説明

開閉装置におけるヒンジダンパー

【課題】小さなダンパー機能の構造により大きなエネルギー吸収能力を発揮させることができ、軽量・小型で長期間の使用にも安定してメンテナンスが容易である開閉装置におけるヒンジダンパーを提供する。
【解決手段】回転部材の回転に伴って回転駆動されると共にケースに回転自在に枢着される回転軸と、回転軸に回転自在に取り付けられると共に内歯を形成したギヤリングと、開閉部材の回転を前記ギヤリングに伝達する手段と、ギヤリングの内歯と噛み合う歯を有するギヤプラネットと、ギヤプラネットの回転を規制して、その中心を上記ギヤリングの回転中心の回りに円軌跡運動せしめる回転規制手段と、ギヤリングの回転エネルギーを吸収する手段から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機の原稿圧着板等の開閉部材又はトイレの便座開閉部材を安全かつ円滑に開閉するための、開閉装置におけるヒンジダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機等の装置本体に取り付けられる取付部材と、該取付部材に回動自在に枢着されると共に原稿圧着板を支持する支持部材と、前記取付部材と支持部材の間に介挿されると共に前記原稿圧着板を開く方向に付勢する圧縮コイルバネから成る原稿圧着板の開閉装置において、該原稿圧着板の重量が圧縮コイルバネの付勢力に勝って、原稿圧着板が急激に落下し、その結果、手を挟んだり風圧により原稿位置がずれたりするのを流体ダンパーにより防止する技術があった。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
しかしながら、上記従来の原稿圧着板の急激落下の防止技術は、油圧ダンパーを使用しているため、下記のような問題点があった。
1)荷重エネルギー方向にそのまま吸収するためピストンを受けるケースの剛性が必要となる。
2)ダイカスト等の金属製品であるため重く、体積も軸方向に長くなって、設置のためのスペースを必要となる。
3)ヒンジのコイルバネの中に納めるため、バネ自体が大型になってしまう。
4)オイル粘性抵抗を熱エネルギーに変換するので、連続使用すると高温になる。また、オイル粘性抵抗が外部温度に依存するため不安定である。したがって開閉装置の連続開閉動作時、性能が出ない欠点がある。
5)原稿圧着板を強引に閉めるとダンパーに過負荷がかかって、内部の油圧が急激に上がり、破損する恐れがある。
6)ダンパーのピストンロッドが偏心荷重に弱いため、高精度に動作させる必要があり、オイル漏れや装置の破壊を招き易い。
7)周辺の油や水分がピストンロッドに付着してパッキンを破損させたり動作不良を招き易い。
8)破棄する時にオイル処理等の環境対策を必要とする。
9)オイルの温度依存性が有る為、使用温度が室温以外の場所はダンパ性能が著しく変化する。
【特許文献1】実用新案登録第2589714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解消することができ、軽量・小型で長期間の使用にも安定してメンテナンスが容易である開閉装置におけるヒンジダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の開閉装置におけるヒンジダンパーは、複写機等の装置本体に取り付けられる取付部材と、該取付部材に回動自在に枢着されると共に原稿圧着板等の開閉部材を支持する支持部材と、前記取付部材と支持部材の間に介挿されると共に前記開閉部材を開く方向に付勢する圧縮コイルバネやウレタンエラストマー発泡体等の弾性体から成る開閉装置において、上記回転部材の回転に伴って回転駆動されると共にケースに回転自在に枢着される回転軸と、該回転軸に回転自在に取り付けられると共に内歯を形成したギヤリングと、上記開閉部材の回転を前記ギヤリングに伝達する手段と、該ギヤリングの内歯と噛み合う歯を有するギヤプラネットと、該ギヤプラネットの回転を規制して、その中心を上記ギヤリングの回転中心の回りに円軌跡運動せしめる回転規制手段と、上記ギヤリングの回転エネルギーを吸収する手段から構成されることを特徴とする。また、上記開閉部材の回転を上記ギヤリングに伝達する手段が、セクタギヤであることを特徴とする。さらに、上記ギヤプラネットの回転を規制する手段が、該ギヤプラネットに植設された作動ピンと、該作動ピンを挿通せしめてその動きを規制する孔を有するブッシュから成ることを特徴とする。又更に、上記ギヤリングの回転エネルギーを吸収する手段が、該ギヤリングに形成したフリクション歯と、これに摺接する波形周面を有するプレートプラネットから成ることを特徴とする。更に又、開閉部材の取付部材に内蔵されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の開閉装置におけるヒンジダンパーは、小さなダンパー機能の構造により大きなエネルギー吸収能力を発揮させることができ、軽量・小型で長期間の使用にも安定してメンテナンスが容易である等の利点がある。また、従来のオイルダンパーのようにオイルを全く使用しない構造であるため、上記従来の問題点を回避するという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の開閉装置におけるヒンジダンパーの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
図1において、Pは原稿圧着板であって、開閉装置Hを介して、複写機等の装置本体Mに開閉自在に取り付けられている。上記開閉装置Hは、上記装置本体Mに取り付けられている取付部材1と、該取付部材1にヒンジ軸2を介して回動自在に枢着されている支持アーム3と、該支持アーム3の先端部に支持軸4を介して回動自在に枢着されていると共に、上記原稿圧着板Pを取付けているリフトアーム5から、主として構成されている。
【0008】
上記支持アーム3内には第1スライダー6および第2スライダー7が長手方向に摺動自在に納められていると共に、これら第1、2スライダー6、7間には圧縮コイルバネ8が介挿されている。圧縮コイルバネ8に代えてウレタンエラストマーの発泡体を使用してもよい。第1スライダー6のカムフォロア6aは、上記取付部材1に設置されたカム部9に当接すると共に、第2スライダー7のカムフォロア7aは、上記リフトアーム5の前側板5aに当接している。なお、本発明における開閉装置Hは、上記構造に限定するものではなく、例えば、支持軸4およびリフトアーム5を省略し、上記原稿圧着板Pを支持アーム3に取り付け固定するように構成する等、従来公知のいずれの構造でもよい。
上記ヒンジ軸2付近の取付部材1内には、ヒンジダンパーのケース10が取り付けられている。
【0009】
図2は、ヒンジダンパーの上記ケース10の外観を示すもので、該ケース10はケース本体10aと蓋部10bから構成されている。11は、該ケース10を上記開閉装置Hに取り付けるための取付枠である。上記ケース10内には、図3に分解して示すように、ヒンジダンパーが納められている。
【0010】
図3において、12はセクタギヤ、13は小歯車、14は支軸、15は第1内歯歯車、16は第1ギヤプラネット、17aは第1偏心軸、17bは第2偏心軸、18は第2内歯歯車、19は第2ギヤプラネット、20は第3内歯歯車、21は第3ギヤプラネット、22aは第3偏心軸、22bは第4偏心軸、23は第4内歯歯車、24は第4ギヤプラネットである。
【0011】
図5からも明らかなように、上記セクタギヤ12は、上記開閉装置Hのヒンジ軸2に取り付け固定されていて、ヒンジ軸2の回転と共に書いてする。上記セクタギヤ12には、上記開閉装置Hの回動角(本実施例では、約90°)にほぼ一致する回転角に亘って歯12aが形成されている。
【0012】
上記小歯車13は、支軸14の周りを自由に回転するように取り付けられていると共に、上記セクタギヤ12に噛み合っている。該小歯車13にはフランジ部13aが一体的に設けられている。該フランジ部13aには平面部13a´が形成されている。上記支軸14の端部には、角頭14aが設けられていて、上記取付枠11の角穴11aに嵌合しており、回転しないようになっている。
【0013】
図5から明らかなように、上記小歯車13のフランジ部13aには、上記第1内歯歯車15に形成された穴15aが嵌合していて、その平面部14a´が上記フランジ部13aの平面部13a´に当接し、一体的に回転するようになっている。
【0014】
図6に示すように、上記第1内歯歯車15の内歯15aには、第1ギヤプラネット16の歯16aが転動可能に噛み合っている。該第1ギヤプラネット16は第1偏心軸17aに回転自在に取り付けられている。該第1偏心軸17aは上記支軸14に取り付けられ、回転できないようになっている。従って、上記第1ギヤプラネット16は上記支軸14の中心軸に対して偏心した状態で回転するようになっている。
【0015】
図4から明らかなように、上記第1ギヤプラネット16には、第2内歯歯車18が一体的に回転するように連結されている。該第2内歯歯車18には、第2ギヤプラネット19が一体的に回転するように噛み合っている。該第2ギヤプラネット19は、上記第2偏心軸17bに偏心状態で回転するように取り付けられている。上記第1偏心軸17aと第2偏心軸17bは、上記支軸14の中心軸に対して、対称に位置している。
【0016】
上記第2ギヤプラネット19には、第3内歯歯車20が一体的に回転するように連結されている。該第3内歯歯車20には、第3ギヤプラネット21が一体的に回転するように噛み合っている。該第3ギヤプラネット21は、上記第3偏心軸22aに偏心状態で回転するように取り付けられている。
【0017】
上記第3ギヤプラネット26には、第4内歯歯車23が一体的に回転するように連結されている。該第4内歯歯車23には、第4ギヤプラネット24が一体的に回転するように噛み合っている。該第4ギヤプラネット24は、上記第4偏心軸22bに偏心状態で回転するように取り付けられている。上記第3偏心軸22aと第4偏心軸22bは、上記支軸14の中心軸に対して、対称に位置している。
【0018】
本実施例のヒンジダンパーは、以上のように構成されているので、原稿圧着板Pを、図1(B)に矢印で示すように、閉じると、そのヒンジ軸2と一体になったセクタギヤ12が、図2に矢印で示すように、反時計回りに回動して、小歯車13を時計方向に回転せしめる。
【0019】
上記小歯車13が回転すると、これと一体になって第1内歯歯車15が回転し、さらに、これに噛み合っている第1ギヤプラネット16が同じ方向に回転する。上記第1内歯歯車15の歯数Nは、上記第1ギヤプラネット16の歯数nより多い(N>n)ので、該第1内歯歯車15が1回転すると、第1ギヤプラネット16は、N/n回転数だけ増速する。
【0020】
上記第1ギヤプラネット16の回転は、第2内歯歯車18を介して、第2ギヤプラネット19を更に増速せしめる。このようにして、第3ギヤプラネット21、第4ギヤプラネット24は順次、増速される。
【0021】
上記各内歯歯車とギヤプラネットの噛み合いフリクション(抵抗)により回転エネルギーが吸収される。
【0022】
本発明の開閉部材Hの回転をギヤリング12に伝達する手段としては、上記セクタギヤ11等の歯車機構に限定するものではなく、例えば、ベルトやリンクによる動力伝達機構としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の開閉装置のヒンジダンパーは、上記複写機の原稿圧着板に限定するものではなく、スキャナーやファックス機器、あるいは洋式便器の蓋などの開閉部材を開閉するヒンジなどの用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のヒンジダンパーを備えた原稿圧着板の開閉装置の側面図(A)およびその作用図(B)である。
【図2】ヒンジダンパーの外観図である。
【図3】ヒンジダンパーの各部品を支軸方向に分解した斜視図である。
【図4】ヒンジダンパーの断面図である。
【図5】図4のイ−イ断面図である。
【図6】図4のロ−ロ断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 取付部材
2 ヒンジ軸
3 支持アーム
4 支持軸
5 リフトアーム
5a 前側板
6 第1スライダー
6a カムフォロア
7 第2スライダー
7a カムフォロア
8 圧縮コイルバネ
9 カム部
10 ケース
10a ケース本体
10b 蓋部
11 取付枠
11a 角穴
12 セクタギヤ
12a 歯
13 小歯車
13a フランジ部
13a´平面部
14 支軸
14a 角頭
15 第1内歯歯車
15a 穴
15a´平面部
16 第1ギヤプラネット
17a 第1偏心軸
17b 第2偏心軸
18 第2内歯歯車
19 第2ギヤプラネット
20 第3内歯歯車
21 第3ギヤプラネット
22a 第3偏心軸
22b 第4偏心軸
23 第4内歯歯車
24 第4ギヤプラネット
H 開閉装置
M 装置本体
P 原稿圧着板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複写機等の装置本体に取り付けられる取付部材と、該取付部材に回動自在に枢着されると共に原稿圧着板等の開閉部材を支持する支持部材と、前記取付部材と支持部材の間に介挿されると共に前記開閉部材を開く方向に付勢する圧縮コイルバネやウレタンエラストマー発泡体等の弾性体から成る開閉装置において、上記回転部材の回転に伴って回転駆動されると共にケースに回転自在に枢着される回転軸と、該回転軸に回転自在に取り付けられると共に内歯を形成したギヤリングと、上記開閉部材の回転を前記ギヤリングに伝達する手段と、該ギヤリングの内歯と噛み合う歯を有するギヤプラネットと、該ギヤプラネットの回転を規制して、その中心を上記ギヤリングの回転中心の回りに円軌跡運動せしめる回転規制手段と、上記ギヤリングの回転エネルギーを吸収する手段から構成されることを特徴とするヒンジダンパー。
【請求項2】
上記開閉部材の回転を上記ギヤリングに伝達する手段が、セクタギヤであることを特徴とする請求項1に記載の開閉装置におけるヒンジダンパー。
【請求項3】
上記ギヤプラネットの回転を規制する手段が、該ギヤプラネットに植設された作動ピンと、該作動ピンを挿通せしめてその動きを規制する孔を有するブッシュから成ることを特徴とする請求項1または2に記載の開閉装置におけるヒンジダンパー。
【請求項4】
上記ギヤリングの回転エネルギーを吸収する手段が、該ギヤリングに形成したフリクション歯と、これに摺接する波形周面を有するプレートプラネットから成ることを特徴とする請求項1、2または3に記載の開閉装置におけるヒンジダンパー。
【請求項5】
開閉部材の取付部材に内蔵されることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の開閉装置におけるヒンジダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−205537(P2007−205537A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28157(P2006−28157)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(592264101)下西技研工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】