説明

防振装置

【課題】 本発明は、簡単な構成により、鉛直方向及び水平方向に低剛性でより高い除振効果を得ると共に、水平方向への横ズレが発生せず、メンテナンスが不要であり、さらに外乱振動を小さく抑制し得るようにした防振装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 二段に上下に重ねられた二つの防振部11,20から構成されており、下方の第一の防振部11が、水平に配置され互いに平行な上板12と下板13との間に配置されるベローズ14を含む空気バネとして構成されており、上方の第二の防振部20が、同様に水平に配置され互いに平行な上板22と下板21と間にて鉛直方向に配置される複数個の圧縮コイルバネ23と、上記上板と下板とを互いに連結する粘弾性体24と、を含むように、防振装置30を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を支持し、その振動を抑制するための防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような防振装置は、例えば3〜4個のコイルバネや空気バネ等の弾性体によって支持することにより、低周波で揺れる構造として、より高周波の振動を低減するようにしている。
具体的には、電子顕微鏡等のような水平方向の防振を重視する装置においては、コイルバネから成る防振装置が使用されている。
また、空気圧を変更することによって、搭載する装置による荷重に依存せずに一定の姿勢を維持するようにした空気バネ式の防振装置も知られている。
【0003】
ところで、コイルバネや空気バネ等の弾性体を使用した防振装置は、パッシブ防振装置と呼ばれており、支持すべき装置の重量と、これを支持する弾性体のバネ定数により決まる固有振動数に基づいて、装置を意図的に揺らすことにより、上記固有振動数の√2倍以上の周波数成分を低減するものである。
【0004】
ここで、防振に関する固有振動数(共振周波数)foは、
(数式1)
により決まる。
そして、上記弾性体による弾性支持における除振特性を向上させるためには、支持すべき装置の重量による弾性体の撓み量を大きくして、上記固有振動数を低くすればよい。
【0005】
これに対して、例えばコイルバネの場合、撓み量を大きくすればするほど、水平方向のバネ定数が低下してしまい、場合によっては座屈してしまうことがある。
また、電子顕微鏡等を支持するための防振装置で使用されるコイルバネは、水平方向のバネ定数を鉛直方向のバネ定数の1/5〜1/25程度に設定していることから、水平方向に横ズレしやすく構成されており、一般的な防振装置としては除振特性に限界があった。
【0006】
このため、よりバネ定数を低下させるために、上述した構成の防振装置を積み上げる構造が考えられるが、上記構成の防振装置を単純に積み上げるだけの構造では、バネの撓み量が同様に大きくなってしまい、横ズレそして座屈が発生するおそれがある。
これに対して、二段構成の防振装置のうち、3〜4個の一段目の防振装置の上部同士をビーム等により互いに連結して、強制的に一段目で発生する横ズレを抑制することが考えられる。
この場合、一段目の防振装置におけるコイルバネのバネ定数をK1,二段目の防振装置におけるコイルバネのバネ定数をK2とすると、全体のバネ定数Kは、(数式2)
で与えられ、K1=K2の場合、Kは1/2以下に低下することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような構成の防振装置においては、搭載している装置内部で例えばステージ移動等により荷重変動があった場合、この荷重変動により各コイルバネの撓み量が変動することになるので、搭載している装置が傾斜してしまうことがあり、短時間での姿勢制御が困難である。
【0008】
他方、空気バネを使用した防振装置においては、空気バネの空気の内容積を大きくすることにより、鉛直方向のバネ定数を下げることは可能であるが、水平方向のバネ定数を下げることは困難である。
また、従来の空気バネ式防振装置のうち、ダイヤフラムとピストンの組合せによる所謂ジンバルピストン方式の防振装置においては、ピストンの長さを変更することによって、水平方向に関して低剛性とすることが可能であるが、ピストンの金属接触部分の摩擦力が、雰囲気中の油成分や摩擦による塵埃等により大きく変動してしまうので、定期的なメンテナンスが必要となり、また上記金属接触部分が球面であることから、長期的にはこの球面の変形によって摩擦力特性が変動してしまう。
さらに、空気圧で姿勢制御を行なう場合、出力安定性に関してダイヤフラム型よりベローズ型の空気バネが高い耐久性を有していることが確認されているが、ベローズ型空気バネ単体では、水平方向に関して低剛性化することは困難である。
【0009】
このようにして、コイルバネによるパッシブ防振装置においては、ステージ移動による静的・動的な荷重変動に対応するため、静的な荷重変動に対しては、装置を維持する水平度の範囲内に傾斜を抑え込むことができるように、鉛直方向のバネ定数を大きくしていると共に、動的な荷重変動に対しては、コイルバネに対して並列に粘弾性体を配置することにより、減衰力を付加するようにしている。 しかしながら、このように鉛直方向のバネ定数を大きくすると、除振における固有周波数を高くすることになると共に、減衰力をより大きくすると、装置を固く固定するような構造になることから、どちらも除振効果を悪化させることになってしまう。
従って、所謂パッシブ方式の防振装置は、その除振効果に限界があるということが分かってきた。
【0010】
本発明は、以上の点から、簡単な構成により、鉛直方向及び水平方向に低剛性でより高い除振効果を得ると共に、水平方向への横ズレが発生せず、メンテナンスが不要であり、さらに外乱振動を小さく抑制し得るようにした防振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、本発明によれば、二段に上下に重ねられた二つの防振部から構成されており、下方の第一の防振部が、水平に配置され互いに平行な上板と下板との間に配置されるベローズまたはダイヤフラムを含む空気バネとして構成されており、上方の第二の防振部が、同様に水平に配置され互いに平行な上板と下板との間にて鉛直方向に配置される複数個の圧縮コイルバネと、上記上板と下板とを互いに連結する粘弾性体と、を含んでいることを特徴とする、防振装置により、達成される。
【0012】
本発明による防振装置は、好ましくは、上記第一の防振部の上板を偏荷重に対して傾斜しないように保持するための保持部材が備えられている。
【0013】
本発明による防振装置は、好ましくは、上記保持部材が、第一の防振部の上板及び下板の周囲に配置された複数個のバランスバネである。
【0014】
本発明による防振装置は、好ましくは、上記第一の防振部が、その上板及び下板を互いに連結する粘弾性体を備えている。
【0015】
本発明による防振装置は、好ましくは、上記第二の防振部が支持すべき装置の鉛直方向及び水平方向の振動を検出する変位センサと、この変位センサ信号に基づいて姿勢制御を行う上記第一の防振部の空気圧を制御する駆動手段を備え、水平方向及び鉛直方向の振動を検出する加速度センサと、加速度センサ信号に基づいて減衰制御を行う駆動手段と、を備えている。
【0016】
本発明による防振装置は、好ましくは、上記変位センサ信号に基づいて姿勢制御を行う駆動手段が、水平方向及び鉛直方向の空気圧を制御する電空式制御弁またはモータ駆動式レギュレータである。
【0017】
本発明による防振装置は、好ましくは、上記加速度センサ信号に基づいて減衰制御を行う駆動手段が、水平方向及び鉛直方向に力を発生させるリニアモータである。
【発明の効果】
【0018】
上記構成によれば、鉛直方向に関して、下段の空気バネ式の第一の防振部及び上段のコイルバネ式の第二の防振部が互いに直列に配置されていることにより、鉛直方向及び水平方向の固有周波数を低くすることができ、鉛直方向にも水平方向にも低剛性に構成されることになる。
この場合、第一の防振部には空気バネを用いているが、低剛性にするための複雑な構造や金属接触部分がないことから、長期間に亘ってメンテナンスが不要になる。
【0019】
下段に位置する空気バネは中心軸上で傾いた場合、傾きに対する内部圧力の変動がなく、また傾きに対する空気バネの膜剛性が小さいため座屈しやすい。上記第一の防振部の上板を偏荷重に対して傾斜しないように保持するための保持部材が備えられている場合には、偏荷重が加えられて、第一の防振部の上板が傾斜しようとしたとき、上記保持部材により、上記上板が強制的に水平に保持されるので、上記上板の水平度が維持され得ることになる。
【0020】
上記保持部材が、第一の防振部の上板及び下板の周囲に配置された複数個のバランスバネである場合には、偏荷重が加えられたとき、第一の防振部の上板に印加される荷重に対して、バランスバネの反発力により、上記上板の傾斜が補正され、水平度が維持され得る。
その際、第一の防振部の中心から各バランスバネまでの距離を大きく取ることにより、各バランスバネのバネ定数を小さくすることができるので、鉛直方向の固有振動数が比較的低く設定され得ることになる。
また、このバランスバネと第二の防振部におけるコイルバネの剛性により防振装置全体の横方向の剛性が決まるので、安定した低剛性の防振装置が得られることになる。
【0021】
上記第一の防振部が、その上板及び下板を互いに連結する粘弾性体を備えている場合には、この粘弾性体により鉛直方向の減衰力が付加されるので、鉛直方向の共振現象が抑えられ、水平方向の高周波数側の除振特性が改善される。
【0022】
上記第二の防振部が支持すべき装置の鉛直方向及び水平方向の振動を検出する変位センサと、この変位センサ信号に基づいて姿勢制御を行う上記第一の防振部の空気圧を制御する駆動手段を備え、水平方向及び鉛直方向の振動を検出する加速度センサと、加速度センサ信号に基づいて減衰制御を行う駆動手段と、を備えている場合には、検出された変位センサ信号及び加速度センサ信号を演算し、上記駆動手段に出力して駆動させるフィードバック制御を行うことにより、所謂アクティブ除振制御を行なうことができるので、水平方向及び鉛直方向の振動、特に例えば装置のステージ移動等による外乱振動がより一層効果的に抑制され得ることになる。
【0023】
このようにして、本発明による防振装置によれば、簡単な構成により、鉛直方向及び水平方向に低剛性でより高い除振効果を得ると共に、水平方向への横ズレが発生せず、メンテナンスが不要であり、さらに外乱振動を小さく抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図10を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0025】
図1は、本発明による防振装置の第一の実施形態の構成を示している。
図1において、防振装置30は、二段構造に構成されており、下方の第一の防振部11と、上方の第二の防振部20と、を含んでいる。
【0026】
第一の防振部11は、いわゆるベローズ型空気バネ式の防振装置として構成されている。
即ち、図2にてより詳細に示すように、第一の防振部11は、上板12と下板13との間に配置される薄型ベローズ14と、下板13と底板15との間に配置される空気タンク16と、から構成されている。
【0027】
上記上板12は、水平に固定配置された例えば平板から構成されている。
上記下板13は、同様に例えば平板から構成されており、上記上板11に対して、その下方に所定間隔で水平に配置されている。
また、上記底板15は、同様に例えば平板から構成されており、上記下板13に対して、その下方に所定間隔で水平に配置されている。
【0028】
上記薄型ベローズ14は、上記上板12及び下板13の間にて内側に気密空間を画成するように、周囲に沿って上記上板12及び下板13に対して密着するように機械的に取り付けられている。
【0029】
上記空気タンク16は、上記下板13と底板15との間にて、周囲の側壁16aにより気密的に包囲されることにより構成されている。
さらに、上記空気タンク16は、下板13の中央付近に設けられた貫通孔13aを介して、上述した薄型ベローズ14の内部空間と連通していると共に、側壁16aに設けられた空気取り入れ口16bを介して、外部から圧縮空気が導入され得るようになっている。
【0030】
これにより、空気タンク16内に導入された圧縮空気の空気圧が上記貫通孔13aを介して薄型ベローズ14の内部空間に作用することにより、上記上板12が上方に向かって押圧され得るようになっている。
その際、空気タンク16内の空気圧を適宜に例えば電空式制御弁及びモータ駆動式レギュレータによって調整することにより、上記上板12に作用する上方への押圧力が調整され得る。
【0031】
上記第二の防振部20は、下板21と、上板22と、これらの下板21と上板22との間にて、中心軸の周りに配置される複数の圧縮コイルバネ23及び中心に配置される粘弾性体24と、から構成されている。
【0032】
上記下板21は、水平に固定配置された例えば平板から構成されている。
上記上板22は、同様に例えば平板から構成されており、上記下板21に対して、その上方に所定間隔で水平に配置されている。
さらに、上記上板22は、その上面に載置された構造物等の被支持物(例えば電子顕微鏡)25を支持するようになっている。
【0033】
上記圧縮コイルバネ23は、例えば上記下板21及び上板22を垂直に通る中心線に対して、所定半径の円周上にて、それぞれ上記中心線に対して平行に鉛直方向に延びるように、点対称に配置されている。
【0034】
ここで、各圧縮コイルバネ23は、中心軸に対して点対称の位置に在る圧縮コイルバネが互いに同じバネ定数を有している。
さらに、各圧縮コイルバネ23は、水平方向のバネ定数Khが、鉛直方向のバネ定数Kzに対して、その1/5乃至1/25程度となるように選定されている。
【0035】
尚、各圧縮コイルバネ23は、それぞれ下端及び上端が上記下板21及び上板22に固定されている。ここで、各圧縮コイルバネ23の下端及び上端の対応する下板21または上板22への固定は、例えば、下板21または上板22の各圧縮コイルバネ23の固定位置に、バネ外径に合わせた嵌合溝またはキャップを形成しておき、これらの嵌合溝またはキャップ内に圧縮コイルバネ23の下端または上端を挿入し、接着等により固定保持することにより、行なわれる。
【0036】
上記粘弾性体24は、粘弾性を有する材料、例えば熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂等から構成されており、その圧縮により振動に関して減衰力を生ずるようになっている。
【0037】
本発明実施形態による防振装置30は、以上のように構成されており、例えば電子顕微鏡等の装置25の防振を行なう場合、図1にて鎖線で示すように、上記上板22の上面に対して装置25が固定保持される。
これにより、底板15が振動したとき、第一の防振部11の薄型ベローズ14による空気バネそして第二の防振部20の各圧縮コイルバネ23により吸収されることにより、上板12,上板22そして装置25の振動が抑制され得ることになる。
【0038】
この場合、防振装置10が二段構造であることから、第一の防振部11における空気バネのバネ定数をK1とし、第二の防振部20における各コイルバネ23のバネ定数をK2とすると、前述した式(2)と同様にして、防振装置10のバネ定数Kが求められる。
【0039】
この場合、空気バネとしての第一の防振部11は、その上板12が偏荷重により傾斜しやすく、場合によっては座屈することがある。
このため、実際の使用例において、防振すべき装置25の下面の例えば四つの隅部にて、それぞれ上記防振装置10が配置される場合には、各防振装置10の第一の防振部11の上板12を互いに連結梁17により連結して固定保持することが望ましい。これにより、各上板12同士が互いに強制的に水平に保持され得ることになり、防振装置10の安定度が向上することになる。
しかしこの連結梁は3乃至4個の防振装置10を水平方向に直線に連結する構造物となり、防振装置10を装置25に組み込む場合にその梁のスペースを確保しなければならず、装置構成に大きな妨げとなる。、
尚、装置25は、定盤25aの上にレール25bを敷設して、このレール25b上を可動ステージ25cが移動可能に搭載されるようになっている。
【実施例1】
【0040】
図1は、本発明による防振装置の第一の実施形態の構成を示している。
上記防振装置30は、図11に示した防振装置10と比較して、第一の防振部11における薄型ベローズ14の周囲外側に、複数本のコイルバネから成るバランスバネ31が配置されている点で異なる構成になっている。
【0041】
このような構成の防振装置30によれば、図11に示した防振装置10と同様に作用して、装置25の振動が抑制され得ることになる。
さらに、この場合、装置25の可動ステージの移動等によって、装置25から偏荷重が加えられた場合、第一の防振部11における上板12が傾斜しようとすると、上記バランスバネ31の反発力によって、上記上板12の傾斜が補正されることになり、上記上板12の水平度が保持され得ることになる。
従って、装置25から偏荷重が加えられたとしても、第一の防振部11が上板12の傾斜によって座屈するようなことはなく、除振効果を維持し得ることになる。
【0042】
これにより、実際の使用例において、図2に示すように、防振すべき装置25の下面の例えば四つの隅部にて、それぞれ上記防振装置30が配置される場合に、各防振装置30の第一の防振部11の上板12を、図14の場合のように、互いに連結梁17により連結して固定保持する必要はない。
この場合、各防振装置30の第一の防振部11の上板12が、各防振装置連結梁17により互いに連結されていないことによって、この上板12は、低剛性構造となることから、水平方向のバネ定数を上記式(2)で得られたバネ定数より小さくすることができる。
また、空気バネとして作用する第一の防振部11の上板12が、バランスバネ31の反発力により水平に保持されるので、実際に作用するモーメント力Fは、第一の防振部11の中心からバランスバネ31までの距離をL,バランスバネ31の反発力をFcとしたとき、F=Fc×L(N・m)で表わされる。
【0043】
ここで、この場合の鉛直方向のバネ定数Kzは、K1zを第一の防振部11におけるバネ定数(kg/mm),K2zを第二の防振部20におけるバネ定数(kg/mm),K3zをバランスバネのバネ定数(kg/mm)とすると、
(数式3)
であるので、バランスバネ31のバネ定数が小さい程、鉛直方向のバネ定数Kzは小さくなる。
従って、バランス力を保持するためには、バランスバネ31の間隔Lを大きくとればよく、さらにバランスバネ31のバネ定数を小さく設定することによって、鉛直方向のバネ定数を小さくすることができる。
【実施例2】
【0044】
図3は、本発明による防振装置の第二の実施形態の構成を示している。
図3において、防振装置40は、図1に示した防振装置30と同様の構成であるので、同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
上記防振装置40は、図1に示した防振装置30と比較して、第一の防振部11における薄型ベローズ14の周囲外側に、各バランスバネ31に対して並列に粘弾性体41が配置されている点でのみ異なる構成になっている。
【0045】
上記粘弾性体41は、図11に示した防振装置10における第二の防振部20の粘弾性体24と同様に構成されており、第一の防振部11に対して減衰力を付加するようになっている。
【0046】
このような構成の防振装置40によれば、図1に示した防振装置30と同様に作用して、装置25の振動が抑制され得ることになる。
さらに、この場合、第一の防振部11にて粘弾性体24により減衰力が付加されていることにより、鉛直方向の除振特性がより一層向上することになる。
【0047】
以下、上述した各実施形態による防振装置30,40による除振効果について具体的に説明する。
まず、図11による防振装置10を図14に示すように使用して、第一の防振部11を固定した状態における水平方向及び鉛直方向の振動伝達率が、図4に示されている。
この場合、防振装置10は、従来電子顕微鏡の除振マウントとして使用されているものと同じ構造となり、鉛直方向の固有振動数5.8Hzに対して、水平方向の固有振動数は1.2Hzと低く設定されており、水平方向のバネ定数は、式(1)からK=9.61(kg/mm)となる。
【0048】
また、図11よる防振装置10を図14に示すように使用して、第二の防振部20を固定した状態における水平方向及び鉛直方向の振動伝達率が、図5に示されている。
この場合、鉛直方向の固有振動数約4.15Hzに対して、水平方向の固有振動数は約4Hzとなり、水平方向のバネ定数Kは、同様に式(1)からK=107(kg/mm)となる。
【0049】
これに対して、図1に示す防振装置30を図2に示すように使用した場合の水平方向及び鉛直方向の振動伝達率が、図6に示されている。
この場合、鉛直方向の固有振動数3.2Hzに対して、水平方向の固有振動数は0.7Hzと低くなる。
ところで、図1に示す防振装置30を図14に示すように使用して、互いに連結梁17で強制的に連結した場合には、その水平方向の固有振動数は、上述した二つのバネ定数から式(2)を使用して計算され、水平方向のバネ定数Kは、K=8.82(kg/mm)となる。
従って、水平方向の固有振動数は、式(1)から約1.15Hzとなり、この防振装置30により、水平方向の固有振動数が0.4Hz低下したことになる。
【0050】
また、図3に示す防振装置40を図2に示すように使用した場合の水平方向及び鉛直方向の振動伝達率が、図7に示されている。
この場合、鉛直方向の固有振動数3.2Hzで、共振倍率は7.2dBとなり、また水平方向の固有振動数は0.85Hzである。
粘弾性体41がない場合の鉛直方向の共振倍率が13.7dBであることから、粘弾性体41が追加されたことにより、鉛直方向の共振現象が抑制されると共に、水平方向の3.2Hzあたりの除振効果の悪化も改善されることが分かる。
【0051】
図3に示す防振装置40を図8に示すように使用した場合の水平方向及び鉛直方向の振動伝達率が、図9に示されている。
図8において、防振装置40は、水平方向及び鉛直方向のリニアモータ42を備えており、装置25の定盤25aで発生する振動を加速度センサー43で検出して、この検出データに基づいて、上記リニアモータ42をフィードバック制御することにより、所謂アクティブ除振制御を行なうようになっている。
この場合、固有振動数における共振倍率が大幅に低下していることが分かる。
【0052】
さらに、図8において、装置25のステージ25cを移動させた場合の移動方向の揺れ量の測定結果が、図10に示されている。
図10のグラフによれば、動的な揺れ量は、ステージ25cの移動により発生するが、上述したアクティブ除振により、瞬時に抑制され得ると共に、静的な傾きも第一の防振部11の空気バネの電空式制御弁及びモータ駆動式レギュレータによる姿勢制御によって、殆ど排除され得ることになる。
【0053】
このようにして、本発明によれば、空気バネ式の第一の防振部とコイルバネ式の第二の防振部を重ねて二段構成にすることによって、鉛直方向にも水平方向にも低剛性に構成することが可能であり、さらにバランスバネの配置により第一の防振部の上板の偏荷重による傾きを抑制することにより、低剛性であっても安定した除振特性が得られることになる。
また、装置に設けられたステージの移動等によって外乱振動があったとしても、第一の防振部11における空気バネの電空式制御弁及びモータ駆動式レギュレータによる姿勢制御、及びリニアモータによる減衰制御によって、装置25の揺れをできるだけ小さくし得る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上述した実施形態においては、装置25として電子顕微鏡の除振を行なう場合について説明したが、これに限らず、他の各種機器装置、特に精密機器類等の除振のために使用してもよいことは明らかである。
また、上述した実施形態においては、第一の防振部11は、ベローズ型の空気バネとして構成されているが、これに限らず、ダイヤフラム型の空気バネとして構成されていてもよい。
【0055】
以上述べたように、本発明によれば、簡単な構成により、鉛直方向及び水平方向に低剛性でより高い除振効果を得ると共に、水平方向への横ズレが発生せず、メンテナンスが不要であり、さらに外乱振動を小さく抑制し得るようにした防振装置が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による防振装置の第一の実施形態の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の防振装置の使用例を示す概略側面図である。
【図3】本発明による防振装置の第二の実施形態の構成を示す概略断面図である。
【図4】第二の防振部のみによる水平方向及び鉛直方向の振動伝達率の周波数分布を示すグラフである。
【図5】第一の防振部のみによる水平方向及び鉛直方向の振動伝達率の周波数分布を示すグラフである。
【図6】図1の防振装置を図2に示すように使用した場合の水平方向及び鉛直方向の振動伝達率の周波数分布を示すグラフである。
【図7】図3の防振装置を図2に示すように使用した場合の水平方向及び鉛直方向の振動伝達率の周波数分布を示すグラフである。
【図8】図3の防振装置の使用例を示す概略側面図である。
【図9】図8の使用例における水平方向及び鉛直方向の振動伝達率の周波数分布を示すグラフである。
【図10】図8の使用例にてステージを移動した場合の移動方向の揺れ量の時間変化を示すグラフである。
【図11】従来用いられてきた防振装置の実施形態の構成を示す概略断面図である。
【図12】図11の防振装置における第一の防振部の構成を示す概略断面図である。
【図13】図11の防振装置における第二の防振部の構成を示す概略断面図である。
【図14】図11の防振装置の使用例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0057】
10,30,40 防振装置
11 第一の防振部(空気バネ)
12 上板
13 下板
14 薄型ベローズ
15 底板
16 空気タンク
16a 側壁
16b 空気取り入れ口
20 第二の防振部(コイルバネ)
21 下板
22 上板
23 圧縮コイルバネ
24 粘弾性体
25 装置(電子顕微鏡)
31 バランスバネ
41 粘弾性体
【数1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二段に上下に重ねられた二つの防振部から構成されており、
下方の第一の防振部が、水平に配置され互いに平行な上板と下板との間に配置されるベローズまたはダイヤフラムを含む空気バネとして構成されており、
上方の第二の防振部が、同様に水平に配置され互いに平行な上板と下板との間にて鉛直方向に配置される複数個の圧縮コイルバネと、上記上板と下板とを互いに連結する粘弾性体と、を含んでいることを特徴とする、防振装置。
【請求項2】
上記第一の防振部の上板を偏荷重に対して傾斜しないように保持するための保持部材が備えられていることを特徴とする、請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
上記保持部材が、第一の防振部の上板及び下板の周囲に配置された複数個のバランスバネであることを特徴とする、請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
上記第一の防振部が、その上板及び下板を互いに連結する粘弾性体を備えていることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の防振装置。
【請求項5】
上記第二の防振部が支持すべき装置の鉛直方向及び水平方向の振動を検出する変位センサと、この変位センサ信号に基づいて姿勢制御を行う上記第一の防振部の空気圧を制御する駆動手段を備え、水平方向及び鉛直方向の振動を検出する加速度センサと、加速度センサ信号に基づいて減衰制御を行う駆動手段と、を備えていることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の防振装置。
【請求項6】
上記変位センサ信号に基づいて姿勢制御を行う駆動手段が、水平方向及び鉛直方向の空気圧を制御する電空式制御弁またはモータ駆動式レギュレータであることを特徴とする、請求項5に記載の防振装置。
【請求項7】
上記加速度センサ信号に基づいて減衰制御を行う駆動手段が、水平方向及び鉛直方向に力を発生させるリニアモータであることを特徴とする、請求項5に記載の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−71348(P2007−71348A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261352(P2005−261352)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(505184724)株式会社ユニロック (5)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】