説明

選択還元触媒の劣化診断装置及び排気浄化装置

【課題】選択還元触媒の劣化状態を精度良く判定できるようにした選択還元触媒の劣化診断装置、及びそのような劣化診断装置を備えた排気浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に備えられて還元剤を吸着するとともに排気中のNOXを前記還元剤を用いて選択的に還元する選択還元触媒と、前記選択還元触媒よりも上流側で前記排気通路内に前記還元剤を噴射する還元剤供給装置と、を備えた排気浄化装置における前記選択還元触媒の劣化状態を診断するための選択還元触媒の劣化診断装置において、前記選択還元触媒よりも上流側のNOX量を求める上流側NOX量検出手段と、前記選択還元触媒よりも下流側のNOX量を求める下流側NOX量検出手段と、前記還元剤の噴射を停止してから前記上流側のNOX量と前記下流側のNOX量とが等しくなるまでの前記還元剤の消費量に基づいて前記選択還元触媒の劣化状態を判定する判定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤を吸着するとともに排気中の窒素酸化物(NOX)を還元剤を用いて選択的に還元する選択還元触媒を備えた排気浄化装置における、選択還元触媒の劣化状態を診断するための選択還元触媒の劣化診断装置、及びそのような劣化診断装置を備えた排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に搭載される内燃機関から排出される排気を浄化するための排気浄化装置として、還元剤を吸着する機能を有するとともに、流入する排気中に含まれるNOXを選択的に還元剤と反応させて浄化する選択還元触媒を備えた排気浄化装置が実用化されている。
【0003】
このような排気浄化装置に用いられる選択還元触媒は硫黄被毒や高熱等によって劣化する場合がある。選択還元触媒の劣化が生じると、還元剤の最大吸着量が減少してNOXの浄化効率の低下をもたらすおそれがある。そのため、選択還元触媒のNOX浄化率を判定するようにした装置が提案されている。
【0004】
具体的には、選択還元触媒に流入するNOX中のNO2の割合が、その時点でのNOX浄化率が最大となる割合となっている状態において、選択還元触媒よりも上流側での入NOX量と選択還元触媒よりも下流側での出NOX量との差を入NOX量で割ることによってNOX浄化率を判定するようにした排気浄化装置の故障検出装置が開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−270614号公報 (段落[0045]〜[0057])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、選択還元触媒は、図2(a)に示すように、触媒温度が高温になるにつれてNOX浄化率が高くなる性質を有しており、所定温度以上の状態では、NOX浄化率の差が現れにくくなっている。特許文献1に記載された故障検出装置では、診断時点の選択還元触媒の状態においてNOX浄化率が最大となるNO2の比率を選択してNOX浄化率を判定するようにしてはいるものの、触媒温度が高温の状態ではNOX浄化率に差が生じにくくなる。また、特許文献1に記載された故障検出装置は、NOX浄化率を判定するものであり、必ずしも選択還元触媒の劣化状態に対応していないために、選択還元触媒の交換時期等を正確に知ることができないおそれがある。
【0007】
本発明の発明者らはこのような問題にかんがみて、還元剤の噴射を停止してから、選択還元触媒よりも上流側のNOX量と下流側のNOX量とが等しくなるまでの還元剤の消費量に基づいて選択還元触媒の劣化状態を判定することによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、選択還元触媒の劣化状態を精度良く判定できるようにした選択還元触媒の劣化診断装置、及びそのような劣化診断装置を備えた排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、内燃機関の排気通路に備えられて還元剤を吸着するとともに排気中のNOXを前記還元剤を用いて選択的に還元する選択還元触媒と、前記選択還元触媒よりも上流側で前記排気通路内に前記還元剤を噴射する還元剤供給装置と、を備えた排気浄化装置における前記選択還元触媒の劣化状態を診断するための選択還元触媒の劣化診断装置において、前記選択還元触媒よりも上流側のNOX量を求める上流側NOX量検出手段と、前記選択還元触媒よりも下流側のNOX量を求める下流側NOX量検出手段と、前記還元剤の噴射を停止してから前記上流側のNOX量と前記下流側のNOX量とが等しくなるまでの前記還元剤の消費量に基づいて前記選択還元触媒の劣化状態を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする選択還元触媒の劣化診断装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0009】
すなわち、本発明の選択還元触媒の劣化診断装置は、還元剤の噴射を停止してから、選択還元触媒よりも上流側のNOX量と下流側のNOX量とが等しくなるまでの還元剤の消費量に基づいて選択還元触媒の劣化状態を判定することとしている。したがって、選択還元触媒における最大吸着量の減少度合を把握することができるようになって、選択還元触媒の劣化状態を精度良く診断することを可能にすることができる。
【0010】
なお、本明細書において、「還元剤」の文言は、直接NOXと反応する成分だけでなく、その前駆体を指す場合もある。
【0011】
また、本発明の選択還元触媒の劣化診断装置において、前記判定手段は、前記還元剤の噴射を停止したときの前記選択還元触媒における還元剤の推定吸着量と、前記上流側のNOX量と前記下流側のNOX量とが等しくなったときの前記推定吸着量と、に基づいて前記還元剤の消費量を求めることが好ましい。
【0012】
還元剤の消費量をこのように求めることとすれば、上流側のNOX量と下流側のNOX量とが等しくなるまでの還元剤の消費量を正確に推定することができ、選択還元触媒の劣化状態を精度良く診断することができるようになる。
【0013】
また、本発明の選択還元触媒の劣化診断装置において、前記判定手段は、前記還元剤の噴射を停止したときの前記選択還元触媒における還元剤の推定吸着量に対する前記還元剤の消費量の割合に基づいて、前記選択還元触媒の劣化度合いを判定することが好ましい。
【0014】
このように、選択還元触媒の劣化度合いを求めることとすれば、選択還元触媒の劣化状態をより正確に把握することができる。
【0015】
また、本発明の選択還元触媒の劣化診断装置において、前記排気浄化装置は、前記排気通路に備えられて排気中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを備えており、前記判定手段は、前記パティキュレートフィルタの再生制御の開始前に前記還元剤の噴射を停止したときに前記判定を行うことが好ましい。
【0016】
このように、パティキュレートフィルタの再生制御の開始前に還元剤の噴射を停止する時期を利用して判定を行うこととすれば、選択還元触媒の劣化診断を実行するために特別な介入操作を不要とすることができる。また、このような時期を利用して選択還元触媒の劣化診断を実行することとすれば、パティキュレートフィルタの再生制御のたびに診断の機会が得られるため、特別な介入操作をすることなく診断頻度を高く維持することができる。
【0017】
また、本発明の選択還元触媒の劣化診断装置において、前記判定手段は、前記還元剤の消費量が前記還元剤の噴射を停止したときの前記選択還元触媒における還元剤の推定吸着量よりも小さい場合には前記還元剤の噴射量を増量補正させて前記判定を繰り返し行い、前記還元剤の消費量と前記推定吸着量とのずれが解消されない場合に前記選択還元触媒の劣化異常と判定することが好ましい。
【0018】
このように、還元剤の噴射量を増量補正させたにもかかわらず、還元剤の消費量と推定吸着量とのずれが解消されない場合に選択還元触媒の劣化異常と判定することとすれば、還元剤供給装置の異常や噴射量のずれが生じているにもかかわらず、選択還元触媒の劣化異常と判定するおそれを低減することができる。
【0019】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかの選択還元触媒の劣化診断装置を備えた排気浄化装置である。
【0020】
すなわち、本発明にかかる排気浄化装置は、選択還元触媒の劣化異常を精度良く判定することができる劣化診断装置を備えているために、選択還元触媒の劣化異常の発生を正確に特定することができ、選択還元触媒の交換のみで対応することができるようになるため、余分な修理費用を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置が備えられる内燃機関の排気浄化装置を説明するために示す図である。
【図2】選択還元触媒の特性を説明するために示す図である。
【図3】本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置の構成を説明するために示すブロック図である。
【図4】選択還元触媒の劣化診断方法を概略的に説明するために示す図である。
【図5】本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置によって実行される選択還元触媒の劣化診断方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図6】選択還元触媒の劣化度合いを判定する方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図7】還元剤供給装置の状態を確認する方法の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる選択還元触媒の劣化診断装置及び排気浄化装置に関する実施の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
なお、それぞれの図中において同じ符号が付されているものは、特に説明がない限り同一の構成要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0023】
図1は、本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置が備えられる内燃機関の排気浄化装置を説明するために示す図である。図2は、選択還元触媒の特性を説明するために示す図である。図3は、本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置の構成を説明するために示すブロック図である。図4は、選択還元触媒の劣化診断方法を概略的に説明するために示す図である。図5及び図6は、本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置によって実行される選択還元触媒の劣化診断方法を説明するために示すフローチャート図である。
【0024】
1.排気浄化装置の全体的構成
図1において、内燃機関1は、代表的にはディーゼルエンジンであって、複数の燃料噴射弁5を備えるとともに、排気を流通させる排気管3が接続されている。燃料噴射弁5は電子制御装置30によって通電制御されるものであり、電子制御装置30は、機関回転数やアクセル操作量、その他の情報に基づいて燃料噴射量を演算するとともに、算出された燃料噴射量に基づいて燃料噴射弁5の通電時期及び通電時間を求めて、燃料噴射弁5の通電制御を実行するようになっている。
【0025】
内燃機関1に接続された排気管3には排気浄化装置10が設けられている。排気浄化装置10は、排気管3の上流側から順に備えられた酸化触媒11とパティキュレートフィルタ12と選択還元触媒13とを有している。また、排気浄化装置10は、パティキュレートフィルタ12の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサ15を備えるとともに、選択還元触媒13の下流側には下流側NOX濃度センサ17を備えている。これらのセンサのセンサ信号は電子制御装置30に入力されるようになっている。
【0026】
酸化触媒11は、活性状態においては排気中に含まれるHCやCOを酸化(燃焼)する機能を有する触媒である。この酸化触媒11は、主に、パティキュレートフィルタ12の再生制御時において酸化熱を発生させて排気温度を上昇させるために用いられる。使用することができる酸化触媒11は、公知のディーゼル酸化触媒であれば得に限定されるものではない。
【0027】
パティキュレートフィルタ12は、内燃機関1から排出される排気中に含まれる煤等の微粒子(以下、「PM(Particulate Material)」と称する。)を捕集する機能を有するフィルタである。パティキュレートフィルタ12は、代表的にはハニカム構造を有するフィルタが用いられるが、このようなフィルタに限定されない。
【0028】
選択還元触媒13は、ポンプ21及び還元剤噴射弁23を有する還元剤供給装置20によって供給される還元剤を用いて、排気中に含まれるNOXを選択的に還元する触媒である。本実施の形態において、還元剤供給装置20から供給される還元剤は液体の還元剤である尿素水溶液であり、この尿素水溶液が分解して生成されるアンモニアが選択還元触媒13に吸着して、NOXと直接反応する還元剤として機能する。ただし、これ以外の還元剤を用いることもできる。
【0029】
図2(a)及び(b)は、本実施の形態において使用される選択還元触媒13のNOX浄化率及び最大吸着量と温度との関係を示している。図2(a)に示すように、選択還元触媒13は、触媒温度の上昇に伴ってNOX浄化率が上昇する特性を有している。一方、図2(b)に示すように、選択還元触媒13は、触媒温度の上昇に伴って最大吸着量が減少する特性を有している。
【0030】
差圧センサ15は、パティキュレートフィルタ15の上流側と下流側との間の差圧を検出するために用いられる。差圧センサ15によって検出される差圧の情報は、パティキュレートフィルタ12の再生時期の判定に用いられる。
【0031】
下流側NOX濃度センサ17は、選択還元触媒13よりも下流側におけるNOX濃度を検出するために用いられる。下流側NOX濃度センサ17によって検出される下流側NOX濃度の情報は、主として液体還元剤の噴射量の補正に用いられるが、本実施の形態にかかる劣化診断装置においては、下流側NOX濃度が選択還元触媒13の劣化診断にも用いられるようになっている。
【0032】
2.電子制御装置(選択還元触媒の劣化診断装置)
(1)装置の構成
図3は、電子制御装置30の構成のうち、選択還元触媒13の劣化診断に関連する部分を機能的なブロックで表したものである。この電子制御装置30が選択還元触媒の劣化診断装置としての機能を有している。
【0033】
電子制御装置30は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、上流側NOX流量演算手段31と、下流側NOX濃度検出手段33と、下流側NOX流量演算手段35と、還元剤噴射制御手段37と、還元剤消費量演算手段39と、再生制御手段41と、判定手段43とを備えている。具体的に、これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0034】
また、図示しないものの、電子制御装置30には、RAMやROM等の記憶素子からなる記憶手段、及び、燃料噴射弁5やポンプ21、還元剤噴射弁25等への通電を行うための駆動回路が備えられている。記憶手段には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各手段による演算結果等が書き込まれるようになっている。
【0035】
上流側NOX流量演算手段31は、燃料噴射量やその他の内燃機関1の運転条件に基づいて、選択還元触媒13よりも上流側における上流側NOX流量Nfuを演算により推定するように構成されている。また、下流側NOX濃度検出手段33は、下流側NOX濃度センサ17のセンサ信号に基づいて選択還元触媒13よりも下流側における下流側NOX濃度Ndを検出するように構成されている。さらに、下流側NOX流量演算手段35は、上流側NOX流量Nfuと、触媒温度やアンモニアの吸着量等の選択還元触媒13の状態とに基づいて、選択還元触媒13よりも下流側における下流側NOX流量Nfdを演算により推定するように構成されている。上流側NOX流量及び下流側NOX流量の演算方法は特に限定されるものではなく、NOX濃度センサのセンサ値を用いて演算することもできる。
【0036】
再生制御手段41は、パティキュレートフィルタ12の再生条件が成立しているか否かを判定し、パティキュレートフィルタ12に捕集されたパティキュレートを燃焼させてパティキュレートフィルタ12を再生させる制御の実行指示を生成するように構成されている。本実施の形態にかかる電子制御装置30の再生制御手段41は、差圧センサ15によって検出される差圧ΔPdpfが所定の閾値を超えていることや、その他の内燃機関1の運転状態などを再生条件として判定するようになっている。ただし、パティキュレートフィルタ12の再生条件はこの例に限定されない。
【0037】
また、再生制御手段41は、パティキュレートフィルタ12が再生時期にあると判定した後、所定の再生準備が完了してから、再生制御を開始させるようになっている。この再生準備は、再生制御によって排気温度が上昇することに伴い、選択還元触媒13の最大吸着量が低下してアンモニアが選択還元触媒13の下流側に流出することを防ぐために実行されるものとなっている。具体的には、パティキュレートフィルタ12の再生条件が成立すると、還元剤噴射制御手段37は、再生準備として、少なくとも選択還元触媒13に吸着しているアンモニアがすべて消費されるまで液体還元剤の噴射を停止するようになっている。そして、再生制御手段41は、アンモニアの吸着量がゼロになった後、再生制御を実行させる。
【0038】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30の再生制御手段41は、再生制御として、内燃機関1から排出される排気中にHC(未燃燃料)が含まれるように燃料噴射弁5による燃料噴射制御を実行させるようになっている。その結果、HCが酸化触媒11中で酸化される際の酸化熱によって排気温度が上昇し、高温の排気熱によってパティキュレートフィルタ12に捕集されたパティキュレートが燃焼される。
【0039】
還元剤噴射制御手段37は、還元剤供給装置20の動作を制御して、排気管3内への還元剤噴射制御を実行するように構成されている。本実施の形態にかかる電子制御装置30において、還元剤噴射制御手段37は、還元剤噴射弁23に供給する液体還元剤の圧力が所定の目標圧で維持されるように、図示しない圧力センサのセンサ値に基づいてポンプ21の出力をフィードバック制御する。また、還元剤噴射制御手段37は、上流側NOX流量演算手段31で算出される上流側NOX流量Nfuや、下流側NOX濃度検出手段33で検出される下流側NOX濃度Nd、排気温度等から推定される選択還元触媒13の触媒温度等に基づいて還元剤噴射量を演算し、この還元剤噴射量に応じて還元剤噴射弁23の制御を行う。
【0040】
例えば、還元剤噴射制御手段37は、上流側NOX流量Nfuに対応するアンモニア量を求める。一方、還元剤噴射制御手段37は、排気温度に対応する最大吸着量に対して目標吸着率を乗じて、選択還元触媒13におけるアンモニアの目標吸着量を算出するとともに、これまでの積算結果として記憶されている現在の推定吸着量Vbを減算して、目標吸着量に対して過不足のアンモニア量を求める。そして、上流側NOX流量Nfuに対応するアンモニア量と、目標吸着量に対して過不足のアンモニア量とを足し合わせることによって必要アンモニア量を算出し、これに対応する還元剤噴射量を算出する。さらに、還元剤噴射制御手段37は、下流側NOX濃度Ndが所定の閾値未満となるように、必要に応じて還元剤噴射量の補正を行う。
【0041】
選択還元触媒13におけるアンモニアの目標吸着率は、NOX浄化率を高く維持する観点と、選択還元触媒13よりも下流側へのアンモニアの流出を防ぐ観点とを考慮して、適切な値に設定される値である。具体的に、選択還元触媒13は、図2(a)及び(b)に示す特性を有していることから、選択還元触媒13の下流側へのアンモニアの流出を抑えつつ、NOX浄化率を高く維持できるように、そのときの触媒温度における最大吸着量に対するアンモニアの目標吸着率が設定されている。
【0042】
すなわち、還元剤噴射制御手段37では、噴射された液体還元剤から生成されるアンモニア量から、内燃機関1から排出されるNOXの浄化に用いるアンモニア量と、触媒温度の急激な低下に伴うアンモニアの流出分とを減算した値を積算することで、それぞれの時点での選択還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量Vbが演算されるようになっている。液体還元剤の噴射が停止された状態においては、上流側NOX流量Nfuに応じて推定吸着量Vbが徐々に減少することになる。
【0043】
また、上述のとおり、本実施の形態にかかる電子制御装置30の還元剤噴射制御手段37は、再生制御手段41によってパティキュレートフィルタ12の再生条件が成立していると判定された後、再生制御が開始される前に、再生準備として、液体還元剤の噴射を中断し、選択還元触媒13におけるアンモニアの吸着量を一旦ゼロにする。また、再生制御が開始された後においても、排気温度が所定の閾値を下回るまで、液体還元剤の噴射制御が中断される。本実施の形態にかかる電子制御装置30では、この再生準備段階を利用して、選択還元触媒13の劣化診断制御を実行するようになっている。
【0044】
還元剤消費量演算手段39は、パティキュレートフィルタ12の再生準備段階に入り、液体還元剤の噴射が停止された後、上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなるまでの期間において、選択還元触媒13で消費されたアンモニア量を演算するように構成されている。本実施の形態にかかる電子制御装置30において、還元剤消費量演算手段39は、液体還元剤の噴射が停止されたときの推定吸着量Vbの値から、上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなったときの推定吸着量Vbの値を減算することによって、アンモニアの消費量を算出するように構成されている。
【0045】
ここで算出されるアンモニアの消費量が、すなわち、液体還元剤の噴射を停止したときに選択還元触媒13に実際に吸着されていたアンモニアの吸着量に相当する。還元剤噴射量は選択還元触媒13の劣化状態が完全に反映されていない状態で算出されることから、選択還元触媒13が劣化状態にあるとすると、選択還元触媒13には最大吸着量に近いアンモニアが吸着していることになる。したがって、還元剤消費量演算手段39で算出される実際のアンモニアの消費量は、液体還元剤の噴射を停止したときの選択還元触媒13の最大吸着量に近似する値を示すことになる。
【0046】
判定手段43は、パティキュレートフィルタ12が再生時期にあると判定された後、液体還元剤の噴射が中断されて、選択還元触媒13中のアンモニアの吸着量がゼロになるまでの期間において、選択還元触媒13の劣化診断を実行するように構成されている。
【0047】
図4(a)〜(b)は、本実施の形態にかかる電子制御装置30によって実行される選択還元触媒13の劣化診断を概略的に説明するために示す図である。
図4(a)は、選択還元触媒13におけるアンモニアの最大吸着量の、劣化度合いによる差を示している。実線が、正常状態の選択還元触媒13の最大吸着量曲線を示しており、破線が、劣化状態の選択還元触媒13の最大吸着量を示している。また、図4(b)は、上流側NOX流量Nfuが一定であると仮定したときの、下流側NOX流量Nfdの変化、及び、選択還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量Va,Vbの、劣化度合いによる差を示している。
【0048】
図4(a)に示すように、選択還元触媒13の最大吸着量は、触媒温度が同じであっても、劣化が進行するにつれて減少する。触媒温度がTcat0のときに再生準備が開始されるとすると、この時点での最大吸着量は選択還元触媒13の劣化状態に応じて差が生じている(V1,V2)。このとき、選択還元触媒13が正常状態であれば、アンモニアの吸着率が目標吸着率となるように還元剤の噴射制御が行われるために、アンモニアの推定吸着量はV1´となる。一方、選択還元触媒13が劣化している場合には、アンモニアが選択還元触媒13の下流側に流出しやすい状態、すなわち、選択還元触媒13においてはアンモニアが飽和状態となっているために、アンモニアの吸着量はV2と推定される。
【0049】
そして、図4(b)に示すように、再生準備が開始されるt0の時点以降、液体還元剤の噴射が停止されると、選択還元触媒13に吸着されていたアンモニアが徐々に消費されて吸着率が徐々に低下することから、下流側NOX流量Nfdが徐々に上昇して、上流側NOX流量Nfuに近似していく。そして、下流側NOX流量Nfdと上流側NOX流量Nfuとが等しくなるt1の時点において、実際のアンモニアの吸着量Vaはゼロになる。
【0050】
このとき、選択還元触媒13が正常状態であるとした場合の推定吸着量Vbは、液体還元剤の噴射を停止した時点の推定吸着量V1´から差分ΔVだけ減少した値となっている。この差分ΔVが、実際の選択還元触媒13における液体還元剤の噴射を停止したときの吸着量V2、すなわち、液体還元剤の噴射を停止してから上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなるまでのアンモニアの消費量に相当する。
【0051】
このアンモニアの消費量に相当する差分ΔVは、選択還元触媒13の劣化度合いが大きいほど小さな値を示す。これは、選択還元触媒13の劣化度合いが大きいほど、液体還元剤の噴射を停止したときの推定吸着量は小さいために、液体還元剤の噴射を停止してから上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなるまでの時間tAが短くなることによる。したがって、本実施の形態にかかる電子制御装置30においては、このアンモニアの消費量に相当する差分ΔVに基づいて、選択還元触媒13の劣化状態を判定するものとなっている。
【0052】
例えば、選択還元触媒13が正常状態であるとした場合の、液体還元剤の噴射を停止したt0での推定吸着量V1´に対する差分ΔVの比率R(ΔV/V1´)によって、選択還元触媒13の劣化度合いを診断することができる。この場合、実際の比率R(ΔV/V1´)が小さいほど劣化が進行していることを意味する。このとき、比率R(ΔV/V1´)が所定の閾値R0未満のときに選択還元触媒13が劣化していると判定することができる。あるいは、比率R(ΔV/V1´)を複数段階に分けて、劣化状態を段階的に判定することもできる。
【0053】
(2)フローチャート
以下、本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置としての電子制御装置30によって実行される選択還元触媒13の劣化診断方法の一例を、図5及び図6のフローチャート図に沿って具体的に説明する。以下に説明する劣化診断方法のルーチンは、内燃機関1の運転中において、常時、又は所定の回数ごとに割り込むことによって実行されるようになっている。
【0054】
まず、ステップS1において、電子制御装置30は、液体還元剤の噴射制御を通常の手順に従って実行する。すなわち、電子制御装置30は、内燃機関1から排出されるNOX流量である上流側NOX流量Nfuと、選択還元触媒13における現在のアンモニアの吸着率及び目標吸着率の差とに基づいて算出される還元剤の目標噴射量にしたがって還元剤噴射弁23の通電制御を実行し、選択還元触媒13よりも上流側の排気管3に還元剤を噴射する。
【0055】
次いで、ステップS2において、電子制御装置30は、パティキュレートフィルタ12の再生条件が成立しているか否かを判別する。再生条件が成立していない場合(Noの場合)には、そのまま本ルーチンを終了してスタートに戻る一方、再生条件が成立している場合(Yesの場合)には、ステップS3に進み、液体還元剤の噴射を停止する。
【0056】
次いで、ステップS4において、電子制御装置30は、液体還元剤の噴射を停止した時点で算出されていた選択還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量V1´を記憶した後、ステップS5において、内燃機関1の運転状態等に基づいて、上流側NOX流量Nfuを演算により求める。
【0057】
次いで、ステップS6において、電子制御装置30は、上流側NOX流量Nfu、及び、触媒温度やアンモニア吸着量等の選択還元触媒13の状態を示す情報に基づいて、下流側NOX流量Nfdを演算により求める。その後、ステップS7において、電子制御装置30は、下流側NOX流量Nfdが上流側NOX流量Nfuに到達したか否かを判別する。
【0058】
下流側NOX流量Nfdが上流側NOX流量Nfuに到達していない場合(Noの場合)には、ステップS5に戻り、電子制御装置30は、下流側NOX流量Nfdが上流側NOX流量Nfuに到達するまでステップS5〜ステップS7を繰り返し行う。そして、ステップS7において、下流側NOX流量Nfdが上流側NOX流量Nfuに到達した場合(Yesの場合)には、ステップS8に進み、電子制御装置30は、その時点で算出されていた選択還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量V3を記憶する。
【0059】
次いで、電子制御装置30は、ステップS9において、差分ΔV(=V1´−V3)を求めた後、ステップS10において、差分ΔVに基づいて選択還元触媒13の劣化判定を実行する。
【0060】
図6は、劣化判定の一例を具体的に示すフローチャート図である。この例では、まず、ステップS21において、電子制御装置30は、還元剤の噴射を停止したときの推定吸着量V1´に対する、下流側NOX流量Nfdが上流側NOX流量Nfuに到達したときの推定吸着量V3の比率Rを算出する。
【0061】
次いで、ステップS22において、電子制御装置30は、算出された比率Rが所定の閾値R0未満となっているか否かを判別する。比率Rが閾値R0以上の場合(Noの場合)には、選択還元触媒13に劣化異常は見られないことから、ステップS31に進んで、電子制御装置30は、劣化異常なしと判定して劣化判定を終了し、スタートに戻る。
【0062】
一方、比率Rが閾値R0未満となっている場合には、ステップS23に進み、電子制御装置30は、カウンタ値が所定の閾値Ct0に到達しているか否かを判別する。このカウンタ値は、液体還元剤の噴射量を増量補正した回数を示している。カウンタ値が閾値Ct0未満の場合(Noの場合)には、ステップS29に進み、電子制御装置30は、還元剤噴射量を増量補正するように液体還元剤の目標噴射量の演算式の係数を変更するとともに、ステップS30において、カウンタ値をプラス1とする。還元剤噴射量を増量補正するのは、比率Rが閾値R0未満となっている原因が、還元剤供給装置20の故障による還元剤不足である場合を排除するためである。
【0063】
電子制御装置30は、還元剤噴射量の増量補正を指示した後、スタートに戻って、パティキュレートフィルタ12の再生制御が終了して、液体還元剤の噴射制御が再開されるまで待機する。そして、液体還元剤の噴射制御が再開されるときには、再び、ステップS1以降の各ステップを、同様の手順に沿って実行する。
【0064】
一方、上述のステップS23において、カウンタ値が閾値Ct0に到達している場合(Yesの場合)には、ステップS24に進み、電子制御装置30は、比率RがR1≦R<R0となっているか否かを判別する。カウンタ値が閾値Ct0以上であるということは、還元剤噴射量を増量補正しても比率Rが閾値R0未満であったことを意味しており、選択還元触媒13の劣化が進行していると判定することができる。これ以降のステップS24〜ステップS28は、選択還元触媒13の劣化度合いを判定するために設けられている。
【0065】
ステップS24において、比率RがR1≦R<R0となっている場合(Yesの場合)には、ステップS25に進み、電子制御装置30は、選択還元触媒13は劣化状態ではあるが、小程度の劣化であると判定して劣化判定を終了し、スタートに戻る。一方、ステップS24において、比率RがR1≦R<R0となっていない場合には、ステップS26に進み、電子制御装置30は、比率RがR2≦R<R1となっているか否かを判別する。比率RがR2≦R<R1となっている場合(Yesの場合)には、ステップS27に進み、電子制御装置30は、選択還元触媒13は劣化状態であり、中程度の劣化であると判定して劣化判定を終了し、スタートに戻る。
【0066】
一方、ステップS26において、比率RがR2≦R<R1となっていない場合には、すなわち、比率RがR2未満である状態であることから、ステップS28に進み、電子制御装置30は、選択還元触媒13は著しく劣化していると判定して劣化判定を終了し、スタートに戻る。
【0067】
図5に戻り、ステップS10において劣化判定が実行された後、電子制御装置30は、選択還元触媒13の劣化状態を運転者等に知らせるために、警報手段や画像表示手段、警告ランプ等を作動する。これにより、運転者等は、選択還元触媒13を交換する必要があることを認識することができる。
【0068】
3.本実施の形態による効果
以上説明した本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置としての電子制御装置30は、液体還元剤の噴射を停止してから、上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなるまでの期間におけるアンモニアの消費量ΔVに基づいて選択還元触媒13の劣化状態を判定することとしている。したがって、選択還元触媒13における最大吸着量の減少度合を把握することができるようになって、選択還元触媒13の劣化状態を精度良く診断することを可能にすることができる。その結果、選択還元触媒13のみを修理、交換することで対応することができるようになり、メンテナンスに要する費用や手間を省略することができる。
【0069】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、液体還元剤の噴射を停止した時点での選択還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量V1´と、上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなった時点でのアンモニアの推定吸着量V3と、に基づいてアンモニアの消費量を求めることとしている。そのため、上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなるまでのアンモニアの消費量ΔVを正確に推定することができ、選択還元触媒13の劣化状態を精度良く診断することができるようになる。
【0070】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、液体還元剤の噴射を停止したときの選択還元触媒13におけるアンモニアの推定吸着量V1´に対するアンモニアの消費量ΔVの割合Rに基づいて、選択還元触媒13の劣化度合いを判定することとしている。そのため、選択還元触媒13の劣化の有無をより正確に判定することができるだけでなく、劣化度合いを正確に把握することができる。
【0071】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、パティキュレートフィルタ12の再生制御の開始前の再生準備段階において液体還元剤の噴射を停止したときを利用して選択還元触媒13の劣化診断を行うこととしている。そのため、選択還元触媒13の劣化診断を実行するために特別な介入操作を不要とすることができる。また、このような時期を利用して選択還元触媒13の劣化診断を実行することとすれば、パティキュレートフィルタ12の再生制御のたびに診断の機会が得られるため、特別な介入操作をすることなく診断頻度を高く維持することができる。
【0072】
また、本実施の形態にかかる電子制御装置30によれば、アンモニアの消費量ΔVが液体還元剤の噴射を停止したときのアンモニアの推定吸着量V1´よりも小さい場合に、液体還元剤の噴射量を増量補正させて判定を繰り返し行い、アンモニアの消費量ΔVと推定吸着量V1´とのずれが解消されない場合に選択還元触媒13の劣化異常と判定することとしている。そのため、還元剤供給装置20の異常や噴射量のずれを原因として比率Rが閾値R0未満となっているにもかかわらず、選択還元触媒13の劣化異常と判定するおそれを低減することができる。
【0073】
4.変形例
以上説明した本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置は、例えば、以下のように変更することができる。
【0074】
(1)本実施の形態において説明した排気浄化装置10を構成する各構成要素や、電子制御装置30の設定値、設定条件はあくまでも一例であって、任意に変更することが可能である。
【0075】
(2)本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置としての電子制御装置30は、差圧センサ15によって検出されるパティキュレートフィルタ12の上流側と下流側との間の差圧ΔPdpfが所定の閾値を超えることを、パティキュレートフィルタ12の再生条件に含めているが、これに代わり、内燃機関1から排出されるパティキュレートの流量を推定し、積算値が所定の閾値を超えることを条件としてもよい。あるいは、この条件を、車両の走行距離や、走行時間等に置き換えることもできる。
【0076】
(3)本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置としての電子制御装置30は、液体還元剤の噴射を停止してから、上流側NOX流量Nfuと下流側NOX流量Nfdとが等しくなるまでの期間におけるアンモニアの消費量ΔVを求めているが、上流側NOX量及び下流側NOX量は、流量ではなく濃度としてもよい。
【0077】
(4)本実施の形態にかかる選択還元触媒の劣化診断装置としての電子制御装置30によって実行される劣化診断方法のフローチャートにおいて、さらに、還元剤供給装置20による液体還元剤の噴射制御が適切に行われているか否かを判定するステップを設けることもできる。例えば、図6のステップS23においてカウンタ値が閾値Ct0以上である場合(Yesの場合)に、ステップS24に進む前に、還元剤供給装置20の状態を確認するステップを設けるとよい。
【0078】
図7は、還元剤供給装置20の状態を確認する方法の一例を示すフローチャート図である。かかるフローチャートは、選択還元触媒13の劣化診断のフローチャートと平行して実行されるものである。
【0079】
この例では、まず、ステップS41において、電子制御装置30は、還元剤タンク内に設けられたレベルセンサ(残量センサ)のセンサ値に基づいて、液体還元剤の残量の開始値を記憶する。次いで、ステップS42において、電子制御装置30は、液体還元剤の噴射量を演算により求めて噴射制御を実行する。
【0080】
次いで、電子制御装置30は、ステップS43において液体還元剤の総噴射量を積算した後、ステップS44において、総噴射量が判定を行うための閾値Qu0に到達したか否かを判別する。液体還元剤の残量の開始値を記憶してからの総噴射量が閾値Qu0に到達するまでは、ステップS42〜ステップS44を繰り返し実行する。
【0081】
液体還元剤の総噴射量が閾値Qu0に到達したときには、ステップS45に進み、電子制御装置30は、レベルセンサのセンサ値に基づいて、液体還元剤の残量の終了値を記憶する。次いで、電子制御装置30は、ステップS46において、レベルセンサの開始値及び終了値と、還元剤タンクの形状や断面積の情報等に基づいて、還元剤タンク内の液体還元剤の減少量を算出し、ステップS47において、閾値Qu0から減少量を引いた値が所定の誤差の範囲内であるか否かを判別する。
【0082】
閾値Qu0から減少量を引いた値が誤差の範囲内であれば、液体還元剤の噴射制御は適切に実行されていると推定されるため、電子制御装置30は、ステップS48に進んでエラー無しと判定して、終了する。一方、閾値Qu0から減少量を引いた値が誤差の範囲を超えている場合には、液体還元剤の噴射制御が適切に実行されていないと推定されるため、電子制御装置30は、ステップS49に進んで噴射量エラーと判定して、終了する。
【0083】
電子制御装置30は、このような例による還元剤供給装置20の状態の確認結果をステータスとして記憶しておき、図6のステップS23の後、ステップS24に進む前に、かかるステータスを確認する。その結果、ステータスがエラー無しとなっている場合には、ステップS24に進んで、選択還元触媒13の劣化度合いの判定を継続する。一方、ステータスが噴射量エラーを示している場合には、ステップS22において、比率Rが閾値R0未満となっている原因が、液体還元剤の噴射量不足によるものと推定されることから、選択還元触媒13の劣化判定を終了する。
【0084】
以上のように、還元剤供給装置20の状態を確認するステップを設けることによって、比率Rが閾値R0未満となっている原因が、液体還元剤の噴射量不足によるものであるにもかかわらず、選択還元触媒13が劣化していると判定されることを防ぐことができる。ただし、液体還元剤の噴射制御が適切に実行されているか否かを確認する方法は、上述の例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0085】
1:内燃機関、3:排気管、5:燃料噴射弁、10:排気浄化装置、11:酸化触媒、12:パティキュレートフィルタ、13:選択還元触媒、15:差圧センサ、17:下流側NOX濃度センサ、20:還元剤供給装置、21:ポンプ、23:還元剤噴射弁、30:電子制御装置(選択還元触媒の劣化診断装置)、31:上流側NOX流量演算手段、33:下流側NOX濃度検出手段、35:下流側NOX流量演算手段、37:還元剤噴射制御手段、39:還元剤消費量演算手段、41:再生制御手段、43:判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に備えられて還元剤を吸着するとともに排気中のNOXを前記還元剤を用いて選択的に還元する選択還元触媒と、前記選択還元触媒よりも上流側で前記排気通路内に前記還元剤を噴射する還元剤供給装置と、を備えた排気浄化装置における前記選択還元触媒の劣化状態を診断するための選択還元触媒の劣化診断装置において、
前記選択還元触媒よりも上流側のNOX量を求める上流側NOX量検出手段と、
前記選択還元触媒よりも下流側のNOX量を求める下流側NOX量検出手段と、
前記還元剤の噴射を停止してから前記上流側のNOX量と前記下流側のNOX量とが等しくなるまでの前記還元剤の消費量に基づいて前記選択還元触媒の劣化状態を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする選択還元触媒の劣化診断装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記還元剤の噴射を停止したときの前記選択還元触媒における還元剤の推定吸着量と、前記上流側のNOX量と前記下流側のNOX量とが等しくなったときの前記推定吸着量と、に基づいて前記還元剤の消費量を求めることを特徴とする請求項1に記載の選択還元触媒の劣化診断装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記還元剤の噴射を停止したときの前記選択還元触媒における還元剤の推定吸着量に対する前記還元剤の消費量の割合に基づいて、前記選択還元触媒の劣化度合いを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の選択還元触媒の劣化診断装置。
【請求項4】
前記排気浄化装置は、前記排気通路に備えられて排気中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを備えており、
前記判定手段は、前記パティキュレートフィルタの再生制御の開始前に前記還元剤の噴射を停止したときに前記判定を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の選択還元触媒の劣化診断装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記還元剤の消費量が前記還元剤の噴射を停止したときの前記選択還元触媒における還元剤の推定吸着量よりも小さい場合には前記還元剤の噴射量を増量補正させて前記判定を繰り返し行い、前記還元剤の消費量と前記推定吸着量とのずれが解消されない場合に前記選択還元触媒の劣化異常と判定することを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の選択還元触媒の劣化診断装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載された選択還元触媒の劣化診断装置を備えた排気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−255397(P2012−255397A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129344(P2011−129344)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】