説明

透光性配線基板

【課題】透光性アルミナ基板と、この透光性アルミナ基板の表面に形成されている配線パターンとを備えている透光性配線基板において、熱サイクル印加後に配線パターンの透光性アルミナ基板への接着を維持し、かつ配線基板の透光性が得られるようにする。
【解決手段】配線基板8は、透光性アルミナ基板1の表面1aに形成されている下地層7と、この下地層7上に形成されている配線パターン2を備える。透光性アルミナ基板1の表面1aのうち配線パターン2によって被覆されていない領域5に平滑面が露出している。下地層7が、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれた一種以上の金属5〜60容量%およびアルミナ95〜40容量%の組成を有するサーメットからなり、あるいは、50〜200ppmのシリカを含有するアルミナからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性が高く、かつ熱サイクル後にも配線パターンの付着強度の高い透光性配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミナセラミックスは電気絶縁性、化学的安定性といった特徴から電子部品用基板として広く使われている。近年では高熱伝導性といった特徴を活かし、半導体発光素子用の基板として使われるケースも増加している。ただし、一般的なアルミナセラミックスは不透明であり、半導体発光素子から出射される光のうち、直接利用できるのは片面のみであり、基板反対面側に出射する光は反射等の処置を行い利用している(特許文献1)。透光性のある基板を用いれば、こういった構造は必要なくなるが、一般的な透光性材料であるガラスや樹脂を基板として用いると熱伝導率が低いため、半導体発光素子の温度が上昇し、発光素子の発光効率そのものが落ちてしまう。
【0003】
一方、アルミナセラミックスの中でも特に高純度なものは、真空や水素といった還元雰囲気焼成を行うことで高い透光性を有するようになり、高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプといった高輝度放電灯用の発光管として使われている(特許文献2)。
【0004】
透光性アルミナセラミックスは、透光性に加えて高い熱伝導性を持ち、これを半導体発光素子用の基板として使用することができれば、温度上昇による発光効率低下を起こすことなく、発光素子両面からの光の取出しが可能となる(特許文献3)。
【0005】
また、アルミナ基板の表面に、金属による配線パターンを形成することが行われている。ここで配線パターンとアルミナ基板との接着性を向上させるために、アルミナ基板の全面にわたってアルカリ、酸またはイオンビーム等を用いてエッチングし、次いで配線パターンを形成することが知られている(特許文献4,5)。また、アルミナ基板の表面に、アルミナ粒子よりも大きな凹凸を設ける方法が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−243717号公報
【特許文献2】特許2780941号公報
【特許文献3】特開2002−289925号公報
【特許文献4】特開昭61−251589号公報
【特許文献5】特開平5−24959号公報
【特許文献6】特開2010−30280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミナ基板を半導体発光素子用の基板として用いる場合、発光素子への給電のための配線パターンを基板表面に形成する必要がある。配線パターンは通常、銀や銅のペーストを厚膜プロセスで印刷したあと、加熱処理をすることで、ペースト内に含まれるバインダー成分と基板に含まれるアルミナ以外の成分(主としてSiO)とを結合させることで密着させる。ところが、透光性アルミナセラミックスは一般アルミナに比べ高純度であり、不純物の量が極めて少ないため密着性が不足し、点灯による温度サイクルの繰り返しにより配線パターンが剥がれ易くなる。
【0008】
透光性アルミナセラミックスにおいても、結晶粒界には少量ながら不純物が存在するが、透光性を高めるためには結晶粒子の径をできるだけ大きくする必要があり、結晶粒子径が大きくなると相対的に基板表面に現れる結晶粒界の面積が小さくなるため、更にこの問題が顕著となる。
【0009】
アルミナ中の不純物成分を多くすれば、配線パターンへの密着性を高めることが可能であるが、透光性が低下し、発光素子から出射される光の利用が難しくなる。また、結晶粒子径を小さくすれば、密着性の改善は可能であるが、透光性が低下し、発光素子から出射される光の利用が難しくなる。
【0010】
本発明者は、この問題を解決するため、特許文献4、5、6に記載のような方法も試みてみた。特許文献4では、透光性ではないアルミナ基板を酸・アルカリによってエッチングしており、これによってアルミナ基板表面を全面にわたって微細に粗している。エッチング前後において面粗度は変わらない。次いでアルミナ基板上に配線パターンを蒸着している。
【0011】
しかし、本発明者の検討では、酸・アルカリエッチングによって透光性アルミナ基板の表面を処理しても、透光性アルミナの場合には前述のように不純物が少ない上、平滑度も高い。このため、特許文献4記載のような、面粗度が上がらないような微細なエッチングでは、配線パターンの密着性改善の効果がなく、熱サイクル後に配線パターンが剥離する。また、エッチングによって透光性アルミナ基板の面粗度を粗くすると、光の透過率が低下する。
【0012】
また、特許文献5記載のようにイオンビームを用いて透光性アルミナ基板の表面をエッチングすることも検討した。しかし、この方法でも、特許文献4と同様の問題が生ずる。
【0013】
特許文献6記載のように、アルミナ粒子よりも大きな凹凸を設ける方法も検討した。しかし、透光性アルミナの場合には、透光性を発現させるためにアルミナ粒子の平均粒径が非常に大きい。このため、アルミナ粒子よりも十分に大きな凹凸を設けると、微細なパターンや複雑なパターンを基板表面に形成することができず、配線の微細化に対応できない。このため、透光性配線基板の分野では産業上利用できない技術である。しかも、透光性アルミナ粒子よりも十分に大きい凹凸が基板表面にあると、配線パターンを基板表面にスクリーン印刷するときに、印刷用製版の損傷を引き起こす。
【0014】
本発明の課題は、透光性アルミナ基板と、この透光性アルミナ基板の表面に形成されている配線パターンとを備えている透光性配線基板において、熱サイクル印加後に配線パターンの透光性アルミナ基板への接着を維持し、かつ配線基板の透光性が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一の発明は、透光性アルミナ基板と、この透光性アルミナ基板上に形成されている配線パターンとを備えている透光性配線基板であって、
透光性アルミナ基板の表面に形成されている下地層と、この下地層上に形成されている配線パターンとを備えており、前記透光性アルミナ基板の前記表面のうち前記配線パターンによって被覆されていない領域に平滑面が露出しており、下地層が、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれた一種以上の金属5〜60容量%およびアルミナ95〜40容量%の組成を有するサーメットからなることを特徴とする。
【0016】
また、第二の発明は、透光性アルミナ基板と、この透光性アルミナ基板上に形成されている配線パターンとを備えている透光性配線基板であって、
透光性アルミナ基板の表面に形成されている下地層と、この下地層上に形成されている配線パターンとを備えており、前記透光性アルミナ基板の前記表面のうち配線パターンによって被覆されていない領域に平滑面が露出しており、下地層が、50〜200ppmのシリカを含有するアルミナからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透光性アルミナ基板の表面に平滑面を形成することでその透光性を維持しつつ、熱サイクル印加後にも配線パターンのアルミナ基板表面からの剥離を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る配線基板8を模式的に示す平面図である。
【図2】(a)は、透光性アルミナ基板1の配線パターン形成領域6に下地層7を形成した状態を示す模式的断面図であり、(b)は、下地層7上に配線パターン2を設けた後の配線基板8の断面図である。
【図3】配線基板の透光性の測定法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(配線基板の形成手順)
アルミナ原料粉末を成形、焼結させることによって、透光性アルミナ基板を作製する。この時点では、透光性アルミナ基板の表面は平滑面をなしている。これは、基板表面が粗れていると、基板の全透過率が著しく低下するからである。
【0020】
図1、図2(a)に示すように、透光性アルミナ基板1の表面1aを平滑面とする。次いで、図2(a)(b)に示すように、配線パターン形成領域6において、表面1a上に下地層7を形成する。本実施形態では、非形成領域5には下地層7を形成しない。次いで、下地層7上に配線パターン2を形成する。配線パターン2は、下地層7上に形成されており、下地層7の存在しない非形成領域5には形成されていない。3ははんだ付け部分である。
【0021】
(透光性アルミナ基板)
透光性アルミナは、例えば発光ダイオード素子用をマウントする基板として使用でき、これによって発光ダイオード素子の寿命を飛躍的に延長することが可能である。
【0022】
透光性アルミナ基板の厚さは0.2mm以上、2mm以下であることが好ましい。基板が薄すぎると、衝撃で割れやすくなり、あるいは直線透過光の比率が高くなりすぎ、光の拡散が不足する。基板が厚すぎると、全光線透過率が低くなり、放熱性も低下する。
【0023】
透光性アルミナ基板の可視光域の直線透過率は、光の拡散のため、40%以下とすることが好ましく、15%以下とすることが更に好ましい。透光性アルミナ基板の前方全透過率は、発光効率の観点から30%以上が好ましい。
【0024】
基板を構成する透光性アルミナの平均結晶粒径は特に限定されないが、透光性を得るという観点から、15μm以上とすることが好ましく、20μm以上とすることが更に好ましい。また、アルミナの結晶粒径は、基板強度を維持する、および直線透過光の比率が多くなりすぎないように、100μm以下とすることが好ましく、40μm以下とすることが更に好ましい。
【0025】
また、基板を構成する透光性アルミナの相対密度は、透光性を確保するという観点からは、98%以上とすることが好ましく、99%以上とすることが更に好ましい。アルミナ内の気孔は、入射する光を散乱させ、全光線透過率を著しく低下させる。
【0026】
透光性アルミナ基板の成形方法は特に限定されず、ドクターブレード法、押し出し法、ゲルキャスト法など任意の方法であってよい。特に好ましくは、基板をゲルキャスト法を用いて製造する。好適な実施形態においては、セラミック粉末、分散媒およびゲル化剤を含むスラリーを注型し、このスラリーをゲル化させることによって成形体を得、この成形体を焼結させる。
【0027】
特に好ましくは、純度99.9%以上(好ましくは99.95%以上)の高純度アルミナ粉末に対して、150〜1000ppmの助剤を添加した原料を用いる。このような高純度アルミナ粉末としては、大明化学工業株式会社製の高純度アルミナ粉体を例示できる。
前述した助剤は、高純度アルミナ粉末の焼結を促進する助剤であり、MgO、ZrO2, Y2O3,La2O3,
Sc2O3を例示でき、酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0028】
好適な実施形態においては、透光性アルミナ基板における助剤以外アルミナの純度が99.8質量%以上であり、これによって全透過率が向上する。不純物量が少ないことによって、配線パターンとの熱サイクル印加後の接着性が低下するので、本発明が特に有効である。透光性アルミナ基板におけるアルミナの純度が99.9質量%以上が更に好ましく、99.95%以上が一層好ましい。基板のアルミナ純度は蛍光X線分析や誘導結合プラズマ質量分析、等を用いることで測定することができる。
【0029】
透光性アルミナ基板を構成する透光性アルミナにおいては、透光性の観点から、シリカ量が少ないことが好ましい。このシリカ量は、50質量ppm以下が好ましく、添加されていないことがもっとも好ましい。
【0030】
透光性アルミナ基板の原料粉末の平均粒径は特に限定されないが、低温焼結での緻密化および透光性向上という観点からは、0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下が更に好ましい。一層好ましくは、原料粉末の平均粒子径は0.3μm以下(一次粒子径)である。この平均粒径の下限は特に限定されない。原料粉末の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)による原料粉末の直接観察によって決定できる。
なお、ここでいう平均粒子径とはSEM写真(倍率:X30000。任意の2視野)上における2次凝集粒子を除く1次粒子の(最長軸長+最短軸長)/2の値のn=500平均値のことである。
【0031】
ゲルキャスト法は、以下の方法を例示できる。
(1) 無機物粉体とともに、ゲル化剤となるポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のプレポリマーを、分散剤と共に分散媒中に分散してスラリーを調製し、注型後、架橋剤により三次元的に架橋してゲル化させることにより、スラリーを固化させる。
(2) 反応性官能基を有する有機分散媒とゲル化剤とを化学結合させることにより、スラリーを固化させる。
【0032】
(サーメットからなる下地層)
第一の発明では、下地層が、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれた一種以上の金属5〜60容量%およびアルミナ95〜40容量%の組成を有するサーメットからなる。ただし、前記金属とアルミナとの合計量を100容量%として組成を算出する。
【0033】
ここで、サーメットを構成する金属は、モリブデンのみであってよく、タングステンのみであってよく、両者の混合物であってよい。また、前記サーメットにおける前記金属の比率を5質量%〜60質量%とすることによって、熱サイクル印加後の配線パターンとの接着力が著しく上昇する。この観点からは、前記サーメットにおける前記金属の比率は20質量%以上とすることが更に好ましく、また、 45質量%以下とすることが更に好ましい。
【0034】
(サーメットの形成方法)
前記サーメットからなる下地層を形成するには、サーメットペーストを製造し、透光性アルミナ基板の仮焼体表面に塗布し、常法によって基板の仮焼体と共に還元性雰囲気下で焼結させる。塗布の際には、ペーストをスクリーン印刷、インクジェット印刷、パッド印刷することができる。
【0035】
ペースト中には、溶媒および重合体を含有させる。溶媒としては、ブチルカルビトール、テルピネオールを例示できる。また、重合体としては、ポリビニルアルコール、エチルセルロースを例示できる。
【0036】
ペーストを焼結させる際の還元性雰囲気は、水素と窒素との混合雰囲気が好ましい。この場合、水素と窒素との比率は、3:1〜10:0であることが好ましい。また、焼結温度は、1700〜1850℃が好ましい。
【0037】
(下地層を構成するアルミナ)
第二の発明においては、下地層が、50〜200質量ppmのシリカを含有するアルミナからなる。これによって、熱サイクル印加後の配線パターンの接着力が著しく向上する。この観点からは、シリカ含有量は、100質量ppm以上とすることが更に好ましく、また150質量ppm以下とすることが更に好ましい。
【0038】
下地層を構成するアルミナは、150〜1000ppmの焼結助剤を更に含有することが好ましく、これによって透光性基板との接着力が向上する。前述した助剤は、高純度アルミナ粉末の焼結を促進する助剤であり、MgO、ZrO2, Y2O3,La2O3,
Sc2O3を例示でき、酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0039】
特に好ましくは、純度99.9%以上(好ましくは99.95%以上)の高純度アルミナ粉末に対して、150〜1000ppmの助剤を添加した原料を用いる。このような高純度アルミナ粉末としては、大明化学工業株式会社製の高純度アルミナ粉体を例示できる。
【0040】
好適な実施形態においては、下地層におけるアルミナ純度が99.8質量%以上である。透光性アルミナ基板におけるアルミナ純度は99.9質量%以上が更に好ましく、99.95質量%以上が一層好ましい。基板のアルミナ純度は蛍光X線分析や誘導結合プラズマ質量分析等を用いることで測定することができる。
【0041】
(アルミナ下地層の形成方法)
前記アルミナからなる下地層を形成するには、アルミナペーストを製造し、透光性アルミナ基板の仮焼体表面に塗布し、常法によって基板の仮焼体と共に還元性雰囲気下で焼結させる。塗布の際には、ペーストをスクリーン印刷、インクジェット印刷、パッド印刷することができる。
【0042】
ペースト中には、溶媒および重合体を含有させる。溶媒としては、ブチルカルビトール、テルピネオールを例示できる。また、重合体としては、エチルセルロース、ポリビニルアルコールを例示できる。
【0043】
ペーストを焼結させる際の還元性雰囲気は、水素と窒素との混合雰囲気が好ましい。この場合、水素と窒素との比率は、3:1〜10:0であることが好ましい。また、焼結温度は、1700〜1850℃が好ましい。
【0044】
本発明においては、下地層上に配線パターンを形成し、配線パターンが透光性アルミナ基板表面に直接に接触しないようにすることで、熱サイクル印加後の配線パターンの接着力を確保する。
【0045】
好適な実施形態においては、下地層が配線パターンによって被覆されており、下地層が透光性アルミナ基板の表面に露出していない。これによって、下地層による透光性の低下を防止し、透光性アルミナ基板の高い透光性を最大限に利用できる。すなわち、図2(b)に示すように、配線パターン2が下地層7の全面を被覆しており、下地層7が基板表面側に露出していない。ただし、下地層7の一部が配線パターン2に被覆されずに基板表面に露出していても良い。この場合には、下地層7のうち露出部分の面積が下地層7の全面積の10%以下であることが好ましい。また、平滑面は基板表面に露出している。
【0046】
(平滑面)
本発明では、透光性アルミナ基板の表面に平滑面が形成されており、配線パターンに被覆されていない領域に露出している。これによって、配線基板全体の透過率を向上させ、確保することができる。平滑面の面粗度Raは、全透過率の向上という観点から、0.3μm以下が更に好ましい。また、平滑面の面粗度の下限は特にないが、加工上は0.1μm以上が実際的である。
【0047】
平滑面は、配線パターンに被覆されていない領域に露出しているが、好ましくは、配線パターンまたは下地層に被覆されていない領域の全面にわたって平滑面が露出している。平滑面の面粗度Raは、JIS B 0601で規定される中心線平均表面粗さであり、例えば、JIS B 0651で規定されるような触針式表面粗さ測定器によって測定する。
【0048】
(平滑面の形成方法)
透光性アルミナ基板に平滑面を形成するには、成形金型に平滑面に対応する平滑部を設けることができる。また、透光性アルミナ基板の表面をダイヤモンドペースト等を用いて、研磨加工することによって、平滑面を形成できる。
【0049】
(下地層の直下)
また、下地層の直下は、平滑面であってよく、粗面であってもよい。この場合、粗面の面粗度Raは、熱サイクル印加後の配線パターンとの接着性という観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることが更に好ましい。また、粗面の損粗度Raを3.0μm以下とすることによって、微細なパターンを印刷する際のかすれや断線、印刷時のスクリーンマスクの破損を防止できる。
【0050】
透光性アルミナ基板に粗面を形成するには、成形金型に粗面に対応する粗面部を設けることができる。また、透光性アルミナ基板の表面を全面にわたって平滑面とした後、この平滑面のうち配線パターン形成領域を軸付き砥石等によりフライス加工することによって粗面を形成できる。
【0051】
(配線パターン)
配線パターンを形成する方法としては、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、パッド印刷法がある。
【0052】
また、配線パターンを形成する際の熱処理温度は、500〜1000℃が好ましい。また、配線パターンの材質は、Au、Ag、W、Mo、Pt、またはこれらを含む化合物が好ましい。更に配線パターンの厚さは 本発明の観点からは、0.5〜20μmが好ましい。
【実施例】
【0053】
(実施例A1)
透光性アルミナセラミックス基板1を、以下のようにして作製した。すなわち、原料粉末としてアルミナ粉末100重量部(純度99.95質量%以上)、及びマグネシア0.025重量部、分散媒として多塩基酸エステル30重量部、ゲル化剤として、MDI樹脂4重量部、分散剤としてマリアリムAKM0351(商品名、日本油脂株式会社製)2重量部及び触媒としてトリエチルアミン0.2重量部を混合したものを用いた。このスラリーを、アルミニウム合金製の型に室温で注型後、室温で1時間放置し、固化してから離型した。さらに、室温、次いで90℃のそれぞれの温度にて2時間放置して、基板状の粉末成形体を得た。これを大気中1200℃で仮焼し、仮焼体を得た。
【0054】
サーメットペーストは以下のように作製した。すなわち、原料粉末として、アルミナ粉末(純度99.95質量%以上)とタングステン粉末を混合したもの100重量部、ブチルカルビトール18重量部、エチルセルロース3重量部を混合してサーメットペーストとした。ただし、アルミナ粉末とタングステン粉末の混合比率は容積比で40:60となるよう調整した。
【0055】
スクリーン製版として、乳剤厚さ100μm、#290メッシュ、焼成収縮後のパターンが配線パターンと等しくなるものを用い、スクリーン製版が仮焼体の表面に平行になるようにスクリーン印刷機ステージに固定し、製版との位置合わせをした。次いで、調製したサーメットペーストを、製版を用いてスクリーン印刷機にて仮焼体の表面に印刷した。その後、95℃の乾燥器で15分乾燥させた。次いで、印刷された仮焼体を、水素:窒素=3:1の雰囲気中1800℃で焼成し、緻密化及び透光化させた。この結果、表面に配線パターンと同じサーメット層を持つ透光性アルミナセラミックス基板を得ることができた。
【0056】
得られた基板表面に、所望の配線パターンを持つスクリーン製版を用いて銀ペーストを印刷した。その後、95℃の乾燥器で15分乾燥させ、850℃の温度で熱処理を行い、配線パターンを基板表面に密着させた。
【0057】
この配線パターン上に半田付けを行い、接着強度を測定したところ、18N/mmであり、十分な強さがあることがわかった。更に、−40℃と200℃を30分毎に交互に繰り返す温度サイクルを1000回行った後、接着強度を測定したところ、10N/mmであり、初期値よりは劣るものの依然として十分な強さがあることがわかった。
【0058】
また、この基板の配線パターン以外の部分の前方全透過率を測定したところ、65%であった。ただし、前方全透過率は、図3に模式的に示す装置で測定した。すなわち、光源10から波長555nmの単色光を矢印Aのように配線基板8の表面1aに入射させ、背面1b側から矢印Bのように積分球12の各点に向かって放射される放射光を検出器11によって検出する。
また、この基板の配線パターン以外の部分の組成を誘導結合プラズマ質量分析を用いて測定したところ、アルミナの純度は99.9%であった。
【0059】
(実施例A2−A6)
実施例A1と同様にして配線基板を製造し、各種特性を測定した。ただし、下地層を形成する際のサーメットについて、実施例A2、A3においてはタングステン粉末を用い、実施例A4〜A6ではモリブデン粉末を用いた。また、サーメットにおけるモリブデン、タングステンの質量比率を、表1に示すように変更した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から分かるように、本発明の実施例A1〜A6では、熱サイクルを1000サイクル印加した後の配線パターンの接合強度が高く維持されており、配線基板の全透過率も高い。
【0062】
(比較例A1)
実施例A1と同様にして配線基板を製造し、各種特性を測定した。ただし、下地層を形成せず、アルミナ基板表面に前記配線パターンを直接形成した。得られた基板表面に配線パターンを持つスクリーン製版を用いて銀ペーストを印刷した。その後、95℃の乾燥器で15分乾燥させ、850℃の温度で熱処理を行い、配線パターンを基板表面に密着させた。
【0063】
この配線パターン上に半田付けを行い、接着強度を測定したところ、18N/mmであり、十分な強さがあることがわかった。更に、−40℃と200℃を30分毎に交互に繰り返す温度サイクルを1000回行ったところ、半田が自然に剥がれてしまい強度測定を行うことができなかった。また、この基板の配線パターン以外の部分の前方全透過率を測定したところ、65%であった。結果を表2に示す。
【0064】
(比較例A2、A3)
実施例A1と同様にして配線基板を製造し、各種特性を測定した。ただし、下地層を形成する際のサーメットについて、比較例A2、A3においてはタングステン粉末、モリブデン粉末の質量比率を70質量%に増加させた。
【0065】
この配線パターン上に半田付けを行い、接着強度を測定したところ、18N/mmであり、十分な強さがあることがわかった。更に、−40℃と200℃を30分毎に交互に繰り返す温度サイクルを1000回行ったところ、半田が自然に剥がれてしまい強度測定を行うことができなかった。剥がれ部を観察したところ、サーメット層が基板から剥がれている部分が見られた。また、この基板の配線パターン以外の部分の前方全透過率を測定したところ、65%であった。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
(実施例B1)
透光性アルミナセラミックス基板1を、以下のようにして作製した。すなわち、原料粉末としてアルミナ粉末100重量部(純度99.95質量%以上)及びマグネシア0.025重量部、分散媒として多塩基酸エステル30重量部、ゲル化剤として、MDI樹脂4重量部、分散剤としてマリアリムAKM0351(商品名、日本油脂株式会社製)2重量部及び触媒としてトリエチルアミン0.2重量部を混合したものを用いた。このスラリーを、アルミニウム合金製の型に室温で注型後、室温で1時間放置し、固化してから離型した。さらに、室温、次いで90℃のそれぞれの温度にて2時間放置して、基板状の粉末成形体を得た。これを大気中1200℃で仮焼し、仮焼体を得た。
【0068】
シリカ含有アルミナペーストは以下のように作製した。すなわち、原料粉末として、アルミナ粉末(純度)99.95質量%以上)とシリカ粉末を混合したもの100重量部、テルピネオール40重量部、ポリビニルアルコール9重量部を混合してシリカ含有アルミナペーストとした。ただし、アルミナ粉末に対するシリカ粉末の分量が200質量ppmとなるよう調整した。
【0069】
スクリーン製版として、乳剤厚さ100μm、#290メッシュ、焼成収縮後のパターンが配線パターンと等しくなるものを用い、スクリーン製版が仮焼体の表面に平行になるようにスクリーン印刷機ステージに固定し、製版との位置合わせをした。次いで、調製したシリカ含有アルミナペーストを、製版を用いてスクリーン印刷機にて仮焼体の表面に印刷した。その後、95℃の乾燥器で15分乾燥させた。
【0070】
次いで、印刷された仮焼体を、水素:窒素=3:1の雰囲気中1800℃で焼成し、緻密化及び透光化させた。この結果、表面に配線パターンと同じシリカを多く含む層を持つ透光性アルミナセラミックス基板を得ることができた。
【0071】
得られた基板表面に、所望の配線パターンを持つスクリーン製版を用いて銀ペーストを印刷した。その後、95℃の乾燥器で15分乾燥させ、850℃の温度で熱処理を行い、配線パターンを基板表面に密着させた。
【0072】
この配線パターン上に半田付けを行い、接着強度を測定したところ、18N/mmであり、十分な強さがあることがわかった。更に、−40℃と200℃を30分毎に交互に繰り返す温度サイクルを1000回行った後、接着強度を測定したところ、12N/mmと初期値よりは劣るものの依然として十分な強さがあることがわかった。また、この基板の配線パターン以外の部分の前方全透過率を測定したところ、65%であった。
【0073】
(実施例B2、B3)
実施例B1と同様にして配線基板を製造し、各種特性を測定した。ただし、下地層を形成する際のアルミナペーストについて、実施例B2、B3においてはシリカ比率を50、100質量ppmに変更した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】



【0075】
表3から分かるように、本発明の実施例B1〜B3では、熱サイクルを1000サイクル印加した後の配線パターンの接合強度が高く維持されており、配線基板の全透過率も高い。
【0076】
(比較例B1、B2)
実施例B1と同様にして配線基板を製造し、各種特性を測定した。ただし、下地層を形成する際のアルミナペーストについて、比較例B1、B2においてはシリカ比率を300質量ppm、30質量ppmに変更した。
【0077】
この配線パターン上に半田付けを行い、接着強度を測定したところ、18N/mmであり、十分な強さがあることがわかった。更に、−40℃と200℃を30分毎に交互に繰り返す温度サイクルを1000回行った。その後、比較例B1の接着強度を測定したところ、12N/mmと初期値よりは劣るものの依然として十分な強さがあることがわかった。ただし、この基板の配線パターン以外の部分の前方全透過率を測定したところ、55%であった。特に下地層の付近では基板の一部が白濁し、透光性が失われてしまう現象が見られた。また、比較例B2については半田が自然に剥がれてしまい強度測定を行うことができなかった。また、この基板の配線パターン以外の部分の前方全透過率を測定したところ、65%であった。結果を表4に示す。なお、表4には、比較例A1の結果も示した。
【0078】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性アルミナ基板と、この透光性アルミナ基板上に形成されている配線パターンとを備えている透光性配線基板であって、
前記透光性アルミナ基板の表面に形成されている下地層と、この下地層上に形成されている配線パターンとを備えており、前記透光性アルミナ基板の前記表面のうち前記配線パターンによって被覆されていない領域に平滑面が露出しており、前記下地層が、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれた一種以上の金属5〜60容量%およびアルミナ95〜40容量%の組成を有するサーメットからなることを特徴とする、透光性配線基板。
【請求項2】
透光性アルミナ基板と、この透光性アルミナ基板上に形成されている配線パターンとを備えている透光性配線基板であって、
前記透光性アルミナ基板の表面に形成されている下地層と、この下地層上に形成されている配線パターンとを備えており、前記透光性アルミナ基板の前記表面のうち前記配線パターンによって被覆されていない領域に平滑面が露出しており、前記下地層が、50〜200ppmのシリカを含有するアルミナからなることを特徴とする、透光性配線基板。
【請求項3】
前記下地層を構成するアルミナが、150〜1000ppmの焼結助剤および50〜200ppmのシリカを含有するアルミナ焼結体からなることを特徴とする、請求項2記載の透光性配線基板。
【請求項4】
前記下地層が前記配線パターンによって被覆されており、前記透光性アルミナ基板の前記表面に露出していないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の透光性配線基板。
【請求項5】
前記平滑面の面粗度Raが0.3μm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の透光性配線基板。
【請求項6】
前記透光性アルミナ基板が、150〜1000ppmの焼結助剤を含有するアルミナ焼結体からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の透光性配線基板。
【請求項7】
前記透光性アルミナ基板を構成する前記アルミナ焼結体における前記焼結助剤を除くアルミナの純度が99.8質量%以上であることを特徴とする、請求項6記載の透光性配線基板。
【請求項8】
前記透光性アルミナ基板の平均粒径が15μm以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の透光性配線基板。
【請求項9】
前記配線パターンがスクリーン印刷により形成されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つの請求項に記載の透光性配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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