説明

金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体

【課題】 金属ナノ粒子のプラズモン共鳴効果を効果的に利用するためには光と金属ナノ粒子を充分に結合させることが必要である。しかし、従来の方式では、金属ナノ粒子層に対し光が一度しか通過しないため、金属ナノ粒子に対する光の結合が充分ではないため、充分なLPR吸収によるシグナルが得られない。
【解決手段】 金属ナノ粒子−高分子複合体層を光導波路材料層の表面に積層させた、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体および前記積層体の製造方法、ならびに前記積層体を用いた測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
社会・経済活動の発展に伴い、情報通信・情報処理の分野における大容量の通信を可能とする光エレクトロニクスの重要性が、ますます高くなってきている。他方、情報の更なる大容量化、高速化の進行により、既存の光・電子技術のみを用いた情報通信・情報処理では限界が近くなって来ている。このような限界を打破する可能性があることから、金属ナノ粒子による表面プラズモン共鳴利用技術が注目を集めている。
【0003】
プラズモンとは、量子力学の言葉で、金属中の自由電子によるプラズマ波のことである。このプラズマ波のうち表面に局在するものを、金属の表面プラズモンと言う。この表面プラズモンは、プラズマ波と電磁波の混成状態であり、波数は、金属の種類、金属表面近傍の屈折率等によって定まる。通常、金属表面上の表面プラズモンは、空間中を伝播する光とは共鳴しないが、貴金属ナノ粒子表面上のプラズモンは可視光と共鳴局在プラズモン共鳴(LPR)を起こす。
【0004】
局在プラズモン共鳴(LPR)とは、金属ナノ粒子表面のプラズモンと、光とが共鳴することである。貴金属のナノ粒子であれば、可視光領域で共鳴を起こすため、透過光が着色する。金属粒子のサイズに依存したプラズモンの共鳴効果は公知であり、下記の非特許文献1に記載されている。たとえば、粒径20nmの金ナノ粒子であれば、520nmに吸収ピークが現れ、赤色に着色する。金属粒子によるLPR吸収は、金属粒子の種類と粒径、および金属表面近傍の誘電率によって決定される。すなわち、金属表面近傍の屈折率が変化すると誘電率が変化し、吸収波長、吸光度等が変化する。したがって、屈折率変化を伴うような現象の検出が可能である。
【0005】
このことを利用したLPRセンサーが、特許文献1に提案されている。金属微粒子を固定した基板に光を照射し、金属微粒子を透過した光の吸光度を測定することにより、金属微粒子近傍の媒質の変化を検出するものである。金属粒子としては、可視光においてLPR吸収を示す金粒子および銀粒子が主に用いられている。
【0006】
LPRにより、ナノ粒子周辺には強い電場が誘起される。この電場を利用した近接場光学が注目を集めている。また、プラズモンによる干渉効果を利用する技術としては、特許文献2に示す「光学素子およびそれを用いた光ヘッド」が開示されている。さらに、LPRにより誘起された電場の利用法として、特許文献4に示される「プラズモン共鳴構造体」、特許文献5に示される「導波路素子、空間変調素子および時間変調素子」、が開示されている。
【0007】
特許文献3に示される「光学素子およびそれを用いた光ヘッド」は、導電性フィルムの間に、中間層として、表面凹凸を改善する効果のある層を挿入することによって、プラズモン効果で効率よく増幅された高効率で高解像の光学素子と、これを利用した光ディスク上の波長以下のスケールでの読み出し及び書き込みを可能にする光読み出し/書き込みヘッドが得られるものである。その結果、光の回折限界により限定される線データ密度よりはるかに高い線データ密度の記録/読み出しが可能となる。
【0008】
特許文献4に示される「プラズモン共鳴構造体」においては、誘電体中に、ナノ微粒子あるいは金属ドメインを含む金属粒子層を複数形成し、プラズモン共鳴を、誘電体膜の厚み方向における金属粒子層の距離と、前記厚み方向に直交する方向における金属粒子の間隔によって、それぞれ制御する。このため、プラズモン共鳴制御が良好に行われ、その電場増強効果の向上を図ることができる。
【0009】
特許文献5に示される導波路素子は、平滑な基板上に、サイズの揃った金属ナノ粒子が等間隔で直線的に配列された導波路構造と、異なるサイズの金属ナノ粒子が等間隔で直線的に配列された導波路構造とを多段に有する。この導波路素子で構成される空間変調素子は、入射される光の周波数に対して、異なるサイズの金属ナノ粒子による導波路に選択的に結合し、プラズモンを伝搬する。前記導波路素子で構成される時間変調素子は、前記金属ナノ粒子のサイズに依存してプラズモンの伝搬速度が異なることを利用し、該プラズモンの各周波数成分に時間遅延を与える。
【0010】
このような金属ナノ粒子のLPRを利用するためには、効率的に金属ナノ粒子と光を結合する必要がある。本発明と同様に、ナノメートル領域にプラズモンのエネルギーを伝搬させる技術としては、特許文献1に示す「近接場光発生装置および発生方法」、非特許文献1に示すプラズモンの伝搬モード変換器、非特許文献2に示すプラズモン集光器がある。
【0011】
ここで、非特許文献2に示されるプラズモン伝搬モードの変換器は、Siを三角柱状のエッヂ構造に加工し、Au膜をコートすることにより、エッジの1つの斜面F1と上端に形成される1次元金属導波路を利用して、表面プラズモンの励起と1次元導波路への結合にともなう伝搬モードの変換を行うものである。
【0012】
また、非特許文献3に示されるプラズモン集光器は、基板上に微小な突起を円弧状に形成し、それを金属コートした構造を有している。この構造に全反射角より小さな角度で光を入射することにより金属表面上に表面プラズモンを励起し、金属微細構造からの回折・散乱によって、表面プラズモンのエネルギーを局所的に集中させ金属導波路に結合させている。
【0013】
特許文献2に示される「近接場光発生装置および発生方法」は、細線形状の金属と、金属の両側に配設された誘電体と、光源となるレーザー装置と、レーザー光を両側照射するためのビームスプリッタと反射鏡を有する。そして、この装置により金属細線の両側に表面プラズモンを励起することにより、この金属細線が十分に細い場合に伝搬するモードとなるプラズモンまたはFanoモードを発生させる。
【0014】
一方、光の制御方法として、光導波路の研究が注目されている。光導波路は、屈折率が大きい層(コア層)を屈折率が小さい層(クラッド層)ではさんだ構造をもち、コア層に光を閉じこめて伝播させる。例としては光ファイバーなどが挙げられる。スラブ光導波路(slab optical waveguide:以下SOWGと記載することもある)は、平板型の光導波路のことであり、コア層としてガラスまたは透明高分子、クラッド層として空気を用いた構造などが検討されている。従来のセンサー等として応用においては、伝播光としてレーザー光等の特定波長の光を用いて、透過光の強度変化から界面の情報を得ていた。特許文献6に示すように、紫外から可視の広い波長範囲の(白色)光を同時に伝播させるSOWG分光法が注目されている。SOWG分光法の特徴として、1.光の全反射に伴って界面に生じる電場(エバネッセント波)を用いるため、界面付近に存在する物質を選択的に測定する、2.光の多重反射を利用しているため高感度であるということが挙げられる。前記特徴により界面に極微量だけ吸着した物質の吸収スペクトルのその場測定に適しており、具体的にはガラス表面に対する色素の吸着種の決定、吸着等温線の測定と速度論的検討、電極表面での吸着種の電位に対する変化等が研究されている。

【特許文献1】特開2000−356587号公報(特許3452837)
【特許文献2】特開2004−20381号公報
【特許文献3】特開2003−287656号公報
【特許文献4】特開2006−208057号公報
【特許文献5】特開2006−293023号公報
【特許文献6】特開平8−75639公報(特許2807777)
【非特許文献1】福井・大津共著『光ナノテクノロジーの基礎』(オーム社)
【非特許文献2】T. Yatsui,M. Kourogi,and M. Ohtsu: Appl. Phys. Lett. 79 (2001) 4583
【非特許文献3】野村、八井、興梠、大津:第64回応用物理学会学術講演会予稿集、1p−Q−4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
金属ナノ粒子のプラズモン共鳴効果を効果的に利用するためには光と金属ナノ粒子を充分に結合させることが必要である。しかし、従来の技術では、金属ナノ粒子層に対し光が一度しか通過しないため、金属ナノ粒子に対する光の結合が充分ではないため、充分なLPR吸収によるシグナルが得られない。
特許文献2には、プラズモン共鳴効果を利用するための試料の作成方法として、スパッタ、ドライエッチングなどの手段が用いられている。特許文献3の試料の作成は、真空中でイオンビームを用いて成型加工を行っている。特許文献4で示されている方法としては、スパッタリングによる製膜が行われている。特許文献5に示されている導波路材料の作製としては、電子ビームを用いたエッチング、光リソグラフィーなどが例示されている。これらの手段においては、大掛かりな真空装置等が必要である。したがって、プラズモン共鳴効果を利用するための試料を簡易に作製できる事が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を実現するため、本発明者らは種々検討した結果、光導波路材料表面に金属ナノ粒子−高分子複合体が固定化されていることを特徴とする金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料からなる積層体の発明に至った。すなわち、本発明は、スラブ光導波路材料の表面に金属ナノ粒子−高分子複合体を積層した積層体を構築する事を特徴とする。
【0017】
本発明は、金属ナノ粒子−高分子複合体層を光導波路材料層の表面に積層させた、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体に関する。
【0018】
また、本発明は、光導波路材料層の表面上に金属ナノ粒子−高分子複合体の溶液組成物を塗布した後、少なくとも乾燥させることにより積層することを特徴とする前記の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体の製造方法に関する。
【0019】
さらに本発明は、少なくとも、前記の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体、光源、光源からの光を前記積層体に入射させるための手段、入射光及び/又は出射光を分析するための分光分析器、前記積層体からの光を分光分析器に導入するための手段から構成され、前記の積層体から出射した光を分光分析器で分析することにより金属ナノ粒子による吸光度を測定する方法に関する。
【0020】
さらに本発明は、少なくとも、前記の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体、光源、光源からの光を前記積層体に入射させるための手段、入射光及び/又は出射光を分析するための分光分析器、前記積層体からの光を分光分析器に導入するための手段から構成されることを特徴とする金ナノ粒子による吸光度を測定するための装置に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体は、簡便な手法で作成することができる。金属ナノ粒子−高分子複合体層をスラブ光導波路材料の表面に積層することで、SOWGの(1)光の全反射に伴って界面に生じる電場を用いるため、界面付近に存在する物質を選択的に測定する、(2)光の多重反射を利用しているため高感度である、と言った特徴を利用して、金属ナノ粒子のLPRによる吸収を高感度に測定することができる。
また、全反射によるエバネッセント光を介して入射光のエネルギーを金属ナノ粒子に高効率で伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の概要について、図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1に、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体、前記積層体に光を入射させるための光源、入射光及び/又は出射光の強度を検出するための光検出器並びに周辺電気回路から成る測定装置の一例を示す。また、図2に、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料からなる積層体の一例を示す。
【0023】
光源1から出射された光は、入射光側集光光学系2によって集光され、入射光側光ファイバー3をもって金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体4に入射される。
【0024】
前記の積層体4の一例を図2に示す。光導波路11の表面(底面)に金属ナノ粒子−高分子複合体12を積層させている。入射光15は、結合プリズム13により光導波路11内に導かれ、光導波路11と金属ナノ粒子−高分子複合体12の界面で全反射する。その際生じるエバネッセント光が金属ナノ粒子のプラズモン共鳴と結合する。結合プリズム14により出射光16が出射される。
【0025】
前記積層体4から出射した光は、出射光側光ファイバー6をもって接続された分光器7によって分光測定される。測定された試料の吸光スペクトルデータは、分光器7に接続したコンピュータ8によって、編集され、画像として表示を行われる。
【0026】
金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体4の別の一例を図3に示す。入射光は入射光側光ファイバー3を用いて直接光導波路11に入射される。出射した光も結合プリズムを介さず直接出射光側光ファイバー6で集光され、分光器7に接続される。
【0027】
本発明における、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体について説明する。まず、金属ナノ粒子−高分子複合体について説明する。
本発明における金属ナノ粒子−高分子複合体とは、透明高分子中に粒径1〜1000nmの金属ナノ粒子が略均一に分散しているものの事を意味する。
【0028】
金属ナノ粒子−高分子複合体は、金属ナノ粒子、金属粒子を安定化させる作用のある高分子、および相互作用を行う高分子から構成されることが好ましい。
【0029】
前記の金属ナノ粒子において、金属としては、可視光領域でLPRを起こす金属が好ましい。具体的には、金、銀、銅および金と銀との合金等の貴金属が挙げられるが、ナノ粒子としての作りやすさ、および、安定性の点から特に金が好ましい。
【0030】
前記の金属ナノ粒子の粒径は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nmい上がさらに好ましい。また1000nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。1nmより小さい粒径では、プラズモン共鳴が生じないため不適当である。1000nmより大きい粒径では、金属ナノ粒子−高分子中に均一に分散させることが困難であり、また、プラズモン共鳴が生じないため不適当である。好ましくは5〜20nmの粒径とする。
【0031】
前記の金属粒子を安定化させる作用のある高分子は、含窒素高分子であることが好ましい。具体例としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジン、ポリアニリン等が挙げられる。その中でもポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0032】
高分子により安定化された金属微粒子の作製方法としては、クエン酸、タンニン酸などの低分子で保護された金属コロイドの保護基を変換する方法がある。さらに、窒素を含有する高分子存在下で金属含有イオンを水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元して金属粒子を作製する方法や窒素を含有する高分子存在下で金属含有イオンを高分子の還元力により還元する方法等もある。その中でも、窒素を含有する高分子を、安定かさせる作用のある高分子と還元剤との双方の機能を用いて、窒素を含有する高分子および金属含有イオンを含む溶液を加熱することにより、高分子により安定化された金属微粒子を作製することが好ましい。
【0033】
前記の相互作用を行う高分子は、相互作用を行う部位と、疎水的性質を示す部位を含む構成である透明の高分子であることが好ましい。相互作用を示す部位の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が挙げられる。疎水的性質を示す部位の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。好ましくは、相互作用を示す部位と疎水的性質を示す部位との共重合体として構成される。例えば、ポリアクリル酸−ポリメタクリル酸メチル共重合体、ポリメタクリル酸−ポリメタクリル酸メチル共重合体などが好適に使用できる。
【0034】
本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体を含む溶液組成物の溶媒は、非プロトン性極性有機溶媒が好ましい。特に、ドナー数25以上となる有機溶媒が好ましい。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド(26.6)、N,N−ジメチルアセトアミド(27.8)、ジメチルスルホオキシド(29.8)、ピリジン(33.1)、N−メチル−2−ピロリドン(27.3)、エチレンジアミン(55)、ピペリジン(51)等が挙げられる。
【0035】
ドナー数とは、溶媒分子がルイス塩基として作用する際の電子対供与性を表す尺度の一つである。1,2−ジクロロエタン中で10−3mol/lのSbClと、溶媒分子とが反応する際のエンタルピーをkcal/mol単位で表したときの絶対値である。
【0036】
金属ナノ粒子−高分子複合体は、公知の手段、例えば、特開2006−8969号公報に開示されている手法により調製される。具体的には、まず、溶媒に金属塩と金属粒子を安定化させる作用のある高分子を溶解させ、金属塩を還元することにより高分子で安定化された金属ナノ粒子を含む溶液組成物を調製する。次にその金属ナノ粒子を含む溶液組成物と、相互作用を行う高分子の溶液とを混合することにより、相互作用を行う高分子中に金属ナノ粒子が取り込まれた構造の金属ナノ粒子−高分子複合体の溶液組成物を形成する。
【0037】
本発明において、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体は、金属ナノ粒子−高分子複合体からなる層が光導波路材料表面に積層されている事が必要である。金属ナノ粒子−高分子複合体からなる層を光導波路材料に積層する手段は特に限定されないが、金属ナノ粒子−高分子複合体を含む溶液組成物を、光導波路材料表面に塗布した後、少なくとも乾燥させることにより、光導波路材料表面に金属ナノ粒子−高分子複合体を積層する事が好ましい。
【0038】
金属ナノ粒子−高分子複合体の溶液組成物を光導波路材料表面に塗布する方法としては、キャスト法、ディップ法、およびスピンコート法などが挙げられる。その中でもスピンコート法が特に好ましい。
【0039】
金属ナノ粒子−高分子複合体層の積層は、塗布−乾燥のプロセスを複数回繰り返し、複数層積層することにより、容易に金属ナノ粒子−高分子層の厚みを制御することができる。好ましくは2回以上、より好ましくは4回以上積層することが好ましい。複数回積層することで、金属ナノ粒子−高分子複合体層の厚みが厚くなり、エバネッセント光と結合する金属ナノ粒子の数を増加させることができるため好ましい。経済的な観点からは、積層回数は100回以下が好ましく、50回以下が拠り好ましい。
【0040】
金属ナノ粒子−高分子複合体層の厚さとしては0.01μm〜100μmであることが好ましく、特に好ましくは0.05μm〜10μmである。
0.01μmより薄くなると、金属ナノ粒子−高分子複合体層中での金属粒子が均一に分散できなくなるという問題を生ずる。一方、100μmより厚くなるとエバネッセント光が表面まで到達せず、有効に使用できない金属ナノ粒子が存在するという問題が生ずる。
【0041】
本発明で使用する光導波路材料は、入射光に対して透明であれば、特に限定されない。例えば、有機あるいは無機ガラスを用いることができる。スラブ光導波路の厚さとしては特に制限は無いが、0.1μm〜10mmであることが好ましい。光導波路層の厚さが0.1μmより薄いと、導波路として機能しないため、好ましくない。光導波路層の厚さが10mmより厚いと光導波路内での多重反射が少なく、十分なエバネッセント波が生じないので好ましくない。
【0042】
本発明において、光導波路層の結合器としては、光をスラブ型光導波路に結合し得る結合器であれば如何なる種類のものも使用し得る。例えば、プリズム結合器又は格子結合器やファイバー型結合器を使用することができる。また、結合器を使用しなくても光をスラブ型光導波路に結合し得るのであれば、結合器がない構成でも構わない。
【0043】
本発明において、前記金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体に加えて、少なくとも、光源、光源からの光を前記積層体に入射させるための手段、入射光及び/又は出射光を分析するための分光分析器、前記積層体からの光を分光分析器に導入するための手段から構成される測定装置を構築する。
【0044】
前記の光源としては、エバネッセント波を発生させ、かつ検出器で検出できる強度があれば、特に限定されない。例えば半導体レーザー、Nd:YAGレーザーのような固体レーザー、He−Neレーザーのような気体レーザー、色素レーザー、発光ダイオード、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀ランプ等を使用することができる。光源からの光を平行光とするため、もしくは光を集束するために、必要に応じてレンズ等の集光光学系を使うことができる。
【0045】
前記の分光分析器としては、前記光源からの光、およびプラズモン共鳴による吸収を分光分析出来る物であれば特に制限されるものではない。前記の測定を短時間で行うため、回折格子およびフォトダイオードアレイを用いた分光分析器が、特に好適に使用される。
必要に応じて、分光分析器を制御および/又は測定結果を記録・可視化等するために付帯電気回路が設置される。
【0046】
前記の光源からの光を積層体に入射させるための手段、および積層体からの光を分光分析器に導入するための手段は、光ファイバーであることが好ましい。光ファイバーを用いることのより、光導波路材料に特定の角度で光を入射させることが容易であり、また、装置全体が簡便となるため、好ましい。
【0047】
また、本発明は、光導波路材料表面に固定化した金属ナノ粒子−高分子複合体中の金属ナノ粒子表面近傍、例えば、金属ナノ粒子の直径程度の距離までにある媒質の屈折率を検出する事を可能にしている。したがって、金属ナノ粒子−高分子複合体を液体に接触させた場合には、当該液体の屈折率を測定することが可能である。
【0048】
金や銀などの金属ナノ粒子に光を入射すると、局在プラズモン共鳴により、ある波長において散乱光や吸収が増大する。この散乱および吸収を行う共鳴波長は周りの媒質の屈折率に依存する。金属ナノ粒子周辺の媒質の屈折率が大きくなるに従って、共鳴ピークの吸光度は大きくなり、長波長側へシフトするようになる。したがって、金属ナノ粒子の吸光度変化をトランスジューサとして媒体の屈折率変化を検出することが可能である。
【0049】
上記の光導波路から出射された光を、分光分析器により分光することによって金属ナノ粒子による吸光度を測定する。金属ナノ粒子―高分子複合体の近傍が高い屈折率を持つ物質である場合、空気の場合と比べ、金属ナノ粒子によるLPR吸収の波長が長波長にシフトし、吸光度も変化する。したがって、金属ナノ粒子の吸光度を測定することにより金属ナノ粒子―高分子複合体の近傍の屈折率を測定することができる。また、特定の波長の吸光度をモニタすることで、金属ナノ粒子―高分子複合体の近傍の屈折率変化を検出することができる。
また、光導波路へ金属ナノ粒子のLPRに相当する波長の光を入射することにより、金属ナノ粒子を励起させ、電場増強を起こすことが可能である。
【実施例】
【0050】
特開2006−8969号に示されている手法により、すなわち、塩化金(III)酸 1gおよびポリエチレンイミン 1gを水1Lに溶解させた溶液を、60℃で2時間還流することにより暗赤色の溶液組成物を作製した。前記溶液組成物100gをポリメタクリル酸メチル−ポリメタクリル酸共重合体の1重量%ジメチルホルムアミド溶液100gとを混合し、さらj9ロータリーエバポレーターを用いて濃縮することにより、金ナノ粒子−高分子複合体のジメチルホルムアミド溶液組成物(固形分濃度:10重量%、固形分中金濃度:2.5重量%、安定化高分子:ポリエチレンイミン、相互作用高分子:ポリメタクリル酸メチル−ポリメタクリル酸共重合体)を、得た。前記の溶液組成物を、厚さ1mmのガラス基板に1回スピンコート(回転数:2500rpm)を行い、乾燥することによって図3に示す金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を作製した。
【0051】
金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体に、図1に示す系で光を照射した時の可視吸収スペクトルを図5に示す。図に表すように、530nmに金ナノ粒子のプラズモン共鳴による吸収が観測された。金ナノ粒子による吸光度は、0.67であった。
【0052】
ガラス基板上に金ナノ粒子−高分子複合体溶液を、1〜4回スピンコートおよび乾燥を行い、金ナノ粒子−高分子複合体層を複数回積層した金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を作製した。前記複数回積層した積層体に、図1に示す系で光を照射した時の可視吸収スペクトルを図7に示す。積層回数にほぼ比例して吸光度が増加し、4回積層したサンプルの金ナノ粒子による吸光度は1.7となった。
【0053】
金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を、空気中に置いたときと水中に置いたときの可視吸光スペクトルを図9に示す。水と接触させたときには吸収のピーク波長が短波長側にずれ、接触面における金ナノ粒子近傍の屈折率の変化を反映した。
【0054】
光導波路材料上に金ナノ粒子−高分子複合体を5mm四方に形成した金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液に一分間浸したのち、精製水を滴下すると20mm四方に膨潤した。その後、115℃で10分間、熱処理を行い光導波路材料上に乾燥固定させた試料の可視吸光スペクトルを、図10に示す。膨潤−乾燥処理を行うことで、金ナノ粒子による吸収がシャープに変化した。
(比較例)
【0055】
金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体に対して、図4に示すように金ナノ粒子−高分子複合体層に垂直に光を照射した際の可視吸光スペクトルを図6に示す。金ナノ粒子による吸光度は0.019であり、本発明の光導波路による吸光度の約1/35となった。
【0056】
複数回積層した金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を、図4に示す様に金ナノ粒子−高分子複合体層に垂直に光を照射した際の可視吸収スペクトルを図8に示す。積層回数にほぼ比例して吸光度が増加しているが。4回積層したサンプルにおいても、金ナノ粒子の吸光度は0.065であり、本発明の光導波路による吸光度の約1/26となった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体は、簡便な手法で作成することができる。金属ナノ粒子−高分子複合体層をスラブ光導波路材料の表面に積層することで、SOWGの(1)光の全反射に伴って界面に生じる電場を用いるため、界面付近に存在する物質を選択的に測定する、(2)光の多重反射を利用しているため高感度である、と言った特徴を利用して、金属ナノ粒子のLPRによる吸収を高感度に測定することができる。
また、全反射によるエバネッセント光を介して入射光のエネルギーを金属ナノ粒子に高効率で伝達するデバイスを、簡便に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を用いたスラブ型光導波路を用いた光吸収スペクトル測定装置による実施例の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を用いたスラブ型光導波路の一例を示す断面図である
【図3】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を用いたスラブ型光導波路の一例を示す断面図である
【図4】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を用いた金属ナノ粒子−高分子複合体層に垂直に光を照射した透過光測定の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を用いたスラブ光導波路の光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を使用した透過光測定において光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図7】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体を複数回積層した金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体において、スラブ光導波路の光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。グラフ上の数字は積層回数を示す。
【図8】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体を複数回積層した金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体において、透過光測定において光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。グラフ上の数字は積層回数を示す。
【図9】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を用いたスラブ光導波路において、大気中と水中の光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体を用いたスラブ光導波路において、膨潤−乾燥処理を行った際の光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1 光源
2 入射光側集光光学系
3 入射光側光ファイバー
4 金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる複合体
6 出射光側光ファイバー
7 分光器
8 コンピュータ
11 光導波路材料層
12 金属ナノ粒子−高分子複合体層
13 入射光側プリズム
14 出射光側プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子−高分子複合体層を光導波路材料層の表面に積層させた、金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体。
【請求項2】
光導波路材料層の表面上に金属ナノ粒子−高分子複合体の溶液組成物を塗布した後、少なくとも乾燥させることにより積層することを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体の製造方法。
【請求項3】
少なくとも、請求項1に記載の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体、光源、光源からの光を前記積層体に入射させるための手段、入射光及び/又は出射光を分析するための分光分析器、前記積層体からの光を分光分析器に導入するための手段から構成され、積層体から出射した光を分析することにより金ナノ粒子による吸光度を測定する方法。
【請求項4】
少なくとも、請求項1に記載の金属ナノ粒子−高分子複合体と光導波路材料とからなる積層体、光源、光源からの光を前記積層体に入射させるための手段、入射光及び/又は出射光を分析するための分光分析器、前記積層体からの光を分光分析器に導入するための手段から構成されることを特徴とする金ナノ粒子による吸光度を測定するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−181114(P2008−181114A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331666(P2007−331666)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】