点同士の対応付けを行う。
【0111】
または、勾配線形テーブル44に基づき、または元の軌道管理図に基づき、勾配線形を所定距離毎にデータ化し、データIDと対応付けた勾配線形テーブルを備えており、フィルタ処理されたピッチ角速度またはピッチ角のデータと、勾配線形テーブルのデータとの間で相関関数を計算し、その値が最大となる偏移量を求める。この偏移量が、ピッチ角速度データに対応するデータIDが暫定的なキロ程と、キロ程との偏移量となるので、データIDとキロ程との対応付けを行い、データ出力テーブル48を出力する。
【0112】
このように、ピッチ角速度を用いる場合でも、軌道管理図と類似の変化傾向を持たせることができるので、少ない誤差でキロ程付与を行うことができる。
【0113】
7. 測定基準データについて
測定基準データとしては、前述のように、マーキング部36または入力部38から直接手動により入力されるキロ程のデータ、または、停車場、橋、トンネルといった既定物の通過したことを表すデータとする他に、別途のセンサにより自動的に通過したことを検出したことを表すデータとすることもできる。または、他のATMやデーターデポ(登録商標)(東京計器レールテクノ株式会社製)といった軌道に沿って間隔をあけて配置された地上子の通過を自動的に検知するデータとすることもできる。
【0114】
または、データ記録装置12にGPS受信機を設けて、GPS受信機から得られる位置データとすることもできる。この場合、位置データと軌道上のキロ程との対応テーブルを別途設けるとよい。
【0115】
8. 検査値について
尚、以上の説明例では、検査値データは、角速度及び進行方向の加速度を検出するセンサによって共通に検出されるデータであったが、これに限るものではなく、検査値データは、別のセンサによって検出される別の測定値のデータとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明による軌道位置データ付与方法を実施した軌道位置データ付与システムの全体図を示す概略説明図である。
【図2】本発明によるデータ記録装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明によるデータ解析装置の機能ブロック図である。
【図4A】軌道管理図の曲線線形図と、ヨー角速度、ロール角速度、ロール角との関係を示す図である。
【図4B】軌道管理図の勾配線形図と、ピッチ角速度、ピッチ角との関係を示す図である。
【図5】(a)〜(c)は旋回変化点の記号の説明図であり、(d)は勾配変化点の記号の説明図である。
【図6A】曲線線形テーブルの一例である。
【図6B】勾配線形テーブルの一例である。
【図6C】既定物テーブルの一例である。
【図6D】データ出力テーブルのフィールドを表す。
【図7A】曲線線形図とヨー角速度のグラフを上下に並べて表示した状態を示す図である。
【図7B】曲線線形図とヨー角速度のグラフの屈曲点対を選択した状態を示す図である。
【図7C】対応付けを行った後の曲線線形図とヨー角速度のグラフを上下に並べて表示した状態を示す図である。
【図7D】進行方向加速度データとその2回積分して得た距離を示すグラフである。
【図8】図7と同期したロール角速度及びピッチ角速度をそれぞれ積分したロール角とピッチ角である。
【符号の説明】
【0117】
10 軌道位置データ付与システム
12 データ記録装置
14 データ解析装置
140 処理区間決定処理手段
142 曲線線形図再生処理手段
144 角速度表示処理手段
146 マーキング表示処理手段
148 軌道位置データ−角速度データ−検査値データ対応付け処理手段
20 センサ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサから時系列的に出力される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道上を走行する車両においては、その軌道保守を行うために、軌道の状態を検査することが行われており、検査として、例えば、レールの傷、摩耗または変位、レール遊間量の検査、車両の動揺の検査などが、各種センサを用いて行われる。
【0003】
これらの検査を行う場合、センサを用いて取得される検査値データは、その検査値データがどこの軌道位置のデータであるかを表す軌道位置データとの対応付けがなされて、格納される必要がある。
【0004】
従来、軌道検測車のような検査専用車両では、軌道位置データを得るために車輪の回転から距離を計測するエンコーダや、地上子からの軌道位置データを受信可能な車上受信装置が装備されており、検査値データと軌道位置データとの対応付けが行えるようになっている。
【0005】
しかしながら、検査専用車両を用いずに、通常の営業車で検査値データを取得しようとすると、上記軌道位置データを取得するための装置が装備されていないために、軌道位置の決定が困難になる、という問題がある。
【0006】
このような問題を解決するためのものとして、特許文献1ないし特許文献3に示すものが知られている。
【0007】
特許文献1の測定位置照合方式では、軌道の高低狂いデータと車両の上下動揺加速度との間に非常に強い線形依存関係が存在することに着目して、低域通過ろ波処理をした軌道の高低狂いデータと上下動揺データとの相関処理を実施し、最大値を求めている。軌道の高低狂いデータは、軌道検測車による定期検測により軌道位置データとの対応付けがなされて形成されているので、この軌道の高低狂いデータと、上下動揺加速度測定データとを照合することで軌道位置を決定するものである。
【0008】
特許文献2の並列記録方式では、軌道検測車で測定した列車動揺データと、営業車で測定した動揺データとの照合を行うために、営業車で測定した進行方向の加速度データを2重積分して距離にして軌道位置データである走行キロ程を求め、上下方向及び左右方向の加速度データに対して、軌道位置データとの照合を行っている。
【0009】
特許文献3の車両走行動揺解析システム及び方法では、GPSアンテナ及びGPS受信機を有し、GPSアンテナによりGPS受信機が受信するGPS信号により取得される位置情報に基づいて車両の位置情報を補正している。
【0010】
【特許文献1】特許第2933832号公報
【特許文献2】特許第2720172号公報
【特許文献3】特許第3993222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の構成では、軌道の高低狂いデータと車両の上下動揺加速度データとの間に線形依存関係があるといっても、ある長い波長帯において関係が成り立つのであり、直接の両データ同士を比較する限りにおいては、類似性は見られない。そのため、両データを低域通過ろ波処理しなければ対応付けを行うことができず、類似性を示す波長の選択が困難である、という問題がある。
【0012】
また、特許文献2の構成では、進行方向の加速度データを2重積分しているが、加速度データに含まれるオフセットや誤差が積分により増大し、正確に照合を行うことが困難である、という問題がある。
【0013】
また、特許文献3の構成では、GPS信号により取得される位置情報は、ある範囲の誤差を持つ緯度経度情報であるために、GPS信号により取得される緯度経度情報を軌道位置に対応付ける更なる照合作業が必要になる、という問題がある。
【0014】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、その目的は、少ない処理で簡単に軌道位置データと対応付けることができる軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む。
【0016】
請求項2記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する手段と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む。
【0017】
請求項3記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む。
【0018】
請求項4記載の本発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段が、
前記処理区間における軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとを表示する手段と、
軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフの中から対応する屈曲点対の選択を促す手段と、
選択された対応する屈曲点対に基づき、屈曲点対に該当する角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む。
【0019】
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載のシステムにおいて、前記検査値データと同期して、車両上に設置された加速度センサによって車両の進行方向の加速度を表す加速度データを順次取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
前記選択された角速度データの屈曲点対の間において加速度データを2回積分して距離を表す距離データを算出する手段と、
前記算出された距離データに基づいて、前記屈曲点対の間にある角速度データを前記距離データに基づき軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む。
【0020】
請求項6記載の本発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段は、
前記処理区間における軌道管理図を構成するデータと、角速度データまたは角度データとの相関をとって、軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとの偏移量を求める手段と、
該偏移量から角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む。
【0021】
請求項7記載の本発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記検査値データと同期して、軌道位置データと関連する測定基準データを取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
処理区間における前記測定基準データと軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと関連付けられた前記測定基準データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む。
【0022】
請求項8記載の本発明は、請求項7記載の前記測定基準データが、車両上に設置された入力手段によって入力された、軌道近傍の既定物の通過を表すデータであることを特徴とする。
【0023】
請求項9記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む。
【0024】
請求項10記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する工程と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む。
【0025】
請求項11記載の本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、角速度データまたはそれを積分した角度データは、軌道管理図と類似の変化傾向を持つために、精度良く検査値データと軌道位置データとの照合を行うことができる。
【0027】
即ち、ヨー角速度は、軌道管理図の曲線線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良く軌道位置データと検査値データとの照合を行うことができる。ヨー角速度は、右カーブまたは左カーブの角度変化に対応しており、感度が高く、照合作業を一層簡単に且つ精度良く行うことができる。また、ヨー角速度は、軌道の異常、車両の異常の影響を比較的受け難い点でも、軌道位置データの照合に使用するデータとして最適である。
【0028】
また、ロール角速度を積分したロール角は、軌道管理図の曲線線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良く軌道位置データと検査値データとの照合を行うことができる。
【0029】
また、ピッチ角速度は、軌道管理図の勾配線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良く軌道位置データと検査値データとの照合を行うことができる。
【0030】
軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとを表示することで、両者の比較を行うことができ、対応する屈曲点対を選択させることで、精度良く、角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行うことができる。
【0031】
さらに、加速度データを2回積分した距離によって、屈曲点対間を補正することにより、横カーブまたは上下カーブを走行する際の車両の加減速に対応して、検査値データと軌道位置データとの照合の精度をさらに向上させることができる。
【0032】
または、軌道管理図のデータと角速度データまたは角度データとの相関をとることによって、自動的に角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行うことができる。
【0033】
また、軌道近傍の既定物の通過を表すデータといった測定基準データを用いて、軌道位置データと関連付けられた前記測定基準データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付けるので、検査値データと軌道位置データとの照合の精度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明による軌道位置データ付与方法を実施した軌道位置データ付与システムの全体図を示す概略説明図である。
【0035】
図において、軌道位置データ付与システム10は、大別して、車両上に設置されて角速度等を測定し、測定によって取得された該角速度データ等を記録するデータ記録装置12と、地上においてデータ記録装置12で記録されたデータを解析するデータ解析装置14及び充電器16と、に大別することができる。
【0036】
データ記録装置12は、さらに、センサ部20と、収録回路22と、バッテリ28とを備えて、可搬性を持った装置となっている。
【0037】
センサ部20は、車両の進行方向の加速度ax、車両の左右方向の加速度ay、車両の上下方向の加速度az、車両のロール角変化であるロール角速度rr、車両のピッチ角変化であるピッチ角速度rp、車両のヨー角変化であるヨー角速度ryを検出する。例えば、センサ部20は、3軸の加速度と2軸の角速度を出力するマイクロ慣性センサ(東京計器株式会社製「MESAG」)を2個直交して配置することにより、これらの3つの加速度及び3つの角速度を検出することができる。またはセンサ部20は、3個の加速度計と3個の角速度計とから構成することもできる。
【0038】
図2に示すように、収録回路22は、メモリ32と、角速度データを含む検査値データをメモリ32に格納する制御部34と、マーキング部36と、入力部38とを備える。必要に応じてセンサ部20と制御部34との間にA/D変換器を設けることができる。
【0039】
メモリ32は、データ記録装置12とは一体または別体となった任意の記録媒体とすることができ、一定周期毎の角速度データを含む検査値データを時系列的に格納する。
【0040】
マーキング部36は、手動で操作可能であり、この操作が行われたときに、メモリ32にセンサ部20からのデータと対応付けられて後述の測定基準データとしてのマーキングデータが格納される。
【0041】
入力部38は、測定/記録の開始、終了/記録の終了の指令及び後述の測定基準データを入力するためのものである。
【0042】
尚、前記制御部34、マーキング部36及び入力部38の少なくとも一部は、キーボード、マウスといった入力手段を備えたノート型パソコンのような携帯型コンピュータで構成することもできる。
【0043】
この例では、データ記録装置12は、軌道位置データを付与するための機能と、軌道保守のために必要な検査を行う機能とを兼用しており、検査装置も兼ねている。センサ部20から得られる検査値データは、動揺測定を行うものとして使用される。データ記録装置12が軌道位置データを付与するための機能のみを持つ場合には、センサ部20は、少なくとも1つの角速度データのみ、または少なくとも1つの角速度データと進行方向の加速度データのみを出力するものであってもよい。
【0044】
データ解析装置14は、CPUを有するコンピュータで構成され、データ解析装置14に格納された軌道位置データ付与プログラムを実行することにより、コンピュータであるデータ解析装置14は、図3に示すように、処理区間決定処理手段140、曲線線形図再生処理手段142、角速度表示処理手段144、マーキング表示処理手段146、軌道位置データ−角速度データ−検査値データ対応付け処理手段148、繰り返し判断処理手段150として機能する。またデータ解析装置14は、メモリ32がセットされることによって、またはメモリ32のデータがダウンロードされることによって、データ保存手段としても機能する。このデータ解析装置14を構成するコンピュータは、データ記録装置12の一部を構成するコンピュータと同じものであってもよく、または別のものであってもよい。
【0045】
また、データ解析装置14には、軌道の曲線線形データと軌道位置データとしてのキロ程との対応付けが記録された曲線線形テーブル42、軌道の勾配線形データと軌道位置データとしてのキロ程との対応付けが記録された勾配線形テーブル44、軌道上の停車場データその他既定物データと軌道位置データとしてのキロ程との対応付けが記録された既定物テーブル46及び検査値データと軌道位置データとしてのキロ程とを対応付けたデータ出力テーブル48が格納される。
【0046】
軌道の曲線線形データ及び軌道の勾配線形データは、既知の軌道管理図を元にそれぞれ作成されるものである。
【0047】
図4A(a)は、軌道管理図の曲線線形図の一例であり、軌道管理図の曲線線形図は、横軸がキロ程、中立線より上側が右カーブ(軌道の起点から終点に向かって右カーブ)、下側が左カーブ(軌道の起点から終点に向かって左カーブ)を表す。
【0048】
軌道管理図の曲線線形図及び曲線線形テーブル42で用いられる記号BTC、BCC、ECC、ETC、BIT、EIT、BRT、PRT、ERTの意味は、図5(a)〜(c)に示す通りであり、これらの記号は旋回変化点を表す。これらの旋回変化点は、いずれも曲線線形図において、屈曲点として表わされる。
【0049】
図4B(a)は、軌道管理図の勾配線形図の一例であり、軌道管理図の勾配線形図は、横軸がキロ程、縦軸が軌道の勾配を表し、左から右へ上昇する傾きが上り勾配及び左から右へ下降する傾きが下り勾配を表す。
【0050】
軌道管理図の勾配線形図及び勾配線形テーブル44で用いられる記号BVC、PIVC、EVCの意味は、図5(d)に示す通りであり、これらの記号は勾配変化点を表す。これらの勾配変化点のうちの中間点PIVCが、勾配線形図において、屈曲点として表れる。
【0051】
図6Aに示すように、曲線線形テーブル42では、曲線線形図の各旋回変化点とキロ程との対応付けが一レコードとして記録されている。各レコードは、さらにページ、方向、曲率半径R(m)、カントC(mm)及びスラックS(mm)のフィールドを持つ。ページは、軌道管理図のページを表し、方向は、Rは右カーブ、Lは左カーブを表し、曲率半径Rは、終点方向の曲率半径を表す。曲率半径R、カントC及びスラックSは、旋回変化点が円弧曲線始点BCC及び次の円弧曲線の始点EITの場合に、その点からの軌道の曲率半径、カント及びスラックとして、該当するレコードに記録される。
【0052】
図6Bに示すように、勾配線形テーブル44では、勾配線形図の各勾配変化点とキロ点との対応付けが一レコードとして記録されている。各レコードは、さらに、ページ、勾配値(‰)、曲率半径(m)のフィールドを持つ。ページは、軌道管理図のページを表し、勾配値は終点方向の勾配を表し、+値は上り勾配、−値は下り勾配を表し、曲率半径は、勾配変化点の接続曲線半径を表す。勾配値、曲率半径は、勾配変化点がPIVCの場合に該当するレコードに記録される。
【0053】
図6Cに示すように、既定物テーブル46では、停車場名とキロ程との対応付けが一レコードとして記録されている。記号は、INが停車場のホームの起点側のキロ程、Cが停車場の代表キロ程、OUTが停車場のホームの終点側のキロ程を表している。
【0054】
尚、既定物テーブル46には、停車場以外の既定物の情報を記録することもでき、例えば既定物として、トンネル、橋、ATS(地上子)のキロ程との対応付けを含めることができる。
【0055】
以上の曲線線形テーブル42、勾配線形テーブル44及び既定物テーブル46は、1つのテーブルとして構成することも可能であり、また、これらの内のいずれかのテーブルは省略することも可能である。
【0056】
以上のように構成される軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法の手順を説明する。
【0057】
1. 測定前の準備
予め、データ記録装置12のバッテリ28を充電器16により充電し、データ記録装置12には、記録可能な容量を持つメモリ32をセットしておく。
【0058】
2. 車両上での測定
角速度データを含む検査値データを取得するために、データ記録装置12を車両に運び、車両の任意の場所、例えば床上や座席に、データ記録装置12を設置する。このときに、センサ部20の方向と車両の座標とを一致させるようにして設置する必要がある。
【0059】
測定前に入力部38から測定開始地点の測定基準データとしてのキロ程及び/または停車場名の入力を行う。
【0060】
データ記録装置12は、入力部38からの測定/記録開始指令の入力があると、測定及び記録を開始し、車両の停止/走行に関係なく、一定周期でセンサ部20からのデータを時系列的にメモリ32に格納し、入力部38からの測定/記録終了指令の入力があると、測定及び記録を終了する。
【0061】
測定後に入力部38から測定終了地点の測定基準データとしてのキロ程及び/または停車場名の入力を行う。
【0062】
この例では、メモリ32に記録される検査値データは、進行方向加速度データ、左右方向加速度データ、上下加速度データ、ロール角速度データ、ピッチ角速度データ、ヨー角速度データであり、これらは同期して記録される。また、メモリ32には、測定基準データとしての測定開始地点及び測定終了地点のキロ程及び/または停車場名が記録される。
【0063】
即ち、この時点で、各角速度データを含む検査値データは、共通のデータID(または通し番号)と対応付けられ、データIDは、前記一定周期を一定キロ程とする暫定的なキロ程と実質的に対応付けられていることになる。
【0064】
測定開始地点及び測定終了地点の測定基準データもデータIDと対応付けられる。
【0065】
測定中に、既定物テーブル46に格納した停車場等の既定物を停車または通過するときには、作業者がマーキング部36を操作する。これによって、上記メモリ32に、上記センサ部20で得られる角速度データを含む検査値データと同期して、データIDと対応付けられて測定基準データとしてのマーキングデータが記録される。
【0066】
尚、測定中に、停車場に停車するときに、マーキングデータを記録する代わりに、測定基準データとして、その停車場のキロ程及び/または停車場名を入力部38を用いて記録することとしてもよい。
【0067】
3. 地上での処理
測定終了後に、地上において、データ解析装置14による軌道位置データ付与プログラムにより、メモリ32に記録されたデータに対して処理を行う。
【0068】
3−1 処理区間決定処理
軌道位置データ付与処理を行う処理区間を決定し、処理区間に対応するメモリ32に記録された角速度データであるヨー角速度データを読み出す。
【0069】
この処理区間の決定は、任意の方法・手段により決定することができるが、例えば、この処理区間は、以下のように決定することができる。
・処理区間を測定開始地点と測定終了地点の間、即ち、測定区間全体とすることができる。この場合には、メモリ32に記録されている測定開始地点と測定終了地点のキロ程を読み出し処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程とする。
・測定区間全体が長い場合には、メモリ32に記録された複数の測定基準データの任意の2つの測定基準データの間を処理区間とし、順次、処理区間を掃引していくことが好ましい。
【0070】
2つの測定基準データ間としては、例えば、隣合う停車場間とすることが考えられる。
選択された2つの測定基準データがメモリ32でキロ程として記録されている場合には、それらのキロ程を処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程とする。また、測定基準データがメモリ32で停車場名として記録されている場合には、既定物テーブル46を参照し、キロ程に変換したものを処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程とする。尚、既定物テーブル46の停車場名のIN、C、OUTのいずれに対応するキロ程に変換するかは、データ記録装置12が設置された車両の位置とホームとの関係に応じて予め決まる。一般的には、データ記録装置12が車両の先頭付近、中間付近、最後尾付近に設置された場合には、その停車場のOUT、C、INのキロ程をそれぞれ読み出せばよい。
勿論、停車場以外の既定物を処理区間の開始または終了とすることもできる。
【0071】
・または、処理区間は予め決められた距離(例えば、1km、5km等)毎の区間とすることが考えられる。この場合、当然ながら、メモリ32に記録されたヨー角速度には距離の情報がないから、暫定的に対応付けられたキロ程を用いてメモリ32から読み出す範囲を決定する。より具体的には、測定開始地点と測定終了地点とのキロ程の差により求めた暫定的な測定距離Lをデータ数で割り算したものを隣り合うデータID間の暫定的な距離として、予め決められた距離に対応するヨー角速度データを読み出すこととしてもよい。
【0072】
どのように処理区間を決定するかは、予めシステムで決められたものとするか、作業者による選択によって決定することにしてもよい。
【0073】
3−2 曲線線形図再生及びヨー角速度表示処理
曲線線形テーブル42を読み出して、前記決定された処理区間にある旋回変化点、方向、曲率半径を読み出し、これらから図7A上段に示すように曲線線形図を再生する。再生される曲線線形図の横軸の始点と終点が、前記2つの処理基準開始キロ程及び処理基準終了キロ程に対応する。
【0074】
また、メモリ32に記録された処理区間に対応する角速度データであるヨー角速度のデータを読み出し、図7A下段に示すように、曲線線形図と上下に並べて縦軸をヨー角速度とするヨー角速度のグラフを表示する。曲線線形図と同様に、ヨー角速度のグラフの横軸は処理区間であり始点と終点は一致しており、始点と終点との間でヨー角速度データがデータIDの順番に等間隔に配置される。
【0075】
3−3 マーキング表示処理
決定された処理区間内に、メモリ32に記録された測定基準データとしてのマーキングデータがある場合には、ヨー角速度のグラフの対応横軸位置にマークを表示する。即ち、そのマーキングデータと同期する、同一のデータIDの横軸位置にマーク(▲)を表示する。
【0076】
対応して、既定物テーブル46から前記決定された処理区間の間に、既定物がある場合には、曲線線形図において、その既定物のキロ程の位置にマーク(▲)を表示する。
【0077】
3−4 軌道位置データ−ヨー角速度データ比較処理
図4A及び図7Aに示すように、曲線線形図とヨー角速度のグラフは、非常に類似する変化傾向を持つ。これらを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である旋回変化点同士の対応付けを行う。
【0078】
具体的には、作業者により、ヨー角速度のグラフにおける対応するべき1つの屈曲点(即ち旋回変化点)の選択(例えばマウスで右クリックする)動作が行われ、次に、曲線線形図におけるそれに対応するべき屈曲点(即ち旋回変化点)の選択(例えばマウスで右クリックする)動作が行われると、2つの選択された点同士を線で繋ぐ表示を行う(図7B)。
【0079】
同様の処理を必要に応じて複数回繰り返し、複数の屈曲点(即ち旋回変化点)対を線で繋ぐ表示を行った後、作業者により「位置合わせ」実行指令の入力がなされると、線で繋がれた屈曲点対に該当するヨー角速度(具体的にはそのデータID)と曲線線形図のキロ程とを対応付ける。
【0080】
また、曲線線形図とヨー角速度のグラフにそれぞれマークが表示されているときには、ヨー角速度のグラフのマークに該当するヨー角速度(具体的にはそのデータID)と曲線線形図のマークのキロ程とを対応付ける。
【0081】
キロ程が対応付けられたヨー角速度(具体的にはそのデータID)の間にある、屈曲点及びマーク以外のヨー角速度(具体的にはそのデータID)については、按分処理によりキロ程を対応付ける。
【0082】
こうして、キロ程とデータIDとが対応付けられると、この対応関係をデータ出力テーブル48に格納する。
【0083】
データ出力テーブル48は、図6Dに示すフィールドを持つことができる。
【0084】
3−5 繰り返し処理
順次、以上の処理3−1〜3−4を、処理区間を変えて行う。通常、最初に決定された処理区間の始点は測定開始地点となり、最後に決定された処理区間の終点は測定終了地点となる。すべての処理区間について処理を行い、データIDに対してキロ程を対応付けることで、処理を終了する。
【0085】
こうして作成されたデータ出力テーブル48により、検査値データである加速度データ及び角速度データに対してキロ程が付与されたことになる。
【0086】
以上の処理によれば、ヨー角速度を利用することにより、キロ程との照合を行うことができる。ヨー角速度は、曲線線形図と類似の変化傾向を持つために、精度良くキロ程と検査値データとの照合を行うことができる。ヨー角速度は、右カーブまたは左カーブに対応しており、他の角速度に比較して感度が高いために、照合作業を一層簡単に且つ精度良く行うことができる。また、ヨー角速度は、軌道の異常、車両の異常の影響を比較的受け難い点でも、キロ程の照合に使用するデータとして最適である。
【0087】
また、角速度データ等の積分の必要がないために、積分により発生する誤差の問題を回避することができる。
【0088】
3−6 キロ程精度向上処理
以上の処理においては屈曲点及びマーク以外の部分について、按分処理を行い、均等にキロ程を配分したが、さらに精度良く照合を行うために、この屈曲点及びマーク以外の部分について、加速度データを使用してキロ程精度向上処理を行うことができる。以下にその処理について説明する。
【0089】
検査値データの1つでもある進行方向加速度データを2回積分する。これにより、距離が求まる(図7D)。積分の範囲は、前記キロ程との対応付けがなされている屈曲点またはマークに対応付けされたデータID(通し番号)から、次の対応付けがなされている屈曲点またはマークに対応付けられたデータID(通し番号)までの間とし、その間のデータIDに対応する積分値を順次求める。
【0090】
積分の誤差により、積分終了時に得られる距離は、屈曲点またはマークと次の屈曲点またはマークまでのキロ程の差と同じであるとは限らない。よって、その場合には、積分時に得られる距離が、キロ程の差になるように伸縮処理を行い、各データIDに対応する積分値でキロ程を決定する。
【0091】
これによって、車両のカーブの通過に伴う加減速に対応して、キロ程を付与することができるので、精度を向上させることができる。積分する範囲を局所的とすることで、積分による誤差の影響を低減することができる。
【0092】
3−7 キロ程精度向上処理2
以上の例では、ヨー角速度は、センサ部20のヨー角速度出力を座標変換せずに使用しており、座標変換しなくてもヨー角速度のグラフにおいて、屈曲点の位置が精度良く現れるが、さらに精度を向上させるためには、データ解析装置14またはデータ記録装置12に、ヨー角速度、ロール角速度、ピッチ角速度の3軸の角速度を用いてまた必要に応じて加速度を用いて、公知の座標変換を行い車体系からその車両外の座標系に変換を行う処理を行う手段を設けることも可能である。
【0093】
4. 地上での処理2
以上の3−2の曲線線形図再生及びヨー角速度表示処理、3−3のマーキング表示処理、3−4の軌道位置データ−ヨー角速度データ対応処理では、作業者に対して視覚的に表示を行い、作業者の選択支援を得て、対応付けを行っている。この処理の代替処理として、作業者の選択支援なく自動的に処理することもできる。
【0094】
そのために、データ解析装置14は、曲線線形テーブル42に基づきまたは元の軌道管理図に基づき、曲線線形を所定距離毎にデータ化し、データIDと対応付けた曲線線形テーブル43(不図示)を備える。
【0095】
角速度データであるヨー角速度データを平滑化するフィルタ処理を行い、フィルタ処理されたデータx(n)(n:データID)と、曲線線形テーブル43のデータy(m)(m:データID)との間で相関関数を計算し、その値が最大となる偏移量Δn=m−nを求める。
【0096】
【数1】
ここで、N1〜N1+ΔNは処理区間に対応する。
【0097】
こうして、ヨー角速度データに対応するデータIDが表す暫定的なキロ程と、キロ程との偏移量Δnを求めて、その偏移量分だけずらすことで、データIDとキロ程との対応付けを行うことができるので、その結果をデータ出力テーブル48に出力する。
【0098】
5. 地上での処理3
以上の例では、ヨー角速度データを主として用いてキロ程との照合を行ったが、これに限るものではなく、ロール角速度データを主として用いて、または副次的に用いてキロ程との照合を行ってもよい。
【0099】
ロール角速度データを積分すると、図4A(d)に示すように、それは、曲線線形図と類似する傾向がある。これはカーブで設定されるカントをロール角として検出するからである。
【0100】
よって、ヨー角速度データの代わりに、ロール角速度データを積分したロール角データに対して、以上の3−1〜3−6、または4の処理を行っても良い。
【0101】
この場合には、処理区間において、ロール角速度データを積分してロール角を求める。そして、ロール角と曲線線形図とを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である旋回変化点同士の対応付けを行う。
【0102】
または、フィルタ処理されたロール角のデータと、曲線線形テーブル43のデータとの間で相関関数を計算し、その値が最大となる偏移量を求める。この偏移量が、ロール角速度データに対応するデータIDが暫定的なキロ程と、キロ程との偏移量となるので、データIDとキロ程との対応付けを行い、データ出力テーブル48を出力する。
【0103】
このように、ロール角速度を用いる場合でも、1回の積分によって、軌道管理図と類似の変化傾向を持たせることができるので、精度良くキロ程と検査値データとの照合を行うことができる。
【0104】
6. 地上での処理4
または、ヨー角速度データの代わりに、ピッチ角速度データを主として用いて、または副次的に用いてキロ程との照合を行うこともできる。
【0105】
ピッチ角速度またはそれを積分したピッチ角は、図4Bに示すように、それは、勾配線形図と類似する傾向がある。
【0106】
よって、ヨー角速度データの代わりに、ピッチ角速度データまたはピッチ角速度を積分したピッチ角データに対して、以上の3−1〜3−6、または4の処理を行っても良い。
【0107】
この場合には、前記曲線線形テーブル42の代わりに勾配線形テーブル44を用いて処理区間の勾配線形図を再生する。
【0108】
この場合の勾配線形図の再生に関しては、ピッチ角速度データを用いる場合には、図4B(a)で示した勾配線形図ではなく、図4B(d)で示す変形勾配線形図を用いるとよい。この変形勾配線形図は、上向きの勾配に変化するときにはPIVCをピークとする上向きの三角形を、下向きの勾配に変化するときには、PIVCをピークとする下向きの三角形で、勾配を表現したものであり、図4B(b)に示すピッチ角速度と類似の変化傾向を持つ。
【0109】
よって、このピッチ角速度と変形勾配線形図とを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である勾配変化点同士の対応付けを行う。
【0110】
または、ピッチ角データを用いる場合には、処理区間において、ピッチ角速度データを積分してピッチ角を求め、ピッチ角と勾配線形図とを比較し、対応すると考えられる特徴のある屈曲点である勾配変化点同士の対応付けを行う。
【0111】
または、勾配線形テーブル44に基づき、または元の軌道管理図に基づき、勾配線形を所定距離毎にデータ化し、データIDと対応付けた勾配線形テーブルを備えており、フィルタ処理されたピッチ角速度またはピッチ角のデータと、勾配線形テーブルのデータとの間で相関関数を計算し、その値が最大となる偏移量を求める。この偏移量が、ピッチ角速度データに対応するデータIDが暫定的なキロ程と、キロ程との偏移量となるので、データIDとキロ程との対応付けを行い、データ出力テーブル48を出力する。
【0112】
このように、ピッチ角速度を用いる場合でも、軌道管理図と類似の変化傾向を持たせることができるので、少ない誤差でキロ程付与を行うことができる。
【0113】
7. 測定基準データについて
測定基準データとしては、前述のように、マーキング部36または入力部38から直接手動により入力されるキロ程のデータ、または、停車場、橋、トンネルといった既定物の通過したことを表すデータとする他に、別途のセンサにより自動的に通過したことを検出したことを表すデータとすることもできる。または、他のATMやデーターデポ(登録商標)(東京計器レールテクノ株式会社製)といった軌道に沿って間隔をあけて配置された地上子の通過を自動的に検知するデータとすることもできる。
【0114】
または、データ記録装置12にGPS受信機を設けて、GPS受信機から得られる位置データとすることもできる。この場合、位置データと軌道上のキロ程との対応テーブルを別途設けるとよい。
【0115】
8. 検査値について
尚、以上の説明例では、検査値データは、角速度及び進行方向の加速度を検出するセンサによって共通に検出されるデータであったが、これに限るものではなく、検査値データは、別のセンサによって検出される別の測定値のデータとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明による軌道位置データ付与方法を実施した軌道位置データ付与システムの全体図を示す概略説明図である。
【図2】本発明によるデータ記録装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明によるデータ解析装置の機能ブロック図である。
【図4A】軌道管理図の曲線線形図と、ヨー角速度、ロール角速度、ロール角との関係を示す図である。
【図4B】軌道管理図の勾配線形図と、ピッチ角速度、ピッチ角との関係を示す図である。
【図5】(a)〜(c)は旋回変化点の記号の説明図であり、(d)は勾配変化点の記号の説明図である。
【図6A】曲線線形テーブルの一例である。
【図6B】勾配線形テーブルの一例である。
【図6C】既定物テーブルの一例である。
【図6D】データ出力テーブルのフィールドを表す。
【図7A】曲線線形図とヨー角速度のグラフを上下に並べて表示した状態を示す図である。
【図7B】曲線線形図とヨー角速度のグラフの屈曲点対を選択した状態を示す図である。
【図7C】対応付けを行った後の曲線線形図とヨー角速度のグラフを上下に並べて表示した状態を示す図である。
【図7D】進行方向加速度データとその2回積分して得た距離を示すグラフである。
【図8】図7と同期したロール角速度及びピッチ角速度をそれぞれ積分したロール角とピッチ角である。
【符号の説明】
【0117】
10 軌道位置データ付与システム
12 データ記録装置
14 データ解析装置
140 処理区間決定処理手段
142 曲線線形図再生処理手段
144 角速度表示処理手段
146 マーキング表示処理手段
148 軌道位置データ−角速度データ−検査値データ対応付け処理手段
20 センサ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む軌道位置データ付与システム。
【請求項2】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する手段と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む軌道位置データ付与システム。
【請求項3】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む軌道位置データ付与システム。
【請求項4】
前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段は、
前記処理区間における軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとを表示する手段と、
軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフの中から対応する屈曲点対の選択を促す手段と、
選択された対応する屈曲点対に基づき、屈曲点対に該当する角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項5】
前記検査値データと同期して、車両上に設置された加速度センサによって車両の進行方向の加速度を表す加速度データを順次取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
前記選択された角速度データの屈曲点対の間において加速度データを2回積分して距離を表す距離データを算出する手段と、
前記算出された距離データに基づいて、前記屈曲点対の間にある角速度データを前記距離データに基づき軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む請求項4に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項6】
前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段は、
前記処理区間における軌道管理図を構成するデータと、角速度データまたは角度データとの相関をとって、軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとの偏移量を求める手段と、
該偏移量から角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項7】
前記検査値データと同期して、軌道位置データと関連する測定基準データを取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
処理区間における前記測定基準データと軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと関連付けられた前記測定基準データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む請求項1ないし6のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項8】
前記測定基準データは、車両上に設置された入力手段によって入力された、軌道近傍の既定物の通過を表すデータである請求項7記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項9】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む軌道位置データ付与方法。
【請求項10】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する工程と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む軌道位置データ付与方法。
【請求項11】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む軌道位置データ付与方法。
【請求項1】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む軌道位置データ付与システム。
【請求項2】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する手段と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む軌道位置データ付与システム。
【請求項3】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する手段と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
を含む軌道位置データ付与システム。
【請求項4】
前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段は、
前記処理区間における軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとを表示する手段と、
軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフの中から対応する屈曲点対の選択を促す手段と、
選択された対応する屈曲点対に基づき、屈曲点対に該当する角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項5】
前記検査値データと同期して、車両上に設置された加速度センサによって車両の進行方向の加速度を表す加速度データを順次取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
前記選択された角速度データの屈曲点対の間において加速度データを2回積分して距離を表す距離データを算出する手段と、
前記算出された距離データに基づいて、前記屈曲点対の間にある角速度データを前記距離データに基づき軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む請求項4に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項6】
前記処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段は、
前記処理区間における軌道管理図を構成するデータと、角速度データまたは角度データとの相関をとって、軌道管理図と角速度データまたは角度データのグラフとの偏移量を求める手段と、
該偏移量から角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項7】
前記検査値データと同期して、軌道位置データと関連する測定基準データを取得して前記検査値データ及び角速度データと共に時系列的に保存する手段と、
処理区間における前記測定基準データと軌道位置データとの対応付けを行う手段と、
軌道位置データと関連付けられた前記測定基準データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける手段と、
をさらに含む請求項1ないし6のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項8】
前記測定基準データは、車両上に設置された入力手段によって入力された、軌道近傍の既定物の通過を表すデータである請求項7記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項9】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってヨー角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む軌道位置データ付与方法。
【請求項10】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってロール角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データを積分してロール角を表す角度データを算出する工程と、
処理区間における角度データと軌道管理図の曲線線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む軌道位置データ付与方法。
【請求項11】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置された角速度センサによってピッチ角速度を表す角速度データを順次取得して検査値データと共に時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データの中で処理するべき範囲である処理区間を必要に応じて決定する工程と、
処理区間における角速度データと軌道管理図の勾配線形図とを比較することにより、処理区間における角速度データと軌道管理図の軌道位置データとの対応付けを行う工程と、
軌道位置データと対応付けられた角速度データに基づき、該角速度データと同期する検査値データを該軌道位置データと対応付ける工程と、
を含む軌道位置データ付与方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【公開番号】特開2010−91296(P2010−91296A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258840(P2008−258840)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000003388)東京計器株式会社 (103)
【出願人】(504412451)東京計器レールテクノ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000003388)東京計器株式会社 (103)
【出願人】(504412451)東京計器レールテクノ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
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