説明

鉄道車両用ブレーキライニング

【課題】摩擦部材のその場での回転を防止する。
【解決手段】ブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパにより押付けられる鉄道車両用ブレーキライニングである。ブレーキディスクの摺動面に押付ける摩擦部材11と、この摩擦部材11を支持すべく、ブレーキキャリパに取付けられる裏板12を備える。摩擦部材11を、ブレーキディスクの半径方向及び周方向に2個以上に分割配置する。それぞれの摩擦部材11は、ブレーキディスクの摺動面と接触する摺動材11aと、摺動材11aの裏板12側に固定された裏金11bで構成する。裏金11bは裏板12側に突起11baを形成する一方、裏板12の摩擦部材11側には、裏金11bに形成した突起11baと接触する溝12bを形成する。それぞれの摩擦部材11の裏金11bと裏板12の間に皿ばね14又は球面座15を介在させる。
【効果】新たな部品を追加しなくても、摩擦部材がその場で回転することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として鉄道車両用ディスクブレーキにおいて、ブレーキディスクとブレーキライニングの摩擦による熱エネルギーを効果的に分散しつつ、耐久性を向上させることが可能な鉄道車両用ブレーキライニングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車及び自動二輪車等の陸上輸送機械では、車両の高速化や大型化に伴い、その制動装置としてディスクブレーキが多用されるようになってきている。
以下、鉄道車両用のディスクブレーキを例にとって説明する。
【0003】
ディスクブレーキは、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摩擦により制動力を得る装置で、車軸又は車輪に取付けたブレーキディスクの摺動面にブレーキライニングを押付けることで制動力を得、車軸又は車輪の回転を制動して車両の速度を制御する。
【0004】
その際、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面は、摩擦熱によって温度が上昇するが、より高速或いはより車両重量が大きいほどブレーキ負荷が大きくなり、接触面での温度が高くなる傾向にある。ブレーキディスクの耐久性を向上させるためには、制動中のブレーキライニングとブレーキディスクの接触をできるだけ均一化し、発生する摩擦熱を低減する必要がある。
【0005】
従来型の鉄道車両用ディスクブレーキとして、図3に、ブレーキライニング及びブレーキディスクを示す。図3(a)はブレーキライニングの摩擦部材側からみた平面図、図3(b)は(a)図のB−B断面図である。
【0006】
ブレーキライニング1は、図示省略したブレーキキャリパに取付けられ、ブレーキディスク2の摺動面2aと接触する摩擦部材1aを、図示省略したリベットによって裏板1bに取付けた構成である。
【0007】
ブレーキキャリパは、ブレーキライニングをブレーキディスクに押付けて制動力を得るための装置であり、油圧式、空圧式等が存在する。ブレーキキャリパからブレーキライニングに負荷される押付け力は、取付け部の構造上、ブレーキライニングの全体には作用せず、ある特定の部分に集中して作用する。
【0008】
このように、従来のディスクブレーキは、構造上、ブレーキキャリパからの押付け力がブレーキライニングの一部分にのみ作用するため、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面では、接触面圧の高い部分と低い部分の差が大きくなる。従って、ブレーキキャリパからの押付け力が作用する直下において、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧は高くなる傾向にある。
【0009】
接触面圧の高い部分では、摩擦による熱エネルギーがより多くなるため、特に新幹線等の高速車両においては、制動中の温度上昇が過大となる可能性がある。接触面圧が高くなって温度が上昇すると、ブレーキライニングとブレーキディスクの摩耗量増加、ブレーキディスクの亀裂発生等の原因となり得る。従って、ブレーキライニング、ブレーキディスクの耐久性確保のため、制動中の両者の摩擦による熱エネルギーを効率良く分散することが重要である。
【0010】
近年、このような問題に対し、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触を均一化(等面圧化)することを目的としたブレーキライニングの構造が開示されている(例えば特許文献1〜3)。
【0011】
これら特許文献1〜3に開示されたブレーキライニングは、摩擦部材が複数個に分割されており、それぞれの摩擦部材がばね部材や球面座を利用して、個々に旋回可能となっている。このような構造とすることにより、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触を等面圧化することが可能になる。
【0012】
しかしながら、一方で個々の摩擦部材が小さくなるため、ブレーキディスクとの摩擦によって摩擦部材がその場で回転してしまい、摩擦部材と裏板の締結部に緩みが生じ、最終的に落失する可能性がある。
【0013】
従って、特許文献2、3で開示されたブレーキライニングでは回り止めの機構が設けられている。しかしながら、これら特許文献2、3で開示された回り止めには、等面圧化するためのブレーキライニングに必要な部品(摩擦部材、ばね部材又は球面部材、裏板、リベット等の締結部品)以外に新たな部品が必要である。従って、重量増や生産性の低下を招いてしまう。また、これらの特許文献2、3の構造では、回り止め用の部品にトルク負荷が作用してしまい、部品の耐久性が十分に確保できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−151188号公報
【特許文献2】特開2006−207625号公報
【特許文献3】特開2008−133928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする問題点は、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧を均等にして局部的な温度上昇を抑制する従来技術の場合、新たな部品が必要で、重量増や生産性の低下を招くという点である。また、回り止め用の部品にトルク負荷が作用し、部品の耐久性が十分に確保できない可能性があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の鉄道車両用ブレーキライニングは、
新たな部品を追加しなくても、摩擦部材がその場で回転することを防止するために、
ブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押付けられる鉄道車両用ブレーキライニングであって、
ブレーキディスクの前記摺動面に押付ける摩擦部材と、
この摩擦部材を支持すべく、前記ブレーキキャリパに取付けられる裏板を備え、
前記摩擦部材は、前記ブレーキディスクの半径方向及び周方向に2個以上に分割配置されると共に、これらそれぞれの摩擦部材は、ブレーキディスクの前記摺動面と接触する摺動材と、この摺動材の前記裏板側に固定された裏金とで構成され、
前記裏金は前記裏板側に突起が形成されている一方、前記裏板の摩擦部材側には、前記裏金に形成された突起と接触する溝が形成され、
かつ、前記それぞれの摩擦部材の裏金と前記裏板の間には弾性部材又は球面座を介在させたことを最も主要な特徴としている。
【0017】
本発明は、ブレーキディスクの摺動面と接触する摺動材の裏板側に固定された裏金の前記裏板側に突起を形成する一方、裏板の摩擦部材側に前記突起と接触する溝を形成し、これら突起と溝との接触により裏金の回り止めを行っている。
【0018】
従って、新たな部品を追加しなくても、摩擦部材がその場で回転することを防止することができる
【発明の効果】
【0019】
本発明では、裏金の裏板側に突起を形成する一方、裏板の摩擦部材側に前記突起と接触する溝を形成し、これら突起と溝との接触により回り止めの機能を持たせるので、新たな部品を追加しなくても、摩擦部材がその場で回転することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明のブレーキライニングの第1の例を摩擦部材側から見た平面図、(b)は(a)図のA−A拡大断面図、(c)は裏金を裏板側から見た平面図である。
【図2】本発明のブレーキライニングの第2の例を示す図1(b)と同様の図である。
【図3】(a)は従来のブレーキライニングを摩擦部材側から見た平面図、(b)は(a)図のB−B拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明では、新たな部品を追加しなくても摩擦部材がその場で回転することを防止するという目的を、裏金の裏板側に突起を形成する一方、裏板の摩擦部材側に前記突起と接触する溝を形成し、これら突起と溝を接触させることによって実現した。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の着想から課題解決に至るまでの過程と共に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0023】
摩擦部材には、通常、銅焼結材や樹脂系の材料が用いられるが、強度や剛性を保つために、裏板側の面には裏金と呼ばれる鋼製の薄い板が接着されている。発明者らは、この裏金に回り止めの機能を持たせた場合、新たな部品を追加しなくても、摩擦部材がその場で回転することを防止でき、摩擦部材と裏板の締結部の緩みを抑制できると考えた。
【0024】
本発明の鉄道車両用ブレーキライニングは、上記考え方に基づき、発明者らが検討を重ねた結果、成立したものである。
【0025】
すなわち、本発明の鉄道車両用ブレーキライニングは、例えば、車軸に取付けたディスク体又は車輪にボルト締結されるブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押付けられるもので、以下の構成を採用している。
【0026】
図1において、11はブレーキディスクの前記摺動面に押付けられる摩擦部材であり、前記ブレーキキャリパに取付けられた裏板12に、例えばリベット13により締結する際、裏板12と摩擦部材11の間に皿ばね14を介して弾性支持している。
【0027】
なお、摩擦部材11と裏板12の間に介在させる弾性部材は、皿ばね14に換えてコイルばねを使用しても良い。また、弾性部材に換えて、図2に示すような球面座15を介在させても良い。
【0028】
この摩擦部材11は、例えば図1(a)に示すように、ブレーキディスクの半径方向に2つに分割すると共に、その周方向外周側では8個、周方向内周側では6個の計14個の略円形に分割し、裏板12の周方向中央線12aと線対称となるように配置している。
【0029】
本発明では、前記分割したそれぞれの摩擦部材11を構成する、ブレーキディスクの摺動面と接触する摺動材11aの前記裏板12側に固定された裏金11bの、裏板12側の例えば外周部2箇所に突起11baを形成している。
【0030】
一方、前記裏板12の摩擦部材11側における前記突起11baと相対する位置には、前記裏金11bに形成された突起11baを嵌入し、突起11baの外周面と接触する溝12bを形成している。
【0031】
この溝12bは前記突起11baとの接触面積が確保できる範囲であればどのような形状でも良い。但し、摩擦部材11がブレーキディスクの摺動面とは垂直方向(ブレーキディスクの軸方向)に可動とするため、回り止めが十分機能する範囲で突起11baと溝12bの間に僅かな隙間を設けておくようにすることが望ましい。この突起11baと溝12bの間の隙間は1mm以内程度とするのが望ましい。
【0032】
このような構成とすれば、制動時、ブレーキディスクの摺動面に摩擦部材11を押付けた場合でも、突起11baと溝12bの接触抵抗によって、分割した摩擦部材11がその場で回転することがない。
【0033】
従って、摩擦部材11と裏板12の締結部(リベット13)に緩みが生じ難くなって、落失する可能性も少なくなる。また、前記構成では、突起11baによる重量増と溝12bによる重量減が相殺されるので、全体の重量増を抑えることができる。
【0034】
ところで、前記突起11baと溝12bは、突起11baと溝12bの接触面の法線が、図1(a)に示すように、ブレーキディスクの例えば半径方向となるように、突起11baと溝12bを形成しておくことが望ましい。
【0035】
このような位置に突起11baと溝12bを形成すれば、ブレーキディスクの回転を止めるべく、ブレーキディスクの周方向に作用するブレーキトルクが突起11ba或いは溝12bに直接負荷しないようになり、両者に過大な力が作用して耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0036】
発明者らの調査によれば、突起11baと溝12bは、両者が接触する面の法線が必ずしもブレーキディスクの半径方向でなくても、半径方向と±10°以内になるように形成しておけば良いことが分かっている。
【0037】
この範囲内であれば、ブレーキディスクの周方向に作用するブレーキトルクをリベット13と裏板12で受けることになり、十分な耐久性を確保できることが判明したからである。
【0038】
一方、突起11baと溝12bが接触する面の法線がブレーキディスクの周方向に位置するように突起11baと溝12bを形成すると、ブレーキトルクが直接突起11baに作用し、突起12baの耐久性が確保できなくなる。
【0039】
突起11baと溝12bの接触面積は、回り止めの十分な効果と突起11baの耐久性を確保するためには、摩擦部材1個当り10mm2以上であることが望ましい。
【0040】
以下に、本発明の効果を確認するために、制動中における摩擦部材の回転を評価するため、有限要素解析を行った結果について説明する。
【0041】
有限要素解析では、図1、図2に示す形状・構造の、長手方向の長さが400mm、幅方向の長さが130mmのブレーキライニングと、新幹線に使用されている、内径が305mm、外径が720mmの略円盤状の鍛鋼製ブレーキディスクを弾性体でモデル化して使用した。
【0042】
有限要素解析では、ブレーキライニングの背面側からブレーキキャリパから押付け力相当の荷重(10kN)を与え、ブレーキディスクを回転させた。
【0043】
その際、ブレーキライニングと接触する摺動面はブレーキディスクの外周側に位置し、その半径方向の長さは127.5mmとした。また、ブレーキライニング(摩擦部材の摺動部は銅焼結材、それ以外は鉄鋼材料。)とブレーキライニングの接触面の摩擦係数は0.3とした。
【0044】
このときに個々の摩擦部材が回転するかどうかを評価した。解析では、図1、図2に示した摩擦部材の裏金に突起がある場合(突起が溝と接触する領域の寸法は、ブレーキディスクの周方向に10mm、軸方向に1mm。)と、裏金に突起が無い場合で比較した(下記表1参照)。
【0045】
【表1】

【0046】
本発明の目的は、ブレーキライニングの個々の摩擦材の回転防止にあるため、ブレーキライニングをブレーキディスクに押付けた状態でブレーキディスクを回転させたときに、個々の摩擦材がその場で回転するかどうかを評価した。
【0047】
下記表2に、それぞれのブレーキライニングについて、回転が生じた摩擦材の個数を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2より、発明例は裏金の突起と裏板の溝が接触するため、何れの摩擦部材でも回転が生じていないことが分かる。一方、比較例は裏金の突起がないので、4個の摩擦部材で回転が生じた。
【0050】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0051】
例えば、裏金11bに形成する突起11baの形状は、図1(a)に示すような矩形に限らず、矩形以外の多角形、円形等様々な形状が適用できる。また、裏金11bに形成する突起11baの数は、図1に示したような2個に限らないが、多すぎると生産性が低下するので、1〜4個程度とするのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上記構成の本発明は、鉄道車両用のブレーキディスクに限らず、自動車や自動二輪車等のブレーキディスクであっても適用できる。
【符号の説明】
【0053】
11 摩擦部材
11a 摺動材
11b 裏金
11ba 突起
12 裏板
12b 溝
13 リベット
14 皿ばね
15 球面座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押付けられる鉄道車両用ブレーキライニングであって、
ブレーキディスクの前記摺動面に押付ける摩擦部材と、
この摩擦部材を支持すべく、前記ブレーキキャリパに取付けられる裏板を備え、
前記摩擦部材は、前記ブレーキディスクの半径方向及び周方向に2個以上に分割配置されると共に、これらそれぞれの摩擦部材は、ブレーキディスクの前記摺動面と接触する摺動材と、この摺動材の前記裏板側に固定された裏金とで構成され、
前記裏金は前記裏板側に突起が形成されている一方、前記裏板の摩擦部材側には、前記裏金に形成された突起と接触する溝が形成され、
かつ、前記それぞれの摩擦部材の裏金と前記裏板の間には弾性部材又は球面座を介在させたことを特徴とする鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項2】
前記突起と溝は、両者が接触する面の法線がブレーキディスクの半径方向と±10°以内になるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項3】
前記突起と溝との接触面積は、摩擦部材1個当り10mm2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−185429(P2011−185429A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54678(P2010−54678)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000220435)株式会社ファインシンター (27)
【Fターム(参考)】